JP4296363B2 - アクリルシラップの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はメタクリル酸メチルを主成分とする単量体およびメタクリル酸メチルを主成分とする単量体を重合して得られる重合体を含むアクリルシラップの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アクリルシラップはメタクリル樹脂注型板、光伝送繊維や光導波路などの光学材料、アクリル人造大理石、人工印材、床材、接着剤、粘着剤、文化財・剥製等修復材料または医用材料などの中間原料として従来より用いられている。
【0003】
このうちメタクリル酸メチルを主成分とするシラップの製造方法は特公昭36−3392号公報、特公昭40−3701号公報、特公昭46−40693号公報、特公昭53−2189号公報、特公平1−11652号公報、特開昭49−104937号公報、特開平9−194673号公報、特開昭55−43111号公報および特開平9−255714号公報等、多数出願されている。
【0004】
アクリルシラップの製造方法は2つに大別される。1つは特開昭49−104937号公報、特開平9−194673号公報等に開示されている、別途調製した重合体を単量体に溶解する方法である。本発明とは基本的に異なる製造方法であり、しかも一旦重合体を取り出した後再度単量体に溶解するため、エネルギー的にも経済的にも不利である。もう1つは特公平1−11652号公報等で開示されている、単量体を部分的に塊状重合させる方法であり部分重合法とも呼ばれる。部分重合法は更に回分法と連続法とに分けられる。
【0005】
部分重合法のうち第一の回分法による製造方法として、例えば特公昭36−3392号公報には、メタクリル酸メチルを主成分とする単量体および連鎖移動剤からなる原料を80℃に昇温し、少量のアゾビスイソブチロニトリルまたは過酸化ベンゾイルを重合開始剤として加え、同時に100℃に昇温して27〜50分重合し、所定の粘度になった時点で重合禁止剤としてハイドロキノンを含有する冷たいメタクリル酸メチルを加えて急冷することによりアクリルシラップを製造する方法が開示されている。
しかしながら、この方法では重合開始剤が完全に分解しない状態で重合を停止するため、得られたシラップ中に重合開始剤が残存しており、たとえ重合禁止剤を加えても貯蔵安定性の劣ったものとなる。例えば重合開始剤に用いる過酸化ベンゾイルの100℃での半減期は約22分であるから、所定の粘度に達した時点では加えた量に対して42〜20%の重合開始剤が製品中に残存している。また反応に必要な量の重合開始剤を一度に添加するために反応の制御が困難であり、一旦重合開始剤を加えた後は温度を一定に保つ以外は有効な手段がなく、僅かな温度の変化の影響により製品の重合率、粘度が大きく変化するため安定した製造は行えない。
特公平1−11652号公報では、SMCまたはBMCの中間原料としてシラップを製造するに際し、メタクリル酸メチル89重量%、メタクリル酸5重量%、トリメチロールプロパントリメタクリレート6重量%からなる単量体100部に対しn−ドデシルメルカプタン0.4部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.05部を含む原料を仕込み、80℃で重合を行い、反応液が所定の粘度に達した時点で重合禁止剤としてハイドロキノンおよびp−メトキシフェノールを加え速やかに室温まで冷却し重合を禁止する方法により、カルボン酸を含むアクリルシラップを製造する方法が開示されている。
しかしながらこの方法では得られたシラップ中に重合開始剤が残存しており、たとえ重合禁止剤を加えても貯蔵安定性の劣ったものとなる。また反応に必要な量の重合開始剤を一度に添加するために反応の制御が困難である。一旦重合開始剤を加えた後は温度を一定に保つ以外は有効な手段がなく、僅かな温度の変化の影響により製品の重合率、粘度が大きく変化するため安定した製造は行えない。また特開平9−67495号公報ではSMCまたはBMCの中間原料としてシラップを製造するに際し、メタクリル酸メチル90部、メタクリル酸10部からなる単量体を80℃に昇温し、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.05部と連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン0.8部を加え重合を行い、反応液が所定の粘度に達した時点でメタクリル酸メチル50部を加え急冷する方法により、シラップ中の重合体にカルボン酸を含むアクリルシラップを製造する方法が開示されている。
