JP4276580B2 - 時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板およびその製造方法 - Google Patents

時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は自動車、建材、電機、電器、食缶、飲料缶等に用いられる加工用鋼板およびその製造に関するものである。
特に、鋼板製造分野において高生産性にて製造でき、かつ、時効性、成形性、加工後の部材強度、溶接部の特性に優れる鋼板およびその製造方法に関するものである。
加工用鋼板は使用時には軟らかく良好な成形性が求められることはいうまでもないが、成形され構造用部材として用いられる際には強度が高いことが要求される。また、部材として組み立てられる際に溶接されることも多く、溶接部の加工性、強度が必要になる場合もある。同時に成形後の製品の表面性状を損なわないためにはストレッチャーストレインに代表される時効性を小さくすることが求められる。
一方、鋼板の製造側から見ると鋼板は低コスト化、生産性の観点から低温で焼鈍できるに越したことはない。特に飲料缶等の容器に用いられる極薄材は鋼板製造時の連続焼鈍工程においてヒートバックルと呼ばれる鋼板の腰折れを起こし易いため再結晶温度が低い必要がある。
このような状況で、特に加工時に軟質で部材として組み立てられた後に強度が上昇する鋼板として部材製造時の塗装等の熱処理における熱履歴を活用し硬化させる、いわゆるBH鋼板が多くの方面で使用されている。 BH鋼板は一般的には固溶C、Nによる時効硬化現象を活用するため高い硬化能を得るため、固溶C、N量を多くすると時効性が大きくなり鋼板加工時のストレッチャーストレインが発生しやすくなり部材の表面性状を阻害する場合がある。 BH鋼板としては固溶C、N量を調整するため含有C、N量の制御のみならず、Nb、Ti等の強い炭窒化物形成元素を添加したものがよく知られているが、非時効でかつBH性を付与するには固溶C、N量を非常に厳格に制御する必要があり製造歩留まりが低下する問題があるのに加え、非時効で大きなBH量を付与することが困難である。
この問題を解決することが可能な鋼板として文献1〜6に開示されたような鋼板が挙げられる。これらは明確に非時効および高BHの付与を目的としたものだけではなく、これらの特性改善は意識していないものも含むが、共通しているのはこれらはTi、Nbよりも弱い炭窒化物形成元素を添加しているため、鋼板製造後、鋼板加工までに問題となる比較的低い温度(室温〜50℃程度)での時効時には固溶C、Nをしっかりと固定し時効性を抑えるのと同時に、部材製造時の塗装等の熱処理における比較的高い温度(150〜250℃程度)では炭窒化物の一部が溶解し大きなBH量を発現することが期待できることである。
しかし、これらの文献に開示されている従来技術においては、形成される炭化物、窒化物またはこれらが複合した炭窒化物の状態を適正に把握していなかったため、高加工性非時効BHという目的に対して最適な特性が得られるものとはなっていなかった。
特に、鋼板に過剰にBを添加することによるB炭化物またはB炭窒化物の形成に起因すると考えられるC時効の抑制効果については全く知見されていなかったため効果の発現において不十分なものとなっていた。
特開平03−226544号公報 特開平08−60298号公報 特開平09−363877号公報 特開2002−317244号公報 特開2002−317248号公報 特開2003−231948号公報
本発明は、時効性を抑制した上で大きなBH量を得、さらに溶接部を有する部材に使用された際の溶接に起因する成形不良および使用中の破壊を低減することができる時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板を提供し、さらに、本発明鋼は従来材より低い焼鈍温度でも良好な特性を示すことから高い焼鈍生産性を示し、特に板厚が薄い容器用材料ではヒートバックルの発生を回避した高効率な製造が可能となる製造方法を提供することを課題とする。
より具体的には、加工用鋼板において、C、N等の脱ガス工程条件を緩和することで製鋼工程での生産性を向上させつつ、再結晶温度を低く抑えることで焼鈍工程での通板性を良好にし、さらに、鋼板加工時には非時効、軟質、高加工性であり、次いで部材として使用される時点では溶接部も含めて高強度となり品質の安定した部材を製造できる鋼板を提供するものである。
尚、BH性が特に必要とならない用途では非時効性のみ、時効が特に問題とならない用途では高BHの付与のみを課題・目的として本発明技術を適用することが可能である。
本発明は、本発明者らが特開2003−231948号公報に開示した技術をさらに発展させ上記の課題を解決し容器用鋼板のみならず幅広い加工用鋼板に適用できるようにしたものである。すなわち、本発明はB添加極低炭素鋼において窒化物のみならず炭化物の状態を制御することにより、特性の改善のみならず、生産性をも大幅に向上させたものである。
