JP4268521B2 - 容器用鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、3ピース缶の製造に代表される、溶接により製造される缶用材料として利用される鋼板及びその製造方法に関するものである。即ち、鋼板の製造分野・製缶分野において、高生産性にて製造でき、かつ溶接部の成形性に優れる極薄容器材料を提供するものである。
飲料缶、食品缶などの製造分野では3ピース缶と呼ばれる、缶胴部を溶接により成形した容器が使用されている。この缶胴に缶底、缶蓋を取り付けるために缶胴開口部を広げるフランジ加工を行うが、この際に溶接部には良好なフランジ成形性が求められる。また、大型容器などでは容器に金属製の取っ手を取り付ける際に溶接を用いる場合が多く、この溶接部での強度、特に疲労強度が問題になる場合がある。
一方、容器用鋼板は低コスト化の観点から薄手化の方向にあり、鋼板の延性、疲労特性は劣化することとなるため極薄材でも溶接部の成形性、強度の良好な鋼板が求められている。また、製品厚に冷延した極薄材は、連続焼鈍時にヒートバックルと呼ばれる鋼板の腰折れを起こし易いため、通板性が非常に悪く、生産性が著しく阻害されている。
この課題を解決するため、焼鈍時は板厚を最終製品より厚くして通板し、焼鈍後に再冷延で目標とする板厚を得る、いわゆるDR法(ダブルレデュース法)によるDR材が特許文献1、特許文献2などに開示されている。しかし、再冷延により硬化した鋼板は溶接部において溶接時の発熱のため材料の回復、再結晶による材料の軟化が起き、溶接部近傍への応力集中を大きくし、成形性、疲労特性が劣化する。
また、特許文献3には、固溶Nを増加させることで鋼板強度を確保する方法が開示されているが、溶接部への応力集中が大きく、溶接部の加工性および疲労強度の改善が十分ではない。
また、特許文献4には、固溶C,Nの低減やランクフォード値の向上によるフランジ成形性の向上策が開示されている。また、特許文献5においては、Nb,B添加により粒径を微細化してフランジ成形性を向上させる技術が開示されている。さらに、特許文献6には、セメンタイトを微細化してフランジ成形性を向上させる技術が、また、特許文献7には、過時効熱処理条件を特定してフランジ加工性を向上させる技術が開示されている。
一方、特許文献8には、自動車用鋼板のスポット溶接において溶接による熱影響部の軟化が割れの原因であるとして、Ti,Nb,Bの添加による溶接部の強度を上げてこれを回避する技術が開示されているが、極薄材料では溶接部強度が高すぎると素材部での割れが顕著になり、フランジ成形性は劣化してしまう。
上記のように、フランジ成形性の向上については特性の向上メカニズムが明確でなく様々な対策がとられているが、これらの方法では極薄材料の焼鈍通板性については考慮されておらず、Ti,Nb,Bを単に添加しただけでは鋼板の再結晶温度が上昇し焼鈍温度を高くする必要が出てくるため、焼鈍通板性は顕著に劣化してしまう。
特開平3−257123号公報 特開平2−118026号公報 特開平10−72640号公報 特開平2−118028号公報 特開昭63−89625号公報 特開昭61−34159号公報 特開昭61−310922号公報 特開昭63−317625号公報
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、溶接部を有する容器に用いられる極薄材料を、焼鈍通板性を阻害することなく高生産性での製造を可能とし、かつ製缶時の溶接部の成形性を向上させ、使用時に問題となる溶接部での割れを低減する容器用鋼板を提供するものである。
本発明は、成形または使用時に応力集中が起き易い溶接部の材質が目的に対し適当になるように素材を適切に設定することで、缶成形時の溶接部のフランジ成形性、使用時の溶接部の疲労強度を向上させるものである。すなわち本発明は、B添加極低炭素鋼において窒化物の形態を適当な範囲に制限すると共に、微量な添加元素によりさらに特性を向上させたものである。
(1)質量%で、
C :0.0050%以下、
Si:0.015〜2.00%、
Mn:0.05〜2.00%、
P:0.005〜0.080%
Al:0.040%以下、
N :0.0060%以下、
O:0.0010〜0.0070%、
BをB/N:0.40〜2.00となるように含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
