燃料電池は、燃料のもつ化学的エネルギーを、燃焼させることなしに電気化学的に直接、電気エネルギーに変えることが出来る、エネルギー変換効率に優れた装置である。なかでも、水素を燃料として負極に用い正極には空気中の酸素を用いる燃料電池は、エネルギー変換に伴って水素が酸素で酸化され水が生成されるのみであり、石油、石炭等の化石燃料と異なり、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物等を発生して環境負荷の増大を招来することがなく、クリーンなエネルギー源として期待されている。
燃料電池には様々な用途が考えられるが、例えば自動車のガソリンエンジン等の代替機関として開発が進められている。燃料電池をエネルギー源とする自動車は、化石燃料の枯渇を心配する必要がなく、上記の通り環境に優しくエネルギー効率に優れており、普及が待たれている。しかしながら、課題も多く、水素の製造、貯蔵、供給にかかる技術的、社会的問題等の他に、普及のためには、より低廉な燃料電池が求められ、燃料電池自体に改善の余地が多く残されている。
燃料電池には様々な種類があるが、自動車用には固体高分子電解質膜を用いるものが採用されている。このタイプの燃料電池は、電極と高分子電解質膜とを導電性のセパレータではさんでセルを構成し、そのセルが数百以上のオーダーで重ねられてなるものであるが、このセパレータを低廉化することが、このタイプの燃料電池の改善課題の1つして挙げられている。
セパレータは、導電性を備える必要がある(要件1)他に、その使用環境から、機械的強度、耐熱性、寸法安定性、耐加水分解性等について優れていなければならない(要件2)ため、例えば黒鉛を好適な導電性材料として構成される。ところが、黒鉛は加工が難しいため、上記条件を満たしつつ薄肉化を図ることが困難であり軽量に出来ず、低廉化を図ることも出来なかった。
そこで、近年、射出成形加工により燃料電池のセパレータを作製する試みがなされ始めた。射出成形で量産することが出来れば、可塑化時間の短縮、成形時間の短縮等、生産性が向上し、低廉化が図れるとともに、射出成形に用いる熱可塑性樹脂は比重も低く、射出成形により、薄肉成形も可能となるため、軽量化が図れるからである。
射出成形加工のための成形材料については、上記の要件1、要件2に合致することから、その成形材料を構成する導電性材料としても黒鉛が有望である。又、上記要件1、要件2に合致する射出成形加工用の樹脂バインダ材料としては液晶ポリマが有望とされる。
しかしながら、黒鉛は、射出成形にかかる温度では溶融しないことから、体積変化は温度による熱膨張と圧力の影響のみで小さく、含有率が高いと成形材料の粘度を高め、流動性を低下させるので量の制限が必要となるという問題がある。黒鉛は、後述するように、入れすぎるとバインダ量が少なくなり、成形体(セパレータ)としての剛性の低下を招来する。この剛性と導電性とのバランスをとることが重要であり、両立させることは困難であった。
又、液晶ポリマは、温度上昇に伴う粘度低下が急激であり流動性が良好ではなく成形性に劣るという問題を有する。更に、溶融時の体積変化が少なく、汎用のスクリュ式の射出成形装置では可塑化に大きなトルクを要し計量時間が長くなる。その一方で、熱分解し易いため、射出成形装置のバレル内での滞留が長引くことにより、より分解が進んでしまい、バインダとしての役割を果たせなくなるおそれがある。
燃料電池のセパレータを射出成形加工しようとすると、成形材料及び射出成形装置にかかり、上記問題に直面するが、以下、これらの問題に関係する先行技術文献について記載する。
先ず、特許文献1には、燃料電池コレクタ板用の高導電性ポリマ複合体部品が開示されている。特許文献1によれば、それ以前の成功例として、導電性充填材としてグラファイト(黒鉛)を含みバインダとしてのフルオロポリマを含む組成物を挙げた上で、そのような組成物は、元来が射出成形用の成形材料として好ましい粘度にするためには導電性充填材の量が制限され得るのに、フルオロポリマは比較的粘度レベルが大きいために導電性充填材の量を多く出来ないことから、燃料電池コレクタ板としての導電性の制限が生じる等により、改良の要望があることが示されている。そして、この要望に応えるため、バインダとして所定の条件を備えた非フッ化ポリマを含む高導電性ポリマ複合体部品及び燃料電池コレクタ板と、それらの作成プロセスが提案されている。
