JP4284792B2 - 玉軸受軌道面の超仕上加工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術の分野】
本発明は、例えばパーソナルコンピュータなどに用いられる磁気記録装置のハードディスクドライブ(以下HDD)主軸モータ用玉軸受における内外輪軌道面の多角うねりを修正する超仕上加工方法に関する。具体的には上記HDD主軸モータ軸受で問題となる非同期回転振れの要因の1つである玉軸受内外輪軌道面の真円度特定多角成分のうねりを極めて小さく修正する超仕上加工方法に関する。
【0002】
ここで前記玉軸受の非同期回転振れの要因となる内外輪軌道面の真円度特定多角成分のうねりとは既に知られているように、例えば文献「綿林 英一著、転がり軸受マニュアル、日本規格協会、頁169、1999年」に記されるように、内外輪軌道面間に介在する軸受転動体(玉)数の自然数倍±1に相当する回数で円周上に繰り返されるうねりをいう。
【0003】
【従来の技術】
長方形あるいは任意断面形状の柱状砥石を揺動させながら、軸受回転時と同軸で回転する内輪あるいは外輪の軌道面に対して、この軌道面の断面円弧半径方向に適切な力で押し当てながら除去加工を行う玉軸受内外輪軌道面の超仕上加工法は既に知られている。前記砥石の揺動軸は、加工を受ける軌道面の断面円弧中心位置あるいはその近傍で砥石切込み方向に直角に、かつ軸受軸線方向に位置し、前記砥石は適切な大きさの振り角で前記揺動軸まわりに繰り返し揺動運動する。
【0004】
従来から一般的に用いられている玉軸受の加工方法では、軸受内外輪軌道面は研削加工された後、超仕上加工により仕上げられる。研削工程には主に前記軌道面の断面円弧形状と回転方向の真円度を精度よく成形することが任され、超仕上工程では研削後の軌道面の面粗度を向上させる磨きの作用が主に任されている。
【0005】
ただしこの超仕上工程においても、ワーク加工面円周上に砥石の「またぎ」寸法が投影されて出来る接触円弧の長さよりも短い周期の凹凸が砥石とワークの接触範囲内の平均化効果により修正されることは公知の事実である。しかしこの方法により修正される真円度の多角うねりは従来一般的に10ないし20角以上のうねりであり、それより低い角数で周期の大きなうねり成分に対しては、もっぱらワークと砥石の相対運動精度の転写に基づく運動転写加工により形状成形が行われている。
【0006】
上述の運動精度転写加工理論に基づき、超仕上工程におけるワークの運動精度向上には多くの努力が注がれてきた。例えば、米国特許第5,679,061号明細書にはリング状ワークの回転面を静圧油膜でシュー上に支持することにより、加工中のリング状ワークの回転精度を向上させることが記載されている。ただし、ワークと砥石間の切込み剛性が小さい超仕上加工法では真円度修正の効率が低い。
【0007】
一般に、回転する円筒状加工物の外周面に柱状砥石を押し当てて、加工物回転軸と平行に砥石を直線往復運動させる超仕上加工法の場合には、砥石の作用面は常時全面で加工物表面に接しているため、加工物真円度のうねりは例えば10角未満の低い角数であっても、うねり一周期波長を覆う寸法のまたぎを有する超仕上用砥石を用いて容易に修正できる加工方法は知られている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし玉軸受の内輪あるいは外輪の軌道面の場合には前記円筒加工物の外周面の超仕上加工とは異なり、幾何学的な位置関係により揺動する超仕上用砥石の作用面上で軌道面に接触する範囲が変化し、作用面全てを常時軌道面に接触させることは不可能である。そのため砥石のまたぎ寸法を大きくして真円度のうねりを低い角数の、波長の長いうねりまで修正することは難しいとされてきた。
【0009】
この問題に関連してSKF社の発明に係わる米国特許第3,423,887号明細書には、玉軸受内外輪の軌道面円周長さの1/3に相当するまたぎ寸法の超仕上砥石を用いて軌道面ウェービネス(真円度の多角うねり)を向上させるためには砥石を揺動させず、保持された砥石は内輪あるいは外輪軌道面に押し当てて5〜30kHzの高周波で垂直に微振動させることによって砥石の切れ味を維持する超仕上加工法を開示している。
【0010】
しかしながら前述のSKF社の発明による超仕上加工方法では、加工される軌道面に対して砥石は揺動せずに垂直に押し当てて、砥石自身の形状を転写することによって軌道面の断面円弧形状精度を維持しようとする方法である。従って前の工程となる研削工程から次々に供給されるワークの幅方向の形状ばらつきや軌道面の断面円弧形状誤差などにより、超仕上用砥石の作用面上では研削量の分布がばらつき、即ち砥石摩耗の分布が均一にはならないため砥石自身の断面形状を崩しやすく、これが転写される軌道面の断面円弧形状精度を確保することは難しい。
【0011】
このSKF社の発明の例からも明らかなように、玉軸受内外輪の軌道面の断面円弧形状を精度よく仕上げるためには、超仕上砥石の揺動運動は不可欠であるが、軌道面の断面円弧形状の崩れを起こさずに真円度多角うねりを高能率に修正する方法は未だ確立されていなかった。
【0012】