かつ鋼中のAlNおよびBNが
(AlNとして存在するN)/(BNとして存在するN)≦0.40
であり、
かつAl/B:6以下、
鋼中の硫化物について、
(Cu硫化物として存在するS)/(Mn硫化物として存在するS)≦0.10
であることを特徴とする溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
(2)質量%で、さらに、Ti:0.010%以下、Nb:0.010%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
(3)前記(1)または(2)に記載の成分からなる鋼を用いて、通常の製造工程により容器用鋼板を製造するに際し、熱間圧延におけるスラブ加熱温度を1100℃以上、熱間圧延を開始するまでの1000〜1300℃温度域の熱履歴を、温度(℃)×時間(分)≦200,000、熱間仕上圧延開始から仕上圧延完了後の巻取りまでの平均冷却速度を30℃/秒以下とした熱延を行い、熱間圧延における巻取り温度を730℃以下、冷間圧延後の焼鈍温度を700℃以下とすることを特徴とする溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板の製造方法。
(4)質量%で、
C :0.0005〜0.040%、
Si:0.002〜0.50%、
Mn:0.03〜2.00%、
P :0.002〜0.080%、
S :0.0100〜0.0600%、
Al:0.0010〜0.0410%、
N :0.0020〜0.0300%
を含み、
Nb:0.0005〜0.0050%、Ti:0.0005〜0.0050%、B:0.0010%以下の1種以上、
Cu:0.0005〜0.050%、Ni:0.0005〜0.100%、Cr:0.0005〜0.100%の1種以上
を含有し、かつ鋼板中に固溶するNが20〜300ppm、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
(5)更に、質量%で、O:0.0015〜0.0090%を含有することを特徴とする請求項記載の溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
(6)鋼中の硫化物について、
(Cu硫化物として存在するS)/(Mn硫化物として存在するS)<0.30
であることを特徴とする請求項4または5に記載の溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
(7)(4)〜(6)のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、溶鋼を連続鋳造ののち熱間圧延に際し、熱間圧延を開始するまでの1000〜1300℃温度域の熱履歴を、温度(℃)×時間(分)≦200,000、熱間仕上圧延開始から仕上圧延完了後の巻取りまでの平均冷却速度を30℃/秒以下とした熱延を行い、熱間圧延における巻取り温度を730℃以下、冷間圧延後の焼鈍温度を700℃以下、圧下率20%以下で二次冷間圧延を行うことを特徴とする溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板の製造方法。
本発明によれば、溶接部を有する容器の溶接に起因する成形不良および使用中の破壊を低減することができる。さらに、本発明鋼は従来材より低い焼鈍温度でも良好な特性を示すことから、ヒートバックルの発生を回避でき、極薄容器材料の高効率な製造が可能となる。
(実施の形態1)
以下、本発明の請求項1〜9に関わる発明について詳細に説明する。
まず、成分について説明する。成分は全て質量%である。
Cは、一般に加工性などの点から低い方が好ましく、上限を0.0050%とする。特に、時効性が小さく良好な延性が必要な場合は、0.0015%以下まで低減すれば、特性を大幅に向上させることが可能である。しかし、過剰な低減はコストの上昇を招くばかりでなく、鋼板を軟質にし缶強度不足を招くので、下限を0.0003%とするのが望ましい。