次に、特許文献2には、液晶ポリマ用の射出成形機が開示されている。特許文献2によれば、液晶ポリマは、溶融時の半溶融領域が少なくシリンダ(バレル)に噛み込み難く計量が不安定になる上に、金属との密着性がよいので自らが分解して生じる炭化物が黒点になって成形体(品)に外観不良をもたらすので、専用の射出成形機の登場が待たれていることが示されている。そして、この要望に応えるため、計量部(ゾーン)長<供給部(ゾーン)長<圧縮部(ゾーン)長として、計量部(ゾーン)に搬送される材料を圧縮部(ゾーン)において緩やかにしかも高圧縮するようにした射出成形機が提案されている。
又、特許文献3には、射出成形機のスクリュが開示されている。特許文献3によれば、成形材料として、熱硬化性樹脂を使用する場合や、セラミック粉末や金属粉末に有機バインダを加えた粉末材料を使用する場合には、可塑化時における体積の減少が少ないことから、供給部から圧縮部への成形材料の流れが円滑にならず、スクリュ回転トルクが高くなって安定した計量を行うことが出来ないという問題があり、又、ポリカーボネート等のエンプラ樹脂を使用する場合には、溶融状態の成形材料の粘性が高いことから、同様の問題があり、このような成形材料を使用した場合にも、供給部から圧縮部への成形材料の流れを円滑に出来、可塑化時のスクリュ回転トルクを低減し得る射出成形機のニーズが示されている。そして、このニーズに沿うように、計量部の溝径を供給部の溝径よりも大きくし、供給部のリード長さ(ピッチ)とスクリュの径との比を0.8〜1.0にした射出成形機のスクリュが提案されている。
更に、特許文献4には、射出及び押出成形用スクリュが開示されている。特許文献4によれば、成形材料として粒状物が混合されている場合に、従来の汎用スクリュは、混練性能や可塑化性能が満足出来るレベルにないことが示されている。そして、これら性能を改善するため、圧縮部の下流側と計量部の上流側の少なくとも一方に、逆ねじフライトを設けたスクリュが提案されている。
特表2002−530820号公報
特開平10−193410号公報
特許第2813254号公報
特開2003−11193号公報
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解決した燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置を提供することを目的とする。より具体的には、燃料電池セパレータに好適な成形材料は、粘度が高く流動性が低く、溶融時の体積変化が少なく、可塑化し難いという性質を有するが、このような成形材料を、可塑化トルクを増大させることなく、計量時間を短くして効率よく、可塑化可能な装置を提供することが、本発明の課題である。出願人は研究を重ねた結果、以下に示す手段によって、上記課題を解決し得ることを見出した。
即ち、本発明によれば、導電性材料と樹脂バインダ材料とを含有する燃料電池セパレータ用の成形材料を可塑化する装置であって、(軸方向の)全体に一定のピッチを有するフライトが形成されたスクリュと、外周に加熱手段が備わり前記スクリュが収められるバレルとを有し、前記スクリュの後端から前端にかけて圧縮部と計量部とが形成され、前記圧縮部の溝深さが滑らかに変化し前記計量部の溝深さが一定であり、前記圧縮部の後端の溝深さと前記計量部の溝深さとの比が1.4〜2.0である燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置が提供される。尚、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置においては、一般に深溝を呈し一定の溝径を有する供給部が存在しないので、圧縮比は、圧縮部の後端の溝深さと計量部の溝深さとの比により決定される。即ち、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置における圧縮比の範囲は1.4〜2.0であり、低圧縮である。
