JP4293847B2 - 液滴吐出ヘッド、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置並びに液滴吐出装置及び画像形成装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体を吐出して種々のパターンを形成する液滴吐出ヘッド、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置並びに液滴吐出装置及び画像形成装置に関し、さらに詳しくは、高密度化、小型化、低電圧化を図りつつ、振動板が個別電極に当接するように駆動しても、電極間リーク、絶縁保護膜の絶縁破壊、残留電荷等が生じない液滴吐出ヘッド、該液滴吐出ヘッドを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録装置並びに液滴吐出装置及び画像形成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にプリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ等の画像記録装置として用いるインクジェット記録装置において使用するインクジェットヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルに連通する液室(吐出室、圧力室、加圧液室、インク流路とも称される)と、この液室内のインクを加圧するためのエネルギーを発生するエネルギー発生手段とを備え、エネルギー発生手段が発生するエネルギーによって液室内のインクに圧力を作用させ、ノズルからインク滴を吐出させるものである。
【0003】
これらのインクジェットヘッドにおいて、液室内のインクに圧力を作用させる方式として、電気機械変換素子を用いる方式、電気熱変換素子を用いる方式、あるいは電極間に作用する静電力を用いる方式等が実用化されている。その中で静電方式により形成されたインクジェットヘッドは、小型化、高速化、高密度化、省電力化に優位性を有することから、現在開発が盛んに行われている。
【0004】
静電方式によるインクジェットヘッドは、例えば特許文献1(特開平6−71882号公報)に記載されているように、個別電極を形成した電極基板と、液室及び振動板を形成した流路基板と、ノズルを形成したノズル基板とを接合した積層構造で構成されるものが提案されている。このように構成したインクジェットヘッドにおいては、ノズルに連通した液室の一面に振動板を形成し、また振動板に対向させて個別電極を配し、振動板と個別電極間に駆動パルス電圧を印加することで、個別電極と振動板の間に発生する静電力によって振動板を個別電極側に変形変位及び当接させる。この状態から個別電極と振動板間の電荷を放電することによって振動板が復帰変形して、液室の内容積を変化させ、液室内のインクに圧力を作用させ、ノズルからインク滴が吐出される。
【0005】
このような静電型インクジェットヘッドにおいては、簡易なプロセスで高密度に液室を形成する方法として、マイクロマシニングの分野において技術が確立されている単結晶シリコンの異方性ウェットエッチング技術が広く用いられる。例えば、結晶面方位(110)のシリコン基板をKOH水溶液等の強アルカリ性エッチング液で異方性エッチングすることによって、所望の深さに溝を形成し、この溝の深さによって所望の特性を得た液室及び振動板が形成される。このように単結晶シリコンの異方性ウェットエッチング技術を用いることにより、高精度かつ高密度な微細加工が実現できることが大きな特徴でもある。しかし、インクジェットヘッドの更なる小型化、高密度化を図るに伴い、シリコン基板をエッチングすることにより液室及び振動板を形成する方法においては、隣接液室間の隔壁が薄くなってしまい、その結果、隔壁剛性が低下し、隣接液室間の圧力干渉(クロストーク)が発生し、適切なインク滴の吐出動作が阻害されるといった問題が生じている。
【0006】
このような問題に対して、特許文献2(特開2001−18383公報)に記載されているように、個別電極を形成する基板に犠牲層エッチングによって、振動板及び空隙部を形成する方法が提案されている。これによると、液室を構成する流路基板に空隙及び振動板が形成できることから、振動板の厚みを考慮することなく隔壁が形成可能となり、その結果、所望の隔壁剛性を得ることが可能となる。
【0007】
また、このような静電式インクジェットヘッドにおいては、吐出されるインク滴量は振動板の変位量に大きく依存する。そのため、振動板を個別電極上に当接させることにより変位量を一定とする当接駆動が一般的に用いられるが、個別電極と振動板が当接することにより発生する電極間のリーク、絶縁耐圧、あるいは残留電荷対策等、電気特性面の信頼性問題について十分な配慮をしなければならない。