Nは、本発明における重要な要件である窒化物の形成を制御する上で、重要な元素である。多量に含有すると窒化物が多量に生成し、本発明の目的を達成できないため、上限を0.0060%とする。後述のBの添加が比較的少ない場合には固溶Nの残存による時効性が問題となることがあるため、時効性を小さくするには0.0030%以下とすることが好ましい。さらに真空脱ガス処理を十分に行うことにより0.0020%以下にすれば、窒化物の形成が少なくなり、特に成形性が向上する。
Bは、窒化物形態に影響を及ぼし溶接熱影響部の材質を変化させると共に、適度な添加により鋼板の再結晶温度を低下させ、より低温での焼鈍を可能とすることで焼鈍通板性を向上させるので、本発明においては必須元素として添加する。しかし過剰な添加は溶接部を過度に硬質にし加工性を劣化させると共に、再結晶温度を上昇させ焼鈍温度上昇の必要が生じ、ヒートバックルを発生しやすくなる。要点はNとの比であるので、B/Nで0.40〜2.00、好ましくは0.60〜1.40とする。
本発明での重要な条件が窒化物の種類と量の制御であり、B添加極低炭素鋼中で、AlNとして存在するNとBNとして存在するNの比が、0.40以下、好ましくは0.20以下であることが必要である。
ここでAlNとして存在するNとは、鋼板をヨウ素アルコール溶液中で溶解した時の残滓中のAl量を分析し、これを全量AlNとしてN量に換算した値である。またBNとして存在するNとは、鋼板をヨウ素アルコール溶液中で溶解した時の残滓中のB量を分析し、これを全量BNとしてN量に換算した値である。
この様に窒化物を制御するには、Al,B添加量およびその比、窒化物の析出核となる酸化物すなわち鋼中Oの含有量、製造工程全般にわたる熱履歴が重要となる。Al/B:30以下、好ましくは20以下、かつAl:0.040%以下、好ましくは0.020%以下とすることで、鋼中に過剰に存在する固溶Nが窒化物を析出する際に、AlよりBと優先的に結合することで、窒化物の種類と量の好ましい制御が可能となる。
また、Oは0.0010〜0.0070%が窒化物制御に有効である。これは、鋼中OはSi,Al,MnおよびFe、さらにはCa,Mgなど微量元素を含有する酸化物として存在するが、適当な量だけ存在することで窒化物の析出核として有効に働き、好ましい窒化物制御が可能となると思われる。しかし、過剰な鋼中Oは酸化物を粗大化させ、加工時の割れ起点となり製品品質を著しく劣化させるため、上限を0.0070%とする。
上記のように酸化物形態を好ましく制御するため、または鋼板の母材強度を調整することで、溶接部近傍での応力集中を緩和し加工性、疲労強度を向上させるため、Si,Mn,Pなどを添加することができる。この時の添加量はSi:0.015〜2.00%、Mn:0.05〜2.00%、P:0.005〜0.080%とする。この範囲を外れると酸化物形態の変化、または溶接部が異常に軟化または硬化し、目的とする特性が得られなくなる。
絞り成形などを伴う場合に絞り成形性を向上させるために添加される、または製鋼段階で混入されるスクラップなどから鋼中に不可避的に含有するTiおよびNbの量の上限の規定も、本発明の重要な要件であり、それぞれ0.010%以下とする。この量を超えると鋼板の再結晶温度が上昇し焼鈍工程での通板性が著しく劣化すると共に、溶接部近傍の熱影響により結晶組織が異常に粗大化・軟質化し、その部位での応力集中を促進するため成形性、疲労強度が劣化する場合がある。
さらに鋼中の硫化物について、Cu硫化物の形成を抑制することも重要である。一般に熱間圧延性との関連から鋼中のSは硫化物として固定しておく必要があるため、本発明鋼ではSはMnSとして固定しておくことが好ましい。
本発明では(Cu硫化物として存在するS)に対する(Mn硫化物として存在するS)の比を0.10以下とする。これは、Cu硫化物が微細に析出し鋼板の再結晶温度を上昇させるのみならず、BおよびAl窒化物との複合析出物を形成し、窒化物形態が好ましからざるものとなるためである。
ここで(Cu硫化物として存在するS)とは、鋼板を電解抽出して得た残渣中のCu量を定量し、Cu/S=2/1としてS量に換算したもの、(Mn硫化物として存在するS)とは、鋼板を電解抽出して得た残渣中のMn量を定量し、Mn/S=1/1としてS量に換算したものである。
本発明の製造工程は、通常行われる熱延・巻取り・酸洗・冷延・焼鈍・スキンパス等の工程を経る。