しかしながらこの方法では得られたシラップ中に重合開始剤が残存しており、貯蔵安定性の劣ったものとなる。また反応に必要な量の重合開始剤を一度に添加するために反応の制御が困難である。一旦重合開始剤を加えた後は温度を一定に保つ以外は有効な手段がなく、僅かな温度の変化の影響により製品の重合率、粘度が大きく変化するため安定した製造は行えない。
【0006】
これらのように回分法では反応に必要な量の重合開始剤を一度に添加するために反応の制御が困難である。一旦重合開始剤を加えた後は温度を一定に保つ以外は有効な手段がなく、僅かな温度の変化の影響により製品の重合率、粘度が大きく変化するため、安定した品質の製品は得られがたい。しかも得られたシラップ中に重合開始剤が残存しており、たとえ重合禁止剤を加えても貯蔵安定性の劣ったものとなる。
また重合開始剤が残存しないようにするため重合温度での半減期が短い重合開始剤を用いると、一度に多量の重合開始剤が分解し、重合反応が急速に進行するため重合反応を制御することができない。このため回分法で使用可能な重合開始剤は重合温度での半減期が長いものに限定される。
【0007】
部分重合法のうち第二に連続法による製造方法として、例えば特公昭40−3701号公報には、重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.1重量%を溶解させたメタクリル酸メチルを反応器に連続的に供給しながら一部を抜き出すことによりアクリルシラップを連続的に製造する方法が開示されている。
しかしながら上記の完全混合槽による連続法では連続キャスト板向けなど大量少品種生産には適しているとしても、種々の用途に適した製品を作るための少量多品種生産には不向きである。
【0008】
一方メルカプタン類により重合が進行することについて、例えば特公昭46−40693号公報では連鎖移動剤としてメルカプタン類のように活性水素を有する硫黄化合物を用い、重合開始剤を加えずに65〜105℃で部分重合を行いアクリルシラップを製造する方法が開示されている。
しかしながら所望の重合率まで重合するためには大量の連鎖移動剤を必要とし、分子量の高い重合体を含むアクリルシラップを得ることができない。また分子量の高い重合体を含むアクリルシラップを得るためには少量の連鎖移動剤を用いて長時間反応することが必要であり、いずれの場合にも実用的ではない。
【0009】
重合開始剤と連鎖移動剤としてメルカプタン類を用いて重合した後、残存する未反応メルカプタン類を処理する方法として、例えば特公昭53−2189号公報では注型用アクリルシラップを製造するに際し、メルカプタン類に対して0.3〜5当量の無水マレイン酸と0.01〜1当量のアミン化合物、ジアザ化合物もしくはトリアゾール化合物の中の少なくとも一種の塩基性化合物を10〜90℃で加える方法が開示されている。
しかしながらこの方法では冷却中または冷却後に添加物を加えるために工程が煩雑となり、しかも窒素を含む塩基性化合物により、アクリルシラップより製造する製品が着色し実用的ではない。
特開昭55−43111号公報では未反応アクリレートが0.5wt%以上残存する条件下でアクリルシラップ100重量部に対し塩基性有機化合物0.0002〜4.0重量部を加えることによりアクリルシラップ中のメルカプタン類を不活性化処理する方法が開示されている。
しかしながらこの方法においても冷却中または冷却後に添加物を加えるために工程が煩雑となり、塩基性有機化合物により、アクリルシラップより製造する製品が着色し実用的ではない。
特開平9−255714号公報にはメルカプタン類の存在下部分重合して得られたカルボン酸を含むアクリルシラップにビニルエーテルおよび/またはビニルチオエーテルを添加してメルカプタン類を処理する方法が開示されている。
しかしながら、この方法では重合工程終了後に添加物を加えるために工程が煩雑となり、残存するビニルエーテルおよび/またはビニルチオエーテルにより、アクリルシラップから得られる製品の耐候性が劣化し好ましくない。しかもビニルエーテルおよび/またはビニルチオエーテルにメルカプタン類が付加した化合物は熱に弱く、アクリルシラップから人工大理石や注型板などの製品を製造する際またはアクリルシラップから得られた塗料を焼付塗装する際に加熱するとビニルエーテルおよび/またはビニルチオエーテルとメルカプタン類に分解してしまうため、成型条件が極めて制約され好ましくない。
