JP4293424B2 - ショ糖脂肪酸エステルの精製方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ショ糖脂肪酸エステルの精製方法に関し、更に詳しくは、ショ糖、脂肪酸アルキルエステル、触媒及び反応溶媒を含む混合物の反応により得られるショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物に含まれるショ糖脂肪酸エステルを精製するための方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ショ糖脂肪酸エステルは、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と略記する。)又はジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と略記する。)等の反応溶媒中で、アルカリ触媒の存在下、ショ糖と脂肪酸メチル等の脂肪酸エステルとのエステル交換反応による方法(特許文献1)等で製造されている。上記方法によって得られた反応混合物中には、目的とするショ糖脂肪酸エステルの他に、反応溶媒、未反応のショ糖、未反応の脂肪酸エステル、触媒、石鹸、遊離脂肪酸等を含有している。この混合物からショ糖脂肪酸エステルを分離するには、従来からヘキサン、ブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の有機溶媒及び水を用いて液液抽出する方法がとられてきた(特許文献2、特許文献3、特許文献4等)。
【0003】
一方、分散混合機(例えば、特殊機化工業(株)製の「ホモミキサー」)、ホモジナイザー、コロイドミル(例えば商品名「マイコロイダー」)等を用い、水を用いて精製する方法も知られている(特許文献4)。
【0004】
【特許文献1】
特公昭35−13102号公報
【特許文献2】
特公昭48−21927号公報
【特許文献3】
特公昭48−35049号公報
【特許文献4】
特開50−130712号公報
【特許文献5】
特許第2686960号明細書
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の方法のうち、水を用いる精製方法を除いて、いずれも有機溶媒を使用しており、下記の如くの工業的不利益をもたらす。即ち、製造に際して爆発、火災等の危険性があり、これを防止するために電気装置の防爆化が必要となる。また、製造装置の密閉化、工場建家全体の耐火構造化等が必要となる。そのため、ショ糖脂肪酸エステルの製造費に於ける固定費の上昇、溶媒の消耗による原価の上昇等の問題を生ずる。
【0006】
このような事情から、ショ糖脂肪酸エステル精製に際して有機溶媒を使用することのない精製技術の開発が望まれていた。上記の水を用いた精製方法は、反応溶媒であるDMSOをほとんど含まないので、上記要求を満たすものとして注目された。しかし、この水を用いた精製方法は、いずれも多数の装置が必要であり、また、連続的にショ糖脂肪酸エステルの精製を行うことは工業的に困難であり、ショ糖脂肪酸エステルを工業的に得る方法として満足し得るものではなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、有機溶媒及び多数の装置を用いることなく水を用いてショ糖脂肪酸エステルの精製を連続的に行うことができるショ糖脂肪酸エステルの精製方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、溶媒法で合成された粗製のショ糖脂肪酸エステルを精製するに際し、有機溶媒を使用せず、反応混合物を中性領域のpHに調整し、水、中性塩及びショ糖を加えることにより生じる沈殿物を、静止型混合器及び微分型抽出塔を用いて酸性の水で抽出することにより、反応溶媒等を殆ど含まないショ糖脂肪酸メチルエステルを取得するを特徴としている。
【0009】
工業的な精製装置としては、ミキサーセトラー抽出機、非撹拌式段型抽出塔、撹拌式段型抽出塔等あるが、これらの装置にはSEスラリーの装置内残留、混合方法等の問題があり、工業的有利に使用することはできなかった。
【0010】
ショ糖脂肪酸エステルを水で精製する際、複雑な装置を使うとショ糖脂肪酸エステルの残留が起こり、それが腐敗の元となるおそれがあるため、食品添加物としての用途には問題が出てくる。また、機械的な撹拌を行なうとショ糖脂肪酸エステルの分離が悪くなり、工業的に精製するには困難となってくるという問題が生じてくる。
【0011】
装置内残留の観点からすれば、向流微分型抽出塔が望ましいが、工業的に製造するには効率が低いという問題を抱えていた。
【0012】
そこで本発明者は、(イ)水相側に溶解するショ糖脂肪酸エステルの量を最小限に抑えるのみならず、可能ならばその量を零にしつつ、(ロ)装置内の残留が無く、(ハ)残留するDMSOを水相側に効率よく溶解させることにより、工業的に有利にDMSOを分離する、ことを目的として多くの抽出実験を行なった結果、最適なショ糖脂肪酸エステル、DMSO、酸性水の比率の下で向流微分型抽出塔を運転することで水相側に溶解するショ糖脂肪酸エステル量を最小にできること、さらに、静止型混合器を使い、ショ糖脂肪酸エステルのスラリーと酸性水を適当な混合比でミキシングし供給することで、抽出率を向上させることができることを見出した。この知見を下に、この抽出率を最大にする混合比の範囲で運転することによって、DMSOをほとんど含まないショ糖脂肪酸エステルを工業的に製造することができることが判明した。
