この実施例に係るピストン機関は、シリンダ内の作動空間からピストン内の中空部内へ作動流体を導入し、これをピストンの側周部と前記シリンダとの間に噴出するピストン機関である。そして、ピストンの運動方向に対して直交する方向に動作して、中空部内へ開口した導入流路の導入部開口から作動流体を中空部へ導入し、また、中空部内の作動流体が前記シリンダ内へ逆流することを防止する加圧状態保持手段を備える点に特徴がある。
図1は、この実施例に係るピストン機関を示す断面図である。図2は、この実施例に係るピストン機関が備えるピストンを示す断面図である。図3は、この実施例に係るピストン機関が備える給気孔を示す正面図である。図4は、図2の矢印C方向から加圧状態保持手段であるリード弁を見た状態を示す説明図である。図5は、この実施例に係るピストン機関が作動している状態を示す説明図である。
図1に示すように、この実施例に係るスターリングエンジン10は、α型(2ピストン形)のスターリングエンジンであり、高温側及び低温側ピストン・シリンダ部20、30を備えている。図1に示すように、高温側及び低温側ピストン・シリンダ部20、30は、直列並行に配置されている。低温側ピストン・シリンダ部30のピストン31は、高温側ピストン・シリンダ部20のピストン21に対して、クランク角で90°程度の位相差がつけられている。
高温側ピストン・シリンダ部20のピストン21は、シリンダ(高温側シリンダ)22内に収められており、この中で往復運動する。また、低温側ピストン・シリンダ部30のピストン31は低温側シリンダ32内に収められており、この中を往復運運動する。高温側シリンダ22の加熱器47側における空間(以下、便宜上膨張空間ESという)には、加熱器47によって加熱された作動流体が流入する。シリンダ(低温側シリンダ)32の再生熱交換器(以下再生器という)46側の空間(以下、便宜上圧縮空間PSという)には、冷却器45によって冷却された作動流体が流入する。なお、膨張空間ESと、圧縮空間PSとは、ともに作動空間MSともいう。
再生器46は、膨張空間ESと圧縮空間PSとを作動流体が往復する際に熱を蓄える。すなわち、膨張空間ESから圧縮空間PSへと作動流体が流れるときには、再生器46は、作動流体から熱を受け取り、圧縮空間PSから膨張空間ESへと作動流体が流れる時には、蓄えられた熱を作動流体に渡す。
2つのピストン21、31の往復運動にともない、作動ガスの往復流動が生じて高温側シリンダ22の膨張空間ES、及び低温側シリンダ32の圧縮空間PSにある作動流体の割合が変化し、また、全容積も変わるため、圧力の変動が生じる。2つのピストン21、31がそれぞれ同位置にある場合の圧力を比較すると、ピストン21についてはその上昇時より下降時の方がかなり高く、ピストン31については逆に低くなる。このため、ピストン21は外部に対し大きな正の仕事(膨張仕事)を行い、ピストン31は外部から仕事(圧縮仕事)を受ける必要がある。膨張仕事は、一部が圧縮仕事に使われ、残りが駆動軸40を介して出力として取り出される。
図1に示すように、駆動軸40は、ケース41内に格納されているクランク軸43と連結されている。クランク軸43は、2つのピストン21、31と、ピストン側連結棒61、連結ピン60、連結棒109を介して連結されている。そして、2つのピストン21、31の往復運動を回転運動に変換して、駆動軸40へ伝達する。ケース41内は、加圧手段により加圧される。これは、作動流体(本実施例では空気)を加圧して、スターリングエンジン10からより多くの出力を取り出すためである。
この実施例に係るスターリングエンジン10は、車両において、例えばガソリンエンジンのような内燃機関とともに用いられる。すなわち、スターリングエンジン10は、例えばガソリンエンジンのような内燃機関の排気ガスを熱源として駆動される。スターリングエンジン10の加熱器47は、車両に搭載されるガソリンエンジンの排気管100の内部に配置され、排気ガスから回収した熱エネルギにより作動流体が加熱されてスターリングエンジン10が作動する。
この実施例に係るスターリングエンジン10は、排気管100の内部にその加熱器47が収容されるというように、車両内の限られたスペースに設置されるため、装置全体がコンパクトである方が設置の自由度が増し、好ましい。そのために、スターリングエンジン10では、2つの高温側及び低温側シリンダ22、32をV字形ではなく、直列並行に配置した構成を採用している。