【0010】
上記のように、重合開始剤の存在下、連鎖移動剤としてメルカプタン類を用いて重合した後、何らかの添加物を加えて残存するメルカプタン類を不活性化処理する方法では重合工程終了後に添加物を加えるために工程が煩雑となり、たとえメルカプタン類を不活性化処理できたとしても着色または耐候性が犠牲となりアクリルシラップの物性を低下させるため実用的ではない。
【0011】
本発明者らは鋭意検討の結果、特願平11−119692号に開示したように、半減期の短い開始剤を用い半回分法によりアクリルシラップを安定に製造しうることを発明した。この発明によればメタクリル酸メチルと不飽和カルボン酸(アクリル酸および/またはメタクリル酸から選ばれる)からなる単量体を用い部分重合することによりアクリルシラップを安定に製造することができる。
【0012】
しかしながら、最近は、高剪断下におけるシラップの流動性または最終製品の耐熱水性等物性に対する要求が厳しく、これらの要求を満足させるシラップを得るためには単に共重合するだけではなく、シラップ中重合体の共重合組成や分子量分布を変え、制御する必要がある。
【0013】
例えば、BMC、SMCまたは移送成形用に用いられるコンパウンドのマトリックス樹脂としてアクリルシラップを用いる場合、単量体の沸点により成型温度が制限されるため、成型条件に適した流動性を有していることが求められる。シラップ中重合体の分子量分布を変えることにより、フィラーなどとの配合比が等しく、粘度が等しくかつシラップ中重合体の平均分子量が同じであるアクリルシラップであっても、高剪断下での流動性を制御することができる。
同じ製法で分子量分布を変えるには、分子量の異なるシラップを予め用意しておき混合することにより製造することも可能であるが、複数のタンクを用意しなければならず効率的でない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来法の上記のような問題点を解決し、種々の用途に適しかつ安定した品質のアクリルシラップを効率的にかつ容易に製造する方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究した結果、特定の製造方法によって、種々の用途に適しかつ安定した品質のアクリルシラップを、効率的にかつ容易に製造し得ることを見いだし、本発明を完成した。
【0016】
すなわち本発明は、メタクリル酸メチル90〜100重量%およびアクリル酸もしくはメタクリル酸から選ばれる1種もしくは2種の不飽和カルボン酸10〜0重量%からなる単量体混合物、重合開始剤および連鎖移動剤を用いシラップを製造するに際し、(1)原料の全量に対し10〜30重量%の単量体混合物(A)を昇温し、(2)反応温度に昇温した時点で連鎖移動剤を添加し、(3)原料の全量に対し5〜40重量%の単量体混合物を0.1〜5時間の選ばれた時間添加し、(4)単量体混合物の添加と同時に、反応温度での半減期が10〜300秒である重合開始剤を一定速度で連続的にあるいは分割して加え(この単量体混合物と重合開始剤を合わせて(B)とする)、(5)添加終了後反応温度を保ちながら原料の全量に対し0〜50重量%、かつ反応槽内の原料が原料の全量に対し20〜70重量%となるように単量体混合物からなる(C)を加え、(6)次いで原料の全量に対し80〜30重量%である残りの単量体混合物を0.1〜5時間の範囲から選ばれた時間で添加し、(7)単量体混合物の添加と同時に、反応温度での半減期が10〜300秒である重合開始剤を一定速度で連続的にあるいは分割して加えこの単量体混合物と重合開始剤を合わせて(D)とする)、(8)添加終了後0.01〜5時間さらに加熱を継続し、(9)加熱終了時にヒンダードフェノール系重合禁止剤を加えることを特徴とする、GPCで測定した重量平均分子量が3万〜30万であり、25℃における粘度が1.0×102 〜5.0×105 mPa・sであるアクリルシラップの製造方法に関する。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のアクリルシラップの製造方法について具体的に説明する。
【0018】
本発明では、単槽の反応槽を用い、原料(単量体混合物)を(A)、(B)、(C)および(D)に分け重合反応を行う。単量体からなる(A)を所定の温度まで昇温し、反応温度に達した後連鎖移動剤を加え、次いで単量体と重合開始剤の一部からなる(B)を連続的にあるいは分割して一定速度で加え、必要に応じ単量体からなる(C)を加えた後、残りの単量体と残りの重合開始剤とからなる(D)を連続的にあるいは分割して一定速度で加える半回分法により重合を行い、添加終了後一定時間加熱を継続した後、特定の重合禁止剤を加えることにより、アクリルシラップの製造を安定に行う。
