本発明は上記事実を考慮し、通常装着状態におけるウエビングの巻取軸への巻き弛みを、乗員に圧迫感等の不快感を与えることなく除去でき、これにより、乗員拘束性が向上するモータリトラクタを得ることを目的とする。
請求項1に係る発明のモータリトラクタは、車両の座席に着座した乗員に装着された状態で前記乗員の身体を拘束する長尺帯状のウエビングと、前記ウエビングの長手方向基端部が係止され、前記ウエビングが巻取り引出し可能に層状に巻き回されると共に、常にウエビング巻取方向へ付勢された巻取軸と、前記巻取軸に連結され、駆動力で前記巻取軸を前記ウエビング巻取方向へ回転させるモータと、前記ウエビングの前記巻取軸への前記層状部分よりも前記乗員側であってかつ前記乗員に至る途中の前記ウエビング中間部に対応して設けられ、前記ウエビングを挟持して保持可能な挟持手段と、前記乗員の前記ウエビング装着後に前記挟持手段を作動させて前記ウエビングを挟持して保持させ、しかる後に、前記モータを回転させて前記巻取軸を前記ウエビング巻取方向へ回転させることで前記ウエビングの前記層状部分の弛みを除去する制御手段と、を備えたことを特徴としている。
請求項1記載のモータリトラクタでは、乗員拘束用のウエビングが巻取り引出し可能に層状に巻き回されると共に常にウエビング巻取方向へ付勢された巻取軸を備えており、この巻取軸はモータからの駆動力でウエビング巻取方向へ回転される。また、このモータリトラクタでは、乗員のウエビング装着状態において、巻取軸に巻き回されたウエビングの層状部分(以下、単に「ウエビングの層状部分」という)よりも乗員側であってかつ乗員に至る途中のウエビング中間部に対応して設けられ、ウエビングを挟持して保持可能な挟持手段と、該挟持手段及びモータの作動を制御する制御手段とを備えている。
ここで、このモータリトラクタでは、制御手段は、乗員のウエビング装着後に、挟持手段を作動させてウエビングを挟持して保持させ、かつその後に、モータを回転させて巻取軸をウエビング巻取方向へ回転させる。このため、ウエビングの挟持手段よりも巻取軸側の部分は、巻取軸と挟持手段との間で引き締められ、巻取軸に巻き回されたウエビングの層状部分は巻取軸に巻き締められる。これにより、ウエビングの層状部分の弛み(巻き弛み)が除去され、乗員拘束性が向上する。
しかもこの場合、挟持手段は、ウエビングの層状部分よりも乗員側であってかつ乗員に至る途中のウエビング中間部を挟持して保持しているため、ウエビングの挟持手段よりも乗員側の部分には、巻取軸の巻取荷重が作用せず、これにより、乗員に圧迫感等の不快感を与えることが防止される。
このように、請求項1記載のモータリトラクタでは、通常装着状態におけるウエビングの巻取軸への巻き弛みを、乗員に圧迫感等の不快感を与えることなく除去でき、これにより、乗員拘束性が向上する。
請求項2に係る発明のモータリトラクタは、請求項1記載のモータリトラクタにおいて、前記制御手段は、前記ウエビングの前記層状部分の弛みを除去した後に、前記モータを停止させてから前記挟持手段による前記ウエビングの前記保持を解除させる、ことを特徴としている。
請求項2記載のモータリトラクタでは、制御手段は、ウエビングの層状部分の弛みを除去した後に、モータを停止させてから挟持手段によるウエビングの保持を解除させる。この状態では、ウエビングの層状部分は、自らに作用する層間摩擦により保持されるため、弛みの再発生が抑制される。これにより、例えば、車両急減速時に巻取軸がロックした状態でウエビングに乗員の慣性力が作用してウエビングの層状部分が巻き締ることでウエビングが不要に伸び出すことが防止され、乗員拘束性が向上する。
しかも、上述の如く乗員拘束性に重要な影響を及ぼすウエビング層状部分の弛みを、モータの巻取り機能によって除去するため、巻取軸をウエビング巻取方向へ付勢する付勢力を、乗員非圧迫性に対応した強さに設定することが可能であり、乗員の快適性も確保することができる。