加熱器47が排気管100の内部に配置される場合、排気管100の内部において相対的に高温の排気ガスが流れる排気ガスの上流側(ガソリンエンジンに近い側)100aに、加熱器47の高温側シリンダ22側が位置し、相対的に低温の排気ガスが流れる下流側(ガソリンエンジンから遠い側)100bに加熱器47の低温側シリンダ32側が位置するように配置される。加熱器47の高温側シリンダ22側をより多く加熱するためである。
高温側シリンダ22及び低温側シリンダ32のそれぞれは、円筒状に形成されており、基準体である基板42に支持されている。この実施例においては、この基板42が、スターリングエンジン10の各構成要素の位置基準となる。このように構成することで、スターリングエンジン10の各構成要素の相対的な位置精度が確保される。また、この基板42は、スターリングエンジン10が排熱回収対象である排気管(排気通路)100等に取り付けられるときの基準として用いることができる。
排気管100のフランジ100fに対して、断熱材を介して、基板42が固定されている。排気管100と基板42とは、相対的位置精度が確保された状態で固定されるため、基板42は、固定的構造物として排気管100が備えた装置取付面であると考えることができる。基板42には、高温側シリンダ22の側面(外周面)に設けられたフランジ22fが固定されている。
排気管100とスターリングエンジン10とは、基板42を介して取り付けられる。このとき、基板42と、高温側シリンダ22において加熱器47が接続される側の端面(頂部22bの上面)、及び低温側シリンダ32において冷却器45が接続される側の端面(頂面32a)とが実質的に平行になるように、スターリングエンジン10が基板42に取り付けられる。あるいは、基板42とクランク軸43(又は駆動軸40)の回転軸とが平行になるように、もしくは排気管100の中心軸とクランク軸43の回転軸とが平行になるように、スターリングエンジン10が基板42に取り付けられる。
これにより、既存の排気管100に大幅な設計変更を加えることなく、容易に排気管100にスターリングエンジン10を取り付けることができる。その結果、排熱回収対象である車両の内燃機関本体の性能や搭載性、騒音等の機能を損なうことなくスターリングエンジン10を排気管100に搭載することができる。また、同一仕様のスターリングエンジン10を異なる排気管に取り付ける場合でも、加熱器47の仕様を変更するだけで対応できるので、汎用性を向上させることができる。
スターリングエンジン10は、車両の床下に配された排気管100に隣接するスペースに、横置き、すなわち、車両の床面に対して、高温側シリンダ22及び低温側シリンダ32のそれぞれの軸線方向が概ね平行になるように配置され、2つのピストン21、31は、略水平方向に往復動する。この実施例では、説明の便宜上、2つのピストン21、31の上死点側を上、上方、上側、上向き、あるいは上方向、下死点側を下、下方、下側、下向き、あるいは下方向であるとして説明する。
作動流体は、その平均圧力が高い程、冷却器45や加熱器47による同じ温度差に対しての圧力差が大きくなるので高い出力が得られる。そのため、上記のように、高温側シリンダ22、低温側シリンダ32内の作動流体は高圧に保持されている。ピストン21、31の外周面とシリンダ22、32の内周面との間には、それぞれ微小なクリアランスが設けられており、そのクリアランスには、スターリングエンジン10の作動流体(気体であり、この実施例では空気)が介在して、空気軸受48を構成している。ここで、空気軸受48は、ピストン21、31とシリンダ22、32との間の微小なクリアランスで発生する空気の圧力(分布)を利用して、ピストン21、31がシリンダ22、32内に浮いた状態とする。
ピストン21、31は、それぞれシリンダ22、32に対して空気軸受48により非接触の状態で支持されている。したがって、ピストン21、31の周囲には、ピストンリングは設けられておらず、また、一般にピストンリングとともに使用される潤滑油も使用されていない。なお、シリンダ22、32の内周面には、固体潤滑材を付すことが好ましい。空気軸受48の機能が十分ではない起動時等において、ピストンとシリンダとの摺動抵抗を低減する効果があるからである。