製造工程での熱履歴としては、熱延時のスラブ加熱温度、巻取り温度および冷間圧延後の焼鈍温度の影響が大きく、熱延時のスラブ加熱温度を1100℃以上、熱延時の巻取り温度を730℃以下、冷間圧延後の焼鈍温度を700℃以下と制限することで、さらに溶接部の加工性および疲労強度を向上させることができる。この原因は明らかではないが、窒化物の形態の影響または窒化物以外の析出物形態の影響と考えられる。
冷間圧延後の焼鈍温度については700℃以下と制限することで、ヒートバックルの発生を抑制し焼鈍工程の通板性を向上させるための工業的意味も大きい。
上述のように、特に窒化物形態を制御することで溶接部の加工性、疲労強度が向上するメカニズムは明らかではないが、現象的には溶接部およびその近傍の熱影響部において材料の硬度が適当なものになることで、その部位への応力集中を緩和し好ましい硬化が得られるようになる。溶接部およびその近傍では溶接時の温度上昇により窒化物が溶解し、固溶N、固溶Bが共に溶解しきらずに残存する微細な窒化物および冷却過程で再析出する微細な窒化物により硬度が決まり、目的とする好ましい固溶N、固溶B、窒化物形態を得るためには、溶接前の鋼中の窒化物形態を本発明のごとく制御しておくことが必要となる。
薄手容器用鋼板の製造においては、容器の強度をもたせるため焼鈍の後に2CR圧延し、加工硬化により硬質化させた鋼板を用いる場合もあるが、この様な鋼板においても、本発明によれば溶接部の加工性、疲労強度の向上効果が得られる。また耐食性など各種特性向上のための元素添加をした場合にも、本発明の効果が失われるものではない。
鋼板の絞り性、二次加工などの加工性、耐食性、各種工程での通板性など本明細書で述べていない特性を向上させるために、Sn,W,Mo,Ca,Cr,Ni,V,Sbなどを含有させた場合にも、本発明の効果は何ら失われるものではないが、これらの元素を過度に含有させると再結晶温度の上昇のため焼鈍通板性が劣化するので、各元素0.10%以下、合計で0.50%以下とすることが好ましい。
通常、本発明鋼板は表面処理鋼板用の原板として使用されるが、表面処理により本発明の効果はなんら損なわれるものではない。缶用表面処理としては通常、錫、クロム(ティンフリー)、ニッケル、亜鉛、アルミなどが施される。また、近年使用されるようになっている有機皮膜を貼ったラミネート鋼板用の原板としても、本発明の効果を損なうことなく使用できる。
(実施の形態2)
以下、請求項10〜16に関わる発明を詳細に説明する。
まず、成分について説明する。成分はすべて質量%である。
Cは、0.040%超になると炭化物が粗大化し、溶接部近傍の応力集中部での破壊基点となる。一方、過剰な低減はコストの上昇を招くので、下限を0.0005%とする。
Siは、一般に耐食性の観点からは低いほうが好ましい。しかし近年使用量が増大している鋼板表面に樹脂フィルムを貼付する、いわゆるラミネート鋼板に適用する場合は、耐食性の劣化が抑制されることや、溶接部での応力集中を抑制する観点からは多いほうが好ましい。一方、過度に低減すると後述の酸化物形態を好ましく制御することが困難になるため、0.002〜0.5%とする。
Mnも、Siと同様の効果を有し、最適な範囲を0.03〜2.00%とする。好ましくは0.05〜1.00%である。
Pは、耐食性や溶接部での応力集中の観点からは低いほうが好ましい。しかし、低コストで鋼板の強度を調整するためには有用な元素である。制限範囲を0.002〜0.080%、好ましくは0.002〜0.030%とする。
Sは、Mn,Cu,Tiなどと鋼中で硫化物を形成する。本発明では鋼中に硫化物を適当量存在させることで、溶接部の応力集中を緩和させるのに必須かつ重要な元素である。本発明の効果を得るには0.0100%は必要である。しかし、S量が過剰になると硫化物が粗大化し、溶接部での破壊の起点となる場合があるため、上限を0.0600%とする。
Alは、後述の酸素量との関連で低すぎると製鋼工程での脱酸が不十分となる。一方、多すぎると固溶Nの確保ができなくなるばかりでなく、微細なAlNを多量に形成し鋼板の再結晶温度を上昇させるため、焼鈍工程の通板性を顕著に劣化させる。このため0.0010〜0.0700%とする。
Nは、本発明における重要な用件である固溶N量を制御する上で重要な元素である。少ないと本発明の効果が不十分となるため、0.0020%以上添加する。一方多量に含有すると、Alが少ない場合でもFeの窒化物を多量に生成し、溶接部での破壊の起点となるため、上限を0.0300%とする。なおNを含有させる方法は、通常の鋼板の様に溶鋼段階で添加するのはもちろん、鋼板をアンモニアを含有する雰囲気中で熱処理することにより添加する、いわゆる窒化により含有させることもできる。