【0013】
即ち、本発明のショ糖脂肪酸エステルの精製方法は、ショ糖、脂肪酸アルキルエステル、触媒及び反応溶媒を含む混合物の反応により得られるショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物に含まれるショ糖脂肪酸エステルを精製するための精製方法であって、前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物を中和した後、必要に応じて前記反応溶媒の少なくとも一部を留去し、該中和した前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物に、水、中性塩及びショ糖を加えて加熱混合後、静置して水層のみを除去することによりSEスラリーを得、該SEスラリーと混合用酸性水とを静止型混合器を用いて混合して酸性SEスラリーを得、該酸性SEスラリーを微分型抽出塔の上部から供給するとともに下部から抽出用酸性水を供給して向流接触により前記酸性SEスラリー中のショ糖脂肪酸エステルを精製することを特徴とする。
【0014】
上記構成に於いては、前記微分型抽出塔内に於けるSEケーキ、反応溶媒、混合用酸性水及び抽出用酸性水の重量組成が以下の数6に示す式(1)及び数7に示す式(2)で表される2つの関係式を同時に満たして運転されるように前記抽出用酸性水の供給量を調整するのが好ましい。
【0015】
【数6】
Figure 0004293424
【0016】
【数7】
Figure 0004293424
【0017】
ここで、SEケーキ(%)、反応溶媒(%)及び酸性水(%)は、前記微分型抽出塔内に供給される前記酸性SEスラリーと前記抽出用酸性水からなる抽出塔内スラリーを十分な時間静置したときの分離した沈殿ケーキ相と水相とに於ける前記ショ糖脂肪酸エステル(SE)、前記混合用酸性水、前記抽出用酸性水、前記ショ糖、並びに生成する中性塩及び石鹸の各重量から、以下の数8、数9及び数10にそれぞれ示す式(3)、式(4)及び式(5)により求められる数値である。
【0018】
【数8】
Figure 0004293424
【0019】
【数9】
Figure 0004293424
【0020】
【数10】
Figure 0004293424
【0021】
式(1)及び式(2)に示す関係を三角図で表したものを図1に示す。図1の斜線部分が式(1)及び式(2)の関係を満たす領域である。この斜線領域内においてショ糖脂肪酸エステルの精製が効率よく行われる。
【0022】
上記において、前記静止型混合器に供給される前記混合用酸性水と前記SEスラリーの混合重量比が、混合用酸性水:SEスラリー=0.5:1〜2:1の範囲であることが好ましい。
【0023】
また、前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物がpH6.2〜8.2の範囲に中和されることが好ましい。
【0024】
更に、前記中和後の前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物を50〜80℃に加熱することを更に含む構成を採用することができる。
【0025】
また、前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物の中和は、乳酸、酢酸、塩酸及び硫酸からなる群から選択される酸のいずれかを用いて行うのが好ましい。
【0026】
上記本発明のショ糖脂肪酸エステルの精製方法では、前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物の各成分の含有量が、未反応のショ糖=1.0〜80.0重量%、未反応の脂肪酸アルキルエステル=0.5〜10.0重量%、触媒=0.05〜7.0重量%、石鹸=1.0〜10.0重量%、脂肪酸=0.5〜10.0重量%、ショ糖脂肪酸エステル=15.0〜95.0重量%、残留する反応溶媒=3.0〜30.0重量%であることが好ましい。
【0027】
ここで、処理対象となる前記脂肪酸アルキルエステルは、その用途を考慮すると、炭素数16〜22の飽和又は不飽和脂肪酸のメチルエステルである。
【0028】
また、前記反応溶媒は、原料を溶解し得ることが必要であり、ジメチルスルホキシド又はジメチルホルムアミドが好ましい。
【0029】
更に、前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物に加えられる中性塩は、ショ糖脂肪酸エステルの用途を考慮すると、食塩、芒硝、乳酸カリウム及び酢酸カリウムからなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0030】
