JP4297586B2 - ブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、テレビ等のブラウン管組立て時に実施される黒化熱処理時にクリープ変形による張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
テレビブラウン管等の大型平面化の指向および低コスト化の指向により、そのサポートフレームには12%程度のクロムを含有し、低熱膨張率で磁気特性、耐錆性に優れたSUS410系鋼材の使用が増加している。
【0003】
ブラウン管フレームは、アパーチャーグリル等の前面マスクを張力をかけて張った後、防錆あるいはハレーション等を防止する目的から黒化処理と称する400〜600℃の熱処理を実施する。この熱処理時にフレーム材のクリープ変形による張力低下が生じるとアパーチャーグリル等の前面マスクの簾間隔あるいは穴形状に歪みが生じ、画像の乱れ、色むらが生じる。熱処理時の張力低下を防止するため、板厚増加あるいはフレーム裏に補強材を付ける等の対策が施されてきたが、重量の増加あるいはコストの上昇を招いており、低コストで軽量のブラウン管等に、上記熱処理時のクリープ変形が少なく、フレーム張力低下の少ない素材が求められてきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上の現状に鑑み、400〜600℃での黒化熱処理時のクリープ変形による張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼とその製造方法を提供することをその課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題に対して、鋼材成分を厳しく制限すること無く、適切な成分範囲を有する熱延鋼板に適切な冷間圧延を施し、金属組織を適度に加工硬化させることにより400〜600℃での黒化熱処理時のクリープ変形を抑制する。クリープ変形抑制と同時にSUS410鋼等のフェライト系ステンレス鋼が有する低熱膨張率、磁気特性、加工性、耐錆性を損なわないように成分範囲および冷間圧延条件を規定するもので、その要旨とするところは以下のとおりである。
【0006】
(1)質量%で、
C :0.005〜0.2%、 Si:2%以下、
Mn:2%以下、 P :0.04%以下、
S :0.05%以下、 N :0.05%以下、
Cr:8〜20%
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であって、冷間圧延後の室温での降伏応力が400MPa以上であることを特徴とする黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼。
(2)質量%で、
Mo:0.1〜2.5%、 Cu:0.1〜2.5%、
Ni:0.1〜2.5%、 Nb:0.02〜0.5%、
Ti:0.05〜0.5%、 V :0.05〜0.5%、
B :0.0005〜0.005%
の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする前記(1)に記載の黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼。
(3)質量%で、
C :0.005〜0.2%、 Si:2%以下、
Mn:2%以下、 P :0.04%以下、
S :0.05%以下、 N :0.05%以下、
Cr:8〜20%
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、熱間圧延後、あるいは熱間圧延後の焼鈍を行った後に、冷間にて5〜20%の圧下率で圧延し、室温での降伏応力が400MPa以上とすることを特徴とする黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼の製造方法。
(4)鋼が、質量%で、
Mo:0.1〜2.5%、 Cu:0.1〜2.5%、
Ni:0.1〜2.5%、 Nb:0.02〜0.5%、
Ti:0.05〜0.5%、 V :0.05〜0.5%、
B :0.0005〜0.005%
の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする前記(3)に記載の黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼の製造方法。
(5)熱間圧延直後に、熱処理による軟化処理を行うことを特徴とする前記(3)または(4)に記載の黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の鋼の成分範囲などの限定理由について述べる。
