以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については繰返さない。
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に従った等速自在継手の断面図である。図1を参照してこの発明の実施の形態1に従った等速自在継手の全体構造および各部分構造について説明する。
まず、全体構造に関して、等速自在継手1は、複数のシャフト10,90間で動力を伝達する機構であり、かつ、それぞれのシャフト10,90が角度をなした場合であってもシャフト10,90の一方の回転を、シャフト10,90の他方側へ角速度を変化させずに伝達することが可能である。シャフト10,90間には、アウターレース20、スライド用ボール30、スライディンググルーブ50、ボール60、インナーレース80が設けられ、回転トルクはこれらの部材を経由してシャフト10,90間で伝達される。シャフト10の回転軸11と、シャフト90の回転軸91とは、互いに回動中心2で交差し、回動中心2で交差した状態を保持したまま回転軸11が回転軸91に対して角度をなすことが可能である。回転軸11が回転軸91に対して傾斜した状態においてもシャフト10の回転の角速度がシャフト90の回転の角速度と等しくなる。そのためには、動力を伝達するためのボール60が二等分面100上に常に配置される。二等分面100は、回転軸11,91のなす角度を二等分する面上に設けられており、常に回動中心2を通過する。
次に、各要素の説明に関して、シャフト10は、たとえば自動車のドライブシャフトまたはプロペラシャフトであり、回転軸11を中心として回転することが可能である。この発明に従った等速自在継手1では、大きな回動角度を得ることが可能であるため、シャフト10は自動車のドライブシャフトとして用いることが好ましい。すなわち、デファレンシャルギヤから出力された回転力はシャフト10を経由してシャフト90に伝えられ、さらに車輪に伝えられる。操舵輪近辺に本発明に従った等速自在継手1を用いることで操舵角度(ハンドルの切れ角度)を大きくすることが可能である。
シャフト10の材質としては特に限定されるものではないが、たとえば自動車用とするのであれば耐久性に優れた鋼材を用いることが可能である。また、プロペラシャフト等に用いる場合には、樹脂部材を採用することも可能である。また、シャフト10は図1の断面では中実形状(中身の詰まった形状)であるが、中空形状のシャフト10を採用してもよい。また、中空形状のシャフト10を採用した場合、その中空空間に潤滑油のオイルなどを流してもよい。さらに、強度をあまり要求されず、軽量化を要求される分野においては、シャフト10をアルミニウムなどの軽金属合金で構成してもよい。
アウターレース20はシャフト10に接続されており、ほぼ球面形状の内表面25を有する。アウターレース20の内表面25は所定の空間を取囲み、その取囲まれた空間内にボール60などの等速自在継手1の構成要素が収納される。アウターレース20の内表面25は半球よりも大きな球面形状となっている。具体的には、二等分面100を超えてシャフト90側まで球面は延びている。内表面25の球面は回動中心2を中心とした球面であり、回動中心2を取囲むように形成される。
内表面25にはスライド用ボール溝21が設けられている。図1で示す断面では、スライド用ボール溝21は2本示されているが、図1は仮想的な断面であり、それぞれのスライド用ボール溝21は互いに捩れた位置に配置される。スライド用ボール溝21は溝中心22を有し、溝中心22は回動中心2を中心とした円弧上に配置されている。すなわち、溝中心22は湾曲して延びており、その湾曲をさらに延長すると回動中心2を中心とした円を描くような形状となる。図1の上側の溝中心22と下側の溝中心22とは実際には2点で交わるのみであり、同一平面にはない。溝中心22と内表面25とは回動中心2を中心として同心円上に配置される。アウターレース20の材質としては、特に制限されるものではなく、シャフト10と同一の材質または異なる材質を用いてもよい。また、アウターレース20のうち、スライド用ボール溝21近辺では耐摩耗性が要求されるため、この部分に焼入れなどの硬質化処理を施してもよい。