請求項3に係る発明のモータリトラクタは、請求項2記載のモータリトラクタにおいて、前記制御手段は、前記挟持手段による前記ウエビングの前記保持を解除させた後に、前記ウエビングが所定量以上引き出されて前記ウエビングに弛みが再発生した場合には、前記挟持手段を作動させて前記ウエビングを挟持して保持させ、しかる後に、前記モータを回転させて前記巻取軸を前記ウエビング巻取方向へ回転させることで前記ウエビングの前記層状部分の弛みを除去し、さらにその後に、前記モータを停止させてから前記挟持手段による前記ウエビングの前記保持を解除させる、ことを特徴としている。
請求項3記載のモータリトラクタでは、制御手段は、挟持手段によるウエビングの保持を解除させた後に、例えば、乗員の車両前方への移動等によりウエビングが所定量以上引き出されてウエビングに弛みが再発生した場合には、挟持手段を作動させてウエビングを挟持して保持させ、しかる後に、モータを回転させて巻取軸をウエビング巻取方向へ回転させる。これにより、ウエビングの層状部分に再発生した弛みが、乗員に圧迫感等の不快感を与えることなく除去される。そして、その後に、制御手段はモータを停止させてから挟持手段によるウエビングの保持を解除させる。この状態では、ウエビングの層状部分は、自らに作用する層間摩擦により保持されるため、弛みの再発生が抑制され、再び乗員拘束性が向上する。
請求項4に係る発明のモータリトラクタは、請求項1乃至請求項3の何れか1項記載のモータリトラクタにおいて、前記制御手段は、前記乗員の前記ウエビング装着後に、前記挟持手段による前記ウエビングの前記保持を解除させた状態で前記モータを回転させて前記巻取軸を前記ウエビング巻取方向へ回転させ、前記ウエビングの前記層状部分よりも前記乗員側の部分の弛みを除去し、しかる後に前記モータを停止させる、ことを特徴としている。
請求項4記載のモータリトラクタでは、制御手段は、乗員のウエビング装着後に、挟持手段によるウエビングの保持を解除させた状態でモータを回転させて巻取軸をウエビング巻取方向へ回転させる。この場合、例えば、モータが低トルクで回転されることで巻取軸が低トルクでウエビング巻取方向へ回転されれば、ウエビングの層状部分よりも乗員側の部分の弛み、すなわち、乗員の着用する衣服等とウエビングとの摺動抵抗や衣類の厚み等によって生じる比較的容易に除去可能なウエビングの弛みが、乗員に圧迫感等の不快感を与えることなく除去される。そして、制御手段は、このようにウエビングの層状部分よりも乗員側の部分の弛みを除去した後に、モータを停止させる。これにより、通常装着時のウエビングの弛みが減少し、乗員拘束性が向上する。
なお、請求項4記載のモータリトラクタにおけるウエビングの層状部分よりも乗員側の部分の弛みの除去は、請求項1乃至請求項3の何れか1項記載のモータリトラクタにおけるウエビングの層状部分の弛みの除去の前又は後の何れに実施してもよい。何れの場合でも、上記2段階の弛みの除去によって通常装着時におけるウエビングの長手方向全域の弛みを最少化することができる。これにより、例えば、一般的に火薬の爆発力で巻取軸を回転させてウエビングを巻取軸に一定量巻き取り車両衝突時の乗員拘束性を向上させる所謂「プリテンショナ」の機能を、モータの駆動力によるウエビングの巻き取りのみで行うことも可能となる。
請求項5に係る発明のモータリトラクタは、請求項4記載のモータリトラクタにおいて、前記制御手段は、前記ウエビングの前記層状部分よりも前記乗員側の部分の弛みを除去して前記モータを停止させた後に、前記ウエビングが所定量以上引き出されて前記ウエビングに弛みが再発生した場合には、前記挟持手段による前記ウエビングの前記保持を解除させた状態で前記モータを回転させて前記巻取軸を前記ウエビング巻取方向へ回転させ、前記ウエビングの前記層状部分よりも前記乗員側の部分の弛みを除去し、しかる後に前記モータを停止させる、ことを特徴としている。