具体的には、
1)質量%でC、Nの含有量を極度に低減しない、
2)通常Nを固定するために添加されるBを過剰に添加する、
3)AINおよびBNからなる窒化物形態を好ましい状態に制御する、
4)炭窒化物を形成するTi、Nbに代表される元素を低く制御する、
5)必要に応じてCrを添加することを特徴とし、
その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)質量%で、C:0.0008〜0.0049%、Si:0.001〜2.0%、Mn:0.01〜3.0%、S:0.0005〜0.040%、P:0.002〜0.080%、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0050%、B:0.0031〜0.0085%を含み、B/N:1.60〜6.00、Al/B:20以下であり、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(2)質量%で、C:0.0008〜0.0049%、Si:0.001〜2.0%、Mn:0.01〜3.0%、S:0.0005〜0.040%、P:0.002〜0.080%、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0050%、B:0.0031〜0.0085%を含み、B/N:2.71〜6.00、Al/B:20以下であり、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(3)鋼中に、Bを含有する炭化物または炭窒化物が存在することを特徴とする請求項1または(2)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(4)質量%で、C:0.0008〜0.0049%、Si:0.001〜2.0%、Mn:0.01〜3.0%、S:0.0005〜0.040%、P:0.002〜0.080%、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0050%、B:0.0031〜0.0085%、Cr:0.021〜6.0%を含み、B/N:1.60〜6.00、Al/B:20以下であり、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(5)鋼中に、CrまたはBの一種以上を含有する炭化物または窒化物または炭窒化物が存在することを特徴とする(4)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(6)質量%で、Ti:0.010%以下、Nb:0.010%以下、Ti+Nb:0.015%以下であることを特徴とする(1)乃至(5)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(7)質量%で、Sn、Mo、W、V、Zr、Ta、Cu、Niの各々の元素について0.10%以下であり、かつ、その合計が0.15%以下であることを特徴とする(1)乃至(6)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(8)(AINとして存在するN)/(BNとして存在するN)<0.40であることを特徴とする(1)乃至(7)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(9)前記鋼板中の、直径0.02μm以上1.0μm以下のBを含有する炭化物または炭窒化物について、平均直径が0.05μm以上、または、直径が0.05μm以下であるものの個数の割合が50%以下、または、数密度が0.5個/μm3以下であることを特徴とする(2)または(5)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(10)前記鋼板中の、直径0.02μm以上1.0μm以下のCrを含有する炭化物または炭窒化物について、平均直径が0.05μm以上、または、直径が0.05μm以下であるものの個数の割合が50%以下、または、数密度が0.5個/μm3以下であることを特徴とする(5)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(11)(1)、(2)または(4)に記載の鋼板の鋼成分において、Fe,B,Cr以外の含有量が同じでかつB/N:0.75〜0.85、Cr:0.10%である鋼板の時効伸びをX%とした時、時効伸びが(X/2)%以下であることを特徴とする(1)乃至(10)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(12)(1)、(2)または(4)に記載の鋼板の鋼成分において、Fe,B,Cr以外の含有量が同じで、かつ、B/N:0.75〜0.85、Cr:0.10%である鋼板のBH量をY(MPa)とした時、BH量がY/2(MPa)以上であることを特徴とする(1)乃至(11)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(13)板厚が0.4mm以下で、金属缶に用いられることを特徴とする(1)乃至(12)に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
