JP4292893B2 - ポリマーアロイ捲縮糸 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、易溶解性ポリマーが凝集した粗大ポリマー粒子をほとんど含まず分散均一性に優れ嵩高で捲縮品位良好なポリマーアロイ捲縮糸に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ナイロン6(N6)やナイロン66(N66)に代表されるポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)に代表されるポリエステル繊維は力学特性や寸法安定性に優れるため、衣料用途のみならずインテリアや車両内装、産業用途等幅広く利用されている。また、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等に代表されるポリオレフィン繊維は軽さを活かして産業用途に幅広く利用されている。
【0003】
しかし、単一のポリマーからなる繊維ではその性能に限界があるため、従来から共重合やポリマーブレンドといったポリマー改質、また複合紡糸や混繊紡糸による機能の複合化が検討されてきた。中でも、ポリマーブレンドは新しくポリマーを設計する必要が無く、しかも単成分紡糸機を用いても製造が可能であることから特に活発な検討が行われてきた。
【0004】
ところで、繊維に軽量感や吸水性を付与することを目的として、従来から中空繊維や多孔繊維の検討もなされてきた。中空繊維については高中空率を目指して開発が進められたが、仮撚り加工等で中空が潰れてしまう問題があった。このため、最近、水溶性ポリマーとの複合繊維を利用した多島中空繊維も開発されているが、中空径が1μm以上であるため中空部のポリマー/空気界面での可視光の散乱が多くなり、繊維の発色性が著しく低下する問題があった。
【0005】
一方、サブμmレベルの細孔を多数有する多孔繊維も検討されているが、この時は複合紡糸ではなくポリマーブレンド紡糸が利用されてきた。例えば、ナイロンに親水基共重合PETをブレンドして繊維化し、これから共重合PETを溶出することで多孔ナイロン繊維が得られることが知られている(特許文献1)。これにより、サブμmレベルの表面凹凸や細孔が形成されるためパール様光沢が得られるのであるが、逆に発色性は著しく低下してしまう問題があった。これは、細孔サイズが可視光の波長レベルであり、しかも細孔が多数あるため、多島中空繊維に比べても可視光の散乱が多くなるためである。また、細孔サイズが可視光より小さい細孔を有する例(特許文献2)もあるが、実際にはブレンド繊維中でPETの粗大な凝集粒子が存在し、この凝集粒子が溶出されサブμm〜1μmレベルの粗大孔となるため、やはり特許文献1同様に発色性低下の問題があった。実際、該文献2ページ目左上下から7行目には「ポリアミド中にポリエステル成分が大部分0.01〜0.1μの太さのすじとして存在し、溶出後もほぼその大きさの空洞が存在している。」と記載されており、PET凝集粒子の存在が暗示されている。この他にもナイロン/PETブレンド繊維を利用した多孔繊維の例(特許文献3、4)があるが、ナイロン中でのPETの分散サイズばらつきが大きく、0.1〜1μm近くまでの分布を持つものであり、粗大孔による発色性低下の問題を解決できなかった。
【0006】
上記公知技術のように、海島構造を持つポリマーブレンド繊維において、島ポリマーをサブμm以下まで超微分散化しようとすると、島ポリマーは本来非相溶であるため熱力学の基本法則に従い表面自由エネルギーを最小にするために、どうしても粗大な凝集ポリマー粒子を形成しやすくなってしまう。それにより、多孔繊維にした際に発色性が低下する問題は避けられないものであった。また、このような粗大な凝集ポリマー粒子を含んだものは、紡糸工程で安定したドラフトが掛けにくく糸斑のが出来やすいため、後に仮撚加工を施しても毛羽、未解撚の発生によって品位が低下したり、高捲縮糸を得ることは困難であった。
【0007】
また、特に島ポリマーにアルキレングリコール誘導体のような融点や軟化点が100℃以下のものを用い、これが粗大な凝集粒子となると、捲縮や撚糸といった糸加工や布帛加工時の熱によって単繊維間の融着が発生し、断糸、毛羽、品位低下等のトラブルとなってしまう問題もあった。実際、捲縮加工の一種である仮撚り加工ではヒーター温度は160〜220℃程度、布帛加工ではヒートセット温度は160〜180℃程度が採用される場合が多く、島ポリマーに低融点ポリマーを用いた場合には粗大な凝集粒子は致命的な欠点となっていた。
【0008】
ところで、PETにエチレンナフタレートを多量に共重合した共重合ポリエステルにポリエーテルイミド(PEI)を多量ブレンドする極めて限定された特殊なポリマーアロイ繊維とすることで、通常は、ブレンドポリマーが筋状に分散するのに対し、このポリマーアロイ繊維中ではブレンドポリマー(PEI)が粒状に分散するという極めて例外的なポリマーアロイ形態とすることで、PEIが共重合ポリエステル中に数十nmオーダーで分散できることが知られていた(特許文献5)。しかしながら、該公報では混練温度や紡糸温度はPEIの溶融温度に合わせ、それぞれ320℃、315℃と共重合ポリエステルには高すぎるものとなっており、共重合ポリエステルの熱分解が著しく、糸斑が極めて大きくしかも強度の低い繊維しか得られなかった。このため、これに仮撚り加工等の捲縮加工を施しても糸切れや毛羽が多発し、実質的に捲縮加工を施すことができなかった。また、わずかに捲縮加工できたとしても、原糸であるポリマーアロイ繊維の糸斑が大きいため、未解撚が多発し、満足な捲縮性能を得ることができなかった。
【0009】
このように、超多孔繊維としても発色性を低下させず、粗大なポリマー凝集粒子をほとんど含まず分散均一性に優れ、嵩高で捲縮品位良好なポリマーアロイ捲縮糸が求められていた。
【0010】
【特許文献1】
特開平2−175965号公報(1〜5ページ)
【0011】
【特許文献2】
特開昭56−107069号公報(1〜3ページ)
【0012】
【特許文献3】
特開平8−158251号公報(1〜7ページ)
【0013】
【特許文献4】
特開平8−296123号公報(1〜7ページ)
【0014】
【特許文献5】
特開平8−113829号公報(7〜10ページ)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来のポリマーブレンド繊維とは異なり、粗大なポリマー凝集粒子をほとんど含まず分散均一性に優れ嵩高で捲縮品位良好なポリマーアロイ捲縮糸を提供するものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、難溶解性ポリマーが海、易溶解性ポリマーが島の海島構造を形成し、島成分全体に占める直径200nm以上の島ポリマーの面積比が3%以下で、CR値が20%以上であるポリマーアロイ捲縮糸、または溶解性の異なる2種以上のポリマーからなり、易溶解ポリマー1層の平均厚みが0.1〜50nmであり、かつ層状構造領域を繊維横断面積あたり50%以上有し、CR値が20%以上であるポリマーアロイ捲縮糸により達成される。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明でいうポリマーとはポリエステルやポリアミド、またポリオレフィンに代表される熱可塑性ポリマーやフェノール樹脂等のような熱硬化性ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリルに代表される熱可塑性に乏しいポリマーや生体ポリマー等のことを言うが、熱可塑性ポリマーが成形性の点から好ましい。
【0018】
中でもポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、より好ましい。ポリマーの融点は165℃以上であると耐熱性が良好であり好ましい。例えば、ポリ乳酸(PLA)は170℃、PETは255℃、N6は220℃である。また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有させていても良い。
【0019】
またポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていても良いが、難溶解性ポリマーとしてはポリマー本来の耐熱性や力学特性を保持するためには共重合率は5mol%あるいは5重量%以下であることが好ましい。また、ポリマーの分子量は、繊維形成能や力学特性の点から数平均分子量で1万〜50万であることが好ましい。特に衣料、インテリア、車両内装等に用いる場合には、難溶解性ポリマーとしては共重合率が5mol%または5重量%以下の相対粘度2以上のN6、N66、極限粘度0.50以上のPET、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、PBT、PLAがより好ましい。ただし、易溶解性ポリマーは後で除去することを考慮すると、本願目的を達成する範囲であれば数平均分子量は3000以上であっても良い。
【0020】
本発明では、2つの様態のポリマーアロイ捲縮糸があるが、第1の様態は、難溶解性ポリマーが海、易溶解性ポリマーが島の海島構造ポリマーアロイである。これにより、易溶解性ポリマーを溶剤で除去することで多孔性繊維を容易に得ることができるのである。ここで海島構造とは2種以上のポリマーが相分離構造を採り、メジャー成分あるいは低粘度成分がマトリックス、マイナー成分あるいは高粘度成分がドメインとなる構造を言うものである。その一例を図1(繊維横断面TEM写真)に示すが、濃い部分が難溶解性ポリマー、淡い部分が易溶解性ポリマーである。なお、相溶性の比較的良いポリマーアロイ系では、島が10nm程度まで超微細化され、これらが一部集合した数珠状の島形状を採る場合もある(図5)。ポリマーアロイ繊維中のポリマー種類は溶解性の異なる2種以上であれば良く、必要に応じて難溶解性ポリマー、易溶解性ポリマーの種類を増やすことができ、また相溶化剤を併用することももちろん可能である。
