JP4282015B2 - 希土類焼結磁石の製造方法、焼結体 - Google Patents

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Description

本発明は、Nd−Fe−B系に代表される希土類焼結磁石を製造する際に用いられる原料粉体に関し、特に原料粉体を顆粒化することにより、磁場中成形時の金型への充填性を向上させて高い生産性を得るとともに、希土類焼結磁石の小型化への対応を容易にすることのできる技術に関するものである。
希土類焼結磁石を製造する際、焼結に供する原料粉末を微細化することにより飽和磁束密度及び保磁力等の磁気特性を確保している。ところが、原料粉末の微細化は、成形体の寸法精度、生産性を阻害する要因となる。
原料粉末は磁場中での加圧成形により成形体を構成する。この磁場中成形において、静磁場又はパルス磁場を印加して原料粉末の粒子を配向させる。この磁場中成形時、原料粉末が微細であるほどその流動性が悪く、金型への充填性が問題となる。粉末の金型への充填性が劣ると、金型へ粉末を十分に充填することができないために成形体の寸法精度が得られない、あるいは金型への充填自体に時間がかかって生産性を阻害するという問題がある。特に薄肉形状や複雑形状の成形体を精度よくかつ効率的に作製することは困難である。
原料粉末の流動性向上の手段の一つとして原料粉末の顆粒化が試みられている。例えば、特開平8−107034号公報(特許文献1)および特開平8−88111号公報(特許文献2)は希土類金属粉末にバインダを添加したスラリをスプレードライすることにより顆粒化する提案を行っている。
また、特公平7−6025号公報(特許文献3)は、希土類金属粉末に磁界を印加して顆粒化する提案を行っている。
特開平8−107034号公報 特開平8−88111号公報 特公平7−6025号公報
特許文献1及び2によれば、顆粒を作製することにより流動性を向上することができる。しかし、一次合金粒子同士を例えばPVA(ポリビニルアルコール)といったバインダで結着しているため、一次合金粒子同士の結着力が比較的強い。このように結着力の強い顆粒を磁場中成形に供しても、各一次合金粒子を配向させることは容易ではない。したがって、得られる希土類焼結磁石は配向度が低く磁気特性、特に残留磁束密度(Br)が低いものとなる。また、バインダに含まれる炭素が磁気特性低下の要因となることから、このバインダを除去する工程が必要となる。
特許文献3によれば、加圧体作製時の磁界印加工程および顆粒を金型に充填後、磁気特性を向上させるための交流磁界印加工程を要する。また、磁界を印加した顆粒であるため残留磁化による流動性の低下が懸念される。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、優れた流動性を有する顆粒を用い、成形体の寸法精度の向上及び生産性の向上を図るとともに、特性を大きく低下させることなく希土類焼結磁石を製造する方法等を提供することを目的とする。
上述したように、従来のバインダを用いる顆粒化技術では、バインダを溶解する溶媒として、また、一次合金粒子を分散する分散媒として、所謂有機溶媒を所定量含むスラリを作製していた。本発明者らは、この有機溶媒に着目した。その結果、バインダを用いず、有機溶媒のみで顆粒を作製することができ、この顆粒は金型充填時の流動性に優れること、さらに有機溶媒のみで作製されたこの顆粒は一次合金粒子同士の結着力が比較的弱いため、磁場中成形時に印加される磁場により一次合金粒子に分離して、良好な配向状態を実現できることを確認した。さらに、有機溶媒によって作製された顆粒から有機溶媒を除去し、顆粒を乾燥状態とした場合においても、顆粒の状態を維持できることを確認した。したがって本発明は、所定組成の一次合金粒子を有機液体で結着させることにより顆粒を作製する工程と、顆粒が乾燥状態となるまで有機液体を除去する工程と、有機液体が除去され、一次合金粒子同士がファンデルワース力のみで結着した顆粒を金型キャビティに投入する工程と、金型キャビティ内の顆粒に磁場を印加し、かつ加圧成形することにより成形体を得る工程と、成形体を焼結する工程と、を備え、有機液体は、エタノール、トルエン、カルビトール、メチルイソブチルケトン、イソブチルアルコール、テルペン系化合物、ブチルカルビトール、酢酸ブチルカルビトール、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブ、ターピネオール、シクロヘキサノールの1種又は2種以上から選択されることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法を提供する。顆粒が乾燥状態となるまで有機液体を除去するには、顆粒を減圧雰囲気に晒しても良いし、さらに、所定の温度に加熱された雰囲気(減圧であってもよい)に顆粒を晒しても良い。このための好ましい条件は、40〜80℃(10-1Torr以下)である。