空気軸受48(図1)は、スターリングエンジン10の作動空間MS内で圧縮された作動流体をピストン21、31の内部に導入し、ピストン21、31の側周部に設けられた複数の孔からピストン21、31とシリンダ22、32との間のクリアランス部に噴出することで構成される、静圧空気軸受である(図2参照)。静圧気体軸受とは、加圧流体を噴出させ、発生した静圧によって物体(この実施例ではピストン21、31)を浮上させるものである。
この実施例では、スターリングエンジン10の熱源が車両の内燃機関の排気ガスであることから、得られる熱量に制約があり、その得られる熱量の範囲でスターリングエンジン10を効果的に作動させる必要がある。そのため、図1に示すように、膨張空間ESへできるだけ高温の作動流体が流れるように、高温側シリンダ22の上部22b及び高温側シリンダ22の側面22cの上部が、排気管100の内部に配設されている。これにより、上死点近傍において、膨張側のピストン21の上部は排気管100の内部に位置することになり、膨張側のピストン21の上部が効果的に加熱される。
ここで、この実施例に係るスターリングエンジン10では、基板42を高温側及び低温側シリンダ22、32の作動流体の導入側に配置して、両シリンダを基板42に組み付ける。このような構成により、高温側及び低温側シリンダ22、32を拘束して、高温側シリンダ22と低温側シリンダ32との距離の増大を抑制する。その結果、スターリングエンジン10の運転中、加熱器47が高温になった場合でも、シリンダとピストンとのクリアランスを維持して空気軸受48の機能を発揮させることができる。
次に、図2〜図5を参照して、ピストン21、31の構成について詳細に説明する。ここで、図1に示すように、ピストン21、31の大きさは異なっているが、その構造は共通である。この実施例に係るピストン21、ピストン31は、ともに共通の構成を備えるので、以下では、ピストン21について説明し、ピストン31については説明を省略する。
ピストン21は、ピストン本体211と、そのピストン本体211の内部(すなわちピストン21の内部)に形成された中空部(以下蓄圧室という)212と、仕切り部材213とを備えている。この実施例において、仕切り部材213は、ピストン本体211の裾部211sでピストン21の内壁211iwに取り付けられる。そして、図2に示すように、仕切り部材213は、ピストン側連結棒61にピストン21を取り付けるためのピストンピン62を避けるように構成される。このような構成によって、ピストン本体211は、仕切り部材213によって上部及び下部が塞がれて、内部に蓄圧室212が形成される。なお、裾部211sは、ピストンピン21よりもクランク軸43側である(図1参照)。
ピストン本体211は、高温側シリンダ22(図1)と摺動する側周部(摺動部)211aと、側周部211aと一体として(連続的に)、ピストン本体のピストン頂部211t側へ蓋状に設けられた頂面部211bとを有している。なお、頂面部211bの蓄圧室212側には、内部に導入流路214を備える弁座218が設けられる。導入流路214は、高温側シリンダ22内の作動空間MSと蓄圧室212とを連通する。導入流路214は、頂面部212bに作動流体入口214iが開口し、蓄圧室212内には作動流体出口214oが開口している。作動流体出口214oには、蓄圧室212内に導入された作動流体の逆流を防止するため、加圧状態保持手段としてリード弁215が設けられている。
リード弁215は、リード弁ガイド219とともに、固定手段であるねじ218sによって弁座218に固定される(図2、図4参照)。なお、リード弁215は、ピストン21の下側、すなわち裾部211s側で固定される。リード弁215は、板状の弾性体であり、例えば、ステンレス等の薄板(0.2mm〜0.5mm程度)によって作られる。リード弁215は、動作の応答性を向上させるため、できるだけ軽量化することが好ましい。特に、スターリングエンジン10が高回転になるほど、応答性を向上させる必要がある。