【0008】
これらの問題に対して、特許文献3(特開2001−322273公報)に記載されるように、振動板の個別電極との当接部分に凸構造を設けることにより、当接箇所での絶縁破壊、及び残留電荷が生じることを回避する構成が提案されている。
図15は、特許文献3で提案されているインクジェットヘッドの単一ビットを示す短辺方向の断面図である。
このインクジェットヘッドにおいては、振動板12を共通電極とし、個別電極11との間に駆動パルス電圧を印加することにより、振動板12と個別電極11間に静電力を発生させ、この静電力により振動板12を個別電極11側に変形変位させる。その後、駆動パルス電圧を放電することにより、振動板12が復帰変形して、液室31の内容積の変化及び圧力の作用によりノズル41からインク滴を吐出する。
【0009】
ここで、振動板12は、液室31側には振動板保護膜19、接液膜21を有し、ギャップ17側には絶縁保護膜13を有している。また、電極基板10上に熱酸化膜22を介して設けられている個別電極11には絶縁保護膜16を有する。振動板12を覆っている絶縁保護膜13の個別電極11側表面には、凸部23が形成されていることにより、振動板12の絶縁保護膜13が個別電極11の絶縁保護膜16に当接するまで変位した際の残留電荷の発生を低減できて、安定した振動板変位が得られるものである。しかし、振動板に形成された凸部23は、凸部23及びその他の領域においても絶縁保護膜13が同一の厚さで形成されており、電極間リーク、絶縁保護膜の絶縁破壊、残留電荷といった電気特性の十分な改善には至っていない。
【0010】
また、静電式インクジェットにおいては、振動板の板厚をt、振動板の固定端の短辺長をa、静電実効ギャップをh、印加電圧をVとしたとき、振動板の変位δは、式(1)によって近似的に示される。
δ=A(a4×v2)/(h2×t3) Aは定数 … 式(1)
すなわち、振動板の変位δは、短辺長aの4乗、印加電圧の2乗に比例し、実効ギャップhの2乗、振動板の板厚tの3乗に反比例する。このため、振動板の板厚は変位量を得る面からは薄い方向、しかし剛性及び絶縁性を得る面からは厚く形成することが望まれる。
このように、静電式インクジェットヘッドを形成するには、高密度化に伴う液室の隔壁剛性の確保、あるいは当接駆動に伴う電気特性面の信頼性確保が問題であり、特に振動板の絶縁保護膜については、変位量と絶縁性がトレードオフの関係にあり、薄い膜厚で大きな変位量を得ることがインク滴量の安定化、駆動信頼性を確保する面から問題となっている。
【0011】
【特許文献1】
特開平6−71882号公報
【特許文献2】
特開2001−18383号公報
【特許文献3】
特開2001−322273号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記した従来のインクジェットヘッドにおいては、前記したように振動板と個別電極の当接に伴う電極間リーク、絶縁耐圧不良、残留電荷等の電気特性に関わる信頼性問題が解決されておらず、安定した振動変位、駆動信頼性に優れたインクジェットヘッドの実現が達成できていない。
【0013】
本発明は、前記した問題点に鑑みてなされたものであり、高密度化、小型化、低電圧化を図りつつ、当接駆動による電気特性及び駆動信頼性の向上を達成できるインクジェットヘッド、インクカートリッジ及びにインクジェット記録装置並びに液滴吐出装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明に係るインクジェットヘッドは、犠牲層エッチングにより空隙及び振動板を形成することにより、隣接液室間の隔壁剛性を確保するとともに、個別電極に対向した振動板面の絶縁保護膜に凸構造を形成し、かつ凸部分の絶縁保護膜の厚さが、凸がない部分より厚く形成することを特徴とし、それによって、当接駆動による電極間リークまたは絶縁耐圧不良、あるいは駆動信頼性を飛躍的に向上させるものである。
【0015】