なお、乾燥状態の顆粒とは、顆粒における有機液体の含有量が検出限界以下、すなわち概ね0%となるまで有機液体が除去された状態を言う。
本発明において、顆粒を作成する工程では、一次合金粒子に対して、有機液体を1.5〜15.0wt%添加することが望ましい。1.5wt%以下では、顆粒を効率よく作製することが困難な場合があるためであり、15.0wt%を超えると湿分が多すぎて、有機液体を完全に除去する作業に手間取るからである。
本発明における有機液体は、20℃における飽和蒸気圧が75mmHg(10.0kPa)以下、20℃における表面張力が20dyn/cm以上、20℃における粘度が0.35cp以上の特性を備えることが望ましい。有機液体を除去する工程までに、作製された顆粒の形態を維持するため、これら物性を具備することが望まれる。本発明における有機液体としては、エタノール、トルエン、カルビトール、メチルイソブチルケトン、イソブチルアルコール、テルペン系化合物、ブチルカルビトール、酢酸ブチルカルビトール、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブ、ターピネオール、シクロヘキサノールの1種又は2種以上から選択される望ましくは、エタノール、イソブチルアルコール、ブチルセロソルブ、ターピネオールである
また本発明は、R214B相(Rは希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素、TはFe又はFe及びCoを含む遷移金属元素から選択される1種又は2種以上の元素)を含む組成を有し、平均粒径が2.5〜6μmである一次合金粒子に適用することが望ましい。
本発明による顆粒は、金型キャビティへの迅速な投入を実現するために、有機液体が完全に除去された後の乾燥状態の顆粒において、安息角が53°以下であることが望ましい。
このような顆粒は、複数の粒子が、一次合金粒子と有機液体で構成された顆粒を作製し、この顆粒から有機液体が完全に除去された状態のものであることを特徴としている。このような顆粒、および顆粒を形成する粒子は、物質やその用途を特に限定する意図はないが、本発明は、粉末冶金に適用するのに適している。特に、希土類焼結磁石の製造工程において、希土類焼結磁石の原料となる所定組成を有した合金粒子を、有機液体で結着させ、顆粒化するのが有効である。
このような顆粒において、顆粒を構成する粒子は、有機液体が完全に除去された状態でファンデルワース力のみによって結着され、他の結着力を有するバインダ等の固体成分等によって結着されていない。
また、本発明は、所定組成の一次合金粒子を有機液体で結着させることにより顆粒を作製し、顆粒から液体を完全に除去した後、顆粒を金型キャビティに投入し、顆粒に磁場を印加し、かつ加圧成形することにより得られる成形体を焼結することで形成され、有機液体は、エタノール、トルエン、カルビトール、メチルイソブチルケトン、イソブチルアルコール、テルペン系化合物、ブチルカルビトール、酢酸ブチルカルビトール、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブ、ターピネオール、シクロヘキサノールの1種又は2種以上から選択されたものであることを特徴とする焼結体とすることもできる。この場合における液体としては、上記したような有機液体、さらには水等を用いることができる。
本発明によれば、有機液体により一次合金粒子を顆粒化した後に、この有機液体を完全に除去した顆粒を用いるため、脱バインダ処理を行う必要がなく、成形体の寸法精度を向上しつつ希土類焼結磁石の生産性を向上することが可能となる。また、顆粒を一旦作製した後に、有機液体を除去することにより、磁気特性の向上に寄与する。