請求項5記載のモータリトラクタでは、制御手段は、ウエビングの層状部分よりも乗員側の部分の弛みを除去してモータを停止させた後に、例えば、乗員の車両前方への移動等によりウエビングが所定量以上引き出されてウエビングに弛みが再発生した場合には、挟持手段によるウエビングの保持を解除させた状態でモータを回転させて巻取軸をウエビング巻取方向へ回転させる。この場合、例えば、モータが低トルクで回転されれば、ウエビングの層状部分よりも乗員側の部分に再発生した弛みが、乗員に圧迫感等の不快感を与えることなく除去され、再び乗員拘束性が向上する。そして、しかる後に、制御手段はモータを停止させる。
請求項6に係る発明のモータリトラクタは、請求項1乃至請求項5の何れか1項記載のモータリトラクタにおいて、前記挟持手段は、前記ウエビングの両面にそれぞれ対向して設けられると共に、支軸周りに回動することで前記ウエビングに対して接離移動可能とされ、前記ウエビングに接近した状態では前記ウエビングを挟持して保持すると共に、前記ウエビングから離間した状態では前記ウエビングの前記保持を解除する一対のクランプと、前記一対のクランプに連結されたプランジャを往復移動させて前記一対のクランプを前記ウエビングに対して接離移動させるソレノイドと、を備えたことを特徴としている。
請求項6記載のモータリトラクタでは、ウエビングの層状部分よりも乗員側であってかつ乗員に至る途中のウエビング中間部に対応して、一対のクランプが設けられている。これら一対のクランプは、ウエビングの両面にそれぞれ対向して設けられており、支軸周りに回転することでウエビングに対して接離移動可能とされている。これら一対のクランプには、ソレノイドのプランジャが連結されており、ソレノイドのプランジャが往復移動すると、一対のクランプがウエビングに対して接離移動する。この場合、一対のクランプがウエビングに接近した状態では、ウエビングは一対のクランプにより挟持されて保持される。また、一対のクランプがウエビングから離間した状態では、ウエビングは一対のクランプによる保持を解除される。これにより、挟持手段を簡単な構成にできる。
以上説明した如く、本発明に係るモータリトラクタでは、通常装着状態におけるウエビングの巻取軸への巻き弛みを、乗員に圧迫感等の不快感を与えることなく除去でき、これにより、乗員拘束性が向上する。
図1には、本発明の実施の形態に係るモータリトラクタ10の全体構成が正面断面図にて示されている。
図1に示すように、モータリトラクタ10は、フレーム12を備えている。フレーム12は略板状の背板14を備えており、この背板14がボルト等の図示しない締結手段によって車体に固定されることで、本モータリトラクタ10が車体に取り付けられる構成となっている。背板14の幅方向両端からは一対の脚板16、18が互いに平行に延出されており、これらの脚板16、18間にダイカスト等によって製作された巻取軸としてのスプール20が回転可能に配置されている。
スプール20は略円筒形状のスプール本体22と、このスプール本体22の両端部にそれぞれ略円盤形状に形成された一対のフランジ部24、26とによって構成されており、全体としては鼓形状をなしている。
スプール本体22には、長尺帯状に形成されたウエビング28の基端部が連結固定されており、スプール20をその軸周り一方(以下、この方向を「巻取方向」と称する)へ回転させると、ウエビング28がその基端側からスプール本体22の外周部に層状に巻き取られる(以下、ウエビング28のスプール本体22に巻き回された部分を「層状部分29」と称する)。一方、ウエビング28をその先端側から引っ張れば、これに伴いスプール20が回転しながらウエビング28が引き出される(以下、ウエビング28を引き出す際のスプール20の回転方向を「引出方向」と称する)。