本発明の請求項1に係る発明は、液滴を吐出するノズルを有するノズル基板と、前記ノズルに連通した連通孔及び加圧室を有する液室基板と、前記加圧室の一部の壁面を形成する振動板と、犠牲層エッチングによって形成された空隙及び絶縁膜を介し前記振動板に対向配置された個別電極を有する電極基板とを備え、前記振動板と個別電極間に働く静電力により前記振動板を変位させ前記ノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜は、前記電極基板の前記個別電極の前記振動板側の面と、前記振動板の前記個別電極に対向する面の全体とを覆うように形成され、前記振動板に形成された絶縁膜には、当該絶縁膜の他の部分より厚い凸部が形成されており、該凸部は、前記犠牲層に当該凸部に対応した形状を有する段差部を形成しておき、該段差部を当該絶縁膜の絶縁材料で埋め込むことにより形成されることを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜に形成された凸部は、前記振動板の長辺方向及び短辺方向に、1列または複数列形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜に形成された凸部の絶縁膜は、積層構造で形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3記載の液滴吐出ヘッドとインクタンクを備えたインクカートリッジであることを特徴とする。
【0020】
請求項5、6あるいは7に係る発明は、請求項1〜3記載の液滴吐出ヘッドを用いて形成されていることを特徴とする。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図1〜14を参照して説明する。
(第1実施例)
図1は、本発明の第1実施例に係るインクジェットヘッドを示す平面図、図2は、図1のA−A線に沿う断面図、図3は図1のB−B線に沿う断面図である。また、図4は、図1のインクジェットヘッドの単一ビット要部を示す平面図である。
第1実施例のインクジェットヘッドは、電極基板10、液室基板30、ノズル基板40を積層して形成されている。
電極基板10はガラス、シリコン等からなり、熱酸化膜22上に個別電極11が形成されている。個別電極11に対向して、犠牲層エッチングにより形成されたギャップ17を介して振動板12が形成されている。個別電極11及び振動板12を形成する材料として、ここではポリシリコン膜が用いられている。電極材料としては高温耐性を有し、加工性に優れ、且つ成膜表面の凹凸が少ない材料が好ましく、ポリシリコン以外ではTiN等の高融点金属材料も使用できる。また、個別電極11及び振動板12には、絶縁保護膜16、13が形成されており、当接時の短絡、放電による損傷を防止すると同時にギャップ17のスペーサを兼ねるように構成されている。
【0022】
振動板12の絶縁保護膜13には、個別電極11との当接部分に凸部23が形成されている。また、凸部23における絶縁保護膜13の厚さは、凸部が形成されていない部分より厚く形成されている。凸部23は振動板12の単辺方向の略中心付近に一列に配される構成であり、ビット長辺方向に約15μmのピッチで形成されている。また、凸部23の平面寸法は約5μm×約3μmに形成されている。振動板12の液室31に面する側には所望の振動板剛性を得るために、振動板保護膜19が形成されている。また、振動板保護膜19上には、犠牲層除去孔20を封止すると同時に、インク耐性を有する接液膜21が形成されている。ここでは、接液膜21はポリイミド樹脂により形成されている。
【0023】
液室基板30はシリコンからなり、液室31、インク供給孔32及びノズル連通孔33が形成されている。ここで、液室基板30は、結晶面方位(110)のシリコン基板をKOH水溶液等の強アルカリ性エッチング液で異方性エッチングすることにより所望の液室パターンを形成したものである。
また、電極基板10と液室基板30とは接着剤によって接合することで一体化されている。
【0024】
ノズル基板40は、Niやステンレス(SUS)等の金属板、あるいはセラミックス、ガラス、あるいは樹脂等から構成されており、ノズル41はドライまたはウェットエッチングやレーザ加工等周知の方法で作製することができる。このノズル基板40の吐出方向面には、インクとの撥水性を確保するために、メッキ被膜、あるいは撥水剤コーティング等の周知の方法で撥水膜を形成している。
【0025】
このように構成したインクジェットヘッドにおいては、振動板12を共通電極とし、個別電極11との間に駆動パルス電圧を印加することにより、振動板12と個別電極11間に静電力を発生させ、この静電力により振動板12を個別電極11側に変形変位させる。その後、駆動パルス電圧を放電することにより、振動板12が復帰変形して、液室31の内容積の変化及び圧力の作用によりノズル41からインク滴が吐出される。
【0026】