スライド用ボール30はスライド用ボール溝21上に配列される。スライド用ボール30はスライド用ボール溝21の延びる方向に複数個が配列され、かつスライド用ボール溝21上で転がり運動をする。転動体としてのスライド用ボール30は保持器としてのスライド用ボールケージ40に保持されており、それぞれのスライド用ボール30の間隔はほぼ一定に保たれる。この実施の形態では転動体としてスライド用ボール30を用いているが、これに限定されるものではなく、より大きな荷重が加わることが予想される場合には、ニードルベアリングを用いてもよい。さらに、スライド用ボール30の個数としても図1のものに限定されず、さらに多くのスライド用ボール30およびさらに少ないスライド用ボール30を用いてもよい。
スライド用ボール30はたとえば鋼玉により構成される。スライド用ボール30は溝中心22に沿ってスライド用ボール溝21上を転動する。スライド用ボール30はアウターレース20に構成されたスライド用ボール溝21をアウターレースとし、スライディンググルーブ50のスライド用ボール溝55をインナーレースとし、これらのアウターレースおよびインナーレース間の摩擦抵抗を低減する。
スライディンググルーブ50はアウターレース20の内側に設けられており、その内表面側にはボール60を保持するためのアウターレース溝51が形成されている。スライディンググルーブ50の外表面側にはスライド用ボール30と接触するスライド用ボール溝55が設けられており、スライド用ボール溝55はスライド用ボール溝21と向かい合うように配置される。スライディンググルーブ50は回動中心2を中心とした円弧形状であり、回動中心2を中心とした円弧上を自在に移動することが可能である。アウターレース溝51の中心であるアウターレース溝中心52は回動中心2を中心とした円弧上を延びており、アウターレース溝中心52にほぼ一致するようにボール60が移動する。アウターレース溝51の先端部では不完全溝57が設けられており、不完全溝57でボール60を保持する構造とされる。
すなわち、スライディンググルーブ端面53近傍においてもアウターレース溝51が回動中心2を中心とする円弧上に延びていると、ボール60が外部へ放出されるという問題が生じる。この問題を解決すべく、不完全溝57を設け、アウターレース溝51がスライディンググルーブ端面53近傍において回動中心2側へ巻き込むような形状とされることで、ボール60の飛出しを防止している。
スライディンググルーブ50では、内表面側がボール60と接触し、外表面側がスライド用ボール30と接触するため、高い耐久性が要求される。スライディンググルーブ50はスライド用ボール30と接触しているため、スライディンググルーブ50に設けられたアウターレース溝51もスライディンググルーブ50とともに円弧上をスライドする。スライディンググルーブ50がスライドしても、アウターレース溝中心52の位置は変化することがない。
すなわち、互いに接触するスライディンググルーブ50、スライド用ボール30およびスライド用ボール溝21においては、溝中心22とアウターレース溝中心52とは回動中心2を中心とした同一平面上で、かつ同心円上に設けられる。そのため、スライディンググルーブ50がスライドしたとしても、このスライド方向はアウターレース溝中心52の延びる方向であり、アウターレース溝中心52の位置に変化が生じない構造とされている。
ボール60およびケージ70は動力を伝達するための部材であり、ボール60の位置をケージ70が保持している。ボール60は二等分面100上に常に配置されている。ボール60はアウターレース溝中心52およびインナーレース溝中心82の交点上に常に配置される。アウターレース溝中心52およびインナーレース溝中心82は互いに交差するため、この発明に従った等速自在継手1は、いわゆるクロスグルーブ型の等速自在継手である。ボール60はアウターレース溝51内を転動するため、この点同時の摩擦を少なくすべくボール60の外表面に潤滑油またはグリースなどの所定の潤滑剤が塗布されていてもよい。同様にスライド用ボール30の外表面にも摩擦を低減させるためのグリースなどの潤滑剤を塗布することが好ましい。
ボール60およびスライド用ボール30の潤滑方法としては、たとえばゲル状の潤滑剤をボール60およびスライド用ボール30近辺に配置することで潤滑が可能となる。さらに、等速自在継手1自体を油溜りに浸してもよい。また、等速自在継手1に潤滑油を吹付けてもよい。なお、潤滑剤の飛び散りを防止すべく、等速自在継手1全体をブーツなどで覆ってもよい。