そこで本発明は、玉軸受内外輪の軌道面真円度の特定角数、即ち[軸受玉数−1]角のうねりの波長を覆う砥石接触長さを実現して、[軸受玉数−1]角およびそれよりも短い波長のうねりの振幅を高精度に修正する超仕上加工方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、玉軸受軌道輪を軸線まわりに回転させながら、前記軌道輪の軌道面の断面円弧中心から該軸線に垂線を下す方向に該断面円弧の半径寸法の0ないし10%だけ該断面円弧中心より離れた位置で、前記軌道輪の回転軸線に対して直角方向にのびる砥石揺動軸線を中心に、この揺動軸線方向にとった「またぎ」寸法が以下の式(1)の範囲のT、
【数2】
なる角柱状砥石を揺動させて、前記砥石を前記軌道輪の軌道面の断面円弧半径方向に押圧して表面を除去する超仕上加工方法が提供される。
ただし前記(1)式で、Zは前記軸受の玉数、Dは軸受軌道輪の軌道面の内で最大直径寸法であり、前記軸受軌道輪が内輪の場合は砥石またぎ寸法にTs、内輪軌道面内の最大直径寸法である内輪外径寸法にDoを、また外輪の場合は砥石またぎ寸法にTse、外輪軌道面内の最大直径寸法である外輪溝径寸法にDeをそれぞれ前記Tおよび前記Dの代りに用いる。
【0014】
本発明の1つの態様によれば、玉軸受内輪を軸線まわりに回転させながら、前記内輪の軌道面の断面円弧中心から該軸線に垂線を下す方向に該断面円弧の半径寸法の0ないし10%だけ該断面円弧中心より離れた位置で、前記内輪の回転軸線に対して直角方向にのびる砥石揺動軸線を中心に、この揺動軸線方向にとった「またぎ」寸法が以下の式(2)の範囲のTs、即ち内輪軌道面内の最大直径である内輪外径寸法をDo、軸受の玉数をZとして、
【数3】
なる角柱状砥石を揺動させて、該砥石を前記内輪軌道面の断面円弧半径方向に押圧して表面を除去する超仕上加工において、砥石揺動振り角の最大値θsが軸受の玉と内輪軌道面との接触角θcに対して80ないし200%の範囲をとり、且つ前記揺動軸及び押圧方向に対して直角なる方向の砥石幅側面位置が、砥石揺動振り角の最大時に内輪軌道面の端と内輪軌道面上の玉が接触する位置との間に収まるように、該砥石幅の寸法Bsが該内輪軌道面の幅Bwに対して80ないし150%の範囲をとることを特徴とする玉軸受内輪軌道面の超仕上加工方法が提供される。
【0015】
本発明の他の態様によれば、玉軸受外輪を軸線まわりに回転させながら、該外輪の軌道面の断面円弧中心から該軸線に垂線を下す方向と反対側に該断面円弧の半径寸法の0ないし10%だけ該断面円弧中心より離れた位置で、該外輪の回転軸線に対して直角方向にのびる砥石揺動軸線を中心に、この揺動軸線方向にとった「またぎ寸法」が以下の式(3)の範囲で式(4)の制限を受けるTse、即ち外輪軌道面内の最大直径である外輪溝径寸法をDe、軸受転動体(玉)数をZ、外輪軌道面の断面円弧半径reとして、
【数4】
【数5】
なる柱状砥石を揺動させて、該砥石を前記外輪軌道面の断面円弧半径方向に押圧して表面を除去する超仕上加工において、砥石揺動振り角の最大値θseが治工具等の干渉の無い状態で軸受の玉と外輪軌道面の接触角θcに対して50ないし200%の範囲をとり、且つ前記揺動軸及び押圧方向に対して直角なる方向の砥石幅側面位置が、砥石揺動振り角の最大時に外輪軌道面の端と外輪軌道面上の玉が接触する位置との間に収まるように、該砥石幅の寸法Bseが該外輪軌道面の幅Bweに対して80ないし150%の範囲をとる玉軸受外輪軌道面の超仕上加工方法が提供される。
【0016】
また本発明の他の態様によれば、上述の玉軸受外輪軌道面の超仕上加工方法において、前記砥石揺動軸方向にとった変位yを変数、外輪軌道面の最大直径である外輪溝径寸法De、外輪軌道面断面円弧半径re、外輪軌道面の深さPo、外輪軌道面の幅Bweおよび最大砥石揺動振り角θseをパラメータとし、前記柱状砥石の軸受外輪回転軸方向にとった幅寸法Bsyを関数とした以下の演算式(5)を基に砥石断面形状を中央線に対して軸対称な樽型、あるいは該樽型を直線近似した多角形とする玉軸受外輪軌道面の超仕上加工方法が提供される。
【数6】
ただし、−Tse/2≦y≦+Tse/2とする。
【0017】
さらに本発明によれば、前記またぎ寸法TsまたはTseを有する柱状砥石を保持し、玉軸受内外輪軌道面の超仕上加工に用いられる砥石ホルダにおいて、前記柱状砥石を前記玉軸受内輪または外輪となるワークの回転方向に対向するように形成された砥石案内面と、該砥石案内面に前記柱状砥石を弾性体を介して押し付ける手段とを有する砥石ホルダが提供される。
【0018】
また本発明の他の形態によれば、上記の玉軸受内輪軌道面の超仕上加工方法において、またぎ寸法Tsを有する前記柱状砥石の代りに、該柱状砥石と同等の先端部形状をもつ柱状押圧治具と、前記玉軸受内輪軌道面と前記柱状押圧治具との間に挟み込まれて伸張する研磨テープとを用い、前記玉軸受内輪を軸線まわりに回転させながら、前記柱状押圧治具を前記研磨テープを介して前記内輪軌道面の断面円弧半径方向に押圧しつつ、上記玉軸受内輪軌道面の超仕上加工方法における前記柱状砥石の揺動中心軸線と同じ軸線まわりに前記柱状押圧治具を前記研磨テープと一体で揺動させることを特徴とする研磨テープを用いた玉軸受内輪軌道面の超仕上加工方法が提供される。
【0019】
また本発明の他の形態によれば、上記の玉軸受外輪軌道面の超仕上加工方法において、またぎ寸法Tseを有する前記柱状砥石の代りに、該柱状砥石と同等の先端部形状をもつ柱状押圧治具と、前記玉軸受外輪軌道面と前記柱状押圧治具との間に挟み込まれて伸張する研磨テープとを用い、前記玉軸受外輪を軸線まわりに回転させながら、前記柱状押圧治具を前記研磨テープを介して前記外輪軌道面の断面円弧半径方向に押圧しつつ、上記玉軸受外輪軌道面の超仕上加工方法における前記柱状砥石の揺動中心軸線と同じ軸線まわりに前記柱状押圧治具を前記研磨テープと一体で揺動させることを特徴とする研磨テープを用いた玉軸受外輪軌道面の超仕上加工方法が提供される。