Cは、鋼の強度を向上させ、クリープ変形を抑制するのに有効な元素である。しかし、0.005%未満では、冷間圧延を施してもクリープ変形を十分抑制することができない。また、0.2%を超える過剰の添加は、冷間加工後のフレーム加工時の加工性および耐錆性を損なうため、下限を0.005%、上限を0.2%とした。
【0008】
Nは、不可避的不純物元素であり、C同様にクリープ変形抑制に有効であるが、0.05%を超える過剰の添加は、冷間加工後のフレーム加工時の加工性を損なうため、上限を0.05%とした。
【0009】
Siは、脱酸剤として鋼中の固溶酸素を低減し加工性、磁気特性を確保するために必要であるが、2%を超えて添加すると冷間加工後のフレーム加工時の加工性が著しく低下するため、上限を2%とした。
【0010】
Mnは、不可避的不純物元素であるが、2%を超えて添加すると加工性、磁気特性を劣化させるため、上限を2%とした。
【0011】
Pは、不可避的不純物元素であり、クリープ変形抑制にも効果あるが、0.04%を超えて含有すると冷間加工後のフレーム加工時の加工性を損なうため、0.04%以下に限定した。
【0012】
Sは、不可避的不純物元素であるが、0.05%を超えて含有するとMnSなどの硫黄系介在物として、さびの起点となるだけではなく、磁気特性も劣化するため、上限を0.05%とした。
【0013】
Crは、耐錆性を維持するために必要な添加元素であり、8%以上の含有量が必要である。一方、20%を超えて添加すると熱延温度域でフェライト相単相となり、冷間圧延前の熱延鋼板の金属組織が粗大化し、フレーム加工時に表面肌荒れ、加工割れを生じるため、下限を8%、上限を20%とした。
【0014】
Mo,Cu,Ni,Nb,Ti,V,Bの添加はいずれもクリープ変形抑制に効果があり、その効果を発現させるためには、Mo,Cu,Niでは0.1%以上、Nbでは0.02%以上、TiおよびVでは0.05%以上、Bでは0.0005%以上の添加が必要である。一方、いずれの元素も過度に添加すると冷間加工後のフレーム加工時の加工性が劣化するため、Mo,Cu,Niで2.5%、Nb,Ti,Vで0.5%、Bで0.005%を上限とした。
【0015】
上記成分範囲を有する熱延鋼板、あるいは熱延後焼鈍を施した鋼板に冷間にて5〜20%の圧延を施し、金属組織を加工硬化させることにより、400〜600℃でのクリープ変形を抑制する。600℃を超える温度では、冷間圧延にて導入された歪が熱的に回復し、加工硬化によるクリープ変形抑制効果は発現しないが、黒化熱処理を実施する600℃以下の温度では歪の熱的回復も少ないため、加工硬化によるクリープ変形抑制効果が現れる。
【0016】
加工硬化によるクリープ変形抑制効果を十分発現させるためには、冷間圧延によって生じる加工硬化によって、室温域での降伏応力を400MPa以上としなければならない。ただし、鋼種などにより降伏点が明確でない場合は、降伏応力の代わりに0.2%耐力を用いる。降伏応力(0.2%耐力)が400MPa未満ではクリープ変形を十分に抑制できない。
【0017】
この加工硬化を十分に発現させるためには、冷間圧延における圧延率を5%以上とする必要がある。一方、冷間圧延による加工硬化は素材の伸びを減少させ、フレーム加工時の加工性を低下させる。20%を超える圧延率では、加工性劣化が大きく、フレーム加工が困難になるため、圧延率の上限を20%とした。クリープ変形抑制のための冷間圧延は、フレーム加工前の鋼板の状態で実施しても良いし、またフレーム加工時のロール成形時に実施しても良い。
【0018】
冷間圧延前の熱延鋼板の金属組織中にマルテンサイト相のような硬質相が残留すると、冷間圧延時あるいはフレーム加工時に割れが生じる。そのため、熱間圧延後に適切な熱処理を実施するなど、熱間圧延直後に軟化処理を施すことにより、マルテンサイト相などの硬質相が残留しないよう製造することが好ましい。
【0019】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
表1に示した種々の組成の熱延鋼板を製造した。一部の熱延鋼板については箱焼鈍を実施した後、スケールを酸洗除去した。そして、黒化熱処理時のクリープ変形に伴う張力低下を抑制するため、種々の圧延率で冷間圧延し、上記の熱延鋼板を加工硬化させた。各熱延鋼板の板厚、箱焼鈍の条件、冷間圧延後の板厚、冷間圧延率を表2に示す。
【0020】
冷間圧延を実施する前後で、表2に示す各鋼板から圧延方向と平行にJIS5号の引張試験片を切りだし、室温での降伏点(降伏点の現れない場合は0.2%耐力)、引張強度、破断伸びを測定した。さらに冷間圧延後の鋼板から圧延方向と平行にクリープ試験片を切りだし、460℃で300MPaの応力を負荷し、負荷直後から3時間までのクリープ歪量を測定した。その試験結果を表3に示す。