【0021】
さらに、直径200nm以上の島、すなわち粗大な凝集ポリマー粒子の存在比が島成分全体に対し面積比で3%以下であることが重要である。可視光の波長は400〜800nm程度であるため、直径200nm以上の島がほとんど存在しないことにより、多孔性繊維とした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。ここで、島はややひずんだ楕円形状となる場合があり必ずしも真円とは限らないため、直径は島面積から円換算で求めたものとする。また、島全体に対する面積は、繊維断面中に存在する全ての島ポリマーを合計した面積であり、繊維断面観察やポリマーブレンド比から見積もることができる。直径200nm以上の島ポリマーの面積比は好ましくは1%以下である。より好ましくは直径100nm以上の島ポリマーの面積比は3%以下であり、さらに好ましくは直径100nm以上の島ポリマーの面積比は1%以下である。
【0022】
さらに、捲縮特性の指標であるCR値が20%以上であることが重要である。ここでCR値とは以下のようにして定義されるものである。すなわち、繊維糸条をかせ取りし、無荷重下にて難溶解性ポリマーがナイロンの場合は60℃、ポリエステルの場合は90℃の水で20分間処理し、その後、一昼夜風乾させたものを水中で0.0018cN/dtex(2mg/デニール)の初荷重と0.088cN/dtex(0.1g/デニール)の伸長荷重を掛け2分後のかせ長を測定し(L1(mm))、その後伸長荷重を除重してから2分後のかせ長を測定する(L2(mm))。そして、以下の式にしたがい計算を行う。
【0023】
CR値(%)=[(L1−L2)/L1]×100
本発明のようにポリマーアロイ捲縮糸のCR値が20%以上であれば該ポリマーアロイ捲縮糸を製織、製編などして布帛化し易溶解性ポリマーを除去した繊維製品はウールや綿などの天然繊維のように嵩高なものとなる。CR値は好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上である。
【0024】
また、島の平均直径が1〜100nmであると、島ポリマーを除去することにより従来の多孔繊維よりも孔サイズの小さなナノポーラスファイバーが得られるため好ましい。細孔サイズがナノレベルになると、可視光の散乱がほとんど起こらなくなるために発色性が著しく向上するだけでなく、有害な紫外線を大きく散乱するようになり、UVカットという新たな機能が発現する。さらに、繊維表面積が飛躍的に増大するために、従来の多孔繊維では予想できなかった優れた吸湿性や吸着性が発現するという大きな利点がある。島の平均直径は、より好ましくは1〜50nmである。
【0025】
上記のように島ポリマーが均一に超微分散化することによって、島ポリマーに低融点や低軟化点のポリマーを用いても、高温処理が行われる捲縮加工や撚糸等の糸加工や布帛加工の工程通過性を向上し、さらに得られる製品の品位も向上できるという利点もある。
【0026】
本発明の第2の様態は、溶解性の異なる2種以上のポリマーからなり、1層の平均厚みが0.1〜50nmであり、かつ層状構造領域を繊維横断面積あたり50%以上有し、CR値が20%以上であるポリマーアロイ捲縮糸である。ここで層状構造とは、繊維横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した時、以下の状態を示すものである。すなわち、ブレンドされた異種ポリマー同士が層を形成し互いに入り組み合って存在している状態である(図7、繊維横断面TEM写真)。ここで、TEMのサンプルは、濃い部分が難溶解性ポリマー、淡い部分が易溶解性ポリマーである。また、層を形成するという点でいわゆる海海構造(図10、繊維横断面TEM写真)とも明確に区別されるものである。海海構造はポリマーブレンドにおいて海/島が逆転する近傍のブレンド比で現れる極めて不安定な構造であり、当然この領域では安定紡糸を行うのは極めて困難である。
【0027】
ここで、繊維横断面に占める層状構造領域の割合は50%以上であることが重要である。これにより、後述するようなナノポーラスファイバーの形成が容易となり合成繊維の永年の課題であった吸湿・吸着性に優れた繊維を得ることができるとともに、力学特性や耐熱性を著しく向上することが可能なのである。繊維横断面に占める層状構造の割合は好ましくは95%以上である。なお、ここで繊維横断面に占める層状構造領域の割合は繊維横断面のTEM写真から求めることができる。例えば、図8に示すように、点線で囲んだ部分が層状構造領域であり、それ以外(繊維表層部分)は海島構造である。この場合には、繊維横断面積と層状構造部分の面積から、繊維横断面に占める層状構造の割合を計算することができる。
【0028】
ここで、繊維横断面方向における易溶解性ポリマー1層の平均厚みは1〜50nmであれば、異種ポリマーが十分超微分散しており、ブレンドポリマーの性能を十分発揮できる点から好ましい。また、この層は繊維長手方向には筋として伸びているものである(図9、繊維縦断面TEM写真)。
【0029】
本発明のポリマーアロイ捲縮糸において易溶解性ポリマーはアルカリ易溶解性ポリマーであると、島ポリマー除去による多孔化工程を通常の繊維の後加工工程であるアルカリ処理工程を利用できるため好ましい。例えば、易溶解性ポリマーとしてポリスチレン等の有機溶媒溶解性ポリマーを用いた場合は防爆設備が必要であることを考えると大きなメリットである。易溶解性ポリマーは熱水可溶性ポリマーであると、繊維の精練工程で島ポリマー除去できるためさらに好ましい。アルカリ易溶解性ポリマーとしては例えばポリエステルやポリカーボネート等を挙げることができ、熱水可溶性ポリマーとしては親水基を多量に共重合したポリエステル、またアルキレンオキサイドやポリビニルアルコール、またそれらの変性物等を挙げることができる。
【0030】
難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーのブレンド比は特に制限は無いが、本発明のポリマーアロイ捲縮糸からナノポーラスファイバーを得る場合には難溶解性ポリマーのブレンド比を40〜95重量%とすることが好ましい。難溶解性ポリマーのブレンド比は、より好ましくは70〜90重量%である。
【0031】
また、本発明のポリマーアロイ捲縮糸は粗大な凝集ポリマー粒子を含まないため紡糸工程が公知技術(特許文献1〜4)よりも安定化し、糸斑の小さな繊維が得られやすいという特徴を有する。糸斑はウースター斑(U%)で評価することが可能であるが、ポリマーアロイ捲縮糸の加工原糸のU%を0.1〜5%とすると、後に行う仮撚等の捲縮加工工程で毛羽、未解撚の発生を抑制することができ本発明の目的である嵩高で捲縮品位が良好な捲縮糸を得ることができ、得られた捲縮糸のU%も0.1〜5%とすることができ好ましい。また、アパレルやインテリア、車両内装等の繊維製品にした際、染色斑が小さく品位の高い物が得られ好ましい。特に仮撚り加工の場合はU%の小さな原糸を用いることで解撚工程が安定化するため、高捲縮でしかも未解撚などの無い品位の良い仮撚り加工糸が得られるのである。捲縮糸および捲縮加工原糸のU%はより好ましくは0.1〜2%、さらに好ましくは0.1〜1.5%である。また、特にアパレル用途で杢調を出す場合には、U%が3〜10%の太細糸とすることもできる。
【0032】
本発明のポリマーアロイ捲縮糸の強度は2cN/dtex以上とすることで、撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。強度は好ましくは3cN/dtex以上である。また、伸度は15〜70%であれば、やはり撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。
【0033】
本発明のポリマーアロイ捲縮糸は、三葉断面、十字断面、中空断面等様々な繊維断面形状を採用することができる。また、長繊維、短繊維、不織布、熱成形体等様々な繊維製品形態を採ることができる。そして、シャツやブルゾン、パンツ、コートといった快適衣料用途のみならず、カップやパッド等の衣料資材用途、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリア用途、さらにフィルター等の産業資材用途、車両内装用途にも好適に用いることができる。
【0034】
本発明のポリマーアロイ捲縮糸の製造方法は特に制限されるものではないが、例えば下記のような方法を採用することができる。
【0035】
