JP3770254B2 - ナノポーラスファイバー - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、可視光を乱反射する粗大な細孔をほとんど含まない、微細かつ均一なナノ細孔を多数有するナノポーラスファイバーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ナイロン6(N6)やナイロン66(N66)に代表されるポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)に代表されるポリエステル繊維は力学特性や寸法安定性に優れるため、衣料用途のみならずインテリアや車両内装、産業用途等幅広く利用されている。また、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等に代表されるポリオレフィン繊維は軽さを活かして産業用途に幅広く利用されている。
【0003】
しかし、単一のポリマーからなる繊維ではその性能に限界があるため、従来から共重合やポリマーブレンドといったポリマー改質、また複合紡糸や混繊紡糸による機能の複合化が検討されてきた。中でも、ポリマーブレンドは新しくポリマーを設計する必要が無く、しかも単成分紡糸機を用いても製造が可能であることから特に活発な検討が行われてきた。
【0004】
ところで、繊維に軽量感や吸水性を付与することを目的として、従来から中空繊維や多孔繊維の検討もなされてきた。中空繊維については高中空率を目指して開発が進められたが、仮撚り加工等で中空が潰れてしまう問題があった。このため、最近、水溶性ポリマーとの複合繊維を利用した多島中空繊維も開発されているが、中空径が1μm以上であるため中空部のポリマー/空気界面での可視光の散乱が多くなり、繊維の発色性が著しく低下する問題があった。
【0005】
一方、サブμmレベルの細孔を多数有する多孔繊維も検討されているが、この製造法は複合紡糸ではなくポリマーブレンド紡糸法が採用されてきた。例えば、ナイロンに親水基共重合PETをブレンドして繊維化し、これから共重合PETを溶出することで多孔を有するナイロン繊維が得られることが知られている(特許文献1)。これにより、サブμmレベルの表面凹凸や細孔が形成されるためパール様光沢が得られるのであるが、逆に発色性は著しく低下してしまう問題があった。これは、細孔サイズが可視光の波長レベルであり、しかも細孔が多数あるため、多島中空繊維に比べて可視光の散乱が多くなるためである。また、細孔サイズが可視光より小さい細孔を有する繊維の提供(特許文献2)もあるが、実際にはブレンド繊維中にPETの粗大な凝集粒子が存在し、この凝集粒子が溶出した後のサブμm〜1μmレベルの粗大細孔が存在するため、やはり特許文献1同様に発色性低下の問題があった。事実、該文献2ページ左上下から7行目には「ポリアミド中にポリエステル成分が大部分0.01〜0.1μの太さのすじとして存在し、溶出後もほぼその大きさの空洞が存在している。」と記載されており、PET凝集粒子の存在が指摘されている。この他にもナイロン/PETブレンド繊維を利用した多孔性繊維の提案(特許文献3、4)があるが、ナイロン中でのPETの分散サイズのばらつきが大きく、0.1〜1μm程度までの分布を持つものであり、粗大孔による発色性低下の問題を解決できなかった。
【0006】
また、前記従来例のように細孔サイズの分布が大きいと、細孔全体に占める粗大細孔の影響が急激に大きくなり、そのため微細なナノ細孔の寄与が小さく、多孔化による効果を十分発揮できない問題もあった。
【0007】
このため、粗大な細孔を含まない微多孔を有する繊維が求められていた。
【0008】
【特許文献1】
特開平2−175965号公報(1〜5ページ)
【0009】
【特許文献2】
特開昭56−107069号公報(1〜3ページ)
【0010】
【特許文献3】
特開平8−158251号公報(1〜7ページ)
【0011】
【特許文献4】
特開平8−296123号公報(1〜7ページ)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の多孔繊維とは異なり、粗大細孔をほとんど含まないナノオーダーの微細孔が均一性に分散したナノポーラスファイバーを提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスファイバーであって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であり、細孔が独立孔であって、ナノポーラス部の面積が繊維横断面に対し5〜95%、かつ繊維横断面中で偏心的に偏在しているナノポーラスファイバーにより達成される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のナノポーラスファイバーを構成するポリマーとしてはポリエステルやポリアミド、またポリオレフィンに代表される熱可塑性ポリマーやフェノール樹脂等のような熱硬化性ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリルに代表される熱可塑性に乏しいポリマーや生体ポリマー等のことを言うが、熱可塑性ポリマーが成形性の点から好ましい。中でもポリエステルやポリアミドは融点が高いものが多く、より好ましい。ポリマーの融点は165℃以上であると耐熱性が良好であり好ましい。例えば、ポリ乳酸(PLA)は170℃、PETは255℃、N6は220℃である。また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有させていても良い。またポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていても良いが、ポリマー本来の耐熱性や力学特性を保持するためには共重合率は5mol%あるいは5重量%以下であることが好ましい。特に衣料、インテリア、車両内装等に用いる場合には、ポリエステルやポリアミドが融点、力学特性、風合いの点から好ましく、共重合率が5mol%または5重量%以下の相対粘度2以上のナイロン6、ナイロン66、極限粘度0.50以上のPET、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、重量平均分子量10万以上のPLAが特に好ましい。また、これらのポリマーはナノポーラスファイバーの80重量%以上を構成することが好ましい。
