JP2005015961A - ナノポーラスポリアミド繊維を用いてなる衣料品 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、軽量感、保温性を向上させながら、中空繊維や多孔繊維において従来問題となっていた発色性の低下を改善し、着用快適性を高めた靴下、インナーウエアー、および外衣などの衣料品を提供することにある。
【解決手段】上記目的は、直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスポリアミド繊維であって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であるナノポーラスポリアミド繊維を少なくとも一部に用いることにより達成される。
【選択図】図1
【解決手段】上記目的は、直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスポリアミド繊維であって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であるナノポーラスポリアミド繊維を少なくとも一部に用いることにより達成される。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、保温性に富み、軽量であると共に、発色性優れ、さらに吸湿性に優れた衣料品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
保温素材としては、布帛にデッドエアーを形成する必要があり、これまでそのための手段として様々な繊維が提案されてきた。例えば、仮撚糸のように繊維に捲縮を付与して嵩高としたり、繊維の中心部に空洞を形成させる中空糸が提案されている。
【0003】
なかでも中空技術はデッドエアーを形成できるだけでなく、見かけ繊度を低くできることから軽量化の効果も得られ、軽くて暖かい素材を求めるニーズに対応できる。
【0004】
しかしながら、中空糸は特許文献1に示すように繊維中心部に1つの穴を有するものであったり、特許文献2に示すようにせいぜい300個程度の穴を有する多孔繊維となっている。これら繊維は、軽量性を発現するものの、中空部の直径が1μm前後であるため、中空部のポリマー/空気界面での可視光の散乱が多くなり、繊維の発色性が著しく低下する問題があった。
【0005】
保温性を特に必要とする秋冬の衣料、特に外衣や靴下は一般的に濃色に染色されることが多く、発色性の低下は製品品位を低下させるため、改善が要望されていた。
【0006】
一方、サブμmレベルの細孔を多数有する多孔繊維も検討されているが、これら検討時は複合紡糸ではなくポリマーブレンド紡糸が利用されてきた。例えば、ポリアミドに親水基共重合PETをブレンドして繊維化し、これから共重合PETを溶出することで多孔ポリアミド繊維が得られることが知られている(特許文献3)。これにより、サブμmレベルの表面凹凸や細孔が形成されるためパール様光沢が得られるのであるが、逆に発色性は著しく低下してしまう問題があった。これは、細孔サイズが可視光の波長レベルであり、しかも細孔が多数あるため、多島中空繊維に比べても可視光の散乱が多くなるためである。また、細孔サイズが可視光より小さい細孔を有する例(特許文献4)もあるが、実際にはブレンド繊維中でPETの粗大な凝集粒子が存在し、この凝集粒子が溶出されサブμm〜1μmレベルの粗大細孔となるため、やはり特許文献1同様に発色性低下の問題があった。実際、該文献2ページ目左上下から7行目には「ポリアミド中にポリエステル成分が大部分0.01〜0.1μの太さのすじとして存在し、溶出後もほぼその大きさの空洞が存在している。」と記載されており、PET凝集粒子の存在が暗示されている。この他にもポリアミド/PETブレンド繊維を利用した多孔繊維の例(特許文献5、6)があるが、ポリアミド中でのPETの分散サイズばらつきが大きく、0.1〜1μm近くまでの分布を持つものであり、粗大孔による発色性低下の問題を解決できなかった。
【0007】
また、前記従来例のように細孔サイズの分布が大きいと、細孔全体に占める粗大細孔の寄与が急激に大きくなり、逆に微細なナノ細孔の寄与がほとんど無くなるため、多孔化による効果を十分発揮できない問題もあった。
【0008】
このため、粗大な細孔を含まない多孔性繊維が求められていた。
【0009】
また、一般に中空糸に捲縮性を付与させようと押し込み加工や仮撚加工したとき、特許文献7のごとく中空部がつぶれて中空率が低くなり、軽量性や保温性が低下するだけでなく、中空部つぶれにより平坦面が現れ、ギラリと反射光が見える、いわゆる「いやびかり」現象を引き起こしてしまうことが生じることから、押し込みや仮撚加工の後でも中空部がつぶれない中空糸が求められていた。
【0010】
一方、着用中の快適性の面から合繊繊維の吸湿性向上が求められており、例えば特許文献8に示すようにポリアミドに対して吸湿ポリマーを添加することによって吸湿性を付与させることが提案されているが、吸湿性を高くするために吸湿ポリマー添加量を高くするとベタつき感が発生するという問題があった。
【0011】
【特許文献1】
特開平5−156516号公報([0013]段落)
【特許文献2】
特開2002−155426号公報([0017]〜[0025]段落)
【特許文献3】
特開平2−175965号公報(1〜5ページ)
【特許文献4】
特開昭56−107069号公報(1〜3ページ)
【特許文献5】
特開平8−158251号公報(1〜7ページ)
【特許文献6】
特開平8−296123号公報(1〜7ページ)
【特許文献7】
特許第3357784号公報([0002]、[0016]段落)
【特許文献8】
特許第3309524号公報([0043]〜[0105]段落)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、保温性と軽量性と共に、良好な発色性さらに高い吸湿性を発現できるナノポーラスポリアミド繊維を衣料品に用いることにより、保温性、発色性、さらに軽量感とムレ感低減による着用中の快適性を向上させることにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(1)直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスポリアミド繊維であって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であるナノポーラスポリアミド繊維を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする衣料品。
【0014】
(2)前記ナノポーラスポリアミド繊維の、繊維横断面全体に占める直径50nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であることを特徴とする(1)に記載の衣料品。
【0015】
(3)前記ナノポーラスポリアミド繊維の、細孔の平均直径が0.1〜50nmであることを特徴とする(1)または(2)記載の衣料品。
【0016】
(4)前記ナノポーラスポリアミド繊維の、強度が1.5cN/dtex以上であることを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれか1項記載の衣料品。
【0017】
(5)前記衣料品の吸湿率(ΔMR)が3〜10%であることを特徴とする(1)〜(4)のうちいずれか1項記載の衣料品。
【0018】
(6)前記衣料品が、靴下、インナーウェアー、および外衣からなる群から選ばれたいずれか1種である(1)〜(5)いずれか記載の衣料品。
である。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の衣料品は、繊維横断面を観察したとき、直径が100nm以下の細孔を有するナノポーラスポリアミド繊維を少なくとも一部に用いているものである。
【0020】
本発明では、直径が100nm以下の細孔を有するナノポーラスポリアミド繊維を用いていることが重要である。ここでナノポーラスポリアミド繊維とは直径100nm以下の細孔を繊維横断面において1個/μm2以上含むものである。これにより、デッドエアーが形成されて、軽量感、保温性、吸水性を飛躍的に増大させることができるのである。
【0021】
さらに従来技術で述べたように中空糸に共通した問題である発色性の低下を、孔の平均直径を1〜200nmとすることによって改善することができる。すなわち、可視光の波長は400〜800nm程度であるため、多孔繊維とした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。
【0022】
また、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であることが重要である。可視光の波長は400〜800nm程度であるため、直径200nm以上の粗大細孔がほとんど存在しないことにより、ナノポーラスポリアミド繊維とした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。ここで、細孔の直径や面積はナノポーラスポリアミド繊維の超薄切片を切り出し、それを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより見積もることができる。細孔は楕円やその他の歪んだ形状となる場合があり必ずしも真円とは限らないため、直径は細孔面積から円換算で求めたものとする。また、繊維横断面全体とは単繊維の繊維横断面の面積を言うものであり、ここではポリマー部分と細孔部分を足し合わせた面積のことを言うものである。これらの面積はWINROOF等の画像処理ソフトを用いると簡単に求めることができる。好ましくは、繊維横断面全体に占める直径50nm以上の細孔の面積比が1.5%以下である。
【0023】
本発明に用いるナノポーラスポリアミド繊維の空隙率(細孔の面積率)は高いほど軽量感が感じられ、着用感が快適となるばかりか、空気が断熱材として働くため、保温性が高くなる。したがって、空隙率が高い方が好ましいが、高すぎると見かけの繊度に対して強伸度の低下を引き起こすため、空隙率は5〜60%が好ましい。同様な理由のため、10〜40%であることがより好ましく、見かけの比重が1.0未満となる14%以上30%未満であることが特に好ましい。
【0024】
また、細孔の平均直径は0.1〜50nmであると、可視光の散乱がほとんど起こらず可視光には透明であるが、有害な紫外線の波長に近づくためUVカットという新たな機能が発現する。さらに、繊維表面積が飛躍的に増大するために、従来の多孔繊維では予想できなかった優れた吸湿性や吸着性が発現するという大きな利点がある。また、これほどの微細孔が多数あると水以外にも有機溶媒等の種々の液体を吸収する能力が飛躍的に向上するのである。細孔の平均直径はより好ましくは0.1〜30nmである。
【0025】
本発明のナノポーラスポリアミド繊維の一例を図5(TEM写真)に示すが、金属染色による微細な濃淡が観察される。ここでは濃い部分はN6高密度領域、淡い部分はN6低密度領域を示している。ここで淡い部分が細孔に相当すると考えられる。一方、N6ナノポーラスポリアミド繊維縦断面を図6に示すが粒が筋のように配列した濃淡パターンを示していることが分かる。また、これらの細孔は互いに連結された連通孔でもほとんど連結されていない独立孔でも良い。これらの細孔は後述するように細孔内に様々な分子を取り込むことが可能であるが、これの選択耐久性や徐放性を考慮すると、取り込んだ分子をある程度カプセル化できる独立孔の方が好ましい。
【0026】
以上のようにナノポーラスポリアミド繊維は無数のナノ細孔を有しているが、これにより比表面積が増大し、優れた吸湿・吸着性を示すというメリットがあり、好ましくはナノポーラスポリアミド繊維の吸湿率(ΔMR)を4%以上とすることが可能となる。
【0027】
そのため、衣料品に上述のナノポーラスポリアミド繊維を適度な混率で使用することにより、衣料品のΔMRを3〜10%とすることが可能となる。すなわち、衣類の吸放湿性が高く、衣服内湿度を低く保つことができるため、着用快適性が高くなる。
【0028】
ここで、ΔMRとは湿度の高い肌側から比較的湿度の低い外気側へ繊維を通して水蒸気が移動する速度の一つの指標である。この値が高いと肌側の水蒸気を速やかに吸湿し、繊維を通して外気に排出するからである。したがって、衣料品のΔMRが3%以上であるとき、衣服内の蒸れ感が低減され好ましい。また4%以上である場合には蒸れ感抑制が効果的でさらに好ましい。衣料品のΔMRが10%を超えるようなナノポーラスポリアミド繊維にしようとすると空隙率を高くする必要があり、衣料用途として必要な強度が得られないため、好ましくない。
【0029】
衣料品のΔMRを3%以上とするためには、ナノポーラスポリアミド繊維の細孔サイズを小さくしたり、空隙率を適正化することによって、吸湿性を高めたり、上述のポリアミド繊維を適度な混率で使用することが好ましく行われ、20%以上の混率がより好ましく、50%以上が特に好ましく、混繊または混紡する繊維としては特に限定されるものではない。
【0030】
また、このナノポーラスポリアミド繊維は水蒸気だけでなく種々の物質の吸着特性にも優れ、消臭繊維としても有用である。さらに、綿並の吸水性を発揮する場合もあるだけでなく、ウールのように糸長手方向に可逆的な水膨潤性を示す場合もあり、合成繊維でありながら天然繊維の機能を発現することも可能である。
【0031】
また、ナノ細孔には種々の機能物質を取り込み易いため、従来の繊維に比べ機能加工し易い繊維である。さまざまな機能性薬剤例えば、難燃剤、撥水剤、保湿剤、保冷剤、保温剤、平滑剤、微粒子だけでなくポリフェノールやアミノ酸、タンパク質、カプサイシン、ビタミン類等の健康・美容促進のための薬剤や、水虫等の皮膚疾患の薬や消毒剤、抗炎症剤、鎮痛剤等の医薬品、ポリアミンや光触媒ナノ粒子といった有害物質の吸着・分解するための薬剤を吸尽させることができる。展開する用途に応じて、機能性薬剤を吸尽させ、着用中に効能を発現させることが可能となる。
【0032】
本発明のナノポーラスポリアミド繊維の強度は1.5cN/dtex以上である時、繊維製品の引き裂き強力や耐久性を向上できるため好ましい。強度はより好ましくは2cN/dtex以上、さらに好ましくは2.5cN/dtex以上である。また、伸度は20%以上であると繊維製品の耐久性を向上でき好ましい。
【0033】
また、本発明のナノポーラスポリアミド繊維は、扁平、凸レンズ、三葉断面などの多葉断面、多角形、中空断面等様々な繊維断面形状を採用することができる。また、繊維横断面の全面にナノポーラスが分布していてもナノポーラス部分が繊維表層側あるいは中心部、また偏芯等に偏った部分に局在化していても良い。ただし、ナノポーラスポリアミド繊維の優れた性能を十分発揮するためにはナノポーラス部分は繊維横断面全体に対し面積比で30%以上とすることが好ましい。
【0034】
本発明に用いるナノポーラスポリアミド繊維の前駆体であるポリマーアロイ繊維は、フィラメントだけではなく、ステープルとして用いることができる。紡糸工程では、ポリマーアロイ繊維として中実構造となっているため、押し込みによる捲縮加工等によっても中空部がつぶれないため、軽量感を発現させることができる。
【0035】
ステープルにおいては、捲縮形態は特に限定はされないが、紡績性が良好であるという観点から、2次元捲縮、スパイラル捲縮が好ましく、その中でも2次元捲縮がより好ましい。捲縮数については紡績性の観点から5山/25mm以上25山/25mm以下であることが好ましく、より好ましくは12山/25mm以上20山/25mm以下である。捲縮率については紡績性の観点から、5%以上30%以下であることが必要で好ましくは10%以上20%以下である。
【0036】
捲縮数が5山/25mm未満で、かつ、捲縮率が5%未満であると、短繊維(ステープル)同士の絡合性が低いため高次加工時に紡績性が悪くなるので好ましくない。捲縮数が25山/25mmを越え、捲縮率が30%よりも高くても紡績性が悪くなる。
【0037】
乾伸度は紡績性の観点から5%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以上50%以下である。乾伸度が5%より低いと、繊維の風合いが硬くなるので好ましくない。100%よりも高いと繊維構造体(織物等)にした場合の絡合強度が低下するので好ましくない。
【0038】
繊維長については紡績性の観点から考慮して20mm以上115mm以下であれば好ましく、30mm以上70mm以下であればより好ましい。
【0039】
ここでいう紡績糸とは、ステープルを少なくとも用いて紡績して得られる紡績糸を言う。紡績工程において、上述の繊維を100%使いのものに限られず、他の繊維との混紡品やあるいはフィラメント糸との精紡交撚(いわゆる長短複合紡績糸)品であっても良い。
【0040】
また、本発明の衣料品においてナノポーラスポリアミド繊維を単独で用いることもできるが、混繊、混紡、カバリング、交織、交編等により通常の合成繊維や化繊、天然繊維と混用することにより、布帛の寸法安定性を向上させたり風合いのさらなる向上をはかることももちろん可能である。さらに天然繊維との混紡に用いた場合、例えば織物の引き裂き強力工場など、製品の耐久性向上に寄与する。
【0041】
また、フラットヤーンでも捲縮糸でも良く、さらに、長繊維、短繊維、不織布、熱成形体等様々な繊維製品形態を採ることができる。
【0042】
ナノポーラスポリアミド繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下のような難溶解性ポリマーとしてのポリアミドと易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイ繊維から易溶解ポリマーを除去することによって得ることができる。
【0043】
例えばポリアミドが海、易溶解性ポリマーが島の海島構造ポリマーアロイ繊維を利用する場合には、直径200nm以上の島、すなわち粗大な凝集ポリマー粒子の存在比が島全体に対し面積比で3%以下であることが好ましい。これにより、ナノポーラスポリアミド繊維とした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。ここで、島はややひずんだ楕円形状となる場合があり必ずしも真円とは限らないため、直径は島面積から円換算で求めたものとする。また、島全体に対する面積は、繊維断面中に存在する全ての島を合計した面積であり、繊維断面観察やポリマーブレンド比から見積もることができる。直径200nm以上の島の面積比は好ましくは1%以下である。より好ましくは直径100nm以上の島の面積比は3%以下であり、さらに好ましくは直径100nm以下の島の面積比は1%以下である。