本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置においては、スクリュの計量部の溝深さが、2.5〜4.5mmであることが好ましい。又、スクリュの計量部の(軸方向の)長さがスクリュの径の2〜6倍であり、且つ、スクリュの(軸方向の)全長がスクリュの径の15〜20倍であることが好ましい。
更に、スクリュの前端にミキシングヘッドを備えることが好ましい。フルフライトの単軸スクリユは、溶融材料の混合能力(ミキシング能力ともいう)が劣るが、射出成形機において一般的に使用されているミキシングヘッドを、スクリュの前端に配設することによって、スクリュの前端に蓄えられる計量された溶融樹脂の温度の均一性向上と黒鉛の分散性向上を図ることが出来る。
又、本発明によれば、導電性材料と樹脂バインダ材料とを含有する燃料電池セパレータ用の成形材料を可塑化する方法であって、外周に加熱手段を備えたバレルに溝径及び溝深さを同じくするスクリュが収められた可塑化装置を用い、その可塑化装置に、予め加熱した成形材料を供給して、更に加熱手段により加熱しながら、圧縮比1.4〜2.0で圧縮する燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化方法が提供される。
更に、本発明によれば、樹脂バインダ材料として液晶ポリマを含有するとともに、導電性材料を70〜90質量%含有する燃料電池セパレータ用成形材料が提供される。本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料においては、平均粒径が2〜4mmの範囲のペレットに形成されることが好ましい。尚、ペレットの形状は限定されないが、概ね球状又は概ね筒状を呈することが好ましい。球状の場合に粒径とは直径を指し、筒状の場合には粒径とは、軸線の長さ、又は、軸線に垂直な断面輪郭線に外接する円の直径のうち、大きい方を意味する。
本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置は、従来の可塑化装置のような深溝の供給部が存在せず、スクリュは、全体的に、従来のスクリュより、かなり浅溝になっている。そのため、バレル外周の加熱手段から、バレルを介してスクリュ溝に存在する成形材料全体へ、熱が効率よく伝導し、溶融時の体積変化が少ない成形材料や可塑化が困難な成形材料等を使用する場合に可塑化が短時間で完了し、それら成形材料が圧縮部から計量部へ円滑に移動し得る。従って、可塑化時のスクリュ回転に要するトルクを、より減少させることが出来るとともに、計量に長い時間を要して成形材料に含まれる樹脂バインダを分解させ、バインダとしての能力を失わせてしまうリスクを小さく出来る。
又、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置は、低圧縮比(1.4〜2.0程度)を採用しているので、成形材料を圧縮部から計量部へ円滑に移動させることが出来、剪断発熱による樹脂バインダの劣化を生じ難い。
スクリュの計量部の溝深さは、好ましくは2.5〜4.5mm程度である。加熱手段の熱をスクリュ溝にある成形材料全体に伝導し易くするためには、供給部での成形材料の食込み性や圧縮部での脱泡性を妨げられない範囲で、より浅溝にすることが好ましいからである。
本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置では、好ましくは、スクリュの計量部の長さをスクリュの径(スクリュ径とも表現する)の2〜6倍とし、且つ、スクリュの全長をスクリュの径の15〜20倍としているので、成形材料に含まれる樹脂バインダ材料が適度に加熱されて溶融し、可塑化時のスクリュ回転に要するトルクを、より減少させ得る。加熱手段からの熱を効率よく成形材料に伝えることが出来ること及び発熱密度の大きなヒータを採用していることから、可塑化に要する時間が短くてすみ、従来のような深溝タイプで発熱密度の小さなヒータを使用する場合に比べて、必要滞留時間が大幅に短縮出来る。更に、成形材料がバレル内に長時間、滞留することがないので、成形材料に含まれる樹脂バインダ材料の分解・劣化の心配がない。上記好ましい要件は、スクリュの径に対するスクリュの圧縮部の長さに表現し直せば、9〜18倍と表現することが出来、これは圧縮勾配の緩急を示している。
