JP4275377B2 - エレベーター用ブレーキ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ブレーキドラムに対して可動ブレーキシューを押圧することにより制動力を得るエレベーター用ブレーキ制御装置に関し、特にブレーキギャップ調整やブレーキ動作確認などの保守作業を大幅に軽減するとともに、制動時にブレーキシューとブレーキドラムとが衝突することによって発生する落下音を低減したエレベーター用ブレーキ制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ブレーキドラムに対して可動ブレーキシューを押圧することにより制動力を得るエレベーター用ブレーキ制御装置はよく知られている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
この種のブレーキ制御装置においては、ブレーキ制動時またはブレーキ開放時を示す指令に応答して、ブレーキコイル(直流電磁石)を消勢または付勢することにより、アーマチュアと一体のブレーキシューを駆動するようになっている。
【0003】
【特許文献1】
特開平9−267982号公報(図2、図11)
【特許文献2】
特開平6−200961号公報
【0004】
特許文献1のエレベーター用ブレーキ制御装置において、エレベーターかごは、巻上モータにより昇降駆動され、巻上モータに設けられたブレーキドラムにブレーキシューが押付けられることによって制動される。このとき、ブレーキシューとブレーキドラムとの摩擦力は、バネの付勢力により得られる。
一方、エレベーターの起動時には、電磁石を構成するブレーキコイルに電流を供給することにより、ブレーキシューと一体のアーマチュアをバネ力に抗して吸引し、ブレーキドラムを開放する。
【0005】
このとき、エレベーターの起動時(ブレーキコイル付勢時)においては、ブレーキ接点によりアーマチュアの動作位置を検出して吸引完了を判定する。また、制動時(ブレーキコイル消勢時)においては、ブレーキコイルの抵抗値およびリアクタンス値によって定まる時定数に応じてコイル電流値を減少させる。
ブレーキ制動時において、電磁石の消勢によりアーマチュア吸引力がバネ力よりも小さくなると、ブレーキコイルとアーマチュアが離れ、アーマチュアおよびブレーキシューは、バネ力に引かれてブレーキドラム側に落下する。
【0006】
次に、上記特許文献1によるエレベーター用ブレーキ制御装置の動作原理について説明する。
たとえば、ブレーキ開放時(電磁石の励磁時)と、ブレーキ制動時(電磁石の励磁電流遮断時)のコイル電流指令値およびコイル電流と、電磁石とアーマチュアとのギャップ変化(特許文献1の図11参照)とを考慮した場合、ブレーキ開放指令によりブレーキコイルに電流が流れ始めると、電磁石とアーマチュアとの間のギャップは、コイル電流の供給開始時点からゆっくりと狭くなる。
【0007】
しかし、コイル電流による発生磁束は、ギャップの2乗に反比例して増加するので、電磁石へのアーマチュアの接近途中から急激にギャップが狭くなり、電磁石とアーマチュアは瞬時に接触する。電磁石へのアーマチュアの吸引が完了した後は、磁気回路の磁気抵抗が減少することから、ブレーキコイルに流れる励磁電流が少なくてもバネ力に打ち勝つ吸引力が発生するので、この時点でコイル電流を低減させる。
【0008】
その後、ブレーキ制動指令が生成された時点で、指令コイル電流値を零にすると、コイル電流が所定の時定数で減少することから、電磁石とアーマチュアとのギャップは、ゆっくりと開き始めるが、上記ブレーキ開放時と同じ理由で、途中から急激にギャップが開くので、この急激な動作により、ブレーキシューがブレーキドラムに急激に押圧される。
このように、ブレーキ開放時およびブレーキ制動時においてブレーキシューが急動作すると、アーマチュアの電磁石側への落下音およびブレーキシューのブレーキドラム側への落下音が大きくなり、かご内の乗客に不快感を与えることになる。
【0009】
このうち、ブレーキ開放時における落下音は、たとえば電磁石側に弾性ゴムなどの緩衝材を設けることにより、比較的容易に軽減させることができるが、ブレーキ制動時における落下音については、ブレーキシューとブレーキドラムとの接触面に緩衝部材などを設けることができないので、解消することは困難である。
特に、昨今における巻上機の小型化により、ブレーキシューおよびブレーキドラムを含むブレーキ機構自体の小型化が余儀なくされることから、ブレーキシューなどを小さく設計する必要があり、所望の制動力を得るためにはバネ力を大きくしなければならないので、ブレーキシューの落下音は無視できないレベルとなっている。