フランジ部24のフランジ部26とは反対側でスプール20の一端側は、脚板16に形成された円孔30を略同軸的に貫通してフレーム12の外部に突出している。脚板16側のフレーム12の外側には、ケース32が配置されている。ケース32は、スプール20の軸方向に沿って脚板16と対向して配置されて脚板16に固定されている。また、ケース32は全体的に脚板16側へ向けて開口しており、円孔30を貫通したスプール20の一端側はケース32の内側に入り込み、ケース32によって回転自在に軸支されている。
さらに、ケース32の内部には渦巻きばね34が配置されている。渦巻きばね34は渦巻き方向外側の端部がケース32に係止されており、渦巻き方向内側の端部がスプール20に係止されている。この渦巻きばね34は、スプール20を巻取方向へ付勢している。
この渦巻きばね34の付勢力(に基づくウエビング28の巻取力)は、乗員が装着したウエビング28の弛みを解消する程度に、比較的弱く設定されている。換言すれば、渦巻きばね34の付勢力は、ウエビング28の装着状態で乗員非圧迫性に対応した強さとなるように設定され、スプール20から引き出されたウエビング28を摩擦力等に抗して最後まで巻き取る強さは要求されていない。
一方、スプール20は、フランジ部26側の端部から同軸的に突出した図示しない支軸部を備えている。この支軸部は、脚板18に形成された内歯のラチェット孔36を略同軸的に貫通してフレーム12の外部に突出しており、脚片18の外面に開口端を突き当てた状態で固定されロック機構38を構成する略カップ状のケース40によって回転自在に軸支されている。
ロック機構38は、通常はスプール20の巻取方向、引出方向の自由な回転を許容し、車両急減速時にスプール20の引出方向の回転を阻止するものである。本実施の形態では、加速度センサ41がラチェットギヤ42の引出方向の回転を阻止すると、該ラチェットギヤ42とスプール20との相対回転によってロックプレート46がロックベース44から突出して脚片18におけるラチェット孔36の内歯に噛み合い、スプール20の引出方向の回転を阻止する構成とされている。なお、ロックベース44とスプール20との間にトーションバーを連結して、上記ロック後にトーションバーを捩りつつスプール20の引出方向の回転を許容してエネルギ吸収を果たす(フォースリミッタ機能を果たす)構成としても良い。
一方、スプール20の下方で脚板16と脚板18との間には、モータ60が配置されている。モータ60の出力軸62にはギヤ64が同軸的且つ一体的に設けられている。
ギヤ64の半径方向上方には、ギヤ64よりも大径のギヤ66が配置されている。ギヤ66は脚板16、18間に設けられた支持板68と脚板16とによりスプール20と平行な軸周りに回転自在に軸支された状態で、ギヤ64に噛み合っている。また、ギヤ66の軸方向側方にはギヤ66よりも小径のギヤ70がギヤ66に対して同軸的且つ一体的に設けられている。
さらに、ギヤ70の半径方向上側には、クラッチ72が設けられている。クラッチ72は、リング状に形成された外歯のギヤ74を備えている。ギヤ74は、ギヤ70に噛み合った状態でスプール20に対して同軸的で且つ相対回転可能に設けられており、その軸方向両端は図示しない円盤状部材により閉止されている。また、ギヤ74の内側には、筒状のアダプタ76がスプール20に対して同軸的に設けられている。アダプタ76は、スプール20に一体的に連結されており、ギヤ74の両端を閉止する円盤状部材を貫通した状態で、円盤状部材、ひいてはギヤ74をスプール20周りに回転可能に軸支している。
ギヤ74の内側には、例えば、遠心力で揺動するパウル等の図示しない連結部材が収容されている。この連結部材は、例えば、上記円盤状部材に支持されており、ギヤ74と一体的に回転するようになっている。
ここで、このクラッチ72では、モータ60の出力軸62の回転力が、ギヤ64、ギヤ66、ギヤ70を介してギヤ74に伝達される構成となっており、モータ60の出力軸62が正方向へ回転(正転)すると、ギヤ74は巻取方向へ回転する。ギヤ74が巻取方向へ回転すると、前記連結部材がアダプタ76の外周面に機械的に結合し、ギヤ74とアダプタ76とを一体的に連結するようになっている。これにより、ギヤ74の巻取方向への回転(モータ60の正転)がアダプタ76を介してスプール20に伝達される構成である。