【0021】
本結果から、適切な冷間圧延率で圧延し、降伏強度(0.2%耐力)を400MPa以上に加工硬化させた鋼板は、上記条件でクリープ変形が著しく小さくなることがわかる。次に、幅50mmの試験片を切り出し、室温にて圧延方向と平行に曲げ半径10mmで90°曲げ試験を行った。その割れ発生の有無、曲げ加工表面の観察結果も表3に併せて示す。圧延率20%を超える過度の冷間圧延を実施した鋼板では割れが発生し、またCr含有量が20%を超えた粗大の金属組織を有する熱延鋼板、CあるいはN含有量が高い熱延鋼板では加工時に肌荒れ、一部加工割れを生じた。このことから、クリープ変形を抑制するために過度の冷間圧延、あるいは本発明の成分範囲を逸脱する化学成分を有する熱延鋼板は、加工性の面からブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼として不適である。
【0022】
さらに、表2中に示す本発明鋼の番号9について、実際のサポートフレーム形状に加工し、所定の張力を負荷しながら前面にアパーチャーグリルを装着し、460℃で30分の黒化熱処理を実施した。本発明鋼の黒化熱処理後の張力減少率は3%未満で、従来鋼に比較し張力低下が少ないことが確認された。
【0023】
以上の結果から、本発明鋼は、ブラウン管フレーム加工後の黒化熱処理時にフレーム材のクリープ変形による張力低下が少ないことが確認された。さらに、フレーム材に要求される加工性も満足し、テレビブラウン管等のサポートフレームとして最適な鋼材であるといえる。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【発明の効果】
本発明は、低コストで軽量であることを要求されるテレビブラウン管等のサポートフレーム用として、黒化熱処理時におけるクリープ変形による張力低下の少ないステンレス鋼を安価に提供できるので、その産業上の価値は極めて高いものであるといえる。
Claims (5)
- 質量%で、
C :0.005〜0.2%、
Si:2%以下、
Mn:2%以下、
P :0.04%以下、
S :0.05%以下、
N :0.05%以下、
Cr:8〜20%
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼であって、冷間圧延後の室温での降伏応力が400MPa以上であることを特徴とする黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼。 - 質量%で、
Mo:0.1〜2.5%、
Cu:0.1〜2.5%、
Ni:0.1〜2.5%、
Nb:0.02〜0.5%、
Ti:0.05〜0.5%、
V :0.05〜0.5%、
B :0.0005〜0.005%
の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1に記載の黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼。 - 質量%で、
C :0.005〜0.2%、
Si:2%以下、
Mn:2%以下、
P :0.04%以下、
S :0.05%以下、
N :0.05%以下、
Cr:8〜20%
を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を、熱間圧延後、あるいは熱間圧延後の焼鈍を行った後に、冷間にて5〜20%の圧下率で圧延し、室温での降伏応力が400MPa以上とすることを特徴とする黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼の製造方法。 - 鋼が、質量%で、
Mo:0.1〜2.5%、
Cu:0.1〜2.5%、
Ni:0.1〜2.5%、
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Ti:0.05〜0.5%、
V :0.05〜0.5%、
B :0.0005〜0.005%
の1種または2種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項3に記載の黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼の製造方法。 - 熱間圧延直後に、熱処理による軟化処理を行うことを特徴とする請求項3または4に記載の黒化熱処理時の張力低下の少ないブラウン管サポートフレーム用ステンレス鋼の製造方法。
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