【0015】
本発明では、直径が100nm以下の細孔を有するナノポーラスファイバーであることが重要である。ここでナノポーラスファイバーとは直径100nm以下の細孔を繊維横断面において1個/μm以上含むものである。これにより、吸水性を飛躍的に増大させることができるのである。
【0016】
また、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であることが重要である。可視光の波長は400〜800nm程度であるため、直径200nm以上の粗大細孔がほとんど存在しないことにより、ナノポーラスファイバーとした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。ここで、細孔の直径や面積はナノポーラスファイバーの超薄切片を切り出し、それを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより測定することができる。細孔は楕円やその他の歪んだ形状となる場合があり必ずしも真円とは限らないため、直径は細孔面積から円換算で求めたものとする。また、繊維横断面全体とは単繊維の繊維横断面の面積であり、ここではポリマー部分と細孔部分とからなる面積である。これらの面積はWINROOF等の画像処理ソフトを用いると簡単に求めることができる。より好ましくは、繊維横断面全体に占める直径50nm以上の細孔の面積比が1.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0017】
また、細孔の平均直径は0.1〜50nmであることが好ましい。これにより、可視光の散乱がほとんど起こらず可視光には透明であるが、有害な紫外線の波長に近づくためUVカットという新たな機能が発現する。さらに、繊維表面積が飛躍的に増大するために、従来の多孔繊維では予想できなかった優れた吸湿性や吸着性が発現するという大きな利点がある。また、これほどの微細孔が多数あると水以外にも有機溶媒等の種々の液体を吸収する能力が飛躍的に向上するのである。この観点から細孔の平均直径は30nm以下とすることがより好ましい。ただし、細孔径が小さすぎると熱処理などにより潰れやすくなるため、細孔の平均直径は5nm以上とすることがより好ましい。
【0018】
本発明におけるナノポーラスファイバーの横断面の説明写真(繊維横断面TEM写真)を図1示すが、金属染色による微細な濃淡が観察される。ここでは濃い部分はN6高密度領域、淡い部分はN6低密度領域を示している。ここで淡い部分が細孔に相当すると考えられる。また、ナノポーラスファイバーの縦断面の説明写真(繊維縦断面TEM写真)を図2に示すが粒が筋のように配列した濃淡パターンを示していることが分かる。また、これらの細孔はほとんど連結されていない独立孔である。これらの細孔は後述するように細孔内に様々な分子を取り込むことが可能であるが、これの洗濯耐久性や徐放性を考慮して、本発明では取り込んだ分子をある程度トラップまたはカプセル化できる独立孔となっているものである。
【0019】
以上のようにナノポーラスファイバーは無数のナノ細孔を有しているが、これにより比表面積が増大し、優れた吸湿・吸着性を示すというメリットがある。ナノポーラスファイバーの吸湿率(ΔMR)は4%以上であることが好ましい。また、このナノポーラスファイバーは水蒸気だけでなく種々の物質の吸着特性にも優れ、消臭繊維としても有用である。さらに、綿並の吸水性を発揮する場合もあるだけでなく、ウールのように糸長手方向に可逆的な水膨潤性を示す場合もあり、合成繊維でありながら天然繊維の機能を発現することも可能である。ここで可逆的水膨潤性とは、繊維が吸水すると糸長手方向に伸び、乾燥等により繊維から水が除去されると元の長さに縮むという吸水膨潤/乾燥収縮を可逆的に繰り返す性質を言うものである。本発明のナノポーラスファイバーでは吸水膨潤の時の糸長手方向の膨潤率は6%以上であることが好ましい。実際、本願実施例1で用いたポリマーアロイを単独で繊維化し、アルカリ処理により島共重合PETを溶解除去して得たN6ナノポーラスファイバーでは、可逆的な水膨潤性を示し、糸長手方向の膨潤率は7%であった。このような特殊な性質を有する繊維は、快適衣料等として有用である。例えば、これを用いて編物を作製した場合、繊維が汗の水分を吸収して糸長手方向に伸びると、編クリンプが伸び、結果的に編目が拡がる。このため、編物中で開口部が拡大し、編物の裏から表へ水分や水蒸気が容易に通過するようになる。このため、衣服のムレ感が大幅に減少し、快適と感じられるのである。さらに、このような編物は洗濯による汚れが落ちやすいソイルリリース性に優れたものとなるのである。これは、上述したように吸水することにより繊維が長手方向に膨潤し編目を拡げるため、繊維間に付着した汚れを容易に除去できるのである。