固溶N量は、鋼中の全N量から析出N(臭素エステルによる溶解法で測定できる)を差し引いて求める。固溶N量が少ないと溶接部近傍の軟化を抑制することができず、多すぎると時効性が大きくなり延性が劣化するため、20〜300ppmに制限する。
Nb,TiおよびBは、Nと、またTiはSと析出物を形成するため、微量に添加することで上述のような固溶Nおよび硫化物形態の制御に有効に働き、本発明の効果をより顕著にする。一方、多すぎると固溶Nおよび硫化物の形態が好ましくないものとなり、本発明の効果を損なうばかりでなく、鋼板の再結晶温度を上昇させ焼鈍時の通板性を阻害する傾向なので望ましくない。望ましい範囲はNb:0.0005〜0.0050%、Ti:0.0005〜0.0050%、B:0.0010%以下である。
Oは、本発明で重要な要因である酸化物形態を適当に制御するために重要な元素である。少なすぎると溶接時の発熱による材質軟化を抑制するための酸化物量が不足し、十分な効果が得られにくい。また多すぎると成形時の破壊の起点となるため、添加する場合は0.0015〜0.0090%とする。好ましくは0.0030〜0.0090%である。
本発明で酸素量が顕著な効果を示す原因は明確ではないが、微細な酸化物が溶接時の高温域での粒成長を抑制することと、微細な酸化物そのものが溶接部近傍程度での温度上昇では形態変化せず、軟化抑制効果を維持できるためと考えられる。実際には鋼板中のFe,Al,SiおよびMnの酸化物のサイズおよび数、密度の規定が重要となるが、Al,Si,MnおよびOを本発明の範囲にしておけば、通常の製造条件であれば酸化物形態は好ましく制御され、望ましい効果を得ることができる。
Cu,Ni,Crは、鋼板の耐食性を向上させると共に溶接時の材質軟化を抑制する働きがあるため、必要に応じて含有させる。多すぎると材料の延性劣化の原因ともなるため、添加する場合はCu:0.0005〜0.050%、Ni:0.0005〜0.100%、Cr:0.0005〜0.100%とするのが望ましい。
Snは、一般に鋼板の粒界に偏析する元素である。溶接時の発熱による異常粒成長を抑制し材質軟化を抑える効果があることから、鋼中に含有させることができる。過剰な添加は延性を劣化させることから、添加する場合は0.0002〜0.0050%とするのが望ましい。
本発明鋼板では、硫化物の存在形態を適当に制御することで溶接部の軟化を抑制し、良好な特性を得られる。硫化物のサイズ、数、密度などを特定することもできるが、本発明では鋼中の硫化物について、(Cu硫化物として存在するS)/(Mn硫化物として存在するS)<0.30とする。これによる効果の原因は明確ではないが、CuSはMnSに比べ高温での安定性が低いため、溶接時の温度上昇により溶解または粗大化し、材料の軟化抑制効果が消失しやすいためと考えられる。
ここで(Cu硫化物として存在するS)とは、鋼板を電解抽出して得た残渣中のCu量を定量し、原子比でCu/S=2/1としてS量に換算したものであり、(Mn硫化物として存在するS)とは、鋼板を電解抽出して得た残渣中のMn量を定量し、原子比でMn/S=1/1としてS量に換算したものである。
(Cu硫化物として存在するS)/(Mn硫化物として存在するS)<0.30とするための方法は特に限定されるものではないが、例えば、成分特にMn、Cuの比を特定することで可能である。あるいは熱延条件、特に熱延入口〜巻取り開始までの冷却平均冷却速度の制御等(例えば冷却速度を10℃/秒〜50℃/秒とすること等)、あるいはこれらの組み合わせによっても可能である。
本発明鋼は溶鋼を連続鋳造、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍ののち、鋼板形状または材質制御のため再冷延を施して製造される。この際の再冷延の圧下率が高い、すなわち加工効果により硬化させた鋼板では、溶接時の温度上昇による溶接部近傍での回復が容易となり軟化しやすくなるため、この圧下率20%以下とすることが好ましい。
また、鋼板の絞り性、二次加工などの加工性、耐食性、各種工程での通板性など本明細書で述べていない特性を向上させるために、W,Mo,Ca,V,Sbなどを含有させた場合にも、本発明の効果は何ら失われるものではない。