本発明の方法によれば、添加時の組成を調整することにより、シラップ中重合体は2つのピーク分子量を有し得るので分子量分布を自由に設定することができる。また、同一の共重合組成となるようにアクリルシラップを製造することもできるし、異なる共重合組成および/または分子量を有する重合体を含むアクリルシラップを製造することもできる。即ち、制御された分子量分布及び共重合組成分布を有するアクリルシラップを容易にかつ安定に製造することが可能である。
【0019】
本発明では単量体成分としてメタクリル酸メチルを必須とし、アクリル酸および/またはメタクリル酸を任意に加えて用いることができる。
【0020】
本発明において、不飽和カルボン酸を用いる場合には(A)から(D)までの間のいずれで加えてもよい。少なくともその一部を(A)から(C)までの単量体成分として加えることが好ましく、全量を(A)および/または(C)の単量体成分として加えることがより好ましい。(A)中の不飽和カルボン酸濃度を高めることにより、不飽和カルボン酸を効率的に共重合させることができる。また逆に(C)で不飽和カルボン酸の全量を加えることにより、メタクリル酸メチルの単独重合体と側鎖にカルボン酸を有する重合体の双方を含むアクリルシラップとを製造することができる。更に、(A)および/または(C)に加える不飽和カルボン酸の比率を調整することで重合体中のカルボン酸単位比率を制御することができる。
【0021】
アクリル酸および/またはメタクリル酸の濃度は単量体の総量100重量%に対し10重量%以下である。本発明の方法ではメタクリル酸メチル単独の単量体からなるアクリルシラップおよび不飽和カルボン酸(アクリル酸および/またはメタクリル酸)を含むアクリルシラップのいずれも製造することができる。
メタクリル酸メチル単独の単量体から得られるアクリルシラップの場合、注型板、光伝送繊維または光導波路などのように、ポリ(メタクリル酸メチル)が有する優れた光学特性を活かせる用途に用いることができる。
【0022】
不飽和カルボン酸を有するアクリルシラップの場合、BMCまたはSMCなどの人造大理石用コンパウンド、接着剤など、カルボキシル基による反応を必要とする用途に用いることができる。この場合において、我々の知見によれば、ポリマー中に側鎖として存在するカルボン酸の作用により、同じ分子量、同じポリマー濃度で比較した場合、得られたシラップの粘度は重合体中不飽和カルボン酸単位のモル分率に対してほぼ指数関数的に増大する。このため不飽和カルボン酸の濃度が10重量%を超えると同じ粘度にするためには重合体含有率を低く設定しなければならず、最終製品を製造する際の低収縮率化という、シラップを作る本来の効果が期待できず実用的でない。
【0023】
本発明において(B)および(D)を添加する際に使用される重合開始剤は、連続的にあるいは分割して加えられる。重合開始剤を滴下する単量体に溶解した状態で添加することも可能である。滴下終了後の重合を最小限に抑えるために、重合開始剤は反応温度での半減期が10〜300秒、好ましくは15〜120秒を満足する重合開始剤が選択される。半減期が10秒未満では添加した原料および/または加えた重合開始剤が完全に混合される前に開始剤の大部分が分解するため大量の重合開始剤を用いる必要があり、さらに重合開始剤を大量に用いることで重合開始剤または重合開始剤中に含まれる不純物による着色がおこるため好ましくない。半減期が300秒よりも大きいと添加終了時に存在する重合開始剤が分解消失するまでの時間が長く、回分重合により重合反応が進行する。このため添加終了後の温度変化の影響により製品の重合率、粘度が変化し、安定した品質の製品が得られがたくなるので好ましくない。重合開始剤の半減期は例えば日本油脂(株)「有機過酸化物」資料第13版、アトケム吉富(株)技術資料および和光純薬工業(株)「Azo Polymerization Initiators」等に記載の諸定数等により容易に求めることができ、100℃付近の重合に対しては例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートおよび/またはビス( 4−t−ブチルシクロヘキシル) パーオキシジカーボネートなどの重合開始剤が用いられる。
【0024】