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本発明では、有機液体により粉末同士を結着させることにより粉末を顆粒化する。有機液体が粒子間に存在することにより液体架橋が生じて一次合金粒子同士を結着させて顆粒を形成するのである。この後、有機液体を完全に除去し、一次合金粒子同士をファンデルワース力のみで結着させることで乾燥状態の顆粒を形成している。このような顆粒の結着力は、従来のPVA等のバインダによる結着力に比べて極めて弱い。したがって、本発明により得られた顆粒は、磁場中成形時に印加される磁場によって容易に崩壊し、一次合金粒子に分離する。そのため、高い配向度を得ることができる。これまで、バインダを用いることが顆粒作製の前提として考えられてきたが、本発明のように有機液体を用いて顆粒を形成した後、有機液体を完全に除去して乾燥状態とした顆粒においても、高い流動性が得られることを見出した価値は大きい。しかも、この顆粒は、磁場印加により崩壊するため、磁場中成形を行う希土類焼結磁石にとって好適である。加えて、磁場成形を行う時点では、有機液体は完全に除去されているので、従来の顆粒技術を用いた場合には必須とされていた脱バインダ工程を省くことが可能であり、工程的な利点をも含んでいる。
以上の有機液体を用いた顆粒化技術を適用した希土類焼結磁石の製造方法について以下説明する。
原料合金は、真空又は不活性ガス、望ましくはAr雰囲気中でストリップキャスト法、その他公知の溶解法により作製することができる。ストリップキャスト法は、原料金属をArガス雰囲気などの非酸化性雰囲気中で溶解して得た溶湯を回転するロールの表面に噴出させる。ロールで急冷された溶湯は、薄板または薄片(鱗片)状に急冷凝固される。この急冷凝固された合金は、結晶粒径が1〜50μmの均質な組織を有している。原料合金は、ストリップキャスト法に限らず、高周波誘導溶解等の溶解法によって得ることができる。なお、溶解後の偏析を防止するため、例えば水冷銅板に傾注して凝固させることができる。また、還元拡散法によって得られた合金を原料合金として用いることもできる。
R−T−B系焼結磁石を得る場合、R214B結晶粒を主体とする合金(低R合金)と、低R合金よりRを多く含む合金(高R合金)とを用いる所謂混合法を本発明に適用することもできる。
原料合金は粉砕工程に供される。混合法による場合には、低R合金及び高R合金は別々に又は一緒に粉砕される。粉砕工程には、粗粉砕工程と微粉砕工程とがある。まず、原料合金を、粒径数百μm程度になるまで粗粉砕する。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行なうことが望ましい。粗粉砕に先立って、原料合金に水素を吸蔵させた後に放出させることにより粉砕を行なうことが効果的である。水素放出処理は、希土類焼結磁石として不純物となる水素を減少させることを目的として行われる。水素放出のための加熱保持の温度は、200℃以上、望ましくは350℃以上とする。保持時間は、保持温度との関係、原料合金の厚さ等によって変わるが、少なくとも30分以上、望ましくは1時間以上とする。水素放出処理は、真空中又はArガスフローにて行う。なお、水素吸蔵処理、水素放出処理は必須の処理ではない。この水素粉砕を粗粉砕と位置付けて、機械的な粗粉砕を省略することもできる。
粗粉砕工程後、微粉砕工程に移る。微粉砕には主にジェットミルが用いられ、粒径数百μm程度の粗粉砕粉末を、平均粒径2.5〜6μm、望ましくは3〜5μmとする。ジェットミルは、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粗粉砕粉末を加速し、粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
混合法による場合、2種の合金の混合のタイミングは限定されるものではないが、微粉砕工程において低R合金及び高R合金を別々に粉砕した場合には、微粉砕された低R合金粉末及び高R合金粉末を窒素雰囲気中で混合する。低R合金粉末及び高R合金粉末の混合比率は、重量比で80:20〜97:3程度とすればよい。低R合金及び高R合金を一緒に粉砕する場合の混合比率も同様である。なお、成形時の潤滑及び配向性の向上を目的とした脂肪酸又は脂肪酸の誘導体や炭化水素、例えばステアリン酸系やオレイン酸系であるステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、炭化水素であるパラフィン、ナフタレン等を微粉砕時に0.01〜0.3wt%程度添加することができる。
以上で得られた微粉砕粉末を造粒して顆粒を作製する。
本発明は有機液体を用いて顆粒を作製する。