通常、本発明鋼板は表面処理鋼板用の原板として使用されるが、表面処理により本発明の効果はなんら損なわれるものではない。缶用表面処理としては通常、錫クロム(ティンフリー)、ニッケル、亜鉛、アルミなどが施される。また、近年使用されるようになっている有機皮膜を貼ったラミネート鋼板用の原板としても、本発明の効果を損なうことなく使用できる。
以下、請求項17および18に関わる発明を詳細に説明する。
本発明鋼では酸化物、窒化物、硫化物などの第二相を主としてFeからなる母相中に分散させることが特徴であるが、発明の効果を有効に得るにはその形態を適度に制御する必要がある。このためには特に熱延工程以前の熱履歴を制御することが有効である。一例としては溶鋼を連続鋳造で鋼片とした後、熱間圧延を開始するまでの1000〜1300℃温度域の熱履歴を、温度(℃)×時間(分)≦200,000として熱間圧延を開始し、熱間仕上圧延開始から仕上圧延完了後の巻取りまでの平均冷却速度を30℃/秒以下とした熱延を行うことが好ましい。この理由は明確ではないが、高温で長時間保持を行なうと硫化物や窒化物が粗大化、特に酸化物を析出核として非常に大きな第二相として分散することになるため溶接時の熱影響に起因した鋼板の軟化抑制効果が小さくなるためと考えられる。また熱間仕上圧延以降、一般的には1000℃程度以下の温度域での冷却速度が過度に速くなることは好ましくない。これはこの温度域での冷却速度が速いとこれ以前に溶解していたNやSが窒化物または硫化物として析出する際のサイズが非常に細かくなり、製品板の溶接時の熱によっても溶解してしまい材料の軟化を抑制する効果が消失しやすくなるためと考えられる。特にこの工程での冷却速度が速いとSはCu硫化物を形成し易くなるため、溶接時の熱的な安定性がさらに低下することとなる。これらを考慮し硫化物、窒化物を適度な形態に制御するための条件として、溶鋼を連続鋳造で鋼片とした後、熱間圧延を開始するまでの1000〜1300℃温度域の熱履歴を、温度(℃)×時間(分)≦200000 として熱間圧延を開始し、熱間仕上圧延開始から仕上圧延完了後の巻取りまでの平均冷却速度を30℃/秒以下とする方法が推薦される。このうち溶鋼を連続鋳造で鋼片とした後、熱間圧延を開始するまでの1000〜1300℃温度域の熱履歴を、温度(℃)×時間(分)≦200,000とする方法としては鋳造後、加熱炉等に保持することなく熱間圧延を開始するいわゆる直送圧延(CC−DR)や、鋳造スラブ厚さを薄くし熱間圧延を簡省略するいわゆる薄肉CCなども含むものとする。
溶接部の加工性評価は図1に示すように、通常の3ピース飲料缶の缶胴部の製缶と同様に、四角形の鋼板をシーム溶接で溶接し、溶接線で接合して円筒状にし、開口部に円錐状の金型を押し込むことで開口部を押し広げ、開口端に割れが発生するまでの変形量を下記1式により算定して行った。
{(割れ発生時の径)−(初期径)}/(初期径)………1式
溶接部の強度は図2に示すように、二枚の四角形の鋼板をちり発生直前の溶接電流にてスポット溶接し、引張試験を行った際の最大荷重から評価した。
溶接部の疲労強度は、図1と同様に成形した円筒状の溶接缶胴から溶接部を中央に有する幅20mmの短冊を図3のように切り出し、片ぶりの引張疲労試験を行い、1000万回の繰り返しに耐える最大荷重から評価した。
ヒートバックルについては同一板厚、同一幅の冷延コイルを再結晶温度+40℃で同一の連続焼鈍ラインを通板した際の、ヒートバックル発生の有無で判定し、○:発生せず、△:わずかに発生、×:顕著に発生、とした。
発明の効果は、上の4点について総合的に判定し、◎:非常に良好(発明鋼)、○:良好(発明鋼)、△:一部の特性が良好(発明鋼)、×:従来並み(比較鋼)とした。
(実施例1の1)
表1に示す各成分の鋼を250mm厚のスラブに鋳造の後、スラブ加熱温度1150℃、巻取り温度650℃で2.0mm厚の熱延板を製造し、酸洗、92%の冷間圧延、680℃1分の焼鈍後、3%のスキンパス圧延を行い、0.16mm厚の鋼板を製造して評価を行った。
表2から明らかなように、本発明の範囲内で製造されたものは溶接部の加工性、強度および疲労強度、さらに耐ヒートバックル性の全てに良好な特性が得られている。
(実施例1の2)
表3に示すTi,Nb量が異なる鋼について評価を行った。製造条件は実施例1と同様である。