リード弁215は、固定部2151(図2、図4)をねじ218sによって弁座218に固定される。これによって、リード弁215は、片持ち状態となって、固定部2151を中心として動作部2152が動き、導入流路214の作動流体出口214oを開閉する。このように、リード弁215を片持ちで構成することにより、ピストン21の中心軸(以下ピストン中心軸)Z方向に対するリード弁215の長さを短くできるので、ピストン中心軸Z(図2、図4)方向の長さを小さくできる。なお、リード弁ガイド219は、リード弁の開き過ぎを抑制し、リード弁の耐久性低下を抑制する。
リード弁215は、導入流路214を通る作動流体の流れを、作動空間MSから蓄圧室212に向かう方向に限定する。リード弁215は、ピストン21の動きにより高温側シリンダ22内の作動空間MSに存在する作動流体の圧力(作動空間内圧力)Pcが上昇し、蓄圧室212内の圧力(蓄圧室内圧力)Ppよりも高くなったときに開いて、高温側シリンダ22内の作動空間MS内の作動流体を蓄圧室212内へ導入する。また、リード弁215は、ピストン21の動きにより高温側シリンダ22内の作動空間MSに存在する作動空間内圧力Pcが下がり、蓄圧室内圧力Ppよりも低くなったときには、弁座218に押し付けられて、中空部212内の作動流体が高温側シリンダ22内の作動空間MSへ逆流することを防ぐ。このように、リード弁215は、加圧状態保持機能を有するとともに、作動流体導入機能を有する。
ピストン本体211の側周部211aには、周方向に略等間隔に複数の給気孔216が設けられている。図2、図3に示すように、給気孔216は、オリフィス216oと拡大部216sとで構成される。図5に示すように、作動流体は、オリフィス216oを通って拡大部216sで広がってピストン21と高温側シリンダ22の内壁22iwとの間のクリアランスに噴出する。拡大部216sは、オリフィス216oから噴出された作動流体を溜めて蓄圧する機能を有するので、ピストン21の起動時には、高温側シリンダ22の受圧面積を大きくして、より大きな力で安定してピストン21を浮上させることができる。また、ピストン21が往復運動を開始した後に、ピストン21と高温側シリンダ22との間のクリアランスが変化した場合には、オリフィス216oによって流量が調整される。これによって、ピストン21と高温側シリンダ22との間のクリアランスが略一定に保たれる。
ピストン21の上昇にともない、高温側シリンダ22の作動空間MSの作動流体が圧縮されて、作動空間内圧力Pcが蓄圧室内圧力Ppよりも高くなると、リード弁215が開く。そして、導入流路214を介して、作動空間MSの作動流体の一部が蓄圧室212に導入される。導入流路214を介して作動流体が蓄圧室212に導入されると、図5に示すように、蓄圧室212の作動流体の一部が、給気孔216を介してピストン21と高温側シリンダ22との間のクリアランスに噴出し、空気軸受48を構成する。なお、クリアランスの大きさtcは、15μm〜30μm程度である。次に、加圧状態保持手段であるリード弁215、及びこれを取り付ける弁座218についてより詳細に説明する。
図6は、この実施例に係る弁座を示す断面図である。図7は、この実施例に係る弁座にリード弁を取り付けた状態を示す断面図である。図6に示すように、リード弁215が固定される弁座218の座面218pは、ピストン中心軸Zと平行に形成される。そして、導入流路214の作動流体出口214oの開口面214pは、座面218p及びピストン中心軸Zに対して平行となる。なお、ピストン中心軸Zは、ピストン21(図2)の運動方向MDと平行である。
すでに説明したように、リード弁215は板状の弾性部材なので、リード弁215が弁座218にねじ218sによって固定されると、座面218pと接触して導入流路214の作動流体出口214oを閉じる(図7)。これによって、リード弁215の板面は、ピストン中心軸Z、すなわちピストン21の運動方向MDと平行になる。
作動空間内圧力Pcが蓄圧室内圧力Ppよりも大きくなり、両者の差圧に起因するリード弁に作用する力が、リード弁215を座面218pに押し付ける付勢力を上回ると、リード弁215は座面218pから離れるように動作する。これによって、導入流路214を通って作動流体出口214oから作動流体が蓄圧室212(図2参照)へ流れ込む。