すなわち、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーを溶融混練し、難溶解性ポリマーおよび/または易溶解性ポリマーが微分散化した難溶解性ポリマー/易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイを得る。そして、これを溶融紡糸後、仮撚等の捲縮加工を施すことにより本発明のポリマーアロイ捲縮糸を得ることができる。ここで、溶融混練方法が重要であり、押出混練機や静止混練器等により強制的に混練する事により粗大な凝集ポリマー粒子の生成を大幅に抑制することができるのである。公知技術(特許文献1〜4)ではいずれもチップブレンド(ドライブレンド)を用いているため、ブレンド斑が大きく島ポリマーの凝集を防ぐことができなかったのである。強制的に混練する観点から、混練装置としては二軸押出混練機、あるいは分割数100万分割以上の静止混練器を用いることが好ましい。二軸押出混練機を用いる場合には、ニーディングディスクから成る混練部長はスクリュー有効長の20〜40%とすることで、高混練と滞留時間短縮によるポリマーの熱劣化抑制を両立させることができる。また、混練するポリマーの供給方法としては、ポリアミドとポリエステルを別々に計量、供給することで経時的なブレンド比の変動を抑制できる。この時、ペレットとして別々に供給しても、溶融状態で別々に供給しても良い。また、2種のポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、一方を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしても良い。
【0036】
一方、島ポリマーの再凝集を抑制する観点からポリマーアロイ形成、溶融から紡糸口金から吐出するまでの滞留時間も重要であり、ポリマーアロイの溶融部先端から紡糸口金から吐出するまでの時間は30分以内とすることが好ましい。特にナイロンと親水基共重合PETのアロイの場合は、親水基共重合PETが再凝集し易いため注意が必要である。
【0037】
また、島直径の微小化にはポリマーの組み合わせも重要であり、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーの親和性を上げることで島となる易溶解性ポリマーを超微分散化し易くなる。例えば、難溶解性ポリマーとしてナイロン、易溶解性ポリマーとしてPETを用いる場合には、PETに親水性成分である5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SSIA)を共重合した親水基共重合PETを用いると、ナイロンとの親和性を向上させることができる。特にSSIAの共重合率が4mol%以上の親水化PETを用いることが好ましい。また、両者の溶融粘度比も重要であり、海ポリマー/島ポリマーの粘度比が大きくなるほど島ポリマーに大きな剪断力がかかり島が微分散化し易くなる。ただし、過度に粘度比が大きくなると混練斑や紡糸性悪化を引き起こすため、粘度比は0.1〜2程度とすることが好ましい。
【0038】
ところで、ポリアミドはポリエステルに比べ耐熱性に劣り、熱劣化によりゲル化する傾向があることが知られている。さらに、ポリアミドとポリエステルをポリマーアロイ化すると、ポリエステルの分子鎖末端が触媒的に働くためか、ポリアミド単独の場合よりもはるかにゲル化し易い傾向があることが本発明を検討する中から明らかになってきた。ポリアミドはゲル化すると、糸切れや糸斑が発生するだけでなく、ポリマーの濾過圧力や、口金背面圧力等の工程圧力が上昇し、吐出量の上限が低くなったり、パックライフが短くなるため、単位時間あたりの生産性が大幅に低下するだけでなく、糸切れが頻発するといった大きな問題を引き起こしていた。このため、ポリアミド/ポリエステルアロイ繊維を得る場合には、ゲル化を抑制することが重要であった。このため、ポリマーアロイに用いるポリアミドのアミン末端を酢酸等で封鎖し、アミン末端基量を5.5×10-3mol当量/g以下とすることが好ましい。
【0039】
上記したような紡糸法の特徴により、粗大な凝集ポリマー粒子の生成が抑制されるため、公知技術(特許文献1〜4)に比べ、ポリマーアロイの粘弾性バランスが崩れにくく紡糸吐出が安定し、曳糸性や糸斑を著しく向上できるという利点もある。さらに、口金孔径としては通常よりも大きい物を用いると、口金孔でのポリマーアロイへの剪断応力を低減し粘弾性バランスを保つことができるため、紡糸安定性が向上する。具体的にはポリマアロイの口金での吐出線速度を15m/分以下できる口金を用いることが好ましい。加えて、糸条の冷却も重要であり、口金から積極的な冷却開始位置までの距離は1〜15cmとすることで、伸長流動が不安定化しやすいポリマーアロイを迅速に固化させることで紡糸を安定化することができるのである。
【0040】
また、島ポリマーを微細化する観点からは紡糸ドラフトは100以上とすることが好ましい。さらに未延伸糸の寸法や物性の経時変化を抑制するためには紡糸速度は2500m/分以上として繊維構造を発達させることが好ましい。
【0041】
捲縮加工工程での加工条件は、特に限定されるものではなく、捲縮付与の方法としては仮撚法、擦過法、ケンネル法、スタッファ法、エアジェット法、賦型法など種々の方法を採用でき、中でも捲縮特性、糸掛け操作性、加工安定性の良好な仮撚法が好ましい。仮撚回転装置としては、スピンドル式、摩擦式、エアジェット式などが挙げられるが、糸掛け操作性、加工安定性の面から3軸外接型摩擦仮撚装置やベルトニップ仮撚装置が特に好ましい。仮撚のヒーター温度は仮撚するポリマーアロイ原糸のポリマー組成によって異なるが、強伸度の低下や単糸間の融着によるくびれや未解撚などの捲縮異常を起こさない最も高い温度に設定することが好ましい。これにより、熱セット性がよく、捲縮の強固なポリマーアロイ捲縮糸を得ることができる。例えば、難溶解性ポリマーとしてナイロン、易溶解性ポリマーとしてPETを用いたポリマーアロイ糸を仮撚加工原糸として用いた場合は、仮撚工程のヒーター温度範囲は130〜200℃が好適である。130℃以上として、捲縮耐久性を向上せしめ、捲縮を十分に発現させ、200℃以下として、ポリマーアロイ捲縮糸の強伸度低下を防止して、融着防止や未解撚防止を図り、仮撚残存トルクを抑制し取り扱い易い糸を提供する。また必要に応じて、仮撚加工工程後さらに熱セットすることにより、残存トルク軽減や熱寸法安定性向上を図ったり、交絡処理を施したり、追撚したりしてもよい。
【0042】
本発明のポリマーアロイ捲縮糸はそのままでも使用可能であるが、易溶解性ポリマーを溶媒により除去することによりナノレベルの細孔を無数に有するナノポーラスファイバーを得ることができる。ここで、ナノレベルの細孔とはTEMで観察できる細孔直径が50nm以下のものを言うものである。本発明のポリマーアロイ捲縮糸から作製したナノポーラスファイバーの一例を図3(繊維横断面TEM写真)に示すが、濃い部分は高密度領域、淡い部分は低密度領域を示している。ここで淡い部分が細孔に相当すると考えられる。これから分かるように本発明のポリマーアロイ捲縮糸を用いると、粗大細孔の無い発色性に優れたナノポーラスファイバーを得ることができるのである。
【0043】
このナノポーラスファイバーは無数のナノレベルの細孔により比表面積が増大し、優れた吸湿・吸着性を示すというメリットがある。実際に、N6ナノポーラスファイバーでは吸湿性の指標であるΔMRが5〜6%に達し、綿(ΔMR=4%)以上の優れた吸湿性を示すのである。また、このナノポーラスファイバーは水蒸気だけでなく種々の物質の吸着特性にも優れ、消臭繊維としても有用である。さらに、綿並の吸水性を発揮する場合もあるだけでなく、ウールのように糸長手方向に可逆的な水膨潤性を示す場合もあり、合成繊維でありながら天然繊維の機能を発現することも可能である。
【0044】
また、本発明のポリマーアロイ捲縮糸から得られるナノポーラスファイバーは、平均細孔径を100nm以下、また粗大細孔面積比を3%以下とできるため、従来の多孔繊維に比べ発色性低下が無く、高品質の染色布帛を提供することができる。なお、粗大細孔面積比とは細孔直径が50nm以上の細孔の細孔全体に対する面積比である。ナノポーラスファイバーの平均細孔直径は50nm以下、粗大細孔面積比は0.1%となると特に好ましい。なお、ここで言う細孔とは繊維中に含まれる無機粒子によるボイドは除くものとする。
【0045】
以上のように、本発明のポリマーアロイ捲縮糸から得られるナノポーラスファイバーは従来の合成繊維には無い優れた特性を有するため、シャツやブルゾン、パンツ、コートといった快適衣料用途のみならず、カップやパッド等の衣料資材用途、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリア用途、さらにフィルター等の産業資材用途、車両内装用途にも好適に用いることができる。さらに、機能性分子の吸着により燃料電池の電極や血球分離といったIT、メディカル関係のような最先端材料としても利用することができる。
【0046】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0047】
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機製キャピログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0048】
B.ナイロンの相対粘度
98%硫酸を用い0.01g/mlの溶液を調製し、25℃で測定した。
【0049】
C.ポリエステルの極限粘度[η]
オルソクロロフェノール中25℃で測定した。
【0050】
D.融点
Perkin Elmaer DSC-7を用いて、2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0051】
E.ポリアミドのアミン末端基量
ポリマー1gをフェノール−エタノール混合溶媒に溶解し、滴定によりアミン末端基量をポリアミドの重量ベースで求めた。
【0052】
F.力学特性
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0053】
