JP3548606B2 - アパーチャーフレーム用鋼板およびその製造方法 - Google Patents

アパーチャーフレーム用鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は,カラー受像管を構成する部材のうち,アパーチャーグリルを所定の張力下に張り渡すためのフレーム(アパーチャーフレームと呼ぶ)を構成する鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カラー受像管のうち,トリニトロン型のものは,複数個の電子銃,それらの電子ビームから色選別を行なうためのアパーチャーグリル,および蛍光面を備え,さらには,電子ビームが地磁気により偏向されることを防ぐ磁気シールド材が内部を覆っている。
【0003】
このうちアパーチャーグリルは,方形のフレームに一定の張力下に張りわたされて支持される。このアパーチャーフレームは,受像管の大きさに応じて板厚1〜6mmの範囲の鋼板を用いて必要な枠形状に成形加工されるが,小型の受像管ではプレス成形にて,また大型の受像管では枠の四辺を構成するそれぞれの部材をロール成形およびプレス成形にて製作し,これらを溶接して枠状に組立てるのが一般的である。
【0004】
このようにして製作された枠状フレームには,歪取焼鈍が行われたあと,アパーチャーグリルが取付けられる。アパーチャーグリルは板厚が通常0.08〜0.25mmの冷延鋼板を素材として,エッチング処理によって所定の細いスリットを規則正しく形成したものであり,このアパーチャーグリルをフレームに取付けるには,フレームの上枠と下枠を内側に加圧した状態でアパーチャーグリルの上下をフレームに溶接したあと,フレームに加えた外部からの加圧力を除去し,フレームの反発力でアパーチャーグリルを張り上げる。したがって,フレームには曲げ応力が付加された状態に,またアパーチャーグリルは張力を受けた状態になる。
【0005】
次いで,このフレームとアパーチャーグリルを一体化させた状態で黒化処理が施される。黒化処理は通常は450〜500℃の温度で10〜20分間加熱する処理であり,鋼板表面に黒化被膜を形成することにより熱輻射を防止し,また2次電子の発生や錆発生も防止する。この場合,密着性の悪い黒化皮膜であると,これが剥離して酸化物が受像管内に落ち,受像管の特性を著しく損なうことになる。このため,鋼板の表面は,密着性の良好な酸化皮膜を生成させることが必要である。
【0006】
このように,アパーチャーフレーム材は曲げ応力が付加された状態で黒化処理の熱サイクルを受けるという特有の事情がある。この熱サイクルを受けたときに曲げ応力の緩和が大きいとアパーチャーグリルの張上張力の低下が生じる。この張上張力の低下が大きいとスピーカーの音でアパーチャーグリルが共振し,色ずれの原因となる。
【0007】
従来より,黒化処理時にアパーチャーグリルの張上張力が低下しないようなフレーム材として,フェライト系ステンレス鋼が使用されてきた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし,アパーチャーフレームとしてフェライト系ステンレス鋼の使用はコスト高となる欠点がある。また最近のアパーチャーグリルは大型化の傾向にあり,このためアパーチャーフレームも大きく且つ高重量となり,軽量化を図るには高強度化が必要となってきた。
【0009】
したがって,本発明の目的とするところは,ステンレス鋼のように高価な材料を使用しなくても,黒化処理時に張上げ張力の低下が小さく且つ高強度で成形加工性にも問題のない安価なアパーチャーフレーム用材料を提供するにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば,質量%で,
C:0.03〜0.25%,
Si:0.8%以下,
Mn:0.05〜1.5%,
P:0.1%以下,
S:0.02%以下,
Mo:0.01〜1.0%,
Al:0.10%以下を含有し,
場合によってはさらに,2.0%以下のCu,2.0%以下のNi,3.0%以下のCr,1.0%以下の W,0.0003〜0.003%のBの一種もしくは二種以上を含有し,場合によってはさらに,0.4%以下のTi,0.4%以下のNb,0.4%以下のVの一種もしくは二種以上を含有し,残部が鉄および不可避的不純物よりなるアパーチャーフレーム用鋼板を提供する。
【0011】
本発明のアパーチャーフレーム用鋼板は,前記の成分組成を有するスラブを製造し,このスラブを仕上温度:820〜950℃,巻取温度:400〜650℃の条件で熱間圧延し,この熱延鋼帯に圧延率:0.3〜7.0%のスキンパス圧