ここで、振動板12と個別電極11が当接する部分では、連続駆動に伴う電界集中により、絶縁保護膜13,16の劣化あるいは絶縁保護膜13,16が破壊に至る現象が見られる。そこで、前述のように絶縁保護膜13,16の当接部分に凸部23を設けることで、絶縁耐圧の向上を図り、絶縁保護膜13,16の破壊が防止できる。また、本発明においては、凸部23の絶縁保護膜13が凸部23がない部分の絶縁保護膜13より厚く形成していることにより、更に絶縁耐圧が増すとともに、振動板12の変位をもたらす駆動パルス電圧を高くすることなく構成できるため、インクジェットヘッドの駆動性能を損なうことがない。
【0027】
次に、第1実施例のインクジェットヘッドの製造方法についてを説明する。
図5は、第1実施例のインクジェットヘッドの製造工程前半を経時的に示す断面図で、図6は、同じく製造工程後半を経時的に示す断面図で、ともに図1のA−A線に沿った断面図に相当する。
まず、電極基板10の製造工程に関して、結晶面方位(100)のシリコン基板を用い、電極基板10に対し熱酸化膜22を約1.5μm、LPCVDによりポリシリコン膜を約0.4μm堆積形成する(図5(A))。
次に、ポリシリコン膜を写真製版及びドライエッチングし、個別電極11のパターンを形成する(図5(B))。
次に、個別電極11の絶縁保護膜16となる酸化膜を約0.2μm形成し、続いて犠牲層18となるポリシリコン膜を約0.4μm形成する(図5(C))。
【0028】
次に、犠牲層18を写真製版及びドライエッチングし、ギャップ17を形成する領域のパターンを形成する(図5(D))。
次に、ギャップ17領域を形成する犠牲層18に対して、凸部23となるパターンを写真製版及びドライエッチングにより形成する。ここで、凸部23の高さに相当する段差として、犠牲層18を約0.5μm深さエッチングする(図5(E))。
次に、振動板12の絶縁保護膜13となる酸化膜を約0.2μm形成する(図5(F))。ここで形成される酸化膜の成膜特性としては、フロー性を有する酸化膜であって、形成された凸部23及び犠牲層18の分離溝を絶縁保護膜13で埋め込む形に形成する。
【0029】
次に、LPCVDによりポリシリコン膜を堆積し(図6(G))、振動板12を構成するパターンを写真製版及びドライエッチングにより形成する(図6(H))。ここで、振動板12を形成するポリシリコン膜の電気抵抗を低くするために、ポリシリコン膜に対してリン等の不純物を注入等により導入拡散する。
次に、振動板12を構成するポリシリコン膜の絶縁保護あるいは所望の振動板剛性を得るために振動板保護膜19をCVDにより形成する(図6(I))。
【0030】
次に、ギャップ17領域に、犠牲層除去孔20のパターンを写真製版及びドライエッチングにより形成する。ここでは、まずギャップ17を形成する犠牲層18に連通する振動板保護膜19と絶縁保護膜13がエッチングにより除去される(図6(J))。
次いで、ギャップ17を形成する領域の犠牲層18であるポリシリコン膜を犠牲層除去孔20を介してエッチングにより除去し、ギャップ17を形成する(図6(K))。これによって犠牲層18に形成されていた凸部分に埋め込まれた絶縁保護膜13の凸部23が形成される。
次に、犠牲層除去孔20の封止及び耐インク接液性を確保するための接液膜21としてポリイミド樹脂を塗布し、振動板12の最上層を形成するとともに、犠牲層除去孔20の封止を行う(図6(L))。
【0031】
以上のようにして、個別電極11とギャップ17及びギャップ17を介した振動板12を構成した電極基板10が形成される。また、同時に振動板12の絶縁保護膜13には、個別電極11の当接部分に凸部23が形成され、かつ凸部23部分のみ絶縁保護膜13が厚く形成されるものである。
【0032】
その後、図示しないが、結晶面方位(110)のシリコン基板を用いて、KOH水溶液等の強アルカリ性エッチング液で異方性エッチングして所望の微細な液室パターンを形成した液室基板30を電極基板10に接着により接合し一体化する。その後、Niやステンレス(SUS)等の金属板、セラミックス、ガラス、あるいは樹脂等から形成されたノズル基板40を接合し、静電式インクジェットヘッドが形成される。なお、ノズル41はドライまたはウェットエッチングやレーザ加工等周知の方法で作製することができる。このノズル基板40の吐出方向面には、インクとの撥水性を確保するために、メッキ被膜、あるいは撥水剤コーティング等の周知の方法で撥水膜を形成している。
【0033】
(第2実施例)
本発明の第2実施例のインクジェットヘッドについて説明する。
図7は、本発明の第2実施例に係るインクジェットヘッドの短辺方向の断面図で、図1のA−A線に沿う断面図に相当する。
