JP4270846B2 - 金属箔スリット加工装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属箔スリット加工装置に関する。特に、銅箔をスリットするための回転する円盤状刃の直径と、回転ロールに同心状に取り付けた受け刃の直径との相互関係に特徴を備えたものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、紙、金属箔、樹脂等のシート状の製品は、需要者の使用上の便宜を考慮して、要求に応じた幅にスリットしてロール状態、リール状態等の形態で市場に供給されてきた。
【0003】
このとき、スリット作業自体は、単に需要者の要求に合致させた幅にスリットする性格を持つに過ぎないと考えられがちであるが、製品の最終的な品質を左右するものでもあるのである。
【0004】
例えば、スリット時の幅精度が悪ければ、需要者での使用が不可能となる場合もある。また、金属箔の場合に特に問題になりやすいが、スリット時に切断屑の如きもの(一般的に、「切り粉」と称する。以下、このように称する。)が発生し、製品の表面に付着することもありうる。特に銅箔の場合には、切り粉が発生し、銅箔の接着面に付着した状態でプリント配線板の製造に用いられると、回路形成のためのエッチング工程でも除去できず、隣り合った回路の導通経路としてショートサーキットを形成し、そのプリント配線板が組み込まれた電子機器等の誤動作、動作不良の原因となる場合もあるのである。
【0005】
特に、銅箔、アルミニウム箔の如き、軟質金属のスリット加工を行う場合には、上述した切り粉問題を解決することが必要不可欠の課題であった。従って、スリット時の切り粉の問題を解決するために、スリット刃の材質、仕上げ精度、切断速度、切断刃の取り付け方法等に関して、種々の工夫が行われてきた(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開2002−283282号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、金属箔スリット装置の維持管理、スリット刃のセッティング等の主要な作業の殆どは、作業者の勘、コツ、経験に支えられた技能に依存する部分が多く、技術として確立できた部分が非常に少ないというのが現実であった。そのため、金属箔のスリット作業においては、作業者間の技能レベルにより、仕上がる製品のスリット品質が大きく左右されると言う結果になっていた。
【0008】
これらのことから分かるように、金属箔のスリット作業における、作業者による作業精度のバラツキを最小限に抑え、切り粉を発生させず、美麗な切断面を得ることが可能で、切断位置精度に優れるスリット技術の確立が望まれてきたのである。なお、従来のスリット方法では、切り粉の発生量が30個/cm2以上となるのが通常であり、当業者間では切り粉の発生量を15個/cm2以下とすることが求められてきた。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで、本件発明者等は、金属箔のスリット作業を鋭意研究した結果、以下に説明する発明に想到したのである。
【0010】
請求項1には、回転する円盤状スリット刃と回転ロール軸に溝切りして同心状に取り付けた回転ロール固定刃とが、側面方向から見た場合の各々の刃先部分が重なり合い交差する位置で所定の間隔を持って離間配置され、前記刃先部分が重なり合い交差する位置をスリット点として、当該スリット点における回転ロール固定刃の接線方向から張力を与えた状態の長尺の金属箔を、そのスリット点に向けて走行させ、前記した二つの刃が同期回転するときの協働作用により、走行する金属箔を連続的に裁断加工するための手段を備えた金属箔スリット加工装置において、前記円盤状スリット刃の直径は、回転ロール固定刃の外周直径の2.5倍〜4倍であり、且つ、前記スリット点における円盤状スリット刃の接線と回転ロール固定刃の接線とのなす角を0.125°〜0.362°とすることを特徴とする金属箔スリット加工装置としている。
【0011】