本発明で用いる有機液体としては、炭化水素系化合物、アルコール系化合物、エーテル系(グリコールエーテル系を含む)化合物、エステル系(グリコールエステル系を含む)化合物、ケトン系化合物、脂肪酸系化合物、テルペン系化合物の1種又は2種から選択することができる。このような有機液体の具体例を挙げると、炭化水素系化合物としては、トルエン、キシレン、アルコール系化合物としては、ターピネオール、エタノール、イソブチルアルコール、エーテル系化合物としては、ブチルセロソルブ、セロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、エステル系化合物としては、酢酸エチル、ケトン系化合物としては、アセトン(ジメチルケトン)、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等がある。
もちろん、ここに挙げた有機液体に限るものではなく、これ以外にも、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール等や、グリセリン等、他の有機液体を用いることも可能である。
なお、有機液体は、一般に有機溶媒と呼ばれている物質を包含するが、本発明では溶媒として機能しないことから有機液体と呼んでいる。
有機液体を用いて作製された顆粒は、有機液体が、少なくとも微粉砕粉末同士の接点に存在し、その液体架橋力によって微粉砕粉末同士が結着されている。このとき、微粉砕粉末同士の接点には、液体中に、微粉砕粉末同士を結着させるためのバインダ等の固体成分を実質的に含まない。ただし、粉砕性の向上並びに成形時の配向性の向上のために潤滑剤を添加した場合、この潤滑剤の固体成分が液体中に存在することを許容するものとする。
有機液体を用いて作製された顆粒は、所定の工程までその形状を維持している必要がある。一旦作製された顆粒がその形状を維持できなくなると、顆粒から脱落した微細な一次合金粒子が顆粒の周囲に付着した形態を成し、この形態の顆粒は流動性を低下させる。したがって、本発明に用いる有機液体としては、容易に揮発しないことが望ましい。そこで本発明では、20℃における飽和蒸気圧が75mmHg(10.0kPa)以下の有機液体を用いることが望ましい。より望ましい20℃における飽和蒸気圧は20mmHg以下、さらに望ましい20℃における飽和蒸気圧は5mmHg以下である。
本発明に用いる有機液体はまた、一次合金粒子間に顆粒を維持するための十分な結着力を付与する必要がある。そのために、有機液体の表面張力、粘度を特定することが本発明では望ましい。望ましい有機液体の表面張力は、20℃において20dyn/cm以上である。より望ましい20℃における表面張力は25dyn/cm以上、さらに望ましい20℃における表面張力は30dyn/cm以上である。また、望ましい有機液体の粘度は、20℃において0.35cp以上である。より望ましい20℃における粘度は1cp以上、さらに望ましい20℃における粘度は2cp以上である。
微粉砕粉末に対する有機液体の添加量は特に制限されないが、有機液体の添加量が少なすぎると、一次合金粒子同士に液体架橋を生じさせるに足る液量を確保することができないために、顆粒化が困難である。一方、有機液体の添加量が多すぎると、得られた顆粒を除去する工程で、有機液体を所定時間内に完全に除去するのが困難になるおそれがある。以上より、微粉砕粉末に対する有機液体の添加量は1.5〜15.0wt%とすることを推奨する。より望ましい有機液体の添加量は2.5〜10.0wt%、さらに望ましい有機液体の添加量は2.5〜8.0wt%である。
微粉砕粉末と有機液体とを用いて顆粒を作製する方法は、従来公知の造粒法を適用すればよい。適用できる造粒方法としては、転動造粒法、振動造粒法、混合造粒法、流動造粒法、解砕造粒法、圧縮成形造粒法、押出し造粒法、噴霧造粒法が掲げられる。微粉砕粉末と有機液体は、造粒法に応じて当該造粒法適用の前に混合、混錬される場合と、造粒法適用時に混合、混錬される場合がある。
本発明では、以上のようにして得られた顆粒から有機液体を完全に除去する。