本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化方法は、低圧縮比であり、全体的に浅溝を有するスクリュが収められた可塑化装置に、予め加熱(予熱ともいう)した成形材料を供給し、バレル外周の加熱手段により加熱しながら、圧縮比1.4〜2.0で圧縮するので、バレルに供給された成形材料が、より短い時間で効率よく可塑化される。従って、溶融時の体積変化が少ない成形材料や、可塑化が困難な成形材料等を使用する場合において、可塑化が短時間で完了しているので成形材料を円滑に圧縮部から計量部へ移動させることが可能である。可塑化時のスクリュ回転に要するトルクはより減少し、計量に長い時間を要して成形材料に含まれる樹脂バインダ材料を分解させ、バインダとしての能力を失わせてしまうリスクも小さくなる。低圧縮比(1.4〜2.0程度)であるから、剪断発熱による樹脂バインダ材料の劣化も生じ難い。
本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料は、溶融せず体積変化のない導電性材料の他に、樹脂バインダ材料として溶融時に体積変化の少ない液晶ポリマを含有するので、低圧縮比で可塑化することが可能である。成形材料が低圧縮比で可塑化可能であると、圧縮比をスクリュの圧縮部後端の溝深さと計量部の溝深さとの比で決める可塑化装置においては、圧縮部後端の溝深さ、即ち、最深部での溝深さが浅くなり、加熱手段よりの熱量を有効に可塑化に利用出来ることになる。
又、導電性材料を70〜90質量%含有しているので、成形体の剛性(曲げ強度)と導電性(接触抵抗)のバランスが良好に保持され、燃料電池セパレータ用の成形材料として好適である。更に、黒鉛等と液晶ポリマとの組合せた成形材料は、成形体に優れた機械的強度、耐熱性、寸法安定性、耐加水分解性等を付与し得るので、成形体として得られる燃料電池セパレータは、長期わたり高い信頼性を発揮し得る。ここでいう導電性材料としては黒鉛、カーボンファイバ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等が好適である。
本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料は、好ましくは平均粒径が2〜4mmの範囲のペレットに形成されるので、嵩比重が概ね0.6前後乃至それ以上になり、嵩比重の大きな成形材料となる。又、熱膨張と圧力による圧縮性の体積変化だけであり、成形材料の溶融前後での真比重の変化が少ないので、充満率(真比重に対する嵩比重の比率)が、より大きくなり、圧縮前の状態と圧縮し溶融された後の状態において、比重の差は小さくなる。従って、低圧縮比で可塑化することが可能であり、既に述べた如く、圧縮比をスクリュの圧縮部後端の溝深さと計量部の溝深さとの比で決める低圧縮比の可塑化装置に優位性を導く。
以下、本発明の燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置、及び可塑化方法、並びに燃料電池セパレータ用成形材料について実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に示される情報(形状、配置、大きさその他)により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料は、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置、又は可塑化方法に好適に用いられ得る材料であるが、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置、又は可塑化方法は、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料のみを取り扱うものに限定されるわけではない。