【0044】
また、島の平均直径が1〜100nmであると、島を除去することにより従来の多孔繊維よりも孔サイズの小さなナノポーラスポリアミド繊維が得られるため好ましい。細孔サイズがナノレベルになると、可視光の散乱がほとんど起こらなくなるために発色性が著しく向上するだけでなく、有害な紫外線を大きく散乱するようになり、UVカットという新たな機能が発現する。さらに、表面積が飛躍的に増大するために、従来の多孔繊維では予想できなかった優れた吸湿性や吸着性が発現するという大きな利点がある。このように発色性や吸着性の観点からは島の平均直径は小さい方が有利であるが、過度に小さくなるとポリマー界面が大きくなり過ぎここでの相互作用が過大となり紡糸が細化挙動が不安定化し易い。このため、島の平均直径は、より好ましくは10〜50nmである。
【0045】
また、島は筋状構造を形成していることが好ましい。これにより、紡糸細化挙動を安定化させることができるのである。ここで筋状構造とは、島の繊維軸方向の長さと直径の比が4以上のものをいうものである。
【0046】
また、海島構造ポリマーアロイではなく以下のような特殊な層構造のアロイ繊維を利用することもできる。ここで特殊な層構造とは、繊維横断面をTEMで観察した時、以下の状態を示すものである。すなわち、ブレンドされた異種ポリマー同士が層を形成し互いに入り組み合って存在している状態である(図14、繊維横断面TEM写真)。このため、異種ポリマー同士の界面が海島構造(図3、繊維横断面TEM写真)に比べはるかに大きくなっており、相溶性が海島構造の物に比べると向上しているが、PET/PBTのようないわゆる均一構造のものと比べると相溶性が低いという極めて特異な構造である。ただし、層に明確な周期性が認められないため、いわゆるスピノーダル分解による変調構造とは区別されるものである。ここで、TEMのサンプルは金属染色されており、濃い部分が難溶解ポリマーであるポリカプラミド、淡い部分が易溶解ポリマーである共重合PETである。また、層を形成するという点でいわゆる海海構造とも明確に区別されるものである。海海構造はポリマーブレンドにおいて海/島が逆転する近傍のブレンド比で現れる極めて不安定な構造であり、当然この領域では安定紡糸を行うのは極めて困難である。繊維横断面方向における易溶解成分の層の1層の厚みは1〜100nmであれば、異種ポリマーが十分超微分散しており、少量ブレンドでもブレンドポリマーの性能を十分発揮できる点から好ましい。また、繊維横断面で観察されるこの層は繊維長手方向には筋として伸びているものである(図16、繊維縦断面TEM写真)。
【0047】
上記のように易溶解性ポリマーが難溶解性ポリマーであるポリアミド中に均一に超微分散化することによって、本発明のナノポーラスポリアミド繊維を得ることができるが、易溶解性ポリマーに低融点や低軟化点のポリマーを用いても、高温処理が行われる捲縮加工や撚糸等の糸加工や布帛加工の工程通過性を向上し、さらに得られる製品の品位も向上できるという利点もある。
【0048】
なお、ポリマーアロイ繊維中のポリマー種類はポリアミドとそれとは溶解性の異なる、合わせて2種以上であれば良く、必要に応じてポリアミドと、易溶解性ポリマーの種類を増やすことができ、また相溶化剤を併用することももちろん可能である。
【0049】
上記したポリマーアロイ繊維において易溶解性ポリマーはアルカリ易溶解性ポリマーであると、島除去による多孔化工程を通常の繊維の後加工工程であるアルカリ処理工程を利用できるため好ましい。例えば、易溶解性ポリマーとしてポリスチレン等の有機溶媒溶解性ポリマーを用いた場合は防爆設備が必要であることを考えると大きなメリットである。易溶解性ポリマーは熱水可溶性ポリマーであると、繊維の精練工程で島除去できるためさらに好ましい。アルカリ易溶解性ポリマーとしては例えばポリエステルやポリカーボネート等を挙げることができ、熱水可溶性ポリマーとしては親水基を多量に共重合したポリエステル、またアルキレンオキサイドやポリビニルアルコール、またそれらの変性物等を挙げることができる。
【0050】
易溶解性ポリマーの除去は製品前に行えば限定されるものではないが、染色前に行うことが好ましく、効率的に除去するためにはステープルやフィラメントの段階で行うよりも布帛化した後に、行うことがより好ましい。しかしながら、縫製後に行うことによって、古着感を出すことも可能である。
【0051】
上記ポリマーアロイ繊維の易溶解ポリマーを溶出させることによって本発明に用いるナノポーラスポリアミド繊維を得るのであり、軽量感、吸湿性の発現のためには易溶解ポリマーをできるだけ溶出することが望ましい。具体的には易溶解ポリマーの50%以上溶出することが好ましく、90%以上であることがより好ましく、実質的にすべて溶出させることが特に好ましい。
【0052】
本発明のナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を保持するためには、難溶解性ポリマーとしてのポリアミドのブレンド比を40〜95重量%とすることが好ましい。難溶解性ポリマーとしてのポリアミドのブレンド比は、より好ましくは70〜85重量%である。
【0053】
また、上記したポリマーアロイ繊維は粗大な凝集ポリマー粒子を含まないため紡糸が公知技術(特許文献3〜6)よりも安定化し、糸斑の小さな繊維が得られやすいという特徴を有する。糸斑はウースター斑(U%)で評価することが可能であるが、本発明で利用するポリマーアロイ繊維ではU%を0.1〜5%とすると、衣料としたときに均一性が高くなり、高品位な製品となる。U%はより好ましくは0.1〜2%、さらに好ましくは0.1〜1.5%である。また、逆に杢調を出す場合には、U%が3〜10%の太細糸とすることもできる。
【0054】
上記ポリマーアロイ繊維の強度は2cN/dtex以上とすることで、紡績、撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。強度は好ましくは3cN/dtex以上である。また、伸度は15〜70%であれば、やはり撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。また、延伸仮撚り加工用原糸として用いる際は伸度は50〜200%とすることが仮撚り加工での工程通過性の点から好ましい。延伸用の原糸の場合には伸度は70〜500%程度とすることが延伸での工程通過性の点から好ましい。
【0055】
上記したポリマーアロイ繊維の製造方法は特に制限されるものではないが、例えば下記のような方法を採用することができる。
【0056】
すなわち、難溶解性ポリマーとしてのポリアミドと易溶解性ポリマーを溶融混練し、難溶解性ポリマーおよび/または易溶解性ポリマーが微分散化した難溶解性ポリマー/易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイを得る。そして、これを溶融紡糸することにより本発明のポリマーアロイ繊維を得ることができる。ここで、溶融混練方法が重要であり、押出混練機や静止混練器等により強制的に混練する事により粗大な凝集ポリマー粒子の生成を大幅に抑制することができるのである。公知技術(特許文献3〜6)ではいずれもチップブレンド(ドライブレンド)を用いているため、ブレンド斑が大きく島ポリマーの凝集を防ぐことができなかったのである。強制的に混練する観点から、押出混練機としては二軸押出混練機、静止混練器としては分割数100万分割以上のものを用いることが好ましい。また、島ポリマーの再凝集を抑制する観点からポリマーアロイ形成、溶融から紡糸口金から吐出するまでの滞留時間も重要であり、ポリマーアロイの溶融部先端から紡糸口金から吐出するまでの時間は30分以内とすることが好ましい。
【0057】
また、島直径の微小化にはポリマーの組み合わせも重要であり、難溶解性ポリマーとしてのポリアミドと易溶解性ポリマーの親和性を上げることで島となる易溶解性ポリマーを超微分散化し易くなる。例えば、ポリカプラミドと、易溶解性ポリマーとしてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる場合には、PETに親水性成分である5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SSIA)を共重合した親水基共重合PETを用いると、ポリカプラミドとの親和性を向上させることができる。特にSSIAの共重合率が4mol%以上の親水化PETを用いることが好ましい。また、両者の溶融粘度比も重要であり、海ポリマー/島ポリマーの粘度比が大きくなるほど島ポリマーに大きな剪断力がかかり島が微分散化し易くなる。ただし、過度に粘度比が大きくなると混練斑や紡糸性悪化を引き起こすため、粘度比は1/10〜2程度とすることが好ましい。
【0058】
難溶解性ポリマーとしてはポリアミドであることが好ましい。ポリアミドを選定した理由として、強度、耐久性、堅牢性、肌触りの柔らかさ、発色性など優れており、靴下、インナーウエアー、および外衣に広く使用されているためである。さらに細孔を形成させるために易溶解性ポリマーとしてアルカリ熔解性ポリマーを溶かしだす際、耐アルカリ性に優れているためである。
【0059】
ポリアミドとしてはいわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、その種類は特に制限されないが、好ましくは、染色性、洗濯堅牢性、機械特性に優れる点から主としてポリカプラミドまたはポリヘキサメチレンアジパミドからなるポリアミドであることが好ましい。ここで言う主としてとは、カプラミド単位、またはヘキサメチレンアジパミド単位として80モル%以上であることを言い、さらに好ましくは90モル%以上であることが好ましい。その他の成分としては、特に制限はないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。さらに必要に応じて光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、末端基調節剤、染色性向上剤等が添加されていてもよい。また、酸化チタンなどの艶消し剤を機械特性を阻害しない程度に添加することは好ましく行われる。
【0060】
上記したような製造法の特徴により、粗大な凝集ポリマー粒子の生成が抑制されるため、公知技術(特許文献3〜6)に比べ、ポリマーアロイの粘弾性バランスが崩れにくく紡糸吐出が安定し、曳糸性や糸斑を著しく向上できるという利点もある。さらに、口金孔径としては通常よりも大きい物を用いると、口金孔でのポリマーアロイへの剪断応力を低減し粘弾性バランスを保つことができるため、紡糸安定性が向上する。具体的にはポリマアロイの口金での吐出線速度を15m/分以下にできる口金を用いることが好ましい。加えて、糸条の冷却も重要であり、口金から積極的な冷却開始位置までの距離は1〜15cmとすることで、伸長流動が不安定化しやすいポリマーアロイを迅速に固化させることで紡糸を安定化することができるのである。
【0061】
また、島ポリマーを微細化する観点からは紡糸ドラフトは100以上とすることが好ましい。さらに未延伸糸の寸法や物性の経時変化を抑制するためには紡糸速度は2500m/分以上として繊維構造を発達させることが好ましい。
【0062】
なお、上記したポリマーアロイ繊維から作製したナノポーラスポリアミド繊維の一例を図5に示すが、金属染色による濃淡は前駆体であるポリマーアロイ繊維(図3)よりも微細になっており、繊維および易溶解成分が除去された跡が潰れていることが分かる。ここでは濃い部分はポリカプラミド高密度領域、淡い部分はポリカプラミド低密度領域を示している。ここで淡い部分が細孔に相当すると考えられる。すなわち、ポリマーアロイ段階での易溶解性ポリマーの分散サイズよりも細孔サイズを小さくすることができるという利点がある。なお、易溶解性ポリマーの除去に伴い細孔だけでなく繊維径自体も収縮をする。さらにこのナノポーラスポリアミド繊維の繊維縦断面を図6に示すが、ポリマーアロイ繊維では易溶解ポリマーは筋状に伸びていた(図4)が、ナノポーラスポリアミド繊維では筋が所々潰れ、粒状の濃淡パターンを示していることが分かる。
【0063】
以上のように、従来とは異なる製造方法により得られたポリマーアロイ繊維を利用することにより本発明に用いるナノポーラスポリアミド繊維が得られるが、これは細孔サイズが従来のものよりも小さく、また粗大細孔をほとんど含まず、衣料用のみならず様々な分野に応用可能な優れた素材である。
【0064】
ここで本発明の対象とする衣料品とは、体に着用する物すべてを差し特に限定する物ではない。また、それら衣料品は公知のいかなる方法によって作成したものでもよい。
【0065】
衣料品の中でも特に軽量感、保温性、発色性、吸放湿特性に優れている特徴を生かす衣類として、靴下、インナーウエアー、および外衣が挙げられる。そのうち、靴下とは、足部のみからなるフットカバー類、口ゴム、身部、足部の3部位からなるソックス類、身部がストッキングよりも著しく長いストッキング類、上部にパンティー部がついたタイツ、パンティーストッキング類が挙げられる。また、インナーウエアーとは、Tシャツ、スリップ、ネグリジェ、ショーツ、キャミソール等のランジェリーや、ブラジャー、ガードル、コルセット等のファウンデーション等が挙げられる。さらに外衣とはスポーツウェア(ウィンドブレーカー、テニスウェア、スキーウェア、トレーニングウェァ等)、シャツ、ブルゾン、パンツ、スラックス、スカート、ジャケット、スーツ、アンサンブル、セーター、カーディガン、コート等が挙げられる。
【0066】
ナノポーラスポリアミド繊維を用いるための方法としては、ナノポーラスポリアミド繊維、もしくはナノポーラスポリアミド繊維を一部に含んだ紡績糸、混繊糸、複合仮撚糸、複合加工糸、カバリング等を用いるのであるが、例えば編成時にすべてに用いる方法や、供給糸の少なくとも1本に用いたり、プレーティングやボス糸などに用いているものである。また、製織時としては、経糸や緯糸の一部に用いることができる。
【0067】
本発明の衣料品とは上記布帛を衣料品全体や少なくとも一部に用いているものである。なかでも着用快適性を向上させるためには、例えば靴下、インナーウエアーでは肌と接している部分にナノポーラスアミド繊維を用いていることが吸放湿特性を生かすために有効であり、外衣では軽量感を実感するために重量比が高く、発色性が必要とされる表地、軽量感が必要とされる中綿部分、さらに吸湿性により着用快適性を向上させるために裏地に用いることが有効である。
【0068】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0069】
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機製キャピログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0070】
B.ポリアミドの相対粘度
(a)試料を秤量し、98重量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下秒数(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98重量%濃硫酸の25℃での落下秒数(T2)を(2)項と同様に測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下式により算出する。測定温度は25℃とする。
(ηr)=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}。
【0071】
C.ポリエステルの極限粘度[η]
オルソクロロフェノール中25℃で測定した。
【0072】
D.融点
Perkin Elmaer DSC−7を用いて、2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0073】
E.力学特性
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0074】
F.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
【0075】
G.熱収縮率
熱収縮率(%)=[(L0−L1)/L0)]×100(%)
L0:延伸糸をかせ取りし初荷重0.09cN/dtexで測定したかせの原長
L1:L0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.09cN/dtex下でのかせ長。
【0076】
H.TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向または縦断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維横断面を観察した。また、必要に応じて金属染色を施した。
TEM装置 : 日立社製H−7100FA型。
【0077】
I.細孔直径または島ポリマー直径
細孔直径は以下のようにして求める。すなわち、TEMによる繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて島の円換算による直径を求めた。また、微細すぎたり形状が複雑でWINROOFでの解析が難しい場合は、目視と手作業により解析を行った。平均直径は、それらの単純な数平均値を求めた。この時、平均に用いる細孔は同一横断面内で無作為抽出した300以上の細孔を用いた。ただし、TEM観察用のサンプルは超薄切片とするため、サンプルに破れや穴あきが発生しやすい。このため、直径解析時にはサンプルの状況と照らし合わせながら慎重に行った。また、無機微粒子やこれの周りのホイドは、ここでは細孔に含めなかった。島ポリマー直径は細孔直径解析に準じた。
【0078】
J.発色性評価
得られたサンプルを常法にしたがい染色し、同条件で染色した比較サンプルとの発色性を比較した。比較サンプルはナノポーラスポリアミド繊維を構成するポリマーを常法により製糸したものを用いた。染料にクラリアントジャパン株式会社製“Nylosan Blue N−GFL”を用い、この染料を繊維製品の0.8重量%、pHを5に調整した染色液で浴比100倍、90℃×40分処理した。
【0079】
目視判定で、比較以上またはほぼ同等の発色性が得られたもの(◎)と比較よりはやや劣るが衣料用として充分なもの(○)を合格とし、それよりも劣るものを不合格とした(△、×)。
【0080】
K.吸湿率(ΔMR)
繊維または生地サンプルを秤量瓶に1〜2g程度はかり取り、110℃に2時間保ち乾燥させ重量を測定し(W0)、次に対象物質を20℃、相対湿度65%に24時間保持した後重量を測定する(W65)。そして、これを30℃、相対湿度90%に24時間保持した後重量を測定する(W90)。そして、以下の式にしたがい計算を行う。