(14)(1)乃至(13)に記載の鋼板を製造するに際し、スラブ加熱温度を1100℃以下とすることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板の製造方法。
(15)(1)乃至(13)に記載の鋼板を製造するに際し、熱間圧延後のコイル巻取温度を700℃以上とすることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板の製造方法。
(16)(1)乃至(13)に記載の鋼板を製造するに際し、冷間圧延後の焼鈍温度を690℃以下とすることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板の製造方法。
以上述べたごとく、本発明によれば、時効性を抑制した上で大きなBH量を得、さらに溶接部を有する部材に使用された際の溶接に起因する成形不良および使用中の破壊を低減することができる。さらに、本発明鋼は従来材より低い焼鈍温度でも良好な特性を示すことから高い焼鈍生産性を示し、特に板厚が薄い容器用材料ではヒートバックルの発生を回避した高効率な製造が可能となるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
まず、成分について説明する。成分はすべて質量%である。
Cは、一般に加工性などの点からは低い方が好ましい。しかし、BHの付与を目的とする場合や製鋼工程での脱ガス負荷低減の点からは高いに越したことはなく、上限を0.0049%とする。特に、時効性が小さく良好な延性が必要な場合は、0.0014%以下まで低減すれば、特性を大幅に向上させることが可能であるが、しかし、過剰な低減はコストの上昇を招くばかりでなく、BH量が小さくなり部材強度不足をまねくので、下限を0.0008%とする。好ましくは0.0021〜0.0039%、さらに好ましくは0.0026〜0.0034%である。
Nは、本発明における重要な要件である窒化物の形成を制御する上で、重要な元素である。多量に含有すると窒化物が多量に生成し、さらに多量のBを添加する必要が生ずるばかりでなく、加工性が劣化する場合があるため、上限を0.0050%とする。本発明ではN量に応じて過剰のBを添加する必要があり、N量が高いとB添加量の下限も高くなるが、あまりに多量のB添加は鋳造性を劣化させる場合があるため、N量としては0.0045%以下にとどめることが好ましい。真空脱ガス処理を十分に行うことにより0.0015%以下にすれば、窒化物の形成が少なくなり成形性が向上するが、NによるBH付与が困難になるばかりでなく窒化物が過度に少なくなると溶接部の特性が劣化してしまうため下限を0.0010%とする。好ましくは0.0021〜0.0039%、さらに好ましくは0.0026〜0.0034%である。
Bは、窒化物形態に影響を及ぼし溶接熱影響部の材質を変化させるとともに、適度な添加により鋼板の再結晶温度を低下させ、より低温での焼鈍を可能とすることで焼鈍通板性を向上させるので本発明においては必須元素として含有される。また、本発明では一般的に必要と考えられているN当量を大幅に上回る過剰な量を添加することで、特徴的にC時効の抑制が可能となる。この効果を得るために下限を0.0031%とする。しかしあまりに過剰な添加は溶接部を過度に硬質にし加工性を劣化させるとともに再結晶温度を上昇させ焼鈍温度上昇の必要が生じヒートバックルを発生しやすくなる。また、鋳造時に低温溶融部を生成させ鋳造性が極端に劣化することがあるため上限を0.0085%とする。好ましくは、0.0036〜0.0075%、さらに好ましくは0.0041〜0.0065%である。また、重要な点の−つはNとの比であり、B/Nで1.60〜6.00、好ましくは2.71〜6.00、さらに好ましくは3.01〜4.00とする。