また、各種の規制緩和にともなって、巻上機自体を昇降路内に設置することが可能となったために、さらにブレーキ落下音がかご内騒音として顕著に現れる結果となっている。
【0010】
そこで、このようなブレーキ制動時の衝突音を抑制するために、従来のコイル電流制御(特許文献1の図2参照)においては、最初にブレーキ開放指令を受けると、コイル電流の指令値としてランプ状(漸増パターン)の電流指令を出力し、コイル電流を漸増させることにより、アーマチュアに作用する吸引力を漸増させている。これにより、電磁石とアーマチュアとのギャップは、ゆっくりと狭くなり、アーマチュアが電磁石に衝突する速度が低減され、音が小さくなる。
同様に、ブレーキ制動指令を受けると、ブレーキコイルの励磁電流をランプ状に漸減させて、アーマチュアを電磁石からゆっくりと離れさせ、続いて、アーマチュアのギャップが急激に開くのを防ぐために、コイル電流を漸増させる。
これにより、アーマチュアおよびブレーキシューのブレーキドラムへの接近時に、コイル吸引力が増加するので、ブレーキシューがブレーキドラムと接触する際の衝突速度を抑制することができ、衝突音を低減させることができる。
【0011】
しかし、上記従来方法では、ブレーキ落下のタイミングを決定する時刻および具体的なコイル電流値が不明であり、これらの値は、ギャップ設定やブレーキ個体差により大きく変動する。
また、コイル電流値を漸増させる時間や電流値が、理想状態から外れると、ブレーキシューのブレーキドラムに対する衝突速度が十分に低下しない場合や、逆に、落下速度低下用の吸引力が大きくなり過ぎて、アーマチュアが電磁石に引き戻されてしまい、目的とするブレーキ制動が阻害されるおそれがある。
【0012】
また、特許文献2においては、ブレーキ開放動作時に、アーマチュア動作に関するセンサ情報を用いて、ブレーキコイル(電磁石)に対するアーマチュアの衝突速度を抑制している。しかしながら、特許文献2において、ブレーキ制動時にセンサ情報を用いて落下速度を抑制することについては考慮されていない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
従来のエレベーター用ブレーキ制御装置は以上のように、ブレーキ落下時の衝突音を低減するために、コイル電流をランプ制御しているが、ギャップ設定やブレーキ個体差によるばらつきが大きいことから、ブレーキ調整とともに制御パラメータ(具体的なタイミングや電流値)の調整が必要となるので、多大な労力を要するという問題点があった。
また、温度変化や経年変化などの不確定外乱が発生した場合には、衝突音の低減効果がほとんど期待できないという問題点があった。
【0014】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、アーマチュアの位置または速度を検出するセンサ手段を設け、センサ情報に基づいてブレーキギャップを調整することにより、ブレーキ調整作業が容易で、外乱に作用されずにブレーキの衝突音を低減することのできるエレベーター用ブレーキ制御装置を得ることを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るエレベーター用ブレーキ制御装置は、エレベーターのかごを昇降駆動する巻上モータと、巻上モータに設けられたブレーキドラムと、ブレーキドラムに対して摺動することにより制動力を発生するブレーキシューと、ブレーキシューをブレーキドラム側に押圧するためのバネと、ブレーキシューに連結されたアーマチュアと、アーマチュアをバネの付勢力に抗して吸引するための電磁石を構成するブレーキコイルと、アーマチュアのブレーキドラム側への変位に対応した位置情報、またはアーマチュアのブレーキドラム側への落下速度に対応した速度情報を、センサ情報として出力するセンサ手段と、少なくともブレーキ制動時において、センサ情報に基づいて、ブレーキコイルに供給するコイル電流の指令値となる制御電圧を出力する制御装置と、ブレーキドラムの制動面とブレーキシューとの間のブレーキギャップを調整するブレーキギャップ調整機構とを備え、ブレーキギャップは、センサ情報に基づいて調整されるエレベーター用ブレーキ制御装置において、センサ情報は、ブレーキ接点に相当する信号を含み、制御装置は、位置情報を上限位置基準値と比較するとともに、速度情報を下限速度基準値と比較する比較器を含み、センサ情報に基づいて、巻上モータのブレーキ制動状態およびブレーキ開放状態を判定するとともに、ブレーキ制動時において、位置情報が上限位置基準値よりも大きく、且つ、速度情報が下限速度基準値よりも小さくなった時点で、制御電圧の出力を停止させ、上限位置基準値は、ブレーキシューがブレーキドラムに衝突する直前の状態までのアーマチュアの移動量に対応し、下限速度基準値は、零に近い値に設定されたものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に関連したエレベーター用ブレーキ制御装置を示す構成図である。