(B)の添加中及び(D)の添加中に用いられる重合開始剤はそれぞれ独立して、単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができ、重合反応槽で所望の重合率を得るために必要な量が添加される。また重合開始剤を単独で添加する方法、単量体原料と混合して添加する方法のいずれも用いることができる。本発明によるアクリルシラップの粘度は重合率、重合体の分子量および重合体中のメタクリル酸メチルと共重合可能な不飽和単量体単位の分率により影響を受けるが、必要な粘度範囲を満足するためには、原料全体に対する重合開始剤の使用量としてそれぞれ独立に5.0×10-5〜2.0wt%が好ましく、それぞれ独立に5.0×10-4〜1.0wt%がさらに好ましい。添加前の重合率、添加中の重合率は必要な物性に応じて設定することができ、通常は全重合率中の、添加前の重合率と添加中の重合率との比を10〜80:90〜20、好ましくは20〜60:80〜40の範囲で設定する。
【0025】
連鎖移動剤としては重合反応を阻害せず所望の分子量の製品が得られるものであれば何でもよい。通常はメルカプタン類が用いられる。
本発明では連鎖移動剤は(A)を昇温した後の定められた時期、好ましくは(A)を昇温した0〜60分後までの定められた時期、さらに好ましくは昇温した0〜15分後までの定められた時期に使用量の全量が反応槽に添加される。60分以上とすることも可能であるが、工程時間をいたずらに長くするだけであり実用的でない。
連鎖移動剤としてメルカプタン類を用いた場合には僅かずつ重合が進行することが知られている。最初に仕込む原料中にメルカプタン類を加えた状態で昇温すると、昇温パターンの変動により添加開始前のポリマー濃度が変動し、従って製品の重合率が変動するため安定した製造が行えない。また、(B)で重合開始剤と同時に連鎖移動剤を調合すると、重合開始剤と連鎖移動剤とのレドックス反応による原料槽内での重合が起こる虞があり好ましくない。
(D)の添加前に連鎖移動剤を追加することも可能である。この際、追加の連鎖移動剤は(B)または(C)を添加し終わった後の定められた時期に使用量の全量が反応槽に添加される。
連鎖移動剤の全量を(B)の添加前に添加することにより分子量分布の広い重合体を有するアクリルシラップを製造することができる。また(D)の添加前に連鎖移動剤を添加することにより、分子量分布の制御されたアクリルシラップ、例えばGPCで測定した多分散度(重量平均分子量を数平均分子量で除した値)が2.5より大きいアクリルシラップを製造することができる。
連鎖移動剤の添加後、通常0〜60分以内に(D)の添加が開始される。
【0026】
メタクリル酸メチルの重合においてはゲル効果と呼ばれる重合加速効果が存在することがよく知られており、この現象により特に回分重合では反応の制御が困難である。本発明では回分重合と比較して次の三点の特長を有する。第一に重合開始剤は一度にではなく分けて供給され、しかも反応温度における半減期が10〜300秒と短いために、添加期間中を通じて系内のラジカル濃度を極めて低く保つことができる。これにより、たとえ何らかの原因により重合の異常加速現象が起きたとしても、原料の添加を中止することによりその後の重合反応の進行を抑制でき、重合を安全に行うことができる。第二に単量体を含む原料を一度にではなく分け添加することで重合熱の少なくとも一部を顕熱により除去することができる。第三に反応温度における半減期が10〜300秒と短いために、添加終了後には既に極めて低濃度である重合開始剤が速やかに分解消失する。以上三点の特長により反応の制御が容易であるから重合反応の暴走を抑制することができ、安全にかつ安定した条件でアクリルシラップの製造を行うことができる。
【0027】
本発明において重合温度は単量体混合物の組成にもよるが通常は大気圧、(系内組成物の沸点−10℃)〜(系内組成物の沸点)で設定し、さらに好ましくは系内組成物の沸点で重合を行う。重合熱は顕熱および蒸発潜熱で除去することができる。加圧下、常圧での沸点より高い温度で重合することにより顕熱差を大きく設定することも可能であるが、180℃以上の温度ではオリゴマーの生成量が多くなり好ましくない。一方メタクリル酸メチルの沸点は100℃であり、80℃未満では顕熱差や蒸発潜熱を大きく設定することができず、しかも反応中の系内の粘度が高くなり比較的低い重合率であってもゲル効果の影響が大きくなるため好ましくない。
【0028】