ここで、前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物中のショ糖脂肪酸エステルうち、モノエステルが、全ショ糖脂肪酸エステルを100重量%として、10〜80重量%の範囲で含まれていることが好ましい。この範囲を超えると、実質的に精製が不可能となる場合が生じるからである。
【0031】
また、前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物中のショ糖脂肪酸エステルのうち、ジエステル以上のものが、全ショ糖脂肪酸エステルを100重量%として、20〜90重量%の範囲で含まれていることが好ましい。この範囲を超えると、上記と同様に、実質的に精製が不可能となる場合が生じるからである。
【0032】
前記混合用酸性水及び前記抽出用酸性水のpHは、3〜5.5の範囲であることが好ましい。このpHが3より低いと、ショ糖脂肪酸エステルの分解が起こるので好ましくない。また、5.5より高いと、系全体のpHが上昇してショ糖脂肪酸エステルが沈降しなくなり、抽出操作を安定して行えなくなるので好ましくない。
【0033】
また、前記混合用酸性水及び前記抽出用酸性水の温度は、10〜60℃の範囲であることが好ましい。この温度が10℃より低いと、ショ糖脂肪酸エステルが沈降しなくなり、抽出操作を安定して行えなくなるので好ましくない。また、60℃より高い温度では、ショ糖脂肪酸エステルの分解が起こるので好ましくない。
【0034】
【発明の実施の形態】
溶媒法によるショ糖脂肪酸エステルの合成は、通常、ショ糖と脂肪酸メチルエステルとの混合物を、これらの合計量に対し数倍量の反応溶媒、例えばDMSOに添加し溶解させて、アルカリ触媒の存在下に行なわれる。アルカリ触媒としては、例えば、アルカリ金属水素化合物、アルカリ金属水酸化物、弱酸のアルカリ金属塩等が有効であり、特に炭酸アルカリ金属塩(例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなど)及びアルカリ金属の水酸化物が好ましい。
【0035】
反応温度は、40〜170℃の範囲から決められるが、80〜120℃の範囲であることが望ましい。反応圧力は、1〜6kPa、望ましくは2〜5kPaである。ショ糖と脂肪酸メチルとは反応溶媒の還流下に反応させることが望ましい。これにより、容易に90%以上の反応率(脂肪酸メチルエステル基準)にてショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物が生成する。
【0036】
ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物の各成分の含有量は、未反応のショ糖=1.0〜80.0重量%、未反応の脂肪酸アルキルエステル=0.5〜10.0重量%、触媒=0.05〜7.0重量%、石鹸=1.0〜10.0重量%、脂肪酸=0.5〜10.0重量%、ショ糖脂肪酸エステル=15.0〜95.0重量%、残留する反応溶媒=3.0〜30.0重量%の範囲である。
【0037】
このショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物は、以下のようにして精製される。まず、ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物に含まれているアルカリ触媒が中和される。中和は、乳酸、酢酸等の有機酸又は塩酸、硫酸等の鉱酸を用いるのが好ましく、当量だけショ糖脂肪酸エステル含反応混合物に添加される。
【0038】
続いて、DMSO等の反応溶媒が必要に応じて真空下に留去される。反応混合物中の反応溶媒の含有量は、5〜30%であることが好ましく、10〜20%であることが更に好ましい。この時、ショ糖脂肪酸エステルのエステル分布は、好ましい実施形態では、モノエステル10〜80%(ジエステル以上が90〜20%)である。
【0039】
次に、上記の反応混合物に対して、水、中性塩及びショ糖が加えられる。中性塩及びショ糖は、この段階ではDMSO等の反応溶媒が多く含まれているため、ショ糖脂肪酸エステルが水側に移行しやすいので、それを防ぐために加えられる。
【0040】
次に、好ましい実施形態では、反応混合物のpH値が6.2〜8.2に調整される。このpH値が6.2より低いと、多量に存在するショ糖の分解が進み、8.2より高いと、ショ糖脂肪酸エステルの分解が起こり、また、ショ糖脂肪酸エステルが沈降しなくなって抽出操作を安定して行えなくなるので好ましくない。
【0041】
中和後のショ糖脂肪酸エステル含反応混合物は、その温度を50〜80℃に保つことが好ましい。これにより、ショ糖脂肪酸エステルのみを沈殿させ、しかも殆どのショ糖脂肪酸エステルを沈殿させることができるとともに、未反応のショ糖及びDMSO等の反応溶媒を水相へ効率よく移行させることができる。次に、水相と沈殿とに分離したスラリーから水相のみを除去してSEスラリーを得る。
【0042】