表4から明らかなように、好ましい範囲内で製造されたものは溶接部の加工性、強度および疲労強度、さらに耐ヒートバックル性の全てに特に良好な特性が得られている。
(実施例1の3)
表5に示すCuSとMnSの比が異なる鋼について評価を行った。製造条件は実施例1と同様である。
表6から明らかなように、好ましい範囲内で製造されたものは溶接部の加工性、強度および疲労強度、さらに耐ヒートバックル性の全てに特に良好な特性が得られている。
(実施例1の4)
熱延以降の製造条件が異なる鋼板について評価を行った。熱延時のスラブ加熱温度、巻取り温度、および冷延後の焼鈍温度以外の条件は実施例1と同様である。その結果を図4及び図5に示す。
図4は(AlNとして存在するN)/(BNとして存在するN)と加工性との関係を、図5は(AlNとして存在するN)/(BNとして存在するN)と疲労強度との関係をそれぞれ示す。
これらの図において、製造条件は次の通りである。
製造条件1:スラブ加熱温度>1100℃、
または巻取り温度<730℃、
または焼鈍温度<700℃。
製造条件2:スラブ加熱温度<1100℃、
かつ巻取り温度>730℃、
かつ焼鈍温度>700℃。
図4、図5から明らかなように、好ましい範囲内で製造されたものは、溶接部加工性および疲労強度で特に良好な特性が得られている。
以上述べたごとく本発明によれば、溶接部を有する容器の溶接に起因する成形不良および使用中の破壊を低減することができる。さらに、本発明鋼は従来材より低い焼鈍温度でも良好な特性を示すことから、ヒートバックルの発生を回避でき、極薄容器材料の高効率な製造が可能となる。
Figure 0004268521
Figure 0004268521
Figure 0004268521
Figure 0004268521
Figure 0004268521
Figure 0004268521
溶接部の加工性評価は、図6に示すように、通常の3ピース飲料缶の缶胴部の製缶と同様に、四角形の鋼板をシーム溶接で円筒状にし、開口部に円錐状の金型を押し込むことで開口部を押し広げ、開口端に割れが発生するまでの変形量を下記式(1)により算定して行った。
{(割れ発生時の径)ー(初期径)}/(初期径)………(1)
溶接部の強度は、図7に示すように、二枚の四角形の鋼板をちり発生直前の溶接電流にてスポット溶接し、引張試験を行った際の最大荷重から評価した。
溶接部の疲労強度は、図6と同様に成形した円筒状の溶接缶胴から溶接部を中央に有する幅20mmの短冊を図8のように切り出し、片ぶりの引張疲労試験を行い、1000万回の繰り返しに耐える最大荷重から評価した。
ヒートバックルについては、同一板厚、同一幅の冷延コイルを再結晶温度+40℃で同一の連続焼鈍ラインを通板した際の、ヒートバックル発生の有無で判定し、○:発生せず、△:わずかに発生、×:顕著に発生、で示した。
発明の効果は、上の4点について総合的に判定し、◎:非常に良好(発明鋼)、○:良好(発明鋼)、△:一部の特性が良好(発明鋼)、×:従来並み(比較鋼)とした。
(実施例2の1)
表7に示す各成分の鋼を250mm厚のスラブに鋳造の後、スラブ加熱温度1150℃、巻取り温度520〜730℃で2.2mm厚の熱延板を製造し、酸洗、92%の冷間圧延、660〜720℃で1分の焼鈍後に10%の圧延を行い、0.16mm厚の鋼板を製造し評価を行った。結果を表8に示す。
表8から明らかなように、本発明の範囲内で製造されたものは、溶接部の加工性、強度および疲労強度、さらに耐ヒートバックル性のすべてに良好な特性が得られている。
Figure 0004268521
Figure 0004268521
(実施例2の2)
表9に示すO量が異なる鋼について評価を行った。製造条件は実施例1と同様である。結果を表10に示す。
表10から明らかなように、好ましい範囲内で製造されたものは溶接部の加工性、強度および疲労強度、さらに耐ヒートバックル性のすべてに特に良好な特性が得られている。
Figure 0004268521
Figure 0004268521
(実施例2の3)
表11に示すCu量が異なる鋼について評価を行った。製造条件は実施例1と同様である。結果を表12に示す。
表12から明らかなように、好ましい範囲内で製造されたものは溶接部の加工性、強度および疲労強度、さらに耐ヒートバックル性のすべてに特に良好な特性が得られている。
Figure 0004268521
Figure 0004268521