有機液体を完全に除去するための具体的な手段は特に限定されないが、減圧雰囲気に顆粒を晒して揮発させることが簡易かつ効果的である。減圧雰囲気は室温であってもよいが、加熱された減圧雰囲気とすることもできるし、減圧していない加熱雰囲気とすることもできる。減圧雰囲気の圧力が低すぎると有機液体の揮発が十分に進まない。そこで本発明は、減圧雰囲気の圧力を10-1〜10-5Torrの範囲とすることが望ましい。ただし、加熱された減圧雰囲気の場合は、100〜10-2Torrの範囲で足りる。このときの加熱温度が低すぎると有機液体の揮発が十分進まず、逆に加熱温度が高すぎると顆粒を構成する一次合金粒子に酸化が生じ磁気特性の劣化を招くおそれがある。したがって本発明では、加熱温度を40〜80℃とすることが望ましい。
以上のようにして有機液体が完全に除去された顆粒は、乾燥状態となり、ファンデルワース力のみによって、顆粒の形態を維持している。
乾燥状態とされた上記顆粒は磁場中成形に供される。
磁場中成形における成形圧力は0.3〜3ton/cm2(30〜300MPa)の範囲とすればよい。成形圧力は成形開始から終了まで一定であってもよく、漸増または漸減してもよく、あるいは不規則変化してもよい。成形圧力が低いほど配向性は良好となるが、成形圧力が低すぎると成形体の強度が不足してハンドリングに問題が生じるので、この点を考慮して上記範囲から成形圧力を選択する。磁場中成形で得られる成形体の最終的な相対密度は、通常、50〜60%である。
印加する磁場は、12〜20kOe(960〜1600kA/m)程度とすればよい。この程度の磁場を印加することにより、顆粒は崩壊して一次合金粒子に分解される。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状の磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。
次いで、成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結する。焼結温度は、組成、粉砕方法、平均粒径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000〜1200℃で1〜10時間程度焼結すればよい。なお、脱バインダと焼結を別個の工程として取り扱うこともできるが、焼結の昇温過程を脱バインダに利用することもできる。例えば、焼結における昇温過程の300〜700℃の温度範囲を水素雰囲気として0.25〜3時間保持することによって脱バインダを行うことができる。
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力を制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行なう場合には、800℃近傍、600℃近傍での所定時間の保持が有効である。800℃近傍での熱処理を焼結後に行なうと、保磁力が増大するため、混合法においては特に有効である。また、600℃近傍の熱処理で保磁力が大きく増加するため、時効処理を1段で行なう場合には、600℃近傍の時効処理を施すとよい。
次に本発明が適用される希土類焼結磁石について説明する。
本発明は、特にR−T−B系焼結磁石に適用することが望ましい。このR−T−B系焼結磁石は、希土類元素(R)を25〜37wt%含有する。ここで、本発明におけるRはYを含む概念を有しており、したがってY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの1種又は2種以上から選択される。Rの量が25wt%未満であると、R−T−B系焼結磁石の主相となるR214B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rが37wt%を超えると主相であるR214B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。またRが酸素と反応し、含有する酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なRリッチ相が減少し、保磁力の低下を招く。したがって、Rの量は25〜37wt%とする。望ましいRの量は28〜35wt%、さらに望ましいRの量は29〜33wt%である。
また、本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、ホウ素(B)を0.5〜4.5wt%含有する。Bが0.5wt%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。一方で、Bが4.5wt%を超えると残留磁束密度が低下する傾向がある。したがって、Bの上限を4.5wt%とする。望ましいBの量は0.5〜1.5wt%、さらに望ましいBの量は0.8〜1.2wt%である。