一方、モータ60の出力軸62が逆方向へ回転(逆転)すると、ギヤ74は引出方向へ回転する構成である。この場合、ギヤ74がアダプタ76に対して引出方向へ所定量だけ相対回転すると(モータ60の逆転により出力軸62がスプール20に対して所定量だけ相対回転すると)、前記連結部材のアダプタ76に対する機械的結合が解除され、クラッチ72は解除状態になる。
また一方、スプール20を介してモータ60とは反対側には、断面楕円形の円柱状に形成された一対のクランプ47、48が設けられている(図2参照)。これら一対のクランプ47、48は、ウエビング28の本モータリトラクタ10からの出口部分(図1ではフレーム12の上端部側でかつ側壁16と側壁18の間)において、スプール20に対して平行に配置されており、ウエビング28の両面それぞれに対向している。
クランプ47のスプール20側の端部(図1及び図2では下側の端部)には、円柱状の支軸49がクランプ47をその軸線方向(図1では左右方向、図2では紙面に垂直な方向)に沿って貫通しており、クランプ48のスプール20側の端部(図1及び図2では下側の端部)には、同様に円柱状の支軸50がクランプ48をその軸線方向に沿って貫通している。各支軸49、50の各軸線方向一端部(図1では右側の端部)は、フレーム12の側壁18に回転自在に軸支されており、各支軸49、50の各軸線方向他端部(図1では左側の端部)は、フレーム12の側壁16に回転自在に軸支されている。これにより、各クランプ47、48は、それぞれ支軸49、50周りに回動可能とされており、支軸49、50周りに回動することで、ウエビング28に対して接離移動可能とされている。
また、クランプ47の軸線方向一端部(図1では右側の端部)には、板状の連結片51がクランプ47の径方向に沿って一体的に突設されており、クランプ48の軸線方向一端部(図1では右側の端部)には、同様に板状の連結片52がクランプ48の径方向に沿って一体的に突設されている。連結片51と連結片52とは、各クランプ47、48の軸線方向においてオフセットして配置されており、互いに板厚方向に重なっている。
連結片51には、板厚方向に貫通する長孔53が形成されており、連結片52には、同様に板厚方向に貫通する長孔54が形成されている。これらの長孔53、54は、フレーム12の側壁18に本体部57が固定されたソレノイド55のプランジャ56に対応している。ソレノイド55は、所謂「プル方式」のものであり、図3に示す如く、プランジャ56の長手方向中間部が直角に屈曲している。このプランジャ56は、その先端部が連結片51、52の長孔53、54に摺動可能に挿入されている。
ここで、このモータリトラクタ10では、ソレノイド55への給電の有無によりプランジャ56が往復移動することで、連結片51、52を介して一対のクランプ47、48が、ウエビング28に対して接離移動するようになっている。すなわち、ソレノイド55に通電されていないときは、プランジャ56はソレノイド55の本体部57から所定量引き出されており、この状態では、図4(A)に示す如く、一対のクランプ47、48は、ウエビング28に対して離間するようになっている。一方、ソレノイド55に通電されているときは、プランジャ56がソレノイド55の本体部57側(図1及び図2では下側)へ所定量引き込まれることで、図4(B)に示す如く、一対のクランプ47、48は、ウエビング28に対して接近するようになっている。しかも、このように一対のクランプ47、48がウエビング28に接近した状態では、一対のクランプ47、48は、ウエビング28を挟持して保持するようになっている。なお、図4(A)及び図4(B)では、説明の都合上、プランジャ56の先端部を除くソレノイド55の図示を省略してある。
