JP4273794B2 - 熱可塑性重合体、その製造方法および成形品 - Google Patents
熱可塑性重合体、その製造方法および成形品 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無色透明性、滞留安定性に極めて優れた高耐熱性熱可塑性共重合体及びその製造方法と該熱可塑性重合体からなる成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
スチレン系樹脂あるいはメタクリル酸エステル系樹脂は優れた機械的性質、成形加工性および外観を有しており、光学材料、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。しかしながら、これらの樹脂は耐熱性に劣るという欠点があり、その耐熱性を改良する目的で、耐熱性付与成分としてマレイミド系単量体あるいは無水マレイン酸単量体等を導入した樹脂が開発されている。しかし、マレイミド系単量体は高価であると同時に反応性が低く、無水マレイン酸は熱安定性が悪いという問題があった。
【0003】
これらの問題点を解決する方法として、不飽和カルボン酸単量体単位を含有する共重合体を押出機を用いて加熱して環化反応させることにより得られるグルタル酸無水物単位を含有する共重合体が特許文献1、2に開示されているが、不飽和カルボン酸単量体単位を含有する重合体を製造する際の重合温度が高いため、押出機を用いて該重合体を加熱処理して得られるグルタル酸無水物単位を有する共重合体は著しく着色するという問題があった。
【0004】
また、特許文献3、4、5には不飽和カルボン酸単量体単位を含有する重合体溶液を真空下で加熱することによりグルタル酸無水物単位を含有する共重合体を製造する方法が開示されている。しかし、これら公報に記載されている方法においても不飽和カルボン酸単量体を含有する重合体を溶液中で製造する際の重合温度が高いため、重合体を溶液のまま真空下で加熱しても、得られるグルタル酸無水物単位を含有する共重合体の着色抑制効果は十分ではなく、近年のより高度な無色性の要求を満たすものではなかった。さらに得られた共重合体を空気中で高温滞留させた際、著しく着色し滞留安定性(熱変色性)に劣り、リサイクル使用できないという問題があった。
【0005】
また、特許文献6、7、8には(次)亜リン酸系化合物や、ヒンダードフェノール系化合物の酸化防止剤添加により着色を低減する方法が開示されている。しかし、耐熱性の比較的低いグルタル酸無水物単位含有重合体の場合には効果は見られるものの、高い耐熱性と無色透明性を両立することができないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】
特開昭49−85184号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献2】
特開平1−103612号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献3】
特開昭58−217501号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献4】
特開昭60−120707号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献5】
特開平1−279911号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献6】
特開昭60−120735号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献7】
特開昭61−271343号公報(第1−2頁、実施例)
【特許文献8】
特開平9−48818号公報(第1−2頁、実施例)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
したがって本発明は、高度な耐熱性を有すると同時に、従来技術における加熱時の着色問題を解決し、加熱によって共重合体中にグルタル酸無水物単位を生成させる際の着色を抑制し、近年要求されている高度な無色透明性、滞留安定性を有する熱可塑性重合体およびその製造方法と該熱可塑性重合体からなる成形品を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、グルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体の前駆体である、前記不飽和カルボン酸単位を含有する共重合体を特定の重合温度で製造することにより、その加熱処理後の着色が顕著に抑制でき、従来の知見では成し得ることができなかった高度な無色透明性を達成し、かつ耐熱性、成形性、滞留安定性に優れた熱可塑性重合体を製造可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、および(iv)その他のビニル系単量体単位0〜35重量%を含有し、ジメチルホルムアミド溶液、30℃で測定した極限粘度が0.1〜0.7dl/gである熱可塑性重合体であって、該熱可塑性重合体が、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を90℃以下の温度で重合して共重合体(A)を得、次いでこの共重合体(A)を加熱し、(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコール反応を行うことで得られるものであり、280nm波長での吸光度(ここで、吸光度は、厚さ100μmのフィルムを用いて、紫外可視分光光度計で測定したときの値を示す)が0.5以下である熱可塑性重合体、
【0010】
【化5】
【0011】
(上記式中、R1、R2は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
[2]ガラス転移温度が130℃以上である[1]記載の熱可塑性重合体、
【0013】
[3]黄色度の値が5以下である[1]または[2]記載の熱可塑性重合体、