MR65=[(W65−W0)/W0]×100% ・・・・・ (1)
MR90=[(W90−W0)/W0]×100% ・・・・・ (2)
ΔMR=MR90−MR65 ・・・・・・・・・・・・ (3)。
【0081】
L.仮撚加工糸の捲縮特性、CR値
仮撚加工糸をかせ取りし、実質的に荷重フリーの状態で60℃、20分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L’0を測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当の荷重を除き0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L’1を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
CR(%)=[(L’0−L’1)/L’0]×100(%)。
【0082】
M.捲縮数:
短繊維弾性試験機を用い、試料に単糸繊度(デシテックス)当たり0.18mNの初荷重を与えたときの繊維長さと掴み間隔内の山数を読み取り、25mmあたりの捲縮数(山数)に換算して求めた。
捲縮数(山/25mm)=(Cn×25)/(2×L)
Cn:捲縮の山と谷の数の平均値(山)
L :初荷重を掛けたときの繊維長の平均値(mm)。
【0083】
N.捲縮率
単糸繊度(デシテックス)当たり13.23mNの規定荷重を与えて、捲縮が伸ばされたときの繊維長さを測り、0.18mNの初荷重を与えたときの繊維の長さとの差を規定荷重を掛けたときの長さに対する百分率で求めた。
【0084】
捲縮率(%)=(L2−L1)/L2×100
L1:初荷重2mgを掛けたときの繊維長さの平均値(mm)
L2:規定荷重150mgを掛けたときの繊維長さの平均値(mm)
O.乾強度および乾伸度
短繊維(ステープル)を滑沢紙に貼り付け、マッケンジー短繊維引張試験機または自動引張試験機を用いて引張速度20g/分のスピードで、短繊維(ステープル)を引張り、繊維が切断したときの強力および伸度を求めた。
【0085】
なお、前提条件としてこのときの引っ張り速度は20g/分とした。
乾強度(cN/dtex)=0.9807×S/d
注)dtex:デシテックス
S:標準状態(室温20℃、湿度65%RH)における切断強力の平均値(g)
d:試料の単糸繊度(dtex)
乾伸度(%)=(E2−E1)/(L+E1)×100
L :繊維単糸の掴み間隔(mm)
E1 :緩み長平均値(mm)
E2 :標準状態(室温20℃、湿度65%RH)における切断伸び平均値(mm)。
【0086】
P.繊維長
グリセリン塗布したスケール板上で繊維の捲縮がなくなる程度に伸ばして繊維の長さを標準状態(室温20℃、湿度65%RH)下で測り100本の平均値で平均繊維長を求めた。
平均繊維長(mm)=L/100
L:100本の短繊維長の和。
【0087】
実施例1
相対粘度2.15、溶融粘度274poise(280℃、剪断速度2432sec−1)、融点220℃のポリカプラミド(80重量%)と極限粘度0.60、溶融粘度1400poise(280℃、剪断速度2432sec−1)、融点250℃の5−ナトリウムスルホイソフタル酸5mol%共重合した共重合PET(20重量%)を二軸押出混練機で260℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。なお、共重合PETは0.05重量%の酸化チタンを含有していた。そして、このポリマーアロイを270℃の溶融部2で溶融し、紡糸温度275℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、溶融紡糸した(図15)。この時、溶融部2から吐出までの滞留時間は10分間であった。口金としては図16に示すように吐出孔上部に直径0.2mmの計量部11を備えた、吐出孔径13が0.5mm、吐出孔長12が1.25mmのものを用いた。そして、この時の単孔あたりの吐出量は2.1g/分とし、ポリマーアロイの口金吐出線速度は10m/分であった。また、口金下面から冷却開始点(チムニー5の上端部)までの距離は9cmであった。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、口金4から1.8m下方に設置した給油ガイド7で給油された後、非加熱の第1引き取りローラー8および第2引き取りローラー9を介して3800m/分で巻き取られた。この時の紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。また、ナイロンで問題となる巻き取りパッケージの経時膨潤によるパッケージ崩れも無く、優れた取り扱い性であった。そして、これに図19の装置を用い延伸仮撚り加工を施した。この時、延伸倍率は1.3倍、ヒーター23温度は165℃、回転子25としてはウレタンディスクの3軸ツイスターを用い、D/Y比は1.65とした。得られた50dtex、12フィラメントの仮撚り加工糸は強度3.5cN/dtex、伸度29%、熱収縮率8%、CR38%の優れた物性となった。
【0088】
また、得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ポリカプラミドが海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し(図2)、島の平均直径は25nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.9%であった。ここで、島全体に対する面積比とは島成分の面積の総和に対する比率のことを言い、粗大な凝集ポリマーの目安となるものである。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造を形成していることが分かった。
【0089】
上記S撚/Z撚仮撚糸を用い、東レデュポン社製ライクラT−178C 20Tを芯糸としてドラフト倍率2.9倍、カバリング撚数700T/mでそれぞれS撚/Z撚のカバリング糸を用意し、永田精機(株)製 MODEL P−482(針数400本)を用いてタイツを編成した。これを3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。その後、水洗し、乾燥した。引き続き、染色、柔軟剤付与、湿熱セット(110℃×60秒)を行い、ナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツ(実施例1)を得た。なお、上記条件によるアルカリ処理では芯糸であるスパンデクスの強伸度、伸長回復特性は、同様な熱処理過程を経たスパンデクスに比べて低下は見られなかった。
【0090】
このナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察した(図1)ところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は25nmであった。ここで、濃い部分がポリカプラミドポリマー、薄い部分が細孔に相当するが、細孔は独立孔であることがわかった。
【0091】
また、このナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにタイツの吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.6%と綿を凌駕する優れた吸湿性を示した。さらに、タイツを分解し、カバリング糸であるナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度2.6cN/dtex、伸度30%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。カバリング分解糸であるナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0092】
実施例2
実施例1においてポリマーアロイチップを作る際、ポリカプラミドを95重量%、共重合PETを5重量%とする以外は同様にポリマーアロイ捲縮糸を得た。得られた50dtex、12フィラメントの仮撚り加工糸は強度4.2cN/dtex、伸度29%、熱収縮率9%、CR42%の優れた物性を示した(表2)。
【0093】
また、得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ポリカプラミドが海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し、島の平均直径は25nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.8%であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造を形成していることが分かった。
【0094】
実施例1と同様にタイツを編成し、同様な染色加工を行った。これによって得られたナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は25nmであった。
【0095】
また、このナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにタイツ吸湿率(ΔMR)を測定したところ、3.4%と優れた吸湿性を示した。さらに、タイツを分解し、カバリング糸であるナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度3.1cN/dtex、伸度30%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。カバリング分解糸であるナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0096】
実施例3
実施例1においてポリマーアロイチップを作る際、ポリカプラミドを60重量%、共重合PETを40重量%とする以外は同様にポリマーアロイ捲縮糸を得た。得られた50dtex、12フィラメントの仮撚り加工糸は強度2.9cN/dtex、伸度29%、熱収縮率8%、CR35%の優れた物性を示した(表2)。
【0097】
また、得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ポリカプラミドが海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し、島の平均直径は25nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も1.0%であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造を形成していることが分かった。
【0098】
実施例1と同様にタイツを編成し、同様な染色加工を行った。これによって得られたナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は25nmであった。
【0099】
また、このナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにタイツ吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.8%と優れた吸湿性を示した。さらに、タイツを分解し、カバリング糸であるナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度2.3cN/dtex、伸度30%であった。カバリング分解糸であるナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0100】
実施例4
実施例1で得たポリマアロイチップを用い、吐出量と口金孔数を変更し、紡糸速度を900m/分として実施例1と同様に溶融紡糸を行った。この時の溶融部2から吐出までの滞留時間は12分間であった。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。また、ナイロンで問題となる巻き取りパッケージの経時膨潤によるパッケージ崩れも無く、優れた取り扱い性であった。そして、これを第1ホットローラー16の温度を70℃、第2ホットローラー17の温度を130℃として延伸熱処理した(図17)。この時、第1ホットローラー16と第2ホットローラー17間の延伸倍率を3.2倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は70dtex、34フィラメント、強度3.7cN/dtex、伸度47%、U%=1.2%、熱収縮率11%の優れた特性を示した。
【0101】
また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、N6が海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し(図3)、島の平均直径は38nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。また、直径200nm以上の島は島全体に対して面積比で1.2%であった。なお、溶融混練したポリマーアロイチップの断面TEM写真を図7に示すが、島ポリマーが粒径20〜30nmまで超微分散化しており、繊維横断面での島ポリマー直径(図3)同等以下であった。口金吐出から延伸を通じてポリマーは500倍程度に引き延ばされ、本来、繊維横断面中では島ポリマー直径はポリマーアロイ中に比べ1/22以下にならなければならいにもかかわらず、繊維横断面での島ポリマー直径の方が大きいということは、ポリマーアロイの溶融から口金吐出されるまでに島ポリマーが再凝集したことを示しており、これを抑制しながら島ポリマーを超微分散させるためには本実施例のように紡糸条件を適切に選ぶことが重要であることがわかる。ポリマーアロイ繊維の物性は表2に示した。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。
【0102】
ここで得られたポリマーアロイ繊維と東レデュポン社製ライクラT−127C22Tを用いてベア天竺(28G)を編成した。これを3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。その後、水洗し、乾燥した。編み地を分解して、得られたナノポーラスポリアミド繊維を光学顕微鏡で繊維側面観察を行ったところ、アルカリ処理前の繊維に比べ繊維径が若干減少しており、島ポリマーを除去することによって繊維半径方向に収縮が起こっていることが分かった。次に、これの繊維側面をSEMにより観察したところ、倍率2000倍程度では繊維表面に凹凸は見られずきれいな表面形態であった。また、このナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察した(図5)ところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維(図3)よりも微細になっていた。ここで、濃い部分はN6高密度部分、淡い部分はポリカプラミド低密度部分である。そして淡い部分が細孔に相当すると考えられる。すなわち、島ポリマー除去により細孔サイズは元の島ポリマーよりも微細化し、細孔の平均直径は20nm以下であり、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であった。
【0103】
また、繊維縦断面を観察したところ、元のポリマーアロイでは共重合PETが筋状に伸びていた(図4)のに対し、ナノポーラス繊維では粒状の淡い部分が観察され(図6)、シリンダー状細孔が所々潰れ、粒状細孔となっていることが示唆された。図5および図6の濃淡パターンから、これらの細孔は独立孔であると判断した。
【0104】
ひきつづき、ベア天竺に定法にしたがい染色、セットを行い、発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにベア天竺の吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.3%と綿を凌駕する優れた吸湿性を示した。また、この分解して得られたナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度2.0cN/dtex、伸度70%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。
【0105】
さらに上記ベア天竺を用いてキャミソールを縫製した。
【0106】
ナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0107】
実施例5
共重合PETをイソフタル酸を7mol%、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物を4mol%共重合したPET(融点225℃、0.05重量%の酸化チタンを含有)として、ポリカプラミドと共重合PETの重量比を50重量%/50重量%、口金孔径を0.7mmとして実施例4と同様にして溶融紡糸、延伸・熱処理を行った。問題となるほどではないが実施例4に比べると紡糸が不安定化し、24時間の連続紡糸の間の糸切れは2回であった。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察結果を図8に示すが、粗大な凝集ポリマー粒子はわずかであったが、島の平均直径が143nm、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は5%であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。ナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0108】
このポリマーアロイ繊維を実施例4と同様にベア天竺に編成後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、ナノポーラスポリアミド繊維からなるベア天竺を得た。
【0109】
ここで、ベア天竺を分解し、このナノポーラスポリアミド繊維を光学顕微鏡で観察したところ実施例1同様に島ポリマー除去により繊維半径方向に収縮が見られた。また、このナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果を図9に示すが、島ポリマーが抜けた跡が潰れ幅10〜30nm、長さ100nm程度の細孔となっており、直径が50〜100nmの大きな細孔も散見された。しかし、直径200nm以上の粗大細孔の面積比は0.5%であった。これの発色性評価を行ったが、実施例4に比べると発色性に劣るものの衣料用として使用可能なレベルであった。なお、これの細孔は独立孔であった。