本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、Coを2.0wt%以下(0を含まず)、望ましくは0.1〜1.0wt%、さらに望ましくは0.3〜0.7wt%含有することができる。CoはFeと同様の相を形成するが、キュリー温度の向上、粒界相の耐食性向上に効果がある。
また、本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、Al及びCuの1種又は2種を0.02〜0.5wt%の範囲で含有することができる。この範囲でAl及びCuの1種又は2種を含有させることにより、得られるR−T−B系焼結磁石の高保磁力化、高耐食性化、温度特性の改善が可能となる。Alを添加する場合において、望ましいAlの量は0.03〜0.3wt%、さらに望ましいAlの量は、0.05〜0.25wt%である。また、Cuを添加する場合において、望ましいCuの量は0.15wt%以下(0を含まず)、さらに望ましいCuの量は0.03〜0.12wt%である。
本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、他の元素の含有を許容する。例えば、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge等の元素を適宜含有させることができる。一方で、酸素、窒素、炭素等の不純物元素を極力低減することが望ましい。特に磁気特性を害する酸素は、その量を5000ppm以下、さらには3000ppm以下とすることが望ましい。酸素量が多いと非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させるからである。
R−T−B系焼結磁石に本発明を適用することが望ましいが、他の希土類焼結磁石に本発明を適用することも可能である。例えば、R−Co系焼結磁石に本発明を適用することもできる。
R−Co系焼結磁石は、Rと、Fe、Ni、MnおよびCrから選ばれる1種以上の元素と、Coとを含有する。この場合、望ましくはさらにCuまたは、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVから選ばれる1種以上の元素を含有し、特に望ましくはCuと、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVから選ばれる1種以上の元素とを含有する。これらのうち特に、SmとCoとの金属間化合物、望ましくはSm2Co17金属間化合物を主相とし、粒界にはSmCo5系を主体とする副相が存在する。具体的組成は、製造方法や要求される磁気特性等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、R:20〜30wt%、特に22〜28wt%程度、Fe、Ni、MnおよびCrの1種以上:1〜35wt%程度、Nb、Zr、Ta、Hf、TiおよびVの1種以上:0〜6wt%、特に0.5〜4wt%程度、Cu:0〜10wt%、特に1〜10wt%程度、Co:残部の組成が望ましい。
以上、R−T−B系焼結磁石、R−Co系焼結磁石について言及したが、本発明は他の希土類焼結磁石への適用を妨げるものではない。
ストリップキャスト法により、26.5wt%Nd−5.9wt%Dy−0.25wt%Al−0.5wt%Co−0.07wt%Cu−1.0wt%B−Feの組成を有する原料合金を作製した。
次いで、室温にて原料合金に水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気中で600℃×1時間の脱水素を行なう水素粉砕処理を行なった。
水素粉砕処理が施された合金に、粉砕性の向上並びに成形時の配向性の向上に寄与する潤滑剤を0.05〜0.1%混合した。潤滑剤の混合は、例えばナウターミキサー等により5〜30分間ほど行なう程度でよい。その後、ジェットミルを用いて平均粒径が5.0μmの微粉砕粉末を得た。
以上の微粉砕粉末に対して、表1に示す各種有機液体を6wt%添加した後に、乳鉢で十分に混錬した。この混練物から以下のようにして顆粒を作製した。