図1において、エレベーターのかご1は、巻上機のシーブ2に巻き掛けられた主索3により、他端側の釣合おもり4とともにつるべ式に吊持されており、巻上モータ5によって昇降駆動される。
ブレーキドラム6は、巻上モータ5とシーブ2とを結合する軸上に設置されており、バネ7の付勢力によってブレーキシュー8がブレーキドラム6に押付けられたときの摩擦力により、制動力を得るようになっている。
【0017】
制御装置9は、エレベーターの起動時において、直流電磁石を構成するブレーキコイル10に電流を流して付勢し、ブレーキシュー8と一体に連結されたアーマチュア11を、バネ7の付勢力(ブレーキシュー8のブレーキドラム6側への押圧力)に打ち勝って、ブレーキコイル10(電磁石)側に吸引する。
このとき、アーマチュア11のブレーキコイル10側への移動面の近傍には、ブレーキ接点12が配置されており、吸引時にブレーキ接点12がオンされることにより、アーマチュア11の吸引が完了したことを検出することができる。
【0018】
一方、制動時において、制御装置9がブレーキコイル10を消勢すると、ブレーキコイル10の電流値は、ブレーキコイル10の抵抗値およびリアクタンス値により定まる時定数に応じて減少する。これにともない、吸引力が減少してバネ7の付勢力よりも小さくなると、ブレーキコイル10とアーマチュア11とが離れ、アーマチュア11およびブレーキシュー8は、バネ7の付勢力に引かれてブレーキドラム6側に落下する。
【0019】
ブレーキシュー8とアーマチュア11との連結部には、ブレーキドラム6の制動面とブレーキシュー8との間のブレーキギャップを調整するためのブレーキギャップ調整機構13が設けられている。
制御装置9には、変位センサ14が接続されており、変位センサ14は、アーマチュア11の変位に対応した位置情報(センサ情報)を生成して制御装置9に入力する。
【0020】
制御装置9は、センサ情報に基づいて、ブレーキコイル10(電磁石)に供給するコイル電流を制御する。
また、制御装置9は、センサ情報を格納するメモリおよびディスプレイなどの出力手段(図示せず)を有しており、必要時にオペレータにセンサ情報を提供するようになっている。これにより、オペレータは、センサ情報を参照しながら、ブレーキギャップ調整機構13を操作し、ブレーキギャップを調整することができる。
【0021】
図2は図1内の制御装置9を具体的に示すブロック構成図である。
図2において、制御装置9は、変位センサ14からのセンサ情報(位置情報)Xを微分して速度情報Vを出力する微分器15と、微分器15からの速度情報VをK1倍に増幅して電圧指令Eとしてブレーキコイル10に供給する速度増幅器16とを備えている。
【0022】
次に、図3を参照しながら、図1および図2に示したエレベーター用ブレーキ制御装置の制御装置9の動作について説明する。
図3はこの発明の実施の形態1による制御装置9の動作を示すタイミングチャートである。
図3において、横軸は時間tを示しており、(a)はブレーキコイル10に供給される電圧指令Eの波形、(b)は変位センサ14により検出されるアーマチュア11の位置情報(変位)Xの時間変化、(c)はアーマチュア11の速度Vの時間変化を示している。図3(b)、(c)において、一点鎖線は、従来装置による動作波形である。
【0023】
まず、ブレーキ開放時においては、時刻T1にブレーキコイル10に吸引電圧を印加する。これにより、コイル電流が流れ、電磁石がバネ7に打ち勝ってアーマチュア11を吸引する。
続いて、時刻T2において、変位センサ14がアーマチュア11の吸引完了を検出すると、ブレーキコイル10に保持電圧を印加する。
このときの保持電圧は、吸引電圧よりも低い値に設定され、吸引状態での電磁石の吸引力がバネ7の付勢力よりも僅かに大きくなるように設定されており、アーマチュア11の吸引時におけるブレーキコイル10の発熱を抑制している。
【0024】
次に、保持電圧がブレーキコイル10に印加された状態で、ブレーキ機構によりかご1を制動させる場合には、時刻T4において、図3(a)に示すように、ブレーキコイル10の印加電圧を、保持電圧から瞬時に零に設定する。