【0020】
また本発明によれば、内輪と外輪との間に複数個の転動体(玉)が介在された玉軸受において、前記内輪または外輪の少なくとも一方が[軸受玉数−1]角及びこれよりうねり周期が短いすべての軌道面うねりの振幅が片振幅で1nm(ナノメータ)未満で形成されている玉軸受が提供される。
【0021】
【作用】
本発明では、玉数Zの玉軸受における(nZ±1)角のうねり振幅を修正するため、(Z−1)角をまたぐ軸受円周方向のまたぎ長さを持つ柱状砥石によって超仕上加工を行うことを特徴としている。ここでnは自然数である。玉軸受内外輪の(nZ±1)角は軸受半径方向の振動を大きくするうねり成分である。したがって(nZ±1)角のうねり振幅を小さくするのが本発明の目的であり、この角の頂点を円周方向にまたいで、最もうねり周期の大きな(Z−1)角以上の山を選択的に超仕上により修正する。図1は玉数が7個の場合について玉軸受内輪(ワーク)1と砥石3のまたぎ状態を模式的に示したものである。20は軸受内外輪間に介在される玉である。図中のTsがこの場合のまたぎ寸法であり、前述の式(2)で特定される。
【0022】
【発明の実施の形態】
次に、本発明を好適な実施形態について図面を参照して説明する。まず被加工物である玉軸受内輪の軌道面の超仕上加工について説明する。
内輪軌道面と砥石の接触状態について
玉軸受内輪の軌道面を揺動する柱状砥石で超仕上加工する場合には、前記砥石は砥石全面が常に軌道面に接触しつつ加工することは不可能である。図2は砥石3とワークとなる内輪1の外周軌道面の接触状態を例示した図であり、砥石が揺動するに従って砥石3と前記ワークの接触状態が変化する様子を同図(A)から(C)まで段階的に表している。ここでは長方形断面の角柱砥石3の先端が同図(A)の直立状態から図中左方向に振れて、同図(B)の状態を経て、同図(C)の揺動振り角が最大状態となるまでを砥石揺動振り角0°(直立)時の砥石押圧方向から、つまりワーク上面から見た図と、これに該当するワーク円周方向の砥石中央位置(F−F線)における砥石断面図を示してある。なお、図2の「ワーク上面」を示す図では砥石は説明上図示省略してある。
【0023】
図2において、太線は揺動運動する砥石が通過しながらワーク1の軌道面に接触する「線当り」位置を示し、平行斜線で示された範囲は砥石揺動振り角が最大の瞬間においてのみ砥石が軌道面に広い面積で接触する「面当り」範囲を示している。ここで前記線当りとは、砥石の揺動軸中心から最も近いワーク表面を結んだ線を示し、前記面当りとは、砥石作用面上で軌道面と線当りしない部分に対して砥石揺動振り角最大時における軌道面形状が転写されて出来た砥石の形状が、再び振り角最大時に軌道面に接触する範囲を示す。
【0024】
砥石とワークの接触状態は、砥石が反対方向に揺動した場合の最大振り角位置では図2で軌道面底部の縦中央面(軸受軸線に垂直な軌道面底部中央面)に対し対称の形状となる。また途中の振り角位置では砥石位置に相応した範囲で線当りのみ生じる。
【0025】
図3は図2における砥石揺動振り角最大時の砥石と内輪軌道面の接触状態を詳しく説明した図であり、図4は内輪軌道面に対する円弧中心Orと砥石揺動軸心Osとの関係を示した図である。図3は長方形断面の角柱砥石の先端が図中左方向に振れて、揺動振り角最大での接触状態を砥石揺動振り角0°(直立)時の砥石押圧方向から、つまり上面から見た図を示してある。なお、砥石は説明上図示省略してある。図2と同様に、図中で太線は揺動運動する砥石が通過しながら軌道面に接触する「線当り」位置を示し、平行斜線で示された範囲は砥石揺動振り角が最大の瞬間においてのみ砥石が軌道面に接触する「面当り」範囲を示している。なお、図中には玉軸受で転動体(玉)が軌道面と接触する位置(以下玉接触位置という)と軌道面底部及びワーク回転中心線Cが一点鎖線で記入してある。また、図上基礎となる点と座標軸X−Yを記入してある。Fが上述の玉接触位置であり、Gが軌道面底部である。
【0026】
接触状態図について
図3に示された砥石と内輪軌道面の接触状態は、砥石の面当り範囲が玉接触範囲を含み、円周方向またぎ長さが目的とする真円度多角うねりを覆う、本発明の効果を得るための理想的な状態である。
【0027】
内輪軌道面はその最大直径をDo、幅をBwとし、断面円弧半径をrwとする。また超仕上用砥石の断面形状(角柱砥石の長さ方向に直角な断面形状)は長方形で、またぎ寸法をTs、砥石幅(内輪軸方向に平行な幅)をBs(図3では図示省略)とする。図4に示すように、砥石揺動軸の軸心Osは内輪軌道面断面円弧中心Orからδsだけ軌道面方向にずれて位置し、最大砥石揺動振り角θsが与えられ、軌道面断面円弧半径rwより小さい揺動半径で内輪軸線を含む平面内(垂直平面内)で前記Osを中心に揺動させる。
図3を参照して、作図上、座標原点Oを内輪の縦横中心線の交点とし、内輪および砥石の幅方向をX、砥石のまたぎ方向をYとする。また図上基礎となる点をそれぞれp1、p2、p3、p4およびp5とし、p4またはp5を含む曲線を各々f4、f5とする。
【0028】