作動空間内圧力Pcが蓄圧室内圧力Ppよりも小さくなり、両者の差圧に基づいてリード弁に作用する力が、リード弁215がそれ自身を座面218pに押し付ける付勢力を下回ると、リード弁215は座面218pへ向かって動作する。これによって、作動流体出口214oが閉じられるため、蓄圧室212(図2参照)に対する作動流体の流入は停止する。作動流体出口214oの開閉にあたり、リード弁215は図7に示す矢印Xの方向に動作するが、この動作方向(動作を開始する瞬間の方向)は、ピストン21の運動方向MD(ピストン中心軸Zと平行)に直交するように構成される。この理由について説明する。
図8は、クランク角に対するピストン位置、リード弁に加わる加速度及び作動空間内圧力の関係を示す説明図である。スターリングエンジン10の運転中、リード弁215にはピストン21の往復運動に起因する加速度が加わる。その方向は、ピストン21の運動方向MD(図7)と平行である。
スターリングエンジン10の運転中にピストン21の位置がTDC(Top Dead Center:上死点)及びBDC(Bottom Dead Center:下死点)にきた場合、リード弁215に加わる加速度の絶対値は最も大きくなる。TDCにおいてリード弁215に加わる加速度をαTDC、BDCにおいてリード弁215に加わる加速度をαBDCとする。図7に示すように、TDC及びBDCにおいて、リード弁215には、FTDC(=αTDC×m)、FBDC(=αBDC×m)の力が、図7の矢印FTDC、FBDCの方向に作用する。なお、mはリード弁215の質量である。ここで、TDC、BDCにおいてリード弁215に作用する力FTDC、FBDCの方向は、ピストン21の運動方向MD、すなわちピストン中心軸Z方向と平行である。
図8に示すように、この実施例に係るスターリングエンジン10では、TDC近傍で作動空間内圧力Pcが蓄圧室内圧力Ppよりも大きくなって、蓄圧室212内へ作動流体が導入される。リード弁215は、このときの作動空間内圧力Pcと蓄圧室内圧力Ppとの差圧で開弁する必要があるが、この差圧は小さいため、リード弁215は小さい圧力でも開閉するように設定する必要がある。
ここで、特許文献1に開示されている技術では、逆止弁の動作方向が、ピストン21の往復運動に起因する加速度と平行であるため、逆止弁が開く方向に向かう最大の力が発生するBDCにおいて逆止弁が誤動作しないように設定すると、TDCにおいては逆止弁が開かないおそれがある。機関が高回転で運転されるときに、これは顕著になる。このため、特許文献1に開示されている技術では、TDCにおいてピストン内空間に気体を導入し、次の気体の導入までこれを維持するように逆止弁を設定することは困難である。特に機関が高回転で運転される場合、前記設定はほとんど不可能であり、特許文献1に開示されている技術は、事実上機関が低回転で運転される場合にしか適用できない。
この実施例に係るスターリングエンジン10では、すでに説明したように、リード弁215の板面は、ピストン21の運動方向MDと平行である(すなわちピストン中心軸Zと平行)。これによって、リード弁215の動作方向は、ピストン21の運動方向MD(ピストン中心軸Zと平行な方向)に対して直交し、TDCあるいはBDCにおいて、ピストン21の往復運動に起因して発生する加速度の方向と直交することになる。
その結果、ピストン21の往復運動に起因する加速度がリード弁215に加わっても、リード弁215の動作にはほとんど影響を与えない。すなわち、リード弁215の弾性率や厚さ等で決定されるリード弁215の開弁圧力は、前記加速度によってはほとんど影響を受けない。これによって、前記加速度に関係なく、リード弁215を開閉させることができる。そして、スターリングエンジン10が高回転で運転されても、すなわち高加速度下においてもリード弁215は確実に動作して、TDCにおいてピストン内空間に気体を導入し、次の気体の導入までこれを維持することができる。
また、特許文献1に開示されている逆止弁は、弁体にばねで圧力を付勢する、機械的な稼動部を持つものであるが、このような逆止弁では、動作時に弁体とばねとが摺動する。このため、ピストンの往復運動が繰り返されることに起因する振動によって、弁体とばねとにはフレッチング摩耗等が発生して、逆止弁の耐久性が低下するおそれもある。この実施例においては、加圧状態保持手段として、弾性変形のみによって動作するリード弁を用いるので、リード弁の動作時には摺動は発生しない。このため、ピストンの往復運動に起因する振動によるフレッチング摩耗等は極めて低減される。その結果、加圧状態保持手段の耐久性は極めて高くなる。