[4]熱可塑性重合体が、(i)上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位25〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜75重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位を10重量%以下、および(iv)その他のビニル系単量体単位を10重量%以下を含有する共重合体である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体、
[5]前記不飽和カルボン酸単位(iii)は、下記一般式(2)で表される構造を有する[1]〜[4]のいずれか1項記載の熱可塑性重合体、
【0014】
【化7】
【0015】
(ただし、R3は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表す)
[6]前記不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)は、下記一般式(3)で表される構造を有する[1]〜[5]のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体、
【0016】
【化8】
【0017】
(ただし、R4は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、R5は炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基を示す)
[7]ガラス転移温度+100℃で10分間滞留させた前後の黄色度差が5以下であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれか記載の熱可塑性重合体、
[8]不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を90℃以下の温度で重合して共重合体(A)を得、次いでこの共重合体(A)を加熱し、(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコール反応を行い、前記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体を製造する製造方法、
[9]共重合体(A)100重量部に対して、アルカリ金属化合物を0.01〜1重量部添加し、180〜300℃で加熱することを特徴とする前記[8]記載の製造方法、
[10]前記共重合体(A)を不活性ガス雰囲気下で180〜300℃で加熱することを特徴とする前記[8]または[9]記載の製造方法、
[11]前記共重合体(A)をシリンダー温度180〜300℃に加熱したスクリュー直径(D)とスクリュー長さ(L)の比L/Dが40以上の押出機中に通すことにより加熱することを特徴とする前記[8]〜[10]のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体を得る製造方法、および
[12]前記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体からなる成形品である。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の熱可塑性重合体について具体的に説明する。
【0019】
本発明の熱可塑性重合体とは、上記のごとく、下記一般式(1)
【0020】
【化9】
【0021】
(上記式中、R1、R2は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
で表されるグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体である。中でも(i)上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を有する共重合体若しくは上記単位に(iii)不飽和カルボン酸単位を有する共重合体又は上記(i)(ii)若しくは上記(i)(ii)(iii)の単位にさらに(iv)その他のビニル系単量体単位を有する共重合体が好ましい。
【0022】
また本発明の熱可塑性重合体は、280nm波長での吸光度(ここで、吸光度は、厚さ100μmのフィルムを用いて、分光光度計で測定したときの値を示す)が0.5以下であることが必要である。
【0023】
また、本発明の熱可塑性重合体は、上記の特定波長において特定範囲の吸光度特性を有することにより、黄色度(Yellowness Index)の値が5以下の色調に優れた成形品が得られることを見出した。尚、ここでいう黄色度(Yellowness Index)とは、上記熱可塑性重合体のガラス転移温度+100℃でプレス成形し得た厚さ1mm成形品をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定したYI値である。
【0024】
さらに本発明の熱可塑性重合体はガラス転移温度(Tg)が130℃以上であることが耐熱性の面で必要である。尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度(Tg)である。
【0025】
このような本発明の上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体は、基本的には以下に示す方法により製造することができる。すなわち、後の加熱工程により上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位(i)を与える不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、前記その他のビニル系単量体単位(iv)を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体とを共重合させ、共重合体(A)とした後、かかる共重合体(A)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し(イ)脱アルコール及び/又は(ロ)脱水による分子内環化反応を行わせることにより製造することができる。この場合、典型的には、共重合体(A)を加熱することにより2単位の不飽和カルボン酸単位(iii)のカルボキシル基が脱水されて、あるいは、隣接する不飽和カルボン酸単位(iii)と不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)からアルコールの脱離により1単位の前記グルタル酸無水物単位が生成される。