Alは、一般的には脱酸のため添加されるが、本発明では後述のように窒化物形態を制御するためB添加量も加味した制御が必要である。少なすぎると鋼中酸化物が多くなり加工性を低下させる場合があり、多量に含有すると本発明の効果にとって好ましくないAINを形成させるので0.005〜0.080%とする。好ましくは0.011〜0.043%、さらに好ましくは0.016〜0.039%、さらに好ましくは0.021〜0.034%である。また、窒化物の種類を主としてB窒化物が形成するように制御するにはB量との関係が重要で、Al/Bは低いほうが好ましく、20以下とする。好ましくは15以下、さらに好ましくは10以下、さらに好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下である。
Si量は、特に限定する必要はないが、過剰な含有量による加工性劣化と低減コストを考え0.001〜2.0%の範囲が望ましい。
Mn量は特に限定する必要はないが、過剰な含有量による加工性劣化と低減コストを考え0.01〜3.0%の範囲が望ましい。
S量は、特に限定する必要はないが、過剰な含有量による加工性劣化と低減コストを考え0.0005〜0.040%の範囲が望ましい。
P量は、特に限定する必要はないが、過剰な含有量による加工性劣化と低減コストを考え0.002〜0.080%の範囲が望ましい。
本発明での重要な要件の一つに窒化物の種類と量の制御がある。特に一般的なアルミキルド鋼と呼ばれる加工用鋼板で少なからず鋼中に存在することが知られているAINの生成を抑制する必要がある。
これはAINは窒化物としては本発明で好ましく形成させるBNよりも微細になりやすく鋼板の再結晶温度を上昇させ、特に焼鈍の通板性が問題となりやすい容器用鋼板でヒートバックルの発生原因となるからである。また、本発明で特徴的なC時効の抑制効果をもたらしていると考えられる炭窒化物の形成に寄与しないこともAINの形成を回避することが好ましい理由の1つである。本発明では鋼板をヨウ素アルコール溶液中で溶解した時の残滓中のAl量を分析し、これを全量AINとしてN量に換算した値を(AINとして存在するN)とし、鋼板をヨウ素アルコール溶液中で溶解した時の残滓中のB量を分析し、これを全量BNとしてN量に換算した値を(BNとして存在するN)とした場合に、(AlNとして存在するN)/(BNとして存在するN)が、0.40以下、好ましくは0.20以下とする。
Crは、本発明ではBとともに重要な役割を有する。過剰Bを含有する本発明においてCrを含有させることでC時効の抑制効果がさらに強化される。これは単純にはCr炭化物を形成する効果であると考えられるが、Cr窒化物、Cr炭窒化物、さらにはB炭化物、B炭窒化物と複合したCr−B−炭窒化物のような析出物を形成し発明の効果が発現するものであり、Bを含有しないまたは含有してもN当量程度であるものにCrを添加した場合とは著しく異なる良好な特徴的な効果を示す。この効果を得るには0.021%以上含有させる必要がある。上限は特に限定する必要はなく、Crを含有させることで鋼板自体の耐食性が向上するメリットも有する。しかしCrは高価な元素であり添加コストが上昇することや鋼板の表面状態を変化させメッキ処理性を低下させる場合もある。また、多量の添加は鋼板の再結晶温度を上昇させ高温焼鈍が必要となるため特に容器用途の薄手材で焼鈍通板性を損なう場合もある。このため上限を6.0%とする。好ましくは0.21〜6.0%であり、さらに好ましくは0.31〜3.9%、さらに好ましくは、0.41〜2.9%、さらに好ましくは0.51〜4%、さらに好ましくは0.61〜1.9%である。
従来の非時効BH鋼板で固溶C、N量制御のために、添加されるTiおよびNbについては本発明では低く抑えることが肝心であり、基本的に添加は行わず、鉄鉱石、製鋼段階で混入されるスクラップや生産上やむを得ない塵、残滓などから鋼中に不可避的に含有する量にとどめることが好ましい。一般的にはそれぞれ0.006%以下程度であるが何らかの目的で添加する必要がある場合にもそれぞれ0.010%以下、合計で0.015%以下とすることが好ましい。さらに好ましくはそれぞれ0.005%以下、合計で0.008%以下に制限する。これはTi、Nbが強力な炭化物、窒化物および炭窒化物形成元素であり、この量を超えると本発明で特徴とするような弱い炭窒化物形成によると思われる非時効と大きなBH量の両立が不可能となるばかりでなく、これら元素は鋼板の再結晶温度を大きく上昇させるため焼鈍工程での通板性が劣化すると共に、溶接部近傍の熱影響により結晶組織が異常に粗大化.軟質化しその部位での応力集中を促進する場合もあり成形性、疲労強度が製品により大きくばらつく一因となる場合もあるためである。
また、同様に炭窒化物形成元素として知られているMo、W、V、Zr、Taやスクラップ等からの混入がおきやすいSn、Cu、Niについては本発明で想定していない何らかの目的で添加する場合にも各々の元素について0.10%以下、合計で0.15%とすることが好ましい。これは上のTiやNbほどではないにしろ、本発明で好ましい炭窒化物の形態、再結晶温度、加工性に及ぼす影響や添加コスト等を勘案してのものである。各々の元素について0.05%以下、合計で0.10%、さらに好ましくは各々の元素について0.03%以下、合計で0.06%とするのが好ましい。