本発明の効果を得るためには、砥石またぎ方向の長さがTsなる面当り範囲が、軌道面上の玉接触位置を含むことが必要である。また同時に軌道面断面形状の悪化を起こさない様、各々の面当り範囲の大きさを調整する必要が有る。図中の面当り範囲α1、α2及びβを適切な大きさとするためには、砥石またぎ寸法Tsおよび面当り範囲α1、α2の境界線となるf4と、面当り範囲βの境界線、つまり曲線f5の位置と境界線を決定する点であるp1、p2の座標が重要である。
【0029】
点p1およびp2は線当り即ち砥石揺動軸中心から最も近い内輪軌道面上の点を結んだ線の節点であり、二つの点の間は直線で結んで差し支えない。p1およびp2のX座標は図より明らかであるが、Y座標は砥石揺動軸心と軌道面断面円弧中心の距離δsを変数とした関数であり、δsを大きくすることによりp1およびp2のY座標は大きくなる。即ち軌道面の幅方向中央でY方向に伸びる線当りを示す線分が長くなると共に、面当り範囲βはY方向に広がる。δsが0の場合は砥石揺動軸中心と軌道面断面円弧中心が一致してp1およびp2のY座標は0となり、面当り範囲βは消滅するが、p1とp2間およびp1とp5間の線当りは残る。δsが負の場合はこれらの線当りも消滅し、砥石と軌道面の当りは不安定になる。
【0030】
前記曲線f4は砥石揺動振り角最大時の砥石幅方向中央の母線位置であり、線当りを示す直線と共に、面当り範囲α1、α2の境界線となる。f4位置は最大砥石揺動振り角θsによる関数であり、θsが大きいとα1、α2は幅が小さくなる。
【0031】
曲線f5は砥石揺動振り角最大時における砥石作用面上の幅方向側面位置であり、線当りを示す図中の太い直線とともに、面当り範囲βの境界線となる。f5位置は最大砥石揺動振り角θsと砥石幅Bsによって決まる関数であり、θsが大きいほど、Bwが小さいほどf5は軌道面の縦中央線に近くなり、従ってβ範囲の幅は小さくなる。
以上により砥石と内輪軌道面の接触状態図を説明した。以下で本発明による最適接触状態を実現するための超仕上パラメータを説明する。
【0032】
内輪軌道面の超仕上パラメータについて
図3で長方形断面形状の柱状砥石のまたぎ寸法Tsは、内輪軌道面内最大円周上で目的とする真円度角数のうち最大の波長を有するもの、即ち[玉数−1]角のうねり波長に対する弦の長さを基に設定する。砥石またぎ寸法Tsは以下の式(2)で表す範囲が適正である。
【0033】
【数7】
ここで、Doは内輪軌道面内の最大直径(多くの場合内輪外径寸法)、Zは玉数である。砥石またぎ寸法は注目する真円度角数うねりを修正するために適正な範囲にとって、軌道面断面円弧形状の崩れを最小限に抑える必要がある。なぜならば、玉軸受軌道面の超仕上では、軸受回転軸を含み砥石揺動軸と垂直に交わる平面内でのみ、砥石揺動運動の軌跡となる円弧と、軸受内外輪軌道面の円弧が一致するため、この面から離れた位置で砥石揺動させることは玉軸受内外輪軌道面の断面円弧形状精度を著しく悪化させる要因となるからである。従って上述のまたぎ寸法Tsは小さい方が前記軌道面の断面円弧半径と砥石軌跡との違いが少なく望ましいが、またぎ寸法Tsが上記(2)式の下限を下回ると、うねりの頂点間距離より短くなり過ぎて本発明の目的であるうねり修正が困難となる。Do・sin180°/(Z−1)=Tsがうねりの頂点を丁度またぐ寸法であって、うねりの片振幅の修正に対して理論的には好ましい値であるが、図1に示す砥石幅方向両端部が薄くなって砥石が欠け易くなるので、仮に欠けても上述の理論上のまたぎ寸法を補償するため(2)式の上限を定めた。
【0034】
最大砥石揺動振り角θsは玉接触位置での軌道面断面円弧形状の精度を維持するため、玉と軌道面の接触角(以下玉接触角という)θc近傍とする。最大砥石揺動振り角θsは玉接触角θcの80%ないし200%の範囲が適正である。80%未満では、内輪軌道面の溝形状を軸受の接触角範囲にわたって充分な超仕上加工ができない。理論的には100%であれば良いが、超仕上前の内輪の軌道面溝形状の製作誤差、加工上の内輪取付誤差などを考えて砥石保持部材(砥石ホルダ)が干渉し加工に不具合を生じない範囲であれば、200%と余裕をもって設定するのが良い。
【0035】
玉軸受軌道面のうち特に玉接触位置近傍における真円度精度が重要である。本発明では砥石作用面の接触範囲内の平均化効果を利用して軸受内外輪表面を修正するのであるから、面当り接触範囲βが玉接触位置を含む必要がある。従って砥石幅は小さすぎると玉接触位置の真円度うねりが修正されず、大きすぎると砥石最大揺動振り角時に砥石が軌道面幅内に収まりきらず加工精度に悪影響を及ぼす。砥石幅Bsは内輪軌道面の幅Bwに対し80%ないし150%の範囲が適正である。本発明の最大砥石振り角θsの範囲では80%未満になると、砥石先端の振れ方向と反対側の当り面(β)のX方向の幅が小さくなり、内輪軌道面のうねりを修正することが困難となり、150%を超えると、この振れ方向反対側の内輪軌道面の溝からはみ出た部分の砥石が振動を起して加工精度を悪化させる。
【0036】
軌道面断面円弧形状の悪化を防ぐために、砥石揺動軸と軌道面断面円弧中心の距離δsを変更し、図3における軌道面幅中央部の線当りO−p1の長さ、即ち面当りβの円周方向範囲を調整する。δsが過大では軌道面断面円弧の中央部Gが過度に除去されて凹み、δsが過小では同円弧の中央部Gが除去されずに盛り上がって残る、または目的とする軌道面真円度のうねり角数が修正されない。後述の図15にも例示するように、例えば溝底での円周方向当り長さが長くなると、溝底が過度に除去されて溝形状がくずれる。しかがってδsは内輪軌道面の断面円弧半径rwに対し0ないし10%の範囲が適正である。