G.ポリマーアロイ捲縮糸および捲縮加工原糸のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
【0054】
H.TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維横断面を観察した。また、必要に応じて金属染色を施した。
【0055】
TEM装置 : 日立社製H-7100FA型
I.島の平均直径
島の平均直径は以下のようにして求める。すなわち、TEMによる繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて島ポリマーの円換算による直径を求めた。平均直径は、それらの単純な数平均値を求めた。この時、平均に用いる島ドメイン数は同一横断面内で無作為抽出した300以上の島ドメインを測定した。ただし、TEM観察用のサンプルは超薄切片とするため、サンプルに破れや穴あきが発生しやすい。このため、島直径解析時にはサンプルの状況と照らし合わせながら慎重に行った。ナノポーラスファイバーの細孔径の解析もこれに準じた。また、層状構造アロイの場合の1層の平均厚みは、層部分の厚みを300個所以上測定し、これの平均値を用いた。
【0056】
J.ポリマーアロイ捲縮糸のCR値
捲縮糸を50cm程度の10回巻きかせにし、一昼夜放置後、実質的に無荷重の状態で難溶解性ポリマーがナイロンの場合は60℃、ポリエステルの場合は90℃の水で20分間処理し、その後、一昼夜風乾させたものを準備した。次に水中で0.0018cN/dtex(2mg/デニール)の初荷重と0.088cN/dtex(0.1g/デニール)の伸長荷重を掛け2分後のかせ長を測定し(L1(mm))、その後伸長荷重を除重してから2分後のかせ長を測定した(L2(mm))。そして、以下の式によりCR値を計算した。
【0057】
CR値(%)=[(L1−L2)/L1]×100
K.繊維製品の嵩高度
織物、編物などの繊維製品の上から6.86×102Pa(7gf/cm2)の圧力をかけ、10秒後の厚みを測定し(t(cm))、これとは別に布帛の単位面積あたりの質量を測定した(w(g/cm2))。そして、以下の式にしたがい計算を行った。
【0058】
嵩高度(cm3/g)=t/w
L.発色性評価
得られたサンプルを常法にしたがい染色し、同条件で染色した比較サンプルとの発色性を比較した。比較サンプルはポリマーアロイ繊維の海ポリマーを単独で製糸したものを用いた。目視判定で、比較とほぼ同等の発色性が得られたものを合格(○)とし、それよりも劣るものを不合格とした(△、×)。
【0059】
M.吸湿性(ΔMR)
サンプルを秤量瓶に1〜2g程度はかり取り、110℃に2時間保ち乾燥させ重量を測定し(W0)、次に対象物質を20℃、相対湿度65%に24時間保持した後重量を測定する(W65)。そして、これを30℃、相対湿度90%に24時間保持した後重量を測定する(W90)。そして、以下の式にしたがい計算を行う。
【0060】
MR65=[(W65−W0)/W0]×100% ・・・・・ (1)
MR90=[(W90−W0)/W0]×100% ・・・・・ (2)
ΔMR=MR90−MR65 ・・・・・・・・・・・ (3)
実施例1
相対粘度2.15、溶融粘度274poise(280℃、剪断速度2432sec-1)、融点220℃、アミン末端基量5.0×10-3mol当量/gのN6(80重量%)と極限粘度0.60、溶融粘度1400poise(280℃、剪断速度2432sec-1)、融点250℃の0.05重量%の酸化チタンを含有する5−ナトリウムスルホイソフタル酸5mol%共重合した共重合PET(20重量%)を二軸押出混練機で260℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。この時、N6と共重合PETを別々に計量し、別々に混練機に供給した。また、混練機のスクリューの直径は37mm、有効長は1670mm、L/D=45.1であり、混練部(ニーディングディスク)長はスクリュー有効長の28%とした。そして、このポリマーアロイを270℃の溶融部2で溶融し、紡糸温度275℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、溶融紡糸した(図15)。この時、溶融部2から吐出までの滞留時間は10分間であった。吐出孔径0.3mm、吐出孔長0.65mmの口金を用い、単孔あたりの吐出量は2.1g/分、ポリマーアロイの口金吐出線速度は28m/分であった。また、口金下面から冷却開始点(チムニー5の上端部)までの距離は9cmであった。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、口金4から1.8m下方に設置した給油ガイド7で給油された後、非加熱の第1引き取りローラー8および第2引き取りローラー9を介して3800m/分で巻き取られた。この時の紡糸性は良好であり、口金直下で吐出ポリマーが膨れるバラス現象や、曳糸性不足による断糸等は発生せず、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。また、ナイロンで問題となる巻き取りパッケージの経時膨潤によるパッケージ崩れも無く、優れた取り扱い性であった。また、このポリマーアロイ未延伸糸は強度2.6cN/dtex、伸度138%、U%0.9%の優れた物性を示した。これに図16の装置を用い延伸仮撚加工を施し、仮撚方向SおよびZのポリマーアロイ仮撚糸を得た。この時、延伸倍率は1.5倍、ヒーター23温度は165℃、仮撚回転子25としてウレタンディスクの3軸外接型摩擦仮撚装置を用い、ディスク表面速度/加工糸速度の比(D/Y比)は1.65とした。加工性は良好で、断糸やローラー、仮撚回転子への巻き付きは見られなかった。得られた87dtex、24フィラメントの仮撚り加工糸は強度3.5cN/dtex、伸度29%、熱収縮率8%、U%1.0%、CR38%の優れた物性を示し(表1)、未解撚もなく捲縮の品位も良好であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、N6が海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し(図1)、島の平均直径は25nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.9%以下であった。ここで、島成分全体に対する面積比とは島成分の面積の総和に対する比率のことを言い、粗大な凝集ポリマーの目安となるものである。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造を形成していることが分かった(図2)。なお、溶融混練したポリマーアロイチップの断面TEM写真を図4に示すが、島ポリマーが粒径20〜30nmまで超微分散化しており、繊維横断面での島ポリマー直径(図1)同等であった。口金吐出から延伸仮撚を通じてポリマーは200倍程度に引き延ばされ、本来、繊維横断面中では島ポリマー直径はポリマーアロイ中に比べ1/14以下になるはずであるが、原料であるチップと繊維横断面での島ポリマー直径がほぼ同じであるということは、ポリマーアロイの溶融から口金吐出されるまでに島ポリマーが再凝集したことを示しており、これを抑制しながら島ポリマーを超微分散させるためには本実施例のように紡糸条件を適切に選ぶことが重要であることがわかる。
【0061】
そして、仮撚方向SおよびZのポリマーアロイ仮撚糸を引き揃え、これを20Gの丸編みに製編し、3重量%の水酸化ナトリウム水溶液(95℃、浴比1:50)で1時間処理することにより、ポリマーアロイ仮撚糸から共重合PETの99%以上を溶解除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる嵩高度63cm3/gの繊維製品を得た。
【0062】
このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れ、染色斑も無かった。さらにこれの吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.6%と綿を凌駕する優れた吸湿性を示した。
【0063】
このN6ナノポーラスファイバーを丸編みから引き出し、繊維側面をSEMにより観察したところ、倍率2000倍程度では繊維表面に凹凸は見られずきれいな表面形態であった。また、このN6ナノポーラスファイバーの繊維横断面をTEMで観察した(図3)ところ、直径20〜30nm程度の細孔の存在が確認できた。この細孔の平均値は25nmであり、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。また、図3から明らかなように、これは独立孔を有するものであった。さらに、これの力学特性を測定したところ、強度2.6cN/dtex、伸度30%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。N6ナノポーラスファイバーの物性は表2に示した。
【0064】
実施例2
N6と共重合PETブレンド比を95重量%/5重量%とし実施例1と同様に溶融混練を行った。そして、単孔あたりの吐出量、口金孔数を変更して実施例1と同様に溶融紡糸、延伸仮撚り加工を行い、90dtex、34フィラメントのポリマーアロイ捲縮糸を得た。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られた高配向未延伸糸は、強度2.7cN/dtex、U%0.8%と優れたものであった。また、延伸仮撚り加工工程での糸切れも無く、加工性も良好であった。さらに、CR値は45%と大きな嵩高性を示しただけでなく、未解撚も無く捲縮品位にも優れたものであった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察した結果、海島構造を示し、島の平均直径は25nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も1%以下であった。