溶接部の加工性評価方法を示す図。 引張試験による溶接部の評価方法を示す図。 溶接部の疲労強度の評価方法を示す図。 (AlNとして存在するN)/(BNとして存在するN)と加工性との関係を示す図。 (AlNとして存在するN)/(BNとして存在するN)と疲労強度との関係を示す図。

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C :0.0050%以下、
    Si:0.015〜2.00%、
    Mn:0.05〜2.00%、
    P:0.005〜0.080%
    Al:0.040%以下、
    N :0.0060%以下、
    O:0.0010〜0.0070%、
    BをB/N:0.40〜2.00となるように含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    かつ鋼中のAlNおよびBNが
    (AlNとして存在するN)/(BNとして存在するN)≦0.40
    であり、
    かつAl/B:6以下、
    鋼中の硫化物について、
    (Cu硫化物として存在するS)/(Mn硫化物として存在するS)≦0.10
    であることを特徴とする溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
  2. 質量%で、さらに、Ti:0.010%以下、Nb:0.010%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の成分からなる鋼を用いて、通常の製造工程により容器用鋼板を製造するに際し、熱間圧延におけるスラブ加熱温度を1100℃以上、熱間圧延を開始するまでの1000〜1300℃温度域の熱履歴を、温度(℃)×時間(分)≦200,000、熱間仕上圧延開始から仕上圧延完了後の巻取りまでの平均冷却速度を30℃/秒以下とした熱延を行い、熱間圧延における巻取り温度を730℃以下、冷間圧延後の焼鈍温度を700℃以下とすることを特徴とする溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板の製造方法。
  4. 質量%で、
    C :0.0005〜0.040%、
    Si:0.002〜0.50%、
    Mn:0.03〜2.00%、
    P :0.002〜0.080%、
    S :0.0100〜0.0600%、
    Al:0.0010〜0.0410%、
    N :0.0020〜0.0300%
    を含み、
    Nb:0.0005〜0.0050%、Ti:0.0005〜0.0050%、B:0.0010%以下の1種以上、
    Cu:0.0005〜0.050%、Ni:0.0005〜0.100%、Cr:0.0005〜0.100%の1種以上
    を含有し、かつ鋼板中に固溶するNが20〜300ppm、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
  5. 更に、質量%で、O:0.0015〜0.0090%を含有することを特徴とする請求項記載の溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
  6. 鋼中の硫化物について、
    (Cu硫化物として存在するS)/(Mn硫化物として存在するS)<0.30
    であることを特徴とする請求項4または5に記載の溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板。
  7. 請求項のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、溶鋼を連続鋳造ののち熱間圧延に際し、熱間圧延を開始するまでの1000〜1300℃温度域の熱履歴を、温度(℃)×時間(分)≦200,000、熱間仕上圧延開始から仕上圧延完了後の巻取りまでの平均冷却速度を30℃/秒以下とした熱延を行い、熱間圧延における巻取り温度を730℃以下、冷間圧延後の焼鈍温度を700℃以下、圧下率20%以下で二次冷間圧延を行うことを特徴とする溶接部の成形性および疲労特性に優れた容器用鋼板の製造方法。
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