【0026】
この際に用いられる不飽和カルボン酸単量体としては特に制限はなく、他のビニル化合物と共重合させることが可能ないずれの不飽和カルボン酸単量体も使用可能である。好ましい不飽和カルボン酸単量体として、下記一般式(4)
【0027】
【化10】
【0028】
(ただし、R3は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表す)
で表される化合物、マレイン酸、及びさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。なお、上記一般式(4)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると上記一般式(2)で表される構造の不飽和カルボン酸単位を与える。
【0029】
また不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては特に制限はないが、好ましい例として、下記一般式(5)で表されるものを挙げることができる。
【0030】
【化11】
【0031】
(ただし、R4は水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、R5は炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基を示す)
これらのうち、炭素数1〜6の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は置換基を有する該炭化水素基を持つアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルが特に好適である。なお、上記一般式(5)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、共重合すると上記一般式(3)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を与える。
【0032】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−へキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0033】
また、本発明で用いる共重合体(A)の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル系単量体を用いてもかまわない。その他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレンおよびp−t−ブチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどを挙げることができるが、透明性、複屈折率、耐薬品性の点で芳香環を含まない単量体がより好ましく使用できる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0034】
共重合体(A)の重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の公知の重合方法を用いることができるが、不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合が特に好ましい。
【0035】
本発明の熱可塑性重合体は、特定範囲の吸光度特性およびガラス転移温度を有するものであるが、かかる熱可塑性重合体を得るためには、前述したとおり、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を90℃以下の重合温度で重合することにより、前記共重合体(A)を製造することが重要である。さらに加熱処理後の着色をより抑制するために好ましい重合温度は80℃以下であり、特に好ましくは70℃以下である。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。重合収率あるいは重合速度を向上させる目的で、重合進行に従い重合温度を昇温することも可能であるが、この場合も昇温する上限温度は90℃以下に制御することが重要であり、好ましくは85℃以下、さらに好ましくは75℃以下である。重合開始温度も75℃以下の比較的低温で行うことが好ましい。また重合時間は、必要な重合度を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましく、90〜180分間の範囲が特に好ましい。
【0036】
本発明において、共重合体(A)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量%として、不飽和カルボン酸系単量体が15〜50重量%、より好ましくは20〜45重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体は好ましくは50〜85重量%、より好ましくは55〜80重量%、これらに共重合可能な他のビニル系単量体を用いる場合、その好ましい割合は0〜35重量%、特に好ましい割合は0〜10重量%である。
【0037】