【0020】
また、ナノ細孔には種々の機能物質を取り込み易いため、従来の繊維に比べ機能加工し易い繊維である。例えば、通常のポリエステル繊維からなる布帛に吸湿性を付与する目的で、分子量1000以上のポリエチレングリコール(PEG)系の吸湿剤を付与してもほとんど吸尽する事はできない。しかし、本発明のPETナノポーラスファイバーからなる布帛に同じ吸湿剤を付与すると多量に吸尽することができるのである。また、最近、保湿によるスキンケア機能を持つ物質として鮫の肝臓から取れる天然油成分であるスクワランが注目されているが、これも通常のポリエステル繊維からなる布帛に付与してもほとんど吸尽きないにもかかわらず、本発明のナノポーラスファイバーからなる布帛は多量に吸尽するとともに、洗濯耐久性が大幅に向上できるのである。また、吸尽させる機能性薬剤は吸湿剤や保湿剤以外にも、難燃剤、撥水剤、保冷剤、保温剤、平滑剤、微粒子、あるいはポリフェノールやアミノ酸、タンパク質、カプサイシン、ビタミン類等の健康・美容促進のための薬剤や、水虫等の皮膚疾患の薬や消毒剤、抗炎症剤、鎮痛剤等の医薬品、ポリアミンや光触媒ナノ粒子といった有害物質の吸着・分解するための薬剤なども適用ができる。さらに、有機あるいは無機ポリマー形成能を有するモノマーを吸尽させた後、それらを重合させハイブリッド材料を作ることも可能である。また、広い比表面積を活かして細孔壁面を化学加工により活性化させ、選択吸着や触媒能を持たせることももちろん可能である。
【0021】
本発明のナノポーラスファイバーの強度は1.5cN/dtex以上であれば、繊維製品の引き裂き強力や耐久性を向上できるため好ましい。強度はより好ましくは2cN/dtex以上、さらに好ましくは2.5cN/dtex以上である。また、伸度は20%以上であると繊維製品の耐久性を向上でき好ましい。
【0022】
また、本発明のナノポーラスファイバーはバフィングやウォーターパンチ等の物理的な毛羽加工により容易にフィブリル化する場合があり、いわゆるフィブリル化繊維あるいはそれからなる繊維製品としても有用である。この時のフィブリル径は前駆体となるポリマーアロイ繊維でのポリマーの組み合わせ、ポリマーアロイ繊維の物性、ナノポーラスファイバー中での細孔の形態、毛羽加工条件等により0.001〜5μmの範囲でコントロール可能である。特に、細孔の形態は重要であり、細孔が小さく多数であるほどフィブリル化し易い傾向がある。これは、前駆体となるポリマーアロイ繊維中での易溶解性ポリマーのブレンドサイズやブレンド比にも大きく影響される。特に、ポリアミドのような耐摩耗性が良好な繊維では、これまでフィブリル化繊維が皆無であり、有用である。
【0023】
また、本発明のナノポーラスファイバーは、三葉断面、十字断面、中空断面等様々な繊維断面形状を採用することができる。
本発明においては、ナノポーラス部が繊維横断面中で偏心的に偏在していることが重要である。このように、ナノポーラス部が偏心して偏った位置を占めることで、繊維に捲縮を発現させることができる。ナノポーラス部が捲縮の外側部分を占める場合には吸水によりナノポーラス部が伸長するため、捲縮の内側部分との寸法差が大きくなるため、さらに捲縮が強くなり、ストレッチ性や嵩高性が向上する。一方、ナノポーラス部が捲縮の内側部分を占める場合には吸水によりナノポーラス部が伸長するため、捲縮の外側部分との寸法差が小さくなり捲縮が伸ばされるため、ウールのように糸が伸びる効果が発現し布帛組織の拘束を緩めたり、編目や織目を拡大により通気性が向上する。このように、ナノポーラス部が繊維横断面において偏心して存在する場合には、吸水により呼吸する布帛を提供することが可能となる。ただし、ナノポーラス部が局在化したナノポーラスファイバーにおいて、ナノ細孔の優れた性能と通常のポリマーの特性を両立させるためには、ナノポーラス部は繊維横断面全体に対し面積比で5〜95%とする。ナノポーラス部の面積比は好ましくは20〜80%、より好ましくは40〜60%である。このようなナノポーラス部が繊維横断面中で偏心的に偏在化したナノポーラスファイバーは、リマーアロイと通常ポリマーの複合紡糸した複合繊維から易溶解成分を溶出することにより得ることができる。
【0024】
また、本発明のナノポーラスファイバーは、単独で用いることもできるが、混繊、混綿、混紡、交織、交編等により通常の合成繊維や化学繊維、あるいは天然繊維などと混用することもできる。寸法安定性や耐久性に優れた合成繊維と混用した場合には布帛の形態安定性や耐久性、また耐薬品性を向上させることが可能である。化学繊維や天然繊維と混用した場合には、吸湿・吸水機能や風合いのさらなる向上を図ることができる。
【0025】
また、本発明のナノポーラスファイバーは、捲縮の無いフラットヤーンでも捲縮糸でも良いが、捲縮糸とした場合には、得られた布帛に嵩高性やストレッチ性を持たせることができ、その用途も広がるので好ましい。さらに、長繊維、短繊維、織物、編物、不織布、フェルト、人工皮革、熱成形体等のさまざまな繊維製品形態を採ることができる。特に一般的な衣料品やインテリア製品、ワイピングクロスとする場合には織物や編物とすることが好ましい。一方、人工皮革あるいはフィルター、吸着材料、研磨布等の機能製品に用いる場合は不織布とすることが好ましい。
【0026】