【0110】
実施例4と同様に上記ベア天竺を用いてキャミソールを縫製した。
【0111】
ナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0112】
実施例6
N6を溶融粘度1260poiseまたは1540poise(280℃、剪断速度2432sec−1)の実施例3で用いたものよりも高粘度のN6を用図18の装置を用いてそれぞれ270℃、290℃で溶融した後、パック3内に設置した静止混練器20(東レエンジニアリング社製“ハイミキサー”10段)により104万分割して混合した。そして、これを絶対濾過径20μmの金属不織布フィルターで濾過した後、孔径0.35mmの口金孔から吐出した。この時、紡糸温度は280℃、口金4からチムニー5の上端までの距離は7cmとした。これを紡糸速度900m/分で引き取り、第2引き取りローラー9を介して巻き取った。24時間の紡糸を行ったが、紡糸での糸切れは皆無であり、良好な紡糸性を示した。これを図17の装置を用いて延伸・熱処理した。この時、延伸倍率は3.2倍、第1ホットローラー16温度は70℃、第2ホットローラー17温度は130℃とした。延伸・熱処理での糸切れは皆無であり、良好な延伸性を示した。
【0113】
これにより56dtex、12フィラメントのポリマーアロイ繊維を得たが、U%は1.5%と充分糸斑の小さなものであった。また、これの繊維横断面をTEMで観察したところ、金属染色により濃く染まったポリカプラミド部分と淡いPET部分が特殊な層構造を形成しており、PET層部分の厚みは概ね20nm程度であった(図10)。また、この繊維は繊維表層から150nm程度までは特殊な層構造が崩れ海島構造となっていたが、特殊な層構造部分の面積を見積もったところ、繊維横断面全体に対して98%であり、繊維断面のほとんどが特殊な層構造を形成していた(図11)。また、このポリマーアロイ繊維の縦断面をTEMで観察したところ層が筋状になっていた(図12)。
【0114】
上記ポリマーアロイ繊維をヒーター長1m、ヒーター温度160℃、スピンドル回転数4000T/mの条件にてスピンドル仮撚機により仮撚を行い、仮撚糸を得た。この仮撚糸を用いて実施例1と同様にタイツを編成し、同様な染色加工を行った。また、このナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツの発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにタイツ吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.6%と優れた吸湿性を示した。さらに、タイツを分解し、カバリング糸であるナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度2.1cN/dtex、伸度30%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。カバリング分解糸であるナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0115】
またこのナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察した(図13)ところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維よりも微細になっていた。ここで、濃い部分はポリカプラミド高密度部分、淡い部分はポリカプラミド低密度部分である。そして淡い部分が細孔に相当すると考えられる。また、繊維縦断面を観察したところ、元のポリマーアロイではPETが筋状に伸びていた(図12)のに対し、ナノポーラスポリアミド繊維では粒状の淡い部分が観察され(図14)、細孔が潰れていることが示唆された。直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
【0116】
実施例7
実施例1と同様に溶融紡糸を行い、図20の装置を用いて紡糸直接延伸を行った。この時、単孔あたりの吐出量と口金孔数を変更し、第1ホットローラー28の周速2000m/分、温度40℃、第2ホットローラー29の周速4500m/分、温度150℃として55dtex、12フィラメント、強度4.4cN/dtex、伸度37%、U%1.2%、熱収縮率12%のポリマーアロイ繊維を得た。紡糸性は良好であり、24時間の紡糸で糸切れはゼロであった。得られたポリマーアロイ繊維は、いずれも粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径200nm以上の島は島全体に対し面積比で0.1%以下、直径100nm以上の島も面積比で0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表2に示すとおり優れたものであった。
【0117】
ここで得られたポリマーアロイ繊維と東レデュポン社製ライクラT−127C22Tを用いてベア天竺(28G)を編成した。アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、ナノポーラスポリアミド繊維からなるベア天竺を得た。
【0118】
このナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察したところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維よりも微細になり、島ポリマー除去により細孔サイズは元の島ポリマーよりも微細化し、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。TEM観察からこれの細孔は独立孔であると判断した。 また、このナノポーラスポリアミド繊維からなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。
【0119】
さらに上記ベア天竺を用いてショーツを縫製した。
ナノポーラスポリアミド繊維は表1に示すように優れた物性であった。ナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0120】
比較例1
混練方法を二軸押出混練機ではなく単純なチップブレンドとして図15の装置を用い、実施例4と同様に溶融紡糸を行った。紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。しかし、わずかに得た未延伸糸を用いて実施例4同様に延伸・熱処理を行いポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は10%であった。これを用いて実施例4同様にN6多孔繊維を得たが、直径200nm以上の粗大細孔の面積比が2.0%と大きいため、散乱光が多く白っぽいものであり、筒編みで評価したところ発色性に劣るものであった。
【0121】
比較例2
実施例1に用いたポリカプラミドのみを用いて実施例1と同じ巻取速度、同等の伸度となるように第1引き取りローラー8および第2引き取りローラー9間の延伸倍率を調整して巻き取った。その後、同様な仮撚、カバリング、編成、染色加工(アルカリ処理は除く)を行い、タイツを得た。
【0122】
実施例1、2、3、6および比較例2のタイツを着用評価し比較した結果、比較例2に比べて実施例は軽量感が感じられ、風合いもソフトとなっており、その傾向は実施例6>実施例3>実施例1>実施例2の順であった。特に軽量感という意味では、実施例1、3および6は見た目のイメージからかけ離れた軽量感を持っていた。また、27℃相対湿度40%の室内において着座状態で着用してもらい、ムレ感を官能評価してもらった結果、比較例に比べて実施例のムレ感は軽減しており、実施例6>実施例3>実施例1>実施例2の順に快適であった。
【0123】
比較例3
実施例1に用いたポリカプラミドのみを用いて実施例4と同じ紡糸条件にて未延伸糸を巻き取り、これを第1ホットローラー16の温度を70℃、第2ホットローラー17の温度を130℃として延伸熱処理した(図12)。この時、第1ホットローラー16と第2ホットローラー17間の延伸倍率は、実施例4とほぼ同じ伸度45%となるように設定した。得られたポリカプラミドフィラメントは70dtex、34フィラメント、強度5.4cN/dtex、U%=1.2%、熱収縮率13%となった。
【0124】
上記ポリカプラミドマルチフィラメントを用いて実施例4と同じ条件でベア天竺を編成し、定法にて染色、仕上げ加工を行った。
【0125】
実施例4、5および比較例3のベア天竺をもちいてキャミソールを縫製し、着用して比較評価した結果、比較例3に比べて実施例は軽量感が感じられ、風合いもソフトとなっており、その傾向は実施例5>実施例4の順であった。特に軽量感という意味では、実施例5は見た目のイメージからかけ離れた軽量感を持っていた。また、27℃相対湿度40%の室内において着座状態で着用してもらい、ムレ感を官能評価してもらった結果、比較例に比べて実施例のムレ感は軽減していた。
【0126】
比較例4
実施例1にもちいたポリカプラミドのみを用いて、実施例7と同様に溶融紡糸を行い、紡糸直接延伸を行った。この時、第2ホットローラー29の周速4500m/分、温度150℃として伸度が実施例7とほぼ同じとなるよるように1ホットローラー28と2ホットローラー29間の延伸倍率を調整した。55dtex、12フィラメント、強度5.5cN/dtex、伸度38%、U%1.2%、熱収縮率14%のポリカプラミドマルチフィラメントを得た。
【0127】
上記ポリカプラミドマルチフィラメントを用いて実施例7と同じ条件でベア天竺を編成し、定法にて染色、仕上げ加工を行った。
【0128】
実施例7および比較例4のベア天竺を用いてショーツを縫製し、着用して比較検討した結果、比較例4に比べて実施例7は軽量感が感じられると共に風合いもソフトで肌触りが良く、着用したときの心地よさが感じられた。また、着用している上に空隙が少ないジーンズを着用し、27℃、相対湿度40%の室内において踏み台昇降運動を10分間行ったところ、比較例4に比べて実施例7はムレ感が少なく、着用快適性が感じられた。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
実施例8
口金および単孔吐出量を変更して実施例4と同様に紡糸を行い、第1引き取りローラー8にて糸を引き取った後、合糸し、バンカーに受けた。そして、バンカーに受けた糸条をさらに合糸し15万dtexのトウとした。これを、90℃水槽中で3.2倍に延伸した。そして、クリンパーを通した後、給油し、カットした。得られたカットファイバーは、単糸繊度1.7dtex、捲縮数18山/25mm、繊維長38mmであった。このカットファイバーの強度は3.3cN/dtex、伸度は40%であった。これの繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nmの島の面積比は0.7%であった。また島の平均直径は33nmであった。
【0132】
続いて、該ステープルとアップランドコットンを1:1の割合で原綿混紡し、通常の紡績方式で綿番手36sの混紡糸(撚り数20.4T/吋)を製造した。
【0133】
この紡績糸を使用して20Gの丸編み機を用いてのスムース編した。
【0134】
こうして得られた編物を染色加工において、精錬、リラックス後に3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。引き続き、これを染色、仕上げを行った。
【0135】
上記編物のΔMRを測定したところ4.9%と綿を上回る吸湿性と発現することが判った。上記編み物を用いてTシャツを縫製した。
【0136】
比較例5
実施例8に用いたアップランドコットンを用いて、実施例8と同様に綿番手36sの紡績糸を製造し、同様に編成、染色加工(アルカリ処理除く)、仕上げ加工を行った。
【0137】
これを用いてTシャツを縫製し、実施例8のTシャツと比較評価を行った。実施例のTシャツは水分を素早く吸収し、しかも乾燥時間が早かった。
【0138】
着用したときの感覚としては実施例のTシャツは軽さを実感でき、風合いの柔らかさと合わせて着心地の良さとして感じられた。また28℃相対湿度60%の室内で踏み台昇降運動を行い、背中部分の湿度を測定したところ、実施例の方が湿度が約10%低く、被験者の着用中のムレ感も実施例8のTシャツの方が少ないと実感できるレベルであった。
【0139】
実施例9
実施例8のカットファイバーとは繊維長を38mmから72mmに変えた以外は、同じ方法おなじ繊維物性を有するカットファイバーとメリノ種(クオリティナンバー54番)羊毛とを3:7の割合で原綿混紡し、通常の紡績方式で毛番手36sの混紡糸(撚り数510T/m)を製造した。
【0140】
得られた紡績糸を使用して16Gの靴下編み機に掛けて靴下を編成し、精練の後に3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。引き続き染色、仕上げを行った。
【0141】
比較例6
実施例9に用いた羊毛を用いて、実施例9と同様の紡績糸を製造し、同様に編成、染色加工(アルカリ処理除く)、仕上げ加工を行った。
【0142】
比較例6に比べて実施例9ではカットファイバーを混紡しているため、紡績時の糸切れが少なく、操業性に優れていた。また、見た目よりも軽く感じられ、しかも比較例6と同等の保温性が感じられた。
【0143】
さらに、アンクル部の同じ位置においてJIS L 1018 定速伸長形法にしたがい、破裂強さを測定したところ実施例9,比較例6はそれぞれ、92cNおよび75cNと実施例は比較例に比べて破裂強さが高く、着脱時に指で引っ張ることによる破損が生じにくいことが判った。
【0144】
実施例10
実施例8と同様な原綿、工程によって、綿番手16sの混紡糸(撚り数16.1T/吋)を製造した。この紡績糸を経糸、緯糸に用いて斜子織(織上密度 経/緯=101/82本/吋)を行い、通常の染色加工を行った。その際、染色の前に3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。
【0145】
織物のΔMRを測定したところ4.9%と綿を上回る吸湿性と発現することが判った。上記織物を表地に用いて(裏地はなし)ブルゾンを縫製した。
【0146】
比較例7
実施例8に用いたアップランドコットンを用いて、実施例10と同様に綿番手16sの紡績糸を製造し、引き続き、製織、染色加工(アルカリ処理除く)、仕上げ加工を行った。実施例10と同様にブルゾンを縫製し、実施例10のブルゾンと比較評価を行った。実施例10のブルゾンは水分を素早く吸収し、しかも乾燥時間が早かった。
【0147】
着用したときの感覚としては実施例のブルゾンは軽さを実感でき、風合いの柔らかさと合わせて着心地の良さとして感じられた。また織物の引き裂き強力を比較したところ比較例に比べて実施例は20%高くなっていた。また、10℃相対湿度20%の室内で着座状態にて着用していたときの衣服内(胸部分)の温度を測定したところ実施例10の方が温度低下が約1℃少なく、被験者の感覚としても保温性が高いことを実感できるレベルであった。
【0148】
【表3】
【0149】
【発明の効果】
均一に微細化されたナノポーラスポリアミド繊維を靴下、インナーウエアーおよび外衣の少なくとも一部に用いていることにより、軽量性、保温性を向上させながら、従来の多孔繊維を使用した際に問題となっていた発色性を大幅に向上でき、また優れた吸湿性を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のナノポーラスポリアミド繊維横断面を示すTEM写真である。
【図2】実施例1のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。
【図3】実施例4のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。
【図4】実施例4のポリマーアロイ繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図5】実施例4のナノポーラスポリアミド繊維横断面を示すTEM写真である。
【図6】実施例4のナノポーラスポリアミド繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図7】実施例4のポリマーアロイチップの断面を示すTEM写真である。
【図8】実施例5のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。
【図9】実施例5のナノポーラスファイバーポリアミド繊維横断面を示すTEM写真である。
【図10】実施例6のポリマーアロイ繊維の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図11】実施例6のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。
【図12】実施例6のポリマーアロイ繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図13】実施例6のナノポーラスファイバーポリアミド繊維横断面を示すTEM写真である。
【図14】実施例6のナノポーラスファイバーポリアミド繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図15】紡糸装置を示す図である。
【図16】口金を示す図である。
【図17】延伸装置を示す図である。
【図18】紡糸装置を示す図である
【図19】延伸仮撚り装置を示す図である。
【図20】紡糸直接延伸装置を示す図である。
【符号の説明】
1:ホッパー
2:溶融部
3:紡糸パック
4:口金
5:チムニー
6:糸条
7:集束給油ガイド
8:第1引き取りローラー
9:第2引き取りローラー
10:巻き取り糸
11:計量部
12:吐出孔長
13:吐出孔径
14:未延伸糸
15:フィードローラー
16:第1ホットローラー
17:第2ホットローラー
18:デリバリーローラー(室温)
19:延伸糸
20:静止混練器
21:未延伸糸
22:フィードローラー
23:ヒーター
24:冷却板
25:回転子
26:デリバリーローラー
27:仮撚加工糸
28:第1ホットローラー
29:第2ホットローラー
【発明の属する技術分野】
本発明は、保温性に富み、軽量であると共に、発色性優れ、さらに吸湿性に優れた衣料品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