不飽和カルボン酸系単量体量が15重量%未満の場合には、共重合体(A)の加熱による上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位の生成量が少なくなり、耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。一方、不飽和カルボン酸系単量体量が50重量%を超える場合には、共重合体(A)の加熱による環化反応後に、不飽和カルボン酸単位が多量に残存する傾向があり、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0038】
本発明における共重合体(A)を加熱し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応を行いグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を製造する方法は、特に制限はないが、ベントを有する加熱した押出機に通して製造する方法や窒素気流中などの不活性ガス雰囲気で、または真空下で加熱脱揮できる装置内で製造する方法が好ましい。中でも、酸素存在下で加熱による分子内環化反応を行うと、黄色度が悪化する傾向が見られるため、十分に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。特に好ましい装置として、例えば、”ユニメルト”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機、連続式またはバッチ式ニーダータイプの混練機などを用いることができ、とりわけ二軸押出機が好ましく使用することができる。
【0039】
なお、上記の方法により加熱脱揮する温度は、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコールにより分子内環化反応が生じる温度であれば特に限定されないが、好ましくは180〜300℃の範囲、特に200〜280℃の範囲が好ましい。
【0040】
また、この際の加熱脱揮する時間も特に限定されず、所望する共重合組成に応じて適宜設定可能であるが、通常、1分間〜60分間、好ましくは2分間〜30分間、とりわけ3〜20分間の範囲が好ましい。特に、押出機を用いて、十分な分子内環化反応を進行させるための加熱時間を確保するため、押出機のスクリュー直径(D)とスクリューの長さ(L)の比(L/D)が40以上であることが好ましい。L/Dの短い押出機を使用した場合、未反応の不飽和カルボン酸単位が多量に残存するため、加熱成形加工時に反応が再進行し、成形品にシルバーや気泡が見られる傾向や成形滞留時に色調が大幅に悪化する傾向がある。押出機を用いて共重合体(A)を加熱する際の押出機のシリンダー温度は180〜300℃に設定することが好ましく、220〜290℃に設定することが好ましい。
【0041】
さらに本発明では、共重合体(A)を上記方法等により加熱する際にグルタル酸無水物への環化反応を促進させる触媒として、酸、アルカリ、塩化合物の1種以上を添加することができる。その添加量は特に制限はなく、共重合体(A)100重量部に対し、0.01〜1重量部程度が適当である。また、これら酸、アルカリ、塩化合物の種類についても特に制限はなく、酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。さらに、塩系触媒としては、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩等が挙げられる。ただし、その触媒保有の色が熱可塑性重合体の着色に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。中でも、アルカリ金属を含有する化合物(アルカリ金属化合物)が、比較的少量の添加量で、優れた反応促進効果を示すため、好ましく使用することができる。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸塩等が挙げられ、とりわけ、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウム、酢酸ナトリウムが好ましく使用することができる。
【0042】
本発明の熱可塑性重合体中の前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位の含有量は、吸光度特性及びガラス転移温度が本発明の範囲内であれば、特に制限はないが、好ましくは熱可塑性重合体100重量%中に好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜50重量%、更に好ましくは25〜50重量%、とりわけ30〜45重量%が好ましい。グルタル酸無水物単位の含有量とガラス転移温度の関係は、他の共重合成分の種類によっても変わるため一概にはいえないが、グルタル酸無水物単位が多い方がガラス転移温度は上昇する傾向にあるため、少なすぎると耐熱性向上効果が小さくなる傾向がある。
【0043】
また、本発明の熱可塑性重合体としては、上記グルタル酸無水物単位と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体単位からなる共重合体が好ましく使用することができる。不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体単位量は、好ましくは50〜95重量%、より好ましくは50〜75重量%、さらに好ましくは55〜70重量%である。
【0044】
また、本発明の熱可塑性重合体における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物単位は、1800cm-1及び1760cm-1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、1H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH3)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。また、上記に加えて、他の共重合成分として、スチレンを含有する場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定することができる。