本発明では一般的にB添加が目的とするN固定に必要なN当量を大幅に超過する過剰なBを添加する、さらにはこれに加えCrを添加することによるC時効の抑制が大きな特徴である。この原因は明確ではないが、これまでの知見によれば過剰なB添加により何らかの炭化物、または炭窒化物が形成されたと考えられる。またCrの効果についても同様にCrの炭化物、または炭窒化物が形成されたと考えるのが自然であるが、Crの効果についてはBがN当量を大幅に上回る鋼板において顕著な効果を示すので本発明に特有ななんらかの複合析出物(B−Cr一炭窒化物)が形成されていると考えられる。なお、このようなB、Cr、C、Nが共存する相は一般的に析出物と呼べるほどの完全な構造を有しておらず、
一般的にクラスターと呼ばれるようなものである可能性もあるが、本発明はこれを除外するものではない。今後、様々な解析技術の発達により現状で発明者が認識できないような相の存在が本発明の特徴であるC時効抑制の原因と特定される可能性もあるが、本発明はこのようなものも含むものである。ただし、本明細書においては現時点までに本発明者が認識している析出物に関してその形態について記述しておく。この記述においてたとえばサイズは比較的大きく一般的には析出物として認識されるものについて規定するものではあるが、上述のようなクラスターも発明としては包含していることは言うまでもない。以降、本明細において単に「炭窒化物」という場合には、「炭化物」または複合析出した本来の意味での「炭窒化物」を指すものとする。この炭窒化物は現時点では完全に決定されてはいないが、BまたはC rの一種以上を含有するものであることが特徴である。この炭窒化物を形成させるための製造条件はいくつかが考えられるが、コストや特性に関して工業的に意味がある程度に生成させるには鋼成分、特にC、N、B、Al量については本発明の範囲内に厳密に限定される必要がある。
このように形成された炭窒化物はその量とともに直接観察により得られるサイズ、密度等の制御も本発明の効果を得るためには重要となる。特に上述のような化学的な分析では検出できず、分析値が0となるような場合にも直接観察においては微細かつ微量なものが見られる場合もあり、このような微細かつ微量な炭窒化物を制御することが本発明では重要となることがある。なお、炭窒化物が単独でなく酸化物や硫化物などと複合析出した場合も対象とする。C、Nに加え0、Sも含有した複合析出物を形成しそれらの濃度が偏析しているような場合には,一種の析出物の種類および各化合物についてのサイズを特定することは困難であるが、明らかに一つの析出物が炭窒化物である部分とその他に分けられる場合を除いて一つの炭窒化物として判定するものとする。
炭窒化物は本発明ではSPEED法によって得られた抽出レプリカを電子顕微鏡にて観察する。EDX等の物理的分析機器を行い非金属元素としてB、Crの一種以上およびCが観察されるものを本発明で対象とする炭窒化物とする。大きさが非常に微小であり同定が困難なものは本発明で考慮すべき析出物からは除外する。この最小サイズは大体0.02μmが限度となる。もちろんこの限界サイズは解析機器、解析方法の進歩により変わるものであり、それに伴い限定すべき最適な平均サイズや密度等の範囲も将来的には本発明とは異なるものとなることは当然考えられるものである。また対象とする炭窒化物のサイズの上限は1.0μmとする。対象とする炭窒化物の直径および数は偏りがない程度の視野につ
いて計測する。視野を写真撮影し、画像解析等を行うことでもサイズ分布を求めることができる。
また,形状が延伸したものが見られる場合があるが,形状が等方的でないものについては長径と短径の平均をその炭窒化物の直径とする。
炭窒化物の数密度はレプリカ作成過程における電解工程において試料表面を通電した全電荷がFeの2価イオン(Fe2+)として鋼板が電解されるのに消費され、電解時に残滓として残る炭窒化物がすべてレプリカ上に補足されるとして計算した。本発明者らの通常のレプリカ作成においては試料表面積において50C(クーロン)/cm2の電気量で電解を行うので、試料表面から18μmの厚さ内にある析出物がレプリカ上で観察されることになる。もちろんこの条件は限定されるものではなく妥当と考えられる方法で行われればよい。
以上のようにして測定された炭窒化物について平均直径を0.05μm以上、直径が0.05μm以下であるものの個数の割合が50%以下、数密度が0.5個/μm3以下のどれかの条件を満たすことで本発明の効果を顕著に得ることができる。