本発明において原料は大きく分けて、(A)、(B)、(C)および(D)とに分けられる。この(A)〜(D)の重量比は(A):(B):(C):(D)=10〜30:5〜40:0〜55:80〜30かつ(A+B+C):(D)=20〜70: 80〜30の範囲であり、好ましくは(A):(B):(C):(D)=10〜30:10〜40:10〜50:70〜30かつ(A+B+C):(D)=30〜70: 70〜30の範囲であり、さらに好ましくは(A):(B):(C):(D)=10〜30:10〜30:10〜50:67〜33かつ(A+B+C):(D)=33〜67: 67〜33の範囲である。
(D)の添加量が全体の30wt%未満では、重合熱を添加原料の顕熱により除去する効果が乏しく、単量体濃度の高い添加開始直後に発熱が最大となる。逆に(D)の添加量が全体の80wt%を超えると、添加開始直後の発熱を抑えることができるが、添加終了直前には系内の単量体量が増加し添加終了時に発熱が最大となる。いずれの場合も系内の発熱量が添加中に大きく変化し好ましくない。できるだけ添加期間中を通じて発熱量を平均化するためには(A+B+C):(D)=20〜70: 80〜30の範囲とすることが望ましい。同様に(A):(B)の重量比は20〜70: 80〜30の範囲とすることが望ましい。
【0029】
本発明では(C)を添加することにより(B)を加えた時に生成するポリマーの分子量もしくは共重合組成と(D)を加えたときに生成するポリマーの分子量もしくは共重合組成を変えることができる。しかし(C)の割合が55%を超えると、(B)を添加し終わったときの重合率を高く設定する必要があり、粘度が高くなり、しかも重合槽内の伝熱が著しく悪化する。このため(C)は全体に対し0〜55重量%、好ましくは10〜50重量%の割合で添加される。
【0030】
(B)および(D)の供給速度は添加中を通じ一定となるように制御される。また添加時間は0.1〜5時間であり、好ましくは0.3〜4時間、より好ましくは0.5〜3時間である。添加時間が0.1時間未満では発熱量が多く、しかも反応槽内液量の増加速度が大きいため大容量の熱交換器、大流量の定量ポンプなどを必要とし好ましくない。また5時間を超えると仕込から製品取出までの工程時間が長くなり生産性の点から好ましくない。
【0031】
添加終了後、0.01〜5時間、好ましくは0.01〜1時間さらに加熱を継続する。この反応時間は重合開始剤が99%以上分解する時間とするのが望ましい。重合開始剤が残存していると冷却時の影響により最終製品の重合率および粘度が変動しアクリルシラップを安定に製造することが困難となるばかりでなく、得られたアクリルシラップの貯蔵安定性が低下し好ましくない。5時間を超えて加熱を継続することも可能であるが、仕込から製品取出までの工程時間が長くなり生産性の点から好ましくない。最終的な重合率は設定分子量および共重合組成にもよるが、10〜60重量%である。
【0032】
本発明においては一定時間加熱を継続した後重合禁止剤を加えてから冷却し、製品を取り出す。加熱終了時に重合禁止剤を加えることにより、冷却操作中にメルカプタン類による重合が進行することを抑制し、さらに安全に安定した条件でアクリルシラップを製造することができる。また加熱終了時に重合禁止剤を加えることにより連鎖移動剤にメルカプタン類を用いる場合であってもアクリルシラップの貯蔵安定性は良好となり、アクリルシラップ中に残存するメルカプタン類の不活性化処理を行う必要はない。
【0033】
得られたシラップの着色をさけるため、重合禁止剤としてはヒンダードフェノール系重合禁止剤を用いることが好ましい。ヒンダードフェノール系重合禁止剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、6−t−ブチル−2,4−ジメチルフェノール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)および/または2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。これらのヒンダードフェノール系重合禁止剤は単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。また上記ヒンダードフェノール系重合禁止剤の存在下、例えばリン系重合禁止剤のような、ヒンダードフェノール系重合禁止剤と併用することでさらに着色を抑制することが公知である重合禁止剤を併用することも可能である。
【0034】