ケージ70はボール60を保持する保持器としての役割を有し、ボール60がスムーズにかつ所定の位置へ位置決めされる役割を果たす。ケージ70には、貫通孔であるボール孔71が設けられており、ボール孔71にボール60を嵌め合わせることでボール60を位置決めする。ケージ70はケージ内表面72およびケージ外表面73を有し、ケージ内表面72およびケージ外表面73の両面は、それぞれ回動中心2を中心とした球面上に配置されている。ケージ内表面72はインナーレース80と摺動し、ケージ外表面73はスライディンググルーブ50と摺動する。この摺動を妨げないようにケージ内表面72およびケージ外表面73がグリースなどの潤滑剤で潤滑されていることが好ましい。ケージ70はドーム形状であり、インナーレース80を取囲むような形状を有する。
インナーレース80は、回動中心2近傍に設けられ、ボール60を内側から支持する。インナーレース80の外表面には、インナーレース溝81が設けられており、インナーレース溝81にボール60が保持される。インナーレース溝81は回転軸91に対して傾斜するように設けられており、具体的には、二等分面100に対してアウターレース溝51とインナーレース溝81とが対称に位置するように設けられる。インナーレース溝中心82とアウターレース溝中心52とが交差する点は二等分面100上に設けられ、この交差する点においてボール60が保持される。
インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52は、互いに回動中心2を中心とした球面上に配置され、回動中心2を中心とした対称な2点で交わる。インナーレース80は回動中心2を中心として回動することが可能であり、アウターレース20に対して一定の距離を隔てた状態で回動する。インナーレース80は図1では、中実形状(中身が詰まった形状)とされているが、中空形状であってもよい。インナーレース80には、複数のインナーレース溝81が設けられている。
シャフト90は回転力を出力または入力するための部材であり、インナーレース80に一体的に取付けられる。シャフト90はインナーレース80と別部材で構成されていてもよく、また一体的に構成されていてもよい。シャフト90の先には、たとえば自動車の車輪を取付けるためのハブが設けられていてもよい。また、エンジンからの出力を入力するインプットシャフトとしてシャフト90を用いてもよい。さらに、プロペラシャフトにシャフト90が接続されていてもよい。また、自動車用の等速自在継手に限らず、工作機械、発電機などで使用される等速自在継手の動力入力および出力部分としてシャフト90を用いてもよい。シャフト90の回転軸91は、シャフト10の回転軸11に対してさまざまな角度を持たせることが可能となる。
この発明の実施の形態1に従った等速自在継手1は、第1の回転体としてのシャフト90と第2の回転体としてのシャフト10およびアウターレース20との間に中間部材としてのボール60を介在させ、シャフト90はシャフト10に対して回動中心2を中心として回動することで回転軸11を回転軸91に対して傾斜させることが可能である。回転軸11と回転軸91とのなす角度を二等分する二等分面100上にボール60を配置することで、シャフト10,90間でボール60を経由して回転力を伝達することができる。等速自在継手1は、シャフト90とともに回転し、ボール60と接触するインナーレース溝81が外表面に形成された第1の溝部材としてのインナーレース80と、シャフト10およびアウターレース20とともに回転し、ボール60と接触するアウターレース溝51が内表面に形成された第2の溝部材としてのスライディンググルーブ50と、アウターレース溝51が延びる方向にスライド可能にスライディンググルーブ50を保持するスライド部としてのスライド用ボール30およびスライド用ボールケージ40とを備える。インナーレース溝81およびアウターレース溝51の溝中心であるインナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52は、回動中心2を中心とする円弧上に延在し、インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52は二等分面100に対し互いに対称となるように捩れ角を有し、インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52の交差する位置でボール60が保持される。