さらに本発明の効果を限定するのに過剰BおよびCr添加による特性の変化で既定することは有効である。この場合、従来技術に属する比較鋼として、対象となる発明鋼と鋼成分においてFe,B,Cr以外の含有量が実質的に同じでかつB/N:0.75〜0.85、Cr:0.10%で、成分以外の製造条件も実質的に同じである鋼板を用いる。比較鋼の時効伸びをX%とした時、本発明鋼は時効伸びが(X/2)%以下であることを特徴とする。これは実質的に本発明の特徴である過剰Bおよび複合したC rの添加のみの効果により時効性が抑えられていることを意味し、メカニズムは明確ではないが、この時効の抑制が主としてC時効の抑制に起因していることから上述のような炭窒化物の形成と関連していると考えられる。なお、ここで時効伸びは通常の薄鋼板の特性評価で行われているのと同様に、JIS5号試験片の引張試験において、鋼板製造後100℃×1時間の時効を行った鋼板の時効伸びを用いるものとする。
また同様に比較鋼のBH量をY(MPa)とした時、本発明鋼のBH量はY*0.5(MPa)以上となる。ここで、発明鋼のBH量は比較鋼のBH量より小さいものも含まれることになるが、上述の時効伸びが1/2以下になっていることを勘案すれば実質的に時効性を低減した以上のBH量が得られておりBH性が向上したと考えてよいものである。もちろん発明の効果を最適に得れば時効性を改善した上で絶対値で比較鋼以上のBH量を得ることも可能である。このように非時効または低時効性と大きなBH量を両立できるのは本発明で形成される炭窒化物が時効性で問題となる低温ではC、Nを良好に固定し、かつBHのような高温熱処理では比較的迅速に溶解し固溶C、N量を増大させるようなものとなつているためと考えられる。なお、ここでBH量は通常の薄鋼板の特性評価で行われているのと同様に、JIS5号試験片の引張試験において、2%引張変形後170℃×20分の時効による硬化量を用いるものとする。ただし、時効後に降伏点が現れる場合は下降伏点を用いるものとする。
これらの材質については好ましくは時効伸び(X/3)%以下、さらに好ましくは(X/4)%以下であり、BH量は好ましくはY*0.7以上、さらに好ましくはY*0.9以上である。
製造工程での熱履歴等は、特に限定する必要はないが、熱延時のスラブ加熱温度、巻取り温度の影響が見られる。熱延時のスラブ加熱温度を1100℃以下、熱延時の巻取り温度を700℃以上とすることで時効抑制効果が顕著になる。これは上述の本発明において特徴的な炭窒化物の組成等も含めた形態がより好ましいものに変化するためと考えられる。また、同時にBH量の向上も期待できる。本発明鋼は冷間圧延せず熱延鋼板として使用することも可能であるが冷延鋼板として使用される場合には、冷間圧延後の焼鈍温度を低くすることが本発明の目的の一つにもなり、またこの焼鈍温度を低くできることが本発明鋼の特徴の一つにもなる。この場合、冷間圧延後の焼鈍温度は690℃以下でも従来鋼と遜色のない良好な加工性を得ることができる。もちろん焼鈍温度を高めることで加工性を向上させることは本発明の効果を損なうものではない。ただしあまりに高温で焼鈍した場合、本発明で特徴的な炭窒化物が多量に溶解してしまい、その後の冷却速度によっては時効性が大きくなるので望ましくない。この温度はほぼ850℃である。特に容器等に用いられる極薄材料では冷間圧延後の焼鈍温度を690℃以下と制限することでヒートバックルの発生を抑制し焼鈍工程の通板性が向上することによる工業的意味も大きい。
上述のような低温では安定であるが高温では迅速に溶解する本発明に特徴的な炭窒化物の特徴は、特に溶接部の特性向上に好ましく作用する。具体的には溶接部の強度、疲労強度、溶接後に溶接部を加工する場合には溶接部の加工性が向上する。この効果が発揮する詳細なメカニズムは明確ではないが、上述の時効性およびBH量におよぼす本発明で特徴的な炭窒化物の予想効果を考えると以下のように考えられる。すなわち溶接部およびその近傍では溶接時に極短時間だけ高温に曝されるがこのわずかな時間の内に本発明で特徴的な炭窒化物が迅速に溶解し固溶C、N、B、およびCrが増加するとともに、溶解しきらずに残存する微細な炭窒化物、および冷却過程で再析出する微細な炭窒化物により溶接部およびその近傍の材質が強化され、溶接部の特性向上につながっているものと思われる。目的にとって好ましい固溶C、N、BおよびCr量に加えて炭窒化物形態を得るためには、溶接前の鋼中の窒化物形態を本発明のごとく制御しておくことが有効である。
本発明鋼板は熱延鋼板、冷延鋼板として使用され、スキンパス等も通常の範囲で行えばよい。また薄手容器用鋼板の製造においては焼鈍の後、再圧延し加工硬化により硬質化させた鋼板を用いる場合もあるが、この様な鋼板においても本発明法によれば溶接部の加工性、疲労強度の向上効果が得られる。しかし前述のように加工硬化した材料は熱影響により軟化しやすいため加工硬化量は低く抑えることが好ましい。2CR率としては30%以下で使用することが適当である。また耐食性など各種特性向上のために元素添加をした場合にも本発明の効果が失われるものではない。