延を施すか,或いは該熱延鋼帯を酸洗したうえ,冷間圧延し,最終焼鈍後に圧延率:0.3〜7.0%のスキンパス圧延を施すことによって製造し得る。
【0012】
【作用】
本発明は,成形と溶接を含むフレーム製作のあと,歪取焼鈍とアパーチャーグリル取付け後の黒化処理というアパーチャーフレーム特有の熱サイクルを経る過程で,フエライト系ステンレス鋼に代わる普通鋼であっても,歪取焼鈍後に高強度が維持され且つ黒化処理時に高温強度が維持され,アパーチャーグリルの張上張力の低下が少ないという作用効果を奏する。
【0013】
この作用効果は,本発明によって規定する鋼の成分組成並びに製造条件によってもたらされるものである。以下に,先ず本発明鋼の化学成分の範囲を規定した理由とその作用を個別に概説し,ついで製造条件について説明する。
【0014】
Cは鋼の強度を高めるに有効な元素であり,アパーチャーフレームの強度を確保するために0.03%以上の含有が必要である。しかし,0.25%を超えて
含有させるとアパーチャーフレームの成形加工性,溶接性を損なうことから,C含有量は下限を0.03%,上限を0.25%とした。
【0015】
Siは鋼の溶製時の脱酸剤として有効であり,また鋼の強度を高めるのにも有効に作用するが,Siは鋼板の表面肌が劣化させるとともに,黒化処理されたアパーチャーフレームの黒化膜の剥離が生じ易くさせる。このため,0.8%以下にすることが必要で,望ましくは0.3%以下である。
【0016】
Mnは鋼の強度を高めるに有効な元素であり,また脱酸剤として必要な元素である。さらに,不純物であるSをMnSとして固定し,熱間脆性を防止する作用がある。このためには0.05%以上の含有が必要であるが,1.5%を超えて含有させると,成形加工性と溶接性を損なう。このため,下限の含有量を0.05%,上限の含有量を1.5%とした。
【0017】
Pは鋼の強度を向上させる元素であるが,偏析しやすい元素であるため多量の含有は鋼板内の強度変動が大きくなると共に,成形加工性,溶接性を損なう。このため,0.10%以下とすることが必要であり,望ましくは0.04%以下である。
【0018】
Sは含有量が多いとMnS等の介在物が多くなり,成形加工性を損ねる。このため,極力少ない方が望ましいが0.02%までは許容できることから0.02%以下とした。
【0019】
Moは鋼中に固溶し,そして微細なMoC等の析出物により室温強度および高温強度を高める。とくにアパーチャーフレームに成形・溶接後に行なう歪取焼鈍温度に加熱されたときに,この温度範囲で微細なMoC等の析出によって,焼鈍後の方がフレーム強度を向上させることができる。また黒化処理温度での高温強度も高くすることができ,このためアパーチャーグリルの張上張力の向上に寄与する。そのためには0.01%以上の含有を必要とするが,1.0%を超えたMo量の含有は成形加工性,溶接性を損ねる。また,高価な元素であることからコスト高となる。このため,Moの含有量は0.01〜1.0%の範囲とする。
【0020】
Alは脱酸剤としては有効な元素であり,不純物であるNをAlNとして固定する作用があるが,多量の含有は鋼板に表面欠陥が生じ易く,黒化膜が剥離し易くなる。このため,0.10%以下とした。
【0021】
Cuは鋼中に固溶しそして微細な析出物を析出して室温および高温の強度を高め,アパーチャーグリルの張上張力の向上に寄与するが,2.0%を超えた含有は成形加工性および溶接性を損ねる。このため,2.0%以下とした。
【0022】
NiはCuによる熱間脆性の防止に有効な元素であり,この効果を得るためにはCuとほぼ同量の含有が適当である。また,高温強度を高め,張上張力の向上に寄与するが,多量の含有は成形加工性,溶接性を損ねる。さらに,高価な元素であることからコスト高となる。このため,2.0%以下とした。
【0023】
Crは高温強度を高め,アパーチャーグリルの張上張力の向上に寄与するが,多量の含有は成形加工性,溶接性を損ねる。このため,3.0%以下とした。
【0024】
Wは鋼中に固溶しそして微細なWC等の析出物を析出して室温および高温の強度を高め,アパーチャーグリルの張上張力の向上に寄与する。1.0%を超えたWの含有は成形加工性,溶接性を損ねる。また,高価な元素であることからコスト高となる。このため,上限を1.0%とした。
【0025】
Bは結晶粒界を強化し,圧延性を向上させるとともに不純物であるNをBNとして固定する作用がある。また,結晶粒の微細化により,高温強度を高める効果があり,アパーチャーグリルの張上張力の向上に寄与する。このような効果を得るためには0.0003%以上の含有が必要であるが,0.003%を超えると