保温素材としては、布帛にデッドエアーを形成する必要があり、これまでそのための手段として様々な繊維が提案されてきた。例えば、仮撚糸のように繊維に捲縮を付与して嵩高としたり、繊維の中心部に空洞を形成させる中空糸が提案されている。
【0003】
なかでも中空技術はデッドエアーを形成できるだけでなく、見かけ繊度を低くできることから軽量化の効果も得られ、軽くて暖かい素材を求めるニーズに対応できる。
【0004】
しかしながら、中空糸は特許文献1に示すように繊維中心部に1つの穴を有するものであったり、特許文献2に示すようにせいぜい300個程度の穴を有する多孔繊維となっている。これら繊維は、軽量性を発現するものの、中空部の直径が1μm前後であるため、中空部のポリマー/空気界面での可視光の散乱が多くなり、繊維の発色性が著しく低下する問題があった。
【0005】
保温性を特に必要とする秋冬の衣料、特に外衣や靴下は一般的に濃色に染色されることが多く、発色性の低下は製品品位を低下させるため、改善が要望されていた。
【0006】
一方、サブμmレベルの細孔を多数有する多孔繊維も検討されているが、これら検討時は複合紡糸ではなくポリマーブレンド紡糸が利用されてきた。例えば、ポリアミドに親水基共重合PETをブレンドして繊維化し、これから共重合PETを溶出することで多孔ポリアミド繊維が得られることが知られている(特許文献3)。これにより、サブμmレベルの表面凹凸や細孔が形成されるためパール様光沢が得られるのであるが、逆に発色性は著しく低下してしまう問題があった。これは、細孔サイズが可視光の波長レベルであり、しかも細孔が多数あるため、多島中空繊維に比べても可視光の散乱が多くなるためである。また、細孔サイズが可視光より小さい細孔を有する例(特許文献4)もあるが、実際にはブレンド繊維中でPETの粗大な凝集粒子が存在し、この凝集粒子が溶出されサブμm〜1μmレベルの粗大細孔となるため、やはり特許文献1同様に発色性低下の問題があった。実際、該文献2ページ目左上下から7行目には「ポリアミド中にポリエステル成分が大部分0.01〜0.1μの太さのすじとして存在し、溶出後もほぼその大きさの空洞が存在している。」と記載されており、PET凝集粒子の存在が暗示されている。この他にもポリアミド/PETブレンド繊維を利用した多孔繊維の例(特許文献5、6)があるが、ポリアミド中でのPETの分散サイズばらつきが大きく、0.1〜1μm近くまでの分布を持つものであり、粗大孔による発色性低下の問題を解決できなかった。
【0007】
また、前記従来例のように細孔サイズの分布が大きいと、細孔全体に占める粗大細孔の寄与が急激に大きくなり、逆に微細なナノ細孔の寄与がほとんど無くなるため、多孔化による効果を十分発揮できない問題もあった。
【0008】
このため、粗大な細孔を含まない多孔性繊維が求められていた。
【0009】
また、一般に中空糸に捲縮性を付与させようと押し込み加工や仮撚加工したとき、特許文献7のごとく中空部がつぶれて中空率が低くなり、軽量性や保温性が低下するだけでなく、中空部つぶれにより平坦面が現れ、ギラリと反射光が見える、いわゆる「いやびかり」現象を引き起こしてしまうことが生じることから、押し込みや仮撚加工の後でも中空部がつぶれない中空糸が求められていた。
【0010】
一方、着用中の快適性の面から合繊繊維の吸湿性向上が求められており、例えば特許文献8に示すようにポリアミドに対して吸湿ポリマーを添加することによって吸湿性を付与させることが提案されているが、吸湿性を高くするために吸湿ポリマー添加量を高くするとベタつき感が発生するという問題があった。
【0011】
【特許文献1】
特開平5−156516号公報([0013]段落)
【特許文献2】
特開2002−155426号公報([0017]〜[0025]段落)
【特許文献3】
特開平2−175965号公報(1〜5ページ)
【特許文献4】
特開昭56−107069号公報(1〜3ページ)
【特許文献5】
特開平8−158251号公報(1〜7ページ)
【特許文献6】
特開平8−296123号公報(1〜7ページ)
【特許文献7】
特許第3357784号公報([0002]、[0016]段落)
【特許文献8】
特許第3309524号公報([0043]〜[0105]段落)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、保温性と軽量性と共に、良好な発色性さらに高い吸湿性を発現できるナノポーラスポリアミド繊維を衣料品に用いることにより、保温性、発色性、さらに軽量感とムレ感低減による着用中の快適性を向上させることにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(1)直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスポリアミド繊維であって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であるナノポーラスポリアミド繊維を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする衣料品。
【0014】
(2)前記ナノポーラスポリアミド繊維の、繊維横断面全体に占める直径50nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であることを特徴とする(1)に記載の衣料品。
【0015】
(3)前記ナノポーラスポリアミド繊維の、細孔の平均直径が0.1〜50nmであることを特徴とする(1)または(2)記載の衣料品。
【0016】
(4)前記ナノポーラスポリアミド繊維の、強度が1.5cN/dtex以上であることを特徴とする(1)〜(3)のうちいずれか1項記載の衣料品。
【0017】
(5)前記衣料品の吸湿率(ΔMR)が3〜10%であることを特徴とする(1)〜(4)のうちいずれか1項記載の衣料品。
【0018】
(6)前記衣料品が、靴下、インナーウェアー、および外衣からなる群から選ばれたいずれか1種である(1)〜(5)いずれか記載の衣料品。
である。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の衣料品は、繊維横断面を観察したとき、直径が100nm以下の細孔を有するナノポーラスポリアミド繊維を少なくとも一部に用いているものである。
【0020】
本発明では、直径が100nm以下の細孔を有するナノポーラスポリアミド繊維を用いていることが重要である。ここでナノポーラスポリアミド繊維とは直径100nm以下の細孔を繊維横断面において1個/μm2以上含むものである。これにより、デッドエアーが形成されて、軽量感、保温性、吸水性を飛躍的に増大させることができるのである。
【0021】
さらに従来技術で述べたように中空糸に共通した問題である発色性の低下を、孔の平均直径を1〜200nmとすることによって改善することができる。すなわち、可視光の波長は400〜800nm程度であるため、多孔繊維とした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。
【0022】
また、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であることが重要である。可視光の波長は400〜800nm程度であるため、直径200nm以上の粗大細孔がほとんど存在しないことにより、ナノポーラスポリアミド繊維とした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。ここで、細孔の直径や面積はナノポーラスポリアミド繊維の超薄切片を切り出し、それを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより見積もることができる。細孔は楕円やその他の歪んだ形状となる場合があり必ずしも真円とは限らないため、直径は細孔面積から円換算で求めたものとする。また、繊維横断面全体とは単繊維の繊維横断面の面積を言うものであり、ここではポリマー部分と細孔部分を足し合わせた面積のことを言うものである。これらの面積はWINROOF等の画像処理ソフトを用いると簡単に求めることができる。好ましくは、繊維横断面全体に占める直径50nm以上の細孔の面積比が1.5%以下である。
【0023】
本発明に用いるナノポーラスポリアミド繊維の空隙率(細孔の面積率)は高いほど軽量感が感じられ、着用感が快適となるばかりか、空気が断熱材として働くため、保温性が高くなる。したがって、空隙率が高い方が好ましいが、高すぎると見かけの繊度に対して強伸度の低下を引き起こすため、空隙率は5〜60%が好ましい。同様な理由のため、10〜40%であることがより好ましく、見かけの比重が1.0未満となる14%以上30%未満であることが特に好ましい。
【0024】
また、細孔の平均直径は0.1〜50nmであると、可視光の散乱がほとんど起こらず可視光には透明であるが、有害な紫外線の波長に近づくためUVカットという新たな機能が発現する。さらに、繊維表面積が飛躍的に増大するために、従来の多孔繊維では予想できなかった優れた吸湿性や吸着性が発現するという大きな利点がある。また、これほどの微細孔が多数あると水以外にも有機溶媒等の種々の液体を吸収する能力が飛躍的に向上するのである。細孔の平均直径はより好ましくは0.1〜30nmである。
【0025】
本発明のナノポーラスポリアミド繊維の一例を図5(TEM写真)に示すが、金属染色による微細な濃淡が観察される。ここでは濃い部分はN6高密度領域、淡い部分はN6低密度領域を示している。ここで淡い部分が細孔に相当すると考えられる。一方、N6ナノポーラスポリアミド繊維縦断面を図6に示すが粒が筋のように配列した濃淡パターンを示していることが分かる。また、これらの細孔は互いに連結された連通孔でもほとんど連結されていない独立孔でも良い。これらの細孔は後述するように細孔内に様々な分子を取り込むことが可能であるが、これの選択耐久性や徐放性を考慮すると、取り込んだ分子をある程度カプセル化できる独立孔の方が好ましい。
【0026】
以上のようにナノポーラスポリアミド繊維は無数のナノ細孔を有しているが、これにより比表面積が増大し、優れた吸湿・吸着性を示すというメリットがあり、好ましくはナノポーラスポリアミド繊維の吸湿率(ΔMR)を4%以上とすることが可能となる。
【0027】
そのため、衣料品に上述のナノポーラスポリアミド繊維を適度な混率で使用することにより、衣料品のΔMRを3〜10%とすることが可能となる。すなわち、衣類の吸放湿性が高く、衣服内湿度を低く保つことができるため、着用快適性が高くなる。
【0028】
ここで、ΔMRとは湿度の高い肌側から比較的湿度の低い外気側へ繊維を通して水蒸気が移動する速度の一つの指標である。この値が高いと肌側の水蒸気を速やかに吸湿し、繊維を通して外気に排出するからである。したがって、衣料品のΔMRが3%以上であるとき、衣服内の蒸れ感が低減され好ましい。また4%以上である場合には蒸れ感抑制が効果的でさらに好ましい。衣料品のΔMRが10%を超えるようなナノポーラスポリアミド繊維にしようとすると空隙率を高くする必要があり、衣料用途として必要な強度が得られないため、好ましくない。
【0029】
衣料品のΔMRを3%以上とするためには、ナノポーラスポリアミド繊維の細孔サイズを小さくしたり、空隙率を適正化することによって、吸湿性を高めたり、上述のポリアミド繊維を適度な混率で使用することが好ましく行われ、20%以上の混率がより好ましく、50%以上が特に好ましく、混繊または混紡する繊維としては特に限定されるものではない。
【0030】
また、このナノポーラスポリアミド繊維は水蒸気だけでなく種々の物質の吸着特性にも優れ、消臭繊維としても有用である。さらに、綿並の吸水性を発揮する場合もあるだけでなく、ウールのように糸長手方向に可逆的な水膨潤性を示す場合もあり、合成繊維でありながら天然繊維の機能を発現することも可能である。
【0031】
また、ナノ細孔には種々の機能物質を取り込み易いため、従来の繊維に比べ機能加工し易い繊維である。さまざまな機能性薬剤例えば、難燃剤、撥水剤、保湿剤、保冷剤、保温剤、平滑剤、微粒子だけでなくポリフェノールやアミノ酸、タンパク質、カプサイシン、ビタミン類等の健康・美容促進のための薬剤や、水虫等の皮膚疾患の薬や消毒剤、抗炎症剤、鎮痛剤等の医薬品、ポリアミンや光触媒ナノ粒子といった有害物質の吸着・分解するための薬剤を吸尽させることができる。展開する用途に応じて、機能性薬剤を吸尽させ、着用中に効能を発現させることが可能となる。
【0032】
本発明のナノポーラスポリアミド繊維の強度は1.5cN/dtex以上である時、繊維製品の引き裂き強力や耐久性を向上できるため好ましい。強度はより好ましくは2cN/dtex以上、さらに好ましくは2.5cN/dtex以上である。また、伸度は20%以上であると繊維製品の耐久性を向上でき好ましい。
【0033】
また、本発明のナノポーラスポリアミド繊維は、扁平、凸レンズ、三葉断面などの多葉断面、多角形、中空断面等様々な繊維断面形状を採用することができる。また、繊維横断面の全面にナノポーラスが分布していてもナノポーラス部分が繊維表層側あるいは中心部、また偏芯等に偏った部分に局在化していても良い。ただし、ナノポーラスポリアミド繊維の優れた性能を十分発揮するためにはナノポーラス部分は繊維横断面全体に対し面積比で30%以上とすることが好ましい。
【0034】
本発明に用いるナノポーラスポリアミド繊維の前駆体であるポリマーアロイ繊維は、フィラメントだけではなく、ステープルとして用いることができる。紡糸工程では、ポリマーアロイ繊維として中実構造となっているため、押し込みによる捲縮加工等によっても中空部がつぶれないため、軽量感を発現させることができる。
【0035】
ステープルにおいては、捲縮形態は特に限定はされないが、紡績性が良好であるという観点から、2次元捲縮、スパイラル捲縮が好ましく、その中でも2次元捲縮がより好ましい。捲縮数については紡績性の観点から5山/25mm以上25山/25mm以下であることが好ましく、より好ましくは12山/25mm以上20山/25mm以下である。捲縮率については紡績性の観点から、5%以上30%以下であることが必要で好ましくは10%以上20%以下である。
【0036】
捲縮数が5山/25mm未満で、かつ、捲縮率が5%未満であると、短繊維(ステープル)同士の絡合性が低いため高次加工時に紡績性が悪くなるので好ましくない。捲縮数が25山/25mmを越え、捲縮率が30%よりも高くても紡績性が悪くなる。
【0037】
乾伸度は紡績性の観点から5%以上100%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以上50%以下である。乾伸度が5%より低いと、繊維の風合いが硬くなるので好ましくない。100%よりも高いと繊維構造体(織物等)にした場合の絡合強度が低下するので好ましくない。
【0038】
繊維長については紡績性の観点から考慮して20mm以上115mm以下であれば好ましく、30mm以上70mm以下であればより好ましい。
【0039】
ここでいう紡績糸とは、ステープルを少なくとも用いて紡績して得られる紡績糸を言う。紡績工程において、上述の繊維を100%使いのものに限られず、他の繊維との混紡品やあるいはフィラメント糸との精紡交撚(いわゆる長短複合紡績糸)品であっても良い。
【0040】
また、本発明の衣料品においてナノポーラスポリアミド繊維を単独で用いることもできるが、混繊、混紡、カバリング、交織、交編等により通常の合成繊維や化繊、天然繊維と混用することにより、布帛の寸法安定性を向上させたり風合いのさらなる向上をはかることももちろん可能である。さらに天然繊維との混紡に用いた場合、例えば織物の引き裂き強力工場など、製品の耐久性向上に寄与する。
【0041】
また、フラットヤーンでも捲縮糸でも良く、さらに、長繊維、短繊維、不織布、熱成形体等様々な繊維製品形態を採ることができる。
【0042】
ナノポーラスポリアミド繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下のような難溶解性ポリマーとしてのポリアミドと易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイ繊維から易溶解ポリマーを除去することによって得ることができる。
【0043】
例えばポリアミドが海、易溶解性ポリマーが島の海島構造ポリマーアロイ繊維を利用する場合には、直径200nm以上の島、すなわち粗大な凝集ポリマー粒子の存在比が島全体に対し面積比で3%以下であることが好ましい。これにより、ナノポーラスポリアミド繊維とした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。ここで、島はややひずんだ楕円形状となる場合があり必ずしも真円とは限らないため、直径は島面積から円換算で求めたものとする。また、島全体に対する面積は、繊維断面中に存在する全ての島を合計した面積であり、繊維断面観察やポリマーブレンド比から見積もることができる。直径200nm以上の島の面積比は好ましくは1%以下である。より好ましくは直径100nm以上の島の面積比は3%以下であり、さらに好ましくは直径100nm以下の島の面積比は1%以下である。
【0044】
また、島の平均直径が1〜100nmであると、島を除去することにより従来の多孔繊維よりも孔サイズの小さなナノポーラスポリアミド繊維が得られるため好ましい。細孔サイズがナノレベルになると、可視光の散乱がほとんど起こらなくなるために発色性が著しく向上するだけでなく、有害な紫外線を大きく散乱するようになり、UVカットという新たな機能が発現する。さらに、表面積が飛躍的に増大するために、従来の多孔繊維では予想できなかった優れた吸湿性や吸着性が発現するという大きな利点がある。このように発色性や吸着性の観点からは島の平均直径は小さい方が有利であるが、過度に小さくなるとポリマー界面が大きくなり過ぎここでの相互作用が過大となり紡糸が細化挙動が不安定化し易い。このため、島の平均直径は、より好ましくは10〜50nmである。
【0045】
また、島は筋状構造を形成していることが好ましい。これにより、紡糸細化挙動を安定化させることができるのである。ここで筋状構造とは、島の繊維軸方向の長さと直径の比が4以上のものをいうものである。
【0046】