図2は、シャフト90がシャフト10に対して傾斜した状態での等速自在継手の断面図である。図2を参照して、等速自在継手1の回動動作について説明する。シャフト90は、シャフト10に対して角度θ1の角度をなすことが可能である。たとえば、角度θ1は120°とされる。このとき、角度θ1を二等分する二等分面100上にボール60が配置されるようにインナーレース溝81およびアウターレース溝51が位置決めされている。
図2の上側では、ボール60が図1で示す状態から回動するのに伴い、スライディンググルーブ50およびスライド用ボール30も回動中心2を中心として、時計回りに回動する。このとき、ボール60はアウターレース溝51から飛出す方向に力を受けるが、不完全溝57が存在することで、不完全溝57にボール60が引掛り、ボール60が外部へ飛出すことはない。同様に、スライド用ボール30もアウターレース20からはみ出て外部へ飛出そうとするが、ここでもスライド用ボール30がスライド用ボールケージ40に保持されているため、スライド用ボール30が外部に飛出すことを防止できる。
図2の下側では、シャフト90がアウターレース端面23およびスライディンググルーブ端面53に接触している。このような接触に備えて、アウターレース端面23およびスライディンググルーブ端面53はテーパ面とされており、シャフト90に面接触する。そのため、シャフト90との間での摩耗を減少させることができ、シャフト90の破損を防止することができる。
図2で示したように、シャフト90がシャフト10に対して傾斜した状態においても、回転軸11と回転軸91との交点は回動中心2となる。このようにシャフト90が回動(揺動)した状態で、シャフト90は回転軸91を中心として回転することが可能である。シャフト90が回転したとしても、複数のボール60は二等分面100上に配置されるため、シャフト90の回転がシャフト10へ角速度を変換されることなく伝達される。
図2で示すように、スライディンググルーブ50がアウターレース溝51の延びる方向に沿ってスライドするため、この発明では、アウターレース溝51が長く形成されていると考えることができ、この長いアウターレース溝51に沿ってボール60が回動中心2を中心として回動する。従来の等速自在継手において、仮にアウターレース溝51を延長すると、シャフト90とアウターレース溝51とが接触してしまい、十分大きな回動角度を得ることができない。本発明では、自動車のフロントホイール側に搭載されるような、大きな角度をなして駆動力を伝達する等速自在継手において、アウターレース溝51をスライドさせることにより、従来品よりも大きな角度(揺動角)で駆動力を伝達する等速自在継手1の構造を提供することができる。
アウターレース溝51は、アウターレース20に対し、アウターレース溝51の延びる方向に摺動する。アウターレース溝中心52およびインナーレース溝中心82は、等速自在継手1の回動中心(揺動中心)1を中心とする二次元的な円弧上に設けられる。アウターレース溝51およびインナーレース溝81は二等分面100に対し、互いが対称となるように捩れ角を有する。ケージ70のケージ内表面72およびケージ外表面73は回動中心2を中心とする球面上に配置される。
なお、図1および図2では、同一断面に複数のインナーレース溝81およびアウターレース溝51が現われているが、実際には、これらのインナーレース溝81およびアウターレース溝51には捩れ角が付与されるため、同一断面にインナーレース溝81およびアウターレース溝51が長く延びるようには現われない。
このような構成を採用することで、たとえば回動角度(摺動角度)60°という大きな角度にて、駆動力を伝達することが可能となる。
図3は、インナーレース溝中心およびアウターレース溝中心の模式図である。図3を参照して、インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52は三次元的に延びており、かつ、二等分面100上で交差する。交差した位置においてボール60が保持される。なお、実際の設計においては、厳密にボール60の中心と、インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52の交点とが一致する必要はなく、若干のずれが生じていてもよい。また、ボール60の移動を円滑なものとするために、多少のあそびが設けられていてもよい。二等分面100上に回動中心2が位置し、回動中心2において2つの回転軸11,91が交差する。