金属箔スリット装置は、▲1▼スリットする金属箔ロールを取り付ける原料ロール取り付け手段、▲2▼金属箔ロールから連続的に繰り出された金属箔を蛇行走行させスリット位置精度と金属箔の走行直線性を確保し、均一な張力を金属箔に与えるための複数のテンションロール、▲3▼走行する金属箔を連続的に端部を切断したり、複数のリール製品に分割する所定のスリット手段、▲4▼スリット後の金属箔を巻き取り、製品ロール又は製品リールとするための巻き取り手段、以上の4つの基本的要素を少なくとも内包し、支持フレームを用いて、これらを一体にした装置のことである。従って、一般的に広く知られた紙、樹脂フィルム等を切断する際に用いるスリット装置と、基本的構造において共通する。
【0012】
紙等の他の材料のスリット作業と比較したときに、金属箔のスリット作業において、特に留意を要するのは、次のような点にある。金属箔は、金属材であるが故に、その切断挙動が紙や樹脂フィルム等と根本的に異なる点にある。まず第1の留意点は、金属箔は圧延法若しくは電解法にて製造されるものであり、同一ロット内で厚さの場所による一定レベルのバラツキが生じる。しかも、大きな張力を金属箔に与えると延びるという性質を備えているため、均一且つ適正な張力コントロールを行うことが困難である。これらの問題は、テンションロールの配置、配置本数、テンションをモニターするテンション検出位置の問題であり、個々のスリット装置の持つ性格が大きく影響するものであるため、装置の構造に応じた調整を行わなければならない。
【0013】
本件発明が解決を目的とする所である、金属箔のスリット作業における、作業者による作業精度のバラツキを最小限に抑え、切り粉を発生させず、美麗な切断面を得るためには、第2の留意点が重要となる。第2の留意点は、金属材の切断を連続して行うため、スリット加工する際に用いるスリット刃の損傷が激しく、スリット刃の寿命が短い点にある。スリット刃の損傷とは、スリット刃の刃先が目こぼれして切れ味が悪くなる場合、スリット刃の材質によっては、軟質金属である銅が、スリット刃の刃先に凝着し、切削工具に見られる構成刃先を形成するが如き状態になってしまうことも含む概念である。
【0014】
このようにスリット刃の切れ味が悪くなると、スリット部から切り粉が発生し、飛散することで金属箔ロール製品中に付着混入して巻き込まれることになる。銅箔の場合を例に採れば、この様な切り粉を巻き込んだ銅箔ロール製品がプリント配線板等用途に用いられることで、プリント配線板、TABテープのエッチング不良、回路ショートを引き起こす原因となるのである。従って、本件発明者等は、金属箔のスリット加工におけるスリットの切れ味をいかに長時間維持できるかという点に研究のポイントを絞り込んだのである。
【0015】
その結果、次のような結論に達したのである。図1には、本件発明に係るスリット装置内のスリット位置を拡大して模式的に示している。図1(a)の正面図から分かるように、回転ロール固定刃は、回転ロール軸に同心状に取り付けたものであり、溝を持つプーリ形状をしており、その溝の内壁外周縁端部が刃付け処理されており、円盤状スリット刃と協働して金属箔をスリットするものである。スリットする機構は、図1(b)で断面方向から見た図で分かるように、円盤状スリット刃の外周縁端部は、回転ロール固定刃の溝内に僅かに入り込み、僅かの隙間を持って離間するようにセッティングされ、円盤状スリット刃と回転ロール固定刃とが交差するS点に走行する金属箔が進入し、S点がスリットポイントとなる。即ち、スリットする際には、円盤状スリット刃と回転ロール固定刃とで金属箔を挟み込んで切断するというイメージではなく、開いた鋏の刃を動かすことなく、鋏の二つの刃の交点に紙を当て、紙の方を引いて動かすことで、紙を切断するのと同様の切断機構を採用しているのである。但し、回転ロール軸と金属箔表面との擦れを防止するため、金属箔の走行速度に同期させて回転ロール固定刃を取り付けた回転ロール軸を駆動させる事が最低限必要となる。
【0016】
本件発明では、このときに用いる円盤状スリット刃の径が、回転ロール固定刃の外周直径の2.5倍〜4倍のものを用いるのである。即ち、通常は、回転ロール固定刃の外周直径と略同様の直径の円盤状スリット刃を用いるのであるから、かなり大きな直径を持つ円盤状スリット刃を用いることになる。このような大きな直径を持つ円盤状スリット刃を採用する理由は、被スリット体である金属箔に対する円盤状スリット刃の接触角度の調整を行おうとするものである。図2には、この接触角度の意味を説明するため図1(b)の側面図の一部を更に拡大して模式的に示している。金属箔が上述したS点に対し回転ロール固定刃の接線方向から進行するとき、図2に示す如き状態が成立している。このときのS点における円盤状スリット刃の外周円に沿った接線と金属箔面とで形成する角度を接触角度θとするのである。