また、海島構造ポリマーアロイではなく以下のような特殊な層構造のアロイ繊維を利用することもできる。ここで特殊な層構造とは、繊維横断面をTEMで観察した時、以下の状態を示すものである。すなわち、ブレンドされた異種ポリマー同士が層を形成し互いに入り組み合って存在している状態である(図14、繊維横断面TEM写真)。このため、異種ポリマー同士の界面が海島構造(図3、繊維横断面TEM写真)に比べはるかに大きくなっており、相溶性が海島構造の物に比べると向上しているが、PET/PBTのようないわゆる均一構造のものと比べると相溶性が低いという極めて特異な構造である。ただし、層に明確な周期性が認められないため、いわゆるスピノーダル分解による変調構造とは区別されるものである。ここで、TEMのサンプルは金属染色されており、濃い部分が難溶解ポリマーであるポリカプラミド、淡い部分が易溶解ポリマーである共重合PETである。また、層を形成するという点でいわゆる海海構造とも明確に区別されるものである。海海構造はポリマーブレンドにおいて海/島が逆転する近傍のブレンド比で現れる極めて不安定な構造であり、当然この領域では安定紡糸を行うのは極めて困難である。繊維横断面方向における易溶解成分の層の1層の厚みは1〜100nmであれば、異種ポリマーが十分超微分散しており、少量ブレンドでもブレンドポリマーの性能を十分発揮できる点から好ましい。また、繊維横断面で観察されるこの層は繊維長手方向には筋として伸びているものである(図16、繊維縦断面TEM写真)。
【0047】
上記のように易溶解性ポリマーが難溶解性ポリマーであるポリアミド中に均一に超微分散化することによって、本発明のナノポーラスポリアミド繊維を得ることができるが、易溶解性ポリマーに低融点や低軟化点のポリマーを用いても、高温処理が行われる捲縮加工や撚糸等の糸加工や布帛加工の工程通過性を向上し、さらに得られる製品の品位も向上できるという利点もある。
【0048】
なお、ポリマーアロイ繊維中のポリマー種類はポリアミドとそれとは溶解性の異なる、合わせて2種以上であれば良く、必要に応じてポリアミドと、易溶解性ポリマーの種類を増やすことができ、また相溶化剤を併用することももちろん可能である。
【0049】
上記したポリマーアロイ繊維において易溶解性ポリマーはアルカリ易溶解性ポリマーであると、島除去による多孔化工程を通常の繊維の後加工工程であるアルカリ処理工程を利用できるため好ましい。例えば、易溶解性ポリマーとしてポリスチレン等の有機溶媒溶解性ポリマーを用いた場合は防爆設備が必要であることを考えると大きなメリットである。易溶解性ポリマーは熱水可溶性ポリマーであると、繊維の精練工程で島除去できるためさらに好ましい。アルカリ易溶解性ポリマーとしては例えばポリエステルやポリカーボネート等を挙げることができ、熱水可溶性ポリマーとしては親水基を多量に共重合したポリエステル、またアルキレンオキサイドやポリビニルアルコール、またそれらの変性物等を挙げることができる。
【0050】
易溶解性ポリマーの除去は製品前に行えば限定されるものではないが、染色前に行うことが好ましく、効率的に除去するためにはステープルやフィラメントの段階で行うよりも布帛化した後に、行うことがより好ましい。しかしながら、縫製後に行うことによって、古着感を出すことも可能である。
【0051】
上記ポリマーアロイ繊維の易溶解ポリマーを溶出させることによって本発明に用いるナノポーラスポリアミド繊維を得るのであり、軽量感、吸湿性の発現のためには易溶解ポリマーをできるだけ溶出することが望ましい。具体的には易溶解ポリマーの50%以上溶出することが好ましく、90%以上であることがより好ましく、実質的にすべて溶出させることが特に好ましい。
【0052】
本発明のナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を保持するためには、難溶解性ポリマーとしてのポリアミドのブレンド比を40〜95重量%とすることが好ましい。難溶解性ポリマーとしてのポリアミドのブレンド比は、より好ましくは70〜85重量%である。
【0053】
また、上記したポリマーアロイ繊維は粗大な凝集ポリマー粒子を含まないため紡糸が公知技術(特許文献3〜6)よりも安定化し、糸斑の小さな繊維が得られやすいという特徴を有する。糸斑はウースター斑(U%)で評価することが可能であるが、本発明で利用するポリマーアロイ繊維ではU%を0.1〜5%とすると、衣料としたときに均一性が高くなり、高品位な製品となる。U%はより好ましくは0.1〜2%、さらに好ましくは0.1〜1.5%である。また、逆に杢調を出す場合には、U%が3〜10%の太細糸とすることもできる。
【0054】
上記ポリマーアロイ繊維の強度は2cN/dtex以上とすることで、紡績、撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。強度は好ましくは3cN/dtex以上である。また、伸度は15〜70%であれば、やはり撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。また、延伸仮撚り加工用原糸として用いる際は伸度は50〜200%とすることが仮撚り加工での工程通過性の点から好ましい。延伸用の原糸の場合には伸度は70〜500%程度とすることが延伸での工程通過性の点から好ましい。
【0055】
上記したポリマーアロイ繊維の製造方法は特に制限されるものではないが、例えば下記のような方法を採用することができる。
【0056】
すなわち、難溶解性ポリマーとしてのポリアミドと易溶解性ポリマーを溶融混練し、難溶解性ポリマーおよび/または易溶解性ポリマーが微分散化した難溶解性ポリマー/易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイを得る。そして、これを溶融紡糸することにより本発明のポリマーアロイ繊維を得ることができる。ここで、溶融混練方法が重要であり、押出混練機や静止混練器等により強制的に混練する事により粗大な凝集ポリマー粒子の生成を大幅に抑制することができるのである。公知技術(特許文献3〜6)ではいずれもチップブレンド(ドライブレンド)を用いているため、ブレンド斑が大きく島ポリマーの凝集を防ぐことができなかったのである。強制的に混練する観点から、押出混練機としては二軸押出混練機、静止混練器としては分割数100万分割以上のものを用いることが好ましい。また、島ポリマーの再凝集を抑制する観点からポリマーアロイ形成、溶融から紡糸口金から吐出するまでの滞留時間も重要であり、ポリマーアロイの溶融部先端から紡糸口金から吐出するまでの時間は30分以内とすることが好ましい。
【0057】
また、島直径の微小化にはポリマーの組み合わせも重要であり、難溶解性ポリマーとしてのポリアミドと易溶解性ポリマーの親和性を上げることで島となる易溶解性ポリマーを超微分散化し易くなる。例えば、ポリカプラミドと、易溶解性ポリマーとしてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる場合には、PETに親水性成分である5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SSIA)を共重合した親水基共重合PETを用いると、ポリカプラミドとの親和性を向上させることができる。特にSSIAの共重合率が4mol%以上の親水化PETを用いることが好ましい。また、両者の溶融粘度比も重要であり、海ポリマー/島ポリマーの粘度比が大きくなるほど島ポリマーに大きな剪断力がかかり島が微分散化し易くなる。ただし、過度に粘度比が大きくなると混練斑や紡糸性悪化を引き起こすため、粘度比は1/10〜2程度とすることが好ましい。
【0058】
難溶解性ポリマーとしてはポリアミドであることが好ましい。ポリアミドを選定した理由として、強度、耐久性、堅牢性、肌触りの柔らかさ、発色性など優れており、靴下、インナーウエアー、および外衣に広く使用されているためである。さらに細孔を形成させるために易溶解性ポリマーとしてアルカリ熔解性ポリマーを溶かしだす際、耐アルカリ性に優れているためである。
【0059】
ポリアミドとしてはいわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体であって、その種類は特に制限されないが、好ましくは、染色性、洗濯堅牢性、機械特性に優れる点から主としてポリカプラミドまたはポリヘキサメチレンアジパミドからなるポリアミドであることが好ましい。ここで言う主としてとは、カプラミド単位、またはヘキサメチレンアジパミド単位として80モル%以上であることを言い、さらに好ましくは90モル%以上であることが好ましい。その他の成分としては、特に制限はないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミンなどの単位が挙げられる。さらに必要に応じて光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、末端基調節剤、染色性向上剤等が添加されていてもよい。また、酸化チタンなどの艶消し剤を機械特性を阻害しない程度に添加することは好ましく行われる。
【0060】
上記したような製造法の特徴により、粗大な凝集ポリマー粒子の生成が抑制されるため、公知技術(特許文献3〜6)に比べ、ポリマーアロイの粘弾性バランスが崩れにくく紡糸吐出が安定し、曳糸性や糸斑を著しく向上できるという利点もある。さらに、口金孔径としては通常よりも大きい物を用いると、口金孔でのポリマーアロイへの剪断応力を低減し粘弾性バランスを保つことができるため、紡糸安定性が向上する。具体的にはポリマアロイの口金での吐出線速度を15m/分以下にできる口金を用いることが好ましい。加えて、糸条の冷却も重要であり、口金から積極的な冷却開始位置までの距離は1〜15cmとすることで、伸長流動が不安定化しやすいポリマーアロイを迅速に固化させることで紡糸を安定化することができるのである。
【0061】
また、島ポリマーを微細化する観点からは紡糸ドラフトは100以上とすることが好ましい。さらに未延伸糸の寸法や物性の経時変化を抑制するためには紡糸速度は2500m/分以上として繊維構造を発達させることが好ましい。
【0062】
なお、上記したポリマーアロイ繊維から作製したナノポーラスポリアミド繊維の一例を図5に示すが、金属染色による濃淡は前駆体であるポリマーアロイ繊維(図3)よりも微細になっており、繊維および易溶解成分が除去された跡が潰れていることが分かる。ここでは濃い部分はポリカプラミド高密度領域、淡い部分はポリカプラミド低密度領域を示している。ここで淡い部分が細孔に相当すると考えられる。すなわち、ポリマーアロイ段階での易溶解性ポリマーの分散サイズよりも細孔サイズを小さくすることができるという利点がある。なお、易溶解性ポリマーの除去に伴い細孔だけでなく繊維径自体も収縮をする。さらにこのナノポーラスポリアミド繊維の繊維縦断面を図6に示すが、ポリマーアロイ繊維では易溶解ポリマーは筋状に伸びていた(図4)が、ナノポーラスポリアミド繊維では筋が所々潰れ、粒状の濃淡パターンを示していることが分かる。
【0063】
以上のように、従来とは異なる製造方法により得られたポリマーアロイ繊維を利用することにより本発明に用いるナノポーラスポリアミド繊維が得られるが、これは細孔サイズが従来のものよりも小さく、また粗大細孔をほとんど含まず、衣料用のみならず様々な分野に応用可能な優れた素材である。
【0064】
ここで本発明の対象とする衣料品とは、体に着用する物すべてを差し特に限定する物ではない。また、それら衣料品は公知のいかなる方法によって作成したものでもよい。
【0065】
衣料品の中でも特に軽量感、保温性、発色性、吸放湿特性に優れている特徴を生かす衣類として、靴下、インナーウエアー、および外衣が挙げられる。そのうち、靴下とは、足部のみからなるフットカバー類、口ゴム、身部、足部の3部位からなるソックス類、身部がストッキングよりも著しく長いストッキング類、上部にパンティー部がついたタイツ、パンティーストッキング類が挙げられる。また、インナーウエアーとは、Tシャツ、スリップ、ネグリジェ、ショーツ、キャミソール等のランジェリーや、ブラジャー、ガードル、コルセット等のファウンデーション等が挙げられる。さらに外衣とはスポーツウェア(ウィンドブレーカー、テニスウェア、スキーウェア、トレーニングウェァ等)、シャツ、ブルゾン、パンツ、スラックス、スカート、ジャケット、スーツ、アンサンブル、セーター、カーディガン、コート等が挙げられる。
【0066】
ナノポーラスポリアミド繊維を用いるための方法としては、ナノポーラスポリアミド繊維、もしくはナノポーラスポリアミド繊維を一部に含んだ紡績糸、混繊糸、複合仮撚糸、複合加工糸、カバリング等を用いるのであるが、例えば編成時にすべてに用いる方法や、供給糸の少なくとも1本に用いたり、プレーティングやボス糸などに用いているものである。また、製織時としては、経糸や緯糸の一部に用いることができる。
【0067】
本発明の衣料品とは上記布帛を衣料品全体や少なくとも一部に用いているものである。なかでも着用快適性を向上させるためには、例えば靴下、インナーウエアーでは肌と接している部分にナノポーラスアミド繊維を用いていることが吸放湿特性を生かすために有効であり、外衣では軽量感を実感するために重量比が高く、発色性が必要とされる表地、軽量感が必要とされる中綿部分、さらに吸湿性により着用快適性を向上させるために裏地に用いることが有効である。
【0068】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0069】
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機製キャピログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0070】
B.ポリアミドの相対粘度
(a)試料を秤量し、98重量%濃硫酸に試料濃度(C)が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下秒数(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98重量%濃硫酸の25℃での落下秒数(T2)を(2)項と同様に測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下式により算出する。測定温度は25℃とする。
(ηr)=(T1/T2)+{1.891×(1.000−C)}。
【0071】
C.ポリエステルの極限粘度[η]
オルソクロロフェノール中25℃で測定した。
【0072】
D.融点
Perkin Elmaer DSC−7を用いて、2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0073】
E.力学特性
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0074】
F.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
【0075】
G.熱収縮率
熱収縮率(%)=[(L0−L1)/L0)]×100(%)
L0:延伸糸をかせ取りし初荷重0.09cN/dtexで測定したかせの原長
L1:L0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.09cN/dtex下でのかせ長。
【0076】
H.TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向または縦断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維横断面を観察した。また、必要に応じて金属染色を施した。
TEM装置 : 日立社製H−7100FA型。
【0077】
I.細孔直径または島ポリマー直径
細孔直径は以下のようにして求める。すなわち、TEMによる繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて島の円換算による直径を求めた。また、微細すぎたり形状が複雑でWINROOFでの解析が難しい場合は、目視と手作業により解析を行った。平均直径は、それらの単純な数平均値を求めた。この時、平均に用いる細孔は同一横断面内で無作為抽出した300以上の細孔を用いた。ただし、TEM観察用のサンプルは超薄切片とするため、サンプルに破れや穴あきが発生しやすい。このため、直径解析時にはサンプルの状況と照らし合わせながら慎重に行った。また、無機微粒子やこれの周りのホイドは、ここでは細孔に含めなかった。島ポリマー直径は細孔直径解析に準じた。
【0078】
J.発色性評価
得られたサンプルを常法にしたがい染色し、同条件で染色した比較サンプルとの発色性を比較した。比較サンプルはナノポーラスポリアミド繊維を構成するポリマーを常法により製糸したものを用いた。染料にクラリアントジャパン株式会社製“Nylosan Blue N−GFL”を用い、この染料を繊維製品の0.8重量%、pHを5に調整した染色液で浴比100倍、90℃×40分処理した。
【0079】
目視判定で、比較以上またはほぼ同等の発色性が得られたもの(◎)と比較よりはやや劣るが衣料用として充分なもの(○)を合格とし、それよりも劣るものを不合格とした(△、×)。
【0080】
K.吸湿率(ΔMR)
繊維または生地サンプルを秤量瓶に1〜2g程度はかり取り、110℃に2時間保ち乾燥させ重量を測定し(W0)、次に対象物質を20℃、相対湿度65%に24時間保持した後重量を測定する(W65)。そして、これを30℃、相対湿度90%に24時間保持した後重量を測定する(W90)。そして、以下の式にしたがい計算を行う。
MR65=[(W65−W0)/W0]×100% ・・・・・ (1)
MR90=[(W90−W0)/W0]×100% ・・・・・ (2)
ΔMR=MR90−MR65 ・・・・・・・・・・・・ (3)。
【0081】
L.仮撚加工糸の捲縮特性、CR値
仮撚加工糸をかせ取りし、実質的に荷重フリーの状態で60℃、20分間処理し、24時間風乾した。このサンプルに0.088cN/dtex(0.1gf/d)相当の荷重をかけ水中に浸漬し、2分後のかせ長L’0を測定した。次に、水中で0.088cN/dtex相当の荷重を除き0.0018cN/dtex(2mgf/d)相当の微荷重に交換し、2分後のかせ長L’1を測定した。そして下式によりCR値を計算した。
CR(%)=[(L’0−L’1)/L’0]×100(%)。
【0082】
M.捲縮数:
短繊維弾性試験機を用い、試料に単糸繊度(デシテックス)当たり0.18mNの初荷重を与えたときの繊維長さと掴み間隔内の山数を読み取り、25mmあたりの捲縮数(山数)に換算して求めた。
捲縮数(山/25mm)=(Cn×25)/(2×L)
Cn:捲縮の山と谷の数の平均値(山)
L :初荷重を掛けたときの繊維長の平均値(mm)。
【0083】
N.捲縮率
単糸繊度(デシテックス)当たり13.23mNの規定荷重を与えて、捲縮が伸ばされたときの繊維長さを測り、0.18mNの初荷重を与えたときの繊維の長さとの差を規定荷重を掛けたときの長さに対する百分率で求めた。
【0084】
捲縮率(%)=(L2−L1)/L2×100
L1:初荷重2mgを掛けたときの繊維長さの平均値(mm)
L2:規定荷重150mgを掛けたときの繊維長さの平均値(mm)
O.乾強度および乾伸度