効果が飽和する。このため,0.0003〜0.003%とした。
【0026】
Ti,Nb,Vは,TiC,NbC,VC等の析出物を生成しまた結晶粒の微細化作用により,室温および高温の強度を高め,アパーチャーグリルの張上張力の向上に寄与するが,いずれの元素も0.4%を超えた含有は成形加工性,溶接性を損ねるので0.4%以下とした。望ましくは0.2%以下である。
【0027】
本発明のアパーチャーフレーム用鋼板は,上記の成分を既述の範囲で含有する鋼のスラブを製造し,このスラブを熱間圧延後,スキンパス圧延を施すことによって熱延鋼板として有利に製造できる。そのさいスキンパス圧延の前もしくは後に酸洗を施す。
【0028】
さらには,熱間圧延後酸洗し,冷間圧延を行ったうえ焼鈍し,そしてスキンパス圧延を施すことによって冷延鋼板として製造できる。
【0029】
いずれの場合でも,熱間圧延では結晶粒の細粒化を図るために熱延仕上温度はAr変態点直上を基本とする。本発明鋼では仕上温度は820〜950℃である。仕上温度が820℃未満ではα相域の熱間圧延となり,また950℃を超えると高温のγ相域の熱間圧延となり,どちらも結晶粒が粗大化する。
【0030】
また巻取温度は400℃未満では板形状が悪くなり,650℃を超えると高強度材が得難く,また酸洗性が劣るようになる。したがって熱間圧延での巻取温度は400℃〜650℃とする必要がある。
【0031】
熱延鋼板に適量のスキンパス圧延を施すと,この熱延鋼板から成形加工や溶接によって組み立てられたアパーチャーフレームを歪取焼鈍したさいに,室温強度並びに黒化処理温度での高温強度を高めることができる。
【0032】
冷延鋼板とする場合の,冷間圧延では冷延率が40%未満では次工程の焼鈍後の結晶粒が粗大となるので冷延率は40%以上が望ましい。この冷間圧延のあと焼鈍を施すが,この焼鈍温度は再結晶が終了する650℃以上とすることが必要である。未再結晶粒を含む鋼板であるとアパーチャーフレームに成形加工するさいに精密な形状の確保が困難となる。しかし,焼鈍温度が850℃を超えると結晶粒が粗大化するので, 焼鈍温度は650〜850℃とする。
【0033】
冷延鋼板に適量のスキンパス圧延を施すと,熱延鋼板の場合と同様に, 成形加工や溶接によって組み立てられたアパーチャーフレームを歪取焼鈍したさいに,室温強度並びに黒化処理温度での高温強度を高めることができる。
【0034】
このようなスキンパス圧延の作用効果は転位の導入によってもたらされるものと考えられる。すなわち, スキンパス圧延による転位の導入によって歪取焼鈍時にMoC,WC,Cu等の析出物の析出が促進され, そしてこれら微細な析出物により転位の移動が阻止される作用がプラスされる結果, 歪取焼鈍後の室温強度並びに黒化処理温度での強度の向上に寄与するものと考えられる。このような効果を得るためにはスキンパス圧延での圧延率は0.3%以上が必要である。しかし,7.0%を超えるとアパーチャーフレームへの成形加工性が劣化するようになる。このためスキンパス圧延率は0.3〜7.0%に限定される。
【0035】
【実施例】
表1に示した化学成分値の鋼スラブを, 表2に示した熱間圧延条件で熱延して板厚6.0mmの鋼板とし,表2の条件でスキンパス圧延後,酸洗して熱延鋼板を得た。また或るもの(No.6と7)については,表2に示す条件で熱間圧延,冷間圧延,連続焼鈍およびスキンパス圧延を経て冷延鋼板を得た。
【0036】
各鋼板から圧延方向に引張試験片を採取し,室温の引張試験を実施した。室温の引張試験はJIS Z 2201の5号引張試験片を用いてJIS Z 2241に準じた。また,供試材に550℃×30分の歪取焼鈍を施し,この歪取焼鈍後の試験片について室温と, そして黒化処理温度に対応する450℃での高温での引張試験を実施した。450℃での引張試験はJIS G 0567に準じた。これらの試験結果を表2に併記した。
【0037】
【表1】
Figure 0003548606
【0038】
【表2】
Figure 0003548606
【0039】
表2の結果から,次の事項が明らかである。
【0040】
本発明例のNo.1〜No.10に係わる鋼板は,いずれも良好な伸びを有して成形加工性に優れているうえ,歪取焼鈍後では降伏応力が高くなっており,黒化処理温度に加熱されても良好な高温強度を維持している。したがって,本発明鋼板はアパーチャーフレームに要求される諸性質を具備していることがわかる。
【0041】