以上のようにして得られたアクリルシラップはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した重量平均分子量が3万〜30万であり、25℃における粘度が1.0×102 〜5.0×105 mPa・s、好ましくは1.0×102 〜1.0×105 mPa・sであることを特徴とする。またGPCで測定した多分散度が2.5より大きい好適なアクリルシラップが得られることを特徴とする。
【0035】
得られたアクリルシラップは注型板、光伝送繊維や光導波路などの光学材料、アクリル人造大理石、人工印材、床材、接着剤、粘着剤、文化財・剥製等修復材料または医用材料などの中間原料として用いることができる。必要に応じ充填材、繊維補強材、低収縮剤、滑剤、可塑剤、増粘剤、有機溶剤等の希釈剤、架橋剤、レベリング剤、脱泡剤、沈降防止剤、離型剤、酸化防止剤、UV吸収剤、顔料および/または染料等の公知の添加剤と本発明のアクリルシラップを混合し用いることもできる。
【0036】
【実施例】
本発明をさらに具体的に例示するが、これらに限定されるものではない。
重合率は重量法により、試料を大量の冷ヘキサン中に投入し生じた沈澱物を精製・減圧乾燥し求めた。重合体の分子量は東ソー(株)製8010型ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。粘度はB型粘度計を用い25℃で測定した。
実施例1
撹拌機、冷却管、定量ポンプを備えた5Lセパラブルフラスコにメタクリル酸メチル420g、メタクリル酸39gを仕込み、昇温した。温度が100℃になったところで1−ドデカンチオール11.0gを加え、ついで2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.05g(100℃における半減期=96秒)を溶解したメタクリル酸メチル460gを30分かけ、定量ポンプを用いて等速で添加した。30分後の重合率は11%であった。ついで100℃に保ちながらメタクリル酸メチル940gを添加した後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.15gを溶解したメタクリル酸メチル1890gを3時間かけ、定量ポンプを用いて等速で添加した。添加終了後0.3時間加熱を継続後、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.60gを加えて室温まで冷却し、無色透明なアクリルシラップを得た。得られたシラップの重合率は35.1%であった。またGPCにより測定した重量平均分子量は10.1万、数平均分子量は3.7万、重量平均分子量と数平均分子量との比は2.7であった。25℃における粘度は7000mPa・sであった。また得られたシラップを40℃の暗所にて1ヶ月間保存した後25℃における粘度を測定したところ7100mPa・sであり色調の変化は認められなかった。
【0037】
参考例1
実施例1で得られたアクリルシラップ1kgに対し水酸化アルミニウム(平均粒径20μm)1.8kg、ガラスフリット0.2kg、酸化マグネシウム7g、トリメチロールプロパントリメタクリレート50g、t−ブチルパーオキシ( 2−エチルヘキサノエート) 10g、ステアリン酸亜鉛10g、チヌビンP(2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、日本チバガイギー社製)5gを加え、最初の1時間は30℃、ついで40℃で混練した。混練直後より増粘し始め、3時間後にはべとつきがなくなった。
このコンパウンドを40℃、24時間熟成し、上面115℃、下面130℃、成形圧力3.0MPaで3分、続いて10.0MPaで3分かけて成型し、表面平滑性の良好な人造大理石板を得た。
【0038】
実施例2〜5
表1に示す条件で、実施例1と同様に反応を行った。いずれの実施例においても無色透明なアクリルシラップが得られた。
【0039】
参考例2
実施例5で得られたアクリルシラップ1kg、過酸化ラウロイル2gを混合し脱気した後、300×300×10mmの2枚の強化ガラスの間にポリ塩化ビニル製ガスケットをセットしたガラスセル内に該シラップを注入した。55℃で2時間、60℃で2時間、65℃で2時間、135℃で0.25時間重合した後70℃で冷却し、メタクリル樹脂板を取り出した。無色透明で外観の良好なメタクリル樹脂板が得られた。
【0040】
比較例1