【0045】
また、本発明の熱可塑性重合体には、上記(i)および(ii)成分の他に不飽和カルボン酸単位および/または、共重合可能な他のビニル系単量体単位を含有することができる。
【0046】
本発明においては、共重合体(A)の(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコール反応を十分に行うことにより熱可塑性重合体中に含有される不飽和カルボン酸単位量は10重量%以下、すなわち0〜10重量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜5重量%、最も好ましくは0〜1重量%である。不飽和カルボン酸単位が10重量%を超える場合には、無色透明性、滞留安定性が低下する傾向がある。
【0047】
また、共重合可能な他のビニル系単量体単位量は0〜35重量%であることが好ましいが、より好ましくは10重量%以下、すなわち0〜10重量%であり、さらに好ましくは0〜5重量%である。特に、スチレンなどの芳香族ビニル系単量体単位を含有する場合、含有量が多すぎると、無色透明性、光学等方性、耐薬品性が低下する傾向がある。
【0048】
本発明の熱可塑性重合体は、ジメチルホルムアミド溶液、30℃で測定した極限粘度が0.1〜0.7dl/gであることが好ましく、0.3〜0.6dl/gであることがより好ましい。
【0049】
かくして得られる本発明の熱可塑性重合体は、以下の特性を有する。すなわち、280nmの吸光度(ここで、吸光度は、厚さ100μmのフィルムを用いて、分光光度計で測定したときの値)が0.5以下であり、さらに好ましい態様においては、0.4以下、特に好ましくは0.3以下である。下限については、特に制限はなく、低いほど好ましいが、通常、0.2程度である。
【0050】
上記特定範囲の吸光度特性を満たすことにより、黄色度(Yellowness Index)の値が約6以下と着色が極めて抑制され、好ましい態様においては5以下、さらに好ましい態様においては4以下、最も好ましい態様においては3以下と極めて優れた無色性を有する。上記において黄色度はガラス転移温度+100℃でプレス成形した厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、測定した値である。黄色度の下限は、特に制限はなく、低いほど好ましいが、通常1程度である。
【0051】
また、本発明の熱可塑性重合体は、そのガラス転移温度(Tg)が130℃以上と優れた耐熱性を有し、好ましい態様においては140℃以上、特に好ましい態様においては150℃以上と極めて優れた耐熱性を有する。また、上限としては、通常160℃程度である。
【0052】
さらに本発明の熱可塑性重合体(B)は、ガラス転移温度+100℃で10分間滞留させた前後の黄色度差が5以下の優れた滞留安定性(熱変色性)を有する。尚、ここでいうガラス転移温度+100℃で10分間滞留させた前後の黄色度差とは、前記したYI値と、熱可塑性重合体のガラス転移温度+100℃でプレス成形機上で10分間滞留させた後の厚さ1mm成形品をそれぞれJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定したYI値の差の絶対値を示す。
【0053】
さらに、本発明の熱可塑性重合体には、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加する必要がある。
【0054】
本発明の熱可塑性重合体は、機械的特性、成形加工性にも優れており、溶融成形可能であるため、押出成形、射出成形およびプレス成形などが可能であり、フィルム、シート、管、ロッドや希望する任意の形状と大きさを有する成形品に成形して使用することができる。
【0055】
そして、本発明の熱可塑性重合体の成形品は、その優れた耐熱性を活かして、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0056】
本発明の熱可塑性重合体からなる成形品の具体的用途としては、例えば、電気機器のハウジング、OA機器のハウジング、各種カバー、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルターおよび点火装置ケースなどが挙げられる。また、透明性、耐熱性に優れている点から、映像機器関連部品としてカメラ、VTR、プロジェクションTV等の撮影用レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等、光記録・光通信関連部品として各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)基板、各種ディスク基板保護フィルム、光ディスクプレイヤーピックアップレンズ、光ファイバー、光スイッチ、光コネクター等、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの導光板、フレネルレンズ、偏光板、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、ピックアップレンズ、タッチパネル用導光フィルム、カバー等、自動車等の輸送機器関連部品として、テールランプレンズ、ヘッドランプレンズ、インナーレンズ、アンバーキャップ、リフレクター、エクステンション、サイドミラー、ルームミラー、サイドバイザー、計器針、計器カバー、窓ガラスに代表されるグレージング等、医療機器関連部品として、眼鏡レンズ、眼鏡フレーム、コンタクトレンズ、内視鏡、分析用光学セル等、建材関連部品として、採光窓、道路透光板、照明カバー、看板、透光性遮音壁、バスタブ用材料等、これら各種の用途にとって極めて有用である。
【0057】
【実施例】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、実施例で採用した各種物性の測定方法を記載する。
【0058】
(1)溶液粘度
得られた熱可塑性重合体をジメチルホルムアミドを溶媒として、30℃での極限粘度を測定した。
【0059】