図4は、図3中の矢印IVで示す方向から見たインナーレース溝中心およびアウターレース溝中心の模式図である。図4を参照して、インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52は、捩れ角θ2を有する。捩れ角θ2は、回転軸11,91に対するアウターレース溝中心52およびインナーレース溝中心82の傾斜を示したものであり、インナーレース溝中心82の傾斜とアウターレース溝中心52の傾斜とはほぼ等しくなる。インナーレース溝中心82とアウターレース溝中心52とが互いに傾斜して一点で交わることで、この交点によりボール60を保持することが可能となる。なお、捩れ角θ2としては、0°を超えるさまざまな角度を採用することが可能である。
図5は、図1で示す等速自在継手のインナーレース溝中心およびアウターレース溝中心の模式図である。図5を参照して、2つの回転軸11,91に角度が付与されていない場合であっても、インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52は二等分面100上で交差する。交差した点でボール60が保持される。すなわち、回転軸91を回転軸11に対して傾斜させたとしても、インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52は回動中心2を中心とする球面上に設けられているため、インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52は常に一点で交わる。さらに、インナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52は対称形状とされているため常に二等分面100上でインナーレース溝中心82およびアウターレース溝中心52が交差する。すなわち、インナーレース溝中心82とアウターレース溝中心52とは二等分面100に対し面対称に設けられる。
次に、ボールおよびスライド用ボールの抜けの防止構造について説明する。図6は、実施の形態1に従った等速自在継手の断面図である。なお、図6で示す断面は、図1で示す断面と異なる断面である。図6を参照して、まず、スライド用ボール30およびスライディンググルーブ50などの脱落を防止するために、アウターレース20には抱込み角度θ3を設けている。抱込み角度θ3を設けることで、スライド用ボール30およびスライディンググルーブ50などが外部へ抜けるのを防止する働きがある。また、不完全溝57は、回動中心2側へ回り込むように構成され、不完全溝57では、回動中心2からの距離が小さくなっている。その結果、ボール60の抜け落ちを防止することが可能となる。なお、図1および図2で示すスライド用ボール溝21,55には捩れ角があるため、抱込み角度θ3が浅くても抜けることはない。
図7は、シャフト90がシャフト10に対して傾斜した等速自在継手の断面図である。なお、図7で示す断面は、図2で示す断面と異なる断面である。図7を参照して、回動時(揺動時)には、スライド用ボール30がアウターレース20の外側に位置する。このとき、スライド用ボール30は回転軸11を中心として回転するためスライド用ボール30に遠心力が働く。しかしながら、スライド用ボール30はスライド用ボールケージ40に圧入されているため、遠心力が加わったとしても、外側へ飛んでいくことはない。
スライディンググルーブ50は、爪形状のストッパ54が設けられており、ストッパ54はストッパ溝24に嵌め合わされている。ストッパ溝24の端面にストッパ54が引掛かることでスライディンググルーブ50が抜けることを防止することができる。ストッパ54およびストッパ溝24の位置は、回動角度(揺動角度)に応じて適宜変更することが可能であり、大きく揺動させたい場合には、ストッパ溝24を長くし、スライディンググルーブ50のスライド角度(スライド量)を大きくすればよい。図7の上側では、ボール60が不完全溝57と接触し、外部へのボール60の放出を防止している。このように、スライディンググルーブ50に不完全溝57を設けることで、角度を付与したときに、ボール60がアウターレース溝51をスライドさせる。
なお、図6および図7では、インナーレース溝81およびアウターレース溝51が同一平面上で延びるように作図されているが、これは実際の断面とは異なる。実際にはインナーレース溝81およびアウターレース溝51には捩れ角が付与されるため、同一平面においてインナーレース溝81およびアウターレース溝51が長く延びるようには現われない。