【0065】
このポリマーアロイ捲縮糸に300T/mの甘撚りを施し、経糸および緯糸に用いて平織り物を作製し、実施例1と同様にアルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる織物を得た。このN6ナノポーラスファイバーからなる織物に染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れ、染色斑も無かった。この織物からN6ナノポーラスファイバーを抜き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径20nm以下の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。N6ナノポーラスファイバーは表2に示すように優れた物性であった。
【0066】
実施例3
N6と共重合PETブレンド比を50重量%/50重量%とし実施例1と同様に溶融混練を行った。そして、単孔あたりの吐出量、口金孔数を変更して実施例1と同様に溶融紡糸、延伸仮撚り加工を行い、150dtex、34フィラメントのポリマーアロイ捲縮糸を得た。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られた高配向未延伸糸は、強度2.5cN/dtex、U%1.0%と優れたものであった。また、延伸仮撚り加工工程での糸切れも無く、加工性も良好であった。さらに、未解撚も無く捲縮品位にも優れたものであった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察結果を図5に示すが、共重合PETは直径10〜20nmの島が数珠状に連なって存在しており、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も1%以下であった。また、糸物性は表1に示すとおり優れたものであった。
【0067】
このポリマーアロイ捲縮糸に300T/mの甘撚りを施し、経糸および緯糸に用いて平織り物を作製し、実施例1と同様にアルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる織物を得た。このN6ナノポーラスファイバーからなる織物に染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れ、染色斑も無かった。この織物からN6ナノポーラスファイバーを抜き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径20nm以下の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。N6ナノポーラスファイバーは表2に示すように優れた物性であった。
【0068】
実施例4
N6と共重合PETの溶融粘度比を0.9、またN6のアミン末端基量を6.5×10-3mol当量/gとして実施例1と同様に溶融混練、溶融紡糸、延伸仮撚り加工を行った。この時、N6のアミン末端基量が多いため、24時間の連続紡糸で糸切れが2回と、問題になるほどではないが実施例1に比べると紡糸性がやや悪化し、得られた高配向未延伸糸のU%も2%とやや糸斑が大きくなった。なお、高配向未延伸糸の強度は2.5cN/dtexであった。また、延伸仮撚り加工工程でやや解撚が不安定となり、実施例1に比べるとやや未解撚が散見された。得られたポリマーアロイ捲縮糸は、いずれも粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径200nm以上の島ポリマーは島成分全体に対し面積比で0.1%以下、直径100nm以上の島ポリマーも面積比で1%以下であり、CR値は32%であった。ただし、実施例1に比べると紡糸の際の糸斑がやや大きかったため、U%が2.2%と捲縮糸の糸斑も大きくなった。
【0069】
このポリマーアロイ捲縮糸を実施例1と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであったが、やや染色斑が見られた。N6ナノポーラスファイバーは表2に示すように優れた物性であった。
【0070】
実施例5
共重合PETを5−ナトリウムスルホイソフタル酸を12.5mol%、イソフタル酸を26mol%共重合したPETとして、N6と共重合PETの重量比を50重量%/50重量%とし、混練温度を245℃、仮撚り加工でのヒーター13温度を150℃とし実施例3と同様にして溶融混練、溶融紡糸、延伸仮撚り加工を行った。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られた高配向未延伸糸は、強度2.5cN/dtex、U%1.0%と優れたものであった。また、延伸仮撚り加工性も良好であり、未解撚の無い品位に優れた捲縮糸が得られた。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察結果を図6に示すが、共重合PETは短軸10〜30nm、長軸50〜100nm程度の層状の島として存在しており、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も1%以下であった。また、糸物性は表1に示すとおり優れたものであった。
【0071】
このポリマーアロイ捲縮糸を実施例3と同様に製織後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる織物を得た。このN6ナノポーラスファイバーからなる織物に染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。また、この織物からN6ナノポーラスファイバーを抜き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径20nm以下の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。N6ナノポーラスファイバーは表2に示すように優れた物性であった。
【0072】
実施例6
共重合PETの代わりにポリアルキレンオキサイド誘導体の熱水可溶性ポリマーである第一工業製薬株式会社製“パオゲンPP−15”(融点55℃、溶融粘度10000poise、280℃、2432sec-1)を用い混練温度を245℃として実施例1と同様に溶融混練した。そして、単孔あたりの吐出量と口金孔数を変更、紡糸速度を4000m/分として、実施例1と同様に溶融紡糸を行い66dtex、68フィラメント、強度2.7cN/dtex、U%1.2%のポリマーアロイ繊維を得た。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。これに延伸倍率を1.2倍として実施例1と同様に延伸仮撚り加工を施したが、島ポリマーの融点が55℃であるため、仮撚り工程での解撚がやや不安定となり、得られた捲縮糸も実施例1に比べると未解撚が散見されるものであった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は1.3%であった。また、糸物性は表1に示すとおり優れたものであった。
【0073】
このポリマーアロイ捲縮糸を実施例1と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理することにより熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。
【0074】
この丸編みからN6ナノポーラスファイバーを引き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径30nm程度の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
【0075】
実施例7
共重合PETの代わりに重量平均分子量12万、溶融粘度340poise(240℃、2432sec-1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)を用い混練温度を220℃として実施例1と同様に溶融混練した。
【0076】
ポリ乳酸の重量平均分子量は以下のようにして求めた。試料のクロロホルム溶液にTHF(テトロヒドロフラン)を混合し測定溶液として、これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)Waters2690を用いて25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。なお、実施例1で用いたN6の240℃、2432sec-1での溶融粘度は570poiseであった。
【0077】