以上のように本発明のナノポーラスファイバーは、従来の多孔性繊維に比べ発色性低下が無く、また吸湿性や吸着性にも優れる高品質の染色布帛を提供することができる。このため、パンスト、タイツ、インナー、シャツ、ブルゾン、パンツ、コートといった快適衣料用途のみならず、カップやパッド等の衣料資材用途、ワイピングクロス等の生活資材用途、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリア用途、さらにフィルター、研磨布等の産業資材用途、カーシートや天井材といった車輌内装用途にも好適に用いることができる。さらに、機能性分子の吸着により健康・美容関連品や医薬品基布、燃料電池の電極といった環境、メディカルやIT関係のような最先端材料としても利用することができる。
【0027】
本発明のナノポーラスファイバーの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下のような難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイ繊維から易溶解ポリマーを除去することによって得ることができる。
【0028】
例えば難溶解性ポリマーが海、易溶解性ポリマーが島の海島構造ポリマーアロイ繊維を利用する場合には、直径200nm以上の島、すなわち粗大な凝集ポリマー粒子の存在比が島全体に対し面積比で3%以下であることが好ましい。これにより、ナノポーラスファイバー化とした時の発色性低下を著しく低減することができるのである。ここで、島はややひずんだ楕円形状となる場合があり必ずしも真円とは限らないため、直径は島面積から円換算で求めたものとする。また、島全体に対する面積は、繊維断面中に存在する全ての島を合計した面積であり、繊維断面観察やポリマーブレンド比から見積もることができる。直径200nm以上の島の面積比は好ましくは1%以下である。より好ましくは直径100nm以上の島の面積比は3%以下であり、さらに好ましくは直径100nm以下の島の面積比は1%以下である。
【0029】
また、島の平均直径が1〜100nmであると、島を除去することにより従来の多孔繊維よりも孔サイズの小さなナノポーラスファイバーが得られるため好ましい。細孔サイズがナノレベルになると、可視光の散乱がほとんど起こらなくなるために発色性が著しく向上するだけでなく、有害な紫外線を大きく散乱するようになり、UVカットという新たな機能が発現する。さらに、表面積が飛躍的に増大するために、従来の多孔繊維では予想できなかった優れた吸湿性や吸着性が発現するという大きな利点がある。このように発色性や吸着性の観点からは島の平均直径は小さい方が有利であるが、過度に小さくなるとポリマー界面が大きくなり過ぎここでの相互作用が過大となり溶融紡糸工程での細化挙動が不安定となり易い。このため、島の平均直径は、より好ましくは10〜50nmである。
【0030】
また、島は筋状構造を形成していることが好ましい。これにより、紡糸細化挙動を安定化させることができるのである。ここで筋状構造とは、島の繊維軸方向の長さと直径の比が4以上のものをいうものである。
【0031】
また、海島構造ポリマーアロイではなく以下のような特殊な層構造のアロイ繊維を利用することもできる。ここで特殊な層構造とは、繊維横断面をTEMで観察した時、以下の状態を示すものである。すなわち、ブレンドされた異種ポリマー同士が層を形成し互いに入り組み合って存在している状態であり、該構造の説明写真(繊維横断面TEM写真)を図3および図4に示す。このため、異種ポリマー同士の界面が海島構造(図該構造の説明写真、繊維横断面TEM写真)に比べはるかに大きくなっており、相溶性が海島構造の物に比べると向上しているが、PET/PBTのようないわゆる均一構造のものと比べると相溶性が低いという極めて特異な構造である。ただし、層に明確な周期性が認められないため、いわゆるスピノーダル分解による変調構造とは区別されるものである。ここで、TEMのサンプルは金属染色されており、濃い部分が難溶解ポリマーであるN6、淡い部分が易溶解ポリマーである共重合PETである。また、層を形成するという点でいわゆる海海構造とも明確に区別されるものである。海海構造はポリマーブレンドにおいて海/島が逆転する近傍のブレンド比で現れる極めて不安定な構造であり、当然この領域では安定紡糸を行うのは極めて困難である。繊維横断面方向における易溶解成分の層の1層の厚みは1〜100nmであれば、異種ポリマーが十分超微分散しており、少量ブレンドでもブレンドポリマーの性能を十分発揮できる点から好ましい。また、繊維横断面で観察されるこの層は図5に示した説明写真(繊維縦断面TEM写真)に示すように、繊維長手方向には筋として伸びているものであ
【0032】
上記のように易溶解性ポリマーが難溶解性ポリマー中に均一に超微分散化することによって、本発明のナノポーラスファイバーを得ることができるが、易溶解性ポリマーに低融点や低軟化点のポリマーを用いても、高温処理が行われる捲縮加工や撚糸等の糸加工や布帛加工の工程通過性を向上し、さらに得られる製品の品位も向上できるという利点もある。
【0033】
なお、ポリマーアロイ繊維中のポリマー種類は溶解性の異なる2種以上であれば良く、必要に応じて難溶解、易溶解性ポリマーの種類を増やすことができ、また相溶化剤を併用することももちろん可能である。
【0034】
上記したポリマーアロイ繊維において易溶解性ポリマーはアルカリ易溶解性ポリマーであると、島除去による多孔化工程を通常の繊維の後加工工程であるアルカリ処理工程を利用できるため好ましい。例えば、易溶解性ポリマーとしてポリスチレン等の有機溶媒溶解性ポリマーを用いた場合は防爆設備が必要であることを考えると大きなメリットである。易溶解性ポリマーは熱水可溶性ポリマーであると、繊維の精練工程で島除去できるためさらに好ましい。アルカリ易溶解性ポリマーとしては例えばポリエステルやポリカーボネート等を挙げることができ、熱水可溶性ポリマーとしては親水基を多量に共重合したポリエステル、またアルキレンオキサイドやポリビニルアルコール、またそれらの変性物等を挙げることができる。