先ず、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置について説明する。図1は、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置(単に、本発明に係る可塑化装置ともいう)の一実施形態を示す断面図である。又、図2は、図1に示される可塑化装置を構成するスクリュの側面図である。以下、図1及び図2を参酌しながら、説明する。
図1に示される可塑化装置100は、導電性材料と樹脂バインダ材料とを含有する燃料電池セパレータ用の成形材料を可塑化するに好適な装置である。可塑化装置100は、バレル1と、バレル1内に駆動可能に収められているスクリュ30と、スクリュ30を回転駆動する駆動装置8と、を主構成機器としている。バレル1には後端寄りに材料供給孔7が設けられ、固体のペレット状の成形材料3が、ホッパ4から材料供給孔7を通じバレル1内に供給される。又、バレル1の前端側には射出ノズル5が設けられ、成形材料3は、バレル1内で高温下、高圧下におかれ、可塑化され溶融状態になり、射出ノズル5から図示しない金型へ射出される。
スクリュ30を駆動するスクリュ駆動装置8は、従来知られた駆動手段を有するものが採用される。例えば回転油圧モータとピストンユニット等を備え、回転油圧モータの出力軸とスクリュの後端に位置するスクリュ軸がスプライン軸等の機械的手段により接続され、スクリュを回転するとともに軸方向に移動可能とする駆動手段を採用出来る。あるいはサーボモータとボールネジを組合せた電動式の駆動手段を採用してもよい。
バレル1及び射出ノズル5の外周には、温度制御可能な加熱手段9が設けられ、バレル1及び射出ノズル5の中の成形材料3を加熱する。加熱手段9として、例えば、電熱線ヒータ(マイカヒータ、セラミックヒータ、アルミ鋳込みヒータ、真鍮鋳込みヒータ)、高周波誘導加熱ヒータ、ハロゲンランプ等の熱源が採用される。一般的には、電熱線式ヒータが採用される。
図1及び図2に示されるスクリュ30は、後端側から前端側にかけて圧縮部33と計量部35とで構成され、ピッチが一定であるフライト39がスクリュ全体に設けられたフルフライトスクリュである。スクリュ30におけるフライト39間の溝17は、圧縮部33の最後端で一番深く(h2)、圧縮部最前端部(計量部最後端部)で計量部の溝深さ(h1)と同じになっている。更に、スクリュ30は、全体においてスクリュ径d2が、ほぼ一定である。即ち、(スクリュ径d2)=(計量部における溝径d1)+(計量部における溝深さh1×2)=(圧縮部最後端における溝径d3)+(圧縮部最後端における溝深さh2×2)である。ここで、圧縮比について説明する。圧縮比とはh2/h1であり、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置においては1.4〜2.0としている。
一般的なスクリュは、供給部と圧縮部と計量部からなり、溝は、供給部で深く一定であり、圧縮部で徐々に浅くなり、計量部で浅く一定の値で形成される。そのような溝の深さは溝径を変えることにより実現されているが、スクリュ30では、一定の長さにわたって深溝になっている供給部がなく、スクリュ最後端から計量部まで溝深さが滑らかに浅くなっていく。
成形材料を可塑化するための可塑化装置の機能として、スクリュのトルクによる圧縮・剪断の付与と、加熱手段による加熱(昇温)とがあるが、本発明に係る可塑化装置100におけるスクリュ30では、後者、即ち、バレル1の外周に位置する加熱手段9からバレル1内の成形材料3全体へ効率よく伝わる熱の役割を大きくしたものである。
スクリュ30の計量部の溝深さh1は、限定されるものではないが、好ましい範囲は2.5〜4.5mm程度である。加熱手段9で生じた熱を成形材料全体に伝導し易くするために浅い溝が好ましいが、供給される成形材料(ペレット)サイズとの関係があり、溝深さh1が2.5mm未満では、供給部での溝深さが4〜5mm以下となり成形材料サイズよっては供給部での食込みが悪くなり、供給不良や供給負荷が大きくなってスクリュトルクが大きくなることもある。これを回避するためには、成形材料サイズを小さくしなければならず、成形材料サイズを自由に選択出来なくなり、実用的でなくなる。又、溝深さh1が4.5mmを越えると、供給部での溝深さが7.2〜9mm以上となり、バレル1の外周の加熱手段9から、バレル1の中のスクリュ溝底部の成形材料3に効率よく熱が伝導せず、可塑化が進み難くなり、スクリュ30の回転による可塑化(圧縮・剪断による可塑化)の比率が大きくなり、スクリュトルクの増大を招くことになる。