(2)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。
【0060】
(3)280nmでの吸光度
得られた熱可塑性重合体を20重量%のTHF溶液とし、これを用いて流延法により100μmフィルムを作成した。島津製作所製紫外可視分光光度計(UV−1600PC)を用いて、該フィルムの280nmにおける吸光度を測定した。
【0061】
(4)黄色度(Yellowness Index)
得られた熱可塑性重合体を、ガラス転移温度+100℃でプレス成形した厚さ1mm成形品のYI値をJIS−K7103に従い、SMカラーコンピューター(スガ試験機社製)を用いて測定した。
【0062】
(5)透明性(全光線透過率、ヘイズ)
東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、熱可塑性重合体をガラス転移温度+100℃でプレス成形して得た50mm×50mm×1mmの成形品の23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ(曇度)(%)を測定し、透明性を評価した。
【0063】
(6)滞留安定性(滞留前後の黄色度差)
得られた熱可塑性重合体をガラス転移温度+100℃でプレス成形機上で10分間滞留させた後の厚さ1mm成形品を(4)と同様に測定して得られたYI値と(3)で測定したYI値との差(ΔYI)の絶対値を算出した。
【0064】
(7)MFR(メルトフローレート)
ISO−R1133に従い、250℃、98Nの条件でMFR(g/10min)を測定し、流動性を評価した。このMFR値が大きいほど、高い流動性を示し、成形加工性が優れる。
【0065】
参考例(1)共重合体(A)の合成
(A−1)
容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤(以下の方法で調整した。メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部、イオン交換水1500重量部を反応器中に仕込み反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保つ。反応は単量体が完全に、重合体に転化するまで続け、メタクリル酸メチルとアクリルアミド共重合体の水溶液として得る。得られた水溶液を懸濁剤として使用した)0.05部をイオン交換水165部に溶解した溶液を供給し、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系を撹拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体(A−1)を得た。この共重合体(A−1)の重合率は98%であった。
メタクリル酸 30重量部
メタクリル酸メチル 70重量部
t−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル 0.4重量部。
【0066】
(A−2)
重合温度、時間を内温が70℃に達した時点を重合開始として、70℃で20分間保った後、さらに80℃に昇温して、この温度で180分間重合に変更した以外は、(A−1)と同様の製造方法で共重合体(A−2)を、97%の重合率で得た。
【0067】
(A−3)
重合温度、時間を内温が70℃に達した時点を重合開始として、70℃で20分間保った後、さらに90℃に昇温して、この温度で180分間重合に変更した以外は、(A−1)と同様の製造方法で共重合体(A−3)を、98%の重合率で得た。
【0068】
(A−4)
単量体混合物の仕込み組成を下記に変更した以外は(A−1)と同様の製造方法で共重合体(A−5)を95%の重合率で得た。
メタクリル酸 15重量部
メタクリル酸メチル 85重量部。
【0069】
(A−5)
単量体混合物の仕込み組成を下記に変更した以外は(A−1)と同様の製造方法で共重合体(A−5)を92%の重合率で得た。
メタクリル酸 45重量部
メタクリル酸メチル 55重量部。
【0070】
(A−6)
単量体混合物の仕込み組成を下記に変更した以外は(A−1)と同様の製造方法で共重合体(A−6)を93%の重合率で得た。
メタクリル酸 20重量部
メタクリル酸メチル 73重量部
スチレン 7重量部。
【0071】
(A−7)
重合温度、時間を内温が70℃に達した時点を重合開始として、70℃で20分間保った後、75℃に昇温してこの温度で120分間保った。この後、さらに98℃に昇温して、この温度で60分間重合に変更した以外は、(A−1)と同様の製造方法で共重合体(A−7)を97%の重合率で得た。、
(A−8)
単量体混合物の仕込み組成を下記に変更した以外は(A−7)と同様の製造方法で共重合体(A−8)を95%の重合率で得た。
メタクリル酸 15重量部
メタクリル酸メチル 85重量部。
【0072】
(A−9)
単量体混合物の仕込み組成を下記に変更した以外は(A−7)と同様の製造方法で共重合体(A−9)を93%の重合率で得た。
メタクリル酸 20重量部
メタクリル酸メチル 73重量部
スチレン 7重量部。
【0073】
(A−10)
単量体混合物の仕込み組成を下記に変更した以外は(A−7)と同様の製造方法で共重合体(A−10)を93%の重合率で得た。
メタクリル酸 20重量部
メタクリル酸メチル 65重量部
スチレン 15重量部
共重合体(A)の各種特性を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1〜3、比較例1
表2に示す参考例(1)によって得られた各ビーズ状共重合体(A)を、角型真空定温乾燥器(ヤマト科学(株)製DP−32型)を用いて250℃、2.6kPaに減圧し、30分間真空加熱処理を行い、グルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体(B)を得た。得られた熱可塑性重合体(B)を赤外分光光度計を用いて分析した結果、いずれも1800cm-1及び1760cm-1に吸収ピークが確認され、この熱可塑性重合体(B)中にグルタル酸無水物単位が形成していることを確認した。次いで、1H−NMRにより、定量した各共重合成分組成および各種特性評価結果を表2および表3に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