以上により本発明による最適接触状態を実現するための超仕上パラメータを説明した。
【0037】
次に、本発明の他の実施形態、即ち玉軸受外輪軌道面の超仕上加工の場合について説明する。
外輪軌道面と砥石の接触状態について
加工中の外輪軌道面と砥石の接触状態は図5に示されている。図5は長方形断面の角柱砥石が揺動振り角最大状態で外輪軌道面に接する状態を、砥石揺動振り角0°(直立)時の砥石押圧方向から見た平面図であり、ここでは図3と同様砥石は図示省略してある。なお外輪2は断面で示してある。図6は外輪軌道面に対する円弧中心と砥石3の揺動中心軸心との関係を示した図である。図5中、太線は揺動運動する砥石が通過しながら外輪軌道面に接触する「線当り」位置を示し、平行斜線で示された範囲は砥石揺動振り角が最大の瞬間に砥石が軌道面に接する「面当り」を示す。図5においては図3と同様に玉軸受で玉が外輪2の軌道面と接する位置、即ち玉接触位置Fと軌道面底部G及びワーク回転中心線Cが一点鎖線で示されている。
【0038】
接触状態図について
図5に示される砥石と軸受外輪軌道面の接触状態は、砥石の面当り接触範囲が玉接触位置を含み、円周方向接触長さが目的とする真円度多角うねりを覆う、本発明の効果を得るための理想的な状態である。また、長方形断面の砥石の作用面は最大揺動振り角時にすべて軌道面内に収まっている。超仕上パラメータを説明する前に、砥石と外輪軌道面の接触状態図を説明する。
【0039】
外輪軌道面はその最大直径をDe、幅をBweとし、断面円弧半径をreとする。また超仕上用砥石の断面形状は長方形で、またぎ寸法をTse、幅(外輪軸方向に平行な幅)をBseとする。図6に示すように、砥石揺動軸の軸心Oseは外輪軌道面断面円弧中心Oreからδseだけ外輪の回転軸心方向にずれて位置し、最大砥石揺動振り角θseが与えられ、軌道面断面円弧半径reより大きい揺動半径で外輪軸線を含む平面内(垂直平面内)で揺動させる。
図5を参照して、図上、座標原点Oを外輪の縦横中心線の交点とし、外輪及び砥石の幅方向をX、砥石のまたぎ方向をYとする。また作図上基礎となる点をp6、p7、p8、p9およびp10とし、p8を含む曲線をf8、p9及びp10を含む曲線をf9とする。
【0040】
本発明の効果を得るためには、砥石またぎ方向の長さがTseなる面当たり範囲が軌道面上の玉接触位置を含むことが必要である。また同時に軌道面断面形状の悪化を起こさない様、各々の面当り範囲の大きさを調整する必要がある。図中の面当り範囲γおよびε1、ε2を適切な大きさとするためには、外輪の場合の砥石またぎ寸法Tseと、面当り範囲γの境界線となる曲線f8と境界線を決定する点p6及びp7の座標と、面当り範囲ε1、ε2の境界線となる曲線f9の位置が重要である。
【0041】
p6およびp7は線当り即ち砥石揺動中心から最も近い外輪軌道面上の点を結んだ線の節点であり、二つの点の間は直線で結んで差し支えない。p6およびp7のX座標は図より明らかであるが、Y座標は砥石揺動軸心と軌道面断面円弧中心の距離δseを変数とした関数であり、δseを大きくすることによりp6及びp7のY座標は大きくなる。即ち面当り範囲γはY方向に広がる。δseが0の場合は砥石揺動軸中心と軌道面断面円弧中心が一致してp6およびp7のY座標は0となり、面当り範囲γは消滅するが、p6とp7間およびp6とp9間の線当りは残る。δseが負の場合はこれらの線当りも消滅し、砥石と軌道面の当りは不安定になる。
【0042】
曲線f8は砥石揺動振り角最大時の砥石幅方向中央の母線位置であり、線当りを示す直線と共に、面当り範囲γの境界線となる。f8位置は最大砥石揺動振り角θseによる関数であり、θseが大きいとf8位置は外輪軌道面端に近くなり、面当り範囲γは幅が小さくなる。
【0043】
曲線f9は砥石揺動振り角最大時の砥石作用面上の幅方向側面位置であり、線当りを示す直線とともに、面当り範囲ε1およびε2の境界線となる。f9位置は最大砥石揺動振り角θseと砥石幅Bseによって決まる関数であり、θseが大きいほど、Bseが小さいほど曲線f9は軌道面縦中央線に近くなり、面当り範囲ε1およびε2のX方向の幅は小さくなる。
以上により砥石と外輪軌道面の接触状態を説明したので、以下で本発明による最適接触状態を実現するための超仕上パラメータを説明する。
【0044】
外輪軌道面の超仕上パラメータについて
外輪軌道面に対する超仕上砥石またぎ寸法Tseは次式(3)の範囲が適正である。
【数8】
ここでDeは外輪軌道面内の最大直径、即ち軌道面底部の直径であり、Zは軸受の玉数である。外輪超仕上の場合、砥石またぎ寸法が大きくなり外輪軌道面と砥石揺動軸との交点を結んだ線分長さ以上になると、砥石は揺動運動が出来なくなる。図7は砥石が外輪軌道面に振り角0°(直立)で接触している状態を側面から見た断面図である。これを基に砥石またぎ寸法の大きさを砥石揺動軸Oseと外輪軌道面断面円弧中心Oreを一致させて近似的に導いた以下の式(4)により制限する。
【数9 】
ここでreは外輪軌道面の断面円弧半径である。