これにより、ブレーキコイル10の電流は低下を開始し、コイル電流による吸引力がバネ7の付勢力よりも小さくなると、アーマチュア11およびブレーキシュー8は、ブレーキドラム6側に落下し始め、アーマチュア11の落下速度Vは、図3(c)に示すように加速を始める。
【0025】
制御装置9は、変位センサ14からの位置情報Xにより、アーマチュア11が動き始めたことを検出すると、微分器15により位置情報Xを微分して速度情報Vとし、微分器15からの速度情報Vを速度増幅器16で増幅し、電圧指令E(制御電圧)としてブレーキコイル10に供給する。
なお、図3(a)に示すように、電圧指令Eは、アーマチュア11およびブレーキシュー8のブレーキドラム6への落下動作終了後の所定時刻T6まで与えられる。
また、速度増幅器16の増幅倍率(ゲイン)K1は、アーマチュア11をブレーキコイル10に引き戻さない程度の値に設定されている。
【0026】
上記のように、アーマチュア11およびブレーキシュー8のブレーキドラム6への落下開始後に、ブレーキ落下速度(速度情報V)を抑制するようにブレーキコイル10への印加電圧(コイル電流)を制御することにより、ブレーキ落下速度Vは、従来装置の速度変化(図3(c)内の一点鎖線参照)に対して、所定値以下の値まで遅くなるので、ブレーキシュー8がブレーキドラム6に衝突するときに発生するブレーキ動作音を小さくすることができる。
また、この発明の実施の形態1において、変位センサ14は、ブレーキ接点12の代用として機能するので、ブレーキ接点12を省略することもできる。また、ブレーキギャップ調整機構13を用いたギャップ調整時において、変位センサ14は、制御装置9と協働して測定装置としても機能するので、ブレーキ点検および調整などの保守作業を大幅に軽減させることができる。
【0027】
ここでは、アーマチュア11の位置情報Xまたは速度情報Vを検出するセンサ手段として、変位センサ14および微分器15の組合せを用いたが、代わりに、速度センサ(後述する)と積分器(図示せず)との組合せを用いてもよく、加速度計(図示せず)と2つの積分器(速度情報算出用の積分器、および、位置情報算出用の積分器)との組合せを用いてもよい。
【0028】
上記説明では、単に、速度情報Vに応じて電圧指令E(コイル電流)を制御したが、位置情報Xおよび速度情報Vをそれぞれの上限位置基準値Xcおよび下限速度基準値Vcと比較し、位置情報Xが上限位置基準値Xcよりも大きく、且つ、速度情報Vが下限速度基準値Vcよりも小さくなった時点で、電圧指令E(コイル電流)の制御出力を停止させることが望ましい。
以下、制御装置に比較器を設けたこの発明の実施の形態1について説明する。
図4はこの発明の実施の形態1による制御装置9Aを示すブロック構成図であり、前述(図2参照)と同様のものについては、同一符号を付して、または同一符号の後に「A」を付して、詳述を省略する。また、図4に示されない構成は、図1に示した通りである。
【0029】
図4において、制御装置9Aは、前述と同様の微分器15および速度増幅器16に加えて、比較器17および切替スイッチ18を備えている。
比較器17は、アーマチュア11(図1参照)の位置情報Xおよび速度情報Vをそれぞれの上限位置基準値Xcおよび下限速度基準値Vcと比較し、位置情報Xが上限位置基準値Xcよりも大きくなり、且つ、速度情報Vが下限速度基準値Vcよりも小さくなった時点で、ブレーキシュー8がブレーキドラム6に衝突する直前の状態と見なして、切替スイッチ18に対する切替指令を出力する。
切替スイッチ18は、比較器17からの切替指令に応答して開放(OFF)され、電圧指令E(コイル電流)の制御出力を停止させるようになっている。
【0030】
なお、上限位置基準値Xcおよび下限速度基準値Vcは、ブレーキシュー8がブレーキドラム6に衝突する直前の状態に対応するように設定されている。
また、衝突直前状態の判定条件として、位置情報Xおよび速度情報Vと上限位置基準値Xcおよび下限速度基準値Vcとの両方の比較結果を用いる理由は、以下の通りである。
たとえば、ブレーキ制動時の制動開始直後においては落下速度が遅いので、仮に速度情報Vのみを制御電圧Eの停止条件に用いたとすると、落下開始直後に制御電圧Eの出力を停止してしまう。したがって、このような不具合を回避するために、或る程度以上の位置情報X(落下距離)が検出された段階で、速度情報Xを監視することが望ましい。
【0031】
次に、図4に示したこの発明の実施の形態1による制御装置9Aの動作について説明する。
まず、ブレーキ制動時において、制御装置9Aは、前述と同様に、ブレーキコイル10の印加電圧を保持電圧から零にする。