最後に、上記で分離したSEスラリーと混合用酸性水とを静止型混合器を用いてミキシングして酸性SEスラリーとし、さらにこれを微分型抽出塔の上部から供給するとともに、抽出用酸性水を微分型抽出塔の下部から供給して向流接触させ、酸性SEスラリー中に残留する反応溶媒などを除去する。この時、抽出塔内のDMSOを除くSEケーキ、DMSO、酸性水の重量組成が、上記式(1)及び式(2)で表される2つの関係式を同時に満たして運転されるように抽出用酸性水の供給量が調整される。即ち、前述の三角図に於ける斜線領域内においてショ糖脂肪酸エステルの精製が効率よく行われる。この領域を外れた場合、例えば反応溶媒のDMSOの組成が過大になると、ショ糖脂肪酸エステルが分離しなくなり、運転が不可能となる。また、ショ糖、無機塩、他残余含む酸性水の組成が75%よりも過大となると、目的とする反応溶媒の除去は好適に行なわれるが、他方、ショ糖脂肪酸エステルの酸性水への溶解が大となり、経済性が失われることになる。
【0043】
この酸性下での抽出は、ミキサーセトラー抽出機、向流微分型抽出塔、非撹拌式段型抽出塔、撹拌式段型抽出塔等であるが、向流微分型抽出塔がショ糖脂肪酸エステルの非残留性、連続操作性の観点から望ましい。しかし、向流微分型抽出塔のみでは抽出効率の面では劣っており、そこで、SEスラリーを酸性水と共に静止型混合器に通してミキシングを行い、これを向流微分型抽出塔に供給することでショ糖脂肪酸エステルの界面接触面積を増加させることにより、向流微分型抽出塔の抽出効率を向上させるものである。
【0044】
この時、ミキシングを行う混合用酸性水とSEスラリーの重量比は、混合用酸性水:SEスラリー=0.5:1〜2:1が望ましく、更に望ましくは、0.8:1〜1.2:1である。この範囲外の両者の重量比でのミキシングは反応溶媒の抽出率が悪く、またはショ糖脂肪酸エステルの収率が悪くなり実質的ではない。
【0045】
ここで用いる静止型混合器は、Kenics社製スタティックミキサー、櫻製作所(株)製スクエアーミキサー、東レ(株)製Hi−Mixer、Sulzer社製スタティックミキシングエレメントSMV型等から選ばれるが、メンテナンス性、圧力損失の面からKenics社製スタティックミキサーが望ましい。
【0046】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成からなる混合物により反応を行い、表1に示すショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物を得た。次に、このショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物を乳酸で中和し、その後DMSOを留去して表2に示す組成の反応混合物を得た。
【0047】
次いで、この残液100部に水2,000部を加えて溶解させた。この時ショ糖脂肪酸エステルの組成をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、モノエステル70%、ジエステル25%、トリエステル以上5%であった。
【0048】
この水溶液に、ショ糖62.5部及び50%乳酸カリウム97.6部を加えて60℃まで加熱、混合後、十分な時間静置し、水相を除去することによりSEスラリー(固形分53重量%)を得た。その時のSEスラリーの組成は表3に表わされるとおりであった。なお、水相中にショ糖脂肪酸エステルは実質的に含まれていなかった。
【0049】
【表1】
Figure 0004293424
【0050】
【表2】
Figure 0004293424
【0051】
【表3】
Figure 0004293424
【0052】
なお、表2及び表3において、ショ糖脂肪酸エステルの含有量は上述のGPCにより測定し、ショ糖の含有量は、シリル化してガスクロマトグラフィーにより、DMSOの含有量はFPD検出法を用いたガスクロマトグラフィーにより、石鹸の含有量は中和滴定法により、また、中性塩の含有量は電位差滴定法により求めた。また、触媒、乳酸カリウムは仕込量から求め、水の量は残査分から求めた。
【0053】
上記のSEスラリーを144kg/h、混合用酸性水である塩酸水(pH3.5)を144kg/hで塩酸水:SEスラリー=1:1の比率で静止型混合器に供給した。静止型混合器から出てくる酸性SEスラリーを向流微分型抽出塔の上部から供給すると共に、抽出用酸性水である塩酸水を向流微分型抽出塔の下部から192kg/hで供給して、60℃、常圧下で向流抽出を行なった。
【0054】
この時の抽出塔内のSEケーキ、DMSO及び酸性水(混合用酸性水+抽出用酸性水)の組成は、SEケーキ=28.0(%)、DMSO=0.2(%)、酸性水=71.8(%)であった。この時のDMSOの抽出率は87%であり、塩酸水側へのショ糖脂肪酸エステルの溶解量は0.11%であった。
【0055】
この操作を5段繰り返し、得られたSEスラリーをpH調整し、乾燥することにより、高純度のショ糖脂肪酸エステルを得た。このショ糖脂肪酸エステル中のショ糖は、0.1%以下、DMSOは1μg/gであった。また、ショ糖脂肪酸エステルの収率は、98.1%であった。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様に表1の組成で反応を行い、反応後の混合物に水を加え、ショ糖及び50%乳酸カリウムを加えて加熱、混合後、十分な時間静置し、水相を除去することにより、SEスラリーを得た。このSEスラリーと混合用塩酸水とを重量比で混合用塩酸水:SEスラリー=0:1〜2:1まで変化させて実施例1と同様に静止型混合器を用いて抽出操作を行い、更に向流微分型抽出塔を用いて実施例1と同様の操作を行い、ショ糖脂肪酸エステルの抽出率及びショ糖脂肪酸エステルの塩酸水中への溶解量を求めた。