本発明鋼板は表面処理鋼板用の原板としても使用されるが、表面処理により本発明の効果はなんら損なわれるものではない。自動車、建材、電機、電器、容器用の表面処理として通常行われる、錫、クロム(ティンフリー)、ニッケル、亜鉛、アルミ、鉄およびこれらの合金などが電気メッキ、溶融メッキを問わず施すことができる。また、近年使用されるようになっている有機皮膜を貼ったラミネート鋼板用の原板としても発明の効果を損なうことなく使用できる。
時効伸びおよびBH量は、JIS5号試験片の引張試験において評価した。時効伸びは、鋼板製造後100℃×1時間の時効を行った鋼板の時効伸びを用いた。BH量は、2%引張変形後170℃×20分の時効による硬化量を用いた。時効後に降伏点が現れた場合は下降伏点を用いて評価した。
溶接部の加工性評価は図1に示すように、四角形の鋼板をシーム溶接で円筒状にし、開口部に円錐状の金型を押し込むことで開口部を押し広げ開口端に割れが発生するまでの変形量を第二式により算定し行った。
〈(割れ発生時の径)−(初期径)〉/(初期径)....第1式
溶接部の強度は図2および図3に示すように、二枚の四角形の鋼板をちり発生直前の溶接電流にてスポット溶接し、引張試験を行った際の最大荷重から評価した。また同様の試験片により片ぶりの引張疲労試験を行い、1000万回の繰り返しに耐える最大荷重から疲労強度を評価した。
特性値、特に溶接部の特性は本発明範囲内でも本発明条件の値により変動し、また本発明で特に限定しない成分や製造条件によっても影響を受けるため、それらの絶対値によって本発明の効果を示すことは適当ではない。そのため後述の各例においては本発明で特に重要ではない成分をほぼ一定にした材料を基準材として相対比較により本発明の効果を示すこととし、A:非常に良好、B:良好、C:従来並み とした。この場合、基準材はすべての特性においてCの判定となる。
焼鈍ライン通板性については同一板厚、同一幅の冷延コイルを再結晶温度+40℃で同一の連続焼鈍ラインを同一の通板速度で通板した際の、ヒートバックル発生の有無で判定した。
A:発生せず、B:わずかに発生、C:顕著に発生
発明の効果は、上の各項目について総合的に判定しAA:特別に良好(発明鋼)、A:非常に良好(発明鋼)、B:良好(発明鋼)、C:一部の特性が良好(発明鋼)、×D:従来並み(比較鋼)とした。
(例1)
250mm厚の連続鋳造スラブから4.0mm厚の熱延板を製造し、酸洗、80%の冷間圧延、780℃1分の焼鈍後、0.8%のスキンパス圧延を行い0.8mmの鋼板を製造し評価を行った。
表1に成分および熱延条件を示す。
表2から明らかなように本発明の範囲内で製造されたものは時効性、BH性、溶接部の特性のすべてに良好な特性が得られている。
(例2)
250mm厚の連続鋳造スラブから2.2mm厚の熱延板を製造し、酸洗、93%の冷間圧延、1分の焼鈍後、2.2%のスキンパス圧延を行い0.15mmの鋼板を製造し評価を行った。表3に成分および熱延条件、焼鈍温度を示す。 表4から明らかなように本発明の範囲内で製造されたものは時効性、BH性、溶接部の特性、さらに耐ヒートバックル性のすべてに良好な特性が得られている。
(例3)
250mm厚の連続鋳造スラブから1.8mm厚の熱延板を製造し、酸洗、1.0%のスキンパス圧延したのち溶融亜鉛メッキ鋼板を製造し評価を行った。表5に成分および熱延条件を示す。 表6から明らかなように本発明の範囲内で製造されたものは時効性、BH性、溶接部の特性のすべてに良好な特性が得られている。
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溶接部の加工性の評価方法を示す図である。 溶接部の引張強度の測定方法を示す図である。 溶接部の疲労強度の測定方法を示す図である。

Claims (16)

  1. 質量%で、C:0.0008〜0.0049%、Si:0.001〜2.0%、Mn:0.01〜3.0%、S:0.0005〜0.040%、P:0.002〜0.080%、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0050%、B:0.0031〜0.0085%を含み、B/N:1.60〜6.00、Al/B:20以下であり、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  2. 質量%で、C:0.0008〜0.0049%、Si:0.001〜2.0%、Mn:0.01〜3.0%、S:0.0005〜0.040%、P:0.002〜0.080%、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0050%、B:0.0031〜0.0085%を含み、B/N:2.71〜6.00、Al/B:20以下であり、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  3. 