【0017】
本件発明者等が、鋭意研究した結果、接触角度をある一定の範囲に調整しただけで、切り粉の発生していたスリット状態から、切り粉の発生しないスリット状態に修正することが出来ることが分かった。確かに、接触角度の調整だけであれば、円盤状スリット刃の直径がいかなるものであっても、厳密に調整すれば良好なセッティングが可能である。ところが、容易にセッティングが可能か否かという問題が生じることになる。
【0018】
即ち、上述した如き切断機構を採用しているため、円盤状スリット刃の外周縁端部は、回転ロール固定刃の溝内に僅かに入り込むようにセッティングする必要がある。円盤状スリット刃が、この回転ロール固定刃の溝内に入り込む距離(以下、単に「進入距離」と称することとする。)も重要なスリット品質を決める要因となるため、0.1mm単位での調整が行われる。このとき、円盤状スリット刃の直径の小さなものでは、進入距離を変化させると、接触角度の変化も大きなものとなる。これに対し、円盤状スリット刃の直径の大きなものは、進入距離を変化させても、接触角度の変化を小さくすることができることとなるのである。従って、円盤状スリット刃のセッティングを行う作業者の熟練度に左右されることなくスリット装置の調整作業が容易となるのである。
【0019】
これらの事を背景に、スリット作業者の技能レベルによることなく、種々の直径を持つ円盤状スリット刃を用いて切り粉発生データを収集し、100%切り粉の発生しない安定した品質のスリット作業の可能な円盤状スリット刃の最低直径を割り出した結果、回転ロール固定刃の外周直径の2.5倍であり、円盤状スリット刃が金属箔を切断する際の金属箔面に対する接触角度を0.125°〜0.362°に設定すれば良いことが判明した。この接触角度が定まれば、上述した進入距離も自動的に定まることとなり、逆に言えば、円盤状スリット刃の直径と進入距離とが定まれば、接触角度が自動的に定まるものとなるのである。接触角度を0.125°未満では、スリット作業が良好に出来ず、スリットした金属箔の端部が粗れた状態となる。これに対し、接触角度を0.362°より大きくすると、スリットした金属箔の端部に浪打が発生しやすくなるのである。
【0020】
一方、試験データから判断するに、切り粉の発生を防止するためには、円盤状スリット刃の直径は、大きければ大きいほど良いというような結果が得られている。しかしながら、回転ロール固定刃は、図1(a)から概念的に捉えられるが、円盤状スリット刃の直径を、回転ロール固定刃の外周直径の6倍を越えるものとすると、スリット幅の精度に影響を与える可能性があることが判明したのである。即ち、円盤状スリット刃は、局部的な磨耗を防止するため、金属箔をスリットする際には回転している。この円盤状スリット刃の仕上げ精度、スリット装置の取り付け精度等の諸因子が重畳して、図1(a)で見られる金属箔平面に対する円盤状スリット刃の垂直位置が偏芯する影響が出始め、結果として、スリット幅の精度に影響を与えるのである。
【0021】
以上のことから、請求項1において、円盤状スリット刃の直径は、回転ロール固定刃の外周直径の2.5倍〜4倍であり、且つ、円盤状スリット刃が金属箔を切断する際の金属箔面に対する接触角度を、0.125°〜0.362°に設定したことを特徴とする金属箔スリット加工装置としたのである。更に、本件発明者等が、従来の150mmの外周直径の回転ロール固定刃と150mm直径の円盤状スリット刃とを組み合わせて接触角度0.653°として、銅箔のスリット加工を行い切り粉の出始めるまでの時間を測定したところ、平均24時間であった。これに対し、本件発明に係るスリット装置のように、150mmの外周直径の回転ロール固定刃と450mm直径の円盤状スリット刃とを組み合わせて接触角度0.273°として、銅箔のスリット加工を行い切り粉の出始めるまでの時間を測定したところ、平均88時間と飛躍的に長くなっていた。
【0022】