また、この実施例においては、加圧状態保持手段(リード弁215)は振動の減衰率が低い気体中で使用される。したがって、特許文献1に開示されている技術のように、加圧状態保持手段の動作方向を、ピストンの往復運動に起因する加速度の方向と平行にすると、前記加速度の変化に起因する振動の影響で、加圧状態保持手段は共振する。かかる場合、振動の減衰率が低い気体中で加圧保持手段が使用されると、加圧状態保持手段の振動が減衰し難くなる結果、加圧状態保持手段は容易に共振してしまう。しかし、この実施例においては、加圧状態保持手段(リード弁215)の動作方向とピストン21の運動方向とは直交するので、加圧状態保持手段には、前記加速度の変化による振動の影響はほとんど受けない。これによって、加圧状態保持手段(リード弁215)の共振の発生を抑制して、安定した運転が実現できる。
TDC近傍においては、リード弁215に上向き、すなわちピストン21の頂面部211bに向かうの加速度が作用し、TDCで最大となる。すでに説明したように、リード弁215は、ピストン21の下側、すなわち裾部211s側で弁座218に固定される(図2)。したがって、TDC近傍において、リード弁215は前記加速度によって上側に引っ張られることになるため、リード弁215は座屈することはない。
一方、BDC近傍においては、リード弁215に下向き、すなわちピストン21の裾部211s方向の加速度が作用し、BDCで最大となる。図8に示すように、BDCにおいては作動空間内圧力Pcが最小となる。一方、蓄圧室内圧力Ppは略一定なので、蓄圧室内圧力Ppと作動空間内圧力Pcとの差圧ΔPはBDCにおいて最大となる。BDCにおいて、リード弁215は弁座218の座面218pに対してΔPで押し付けられるため、BDC近傍においてリード弁215に下向きの力が作用しても、座屈を抑制することができる。ここで、加圧状態保持手段(リード弁215)の動作方向とピストン21の運動方向とは、正確に90度であることが好ましいが、製作上の誤差は許容される。また、ピストン21の往復運動に起因する加速度の影響が許容できる範囲内で、加圧状態保持手段(リード弁215)の動作方向とピストン21の運動方向との交差角度は90度から外れてもよい。
図9、図10−1は、この実施例に係るピストンの頂面部を示す平面図である。図10−2は、この実施例に係るピストンの側面図である。図2、図7に示す弁座218、リード弁215及びねじ218sからなる構造体SI(図9)は、ピストン21の頂面部211bの中央部に設けることが好ましい。すなわち、ピストン中心軸Zに近づけて設けることが好ましい。
このようにすれば、図2に示す弁座218内に形成される導入流路214と、複数の給気孔216との距離を等しくできる。これによって、作動空間MSの作動流体が導入流路214を介して蓄圧室212に導入されたときに、複数の給気孔216からそれぞれ噴出される作動流体の噴出状態(噴出量・噴出圧)が等しくなりやすい。その結果、クリアランスに作動流体が噴出されるときに、ピストン21の周方向において噴出の偏りを生じるおそれを低減でき、空気軸受48を安定して機能させることができる。
また、前記構造体SIがピストン21の中央部に配置されることは、ピストン21の重心Gとの関係で好ましい。特に、この実施例においては、空気軸受48が使用されているので、ピストン21の往復運動の軌跡を直線に近似することが重要になる。このような観点から、前記構造体SIをピストン21の頂面部211bの中央部に設けるにあたり、図10−1、図10−2に示すように、前記構造体SIの重心gとピストン21の重心Gとの、ピストン21の運動方向と直交する断面内における位置を、できるだけ一致させることがより好ましい。なお、図10−1においては、わかりやすくするため、構造体SIの重心gは、正規の位置よりもややずらして記載してある。