そして、単孔あたりの吐出量と口金孔数を変更、紡糸速度を3500m/分として、実施例1と同様に溶融紡糸を行い105dtex、36フィラメント、強度3.1cN/dtex、伸度107%、U%1.2%のポリマーアロイ繊維を得た。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。これに延伸倍率を1.4倍として実施例1と同様に延伸仮撚り加工を施し、76dtex、36フィラメント、強度4.0cN/dtex、伸度29%、U%1.3%、CR35%の仮撚り加工糸を得た。この時、ポリL乳酸の融点を考慮し、ヒーター温度を160℃としたため、未解撚がほとんど無い品位にも優れた仮撚り加工糸が得られ、延伸仮撚りでの工程通過性も良好であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の島の面積比は1%以下であった。また、糸物性は表1に示すとおり優れたものであった。
【0078】
このポリマーアロイ捲縮糸を実施例1と同様に丸編み後、アルカリ処理することによりポリL乳酸の99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。
【0079】
この丸編みからN6ナノポーラスファイバーを引き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径30nm程度の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。また、得られたナノポーラスファイバーの強度は実施例1に比べても高いものであった。
【0080】
参考例8
実施例1で用いたN6と共重合PETを図17の装置を用いてそれぞれ270℃、290℃で溶融した後、紡糸パック3内に設置した静止混練器18(東レエンジニアリング社製“ハイミキサー”10段)により104万分割して混合した。そして、これを絶対濾過径20μmの金属不織布フィルターで濾過した後、実施例1と同様に紡糸、延伸仮撚り加工し、ポリマーアロイ捲縮糸を得た。この時、24時間の紡糸で糸切れはゼロであり、得られた高配向未延伸糸は、強度2.7cN/dtex、U%0.8%と優れたものであった。また、延伸仮撚り加工性も良好であり、未解撚の無い品位に優れた捲縮糸が得られた。
【0081】
得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察結果を図7に示すが、N6と共重合PETは層状の構造を示し、PET層部分の平均厚みは20nmであり、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーあるいは層厚み200nm以上の部分の共重合PET全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上あるいは層厚み100nm以上の部分の面積比も1%以下であった。また、層状構造領域の面積を見積もったところ、繊維横断面全体に対して98%であり、繊維断面のほとんどが層状構造領域を形成していた。また、このポリマーアロイ繊維の縦断面をTEMで観察したところ層が筋状になっていた(図9)。また、糸物性は表1に示すとおり優れたものであった。
【0082】
このポリマーアロイ捲縮糸を実施例1と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。また、このN6ナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。N6ナノポーラスファイバーは表2に示すように優れた物性であった。
【0083】
この丸編みからN6ナノポーラスファイバーを引き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、10〜20nm程度の微細な濃淡パターンを示し、直径20nm以下の細孔が多数存在することが示唆された。また、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
【0084】
実施例9
N6をN66として参考例8と同様に溶融紡糸、延伸仮撚り加工を行った。この時、紡糸温度は280℃、延伸仮撚り加工のヒーター温度は180℃、N66/熱水可溶性ポリマーのブレンド比は80重量%/20重量%とした。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られた高配向未延伸糸は、強度3.0cN/dtex、U%0.8%と優れたものであった。また、延伸仮撚り加工性も良好であり、未解撚の無い品位に優れた捲縮糸が得られた。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も1%以下であった。また、糸物性は表1に示すとおり優れたものであった。
【0085】
このポリマーアロイ捲縮糸に300T/mの甘撚りを施し、経糸および緯糸に用いて平織り物を作製し、実施例4と同様にアルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる織物を得た。このN66ナノポーラスファイバーからなる織物に染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。この織物からN66ナノポーラスファイバーを抜き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径20nm以下の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。N66ナノポーラスファイバーは表2に示すように優れた物性であった。
【0086】
比較例1
共重合PETをイソフタル酸を7mol%、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物を4mol%共重合したPETとして、N6と共重合PETの重量比を50重量%/50重量%、口金孔径を0.7mm、紡糸速度を1000m/分として実施例1と同様にして溶融混練、溶融紡糸を行った。問題となるほどではないが実施例1に比べると紡糸が不安定化し、24時間の連続紡糸の間の糸切れは2回であった。ここで得られた未延伸糸を予熱温度85℃、熱処理温度130℃、延伸倍率3倍で延伸し、強度3.0cN/dtex、U%2.3%のポリマーアロイ延伸糸を得た。これを用いて回転子15をスピナーピンとし、延伸倍率を1.01倍として仮撚り加工を行ったが、解撚がやや不安定となり、未解撚がやや多く品位に劣る物であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察結果を図11に示すが、粗大な凝集ポリマー粒子はわずかであったが、島の平均直径が143nmと大きく、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は5%であった。糸物性は表1に示した。
【0087】
このポリマーアロイ捲縮糸を実施例1と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。これの発色性評価を行ったが、実施例1に比べると発色性に劣るものであった。
【0088】
この丸編みからN6ナノポーラスファイバーを抜き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果を図12に示すが、島ポリマーが抜けた跡(金属染料が凝集し黒く見える)が潰れ幅10〜30nm、長さ100nm程度の細孔となっており、直径が50〜100nmの大きな細孔も散見された。
【0089】
比較例2
混練方法を二軸押出混練機ではなく単純なチップブレンドとして図15の装置を用い、実施例1と同様に溶融紡糸を行った。紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。しかし、わずかに得た未延伸糸を用い、ヒーター温度を160℃として実施例1と同様に延伸仮撚り加工を行ったが、糸切れが頻発しただけでなく未解撚が多く品位に劣る物であった。また、これのCR値は15%と低い物であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は10%であった。これを用いて実施例1同様にN6多孔性繊維を得たが、散乱光が多く白っぽいものであり、発色性に劣るものであった。
【0090】
このポリマーアロイ捲縮糸を実施例1と同様に丸編み後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去すると、N6ナノポーラスファイバーからなる嵩高度18cm3/gの繊維製品が得られた。
【0091】
比較例3
実施例2で用いたN6を50重量%と5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2.5mol%、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物3.5mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを50重量%を単純にチップブレンドした後、290℃で溶融し、孔径0.6mmの丸孔口金から吐出し、図15の装置を用い、紡糸速度1200m/分で溶融紡糸を行った。しかし、紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。わずかに得た未延伸糸を用いて120℃の熱プレートを用い延伸倍率2.7倍で延伸した。これにより、85dtex、24フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。これを用いて回転子15をスピナーピンとし、延伸倍率を1.01倍として仮撚り加工を行ったが、糸切れが頻発しただけでなく未解撚が多く品位に劣る物であった。また、これのCR値は16%と低い物であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は10%であった。これを用いて比較例2同様にN6多孔性繊維を得たが、散乱光が多く白っぽいものであり、発色性に劣るものであった。