スクリュ30は、圧縮部33において溝深さが滑らかに変化するように溝径が形成されている。即ち、圧縮部33では、最後端の溝深さh2から最前端(計量部35側)の溝深さh1に向けて、徐々に溝深さが浅くなり、1ピッチあたりの溝17が形成する体積が徐々に滑らかに小さくなる。バレル1の中の成形材料3は、スクリュ30が回転し、前端側へ移動するに従って、徐々に高圧下におかれ、圧縮されて剪断力を受け、既に記したように効率よく加熱手段9により与えられる熱と相まって、可塑化される。圧縮比は、圧縮部33の最後端の溝深さh2と計量部の溝深さh1との比で表され、この適切な比は概ね1.4〜2.0であり、低圧縮比となっている。計量部35に入るまでには、成形材料3は完全に可塑化され溶融状態になる。計量部35においては、全ての溝17の溝深さはh1であり、一定である。
スクリュ30の計量部35の長さl3は、スクリュ径d2の概ね2〜6倍であり、尚且つ、スクリュ30の全長l1(l3+l2(圧縮部の長さ))は、スクリュ径d2の概ね15〜20倍となっている。既に述べた好ましい範囲の計量部での溝深さh1を採用した上で、このような長さの条件に合致させると、バレル1内の成形材料3の滞留量は、成形品の大きさを計量部の4ピッチ分と仮定すると、約5ショット分となるが、成形材料が溶融状態となるのは圧縮工程の後半部(計量部側)であり、溶融状態での滞留量は前述の半分程度になる。従って、滞留時間が長すぎて成形材料3に含まれる樹脂バインダ材料が分解・劣化してしまう問題を回避出来る。
スクリュ30の計量部35の長さl3がスクリュ径d2の2倍未満であると、未溶融や樹脂温度の不均一が生じるおそれがある。又、スクリュ30の計量部35の長さl3がスクリュ径d2の6倍を越えると、スクリュトルクの増大や剪断発熱の増加による樹脂の劣化のおそれがある。スクリュ30の全長l1がスクリュ径d2の15倍未満であると、成形材料3がバレル1内に滞留する時間が短すぎて、加熱手段9による可塑化が充分に進まず、スクリュ30の回転に要するトルクが増大するおそれがある。スクリュ30の全長l1がスクリュ径d2の20倍より長いと、成形材料3がバレル1内に滞留する時間が長すぎて、成形材料3に含まれる樹脂バインダ材料が加熱されすぎて、分解・劣化のおそれが生じるとともに、装置が長大化してスペース生産性が低下する。
又、射出成形用の単軸のフルフライトスクリュは、一般的に、ミキシング能力に問題があるといわれている。特に、樹脂温度の均一性が要求される場合やフィラー・マスターバッチ等の分散要求レベルが高い場合には、圧縮域に逆フライト部やダルメージ等を設けたり、スクリュの前端にミキシングヘッドを設けたりしてミキシング能力の向上を図っている。本発明においても、樹脂温度の均一性や黒鉛分散の均一性の向上を図るために、スクリュの前端にミキシングヘッドを設けることとした。
可塑化装置100において、加熱手段9は、好適には真鍮鋳込みヒータが採用される。真鍮鋳込みヒータは、発熱密度(ワット密度)が6W/cm2以上と高く、可塑化・射出成形にかかるサイクルタイムの短縮を実現し、生産効率を向上させ得る。又、真鍮鋳込みヒータを用いることにより、スクリュ長さを短くすることが可能となり、よって、成形材料3がバレル1内に滞留する時間が短くてすむため、成形材料3に含まれる樹脂バインダ材料の分解・劣化を回避出来る。
但し、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化装置は、発熱密度が高いものであれば真鍮鋳込みヒータ以外でも採用出来、加熱手段を具体的に限定するものではない。加熱手段の好ましい発熱密度(ワット密度)は、4W/cm2以上であり、より好ましくは5W/cm2以上であり、更に好ましくは6W/cm2以上である。従来の可塑化装置において多用される加熱手段として、プレートヒータ、アルミ鋳込みヒータ等が挙げられるが、これらの発熱密度(ワット密度)は一般に1.5〜3.5W/cm2であり、必ずしも好ましい加熱手段ではない。