【0035】
本発明のナノポーラスファイバーの力学特性を保持するためには、難溶解性ポリマーのブレンド比を40〜95重量%とすることが好ましい。難溶解性ポリマーのブレンド比は、より好ましくは70〜85重量%である。
【0036】
また、上記したポリマーアロイ繊維は粗大な凝集ポリマー粒子を含まないため紡糸が公知技術(特許文献1〜4)よりも安定化し、糸斑の小さな繊維が得られやすいという特徴を有する。糸斑はウースター斑(U%)で評価することが可能であるが、本発明で利用するポリマーアロイ繊維ではU%を0.1〜5%とすると、アパレルやインテリア、車輌内装等の繊維製品にした際、染色斑が小さく品位の高い物が得られ好ましい。U%はより好ましくは0.1〜2%、さらに好ましくは0.1〜1.5%である。また、特にアパレル用途で杢調を出す場合には、U%が3〜10%の太細糸とすることもできる。
【0037】
上記ポリマーアロイ繊維の強度は2cN/dtex以上とすることで、撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。強度は好ましくは3cN/dtex以上である。また、伸度は15〜70%であれば、やはり撚糸や製織・製編工程等での工程通過性を向上することができ好ましい。また、延伸仮撚り加工用原糸として用いる際は伸度は70〜200%とすることが仮撚り加工での工程通過性の点から好ましい。延伸用の原糸の場合には伸度は70〜500%程度とすることが延伸での工程通過性の点から好ましい。
【0038】
上記したポリマーアロイ繊維の製造方法は特に制限されるものではないが、例えば下記のような方法を採用することができる。
【0039】
すなわち、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーを溶融混練し、難溶解性ポリマーおよび/または易溶解性ポリマーが微分散化した難溶解性ポリマー/易溶解性ポリマーからなるポリマーアロイを得る。そして、これを溶融紡糸することにより本発明のポリマーアロイ繊維を得ることができる。ここで、溶融混練方法が重要であり、押出混練機や静止混練器等により強制的に混練する事により粗大な凝集ポリマー粒子の生成を大幅に抑制することができるのである。公知技術(特許文献1〜4)ではいずれもチップブレンド(ドライブレンド)を用いているため、ブレンド斑が大きく島ポリマーの凝集を防ぐことができなかったのである。
【0040】
本発明においては、強制的に混練する観点から、押出混練機としては二軸押出混練機を用い、静止型混練器としては分割数100万分割以上のものを用いることが好ましい。また、混練するポリマーの供給方法は、混練するポリマーをそれぞれ別々に計量し、供給することで、ブレンド斑や経時的なブレンド比の変動を抑制でき好ましいものである。このとき、ペレットとして別々に供給しても良く、あるいは、溶融状態で別々に供給しても良い。また、2種以上のポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、あるいは、一成分を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしても良い。
【0041】
混練装置として二軸押出混練機を使用する場合には、高度の混練とポリマー滞留時間の抑制を両立させることが好ましい。スクリューは、送り部と混練部から構成されているが、混練部長さをスクリュー有効長さの20%以上とすることで高混練とすることができ好ましい。また、混練部長さがスクリュー有効長さの40%以下とすることで、過度の剪断応力を避け、しかも滞留時間を短くすることができ、ポリマーの熱劣化やポリアミド成分のゲル化を抑制することができる。また、混練部はなるべく二軸押出機の吐出側に位置させることで、混練後の滞留時間を短くし、島ポリマーの再凝集を抑制することができる。加えて、混練を強化する場合は、押出混練機中でポリマーを逆方向に送るバックフロー機能のあるスクリューを設けることもできる。
【0042】
さらに、ベント式として混練時の分解ガスを吸引したり、ポリマー中の水分を減じることによってポリマーの加水分解を抑制し、ポリアミド中のアミン末端基やポリエステル中のカルボン酸末端基量も抑制することができる。
【0043】
また、島ポリマーの再凝集を抑制する観点からポリマーアロイ形成、溶融から紡糸口金から吐出するまでの滞留時間も重要であり、ポリマーアロイの溶融部先端から紡糸口金から吐出するまでの時間は30分以内とすることが好ましい。特にナイロンと親水基共重合PETのアロイの場合は、親水基共重合PETが再凝集し易いため注意が必要である。
【0044】
また、島直径の微小化にはポリマーの組み合わせも重要であり、難溶解性ポリマーと易溶解性ポリマーの親和性を上げることで島となる易溶解性ポリマーを超微分散化し易くなる。例えば、難溶解性ポリマーとしてナイロン、易溶解性ポリマーとしてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いる場合には、PETに親水性成分である5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SSIA)を共重合した親水基共重合PETを用いると、ナイロンとの親和性を向上させることができる。特にSSIAの共重合率が4mol%以上の親水化PETを用いることが好ましい。また、両者の溶融粘度比も重要であり、海ポリマー/島ポリマーの粘度比が大きくなるほど島ポリマーに大きな剪断力がかかり島が微分散化し易くなる。ただし、過度に粘度比が大きくなると混練斑や紡糸性悪化を引き起こすため、粘度比は1/10〜2程度とすることが好ましい。