このとき、制御装置9Aは、アーマチュア11の移動開始を変位センサ14で検出すると、切替スイッチ18を投入(ON)して、速度増幅器16の出力信号をブレーキコイル10に出力する。
【0032】
また、比較器17は、変位センサ14からの位置情報Xが、アーマチュア11およびブレーキシュー8の落下距離に近い上限位置基準値Xc(たとえば、落下距離の80%)を越え、且つ、微分器15からの速度情報Vが、アーマチュア11が電磁石側に引き戻されることのない下限速度基準値Vcよりも小さくなったことを検出すると、切替指令を出力する。
この切替指令に応答して、切替スイッチ18は、開放(OFF)され、速度増幅器16からブレーキコイル10に印加される電圧指令E(制御電圧)を遮断する。
【0033】
このように、アーマチュア11およびブレーキシュー8の落下中(ブレーキ制動時)において、比較器17は、ブレーキドラム6への落下量(位置情報X)および落下速度(速度情報V)を常に監視している。これにより、たとえば、制御電圧Eが過大となってアーマチュア11の速度が零に近付き、アーマチュア11がブレーキコイル10(電磁石)側に再度引き戻されそうになったとしても、位置情報Xおよび速度情報Vが規定値に達した時点で、切替スイッチ18をOFFさせて、直ちに制御電圧Eの出力を遮断することができる。
したがって、ブレーキ制動時におけるアーマチュア11の引き戻しを防ぐことができ、ブレーキの誤動作を回避することができる。
また、アーマチュア11の引き戻し防止機能が確保されることから、速度増幅器16の増幅倍率(ゲイン)K1を最大限に大きく設定することができるので、ブレーキ落下速度をさらに効果的に抑制することができ、ブレーキシュー8がブレーキドラム6に衝突するときに発生するブレーキ動作音をさらに小さくすることができる。
【0034】
上記実施の形態1では、ブレーキ制動時におけるアーマチュア11の引き戻し防止用の比較器17および切替スイッチ18を設けたが、落下速度抑制用の回路構成として、速度情報Vを上限速度基準値Vcxと比較する速度比較器を設け、速度情報が上限速度基準値よりも大きくなった時点で、速度増幅器のゲインを所定の割合で増加させてもよい。
以下、制御装置に速度比較器を設けた参考例1について説明する。
図5は参考例1による制御装置9Bを示すブロック構成図であり、前述(図2参照)と同様のものについては、同一符号を付して、または同一符号の後に「B」を付して、詳述を省略する。また、図5に示されない構成は、図1に示した通りである。
【0035】
図5において、制御装置9Bは、前述と同様の微分器15および速度増幅器16Bに加えて、速度比較器19を備えている。
速度比較器19は、ブレーキ制動時において、速度情報Vを上限速度基準値Vcxと比較し、速度情報Vが上限速度基準値Vcxよりも大きくなった時点で、速度増幅器16BのゲインK1を所定の割合で増加させるための指令信号を出力する。
【0036】
次に、図5に示した参考例1による制御装置9Bの動作について説明する。
まず、ブレーキ制動時において、制御装置9Bは、前述と同様に、ブレーキコイル10に印加される制御電圧Eを保持電圧から零に設定する。
このとき、制御装置9Bは、変位センサ14からの位置情報Xによりアーマチュア11の移動開始を検出すると、速度増幅器16Bからの制御電圧Eをブレーキコイル10に出力する。
また、速度比較器19は、微分器15からの速度情報Vが上限速度基準値Vcxを越えたことを検出すると、ゲイン更新用の指令信号を出力して、速度増幅器16Bの増幅倍率K1を所定の割合で増加させる。
【0037】
このように、アーマチュア11の落下速度(速度情報V)が規定値に達した時点で速度増幅器16Bの増幅倍率K1を自動的に増大設定することにより、ブレーキ落下速度をさらに効果的に抑制することができ、ブレーキシュー8がブレーキドラム6に衝突するときに発生するブレーキ動作音をさらに小さくすることができる。
また、速度増幅器16Bの増幅倍率K1の調整が不要となるので、さらにブレーキの保守が容易となる。
【0038】
上記実施の形態1では、アーマチュア11のセンサ手段として変位センサ14を用い、速度情報Vを得るために微分器15を設けたが、センサ手段として速度センサを用い、速度センサから得られる速度情報Vを理想的な目標速度パターンに一致するように制御電圧Eを出力してもよい。
以下、センサ手段として速度センサ20を用いた参考例2について説明する。