図8は、図7のインクジェットヘッドの単一ビット要部を示す平面図である。第2実施例のインクジェットヘッドでは、振動板12に設けられた凸部23は、単一ビットの短辺方向に略中心より約5μmのピッチで3列配されている。長辺方向は、第1実施例のインクジェットヘッドと同様約15μmのピッチで形成されており、また凸部23の平面寸法は約3μm×3μmに形成されている。
【0034】
前記したように、静電式インクジェットにおいて、より大滴のインク滴を吐出させる場合には、振動板12の変位量をより大きいものとする必要があり、このような場合には、個別電極11に当接後も尚振動板12の変位をもたらすため、より大きな駆動パルス電圧を印加し振動板12を変位させる。このような場合、振動板12に形成する凸部23を複数列に形成し、凸部23が個別電極11と当接するよう構成することが望ましい。
【0035】
第2実施例の静電式インクジェットヘッドにおいては、凸部23を3列に配置した例について説明したが、形成される凸部23の数量及び配置は構成された振動板剛性あるいは、駆動パルス電圧、あるいはビット寸法において異なり、構成において適宜列を配することが肝要である。
製造工程は、第1実施例のインクジェットヘッドの製造方法に準ずることから説明は省略する。
【0036】
(第3実施例)
本発明の第3実施例のインクジェットヘッドについて説明する。
図9は、第3実施例のインクジェットヘッド中間製品の短辺方向を示す断面図である。
第3実施例のインクジェットヘッドにおいては、第1実施例のインクジェットヘッドの犠牲層18のギャップ17領域に設けられた凸部23に絶縁保護膜13を埋め込む工程で、絶縁保護膜13を形成した後に、フロー性を有する無機性あるいは有機性溶剤13′(例えば、OCD液:SiO2系被膜形成用塗布液 東京応化工業製)を塗布し、凹部を埋め込み、凸部23を積層構造により形成するものである。
【0037】
第1実施例のインクジェットヘッドに示されたフロー性を有する酸化膜の形成方法においては、酸化膜の製法及び埋め込み特性と凸部の寸法とに制約があることから、埋め込み可能な寸法に制約がある。そのため、前記したフロー性を有する塗布材料を用いることにより、凸部の埋め込みが可能となる。また、塗布材料の使用により、凸部寸法の制約が回避され、多様な凸構造の埋め込みが可能となる。
第3実施例のインクジェットヘッドでは、約0.15μmの絶縁保護膜13形成後、約0.15μm(平坦部分における厚み)のOCD液を塗布して埋め込みを形成しているものである。その他の製造工程は、第1実施例に準ずるため説明は省略する。
【0038】
(第4実施例)
本発明の第4実施例のインクジェットヘッドについて説明する。
図10は、第4実施例のインクジェットヘッドの短辺方向を示す断面図で、図1のA−A線に沿う断面図に相当する。
図11は、図10に示すインクジェットヘッドの単一ビット要部を示す平面図である。
第4実施例のインクジェットヘッドにおいては、第1実施例あるいは第2実施例のインクジェットヘッドの犠牲層18のギャップ17領域に設けられたひとつの凸部23がスリットの集合により形成されているものである。これらのスリットは約0.5μm間隔で形成されている。第1実施例においては、凸部23を埋め込むために、フロー性を有する膜種に制約されることになるが、本実施例のように、スリットの間隔が0.5μm程度で形成された場合には、スリット間の凹部を埋め込むための絶縁保護膜13の製法に関して制約がなくなり、汎用的に用いられるLPCVD等によって埋め込みが実現可能となる。また、スリットを有することにより、当接時の接触面積が小さくなることから、駆動信頼性の更なる向上が実現できるものである。
本実施例ではスリット形状に関して説明したが、これらの形状は、図11に示すように、格子状、あるいはハニカム状に形成しても同様の効果が得られるものである。
【0039】
(第5実施例)
次に、本発明の第5実施例のインクカートリッジについて説明する。
図12は、第5実施例のインクカートリッジの外観を示す斜視図である。
このインクカートリッジ50は、複数のノズルを有する実施例1〜4のいずれかのインクジェットヘッド51と、インクジェットヘッド51に対してインクを供給するインクタンク52とを一体化したものである。
【0040】
インクタンクとインクジェットヘッドが一体化された型のインクカートリッジの場合、インクジェットヘッドの歩留まり不良は直ちにインクカートリッジ全体の不良に繋がるので、前記したように加圧液室形成部材の反りによるノズルあるいは振動板の接合不良、加熱接合時の気体の膨張によるノズルあるいは振動板の接合不良による製造不良を低減することで、インクカートリッジの歩留まりが向上し、インクジェットヘッド一体型インクカートリッジの低コスト化を図ることができる。