これに対して,比較例No.11とNo.12の鋼板はMoを含有せず,またW,CuまたはTi,Nb,V等を含有していないことから,歪取焼鈍後の室温および450℃での強度が低く,とくにNo.11はCの含有量が0.03%未満であるため室温強度も低い。
【0042】
比較例No.13とNo.14のフェライト系ステンレス鋼板は高温強度は比較的高いが十分でなく,室温の強度が低く,本発明の鋼板よりも歪取焼鈍後に要求されるアパーチャーフレーム特性はむしろ劣っている。
【0043】
【発明の効果】
以上に説明した如く,本発明によれば,フエライト系ステンレス鋼のように多量のCrを含有しなくても,成型加工性に優れ,歪取焼鈍後の室温および高温の強度が高く,アパーチャーグリルの張上張力低下が小さい安価なアパーチャーフレーム用鋼板が得られた。この鋼板は今後ますます大型化,高精彩化の方向にあるカラーテレビ用ブラウン管に対応したアパーチャーフレーム用としても十分対応できる。

Claims (5)

  1. 質量%で,
    C:0.03〜0.25%,
    Si:0.8%以下,
    Mn:0.05〜1.5%,
    P:0.1%以下,
    S:0.02%以下,
    Mo:0.01〜1.0%,
    Al:0.10%以下,および
    2.0%以下のCu,2.0%以下のNi,3.0%以下のCr,1.0%以下の W,0.0003〜0.003%のBの一種もしくは二種以上,
    残部が鉄および不可避的不純物よりなるアパーチャーフレーム用鋼板。
  2. 質量%で,
    C:0.03〜0.25%,
    Si:0.8%以下,
    Mn:0.05〜1.5%,
    P:0.1%以下,
    S:0.02%以下,
    Mo:0.01〜1.0%,
    Al:0.10%以下,および
    0.4%以下のTi,0.4%以下のNb,0.4%以下のVの一種もしくは二 種以上,
    残部が鉄および不可避的不純物よりなるアパーチャーフレーム用鋼板。
  3. 質量%で,
    C:0.03〜0.25%,
    Si:0.8%以下,
    Mn:0.05〜1.5%,
    P:0.1%以下,
    S:0.02%以下,
    Mo:0.01〜1.0%,
    Al:0.10%以下,
    2.0%以下のCu,2.0%以下のNi,3.0%以下のCr,1.0%以下の W,0.0003〜0.003%のBの一種もしくは二種以上,および0.4% 以下のTi,0.4%以下のNb,0.4%以下のVの一種もしくは二種以上,残部が鉄および不可避的不純物よりなるアパーチャーフレーム用鋼板。
  4. 質量%で,
    C:0.03〜0.25%,
    Si:0.8%以下,
    Mn:0.05〜1.5%,
    P:0.1%以下,
    S:0.02%以下,
    Mo:0.01〜1.0%,
    Al:0.10%以下,
    を含有し,場合によってはさらに,2.0%以下のCu,2.0%以下のNi,3.0%以下のCr,1.0%以下のW,0.0003〜0.003%のBの一種もしくは二種以上および/または0.4%以下のTi,0.4%以下のNb,0.4%以下のVの一種もしくは二種以上を含有し,残部が鉄および不可避的不純物よりなる鋼のスラブを製造し,
    このスラブを仕上温度:820〜950℃,巻取温度:400〜650℃の条件で熱間圧延し,
    この熱延鋼帯に圧延率:0.3〜7.0%のスキンパス圧延を施すことからな
    るアパーチャーフレーム用鋼板の製造方法。
  5. 質量%で,
    C:0.03〜0.25%,
    Si:0.8%以下,
    Mn:0.05〜1.5%,
    P:0.1%以下,
    S:0.02%以下,
    Mo:0.01〜1.0%,
    Al:0.10%以下,
    を含有し,場合によってはさらに,2.0%以下のCu,2.0%以下のNi,3.0%以下のCr,1.0%以下のW,0.0003〜0.003%のBの一種もしくは二種以上および/または0.4%以下のTi,0.4%以下のNb,0.4%以下のVの一種もしくは二種以上を含有し,残部が鉄および不可避的不純物よりなる鋼のスラブを製造し,
    このスラブを仕上温度:820〜950℃,巻取温度:400〜650℃の条件で熱間圧延し,
    得られた熱延鋼帯を酸洗したうえ,冷間圧延し,最終焼鈍後に圧延率:0.3〜7.0%のスキンパス圧延を施すことからなるアパーチャーフレーム用鋼板の製造方法。
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