【0092】
比較例4
実施例2で用いたN6を70重量%、極限粘度0.60の5−ナトリウムスルホイソフタル酸を4.5mol%、分子量4000のポリエチレングリコールを8.5重量%共重合したポリエチレンテレフタレートを30重量%を単純にチップブレンドして280℃で溶融し、孔径0.6mmの丸孔口金から吐出し、図15の装置を用い、紡糸速度1000m/分で溶融紡糸を行った。しかし、紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。わずかに得た未延伸糸を用いて延伸倍率3.35倍、予熱温度90℃、熱処理温度130℃で延伸・熱処理した。これにより、85dtex、24フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。これを用いて比較例3と同様に仮撚り加工を行ったが、糸切れが頻発しただけでなく未解撚が多く品位に劣る物であった。また、これのCR値は16%と低い物であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は8%であった。これを用いて比較例2同様にN6多孔性繊維を得たが、散乱光が多く白っぽいものであり、発色性に劣るものであった。
【0093】
比較例5
実施例2で用いたN6を77重量%、ホモPETを20重量%、相溶化剤としてブロックポリエーテルポリアミド(ポリエチレングリコール部分45重量%+ポリ−ε−カプロラクタム部分55重量%)を3重量%を単純にチップブレンドして図15の装置を用い、比較例1と同様に溶融紡糸を行った。しかし、紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。わずかに得た未延伸糸を用いて比較例1と同様に延伸・熱処理した。これにより、77dtex、24フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。これを用いて比較例3と同様に仮撚り加工を行ったが、糸切れが頻発しただけでなく未解撚が多く品位に劣る物であった。また、これのCR値は15%と低い物であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は14%であった。これを用いて比較例2同様にN6多孔性繊維を得たが、散乱光が多く白っぽいものであり、発色性に劣るものであった。
【0094】
比較例6
N6/共重合PETブレンド比を25重量%/75重量%として比較例3と同様に溶融紡糸を行った。しかし、紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。わずかに得た未延伸糸を用いて120℃の熱プレートを用い延伸倍率2.7倍で延伸した。これにより、85dtex、24フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。これの横断面をTEMで観察したところ、比較例3とは異なりアルカリ難溶解性のN6が島、アルカリ易溶解性の共重合PETが海を形成していた。また、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は10%であった。
【0095】
これを実施例1同様にアルカリ処理を施し、海共重合PETを除去したところ、N6極細繊維が強固に接着した繊維が得られた。しかし、この繊維は強度を測定することも困難であり、実用的な繊維として取り扱うことは困難であった。
【0096】
次に、ポリマーアロイ繊維をギ酸で処理し島N6を溶解除去したが、同時に共重合PETの脆化も著しく、ぼろぼろと崩れやすい物であり実用的な繊維として取り扱うことは困難であった。このようにこのポリマーアロイ繊維は実質的に多孔性繊維を得ることができず、本発明の目的を達成できない物であった。
【0097】
比較例7
エチレンナフタレートを全酸成分に対し10mol%共重合した共重合PET(極限粘度0.60)とポリエーテルイミド(ゼネラルエレクトリック社製“ウルテム”−1000)を30mφの二軸押出混練機を用い、320℃で混練した。この時、共重合PETを70重量%、ポリエーテルイミドを30重量%として混練を行った。
【0098】
ここで得られたポリマーアロイチップを十分乾燥後、口金孔数6ホール、単孔吐出量0.6g/分、紡糸温度315℃、紡糸速度500m/分で溶融紡糸した。海ポリマーである共重合PETの融点に比べ紡糸温度が高すぎたため紡糸が不安定化し、12時間の紡糸で10回の糸切れと紡糸性は不良であった。わずかに得られた未延伸糸を用いて、予熱ローラー温度90℃、ホットプレート温度120℃、延伸倍率3.0倍で延伸を行ったが、糸切れが頻発した。ここで得られた延伸糸の強度は1.3cN/dtexと低いものであった。これは、混練温度、紡糸温度がメジャー成分である共重合PETにとって高すぎたため熱分解によるポリマー劣化が発生したためと考えられる。また、これのU%も16%と極度に悪いものであった。
【0099】
この糸を用いてヒーター温度を200℃として比較例3と同様に仮撚り加工を行ったが、糸切れが頻発し実質的に仮撚り加工不能であった。そこで、ヒーター温度を120℃まで低温化することでわずかに仮撚り加工糸を得ることができたが、CR値は8%と極端に低い物しか得られなかった。
【0100】
このように、ポリマーに適した混練、紡糸条件を設定しないと高強度で糸斑の小さな糸が得られず、捲縮加工が不能となってしまった。以上のように、混練、紡糸条件をポリマー毎に最適化して初めて実用に耐えうる繊維が得られるのである。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
実施例10
融点255℃のホモPET(溶融粘度1110poise、280℃、2432sec-1)を80重量%、実施例6で用いた熱水可溶性ポリマーを20重量%として275℃で実施例1と同様に二軸押出混練機を用いて溶融混練を行った。これを溶融部2の温度を280℃、紡糸温度を280℃とし、単孔吐出量と口金孔数を変更して実施例1と同様に溶融紡糸を行ったところ、紡糸性は良好で24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。
得られた高配向未延伸糸は、強度2.7cN/dtex、U%1.0%の優れたものであった。これにヒーター13温度を180℃として延伸仮撚り加工を行い、90dtex、36フラメント、CR値30%、強度3.3cN/dtex、伸度30%、U%1.5%、熱収縮率7%のポリマーアロイ繊維を得た。しかし、島ポリマーの融点が55℃であるため、仮撚り工程での解撚がやや不安定となり、得られた捲縮糸も実施例1に比べると問題となるほどではないが未解撚が散見されるものであった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も1%以下であった(図13)。また、糸物性は表3に示すとおり優れたものであった。
【0104】
このポリマーアロイ捲縮糸を実施例1と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理し熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、PETナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。このPETナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れ、染色斑も無かった。
【0105】
この丸編みからPETナノポーラスファイバーを抜き出し繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径20nm程度の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった(図14)。
【0106】
実施例11
ホモPETをPEG1000を8重量%、イソフタル酸を7mol%共重合したPET(融点235℃、溶融粘度1000poise、280℃、2432sec-1)として255℃で実施例10と同様に溶融混練を行った。これを溶融部2の温度を255℃、紡糸温度を255℃として実施例10と同様に溶融紡糸を行ったところ、紡糸性は良好で24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。得られた高配向未延伸糸は、強度2.7cN/dtex、U%1.0%の優れたものであった。これに実施例10と同様に延伸仮撚り加工を行い、CR値30%のポリマーアロイ捲縮糸を得たが、島ポリマーとして融点が55℃の低融点ポリマーを用いているため、仮撚り加工時にやや未解撚を生じやすいものであった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も1%以下であった。糸物性は表3に示すとおり優れたものであった。
【0107】
このポリマーアロイ繊維を実施例10と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理し熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、PETナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。このPETナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れ、染色斑も無かった。また、ΔMR=2%とPETとしては優れた吸湿性を示した。