実施例1〜3および比較例1の結果より、本発明の製造方法である90℃以下の温度で重合することにより、特定範囲の吸光度特性を有し、無色透明性に優れ、かつ高度な耐熱性及び成形加工性を有した、とりわけ滞留安定性に優れた熱可塑性重合体が得られることが分かる。
【0079】
一方、比較例1に示したように、90℃を越える温度で重合した場合、高度な無色性を得ることはできず、さらに滞留安定性に劣る材料となることがわかる。
【0080】
実施例4〜15、比較例2〜9
参考例(1)で得られた各種共重合体(A)、あるいはこれに表4に示した添加剤を配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)またはPCM−30(池貝鉄工社製、L/D=28.0))を用いてスクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状の熱可塑性重合体を得た。尚、実施例14以外は、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、押出を行った。
【0081】
次いで、ペレットを100℃で8時間乾燥し、1H−NMRにより、定量した各共重合成分組成および各種特性評価結果を表4および表5に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
実施例4〜15および比較例2〜9から、本発明に規定した特定の吸光度特性を有する熱可塑性重合体は、90℃以下の温度で制御された重合により、得ることができ、その結果、高度な耐熱性、光学等方性、耐擦傷性を有しながら、色調に優れる透明材料となることがわかる。
【0085】
一方、本発明範囲外の重合温度で共重合された場合、他のいずれの条件においても、本発明に規定した吸光度特性を達成することはできず、色調に劣ることがわかる。
【0086】
また、実施例4〜7および実施例8〜13の比較から、分子内環化反応促進剤を添加することにより、熱可塑性重合体(B)中に残存する未反応不飽和カルボン酸量を低減することが可能となり、とりわけ滞留安定性(熱変色性)に優れることがわかる。さらに、実施例15との比較から、L/Dが十分に長い押出機を用いることで、不飽和カルボン酸残存量の低減を図ることができ、滞留安定性の面で好ましいことがわかる。
【0087】
また、実施例8および実施例14の比較から、押出機内を窒素パージすることにより、より着色の抑制された無色透明材料となりうることがわかる。
【0088】
比較例10
仕込み組成を以下に示すものに変更した以外は、特開昭60−120707号公報の実施例2に記載された重合方法に準じて、熱可塑性重合体の製造を行った。
【0089】
すなわち、2リットルの重合器へ以下の物質を混合してを1リットル/hrの速度で連続して供給し、111℃の温度で重合を行った。
メタクリル酸 30重量部
メタクリル酸メチル 70重量部
エチルベンゼン 10重量部
1,1−ジ−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン
0.005重量部
n−オクチルメルカプタン 0.03重量部
しかし、重合率10%付近で、重合体が析出し、特開昭60−120707号公報に記載されているような重合体溶液を得ることはできなかった。
【0090】
すなわち、原料モノマーとしてメタクリル酸、メタクリル酸メチルを用いた熱可塑性重合体の場合、特開昭60−120707号公報に記載された方法、すなわち重合体を溶液として真空加熱器に供する方法は、重合体の溶解性の問題から適用できないことがわかる。
【0091】
実施例16
重合溶媒として、エチレングリコールモノエチルエーテルを使用し、以下の組成から成る混合物質を調製した。この混合液を2リットルの完全混合型重合器へ1リットル/hrの速度で連続して供給し、90℃の温度で120分間重合を行った。
メタクリル酸 24重量部
メタクリル酸メチル 28重量部
スチレン 13重量部
エチレングリコールモノエチルエーテル(重合溶媒) 35重量部
n−オクチルメルカプタン 0.1重量部
1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン(安定剤) 0.05重量部
1,1−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキサン
0.008重量部
この場合、固形分50重量%の重合体溶液とすることができ、これを連続して260℃、20Torrの真空脱揮装置へ供給し、30分間この装置内で滞留させた後、取り出してグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体を得た。得られた熱可塑性重合体を赤外分光光度計を用いて分析した結果、1800cm-1及び1760cm-1に吸収ピークが確認され、この熱可塑性重合体中にグルタル酸無水物単位が形成していることを確認した。また、この熱可塑性重合体の極限粘度は0.48dl/gであった。
【0092】
比較例11
特開昭60−120707号公報記載の実施例2に準じて、スチレン13重量%、メタクリル酸メチル28重量%、メタクリル酸24重量%、エチレングリコールモノエチルエーテル35重量%合計100重量部に対し、オクチルメルカプタン0.1重量部、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン0.05重量部、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン0.008重量部から成る混合液を調製した。この混合液を80リットルの完全混合型重合器へ20kg/hrの速度で供給して重合を行った。重合温度を111℃、固形分50重量%の重合体溶液を加熱器に通しただちに脱揮タンクに供給した。脱揮タンクの条件は260℃、20Torr、滞留時間30分である。この重合により熱可塑性重合体を得た。得られた熱可塑性重合体を赤外分光光度計を用いて分析した結果、1800cm-1及び1760cm-1に吸収ピークが確認され、この熱可塑性重合体中にグルタル酸無水物単位が形成していることを確認した。