短繊維(ステープル)を滑沢紙に貼り付け、マッケンジー短繊維引張試験機または自動引張試験機を用いて引張速度20g/分のスピードで、短繊維(ステープル)を引張り、繊維が切断したときの強力および伸度を求めた。
【0085】
なお、前提条件としてこのときの引っ張り速度は20g/分とした。
乾強度(cN/dtex)=0.9807×S/d
注)dtex:デシテックス
S:標準状態(室温20℃、湿度65%RH)における切断強力の平均値(g)
d:試料の単糸繊度(dtex)
乾伸度(%)=(E2−E1)/(L+E1)×100
L :繊維単糸の掴み間隔(mm)
E1 :緩み長平均値(mm)
E2 :標準状態(室温20℃、湿度65%RH)における切断伸び平均値(mm)。
【0086】
P.繊維長
グリセリン塗布したスケール板上で繊維の捲縮がなくなる程度に伸ばして繊維の長さを標準状態(室温20℃、湿度65%RH)下で測り100本の平均値で平均繊維長を求めた。
平均繊維長(mm)=L/100
L:100本の短繊維長の和。
【0087】
実施例1
相対粘度2.15、溶融粘度274poise(280℃、剪断速度2432sec−1)、融点220℃のポリカプラミド(80重量%)と極限粘度0.60、溶融粘度1400poise(280℃、剪断速度2432sec−1)、融点250℃の5−ナトリウムスルホイソフタル酸5mol%共重合した共重合PET(20重量%)を二軸押出混練機で260℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。なお、共重合PETは0.05重量%の酸化チタンを含有していた。そして、このポリマーアロイを270℃の溶融部2で溶融し、紡糸温度275℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、溶融紡糸した(図15)。この時、溶融部2から吐出までの滞留時間は10分間であった。口金としては図16に示すように吐出孔上部に直径0.2mmの計量部11を備えた、吐出孔径13が0.5mm、吐出孔長12が1.25mmのものを用いた。そして、この時の単孔あたりの吐出量は2.1g/分とし、ポリマーアロイの口金吐出線速度は10m/分であった。また、口金下面から冷却開始点(チムニー5の上端部)までの距離は9cmであった。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、口金4から1.8m下方に設置した給油ガイド7で給油された後、非加熱の第1引き取りローラー8および第2引き取りローラー9を介して3800m/分で巻き取られた。この時の紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。また、ナイロンで問題となる巻き取りパッケージの経時膨潤によるパッケージ崩れも無く、優れた取り扱い性であった。そして、これに図19の装置を用い延伸仮撚り加工を施した。この時、延伸倍率は1.3倍、ヒーター23温度は165℃、回転子25としてはウレタンディスクの3軸ツイスターを用い、D/Y比は1.65とした。得られた50dtex、12フィラメントの仮撚り加工糸は強度3.5cN/dtex、伸度29%、熱収縮率8%、CR38%の優れた物性となった。
【0088】
また、得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ポリカプラミドが海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し(図2)、島の平均直径は25nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.9%であった。ここで、島全体に対する面積比とは島成分の面積の総和に対する比率のことを言い、粗大な凝集ポリマーの目安となるものである。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造を形成していることが分かった。
【0089】
上記S撚/Z撚仮撚糸を用い、東レデュポン社製ライクラT−178C 20Tを芯糸としてドラフト倍率2.9倍、カバリング撚数700T/mでそれぞれS撚/Z撚のカバリング糸を用意し、永田精機(株)製 MODEL P−482(針数400本)を用いてタイツを編成した。これを3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。その後、水洗し、乾燥した。引き続き、染色、柔軟剤付与、湿熱セット(110℃×60秒)を行い、ナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツ(実施例1)を得た。なお、上記条件によるアルカリ処理では芯糸であるスパンデクスの強伸度、伸長回復特性は、同様な熱処理過程を経たスパンデクスに比べて低下は見られなかった。
【0090】
このナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察した(図1)ところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は25nmであった。ここで、濃い部分がポリカプラミドポリマー、薄い部分が細孔に相当するが、細孔は独立孔であることがわかった。
【0091】
また、このナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにタイツの吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.6%と綿を凌駕する優れた吸湿性を示した。さらに、タイツを分解し、カバリング糸であるナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度2.6cN/dtex、伸度30%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。カバリング分解糸であるナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0092】
実施例2
実施例1においてポリマーアロイチップを作る際、ポリカプラミドを95重量%、共重合PETを5重量%とする以外は同様にポリマーアロイ捲縮糸を得た。得られた50dtex、12フィラメントの仮撚り加工糸は強度4.2cN/dtex、伸度29%、熱収縮率9%、CR42%の優れた物性を示した(表2)。
【0093】
また、得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ポリカプラミドが海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し、島の平均直径は25nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も0.8%であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造を形成していることが分かった。
【0094】
実施例1と同様にタイツを編成し、同様な染色加工を行った。これによって得られたナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は25nmであった。
【0095】
また、このナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにタイツ吸湿率(ΔMR)を測定したところ、3.4%と優れた吸湿性を示した。さらに、タイツを分解し、カバリング糸であるナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度3.1cN/dtex、伸度30%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。カバリング分解糸であるナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0096】
実施例3
実施例1においてポリマーアロイチップを作る際、ポリカプラミドを60重量%、共重合PETを40重量%とする以外は同様にポリマーアロイ捲縮糸を得た。得られた50dtex、12フィラメントの仮撚り加工糸は強度2.9cN/dtex、伸度29%、熱収縮率8%、CR35%の優れた物性を示した(表2)。
【0097】
また、得られたポリマーアロイ捲縮糸の横断面をTEMで観察したところ、ポリカプラミドが海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し、島の平均直径は25nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nm以上の面積比も1.0%であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造を形成していることが分かった。
【0098】
実施例1と同様にタイツを編成し、同様な染色加工を行った。これによって得られたナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察したところ、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は25nmであった。
【0099】
また、このナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにタイツ吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.8%と優れた吸湿性を示した。さらに、タイツを分解し、カバリング糸であるナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度2.3cN/dtex、伸度30%であった。カバリング分解糸であるナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0100】
実施例4
実施例1で得たポリマアロイチップを用い、吐出量と口金孔数を変更し、紡糸速度を900m/分として実施例1と同様に溶融紡糸を行った。この時の溶融部2から吐出までの滞留時間は12分間であった。紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。また、ナイロンで問題となる巻き取りパッケージの経時膨潤によるパッケージ崩れも無く、優れた取り扱い性であった。そして、これを第1ホットローラー16の温度を70℃、第2ホットローラー17の温度を130℃として延伸熱処理した(図17)。この時、第1ホットローラー16と第2ホットローラー17間の延伸倍率を3.2倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は70dtex、34フィラメント、強度3.7cN/dtex、伸度47%、U%=1.2%、熱収縮率11%の優れた特性を示した。
【0101】
また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、N6が海(濃い部分)、共重合PETが島(薄い部分)の海島構造を示し(図3)、島の平均直径は38nmであり、共重合PETが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。また、直径200nm以上の島は島全体に対して面積比で1.2%であった。なお、溶融混練したポリマーアロイチップの断面TEM写真を図7に示すが、島ポリマーが粒径20〜30nmまで超微分散化しており、繊維横断面での島ポリマー直径(図3)同等以下であった。口金吐出から延伸を通じてポリマーは500倍程度に引き延ばされ、本来、繊維横断面中では島ポリマー直径はポリマーアロイ中に比べ1/22以下にならなければならいにもかかわらず、繊維横断面での島ポリマー直径の方が大きいということは、ポリマーアロイの溶融から口金吐出されるまでに島ポリマーが再凝集したことを示しており、これを抑制しながら島ポリマーを超微分散させるためには本実施例のように紡糸条件を適切に選ぶことが重要であることがわかる。ポリマーアロイ繊維の物性は表2に示した。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。
【0102】
ここで得られたポリマーアロイ繊維と東レデュポン社製ライクラT−127C22Tを用いてベア天竺(28G)を編成した。これを3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。その後、水洗し、乾燥した。編み地を分解して、得られたナノポーラスポリアミド繊維を光学顕微鏡で繊維側面観察を行ったところ、アルカリ処理前の繊維に比べ繊維径が若干減少しており、島ポリマーを除去することによって繊維半径方向に収縮が起こっていることが分かった。次に、これの繊維側面をSEMにより観察したところ、倍率2000倍程度では繊維表面に凹凸は見られずきれいな表面形態であった。また、このナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察した(図5)ところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維(図3)よりも微細になっていた。ここで、濃い部分はN6高密度部分、淡い部分はポリカプラミド低密度部分である。そして淡い部分が細孔に相当すると考えられる。すなわち、島ポリマー除去により細孔サイズは元の島ポリマーよりも微細化し、細孔の平均直径は20nm以下であり、直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であった。
【0103】
また、繊維縦断面を観察したところ、元のポリマーアロイでは共重合PETが筋状に伸びていた(図4)のに対し、ナノポーラス繊維では粒状の淡い部分が観察され(図6)、シリンダー状細孔が所々潰れ、粒状細孔となっていることが示唆された。図5および図6の濃淡パターンから、これらの細孔は独立孔であると判断した。
【0104】
ひきつづき、ベア天竺に定法にしたがい染色、セットを行い、発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにベア天竺の吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.3%と綿を凌駕する優れた吸湿性を示した。また、この分解して得られたナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度2.0cN/dtex、伸度70%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。
【0105】
さらに上記ベア天竺を用いてキャミソールを縫製した。
【0106】
ナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0107】
実施例5
共重合PETをイソフタル酸を7mol%、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物を4mol%共重合したPET(融点225℃、0.05重量%の酸化チタンを含有)として、ポリカプラミドと共重合PETの重量比を50重量%/50重量%、口金孔径を0.7mmとして実施例4と同様にして溶融紡糸、延伸・熱処理を行った。問題となるほどではないが実施例4に比べると紡糸が不安定化し、24時間の連続紡糸の間の糸切れは2回であった。得られたポリマーアロイ繊維の繊維横断面をTEMで観察結果を図8に示すが、粗大な凝集ポリマー粒子はわずかであったが、島の平均直径が143nm、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は5%であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。ナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0108】
このポリマーアロイ繊維を実施例4と同様にベア天竺に編成後、アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、ナノポーラスポリアミド繊維からなるベア天竺を得た。
【0109】
ここで、ベア天竺を分解し、このナノポーラスポリアミド繊維を光学顕微鏡で観察したところ実施例1同様に島ポリマー除去により繊維半径方向に収縮が見られた。また、このナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察した結果を図9に示すが、島ポリマーが抜けた跡が潰れ幅10〜30nm、長さ100nm程度の細孔となっており、直径が50〜100nmの大きな細孔も散見された。しかし、直径200nm以上の粗大細孔の面積比は0.5%であった。これの発色性評価を行ったが、実施例4に比べると発色性に劣るものの衣料用として使用可能なレベルであった。なお、これの細孔は独立孔であった。
【0110】
実施例4と同様に上記ベア天竺を用いてキャミソールを縫製した。
【0111】
ナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0112】
実施例6
N6を溶融粘度1260poiseまたは1540poise(280℃、剪断速度2432sec−1)の実施例3で用いたものよりも高粘度のN6を用図18の装置を用いてそれぞれ270℃、290℃で溶融した後、パック3内に設置した静止混練器20(東レエンジニアリング社製“ハイミキサー”10段)により104万分割して混合した。そして、これを絶対濾過径20μmの金属不織布フィルターで濾過した後、孔径0.35mmの口金孔から吐出した。この時、紡糸温度は280℃、口金4からチムニー5の上端までの距離は7cmとした。これを紡糸速度900m/分で引き取り、第2引き取りローラー9を介して巻き取った。24時間の紡糸を行ったが、紡糸での糸切れは皆無であり、良好な紡糸性を示した。これを図17の装置を用いて延伸・熱処理した。この時、延伸倍率は3.2倍、第1ホットローラー16温度は70℃、第2ホットローラー17温度は130℃とした。延伸・熱処理での糸切れは皆無であり、良好な延伸性を示した。
【0113】
これにより56dtex、12フィラメントのポリマーアロイ繊維を得たが、U%は1.5%と充分糸斑の小さなものであった。また、これの繊維横断面をTEMで観察したところ、金属染色により濃く染まったポリカプラミド部分と淡いPET部分が特殊な層構造を形成しており、PET層部分の厚みは概ね20nm程度であった(図10)。また、この繊維は繊維表層から150nm程度までは特殊な層構造が崩れ海島構造となっていたが、特殊な層構造部分の面積を見積もったところ、繊維横断面全体に対して98%であり、繊維断面のほとんどが特殊な層構造を形成していた(図11)。また、このポリマーアロイ繊維の縦断面をTEMで観察したところ層が筋状になっていた(図12)。