【0045】
上記したような製造法の特徴により、粗大な凝集ポリマー粒子の生成が抑制されるため、公知技術(特許文献1〜4)に比べ、ポリマーアロイの粘弾性バランスが崩れにくく紡糸吐出が安定し、曳糸性や糸斑を著しく向上できるという利点もある。さらに、口金孔径としては通常よりも大きい物を用いると、口金孔でのポリマーアロイへの剪断応力を低減し粘弾性バランスを保つことができるため、紡糸安定性が向上する。具体的にはポリマーアロイの口金での吐出線速度を15m/分以下にできる口金を用いることが好ましい。加えて、糸条の冷却も重要であり、口金から積極的な冷却開始位置までの距離は1〜15cmとすることで、伸長流動が不安定化しやすいポリマーアロイを迅速に固化させることで紡糸を安定化することができるのである。
【0046】
また、島ポリマーを微細化する観点からは紡糸ドラフトは100以上とすることが好ましい。さらに未延伸糸の寸法や物性の経時変化を抑制するためには紡糸速度は2500m/分以上として繊維構造を発達させることが好ましい。
【0047】
なお、上記したポリマーアロイ繊維から作製したナノポーラスファイバーについて図6の説明写真(繊維横断面TEM写真)を用いて説明する。金属染色による濃淡は、前駆体であるポリマーアロイ繊維の説明写真(繊維横断面TEM写真)図7よりも微細になっており、繊維および易溶解成分が除去された跡が潰れていることが分かる。ここでは濃い部分はN6高密度領域、淡い部分はN6低密度領域を示している。ここで淡い部分が細孔に相当すると考えられる。すなわち、ポリマーアロイ段階での易溶解性ポリマーの分散サイズよりも細孔サイズを小さくすることができるという利点がある。なお、易溶解性ポリマーの除去に伴い細孔だけでなく繊維径自体も収縮をする場合がある。実際、本願実施例1で用いたポリマーアロイを単独で繊維化し、アルカリ処理により島共重合PETを溶解除去したところ、繊維径が若干減少していた。さらにこのナノポーラスファイバーの繊維縦断面の説明写真を図に示すが、ポリマーアロイ繊維の説明写真(図9)では易溶解ポリマーは筋状に伸びていたのに対して、ナノポーラスファイバーでは筋が所々潰れ、粒状の濃淡パターンを示す場合があることが分かる。
【0048】
以上のように、従来とは異なる製造方法により得られたポリマーアロイ繊維を利用することにより本発明のナノポーラスファイバーが得られるが、これは細孔サイズが従来のものよりも小さく、また粗大細孔をほとんど含まず、衣料用のみならず様々な分野に応用可能な優れた素材である。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0050】
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機製キャピログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0051】
B.ナイロンの相対粘度
98%硫酸溶液にナイロンペレットを溶解し0.01mg/mlの濃度に調製した後、25℃で測定した。
【0052】
C.ポリエステルの極限粘度[η]
オルソクロロフェノール中25℃で測定した。
【0053】
D.融点
Perkin Elmaer DSC−7を用いて、2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0054】
E.力学特性
室温(25℃)で、引っ張り速度=100%/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0055】
F.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
【0056】
G.熱収縮率
熱収縮率(%)=[(L0−L1)/L0]×100(%)
L0:延伸糸をかせ取りし初荷重0.09cN/dtexで測定したかせの原長
L1:L0を測定したかせを実質的に荷重フリーの状態で沸騰水中で15分間処理し、風乾後初荷重0.09cN/dtex下でのかせ長
【0057】
H.TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向または縦断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維横断面を観察した。また、必要に応じて金属染色を施した。
TEM装置 : 日立社製H−7100FA型
【0058】
I.細孔直径または島ポリマー直径
細孔直径は以下のようにして求める。すなわち、TEMによる繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて細孔の円換算による直径を求めた。また、微細すぎたり形状が複雑でWINROOFでの解析が難しい場合は、目視と手作業により解析を行った。平均直径は、それらの単純な数平均値を求めた。この時、平均に用いる細孔は同一横断面内で無作為抽出した300以上の細孔を用いた。ただし、TEM観察用のサンプルは超薄切片とするため、サンプルに破れや穴あきが発生しやすい。このため、直径解析時にはサンプルの状況と照らし合わせながら慎重に行った。また、無機微粒子やこれの周りのボイドは、ここでは細孔に含めなかった。島ポリマー直径は細孔直径解析に準じた。
【0059】
J.発色性評価
得られたサンプルを常法にしたがい染色し、同条件で染色した比較サンプルとの発色性を比較した。比較サンプルはナノポーラスファイバーを構成するポリマーを常法により製糸したものを用いた。より具体的には以下の方法を用いた。