【0093】
実施例16、比較例11の各種物性測定結果を表6に示した。
【0094】
【表6】
【0095】
実施例16および比較例11の結果より、溶液重合した場合も、90℃以下の温度で重合することにより、無色透明性に優れ、かつ高度な耐熱性及び成形加工性を有し、とりわけ滞留安定性に優れた熱可塑性重合体が得られることが分かる。
【0096】
一方、比較例11に示したように、特開昭60−120707号公報の実施例2に記載された仕込み組成及び重合方法に準じて、重合体を溶液として真空加熱器に供することができたが、90℃を越える温度で重合した場合、高度な無色性を得ることはできず、さらに滞留安定性に劣る材料となることがわかる。
【0097】
実施例17
実施例9で得られた熱可塑性重合体のペレットを射出成形機(名機製作所社製M−50AII−SJ)に供して、成形温度:290℃、金型温度:100℃、射出時間:10秒、冷却時間:30秒、射出圧力:10MPaで射出成形し、直径40mm、縁の厚み3mm、中心厚み1.6mmの無色透明の凹型レンズを得た。得られたレンズに、シリカ系ハードコート剤(信越化学社製「KP−851」)を塗布し、120℃で1時間硬化させ、眼鏡用レンズを作製した。得られた眼鏡用レンズは、耐熱性、熱安定性に優れるため、比較的高温(120℃)でのハードコート処理をしても、変形することなく、92%の全光線透過率を示し、透明性に優れるものであった。さらに、得られた眼鏡用レンズをクロスカットテープテスト(レンズのハードコート塗膜表面にナイフで1mm間隔で縦横に各11本の平行線を入れて100個のマス目をクロスカットし、その上にセロファン粘着テープを付着させた後、テープを剥離する)した結果、剥離する塗膜はなく、本発明の熱可塑性重合体からなるレンズはハードコート剤との密着性に優れ、眼鏡用レンズとして好適であることがわかる。
【0098】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のグルタル酸無水物単位を含有する熱可塑性重合体は、高度な無色透明性を有し、かつ耐熱性、滞留安定性に優れるため、自動車や一般雑貨、電気電子機器、OA機器などのハウジングや部品などの用途に好適である。
Claims (12)
- 下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位5〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜95重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位0〜10重量%、および(iv)その他のビニル系単量体単位0〜35重量%を含有し、ジメチルホルムアミド溶液、30℃で測定した極限粘度が0.1〜0.7dl/gである熱可塑性重合体であって、該熱可塑性重合体が、不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を90℃以下の温度で重合して共重合体(A)を得、次いでこの共重合体(A)を加熱し、(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコール反応を行うことで得られるものであり、280nm波長での吸光度(ここで、吸光度は、厚さ100μmのフィルムを用いて、紫外可視分光光度計で測定したときの値を示す)が0.5以下である熱可塑性重合体。
- ガラス転移温度が130℃以上である請求項1記載の熱可塑性重合体。
- 黄色度の値が5以下である請求項1または2記載の熱可塑性重合体。
- 熱可塑性重合体が、(i)上記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位25〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜75重量%、(iii)不飽和カルボン酸単位を10重量%以下、および(iv)その他のビニル系単量体単位を10重量%以下を含有する共重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体。
- ガラス転移温度+100℃で10分間滞留させた前後の黄色度差が5以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体。
- 不飽和カルボン酸単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を含む単量体混合物を90℃以下の温度で重合して共重合体(A)を得、次いでこの共重合体(A)を加熱し、(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコール反応を行い、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体を製造する製造方法。
- 共重合体(A)100重量部に対して、アルカリ金属化合物を0.01〜1重量部添加し、180〜300℃で加熱することを特徴とする請求項8記載の製造方法。
- 前記共重合体(A)を不活性ガス雰囲気下で180〜300℃で加熱することを特徴とする請求項8または9記載の製造方法。
- 前記共重合体(A)をシリンダー温度180〜300℃に加熱したスクリュー直径(D)とスクリュー長さ(L)の比L/Dが40以上の押出機中に通すことにより加熱することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体を得る製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体からなる成形品。
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