【0114】
上記ポリマーアロイ繊維をヒーター長1m、ヒーター温度160℃、スピンドル回転数4000T/mの条件にてスピンドル仮撚機により仮撚を行い、仮撚糸を得た。この仮撚糸を用いて実施例1と同様にタイツを編成し、同様な染色加工を行った。また、このナノポーラスポリアミド繊維からなるタイツの発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。さらにタイツ吸湿率(ΔMR)を測定したところ、5.6%と優れた吸湿性を示した。さらに、タイツを分解し、カバリング糸であるナノポーラスポリアミド繊維の力学特性を測定したところ、強度2.1cN/dtex、伸度30%であり、繊維製品として充分な力学特性を示した。カバリング分解糸であるナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0115】
またこのナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察した(図13)ところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維よりも微細になっていた。ここで、濃い部分はポリカプラミド高密度部分、淡い部分はポリカプラミド低密度部分である。そして淡い部分が細孔に相当すると考えられる。また、繊維縦断面を観察したところ、元のポリマーアロイではPETが筋状に伸びていた(図12)のに対し、ナノポーラスポリアミド繊維では粒状の淡い部分が観察され(図14)、細孔が潰れていることが示唆された。直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。
【0116】
実施例7
実施例1と同様に溶融紡糸を行い、図20の装置を用いて紡糸直接延伸を行った。この時、単孔あたりの吐出量と口金孔数を変更し、第1ホットローラー28の周速2000m/分、温度40℃、第2ホットローラー29の周速4500m/分、温度150℃として55dtex、12フィラメント、強度4.4cN/dtex、伸度37%、U%1.2%、熱収縮率12%のポリマーアロイ繊維を得た。紡糸性は良好であり、24時間の紡糸で糸切れはゼロであった。得られたポリマーアロイ繊維は、いずれも粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径200nm以上の島は島全体に対し面積比で0.1%以下、直径100nm以上の島も面積比で0.1%以下であった。また、繊維縦断面TEM観察から島は筋状構造をしていることがわかった。また、糸物性は表2に示すとおり優れたものであった。
【0117】
ここで得られたポリマーアロイ繊維と東レデュポン社製ライクラT−127C22Tを用いてベア天竺(28G)を編成した。アルカリ処理により共重合PETの99%以上を除去し、ナノポーラスポリアミド繊維からなるベア天竺を得た。
【0118】
このナノポーラスポリアミド繊維の繊維横断面をTEMで観察したところ、金属染色による濃淡斑が元のポリマーアロイ繊維よりも微細になり、島ポリマー除去により細孔サイズは元の島ポリマーよりも微細化し、直径が50nm以上の大きな細孔は皆無であった。TEM観察からこれの細孔は独立孔であると判断した。 また、このナノポーラスポリアミド繊維からなる丸編みに染色を施し発色性評価を行ったが、発色性に優れたものであった。
【0119】
さらに上記ベア天竺を用いてショーツを縫製した。
ナノポーラスポリアミド繊維は表1に示すように優れた物性であった。ナノポーラスポリアミド繊維の物性は表1に、ポリマーアロイ繊維の物性は表2に、衣料品の物性は表3にそれぞれ示した。
【0120】
比較例1
混練方法を二軸押出混練機ではなく単純なチップブレンドとして図15の装置を用い、実施例4と同様に溶融紡糸を行った。紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。しかし、わずかに得た未延伸糸を用いて実施例4同様に延伸・熱処理を行いポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は10%であった。これを用いて実施例4同様にN6多孔繊維を得たが、直径200nm以上の粗大細孔の面積比が2.0%と大きいため、散乱光が多く白っぽいものであり、筒編みで評価したところ発色性に劣るものであった。
【0121】
比較例2
実施例1に用いたポリカプラミドのみを用いて実施例1と同じ巻取速度、同等の伸度となるように第1引き取りローラー8および第2引き取りローラー9間の延伸倍率を調整して巻き取った。その後、同様な仮撚、カバリング、編成、染色加工(アルカリ処理は除く)を行い、タイツを得た。
【0122】
実施例1、2、3、6および比較例2のタイツを着用評価し比較した結果、比較例2に比べて実施例は軽量感が感じられ、風合いもソフトとなっており、その傾向は実施例6>実施例3>実施例1>実施例2の順であった。特に軽量感という意味では、実施例1、3および6は見た目のイメージからかけ離れた軽量感を持っていた。また、27℃相対湿度40%の室内において着座状態で着用してもらい、ムレ感を官能評価してもらった結果、比較例に比べて実施例のムレ感は軽減しており、実施例6>実施例3>実施例1>実施例2の順に快適であった。
【0123】
比較例3
実施例1に用いたポリカプラミドのみを用いて実施例4と同じ紡糸条件にて未延伸糸を巻き取り、これを第1ホットローラー16の温度を70℃、第2ホットローラー17の温度を130℃として延伸熱処理した(図12)。この時、第1ホットローラー16と第2ホットローラー17間の延伸倍率は、実施例4とほぼ同じ伸度45%となるように設定した。得られたポリカプラミドフィラメントは70dtex、34フィラメント、強度5.4cN/dtex、U%=1.2%、熱収縮率13%となった。
【0124】
上記ポリカプラミドマルチフィラメントを用いて実施例4と同じ条件でベア天竺を編成し、定法にて染色、仕上げ加工を行った。
【0125】
実施例4、5および比較例3のベア天竺をもちいてキャミソールを縫製し、着用して比較評価した結果、比較例3に比べて実施例は軽量感が感じられ、風合いもソフトとなっており、その傾向は実施例5>実施例4の順であった。特に軽量感という意味では、実施例5は見た目のイメージからかけ離れた軽量感を持っていた。また、27℃相対湿度40%の室内において着座状態で着用してもらい、ムレ感を官能評価してもらった結果、比較例に比べて実施例のムレ感は軽減していた。
【0126】
比較例4
実施例1にもちいたポリカプラミドのみを用いて、実施例7と同様に溶融紡糸を行い、紡糸直接延伸を行った。この時、第2ホットローラー29の周速4500m/分、温度150℃として伸度が実施例7とほぼ同じとなるよるように1ホットローラー28と2ホットローラー29間の延伸倍率を調整した。55dtex、12フィラメント、強度5.5cN/dtex、伸度38%、U%1.2%、熱収縮率14%のポリカプラミドマルチフィラメントを得た。
【0127】
上記ポリカプラミドマルチフィラメントを用いて実施例7と同じ条件でベア天竺を編成し、定法にて染色、仕上げ加工を行った。
【0128】
実施例7および比較例4のベア天竺を用いてショーツを縫製し、着用して比較検討した結果、比較例4に比べて実施例7は軽量感が感じられると共に風合いもソフトで肌触りが良く、着用したときの心地よさが感じられた。また、着用している上に空隙が少ないジーンズを着用し、27℃、相対湿度40%の室内において踏み台昇降運動を10分間行ったところ、比較例4に比べて実施例7はムレ感が少なく、着用快適性が感じられた。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
実施例8
口金および単孔吐出量を変更して実施例4と同様に紡糸を行い、第1引き取りローラー8にて糸を引き取った後、合糸し、バンカーに受けた。そして、バンカーに受けた糸条をさらに合糸し15万dtexのトウとした。これを、90℃水槽中で3.2倍に延伸した。そして、クリンパーを通した後、給油し、カットした。得られたカットファイバーは、単糸繊度1.7dtex、捲縮数18山/25mm、繊維長38mmであった。このカットファイバーの強度は3.3cN/dtex、伸度は40%であった。これの繊維横断面をTEMで観察した結果、粗大な凝集ポリマー粒子を含まず、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は0.1%以下、直径100nmの島の面積比は0.7%であった。また島の平均直径は33nmであった。
【0132】
続いて、該ステープルとアップランドコットンを1:1の割合で原綿混紡し、通常の紡績方式で綿番手36sの混紡糸(撚り数20.4T/吋)を製造した。
【0133】
この紡績糸を使用して20Gの丸編み機を用いてのスムース編した。
【0134】
こうして得られた編物を染色加工において、精錬、リラックス後に3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。引き続き、これを染色、仕上げを行った。
【0135】
上記編物のΔMRを測定したところ4.9%と綿を上回る吸湿性と発現することが判った。上記編み物を用いてTシャツを縫製した。
【0136】
比較例5
実施例8に用いたアップランドコットンを用いて、実施例8と同様に綿番手36sの紡績糸を製造し、同様に編成、染色加工(アルカリ処理除く)、仕上げ加工を行った。
【0137】
これを用いてTシャツを縫製し、実施例8のTシャツと比較評価を行った。実施例のTシャツは水分を素早く吸収し、しかも乾燥時間が早かった。
【0138】
着用したときの感覚としては実施例のTシャツは軽さを実感でき、風合いの柔らかさと合わせて着心地の良さとして感じられた。また28℃相対湿度60%の室内で踏み台昇降運動を行い、背中部分の湿度を測定したところ、実施例の方が湿度が約10%低く、被験者の着用中のムレ感も実施例8のTシャツの方が少ないと実感できるレベルであった。
【0139】
実施例9
実施例8のカットファイバーとは繊維長を38mmから72mmに変えた以外は、同じ方法おなじ繊維物性を有するカットファイバーとメリノ種(クオリティナンバー54番)羊毛とを3:7の割合で原綿混紡し、通常の紡績方式で毛番手36sの混紡糸(撚り数510T/m)を製造した。
【0140】
得られた紡績糸を使用して16Gの靴下編み機に掛けて靴下を編成し、精練の後に3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。引き続き染色、仕上げを行った。
【0141】
比較例6
実施例9に用いた羊毛を用いて、実施例9と同様の紡績糸を製造し、同様に編成、染色加工(アルカリ処理除く)、仕上げ加工を行った。
【0142】
比較例6に比べて実施例9ではカットファイバーを混紡しているため、紡績時の糸切れが少なく、操業性に優れていた。また、見た目よりも軽く感じられ、しかも比較例6と同等の保温性が感じられた。
【0143】
さらに、アンクル部の同じ位置においてJIS L 1018 定速伸長形法にしたがい、破裂強さを測定したところ実施例9,比較例6はそれぞれ、92cNおよび75cNと実施例は比較例に比べて破裂強さが高く、着脱時に指で引っ張ることによる破損が生じにくいことが判った。
【0144】
実施例10
実施例8と同様な原綿、工程によって、綿番手16sの混紡糸(撚り数16.1T/吋)を製造した。この紡績糸を経糸、緯糸に用いて斜子織(織上密度 経/緯=101/82本/吋)を行い、通常の染色加工を行った。その際、染色の前に3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)で1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中の共重合PETの99%以上を加水分解除去した。
【0145】
織物のΔMRを測定したところ4.9%と綿を上回る吸湿性と発現することが判った。上記織物を表地に用いて(裏地はなし)ブルゾンを縫製した。
【0146】
比較例7
実施例8に用いたアップランドコットンを用いて、実施例10と同様に綿番手16sの紡績糸を製造し、引き続き、製織、染色加工(アルカリ処理除く)、仕上げ加工を行った。実施例10と同様にブルゾンを縫製し、実施例10のブルゾンと比較評価を行った。実施例10のブルゾンは水分を素早く吸収し、しかも乾燥時間が早かった。
【0147】
着用したときの感覚としては実施例のブルゾンは軽さを実感でき、風合いの柔らかさと合わせて着心地の良さとして感じられた。また織物の引き裂き強力を比較したところ比較例に比べて実施例は20%高くなっていた。また、10℃相対湿度20%の室内で着座状態にて着用していたときの衣服内(胸部分)の温度を測定したところ実施例10の方が温度低下が約1℃少なく、被験者の感覚としても保温性が高いことを実感できるレベルであった。
【0148】
【表3】
【0149】
【発明の効果】
均一に微細化されたナノポーラスポリアミド繊維を靴下、インナーウエアーおよび外衣の少なくとも一部に用いていることにより、軽量性、保温性を向上させながら、従来の多孔繊維を使用した際に問題となっていた発色性を大幅に向上でき、また優れた吸湿性を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のナノポーラスポリアミド繊維横断面を示すTEM写真である。
【図2】実施例1のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。
【図3】実施例4のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。
【図4】実施例4のポリマーアロイ繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図5】実施例4のナノポーラスポリアミド繊維横断面を示すTEM写真である。
【図6】実施例4のナノポーラスポリアミド繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図7】実施例4のポリマーアロイチップの断面を示すTEM写真である。
【図8】実施例5のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。
【図9】実施例5のナノポーラスファイバーポリアミド繊維横断面を示すTEM写真である。
【図10】実施例6のポリマーアロイ繊維の繊維横断面を示すTEM写真である。
【図11】実施例6のポリマーアロイ繊維横断面を示すTEM写真である。
【図12】実施例6のポリマーアロイ繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図13】実施例6のナノポーラスファイバーポリアミド繊維横断面を示すTEM写真である。
【図14】実施例6のナノポーラスファイバーポリアミド繊維縦断面を示すTEM写真である。
【図15】紡糸装置を示す図である。
【図16】口金を示す図である。
【図17】延伸装置を示す図である。
【図18】紡糸装置を示す図である
【図19】延伸仮撚り装置を示す図である。
【図20】紡糸直接延伸装置を示す図である。
【符号の説明】
1:ホッパー
2:溶融部
3:紡糸パック
4:口金
5:チムニー
6:糸条
7:集束給油ガイド
8:第1引き取りローラー
9:第2引き取りローラー
10:巻き取り糸
11:計量部
12:吐出孔長
13:吐出孔径
14:未延伸糸
15:フィードローラー
16:第1ホットローラー
17:第2ホットローラー
18:デリバリーローラー(室温)
19:延伸糸
20:静止混練器
21:未延伸糸
22:フィードローラー
23:ヒーター
24:冷却板
25:回転子
26:デリバリーローラー
27:仮撚加工糸
28:第1ホットローラー
29:第2ホットローラー
Claims (6)
- 直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスポリアミド繊維であって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であるナノポーラスポリアミド繊維を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする衣料品。
- 前記ナノポーラスポリアミド繊維の、繊維横断面全体に占める直径50nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の衣料品。
- 前記ナノポーラスポリアミド繊維の、細孔の平均直径が0.1〜50nmであることを特徴とする請求項1または2記載の衣料品。
- 前記ナノポーラスポリアミド繊維の、強度が1.5cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の衣料品。
- 前記衣料品の吸湿率(ΔMR)が3〜10%であることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載の衣料品。
- 前記衣料品が、靴下、インナーウェアー、および外衣からなる群から選ばれたいずれか1種である請求項1〜5いずれか記載の衣料品。
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JP2003184219A JP2005015961A (ja) | 2003-06-27 | 2003-06-27 | ナノポーラスポリアミド繊維を用いてなる衣料品 |
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JP2003184219A JP2005015961A (ja) | 2003-06-27 | 2003-06-27 | ナノポーラスポリアミド繊維を用いてなる衣料品 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007332479A (ja) * | 2006-06-13 | 2007-12-27 | Unitica Fibers Ltd | 混合物紡糸繊維 |
CN108669670A (zh) * | 2018-05-15 | 2018-10-19 | 张建俊 | 服饰 |
-
2003
- 2003-06-27 JP JP2003184219A patent/JP2005015961A/ja active Pending
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