次に、図1を参照しながら、ピストン・シリンダの構造及びピストン・クランク部の機構について説明する。上記のように、スターリングエンジン10の熱源が車両の内燃機関の排気ガスであることから、得られる熱量には制約があり、その得られる熱量の範囲でスターリングエンジン10を作動させる必要がある。そこで、この実施例では、スターリングエンジン10の内部摩擦を可能な限り低減させている。このため、この実施例では、スターリングエンジンの内部摩擦のうち、最も摩擦損失が大きいピストンリングによる摩擦損失を極限まで低減するため、ピストンリングを使用せずに、上述した空気軸受(エアベアリング)48を用いる。
空気軸受48は、摺動抵抗が極めて小さいため、スターリングエンジン10の内部摩擦を大幅に低減させることができる。また、空気軸受48を使用することで、ピストンリングで用いる潤滑油が不要となる。一方、空気軸受48は、シリンダ22、32の直径方向(横方向、スラスト方向)の力に耐える能力(負荷能力)が低いため、ピストン21、31のサイドフォースを実質的にゼロにすることが好ましい。このため、シリンダ22、32の軸線(中心軸)に対するピストン21、31の直線運動精度を高くする必要がある。特に、この実施例で採用する、微小クリアランスにおける空気圧を用いてピストン21、31を浮上させて支持するタイプの空気軸受48は、高圧の空気を吹き付けるタイプに比べて、スラスト方向の力に対する負荷能力が低い。このため、その分だけ高いピストンの直線運動精度が要求される。
上記の理由から、この実施例では、ピストン・クランク部に直線近似機構を用いる。図11は、この実施例に係るスターリングエンジンが備えるピストン・クランク機構の概略構成図である。この実施例では、直線近似機構として、グラスホッパ機構(近似直線リンク)50を採用する。グラスホッパ機構50は、他の直線近似機構(例えばワットの機構)に比べて、同じ直線運動精度を得るために必要な機構の寸法が小さくて済むため、装置全体がコンパクトになるという効果が得られる。
特に、この実施例に係るスターリングエンジン10は、自動車の排気管の内部にその加熱器47が収容されるというように限られたスペースに設置されるため、装置全体がコンパクトである方が設置の自由度が増す。また、グラスホッパ機構50は、同じ直線運動精度を得るために必要な機構の質量が他の機構よりも軽量で済むため、燃費の点で有利である。さらに、グラスホッパ機構50は、機構の構成が比較的簡単であるため、製造・組み立てが容易であり、また製造コストも低減できるという利点もある。
この実施例において、ピストン・クランク機構は、高温側のピストン21側と低温側のピストン31側とで共通の構成を採用しているため、次の説明では、高温側のピストン21側についてのみ説明し、低温側のピストン31側についての説明は省略する。図1及び図11に示すように、ピストン21の往復運動は、ピストンピン62、ピストン側連結棒61、連結ピン60及び連結棒109を介してクランク軸43に伝達され、ここで、回転運動に変換される。連結棒109は、図11に示すグラスホッパ機構50によって支持されており、ピストン21を直線状に往復運動させる。このように、連結棒109をグラスホッパ機構50によって支持することにより、ピストン21のサイドフォースFをほとんど0にできるので、負荷能力の小さい空気軸受48によっても、十分にピストン21を支持することができる。
(変形例)
次に、この実施例に係るピストン機関が備える加圧状態保持手段の変形例について説明する。図12−1〜図14−2は、この実施例に係るピストン機関が備える加圧状態保持手段の変形例を示す説明図である。図12−1、図12−2に示す加圧状態保持手段であるリード弁215aは、図12−2に示すピストン21aの中心軸と平行な直線Zc上に、リード弁215aの固定部215a1、215a1と動作部215a2とが配置される。そして、このリード弁215aは、ピストン21aの頂面部211b側と裾部211s側との二箇所で、ねじ218sによって弁座218に固定される。図12−1に示す固定部215a1、215a1と動作部215a2とは、連結部215a3で接続されている。
動作部215a2は、導入流路214の作動流体出口214oを覆っており、作動空間内圧力Pcと蓄圧室内圧力Ppとの差圧がリード弁215aの開弁圧を超えると弁座218から離れる。このリード弁215aは、ピストン21aの中心軸と平行な直線Zc上で、かつピストン21aの頂面部211b側と裾部211s側との二箇所で弁座218に固定される。このため、ピストン21を備えるピストン機関が極めて高回転で運転されて、リード弁215aに大きな加速度が加わっても、リード弁215aの変形が抑制されて、確実に動作する。また、動作部215a2の動作量は、上記実施例で説明したリード弁215(図2、図7)よりも小さいので、リード弁ガイド219(図2、図7)を設けなくともよい。これによって、構造を簡略化できるとともに、軽量化にも寄与する。