図8は、アウターレースの一部断面を含む斜視図である。図8を参照して、アウターレース20の内表面25は球面状(ドーム状)であり、その球面内にスライド用ボール溝21およびストッパ溝24が設けられている。スライド用ボール溝21は、2本が1組となって構成されており、隣り合う2本のスライド用ボール溝21は互いに平行に延びる。スライド用ボール溝21はアウターレース20を貫通しておらず、底を有する凹部形状である。2本のスライド用ボール溝21の間に、ストッパ溝24が配置される。ストッパ溝24はスライド用ボール溝21に沿って、これらと平行に延びる。
なお、図8では、2本のスライド用ボール溝21にストッパ溝24が挟まれる構造としたが、これに限られるものではなく、スライド用ボール溝21の両側に、すなわちスライド用ボール溝21を取囲むようにストッパ溝24が設けられてもよい。また、ストッパ溝24およびスライド用ボール溝21の本数および長さは等速自在継手1の要求に応じてさまざまに変形することが可能である。それぞれのスライド用ボール溝21は同一球面上に配置されており、かつ、回動中心2を中心とした円弧上に配置される。そのため、仮に1つのスライド用ボール溝21を延長すると、元の位置まで戻るようにスライド用ボール溝21を延長すると、元の位置まで戻るようにスライド用ボール溝21が延びる。そして、スライド用ボール溝21が形成される円形状は回動中心2を中心とした円形状となる。言換えれば、内表面25を構成する球面の大円上にスライド用ボール溝21が配置されている。スライディンググルーブの移動を安定させるために、2本のスライド用ボール溝21を設けている。
図9は、図8中のIXで示す方向から見たアウターレースの正面図である。図9を参照して、アウターレース20の内表面25に設けられるスライド用ボール溝21は、互いに対称形状であり、回動中心2を中心とする球面上を延びる。すなわち、スライド用ボール溝21の各点と回動中心2との距離は等しくなる。また、スライド量を有限するために、スライド用ボール溝21の長さは有限であり、一定の範囲でのみスライディンググルーブのスライドを許容する。
図10はインナーレースの斜視図である。図10を参照して、インナーレース80はシャフト90と接続されており、複数本のインナーレース溝81を有する。インナーレース溝81はシャフト90に対して傾斜しており、一定の角度で捩れた形状とされる。インナーレース溝中心82は回動中心2を中心とした円形状であり、回転軸91と非平行に延びている。インナーレース溝81の本数は図10で示すものに限定されず、さらに多くのインナーレース溝81を設けてもよい。インナーレース80の外表面は円弧形状であり、他の部材との摺動をスムーズなものとする。
図11は、この発明の実施の形態1に従った等速自在継手の一部を切欠いた平面図である。図12は、図11中のXIIで示す方向から見た等速自在継手の一部断面を含む側面図である。図13は、図12中のXIIIで示す方向から見た等速自在継手の正面図である。図11を参照して、アウターレース20内には、スライド用ボール30がシャフト10に対して傾斜するように配置される。1つのスライド用ボールケージ40が2列のスライド用ボール30を保持しており、スライド用ボール30はスライディンググルーブ50に設けられたインナーレースとしてのスライド用ボール溝55に嵌め合わされている。すなわち、アウターレース20とスライディンググルーブ50との間には、シャフト10に対して傾斜した転動体としてのスライド用ボール30が配列されている。なお、スライド用ボール30の配列方向は、アウターレース溝の配列方向と同一である。スライディンググルーブ50の内側にはケージ70が設けられており、ケージ70のさらに内側には、シャフト90が配置される。シャフト90はシャフト10に対して傾斜しており、所定の揺動角度が付与されている。
図12を参照して、側面から見ると、シャフト90はシャフト10に対して大きく傾斜しており、シャフト90の一部分がアウターレース20に接触している。シャフト90はインナーレース80と接続され、インナーレース80の一部分がアウターレース20からはみ出している。インナーレース80にはインナーレース溝81が傾斜して設けられており、インナーレース80に対して回動可能にケージ70が設けられる。ケージ70には、ボールを保持するためのボール孔71が形成されており、ケージ70の外表面にはスライディンググルーブ50が接触している。スライディンググルーブ50はスライド用ボール30によってある方向にスライドすることが可能であり、かつスライディンググルーブ50の過度のスライドを防止するためのストッパ54がスライディンググルーブ50に一体的に形成される。ストッパ54はストッパ溝24に噛み合い、最大傾斜状態でストッパ溝24とストッパ54とが接触する。