続いて、以下に、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化方法について説明する。本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化方法(単に、本発明に係る可塑化方法ともいう)は、導電性材料と樹脂バインダ材料とを含有し、粘度が高く流動性が低く溶融時の体積変化が少なく可塑化し難い燃料電池セパレータ用の成形材料を可塑化するのに、好適な方法である。
本発明に係る可塑化方法では、外周に加熱手段を備えたバレルに低圧縮比のスクリュが収められた可塑化装置を用いる。加熱手段により発生した熱がバレル内の成形材料全体に効率よく伝導するからである。本発明に係る可塑化方法では、上記条件以外の可塑化装置の具体的態様を限定しないが、既に説明した可塑化装置100は好適な可塑化装置であるので、以下、図2に示されるスクリュ30を組み込んだ図1に示される可塑化装置100を使用するものとして説明する。
先ず、ホッパ4に、好ましくは後述する粒径を有するペレット状の成形材料3を入れる。そして、予め、可塑化装置100の加熱手段9の温度、スクリュ30の回転速度、等を設定しておく。
このとき、成形材料3を、予め加熱(予熱ともいう)しておくことが肝要である。成形材料3をバレル1に入れる前に予熱しておけば、バレル1内において可塑化に要する熱量は、より少なくてすみ、可塑化装置内におけるサイクルタイムは短縮され、効率よく可塑化装置を使用することが出来る。又、既に述べたように、より好ましい加熱手段9としては真鍮鋳込みヒータが挙げられるが、予熱することにより、そのような発熱密度が高い加熱手段ではなく、より発熱密度の低いもの、例えば、従来の可塑化装置において用いられるアルミ鋳込みヒータ等の採用も可能となる。
成形材料3の予熱にかかる熱量は、バレル1内において可塑化に要する熱量を減らす観点からは、多いほどに好ましい。しかし、予熱温度が高くなりすぎると成形材料3の形状が崩れたり、粘着性を発現して、次の過程でホッパ4からバレル1内への供給がスムーズにいかなくなって好ましくない。従って、バレル1内への供給に問題が生じない範囲で予熱する。通常、黒鉛と液晶ポリマとを含む成形材料の場合には、ホッパ4に入れる前に100〜150℃まで予備乾燥、加熱しておくことが好ましい。
次に、スクリュ駆動装置8によりスクリュ30を回転駆動して成形材料3の受入を行う。成形材料3は材料供給孔7からバレル1内へ入り、スクリュ30の圧縮部33の後端に供給される。スクリュ30の回転によりバレル1内を搬送される成形材料3は、加熱手段9から加えられる熱と、スクリュ30の回転による摩擦作用・剪断作用を受けるとともに溝深さが徐々に浅くなって圧縮されることにより、完全に可塑化され(溶融し)、計量部35へ送られる。このとき、圧縮比を1.4〜2.0とすることが肝要である。
次に、図示しない射出装置によりスクリュ30を前進させることによって、可塑化された成形材料3は、射出ノズル5を介し、所望のキャビティを有する図示しない金型へ射出・充填される。そして、冷却固化を待って金型を開くと、成形体たる燃料電池セパレータが得られる。
続いて、以下に、本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料について説明する。本発明に係る燃料電池セパレータ用成形材料(単に、本発明に係る成形材料ともいう)は、樹脂バインダ材料として液晶ポリマを含有し、導電性材料として黒鉛を70〜90質量%、好ましくは黒鉛を78〜82質量%含有するところに特徴がある。
液晶ポリマは、固化速度が速くて所謂バリが生じ難い上に、成形体に優れた耐熱性、機械的強度(引張強さ、伸び等)、寸法安定性、耐加水分解性を付与し得るので、燃料電池セパレータ用の樹脂バインダ材料として好適である。