【0041】
(第6実施例)
実施例5のインクジェットヘッドを搭載した第6実施例のインクジェット記録装置の一例について説明する。本実施例5ではインクジェット記録装置について説明するが、液滴吐出装置や画像形成装置についても同様に適用可能である。
図13は、第6実施例のインクジェット記録装置の要部を示す斜視図、図14は、同記録装置の機構部を示す側断面図である。
このインクジェット記録装置は、記録装置本体61の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ73、キャリッジ73に搭載した本発明を実施したインクジェットヘッドからなる記録ヘッド74、記録ヘッド74へインクを供給するインクカートリッジ75等で構成される印字機構部62等を収納し、装置本体61の下方部には前方側から多数枚の用紙63を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)64を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙63を手差しで給紙するための手差しトレイ65を開倒することができ、給紙カセット64或いは手差しトレイ65から給送される用紙63を取り込み、印字機構部62によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ66に排紙する。
【0042】
印字機構部62は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド71と従ガイドロッド72とでキャリッジ73を主走査方向(図14で紙面垂直方向)に摺動自在に保持し、このキャリッジ73にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係るインクジェットヘッドからなる記録ヘッド74を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ73には記録ヘッド74に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ75を交換可能に装着している。
【0043】
インクカートリッジ75は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッド74として、ここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0044】
ここで、キャリッジ73は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド71に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド72に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ73を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ77で回転駆動される駆動プーリ78と従動プーリ79との間にタイミングベルト80を張装し、このタイミングベルト80をキャリッジ73に固定しており、主走査モータ77の正逆回転によりキャリッジ73が往復駆動される。
【0045】
一方、給紙カセット64にセットした用紙63を記録ヘッド74の下方側に搬送するために、給紙カセット64から用紙63を分離給装する給紙ローラ81及びフリクションパッド82と、用紙63を案内するガイド部材83と、給紙された用紙63を反転させて搬送する搬送ローラ84と、この搬送ローラ84の周面に押し付けられる搬送コロ85及び搬送ローラ84からの用紙63の送り出し角度を規定する先端コロ86とを設けている。搬送ローラ84は副走査モータ87によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0046】
そして、キャリッジ73の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ84から送り出された用紙63を記録ヘッド74の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材89を設けている。この印写受け部材89の用紙搬送方向下流側には、用紙63を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ91、拍車92を設け、さらに用紙63を排紙トレイ66に送り出す排紙ローラ93及び拍車94と、排紙経路を形成するガイド部材95,96とを配設している。