【0057】
その結果、DMSOの抽出率は、塩酸水:SEスラリー重量比=1:1付近に極大値があることが判明した。また、ショ糖脂肪酸エステルの塩酸水への溶解量は、静止型混合器に於けるミキシング比に比例して増加することが判った。
【0058】
(比較例1)
実施例1と同様に表1の組成で反応を行い、反応後の混合物に水を加え、ショ糖及び50%乳酸カリウムを加えて、加熱、混合後、十分な時間静置し、水相を除去することによりSEスラリーを得た。このSEスラリーを144kg/h、混合用酸性水である塩酸水(pH3.5)を58kg/hで塩酸水:SEスラリー=0.4:1の比率で静止型混合器に供給すると共に、抽出用酸性水である塩酸水を向流微分型抽出塔の下部から278kg/hで供給して、60℃、常圧下で向流抽出を行なった。
【0059】
この時の抽出塔内のSEケーキ、DMSO、酸性水の組成は、SEケーキ=28.0(%)、DMSO=0.2(%)、酸性水=71.8(%)であった。また、この時のDMSOの抽出率は79%であり、塩酸水側へのショ糖脂肪酸エステルの溶解量は0.05%であった。
【0060】
この操作を5段繰り返し、得られたSEスラリーをpH調整し、乾燥することにより、ショ糖脂肪酸エステルを得た。このショ糖脂肪酸エステル中のショ糖は、0.1%以下、DMSOは5μg/gであった。また、ショ糖脂肪酸エステルの収率は、99%であった
(比較例2)
実施例1と同様、反応後の混合物に水を加え、ショ糖及び50%乳酸カリウムを加えて、加熱、混合後、十分な時間静置し、水相を除去することによりSEスラリーを得た。このSEスラリーを144kg/h、混合用塩酸水(pH3.5)を144kg/hで塩酸水:SEスラリー=1:1の比率で静止型混合器に供給し、抽出塔下部から抽出用塩酸水を400kg/hで供給して、60℃、常圧下で向流抽出を行なった。
【0061】
この時の抽出塔内のSEケーキ、DMSO、酸性水の組成は、SEケーキ=20.0(%)、DMSO=0.15(%)、酸性水=79.85(%)であった。また、この時のDMSOの抽出率は88%であったが、塩酸水側へのショ糖脂肪酸エステルの溶解量は0.15%であった。
【0062】
この操作を5段繰り返し、得られたSEスラリーをpH調整し、乾燥することにより、ショ糖脂肪酸エステルを得た。このショ糖脂肪酸エステル中のショ糖は、0.1%以下、DMSOは1μg/gであった。しかし、ショ糖脂肪酸エステルの収率は、90%であった。
【0063】
表4に、実施例1、並びに比較例1及び2の精製条件、収率、及び最終的に得られたショ糖脂肪酸エステル中のDMSOの濃度の測定結果を示す。
【0064】
【表4】
Figure 0004293424
【0065】
表4から判るように、実施例1ではショ糖脂肪酸エステルの収率が高く、しかもDMSOの濃度が低くなっている。これに対して、比較例1ではショ糖脂肪酸エステルの収率は高いがDMSOの濃度も高くなっている。また、比較例2では、DMSOの濃度が低くなっているが、ショ糖脂肪酸エステルの収率が低くなっている。従って、比較例1及び2の精製方法は工業的に有用ではないのに対し、実施例1の方法は工業的に有用であることが判る。
【0066】
【発明の効果】
本発明のショ糖脂肪酸エステルの精製方法では、溶媒法を用いて合成された粗製のショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物の精製に際し、ショ糖脂肪酸エステルの特異な溶解特性を利用しているので、精製溶媒を使用しないにもかかわらず実質的にショ糖脂肪酸エステルを損失すること無く、工業的に有利に純度の高いショ糖脂肪酸エステルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】DMSOを酸性水側に有効に抽出し得る領域を示す三角図でである。
【符号の説明】
1 斜線領域

Claims (12)

  1. ショ糖、脂肪酸アルキルエステル、触媒及び反応溶媒を含む混合物の反応により得られるショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物に含まれるショ糖脂肪酸エステルを精製するための精製方法であって、
    前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物を中和した後、必要に応じて前記反応溶媒の少なくとも一部を留去し、
    該中和した前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物に、水、中性塩及びショ糖を加えて加熱混合後、静置して水層のみを除去することによりSEスラリーを得、
    該SEスラリーと混合用酸性水とを静止型混合器を用いて、重量比が混合用酸性水:SEスラリー=0.5:1〜2:1の範囲で混合して酸性SEスラリーを得、