図6は参考例2による制御装置9Cを示すブロック構成図であり、前述と同様のものについては、同一符号を付して、または同一符号の後に「C」を付して、詳述を省略する。また、図6に示されない構成は、図1に示した通りである。
【0039】
図6において、制御装置9Cには、前述の変位センサ14(図5参照)に代えて、アーマチュア11(図1参照)の速度情報Vを出力する速度センサ20が接続されている。
制御装置9Cは、アーマチュア11(図1参照)の目標速度パターンVdを生成する速度パターン発生器21と、速度情報Vと目標速度パターンVdとの速度偏差ΔVを算出する減算器Mと、速度偏差ΔVを増幅する速度偏差増幅器16Cとを備えている。
【0040】
次に、図6に示した参考例2による制御装置9Cの動作について説明する。
ブレーキ制動時において、制御装置9Cは、前述と同様にブレーキコイル10の印加電圧を保持電圧から零にする。
このとき、制御装置9Cは、速度センサ20からの速度情報Vによりアーマチュア11の移動開始を検出すると、減算器Mにおいて、速度情報Vと速度パターンVdとの速度偏差ΔVを算出し、さらに、速度偏差ΔVを速度偏差増幅器16Cで増幅し、ブレーキコイル10に対する制御電圧Eとして出力する。
【0041】
これにより、アーマチュア11の落下速度(速度情報V)は、速度パターン発生器21で指定した理想的な目標速度パターンVdに追従することになる。
したがって、ブレーキ制動時におけるブレーキ落下速度をより効果的に抑制することができ、ブレーキシュー8がブレーキドラム6に衝突するときに発生するブレーキ動作音をさらに小さくすることができる。
【0042】
上記参考例2では、速度情報Vと目標速度パターンVdとの速度偏差ΔVを増幅して制御電圧Eとしたが、目標速度パターンVdおよび速度情報Vとコイルモデル推定速度との各速度偏差の増幅値と、定常速度誤差の増幅値との総和を制御電圧Eとして出力してもよい。
以下、推定速度との速度偏差を用いて制御電圧を生成するようにした参考例3について説明する。
図7は参考例3による制御装置9Dを示すブロック構成図であり、前述(図6参照)と同様のものについては、同一符号を付して、または同一符号の後に「D」を付して、詳述を省略する。また、図7に示されない構成は、図1に示した通りである。
【0043】
図7において、制御装置9Dは、前述と同様の速度パターン発生器21D、減算器M1および速度偏差増幅器16Dに加えて、コイルモデル22と、第2の減算器(以下、単に「減算器」という)M2と、第2の速度偏差増幅器(以下、単に「速度偏差増幅器」という)23と、加算器Pとを備えている。
また、制御装置9は、速度偏差ΔV2の定常速度誤差成分の補償回路として、誤差積分器24と、誤差増幅器25とを備えている。
【0044】
コイルモデル22は、コイル電流の変化パターンをモデル化した理想的な推定速度Veを生成し、これを各減算器M1およびM2に入力する。
減算器M1は、目標速度パターンVdと推定速度Veとの速度偏差ΔV1を算出し、速度偏差増幅器16Dは、速度偏差ΔV1を増幅してコイルモデル22および加算器Pに入力する。
減算器M2は、推定速度Veと速度情報Vとの第2の速度偏差(以下、単に「速度偏差」という)ΔV2を算出し、速度偏差増幅器23は、速度偏差ΔV2を増幅して加算器Pに入力する。
誤差積分器24は、速度偏差ΔV2を積分し、誤差増幅器25は、誤差積分器24の出力値を増幅して加算器Pに入力する。
加算器Pは、速度偏差増幅器16D、23の各出力値と、誤差増幅器25の出力値とを加算し、制御電圧Eとして出力する。
【0045】
次に、図7に示した参考例3による制御装置9Dの動作について説明する。
まず、ブレーキ制動時において、制御装置9Dは、前述と同様に、ブレーキコイル10の印加電圧を保持電圧から零にする。
このとき、制御装置9Dは、速度センサ20からの速度情報Vによりアーマチュア11の移動開始を検出すると、減算器M1において、目標速度パターンVdと推定速度Veとの速度偏差ΔV1を算出し、速度偏差増幅器16Dにより速度偏差ΔV1を増幅して加算器Pに入力する。
【0046】
一方、減算器M2において、推定速度Veと速度情報Vとの速度偏差ΔV2を算出し、速度偏差増幅器23により速度偏差ΔV2を増幅して加算器Pに入力する。
さらに、誤差積分器24において速度偏差ΔV2を積分した後、増幅器25を介して増幅した出力値を加算器Pに入力する。
したがって、加算器Pは、速度偏差増幅器16D、23と、誤差増幅器25との各出力値を全て加算し、これをブレーキコイル10に対する制御電圧Eとして出力する。
【0047】