黒鉛は、成形体に優れた耐熱性、耐加水分解性を付与し得るので、燃料電池セパレータ用の導電性材料として好適である。所定量を含有させることにより好ましい導電性を付与出来る。但し、黒鉛は入れすぎると成形体の剛性(曲げ強度)の低下を招来する。燃料電池セパレータとして好適な導電性を付与するとともに一定の剛性を保持するためには、その含有率を調節することが肝要である。
本発明に係る成形材料においては、平均粒径が2〜4mmの範囲のペレットに形成されることが好ましい。これは、成形材料の嵩比重をより大きくし、充満率をより大きくして、成形材料を低圧縮比で可塑化可能とすることが出来るからである。又、スクリュ溝深さの面より考えると、溝深さ2.5mmのものに対しては成形材料サイズとしては2mmのものが適当であり、溝深さ4.5mmのものに対しては成形材料サイズとしては4mmのものが適当である。尚、スクリュ溝深さとは関係なく、ペレット化の工程で成形材料サイズが決まることもある。
図4に、ペレット径と充満率(嵩比重/真比重)の関係を表す。ペレットの粒径が大きくなれば充満率が低下し、可塑化装置において必要な圧縮比が大きくなるので、ペレットの粒径は4mm以下に抑えることが好ましい。尚、ペレットの平均粒径が小さすぎても(2mm未満)、ペレット製造が困難となるとともにスクリュ圧縮部での脱泡(ガス抜け)が悪くなるので好ましくない。
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
図2に示すスクリュ30と同型のスクリュを用いた図1に示す可塑化装置100と同型の可塑化装置により、燃料電池セパレータ用成形材料の可塑化、射出成形の試験を行った。
可塑化装置の詳細仕様は、次の通りである。スクリュは、後端から前端にかけて全体にフライトが形成され、スクリュ径(d2)とピッチはスクリュ全長にわたって同じであり、そのスクリュ径が52mmφ、ピッチが52mmである。又、スクリュの溝深さは計量部で2.9mm(h1)、圧縮部最後端で5.22mm(h2)であり、圧縮比が1.8となる。そして、スクリュ回転数は50rpm、型締力は250トンであり、スクリュの全長は1040mm(スクリュ径の20倍)、計量部の長さは260mm(スクリュ径の5倍)である。加熱手段として、真鍮鋳込みヒータを発熱密度が6W/cm2になるように設けた。バレルの外径は150mmφであり、真鍮鋳込みヒータのスクリュ部分における容量は概ね29kWを要した。
成形材料は、液晶ポリマと黒鉛を用意し、これらがそれぞれ20質量%、80質量%の比率で含まれるように混合し、混練機でよく混練し、概ね円筒状のペレットとして仕上げた。ペレットの大きさは、軸線に垂直な断面の直径が2.5mm、軸線の長さが3mmとした。
成形体として、縦150mm×横200mm×高さ2mmの平板である(体積は成形体が45cm3、ゲート部体積が15cm3で合計が60cm3である)。
上記のような条件で、成形材料を可塑化し、金型へ射出して成形し、燃料電池セパレータを得た。成形材料を可塑化して所定量だけ計量するのに要した時間Tを計測し、この間に計量した成形材料を射出して、この射出量Qを測定し、単位時間あたりに可塑化出来る成形材料(Q/T)を求めた。結果は、Q=120gに対し、T=7.9秒であり、可塑化、射出成形にかかるサイクルタイムを20秒以内にすることが出来た。又、この結果から搬送能力(可塑化能力)は概ね54.7kg/Hとなった。
尚、可塑化装置の仕様により、計量部における1ピッチの体積は、溝深さ2.9mm×スクリュの円周52πmm×計量部ピッチ52mm×0.9(フライトの幅による減少分)=22.16cm3、となる。従って、成形体の体積60cm3は、1ピッチの体積で割れば(60/22.16=)2.71となる。故に、スクリュ長さがスクリュ径の20倍であるので、スクリュ溝深さの変化による影響を無視すれば、成形材料のバレル内の滞留量は概ね7ショット分となる。但し、溶融状態にある成形材料の滞留分はこの半分程度となる。
1…バレル、3…成形材料、4…ホッパ、5…射出ノズル、7…材料供給孔、8…スクリュ駆動装置、9…加熱手段、17…溝、30…スクリュ、39…フライト、33…圧縮部、35…計量部、100…可塑化装置。