所定の間隔を隔てて、50メッシュの篩(第1篩)と83メッシュの篩(第2篩)を上下方向に配置した。なお、第1篩が上側に位置している。第1篩の上に、得られた混錬物を載せた後に、第1篩及び第2篩をともに所定時間振動させた。振動終了後に、第2篩上に残存した顆粒を採取した。この顆粒は、第1篩及び第2篩の目開き寸法より、180〜300μmの粒径を有していることになる。なお、図1に作製された顆粒の外観SEM像を示す。
続いて、作製された顆粒を、表1に示す真空度の減圧雰囲気(室温)に30〜360分だけ晒し、有機液体の含有量が検出限界以下の概ね0%となるまで、有機液体を完全に揮発させ、乾燥状態とした。
有機液体を揮発させた後の顆粒について以下の方法に基づいて安息角を測定した。その結果を表1に併せて示す。なお、表1には顆粒化する前の微粉砕粉末の安息角も併せて示している。
安息角測定方法:60mmφの円のテーブルの上に、一定高さからふるいを通して少しずつ顆粒を落下させた。顆粒の山が崩壊する直前で顆粒の供給を停止した。円テーブルの上にできた顆粒の山の底角を測定した。円テーブルを120°ずつ回転し、計3箇所について角度を測定し、その平均を安息角とした。
Figure 0004282015
次いで、得られた顆粒を磁場中成形した。具体的には、15kOeの磁場中で1.4t/cm2の圧力で成形を行い、成形体を得た。抗折強度は20mm×18mm×6mmの成形体を用い3点曲げ試験により測定した。
得られた成形体を真空中およびAr雰囲気中で1080℃まで昇温し4時間保持して焼結を行った。次いで得られた焼結体に800℃×1時間と560℃×1時間(ともにAr雰囲気中)の2段時効処理を施した。
得られた焼結磁石の磁気特性を測定した結果を表1に示す。なお、表1には微粉砕粉末を顆粒化することなく上記と同様にして磁場中成形、焼結及び時効処理を施して得られた焼結磁石(比較例1)、バインダとしてポリスチレンを含むスラリをスプレードライして得られた顆粒を上記と同様にして磁場中成形、焼結及び時効処理を施して得られた焼結磁石(比較例2)の磁気特性も併せて示している。
表1に示すように、比較例1の微粉砕粉末の安息角が60°であるのに対して、有機液体を用いて顆粒化した後に乾燥状態とした顆粒においては、安息角を53°以下とし流動性を向上することができる。また、有機液体を用いた顆粒から作製された焼結磁石は、微粉砕粉末を磁場中成形して得られた焼結磁石と同等の磁気特性を備えることがわかる。特に、PVA等のバインダを用いた顆粒から焼結磁石を作製する場合、比較例2を見ればわかるように、脱バインダ処理を行なわなければ磁気特性の低下が著しく、製造工程を簡略化しつつ高い磁気特性を得ることができる本発明の効果は顕著である。
次に、有機液体として、表2に示すものを、それぞれ6wt%添加して上記と同様にして顆粒を形成し、この顆粒を55℃、10-1Torrの減圧雰囲気に晒して有機液体を完全に除去した後、上記と同様にして焼結磁石を作製し、安息角と磁気特性を測定した。その結果を表2に示した。なお、有機液体が完全に除去されるよう、減圧雰囲気に晒す時間を調整した。
表2に示すように、加熱することにより、10-1Torr程度の低真空雰囲気であっても有機液体を完全に除去した顆粒の安息角を53°以下とすることができ、微粉砕粉末を磁場中成形して得られた焼結磁石と同等の磁気特性を備えることがわかる。
Figure 0004282015
次に、有機液体としてエタノールを用い、その添加量が及ぼす影響を確認した。その結果を表3に示す。表3に示すように、有機液体としてのエタノールの添加量が少なすぎると、顆粒作製のための湿分が不足して、顆粒を構成しない微粉砕粉末が相当量残存してしまい、顆粒作製効率が劣ることになる。また、エタノールの添加量が多すぎると、湿分が多すぎてエタノール除去の時間を長くする、あるいは減圧の圧力を低くしなければ、エタノールを完全に除去することができない。以上の結果より、有機液体の添加量は、1.5〜15.0wt%とすることが望ましく、より望ましくは2.5〜10.0wt%、さらに望ましくは2.5〜8.0wt%とする。
Figure 0004282015