上述のまたぎ寸法Tseは小さい方が前記軌道面の断面円弧半径と砥石軌跡との違いが少なく望ましいが、またぎ寸法Tseが上記(3)式の下限を下回ると、うねりの頂点間距離より短くなり過ぎて本発明の目的であるうねり修正が困難となる。De・sin180°/(Z−1)=Tseがうねりの頂点を丁度またぐ寸法であって、うねりの片振幅の修正に対して理論的には好ましい値であるが、外輪軌道面溝加工の場合、外輪内径に挿入できる砥石の大きさの制限を受けるので、またぎ寸法を充分与えてうねりの修正機能を確保するため(3)式の上限とした。ただしTseの上限は砥石の揺動上、(4)式の制限を受けるので、この値を上限とした。
【0045】
最大砥石揺動振り角θseは、軸受外輪の内側に挿入し揺動運動させる砥石保持の為の治工具と外輪の干渉が生じない範囲で、玉接触角θcの近傍とする。最大砥石揺動振り角θseは玉接触角θcの50%ないし200%の範囲が適正である。この砥石揺動振り角θseは、軸受の外輪内径が小さくなると、この中に挿入される砥石保持部材も小さくせざるを得ず、揺動角もスペース上の制限を受け小さくせざるを得ず、内輪より小さな50%を下限とする。また、揺動振り角は可能な限り大きい方が外輪軌道面のうねり修正機能上からは望ましいので、上限は200%とする。
【0046】
図5の外輪軌道面に対して、砥石の面当り接触範囲ε1およびε2は玉接触位置を含む必要がある。砥石幅が小さすぎるとε1およびε2が玉接触位から外れると真円度うねりは修正されず、砥石幅が大きすぎると砥石最大振り角時に砥石が軌道面幅内に収まりきらず、砥石先端の振れ方向と反対側の外輪軌道面溝からはみ出た部分の砥石が欠け易く、軌道面を傷付けるおそれがあり、加工精度に悪影響を及ぼす。砥石幅Bseは外輪軌道面の幅Bweに対し80%ないし150%の範囲が適正である。
【0047】
軌道面断面円弧形状の悪化を防ぐため、即ち図5中の点p6座標と共に面当り範囲γの大きさを調整するために、砥石揺動軸心Oseと軌道面断面円弧中心Oreの距離δseを調整する。δseが過大では軌道面断面円弧の中央部が除去されずに盛り上がって残り、δseが過小では同円弧の中央部が過度に除去されて凹む、または軌道面全体に砥石が当たらずに前加工面が残る。δseは外輪軌道面の断面円弧半径reに対し0ないし10%の範囲が適正である。
【0048】
一方、砥石断面形状(砥石伸長方向に対して直角な横断面形状)を上述の長方形ではなく樽型として、砥石揺動振り角が最大時に砥石幅方向の側面を外輪軌道面の端と一致させる、即ち図5における曲線f9を軌道面端と一致させることにより、砥石と外輪軌道面の接触効率を向上させることが可能である。図8(a)の樽型砥石は砥石幅Bsyをまたぎ方向中央位置OneからのY方向変位を変数とする関数の式(5)を基に得られる本発明による最適な砥石形状である。
【数10】
ここでDeは外輪軌道面内の最大直径(多くの場合外輪溝径寸法)、reは軌道面断面円弧半径、poは軌道面の深さ、θseは最大砥石揺動振り角、Bweは軌道面の幅である。当然yはまたぎ寸法Tseに対し、−Tse/2≦y≦+Tse/2の範囲をとる。
また、砥石断面形状を図8(a)の砥石幅方向側面を構成する曲線を直線近似した多角形とすることにより砥石3の製造が容易となる。同図(b)あるいは(c)はその例である。いずれも砥石3の両側面はまたぎ方向中央線に対し対称に形成されている。
【0049】
次に、本発明を実施する場合の砥石ホルダ及びワーク保持構造を玉軸受内輪を例にとって説明する。
図9は本発明の実施例に係る玉軸受の内輪軌道面を超仕上加工する装置のワーク装着部分の側面断面図である。リング状のワーク1は玉軸受内輪であり、ワーク主軸装置10に装着されたバッキングプレート4の端部とプレッシャプレート5との間にワーク1が挟圧されて保持され、前記主軸装置10の駆動によりワーク1とバッキングプレート4およびプレッシャプレート5が一体で主軸軸線まわりに回転する。なおワーク1を軸線方向に固定する手段としては図示のプレッシャプレート5以外に例えばプレッシャロールなども採用され得る。ワーク1は径方向には該ワーク内に挿入されるシュー6によって支持され、シュー6上のワーク1の中心と主軸バッキングプレート4の中心の間に適当な大きさの偏心を持たせることにより、回転中のワーク1は常にシュー6に対して押し付けられた状態となっている。図9の実施例ではシュー6はワーク1の内径を支持する構成となっているが、ワーク1の外径部を支持する構造でも良く、またチャックなどでワーク1を主軸装置10の回転主軸に固定することもできる。
【0050】
後述する砥石ホルダ7は、ワーク軌道面断面円弧中心の近傍を軸心として主軸装置の主軸軸線を含む垂直平面内で適切に設定された振り角θsで揺動運動する。これと同時に砥石3は、図9には図示しない加圧ピストンによりワーク軌道面断面円弧の半径方向に押圧され(加圧力Fs)、これによってワーク軌道面は砥石3の先端作用面で超仕上加工される。なおワーク1はバッキングプレート4の端部位置まで図示しない供給装置により自動的に1個ずつ供給され、超仕上加工の終了したワークは自動的に排出されるとともに次ワークが自動的に供給され、このサイクルを繰り返す。
【0051】
図10は本発明の実施例に係る砥石ホルダの縦断面図であり、ワーク1の内輪軌道面に対して砥石ホルダ7の先端に保持された砥石3が垂直に押し当てられている状態を示している。図10を参照すれば、砥石ホルダ7は内部に柱状砥石3を収容するように貫通する角穴が形成され、外側部の下部に大径フランジ部11を有し、このフランジ部11の外周に所定深さの切欠き12が形成されている。切欠き12はその片側部でホルダ角穴部と連通しており、このフランジ部外周の切欠き部位置にOリング9が或る程度の張力を有して装着されている。図11は図10のX−X面で切断した断面図である。図11を参照して、柱状砥石3は砥石ホルダ7の角穴内に或る隙間をもって挿入されるが、角穴部に通じる切欠き部位置で砥石3の片側部がOリング9に接当しかつ該Oリング9の張力により、柱状砥石3は砥石ホルダ7内の角穴部の反対側砥石案内面8に常に弾性的に押し付けられている。