【0047】
記録時には、キャリッジ73を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド74を駆動することにより、停止している用紙63にインクを吐出して1行分を記録し、用紙63を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙63の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙63を排紙する。
【0048】
また、キャリッジ73の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド74の吐出不良を回復するための回復装置97を配置している。回復装置97はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ73は印字待機中にはこの回復装置97側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド74をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中等に記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0049】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド74の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0050】
このように、このインクジェット記録装置においては、本発明を実施したインクジェットヘッドを搭載しているので、気泡溜まりによるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
【0051】
なお、以上の実施例の記載においては、液滴吐出ヘッドをインクジェットヘッドに適用し、インクカートリッジ及びインクジェット記録装置に応用した例について説明したが、本発明の液滴吐出ヘッドの応用はこれらに限られたものではなく、例えば液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出装置、導電性物を含んだ液を吐出して電気配線を形成する液滴吐出装置、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出装置等に応用することが可能である。
【0052】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば次のような効果を奏する。
請求項1に係る液滴吐出ヘッドは、振動板の個別電極との当接部分に凸部を有する絶縁保護膜を形成することによって、振動板と個別電極を当接駆動させた場合においても、当接する部分の絶縁保護膜がより厚く形成されていることから、電極間リーク、絶縁保護膜の絶縁破壊、残留電荷等に関する電気特性が飛躍的に改善され、液滴吐出性能が安定し、駆動信頼性の高い液滴吐出ヘッドが形成可能となる。
【0053】
請求項2に係る液滴吐出ヘッドは、振動板に複数の凸部を形成することによって、振動板剛性あるいは単一ビットの寸法、あるいは駆動パルス電圧に対して適正に凸部を配することが可能となり、電極間リーク、絶縁保護膜の絶縁破壊、残留電荷等の電気特性が改善され、かつ液滴吐出性能が安定した駆動信頼性の高い液滴吐出ヘッドが形成可能となる。
【0054】
請求項3に係る液滴吐出ヘッドは、振動板の凸部の絶縁保護膜を積層構造とすることによって、凸部の形成寸法と凸部分を埋め込む酸化膜の製法に関わりなく、凸部の埋め込みが可能となるため、液滴吐出ヘッドの構成あるいは寸法に影響を与えることなく、電極間リーク、絶縁保護膜の絶縁破壊、残留電荷等の電気特性が改善され、かつ液滴吐出性能が安定した駆動信頼性の高い液滴吐出ヘッドが形成可能となる。
【0055】
請求項4に係るインクカートリッジ、請求項5に係るインクジェット記録装置、請求項6に係る液滴吐出装置、及び請求項7に係る画像形成装置は、請求項1〜3に係る液滴吐出ヘッドを用いることによって、生産性に優れるとともに、インクの吐出特性及び信頼性が優れた高品質なインクカートリッジ、及びインクカートリッジを用いたインクジェット式記録装置の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例に係るインクジェットヘッドを示す平面図である。