コイルモデル22としては、たとえば、ブレーキコイル10に関するパラメータ(コイル電圧e、コイル電流i、コイル抵抗値R、コイルインダクタンスL)と、ブレーキコイル10とアーマチュア11との間のアーマチュアギャップ(アーマチュア11の落下量)xとの関係を示した以下の式(1)を用いる。
【0048】
【0049】
式(1)において、コイル電圧eは、速度偏差増幅器16Dの出力値、すなわち、速度パターン発生器21Dから得られた理想的な目標速度パターンVdと、コイルモデル22からの推定速度Ve(=dx/dt)との速度偏差ΔV1を増幅した値であり、既知のパラメータ量である。
また、コイル電流iおよびその時間微分値di/dtは、測定値としてコイルモデル22に取り込むことができるので、これらも既知のパラメータ量となる。
さらに、コイル抵抗値Rも、ブレーキコイル10の設計時に決定する値であり、既知のパラメータ量である。
一方、アーマチュアギャップxに関連して決定されるコイルインダクタンスL(x)は、たとえば、以下の式(2)により算出される。
【0050】
L(x)=L0+L1/(x+X1) ・・・(2)
【0051】
ただし、式(2)において、L0、L1、X1は、それぞれ一定値(既知の値)である。
したがって、式(2)から、アーマチュアギャップxが分かれば、式(1)内のコイルインダクタンスLおよびその偏微分値∂L/∂xは、一意的に決定される。
また、式(1)を変形すると、アーマチュアの落下速度dx/dtは、以下の式(3)により与えられる。
【0052】
dx/dt=(e−Ri−Ldi/dt)/((∂L/∂x)×i)・・・(3)
【0053】
式(3)において、時刻tにおけるアーマチュアギャップxが分かれば、アーマチュア11の落下推定速度Ve(=dx/dt)が求められる。
たとえば、式(3)において、落下開始時刻t=0におけるアーマチュア11の落下量x(0)=0を用いて、落下開始時刻t=0における落下開始速度dx(0)/dtが与えられる。また、式(3)から得られた落下速度を時間積分することにより、時刻tにおけるアーマチュア落下量x(t)を推定することができる。
したがって、コイル電圧eを入力信号とするコイルモデル22は、時刻tにおけるアーマチュア落下量x(t)および落下速度Ve(t)を推定し、アーマチュア11の落下推定速度Ve(=dx/dt)を出力信号とすることができる。
【0054】
このように、図7に示したコイルモデル22を用いることにより、理想的な推定速度Vdに追従するために必要なコイル電圧eを予想することができるので、速度追従性能をさらに向上させることができる。
これにより、アーマチュア11の落下速度(推定速度Ve)は、コイルモデル22および速度パターン発生器21Dで設定される理想モデルに追従するように高精度に制御される。
また、外乱による理想モデルからの誤差に対しては、速度センサ20からの速度情報Vと理想的な推定速度Veとの速度偏差ΔV2を、速度偏差増幅器23により増幅して加算器Pに入力するとともに、速度偏差ΔV2を誤差積分器24で積分した後に、誤差増幅器25で増幅して加算器Pに入力し、制御電圧Eに加える。これにより、定常速度誤差を含んだモデル誤差の影響を抑制することができる。
したがって、アーマチュア11の落下速度をより効果的に抑制することができ、ブレーキシュー8がブレーキドラム6に衝突するときに発生するブレーキ動作音をさらに小さくすることができる。
【0055】
なお、コイルモデル22として、上記式(1)に基づく推定速度Veの算出に代えて、コイル電圧e、コイル電流iおよびアーマチュアギャップxの測定データから、アーマチュア11の落下時の推定速度Ve(=dx/dt)を一義的に出力するテーブルデータを用いてもよい。
【0056】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、エレベーターのかごを昇降駆動する巻上モータと、巻上モータに設けられたブレーキドラムと、ブレーキドラムに対して摺動することにより制動力を発生するブレーキシューと、ブレーキシューをブレーキドラム側に押圧するためのバネと、ブレーキシューに連結されたアーマチュアと、アーマチュアをバネの付勢力に抗して吸引するための電磁石を構成するブレーキコイルと、アーマチュアのブレーキドラム側への変位に対応した位置情報、またはアーマチュアのブレーキドラム側への落下速度に対応した速度情報を、センサ情報として出力するセンサ手段と、少なくともブレーキ制動時において、センサ情報に基づいて、ブレーキコイルに供給するコイル電流の指令値となる制御電圧を出力する制御装置と、ブレーキドラムの制動面とブレーキシューとの間のブレーキギャップを調整するブレーキギャップ調整