一方、本モータリトラクタ10では、制御手段を構成するドライバ82及びECU86を備えている。このECU86には、所定のウエビング装着制御プログラムが記憶されている。また、モータ60は、ドライバ82を介して車両に搭載されたバッテリー84に電気的に接続されており、バッテリー84からの電流がドライバ82を介してモータ60に流れることで、モータ60は駆動力で出力軸62を正転又は逆転させる構成となっている。ドライバ82は、ECU86に接続されており、このドライバ82を介したモータ60への給電の有無、供給電流の方向、及び大きさがECU86によって制御される構成である。
この場合、ECU86及びドライバ82は、モータ60への供給電流の大きさを制御することで、モータ60の出力軸62の回転トルク(に基づくウエビング28の巻取力)を、乗員非圧迫性に対応する低トルクから、高荷重の巻き取りに対応する高トルクまで調節できるようになっている。またこの場合、ECU86は、モータ60への通電時間を記憶できるようになっている。
さらに、ドライバ82には、ソレノイド55が電気的に接続されており、このドライバ82を介したソレノイド55への給電の有無がECU86によって制御される構成である。
また、ECU86には、スプール回転検知センサ88(本実施の形態では、磁気センサ)が接続されている。このスプール回転検知センサ88は、フランジ部26の外周部に設けられた磁石90に対応しており、フランジ部26(スプール20)の回転によって、磁石90がスプール回転検知センサ88の近傍を繰り返し通過すると、磁石90によって生じる磁気を検知して所定の電気信号(以下、この信号を「検知信号」と称する)をECU86に出力するようになっている。この場合、ECU86は、スプール回転検知センサ88から出力された検知信号に基づいてスプール20の回転量を検出する構成である。
また、ECU86には、ウエビング28に設けられたタングプレートがバックル装置(共に図示省略)と連結しているか否かを検出する制御手段としてのバックルスイッチ92が接続されている。このバックルスイッチ92は、タングプレートがバックル装置と連結しているときには、スイッチのオン状態を示すHレベルの信号をECU86に出力し、タングプレートがバックル装置から解除されているときには、スイッチのオフ状態を示すLレベルの信号をECU86に出力する。ECU86は、バックルスイッチ92から出力された信号がLレベルの信号である時をウエビング28の格納時であると判断する。
さらに、ECU86には、ドア開閉センサ94と着座センサ96とがそれぞれ接続されている。ECU86とドア開閉センサ94と着座センサ96とは、乗員乗車時に乗員がウエビング28を装着しようとする装着準備状態を検出する。この装着準備状態には、乗員が着座した状態や、ウエビング28を全格納した後に車両のドアが所定回数開閉(例えば、ウエビングを全格納した後の「乗員降車時のドア開閉」とこのドア開閉の次に行われる「乗員乗車時のドア開閉」との計2回の開閉)した状態が含まれる。
ドア開閉センサ94は、ECU86と共に、ウエビング28が全格納された後に車両のドアが所定回数開閉された状態を検出する。また、着座センサ96は、ECU86と共に、乗員が着座した状態を検出する。
またさらに、ECU86には、制御手段を構成する拘束電流検出回路98が接続されている。この拘束電流検出回路98は、ドライバ82を介してモータ60に接続されており、モータ60の出力軸62がロックしてモータ60(ドライバ82)に拘束電流が流れると、所定の電気信号(以下、この信号を「ロック検知信号」と称する)をECU86に出力するようになっている。
次に、本実施の形態の作用を図5に示すウエビング装着制御プログラムの流れ図に従って説明する。
上記構成のモータリトラクタ10では、乗員がウエビング28を装着しようとする装着準備状態がECU86、ドア開閉センサ94、及び着座センサ96によって検出されると(ステップ100)、ステップ102において、ECU86及びドライバ82がモータ60を逆転させてクラッチ72を解除状態にする。これにより、スプール20は回転可能な状態となり、乗員はウエビング28を引出すことが可能となる。次いでステップ104に移行する。