流動性の良い顆粒を用いるメリットとして、狭間口の金型への粉体充填性の容易さが挙げられる。それを確認するためにフィーダテストを行った。通常の量産工程において金型へ粉体を供給するためにフィーダという装置が使用される。このフィーダは、金型の上で水平方向に往復運動をする箱であり、箱の下部には供給孔が空けられている。箱の中には一定量の粉がためられており、この箱が往復運動すると、箱下部の供給孔から金型内部に粉が落ちる仕組みになっている。流動性の良い粉ほど、一定回数の往復運動で多くの粉が落ちることになる。そこで、金型キャビティに見立てた3mm×20mmの空隙を設け、この上で、有機液体としてトルエンを用いて顆粒化した後に、有機液体を完全揮発させた顆粒を往復運動させた。往復運動のスピードは0.4m/sとし、5往復で上記隙間に落下した粉の重量を測定した。この5往復を1回の測定対象とし、15回の測定を繰り返した。比較のため、顆粒化されていない上記微粉砕粉末(比較例1)についても同様に測定を行った。測定結果を図2に示すが、顆粒を用いることにより、金型キャビティへの充填性を向上できることが確認された。
なお、上記実施の形態では、顆粒を形成するために有機液体を用いたが、これに限るものではなく、他に、水等を用いることも可能である。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
実施例で作製された顆粒外観を示すSEM像である。 実施例で行ったフィーダテストの結果を示すグラフである。

Claims (8)

  1. 所定組成の一次合金粒子を有機液体で結着させることにより顆粒を作製する工程と、
    前記顆粒が乾燥状態となるまで前記有機液体を除去する工程と、
    前記有機液体が除去され、前記一次合金粒子同士がファンデルワース力のみで結着した前記顆粒を金型キャビティに投入する工程と、
    前記金型キャビティ内の前記顆粒に磁場を印加し、かつ加圧成形することにより成形体を得る工程と、
    前記成形体を焼結する工程と、
    を備え、
    前記有機液体は、エタノール、トルエン、カルビトール、メチルイソブチルケトン、イソブチルアルコール、テルペン系化合物、ブチルカルビトール、酢酸ブチルカルビトール、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブ、ターピネオール、シクロヘキサノールの1種又は2種以上から選択されることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
  2. 前記有機液体を除去する工程は、前記顆粒を減圧雰囲気に晒すことを特徴とする請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
  3. 前記有機液体を除去する工程は、所定の温度に加熱された雰囲気に前記顆粒を晒すことを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
  4. 前記顆粒を作成する工程では、前記一次合金粒子に対して、前記有機液体を1.5〜15.0wt%添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
  5. 前記有機液体は、20℃における飽和蒸気圧が75mmHg(10.0kPa)以下、20℃における表面張力が20dyn/cm以上、20℃における粘度が0.35cp以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
  6. 前記有機液体が除去された状態での前記顆粒の安息角が53°以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
  7. 前記一次合金粒子は、R214B相(Rは希土類元素から選択される1種又は2種以上の元素、TはFe又はFe及びCoを含む遷移金属元素から選択される1種又は2種以上の元素)を含む組成を有し、平均粒径が2.5〜6μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
  8. 所定組成の一次合金粒子を有機液体で結着させることにより顆粒を作製し、前記顆粒から前記液体を完全に除去した後、
    前記顆粒を金型キャビティに投入し、前記顆粒に磁場を印加し、かつ加圧成形することにより得られる成形体を焼結することで形成され、
    前記有機液体は、エタノール、トルエン、カルビトール、メチルイソブチルケトン、イソブチルアルコール、テルペン系化合物、ブチルカルビトール、酢酸ブチルカルビトール、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブ、ターピネオール、シクロヘキサノールの1種又は2種以上から選択されたものであることを特徴とする焼結体。
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