【0060】
ナイロンの場合は、染料にクラリアントジャパン株式会社製“NylosanBlue N−GFL”を用い、この染料を繊維製品の0.8重量%、pHを5に調整した染色液で浴比100倍、90℃×40分処理した。
【0061】
目視判定で、比較以上またはほぼ同等の発色性が得られたもの(◎)と比較よりはやや劣るが衣料用として充分なもの(○)を合格とし、それよりも劣るものを不合格とした(△、×)。
【0062】
K.吸湿率(ΔMR)
サンプルを秤量瓶に1〜2g程度はかり取り、110℃に2時間保ち乾燥させ重量を測定し(W0)、次に対象物質を20℃、相対湿度65%に24時間保持した後重量を測定する(W65)。そして、これを30℃、相対湿度90%に24時間保持した後重量を測定する(W90)。そして、以下の式にしたがい計算を行う。
MR65=[(W65−W0)/W0]×100% ・・・・・ (1)
MR90=[(W90−W0)/W0]×100% ・・・・・ (2)
ΔMR=MR90−MR65 ・・・・・・・・・・・・ (3
実施例
相対粘度2.15、溶融粘度274poise(280℃、剪断速度2432sec −1 )、融点220℃のN6(80重量%)と極限粘度0.60、溶融粘度1400poi se(280℃、剪断速度2432sec −1 )、融点250℃の5−ナトリウムスルホイソフタル酸5mol%共重合した共重合PET(20重量%)を二軸押出混練機で260℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。このときの混練条件は以下のとおりであった。
【0063】
スクリュー型式 同方向完全噛合型 2条ネジ
スクリュー 直径37mm、有効長1670mm、L/D=45.1
混練部長はスクリュー有効長の28%
混練部はスクリュー有効長の1/3より吐出側に位置させた
途中3個所のバックフロー部有り
ポリマー供給 N6と共重合PETを別々に計量し、別々に混練機に供給した
温度 260℃
ベント 2個所
なお、共重合PETは0.05重量%の酸化チタンを含有していた。このポリマーアロイチップと、溶融粘度が1540poise(280℃、剪断速度2432sec −1 )である高粘度N6とを用い、50重量%/50重量%の複合比でサイドバイサイド複合として合紡糸を行った。この時、それぞれのポリマーを270℃で溶融し、紡糸温度を275℃、紡糸速度を3800m/分とした。得られ未延伸糸を第1ホットローラー16の温度を70℃、第2ホットローラー17の温度を130℃として延伸熱処理した(図12)。この時、第1ホットローラー16と第2ホットローラー17間の延伸倍率を1.2倍とし、110dtex、34フィラメント、強度4.1cN/dtex、伸度27%、U%1.2%、熱収縮率10%、捲縮数20個/25mmのサイドバイサイド捲縮糸を得た。
【0064】
この時、捲縮の内側が高粘度N6、外側がポリマーアロイであった。捲縮の外側の成分であるポリマーアロイ中で島共重合PETは平均直径26nm程度で微分散し、直径100nm以上の粗大な島は島全体に対し面積比で0.1%以下であった。
【0065】
ここで得られたサイドバイサイド捲縮糸を用い丸編み作製後、アルカリ処理を行い、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。これからナノポーラスファイバーを抜き取り、TEM観察したところ直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は20nmであった。また、ナノポーラス部の面積は繊維横断面に対して44%であった。また、ナノポーラスファイバーは充分な嵩高性を有し、糸強度3.5cN/dtexと高強度であった。また、細孔は独立孔であった。この布帛は発色性も良好であり、またΔMRも4%と充分な吸湿性を示した。また、この布帛は吸水するとさらに嵩高性が向上した。
【0066】
実施例
高粘度N6(1540poise、280℃、剪断速度2432sec −1 )を用い、実施例1と同様にN6と共重合PETのポリマーアロイチップを得た。上記のポリマーアロイと、N6単成分とを用いて実施例1と同様にサイドバイサイド複合として複合紡糸、延伸・熱処理を行ってサイドバイサイド捲縮糸を得た。このときN6単独側を実施例1で用いた低粘度N6(相対粘度2.15、溶融粘度274poise(280℃、剪断速度2432sec −1 )、融点220℃)とした。この捲縮糸は、110dtex、34フィラメント、強度4.0cN/dtex、伸度25%、U%1.2%、熱収縮率10%、捲縮数18個/25mmであった
【0067】
また、捲縮の内側がポリマーアロイ、外側がN6であった。捲縮の内側の成分であるポリマーアロイ中で島共重合PETは平均直径18nmで微分散し、直径100nm以上の粗大な島は島全体に対し面積比で0.1%以下であった。られたサイドバイサイド捲縮糸を用い、実施例と同様に丸編み、アルカリ処理を行い、N6ナノポーラスファイバーからなる丸編みを得た。これからナノポーラスファイバーを抜き取り、TEM観察したところ直径が50nm以上の粗大細孔は皆無であり、細孔の平均直径は20nmであった。また、ナノポーラス部の面積は繊維横断面に対し45%であった。また、ナノポーラスファイバーは充分な嵩高性を有し、糸強度も3.4cN/dtexと高強度であった。また、細孔は独立孔であった。この布帛は、発色性も良好であり、またΔMRも4%と充分な吸湿性を示した。また、この布帛は吸水すると、捲縮が伸び編目が拡がり、通気性が向上した。
【0068】
比較例1