ステップ104では、乗員がウエビング28に設けられたタングプレートをバックル装置に連結してバックルスイッチ92がオン状態になったか否かがECU86で判断される。この判断が肯定された場合にのみ次のステップ106に進む。
ステップ106では、乗員がウエビング28を装着したことが検出されたため、ECU86及びドライバ82が、モータ60の出力軸62を低トルクで正転させる。モータ60の低トルクの正転は、ギヤ64、ギヤ66、ギヤ70を介してクラッチ72のギヤ74に伝達され、ギヤ74が巻取方向へ回転される。これにより、クラッチ72が連結状態となり、当該クラッチ72を介してモータ60の駆動力がスプール20に伝達され、スプール20が巻取方向へ低トルクで回転される。この場合、ウエビング28は低荷重でスプール20に巻き取られるので、ウエビング28の層状部分29よりも乗員側の部分の弛み、すなわち、乗員の着用する衣服やタングプレートとウエビング28との摺動抵抗、及び前記衣服の厚みによって生じる比較的容易に除去可能なウエビング28の弛みが除去される。
しかもこの場合、ウエビング28は低荷重でスプール20に巻き取られるので、乗員に圧迫感等の不快感を与えることが防止される。このステップ106での処理が終了すると、次のステップ108に移行する。
ステップ108では、拘束電流検出回路98からロック検知信号が出力されたか否かがECU86で判断される。この判断が肯定された場合にのみ次のステップ110に進む。
ステップ110では、モータ60に拘束電流が流れたことが検出されたため、ECU86及びドライバ82が、モータ60の正転を停止させる。なお、この時点ではクラッチ72の連結状態は維持されている。ステップ110での処理が終了すると、次のステップ112に移行する。
ステップ112では、ECU86及びドライバ82が、ソレノイド55への給電を開始する。このため、プランジャ56がソレノイド55の本体部57側へ所定量引き込まれ、連結片51、52を介して一対のクランプ47、48がウエビング28に接近移動される。これにより、ウエビング28は、本モータリトラクタ10からの出口部分において、一対のクランプ47、48により挟持されて保持される。このステップ112での処理が終了すると、次のステップ114に移行する。
ステップ114では、ECU86及びドライバ82が、モータ60の出力軸62を高トルクで正転させる。モータ60の高トルクの正転は、ギヤ64、ギヤ66、ギヤ70、及びクラッチ72を介してスプール20に伝達され、スプール20が巻取方向へ高トルクで回転される。この場合、ウエビング28は本モータリトラクタ10からの出口部分において一対のクランプ47、48により挟持されて保持されているため、ウエビング28の一対のクランプ47、48よりもスプール20側の部分は、スプール20と一対のクランプ47、48との間で引き締められ、スプール20に巻き回されたウエビング28の層状部分29は、スプール20に巻き締められる。これにより、乗員拘束性に重要な影響を及ぼすウエビング28の層状部分29の弛みが除去され、乗員拘束性が向上する(なお、上記高トルクでのウエビング28の巻取速度は、例えば、0,1〜0,3m/sで十分であり、巻取時間は数秒であるため、この間に乗員に不快感を与えることはない)。
しかもこの場合、一対のクランプ47、48は、ウエビング28の本モータリトラクタ10からの出口部分に対応するウエビング28中間部(ウエビング28の層状部分29よりも乗員側であってかつ乗員に至る途中のウエビング28中間部)を挟持して保持しているため、ウエビング28の一対のクランプ47、48よりも乗員側の部分には、スプール20の巻取荷重が作用せず、これにより、乗員に圧迫感等の不快感を与えることが防止される。このステップ114での処理が終了すると、次のステップ116に移行する。