図13を参照して、正面図で示されるように、シャフト90にはインナーレース80が取付けられ、インナーレース80には、シャフト90の延びる方向に対して傾斜するインナーレース溝81が複数本形成される。インナーレース溝81は転動体であるボール60を保持する。インナーレース80の外表面に接触するように球体を一部切欠いた形状のケージ70が配置される。ケージ70の内表面がインナーレース80に接触する。ケージ70は複数のボール孔71を有する。ボール孔71内でボール60が保持される。なお、インナーレース溝81が回転軸91に対して傾斜しているため、ボール60はインナーレース溝81内で回転方向に移動する。すなわち、インナーレース溝81の傾斜方向に沿って、ケージ70の円周方向にボール60が移動する。この移動を吸収するために、ケージ70のボール孔71は長孔となっており、回転方向に長軸が存在するように形成される。このような形状とすることで、ボール60の回転方向での移動を吸収することが可能となる。
ボール60に接触するように、スライディンググルーブ50が配置される。図13で示されるように、スライディンググルーブ50はインナーレース溝81と異なる方向に傾斜して設けられる。インナーレース溝81とアウターレース溝51が対称形状であり、インナーレース溝81とアウターレース溝51の交差する点でボール60が保持される。スライディンググルーブ50の内表面側にアウターレース溝51が配置され、アウターレース溝51がボール60を受入れる。スライディンググルーブ50の外表面には、アウターレース溝51の延びる方向と平行にスライド用ボール溝55が2本配置される。スライド用ボール溝55上をスライド用ボール30が移動する。スライド用ボール30はアウターレース20のスライド用ボール溝21に保持される。
図14は、スライディンググルーブの斜視図である。図15は、図14中のXVで示す方向から見たスライディンググルーブの斜視図である。図14を参照して、スライディンググルーブ50は円弧形状であり、その内表面側には、ボールと接触するためのアウターレース溝51およびボールを保持してボールの飛出しを防止するための不完全溝57が形成される。不完全溝57およびアウターレース溝51はそれぞれ凹部であり、この中をボールが転動する。外表面側には、スライド用ボールを保持するためのスライド用ボール溝55が設けられる。
図15を参照して、スライド用ボール溝55は、図14のアウターレース溝51に沿って延び、かつ、アウターレース溝51と同心円上に配置される。すなわち、回動中心を中心とした同心円上にアウターレース溝51およびスライド用ボール溝55が配置される。2本のスライド用ボール溝55の間に飛出しを防止するための爪状のストッパ54が配置される。
次に、この発明の実施の形態1に従った等速自在継手の組立方法を説明する。図16から図19は、図1で示す、この発明の実施の形態1に従った等速自在継手の組立方法を説明するための断面図である。まず、図16を参照して、ケージ70、インナーレース80およびシャフト90を準備する。ケージ70はインナーレースを収納するための内部空間を有し、この内部空間は球面状のケージ内表面72により取囲まれる。ケージ内表面72と対向するようにケージ外表面73が設けられており、ケージ外表面73も、ケージ内表面72と同様に、回動中心を中心とした球面上に設けられる。ケージ70のうち、最も大きい開口部分からインナーレース80を挿入する。
図17を参照して、インナーレース80をケージ70に挿入すると、インナーレース80の外表面がケージ内表面72に接触する。この状態で、ボール孔71からボール60をインナーレース溝81側へ挿入する。そしてボール60およびケージ70に接触するようにスライディンググルーブ50を取付ける。このとき、スライディンググルーブ50のアウターレース溝51がボール60に接触するようにする。
図18を参照して、スライディンググルーブ50をボール60と接触させた状態で、スライディンググルーブ50をアウターレース20に組付ける。具体的には、アウターレース20の内表面25で取囲まれる空間にスライディンググルーブ50、ボール60およびインナーレース80を挿入する。