次に、請求項2には、円盤状スリット刃は、高速度鋼又は超硬合金製である請求項1に記載の金属箔スリット加工装置として、円盤状スリット刃の材質として高速度鋼又は超硬合金を用いることが望ましいことを明らかにしている。一般的には、ステンレス鋼で製造した円盤状スリット刃が広く用いられているが、本件発明では、被スリット体が軟質金属である銅を対象とするため、スリット切断される銅の凝着を防止し、しかも、凝着したり、目こぼれを起こしたときに再生加工して繰り返し使用可能な材質として、高速度鋼又は超硬合金を円盤状スリット刃の材質として採用したのである。また、ステンレス製の円盤状スリット刃に比べ、高速度鋼又は超硬合金製の円盤状スリット刃は、取り落として誤って落下させたり、物にぶつけた場合にも、刃付け部が欠ける等の不具合が生じにくいため取り扱いが容易となるのである。
【0023】
更に、請求項3には、円盤状スリット刃の外周縁端部である刃付け部分は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)又はダイヤモンドライクカーボン−ソフト(DLC−soft)で被覆されている請求項1又は請求項2に記載の金属箔スリット加工装置としている。
【0024】
スリット時の切り粉の発生は、基本的にスリット作業時間が長くなるに連れて発生しやすくなる。ところが、新品の円盤状スリット刃を用いた場合の、スリット開始直後に切り粉が発生する現象が見られた。本件発明者等が調査した結果、切断開始当初は、円盤状スリット刃の刃付け部分に、微細な凹凸があり、この凹凸が金属箔のスリット端面を引っ掻くことで切り粉が発生することが分かってきた。したがって、スリット切断を継続している内に、円盤状スリット刃の刃付け部分が磨耗して、表面凹凸が消失してくると、切り粉の発生が無くなるのである。したがって、当初から、刃付け部分の表面状態が滑らかな円盤状スリット刃を用いれば、使用開始当初より切り粉の発生量が少なくなると考えたのである。
【0025】
そこで、本発明の発明者らは、円盤状スリット刃の外周縁端部である刃付け部分の表面凹凸を少なくする手段として、ダイヤモンドライクカーボン(以下、単に「DLC」と称することとする。)またはダイヤモンドライクカーボン−ソフト(以下、「DLC−soft」と称することとする。)を刃付け部分に被覆する手段が有効であることに想到したのである。
【0026】
金属箔スリット装置で用いられる円盤状スリット刃の刃付け部(少なくとも切断時に金属箔に接する部分)に、DLCまたはDLC−softの被覆を施すと、切り粉の発生量が著しく減少し、切断作業性が向上する。切り粉の発生量が減少するのは、被覆することで金属箔に引っかかりにくい滑らかな面が得られるからであると考えられる。また、このようにすることで、新品の円盤状スリット刃の使用開始当初の切り粉の発生量が特に少なくできるのである。例えば、円盤状スリット刃の刃付け部分を、予め研摩する等の作業を行うことも考えられる。ところが、DLC等によって被覆して表面仕上げを行った方が、より摩擦係数の小さな滑らかな面が得られるのである。
【0027】
また、DLCなどの上述のセラミックを被覆することで摩擦係数の小さい面が得られるため、スリット時の摩擦熱の発生が抑制され、切れ味が変動しにくくなることが期待できる。このようなDLCまたはDLC−softの被覆を行う方法としては、CVD(化学的気相成長法)やPVD(物理的気相成長法)を用いることが出来る。
【0028】
DLCまたはDLC−softの被覆の厚さは0.5〜1.0μmであることが好ましい。1.0μmより厚く被覆すると刃が丸みを持つようになり、切断性(切れ味)が低下するからである。刃の耐用時間が短くてもよければ、特に被覆厚さに下限はないが、被覆の当初厚さ(被覆作業終了時の厚さ)が薄すぎると、均一な厚さの被覆が得られず、安定したスリット性が得られない場合がある。このような点を考慮すると、被覆の厚さは0.5μm以上が好ましい。
【0029】
以上のように450mmの直径を持つ円盤状スリット刃の刃付け部分をDLCで被覆し、円盤状スリット刃が銅箔を切断する際の銅箔面に対する接触角度を0.273°として、150mmの外周直径の回転ロール固定刃と組み合わせて銅箔のスリット加工を行った。この結果、使用開始直後においても切り粉発生は見られず、切り粉の出始めるまでの時間を測定したところ平均120時間と飛躍的に長くなっている。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について、スリット装置の一例を図面に示しつつ、これを参照しつつ説明する。
【0031】