    該酸性SEスラリーを微分型抽出塔の上部から供給するとともに下部から抽出用酸性水を供給して向流接触により前記酸性SEスラリー中のショ糖脂肪酸エステルを精製し、
    前記微分型抽出塔内に於けるSEケーキ、反応溶媒、混合用酸性水及び抽出用酸性水の重量組成が以下の数1に示す式(1)及び数2に示す式(2)で表される2つの関係式を同時に満たして運転されるように前記抽出用酸性水の供給量を調整することを特徴とするショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
    Figure 0004293424
    Figure 0004293424
    (ここで、SEケーキ(%)、反応溶媒(%)及び酸性水(%)は、前記微分型抽出塔内に供給される前記酸性SEスラリーと前記抽出用酸性水からなる抽出塔内スラリーを十分な時間静置したときの分離した沈殿ケーキ相と水相とに於ける前記ショ糖脂肪酸エステル(SE)、前記混合用酸性水、前記抽出用酸性水、前記ショ糖、並びに生成する中性塩及び石鹸の各重量から、以下の数3、数4及び数5にそれぞれ示す式(3)、式(4)及び式(5)により求められる数値である。)
    Figure 0004293424
    Figure 0004293424
    Figure 0004293424
  2. 前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物がpH6.2〜8.2の範囲に中和される請求項1に記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  3. 前記中和後の前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物を50〜80℃に加熱することを更に含む請求項1又は2に記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  4. 前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物の中和は、乳酸、酢酸、塩酸、硫酸及びこれらの混合物からなる群から選択される酸のいずれかを用いて行われる請求項1乃至3の何れかに記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  5. 前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物の各成分の含有量が、未反応のショ糖=1.0〜80.0重量%、未反応の脂肪酸アルキルエステル=0.5〜10.0重量%、触媒=0.05〜7.0重量%、石鹸=1.0〜10.0重量%、脂肪酸=0.5〜10.0重量%、ショ糖脂肪酸エステル=15.0〜95.0重量%、残留する反応溶媒=3.0〜30.0重量%である請求項1乃至4の何れかに記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  6. 前記脂肪酸アルキルエステルが、炭素数16〜22の飽和又は不飽和脂肪酸のメチルエステルである請求項1乃至5の何れかに記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  7. 前記反応溶媒は、ジメチルスルホキシド又はジメチルホルムアミドである請求項1乃至6の何れかに記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  8. 前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物に加えられる中性塩が、食塩、芒硝、乳酸カリウム及び酢酸カリウムからなる群から選択されるものである請求項1乃至7の何れかに記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  9. 前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物中のショ糖脂肪酸エステルうち、モノエステルが、全ショ糖脂肪酸エステルを100重量%として10〜80重量%の範囲で含有されている請求項1乃至8の何れかに記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  10. 前記ショ糖脂肪酸エステル含有反応混合物中のショ糖脂肪酸エステルのうち、ジエステル以上のものが、全ショ糖脂肪酸エステルを100重量%として、20〜90重量%の範囲で含有されている請求項1乃至9の何れかに記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  11. 前記混合用酸性水及び前記抽出用酸性水のpHが、3〜5.5の範囲である請求項1乃至10の何れかに記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
  12. 前記混合用酸性水及び前記抽出用酸性水の温度が、10〜60℃の範囲である請求項1乃至11の何れかに記載のショ糖脂肪酸エステルの精製方法。
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