図19を参照して、スライド用ボールケージ40をスライドさせながらスライド用ボール孔41内にスライド用ボール30を嵌め合わせていく。このとき、内側(シャフト10側)からボールを嵌めていき、ボールを嵌めるとともにスライド用ボールケージ40をシャフト10側へ向かって押込んでいく。これにより、図11に示す等速自在継手が完成する。
この発明に従った等速自在継手1では、スライド部は、転動体としてのスライド用ボールとスライド用ボール30を保持する保持器としてのスライド用ボールケージ40とを有し、スライド用ボール30がスライディンググルーブ50とアウターレース20との間に介在する。
等速自在継手1はボール60を保持するケージ70をさらに備え、ケージ内表面72およびケージ外表面73は、回動中心2を中心とする球面形状となっている。
このように構成された、実施の形態1に従った等速自在継手1では、図2で示すように、アウターレース溝51が所定の方向にスライドする。これにより、アウターレース溝がスライドしない従来品に比べて大きな回動角度(揺動角度)を得ることができ、1つの等速自在継手で大きな回動角度を実現することが可能となる。
(実施の形態2)
図20は、この発明の実施の形態2に従った自動車の模式図である。図20を参照して、この発明の実施の形態2に従った自動車400では、差動装置202とタイヤ200との間に実施の形態1に従った等速自在継手1を用いている。具体的には、タイヤ200側の等速自在継手として、本発明に従った等速自在継手1を用いてもよい。また、差動装置202に近い側の等速自在継手として本発明に従った等速自在継手1を用いてもよい。なお、差動装置202とタイヤ200との間にはドライブシャフト201が介在する。自動車400は矢印203で進む方向に進行し、矢印203で示す方向が車両前方方向である。
一般的に、フロント側駆動の自動車において、フロントホイール側の等速継手は、大きな角度をなして駆動力をタイヤ側に伝える必要がある。車両の旋回半径を小さくするためには、タイヤ200の切れ角を大きくする必要があるが、従来の等速自在継手では、回動角度が制限されているため、切れ角の大きな自動車400を製造することができなかった。本発明に従えば、タイヤ200側の等速自在継手として、本発明の等速自在継手を用いることで、タイヤ200の切れ角が飛躍的に向上した自動車400を提供することができる。
(実施の形態3)
図21は、この発明の実施の形態3に従った等速自在継手の断面図である。なお、図21で示す断面は図1で示す断面に対応する。図21を参照して、この発明の実施の形態3に従った等速自在継手1では、スライディンググルーブ50とアウターレース20との間にスライド用ボールが設けられていない点で、実施の形態1に従った等速自在継手1と異なる。スライディンググルーブ50はアウターレース20の内表面25と直接接触している。アウターレース20の内表面25に対してアウターレース溝51の延びる方向にスライドすることが可能である。スライディンググルーブ50はアウターレース20に対して摺動するため、摺動時の摩擦抵抗を抑えるために、スライディンググルーブ50とアウターレース20との間にオイルまたはグリースなどの潤滑剤を介在させてもよい。
このように構成された、実施の形態3に従った等速自在継手1では、実施の形態1に従った等速自在継手1と同様の効果がある。
以上、この発明の実施の形態について説明したが、ここで示した実施の形態はさまざまに変形することが可能である。まず、各実施の形態では、複数のスライド用ボール溝21、スライド用ボール30、アウターレース溝51、インナーレース溝81を設けたが、これらの個数は特に限定されるものではない。さらに、各要素の寸法および材質については適宜変更することが可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 等速自在継手、2 回動中心、10,90 シャフト、11,91 回転軸、20 アウターレース、21 スライド用ボール溝、22 溝中心、23 アウターレース端面、24 ストッパ溝、25 内表面、30 スライド用ボール、40 スライド用ボールケージ、41 スライド用ボール孔、50 スライディンググルーブ、51 アウターレース溝、52 アウターレース溝中心、53 スライディンググルーブ端面、54 ストッパ、55 スライド用ボール溝、57 不完全溝、60 ボール、70 ケージ、71 ボール孔、72 ケージ内表面、73 ケージ外表面、80 インナーレース、81 インナーレース溝、82 インナーレース溝中心、100 二等分面。