【0108】
この丸編みからPETナノポーラスファイバーを抜き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径20nm程度の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
【0109】
実施例12
延伸仮撚り加工時のヒーター13温度を120℃として、実施例10と同様に延伸仮撚りを行ったところ、未解撚はゼロになったが、CR値が25%とやや低くなった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.1%以下であった。
【0110】
このポリマーアロイ繊維を実施例10と同様に丸編み後、100℃の熱水で2時間処理し熱水可溶性ポリマーの99%以上を除去し、PETナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。このPETナノポーラスファイバーからなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れ、染色斑も無かった。また、ΔMR=2%とPETとしては優れた吸湿性を示した。
【0111】
この丸編みからPETナノポーラスファイバーを抜き出し、繊維横断面をTEMで観察した結果、島ポリマーが抜けた跡は直径20nm程度の細孔となっており、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
【0112】
【表3】
【0113】
実施例13
実施例1および7で作製したポリマーアロイ捲縮糸を鞘糸として用いて、東レ(株)製ポリウレタン繊維糸である“ライクラ(登録商標)”をカバリングした。そして、このカバリング糸を用いてタイツ用の編み地を作製した後、実施例1と同様にアルカリ処理を行いN6ナノポーラスファイバーからなるタイツ用編み地を作製した。このタイツ用編み地の目付は100g/m2でああり、N6ナノファイバーとポリウレタン繊維糸の重量比率はそれぞれ95%と5%であった。これにシリコーン処理、揉布処理を行った。そして、このタイツ用編み地を縫製し、タイツを作製した。このタイツは実施例1のものを使用した場合はΔMRが5.6%、実施例7のものを使用した場合はΔMRが5.1%と吸湿性に富み、また繊細なタッチと人肌のようなしっとりとしたみずみずしい風合いを示し、非常に着用快適性の高いものであった。
【0114】
このタイツを1日着用後、家庭洗濯を行い、さらに着用するというサイクルで、10サイクルの着用耐久試験を行ったところ、実施例1のものを使用した場合はつま先部に若干白化が見られたが、実施例7のものを使用した場合は白化は見られなかった。これは、実施例7のナノポーラスファイバーの方が強度が高いためと考えられる。
【0115】
実施例14
単孔吐出量、孔数を変更し、実施例1と同様に溶融紡糸を行い、400dtex、96フィラメントのN6/共重合PETポリマーアロイ繊維を得た。このポリマーアロイ繊維の強度は2.5cN/dtex、伸度は100%、U%は1.2%であった。これに実施例1と同様に延伸仮撚りを施し、333dtex、96フィラメントの仮撚り加工糸を得た。得られた仮撚り加工糸は、強度3.0cN/dtex、伸度30%であった。得られたポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島ポリマーの島成分全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も1%以下であった。また、島の平均直径は27nmであった。
【0116】
この仮撚り加工糸に300ターン/mの甘撚りを施し、S撚り/Z撚り双糸で経糸および緯糸に用いて、2/2のツイル織物を作製した。そして、得られたツイル織物に実施例9と同様にアルカリ処理を施し、N6ナノポーラスファイバーからなる目付150g/m2のカーテン用生地を得た。
【0117】
また、これの吸湿率(ΔMR)は5.5%と十分な吸湿性を示した。そして、この生地を用いてカーテンを作製し6畳間に吊したところ、爽やかな室内環境とすることができ、さらに結露も抑制できるものであった。このカーテンを家庭用洗濯機で洗濯ネットに入れて洗濯・脱水したが形くずれは発生せず、良好な寸法安定性を示した。
【0118】
【発明の効果】
本発明の粗大な凝集ポリマー粒子を含まないポリマーアロイ捲縮糸により、発色性が良好で、吸着特性に優れたナノポーラスファイバーからなる嵩高布帛を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図2】実施例1のポリマーアロイ捲縮糸の繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図3】実施例1のナノポーラスファイバーの繊維横断面を示すTEM写真である。
【図4】実施例1のポリマーアロイペレットの断面を示すTEM写真である。
【図5】実施例3のポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図6】実施例5のポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図7】実施例8のポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図8】層状構造ポリマーアロイ繊維の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図9】実施例8のポリマーアロイ捲縮糸の繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図10】海海構造の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図11】比較例1のポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図12】比較例1の多孔性繊維の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図13】実施例10のポリマーアロイ捲縮糸の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図14】実施例10のナノポーラスファイバーの繊維横断面を示すTEM写真である。
【図15】紡糸装置を示す図である。
【図16】仮撚り装置を示す図である。
【図17】紡糸装置を示す図である。
【符号の説明】
1:ホッパー
2:溶融部
3:紡糸パック
4:口金
5:チムニー
6:糸条
7:集束給油ガイド
8:第1引き取りローラー
9:第2引き取りローラー
10:巻き取り糸
11:未延伸糸
12:フィードローラー
13:ヒーター
14:冷却板
15:回転子
16:デリバリーローラー
17:仮撚加工糸
18:静止混練器
Claims (10)
- 難溶解性ポリマーとしてナイロンが海、易溶解性ポリマーとしてポリ乳酸あるいは熱水可溶性ポリマーが島の海島構造を形成し、島成分全体に占める直径200nm以上の島ポリマーの面積比が3%以下で、CR値が20%以上であるポリマーアロイ捲縮糸。
- 難溶解性ポリマーとしてナイロンが海、易溶解性ポリマーとして5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートが島の海島構造を形成し、島成分全体に占める直径200nm以上の島ポリマーの面積比が3%以下で、CR値が20%以上であるポリマーアロイ捲縮糸。
- 難溶解性ポリマーとしてポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸から選ばれるポリエステルが海、易溶解性ポリマーとして熱水可溶性ポリマーが島の海島構造を形成し、島成分全体に占める直径200nm以上の島ポリマーの面積比が3%以下で、CR値が20%以上であるポリマーアロイ捲縮糸。
- ポリエチレンテレフタレートの極限粘度が0.50以上であることを特徴とする請求項3記載のポリマーアロイ捲縮糸。
- ポリエチレンテレフタレートが、ポリエチレングリコールおよび/またはイソフタル酸を共重合した共重合ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項3記載のポリマーアロイ捲縮糸。
- 島の平均直径が1〜100nmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリマーアロイ捲縮糸。
- 難溶解性ポリマーのブレンド比が40〜95重量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のポリマーアロイ捲縮糸。
- 請求項1〜7のうちのいずれか1項記載のポリマーアロイ捲縮糸を少なくとも一部に有する繊維製品。
- U%が0.1〜5%のポリマーアロイ原糸を仮撚り加工することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のポリマーアロイ捲縮糸の製造方法。
- 2軸混練押出機を用いて作製されたポリマーアロイ原糸を仮撚り加工することを特徴とする請求項9記載のポリマーアロイ捲縮糸の製造方法。
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