【0052】
砥石またぎ寸法はワーク1の内輪軌道面真円度の注目する角数うねりの波長を覆うように設定されるため、柱状砥石3とワーク1は大きな円弧で接する。砥石3は回転するワーク1に引きずられてワーク円周方向に振動しやすく、砥石作用面形状がワーク1の軌道面の曲面と誤差を生じて摩耗する恐れがある。これを防止するために、図10に示す如く、砥石案内面8はワーク1の回転方向に対向する側に形成されており、これによって砥石3は砥石ホルダ7の角穴部砥石案内面8に対して常時弾性的に押し当てられた状態で使用される。砥石ホルダ7は大径フランジ部11より上部分がスリーブ13に嵌挿され、該スリーブ13内に設けられた加圧ピストン14により空圧付加手段などを介して砥石3がワーク1の軌道面に押し付けられる。
【0053】
次に本発明による超仕上加工パラメータの設定例を示す。まず実施例の玉軸受は直径2mmの玉7個を接触角17°で有する構成としており、ワークとなる軸受内輪軌道面の最大直径は7.5mm、最小直径は7mm、幅は1.1mmである。軌道面断面円弧半径は玉半径と同じとする。
図12は従来の加工条件により超仕上加工された軸受内輪軌道面の玉接触部の真円度測定結果を示した図である。従来条件における砥石またぎ寸法は2.3mm(0.613De・sin180°/(Z−1)=0.613×3.75)である。同図(A)はうねり状態つまり内輪軌道面の玉接触部全周を拡大して示した図、同図(B)は真円度ハーモニクス解析を示している。図12(B)でUPRとあるのは1回転当りの山数(角数)であり、縦欄の0,5,10,15…はNの値を示している。真円度の測定はランクテーラーホブソン社のタリロンド73を使用した。図中の真円度ハーモニクス解析結果は真円度各角成分の片振幅をμm単位で表示してある。同図(B)中、横線で数値が記入されていない角数成分の片振幅は0.001μm、即ち1ナノメータ未満であることを示す。本例で目的とされる角数は玉数である7の自然数倍±1角、つまり(N±1)角、即ち6、8、13、15、……角であるが、各々4、3、1未満、1、……ナノメータの片振幅が測定されている。
【0054】
本発明による好適な内輪軌道面の超仕上加工パラメータ、即ち内輪軌道面に対する超仕上砥石の寸法、最大砥石揺動振り角および砥石揺動中心位置を決定する。なお本例では柱状超仕上砥石の断面形状を長方形としているが、これは別の任意断面形状であってもよい。砥石のまたぎ寸法Tsは、既に述べた式(2)により求められる。ここで式(2)中の係数を1.1とし、Doに7.5mm、Zに7を代入すると、Ts=4.1mmが得られる。また最大砥石揺動振り角θsは玉接触角θc=17(deg.)に対して120%を適用し、θs=20(deg.)とする。
【0055】
砥石幅を設定する際に本発明における適正範囲よりも小さすぎる値、即ち砥石幅Bsを内輪軌道面の幅Bw=1.1mmに対して70%としてBs=0.8mmを与え、既に設定したTs=4.1mmとθs=20(deg.)および後述のδs=0.05mmを用いて超仕上加工した内輪軌道面の玉接触部真円度測定結果を図13に示す。同図(B)のハーモニクス解析結果によれば、目的とする真円度角数うねり即ち6、8、13、15、……角は各々2、4、1未満、1未満、……ナノメータであり十分に修正されていない。
次に、砥石幅を本発明の適正範囲とした場合を説明する。砥石の幅方向側面が砥石振り角最大時にすべて軌道面内に収まる範囲で大きくした砥石幅、即ち内輪軌道面の幅に対して120%である砥石幅Bs=1.3mmを上述の条件に加えることによって得られた内輪軌道面の玉接触部真円度測定結果を図14に示す。図14(A)は内輪軌道面の玉接触部全周を拡大して示したである。同図(B)のハーモニクス解析結果によれば、目的とする真円度角数うねり即ち6、8、13、15、……角の片振幅は数秒の加工時間内にすべて1ナノメータ未満に修正されており、注目する[玉数−1]角以上のすべての角数うねりを選択的に極めて高精度に仕上げることができた。
【0056】
砥石揺動軸の軌道面断面円弧中からの軸心の距離δsを設定する際に本発明における適正範囲よりも大きすぎる値、即ちδsが内輪軌道面半径rw=1mmの15%つまりδs=0.15mmを既に設定したTs=4.1mm、θs=20(deg.)とBs=1.3mmと共に用いて超仕上加工した内輪軌道面の断面円弧形状を図15に示す。同図は軌道面断面円弧形状を単一円弧に近似した際の誤差を縦方向の凹凸で表し、図の横軸と平行な線より下方向へ凹んだ部分は目標よりも多く加工されたことを示す。また横軸方向は軌道面の幅方向を示し、ここでは軌道面の幅すべてが表示されている。図15によれば、内輪軌道面の幅方向中央部は目標よりも多く加工されて凹んでいる。
次に、砥石揺動軸の軌道面断面円弧中からの軸心の距離δsを本発明の適正範囲である、内輪軌道面半径rwに対し5%のδs=0.05mmとした場合の超仕上加工では、図16に示される内輪軌道面の断面円弧形状が測定された。図15と同様に横軸上に軌道面の全幅を表示してある。図16に示される軌道面断面円弧形状は単一円弧からの誤差が少なく良好である。また同時に測定された軌道面玉接触部の真円度測定結果は前記図14の通りであり、目的とする真円度角数のうねりは極めて高精度に仕上げられている。