【図2】 図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】 図1のB−B線に沿う断面図である。
【図4】 図1のインクジェットヘッドの単一ビット要部を示す平面図である。
【図5】 第1実施例のインクジェットヘッドの製造工程前半を経時的に示す断面図である。
【図6】 第1実施例のインクジェットヘッドの製造工程後半を経時的に示す断面図である。
【図7】 本発明の第2実施例に係るインクジェットヘッドの短辺方向の断面図である。
【図8】 図7のインクジェットヘッドの単一ビット要部を示す平面図である。
【図9】 第3実施例のインクジェットヘッドの短辺方向を示す断面図である。
【図10】 第4実施例のインクジェットヘッド中間製品の短辺方向を示す断面図である。
【図11】 図10に示すインクジェットヘッドの単一ビット要部を示す平面図である。
【図12】 第5実施例のインクカートリッジの外観を示す斜視図である。
【図13】 第6実施例のインクジェット記録装置の要部を示す斜視図である。
【図14】 図13に示すインクジェット記録装置の機構部を示す側断面図である。
【図15】 従来のインクジェットヘッドの単一ビットを示す短辺方向の断面図である。
【符号の説明】
10…電極基板、11…個別電極、12…振動板、13…絶縁保護膜、14…共通液室孔、15…配線パッド、16…絶縁保護膜、17…ギャップ、18…犠牲層、19…振動板保護膜、20…犠牲層除去孔、21…接液膜、22…熱酸化膜、23…凸部、30…液室基板、31…液室、32…インク供給口、33…ノズル連通孔、34…隔壁、40…ノズル基板、41…ノズル、50…インクカートリッジ、51…インクジェットヘッド、52…インクタンク、61…記録装置本体、62…印字機構部、63…用紙、64…給紙カセット、65…手差しトレイ、66…排紙トレイ、71…主ガイドロッド、72…従ガイドロッド、73…キャリッジ、74…記録ヘッド、75…インクカートリッジ、77…主走査モータ、78…駆動プーリ、79…従動プーリ、80…タイミングベルト、81…給紙ローラ、82…フリクションパッド、83…ガイド部材、84…搬送ローラ、85…搬送コロ、86…先端コロ、87…副走査モータ、89…印写受け部材、91…搬送コロ、92…拍車、93…排紙ローラ、94…拍車、95,96…ガイド部材、97…回復装置。
Claims (7)
- 液滴を吐出するノズルを有するノズル基板と、前記ノズルに連通した連通孔及び加圧室を有する液室基板と、前記加圧室の一部の壁面を形成する振動板と、犠牲層エッチングによって形成された空隙及び絶縁膜を介し前記振動板に対向配置された個別電極を有する電極基板とを備え、前記振動板と個別電極間に働く静電力により前記振動板を変位させ前記ノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜は、前記電極基板の前記個別電極の前記振動板側の面と、前記振動板の前記個別電極に対向する面の全体とを覆うように形成され、前記振動板に形成された絶縁膜には、当該絶縁膜の他の部分より厚い凸部が形成されており、該凸部は、前記犠牲層に当該凸部に対応した形状を有する段差部を形成しておき、該段差部を当該絶縁膜の絶縁材料で埋め込むことにより形成されることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜に形成された凸部は、前記振動板の長辺方向及び短辺方向に、1列または複数列形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1または2に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記絶縁膜に形成された凸部の絶縁膜は、積層構造で形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
- 請求項1乃至3いずれかに記載の液滴吐出ヘッドとインクタンクを備えたことを特徴とするインクカートリッジ。
- 請求項1乃至3いずれかに記載の液滴吐出ヘッドを用いて形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
- 請求項1乃至3いずれかに記載の液滴吐出ヘッドを用いて形成されていることを特徴とする液滴吐出装置。
- 請求項1乃至3いずれかに記載の液滴吐出ヘッドを用いて形成されていることを特徴とする画像形成装置。
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