実施例1で作製したポリマーアロイと同じポリマーの組み合わせで、混練方法を二軸押出混練機ではなく単純なチップブレンドとして図10の装置を用い溶融紡糸を行った。この時、ブレンドチップを270℃の溶融部2で溶融し、紡糸温度275℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、溶融紡糸した。この時、溶融部2から吐出までの滞留時間は12分間であった。口金としては図11に示すように吐出孔上部に直径0.2mmの計量部11を備えた、吐出孔径13が0.5mm、吐出孔長12が1.25mmのものを用いた。また、口金下面から冷却開始点(チムニー5の上端部)までの距離は9cmであった。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、口金4から1.8m下方に設置した給油ガイド7で給油された後、非加熱の第1引き取りローラー8および第2引き取りローラー9を介して900m/分で巻き取られた。紡糸中のポリマーの吐出が安定せず、紡糸性は劣悪であり紡糸中に糸切れが頻発し、安定して糸を巻き取ることができなかった。しかし、わずかに得た未延伸糸を用いて、第1ホットローラー16の温度を70℃、第2ホットローラー17の温度を130℃として延伸熱処理した(図12)。このとき第1ホットローラー16と第2ホットローラー17間の延伸倍率を3.2倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は70dtex、34フィラメントのポリマーアロイ繊維であった
【0069】
得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、ブレンド斑が大きく、粗大な凝集ポリマー粒子が散見され、直径が200nm以上の島の島全体に対する面積比は10%であった。これを用いて丸編みを作製し、3%の水酸化ナトリウム水溶液(90℃、浴比1:100)に1時間浸漬することで、共重合PETの99%以上を溶出し、N6多孔繊維を得たが、直径200nm以上の粗大細孔の面積比が2.0%と大きいため、散乱光が多く白っぽいものであり、発色性に劣るものであった。
【0070】
【発明の効果】
本発明の従粗大細孔をほとんど含まないナノ細孔が均一性に分散したナノポーラスファイバーにより、従来の多孔繊維に比べ発色性を大幅に向上でき、また優れた吸湿・吸着特性を活かした高付加価値の繊維製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ノポーラスファイバー横断面を説明するTEM写真である。
【図2】ノポーラスファイバー縦断面を説明するTEM写真である。
【図3】特殊な層構造のポリマーアロイ繊維横断面を説明するTEM写真である。
【図4】特殊な層構造のポリマーアロイ繊維横断面を説明するTEM写真である。
【図5】リマーアロイ繊維縦断面を説明するTEM写真である。
【図6】ノポーラスファイバー横断面を説明するTEM写真である。
【図7】リマーアロイ繊維横断面を説明するTEM写真である。
【図8】ノポーラスファイバー縦断面を説明するTEM写真である。
【図9】リマーアロイ繊維縦断面を説明するTEM写真である。
【図10】紡糸装置を示す図である。
【図11】口金を示す図である。
【図12】延伸装置を示す図である。
【符号の説明】
1:ホッパー
2:溶融部
3:紡糸パック
4:口金
5:チムニー
6:糸条
7:集束給油ガイド
8:第1引き取りローラー
9:第2引き取りローラー
10:巻き取り糸
11:計量部
12:吐出孔長
13:吐出孔径
14:未延伸糸
15:フィードローラー
16:第1ホットローラー
17:第2ホットローラー
18:デリバリーローラー(室温)
19:延伸糸

Claims (11)

  1. 直径100nm以下の細孔を有するナノポーラスファイバーであって、繊維横断面全体に占める直径200nm以上の細孔の面積比が1.5%以下であり、細孔が独立孔であって、ナノポーラス部の面積が繊維横断面に対し5〜95%、かつ繊維横断面中で偏心的に偏在しているナノポーラスファイバー。
  2. 細孔の平均直径が0.1〜50nmである請求項1記載のナノポーラスファイバー。
  3. 繊維横断面全体に占める直径50nm以上の細孔の面積比が1.5%以下である請求項1または2記載のナノポーラスファイバー。
  4. 強度が1.5cN/dtex以上である請求項1〜3のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  5. リアミドを80重量%以上含む請求項1〜4のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  6. 吸湿率(ΔMR)が4%以上である請求項1〜5のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  7. ナノポーラスファイバーの少なくとも一部がフィブリル化されており、フィブリル径が0.001〜5μmである請求項1〜のうちいずれか1項記載のナノポーラスファイバー。
  8. 請求項1〜のうちのいずれか1項記載のナノポーラスファイバーを少なくとも一部に有する繊維製品。
  9. 繊維製品が長繊維または短繊維または紡績糸である請求項記載の繊維製品。
  10. 繊維製品が織物または不織布である請求項記載の繊維製品。
  11. 繊維製品が衣料または生活資材またはインテリアまたは産業資材または美容・健康基布である請求項の繊維製品。
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