鋼中に、Bを含有する炭化物または炭窒化物が存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  4. 質量%で、C:0.0008〜0.0049%、Si:0.001〜2.0%、Mn:0.01〜3.0%、S:0.0005〜0.040%、P:0.002〜0.080%、Al:0.005〜0.080%、N:0.0010〜0.0050%、B:0.0031〜0.0085%、Cr:0.021〜6.0%を含み、B/N:1.60〜6.00、Al/B:20以下であり、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  5. 鋼中に、CrまたはBの一種以上を含有する炭化物または窒化物または炭窒化物が存在することを特徴とする請求項4に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  6. 質量%で、Ti:0.010%以下、Nb:0.010%以下、Ti+Nb:0.015%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  7. 質量%で、Sn、Mo、W、V、Zr、Ta、Cu、Niの各々の元素について0.10%以下であり、かつ、その合計が0.15%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  8. (AINとして存在するN)/(BNとして存在するN)<0.40であることを特徴とする請求項1乃至請求項7に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  9. 前記鋼板中の、直径0.02μm以上1.0μm以下のBを含有する炭化物または炭窒化物について、平均直径が0.05μm以上、または、直径が0.05μm以下であるものの個数の割合が50%以下、または、数密度が0.5個/μm3以下であることを特徴とする請求項2または請求項5に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  10. 前記鋼板中の、直径0.02μm以上1.0μm以下のCrを含有する炭化物または炭窒化物について、平均直径が0.05μm以上、または、直径が0.05μm以下であるものの個数の割合が50%以下、または、数密度が0.5個/μm3以下であることを特徴とする請求項5に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  11. 請求項1、請求項2または請求項4に記載の鋼板の鋼成分において、Fe,B,Cr以外の含有量が同じでかつB/N:0.75〜0.85、Cr:0.10%である鋼板の時効伸びをX%とした時、時効伸びが(X/2)%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項10に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  12. 請求項1、請求項2または請求項4に記載の鋼板の鋼成分において、Fe,B,Cr以外の含有量が同じで、かつ、B/N:0.75〜0.85、Cr:0.10%である鋼板のBH量をY(MPa)とした時、BH量がY/2(MPa)以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項11に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  13. 板厚が0.4mm以下で、金属缶に用いられることを特徴とする請求項1乃至請求項12に記載の時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板。
  14. 請求項1乃至請求項13に記載の鋼板を製造するに際し、スラブ加熱温度を1100℃以下とすることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板の製造方法。
  15. 請求項1乃至請求項13に記載の鋼板を製造するに際し、熱間圧延後のコイル巻取温度を700℃以上とすることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板の製造方法。
  16. 請求項1乃至請求項13に記載の鋼板を製造するに際し、冷間圧延後の焼鈍温度を690℃以下とすることを特徴とする時効性、成形性および溶接部の特性に優れた鋼板の製造方法。
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