開始剤としてt−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)(100℃での半減期=1550秒)を用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。得られたシラップの重合率は35.0%、シラップの酸価は2.5mgKOH/gであった。またこのシラップを冷ヘキサン中に加え、沈澱した重合体を精製・減圧乾燥しさらに塩化メチレン10%溶液として酸価を測定したところ、3.5mgKOH/gであった。塩化メチレンの酸価は0.001mgKOH/g以下であった。またGPCにより測定した重量平均分子量は9.6万、25℃における粘度は8500mPa・sであった。このシラップを40℃の暗所にて1ヶ月間保存したところ、全体にわたり固化していた。
【0041】
比較例2
重合禁止剤を用いなかった以外は実施例1と同様に反応を行った。得られたシラップの重合率は35.1%であった。得られたシラップの酸価は2.5mgKOH/gであった。またこのシラップを冷ヘキサン中に加え、沈澱した重合体を精製・減圧乾燥しさらに塩化メチレン10%溶液として酸価を測定したところ、3.5mgKOH/gであった。塩化メチレンの酸価は0.001mgKOH/g以下であった。またGPCにより測定した重量平均分子量は5.1万、25℃における粘度は2100mPa・sであった。このシラップを40℃の暗所にて1ヶ月間保存したところ、上部約1/4を残し残部は固化していた。
【0042】
比較例3
メタクリル酸メチル3710g、メタクリル酸39gを一度に仕込み攪拌しながら昇温した。80℃に達したところで1−ドデカンチオール11.0gおよび2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.90g(80℃での半減期=5230秒)を加え、重合を開始した。重合開始後3時間で2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.60gを添加し冷却した。重合率は35.5%であり、得られたシラップの酸価は2.5mgKOH/gであった。またこのシラップを冷ヘキサン中に加え、沈澱した重合体を精製・減圧乾燥しさらに塩化メチレン10%溶液として酸価を測定したところ、2.9mgKOH/gであった。塩化メチレンの酸価は0.001mgKOH/g以下であった。またGPCにより測定した重量平均分子量は10.1万、25℃における粘度は17900mPa・sであった。このシラップを40℃の暗所にて1ヶ月間保存したところ、全体にわたり固化していた。
【0043】
【発明の効果】
本発明により所望の特性を有するアクリルシラップを安定に製造することができ、工業的意義は大きい。
【0044】
【表1】
Claims (3)
- メタクリル酸メチル90〜100重量%およびアクリル酸もしくはメタクリル酸から選ばれる1種もしくは2種の不飽和カルボン酸10〜0重量%からなる単量体混合物、重合開始剤および連鎖移動剤を用いシラップを製造するに際し、(1)原料の全量に対し10〜30重量%の単量体混合物(A)を昇温し、(2)反応温度に昇温した時点で連鎖移動剤を添加し、(3)原料の全量に対し5〜40重量%の単量体混合物を0.1〜5時間の選ばれた時間添加し、(4)単量体混合物の添加と同時に、反応温度での半減期が10〜300秒である重合開始剤を一定速度で連続的にあるいは分割して加え(この単量体混合物と重合開始剤を合わせて(B)とする)、(5)添加終了後反応温度を保ちながら原料の全量に対し0〜50重量%、かつ反応槽内の原料が原料の全量に対し20〜70重量%となるように単量体混合物からなる(C)を加え、(6)次いで原料の全量に対し80〜30重量%である残りの単量体混合物を0.1〜5時間の範囲から選ばれた時間で添加し、(7)単量体混合物の添加と同時に、反応温度での半減期が10〜300秒である重合開始剤を一定速度で連続的にあるいは分割して加えこの単量体混合物と重合開始剤を合わせて(D)とする)、(8)添加終了後0.01〜5時間さらに加熱を継続し、(9)加熱終了時にヒンダードフェノール系重合禁止剤を加えることを特徴とする、GPCで測定した重量平均分子量が3万〜30万であり、25℃における粘度が1.0×102 〜5.0×105 mPa・sであるアクリルシラップの製造方法。
- 反応温度が系内組成物の沸点である請求項1に記載の製造方法。
- アクリルシラップのGPCで測定した多分散度(重量平均分子量を数平均分子量で除した値)が2.5より大きい、請求項1に記載の製造方法。
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