図13−1、図13−2に示す加圧状態保持手段であるリード弁215bは、ピストン21bの中心軸と平行な直線Zcと交差する方向に、リード弁215aの固定部215b1、215b1が配置される。そして、このリード弁215bは、二箇所の固定部215b1、215b1で、ねじ218sによって、リード弁ガイド219b(図13−2)とともに弁座218に固定される。固定部215b1、215b1と動作部215b2とは、連結部215b3で接続されている。なお、連結部215b3は、前記直線Zcに対して角度θの傾きを有している。
動作部215b2は、導入流路214の作動流体出口214oを覆っており、作動空間内圧力Pcと蓄圧室内圧力Ppとの差圧がリード弁215bの開弁圧を超えると弁座218から離れる。このリード弁215bは、二箇所で弁座218に固定される。このため、ピストン21bを備えるピストン機関が高回転で運転されて、リード弁215bに大きな加速度が加わっても、リード弁215bの変形が抑制されて、確実に動作する。また、リード弁215bの固定部215b1、215b1は、ピストン21bの中心軸と平行な直線Zcと交差する方向に配置される。これによって、ピストン21bの運動方向におけるリード弁215bの寸法を小さくできるので、前記運動方向におけるピストン21bの寸法も小さくすることができる。
図14−1、図14−2に示す加圧状態保持手段であるリード弁215cは、ピストン21cの中心軸と平行な直線Zcと直交する方向に、リード弁215cの固定部215c1が配置される。そして、このリード弁215cは、前記固定部215c1で、ねじ218sによって、リード弁ガイド219c(図14−2)とともに弁座218に固定される。リード弁215cは、平面視が矩形の板状部材であり、固定部215c1で固定された端部とは反対側が動作部215c2となる。
動作部215c2は、導入流路214の作動流体出口214oを覆っており、作動空間内圧力Pcと蓄圧室内圧力Ppとの差圧がリード弁215cの開弁圧を超えると弁座218から離れる。このリード弁215cは、ピストン21cの中心軸と平行な直線Zcと直交する方向で弁座218に固定される。このため、ピストン21cの運動方向におけるリード弁215bの寸法を小さくできるので、前記運動方向におけるピストン21cの寸法も小さくすることができる。なお、このリード弁215cは、ピストン21cを備えるピストン機関が比較的低回転で運転される場合に有効な構成である。
以上、この実施例及びその変形例では、シリンダ内の作動空間からピストン内の中空部内へ作動流体を導入し、これをピストンの側周部と前記シリンダとの間に噴出するピストン機関において、ピストンの運動方向に対して直交する方向に動作する加圧状態保持手段を備える。これによって、加圧状態保持手段は、ピストンの往復運動に起因する加速度が加圧状態保持手段に加わっても、加圧状態保持手段の動作はほとんど影響を受けない。その結果、前記加速度に関係なく、加圧状態保持手段を動作させることができる。そして、ピストン機関が高回転で運転されても、すなわち加圧状態保持手段に作用する加速度が大きい場合であっても加圧状態保持手段は確実に動作して、TDCにおいてピストン内空間に気体を導入し、次の気体の導入までこれを維持することができる。
なお、上記説明では、スターリングエンジンは、車両の内燃機関の排気ガスを熱源とすべく排気管に取り付けた構成について説明した。ただし、本発明のスターリングエンジンは、車両の内燃機関の排気管に取り付けられる形式のものに限定されるものではない。また、上記においては、ピストン機関がスターリングエンジンである場合を用いて、その構成、作用、効果を説明したが、この実施例に係るピストン機関は、スターリングエンジン以外のピストン機関に対しても容易に適用可能である。そして、適用された場合には、上記と同様の作用、効果を奏し、また上記と同様の有用性を有する。