機構とを備え、ブレーキギャップをセンサ情報に基づいて調整するエレベーター用ブレーキ制御装置において、センサ情報は、ブレーキ接点に相当する信号を含み、制御装置は、位置情報を上限位置基準値と比較するとともに、速度情報を下限速度基準値と比較する比較器を含み、センサ情報に基づいて、巻上モータのブレーキ制動状態およびブレーキ開放状態を判定するとともに、ブレーキ制動時において、位置情報が上限位置基準値よりも大きく、且つ、速度情報が下限速度基準値よりも小さくなった時点で、制御電圧の出力を停止させ、上限位置基準値は、ブレーキシューがブレーキドラムに衝突する直前の状態までのアーマチュアの移動量に対応し、下限速度基準値は、零に近い値に設定されているので、ブレーキ調整作業が容易で、外乱に作用されずにブレーキの衝突音を低減させるとともに、ブレーキ接点を不要としてブレーキ点検および調整などの保守作業を大幅に軽減させたエレベーター用ブレーキ制御装置が得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1に関連したエレベーター用ブレーキ制御装置を示す構成図である。
【図2】 図1内の制御装置を示すブロック構成図である。
【図3】 図1および図2内の制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】 この発明の実施の形態1による制御装置を示すブロック構成図である。
【図5】 この発明に関連した参考例1による制御装置を示すブロック構成図である。
【図6】 この発明に関連した参考例2による制御装置を示すブロック構成図である。
【図7】 この発明に関連した参考例3による制御装置を示すブロック構成図である。
【符号の説明】
1 かご、5 巻上モータ、6 ブレーキドラム、7 バネ、8 ブレーキシュー、9、9A、9B、9C、9D 制御装置、10 ブレーキコイル、11 アーマチュア、13 ブレーキギャップ調整機構、14 変位センサ、15 微分器、16、16B 速度増幅器、16C 速度偏差増幅器、16D 第1の速度偏差増幅器、17 比較器、18 切替スイッチ、19 速度比較器、20 速度センサ、21、21D 速度パターン発生器、22 コイルモデル、23 第2の速度偏差増幅器、24 誤差積分器、25 誤差増幅器、E 制御電圧(電圧指令)、M 減算器、M1 第1の減算器、M2 第2の減算器、P 加算器、V 速度情報、Vc 下限速度基準値、Vcx 上限速度基準値、Vd 目標速度パターン、Ve 推定速度、ΔV 速度偏差、ΔV1 第1の速度偏差、ΔV2 第2の速度偏差、X 位置情報、Xc 上限位置基準値。
Claims (1)
- エレベーターのかごを昇降駆動する巻上モータと、
前記巻上モータに設けられたブレーキドラムと、
前記ブレーキドラムに対して摺動することにより制動力を発生するブレーキシューと、
前記ブレーキシューを前記ブレーキドラム側に押圧するためのバネと、
前記ブレーキシューに連結されたアーマチュアと、
前記アーマチュアを前記バネの付勢力に抗して吸引するための電磁石を構成するブレーキコイルと、
前記アーマチュアの前記ブレーキドラム側への変位に対応した位置情報、または前記アーマチュアの前記ブレーキドラム側への落下速度に対応した速度情報を、センサ情報として出力するセンサ手段と、
少なくともブレーキ制動時において、前記センサ情報に基づいて、前記ブレーキコイルに供給するコイル電流の指令値となる制御電圧を出力する制御装置と、
前記ブレーキドラムの制動面と前記ブレーキシューとの間のブレーキギャップを調整するブレーキギャップ調整機構とを備え、
前記ブレーキギャップは、前記センサ情報に基づいて調整されるエレベーター用ブレーキ制御装置において、
前記センサ情報は、ブレーキ接点に相当する信号を含み、
前記制御装置は、
前記位置情報を上限位置基準値と比較するとともに、前記速度情報を下限速度基準値と比較する比較器を含み、
前記センサ情報に基づいて、前記巻上モータのブレーキ制動状態およびブレーキ開放状態を判定するとともに、
前記ブレーキ制動時において、前記位置情報が前記上限位置基準値よりも大きく、且つ、前記速度情報が前記下限速度基準値よりも小さくなった時点で、前記制御電圧の出力を停止させ、
前記上限位置基準値は、前記ブレーキシューが前記ブレーキドラムに衝突する直前の状態までの前記アーマチュアの移動量に対応し、
前記下限速度基準値は、零に近い値に設定されたことを特徴とするエレベーター用ブレーキ制御装置。
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