ステップ116では、ステップ114におけるモータ60への通電開始から所定の時間が経過したか否かがECU86で判断される。すなわち、このステップ116では、ウエビング28の層状部分29の弛みが確実に除去されたか否かが判断される。この判断が肯定された場合にのみ次のステップ118に進む。
ステップ118では、ECU86及びドライバ82は、モータ60を停止させた後、出力軸62を所定量だけ逆転させてクラッチ72を解除状態にする。次いでステップ120に移行する。
ステップ120では、ECU86及びドライバ82は、ソレノイド55への給電を遮断する。このため、ソレノイド55のプランジャ56は、本体部57から所定量引き出され、連結片51、52を介して一対のクランプ47、48がウエビング28から離間移動される。これにより、一対のクランプ47、48によるウエビング28の保持が解除される。
この状態では、ウエビング28の層状部分29は、自らに作用する層間摩擦により保持されるため、層状部分29に弛みが再発生することが抑制される。したがって、車両急減速時にロック機構38によってスプール20の引出方向への回転が阻止された状態でウエビング28に乗員の慣性力が作用してウエビング28の層状部分29が巻き締まることでウエビング28が不要に伸び出すことが防止されると共に、前述したステップ106での低荷重の巻取りによるウエビング28の層状部分29よりも乗員側の部分の弛みの除去と合わせて、通常装着時におけるウエビング28の長手方向全域の弛みが最少化される。これにより、乗員拘束性が格段に向上する。
またこの状態では、スプール20は、渦巻きばね34によってウエビング28の巻取方向に付勢されているが、渦巻きばね34の付勢力(に基づくウエビング28の巻取力)は、乗員非圧迫性に対応した強さとなっているので、ウエビング28を装着している乗員に圧迫感を与えることがない。これにより、通常のウエビング28装着状態における乗員の快適性も確保することができる。
ステップ120での処理が終了すると、次のステップ122に移行する。
ステップ122では、スプール20が引出方向に所定量以上回転したことをスプール回転検知センサ88が検出したか否かがECU86で判断される。すなわち、このステップ122では、乗員の車両前方への移動等によりウエビング28が所定量以上引き出されて、ウエビング28に弛みが再発生したか否かが判断される。
このステップ122での判断が肯定された場合には、ウエビング28に弛みが再発生したと判断され、ステップ106に戻って上述した処理を繰り返す。一方、このステップ122での判断が否定された場合には、次のステップ124に移行してウエビング装着制御プログラムが終了される。
以上説明した如く、本発明の実施の形態に係るモータリトラクタ10では、乗員に圧迫感等の不快感を与えることなく通常装着状態におけるウエビング28の弛みを最少化でき、これにより、乗員拘束性が向上する。
しかも、このように通常装着状態におけるウエビング28の弛みを最少化できるので、例えば、一般的に火薬の爆発力で巻取軸を回転させてウエビングを巻取軸に一定量巻き取り車両衝突時の乗員拘束性を向上させる所謂「プリテンショナ」の機能を、モータ60の駆動力によるウエビング28の巻き取りのみで行うことも可能となる。
さらに、本発明の実施の形態に係るモータリトラクタ10では、ソレノイド55の駆動力により一対のクランプ47、48をウエビング28に対して接離移動させてウエビング28の保持及び該保持の解除を行う簡単な構成であるため、装置を簡素化することができ好適である。
なお、上記実施の形態では、ウエビング28の層状部分29よりも乗員側の部分の弛みを除去した後に、層状部分29の弛みを除去する構成としたが、これに限らず、層状部分29の弛みを除去した後に、ウエビング28の層状部分29よりも乗員側の部分の弛みを除去する構成としてもよい。