【0057】
図17は本発明の他の実施例に係る超仕上加工装置によって軸受内輪軌道面の超仕上を行う状態を示した斜視図である。この実施例では図9〜図11のような柱状砥石を用いず、代りに先端が前記柱状砥石の先端円弧形状と同じ形状をなす柱状押圧治具15と、該押圧治具15の先端に密着される研磨テープ16が用いられる。研磨テープ16の片面、即ち研磨作用面には前述した砥石の砥粒サイズ、砥粒密度と同等な研磨材が付着されている。研磨テープ16は柱押圧治具15の両側に配置された支持ロール17に掛け渡されて押圧治具15の先端に一体的に張り付くように張力が与えられており、柱状押圧治具15を回転するワーク1に向けて押し付けながら、押圧治具15、研磨テープ16および支持ロール17が一体でワーク1の軌道面断面円弧中心の近傍の軸心位置15a(この軸心位置については図4、図6に関して既述した)を中心に揺動することにより、ワーク軌道面の超仕上加工がなされる。
【0058】
ワーク軌道面に対する柱状押圧治具15のまたぎ寸法、該治具先端の幅寸法、揺動振り角等は柱状砥石で既に述べた事項が適用される。研磨テープ16の作用面が磨耗した場合は該テープ16を長さ方向に所定量移動(インデックス)させることで押圧治具先端に新たな超仕上作用面を形成する。図示しないテープ供給部に巻かれた充分長い研磨テープを繰り出していくことにより、砥石の場合よりも取り付け、取り外しの交換頻度が少なく、その分加工能率が向上する。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明により求めた柱状超仕上砥石の断面寸法と、最大砥石揺動振り角および揺動軸と軌道面断面円弧中心の距離を適用することにより、玉軸受の内外輪軌道面で注目される真円度の玉数の自然数倍±1角のうねり成分を、軌道面断面円弧形状の崩れを起こさずに、極めて高精度に超仕上加工することができ、これによって上記玉軸受を組み込んだ主軸の非同期回転振れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】玉数が7個の場合について玉軸受内輪と砥石のまたぎ状態を模式的に示した図である。
【図2】砥石と内輪軌道面の接触状態の変化を例示した図である。
【図3】砥石揺動振り角最大状態で砥石と内輪軌道面の接触状態を例示した図である。
【図4】内輪軌道面に対する円弧中心Orと砥石の揺動軸心Osとの関係を示した図である。
【図5】砥石揺動振り角最大状態で長方形断面の砥石と外輪軌道面の接触状態を例示した図である。
【図6】外輪軌道面に対する円弧中心Oreと砥石の揺動軸心Oseとの関係を示した図である。
【図7】砥石と外輪軌道面の接触状態を外輪側面から見た断面図である。
【図8】外輪軌道面を超仕上する樽型あるいは樽型近似砥石の断面形状を示した図である。
【図9】本発明の実施例に係る玉軸受の内輪軌道面を超仕上加工する装置のワーク装着部分の側面断面図である。
【図10】本発明の実施例に係る砥石ホルダの縦断面図である。
【図11】本発明の実施例に係る砥石ホルダの横断面図である。
【図12】従来の超仕上加工方法による軸受内輪軌道面の玉接触位置の真円度測定結果を示す図である。
【図13】本発明を適用するが砥石幅が不適切な条件で超仕上加工した内輪軌道面の玉接触位置の真円度測定結果を示す図である。
【図14】本発明を適用して適切な条件により超仕上加工した軸受内輪軌道面の玉接触位置の真円度測定結果を示す図である。
【図15】本発明を適用するが砥石揺動軸心の位置が不適切な条件で超仕上加工した内輪軌道面の断面円弧形状の測定結果を示す図である。
【図16】本発明を適用して適切な砥石揺動軸心の位置で超仕上加工した内輪軌道面の断面円弧形状の測定結果を示す図である。
【図17】本発明の他の実施例に係る玉軸受の内輪軌道面を研磨テープにより超仕上加工する装置のワーク装着部分の斜視図である。
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
3 柱状砥石
4 バッキングプレート
5 プレッシャプレート
6 シュー
7 砥石ホルダ
8 砥石案内面
9 Oリング
10 ワーク主軸装置
11 フランジ
12 切欠き
13 スリーブ
14 加圧ピストン
15 柱状押圧治具
16 研磨テープ
17 支持ロール
Claims (1)
- 玉軸受軌道輪を軸線まわりに回転させながら、前記軌道輪の軌道面の断面円弧中心から該軸線に垂線を下す方向に該断面円弧の半径寸法の0ないし10%だけ該断面円弧中心より離れた位置で、前記軌道輪の回転軸線に対して直角方向にのびる砥石揺動軸線を中心に、この揺動軸線方向にとった「またぎ」寸法が以下の式(1)の範囲のT、
ただし前記(1)式で、Zは前記軸受の玉数、Dは軸受軌道輪の軌道面の内で最大直径寸法であり、前記軸受軌道輪が内輪の場合は砥石またぎ寸法にTs、内輪軌道面内の最大直径寸法である内輪外径寸法にDoを、また外輪の場合は砥石またぎ寸法にTse、外輪軌道面内の最大直径寸法である外輪溝径寸法にDeをそれぞれ前記Tおよび前記Dの代りに用いる。
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