図3は、本発明に係る金属箔加工用の刃を用いて銅箔を切断する金属箔スリット装置(以下、単にスリッターという)1を示すものであり、図4は、スリッター1における銅箔Cの流れを示すものである。スリッター1は、連続電解法などの方法によって連続的に製造された長尺の銅箔Cを連続して所定幅に切断する装置であり、切断前の銅箔Cが巻かれている巻ロールを支持する巻出し機構2と、巻出し機構2から繰出された銅箔Cを切断する刃を備えた切断機構3と、切断された銅箔Cを巻き取る巻取り機構4a、4bと、切り取った部分(耳)を巻き取る巻取り機構4cとを備える。また、スリッター1は、巻出し機構2から繰出された銅箔Cを所定の経路に沿って送るため、あるいは銅箔Cに適当なテンションを付与するためのテンションロール11を備えている。
【0032】
長尺の銅箔Cは、ロール状の巻き取られた状態で巻出し機構2に搬入され、巻出し機構2から繰出された後は、テンションロール11によって所定の経路に沿って送られ、切断機構3に送り込まれて所定の幅に切断される。所定幅に切断された銅箔Cおよび切り取った耳は、それぞれの巻取り機構4a,4b,4cに送られて巻き取られる。なお、巻出し機構2から巻取り機構4に銅箔Cの送る機構自体は従来のスリッターで用いられているものであり、その詳細な説明は省略する。
【0033】
切断機構3は、繰出し側から巻取り側に連続的に送られる長尺の銅箔Cを受ける回転ロール5と、銅箔Cの切断に用いられる円盤状スリット刃6とを有しており、当該円盤状スリット刃6と回転ロール5に取り付けられた後述の回転ロール固定刃55と(図3参照)の協働によって長尺の銅箔Cを連続的に切断するものである。
【0034】
図5に示すように、回転ロール5は、幅(長手)方向に延びる回転軸周りに回転可能に支持された円筒形状のロール本体51と、該ロール本体51の外周に着脱可能に取り付けられた筒体52とを有する。筒体52の外周面は鏡面仕上げされている。連続的に送られる長尺の銅箔Cには所定のテンションが架けられており、銅箔Cはその全幅に亘って筒体52の外周面に接触する。また、回転ロール5は、中心軸周りに回転可能に取り付けられており、切断時にあっては筒体52の外周面における周速が銅箔Cの走行速度と一致するように回転する。
【0035】
このうち、回転ロール5の筒体52の幅方向両側には、回転ロール固定刃55の環状の内側リング53は筒体52の位置決めを行う役割を持ち、内側リング53の外側には外側リング54が離間設置されている。そして、この外側リング54の内側リング53に対向する面の縁端外周部に刃付け処理が行われており、円盤状スリット刃6との協働によって銅箔Cを切断することになる。このとき、外側リング54の内側、つまり外側リング54と内側リング53との間には、環状の溝部Eが形成されることとなる。この溝部Eには、銅箔をスリットする際に、外側リング54との協働によって銅箔を切断する円盤状スリット刃6の刃付け部(切断時に銅箔に接する部分)6aが入り込む(図4参照)。なお、筒体52およびリング53,54はローラ本体51に対して着脱可能であり、交換可能である。したがって、適当な幅方向寸法の筒体52やリング53,54を装着することによって切断幅を所望の寸法に調節することができる。
【0036】
円盤状スリット刃6は、いわゆるロータリカッタであり、回転ロール5の長手方向に対して平行に離間配置したシャフト7に固定されている。円盤状スリット刃6を支持するシャフト7は、回転可能であり、また回転ロール5に対して接近離隔移動自在に設置されており、シャフト7の、回転ロール5に対する位置を調節することで円盤状スリット刃6の溝部Eへの入り込み距離を調節できる(図6参照)。また、円盤状スリット刃6はシャフト7に沿って移動可能である。したがって、回転ロール固定刃55の位置を変更した場合は、それに応じて円盤状スリット刃6の位置を変更できる。
【0037】
このような切断機構3を有するスリッター1で銅箔Cを所定の幅に切断する場合は、当該幅寸法に応じたリング53,54を取り付けると共に円盤状スリット刃6をシャフト7の対応する位置に固定する。また、シャフト7の位置を調節して、円盤状スリット刃6の刃付け部6aの溝部E内への進入距離を適宜調節すると共に、円盤状スリット刃6と外側リング(下刃)54との間の隙間距離を隙間ゲージなどを用いて適宜調節する。このようにして両刃6,55の位置を定めて固定した後、銅箔Cを繰出し側から巻取り側に送ると、円盤状スリット刃6と回転ロール固定刃55との協働によって長尺の銅箔Cが所定の幅に連続的に切断される。
【0038】
第1実施形態: スリッター1の回転ロール5として、外径が150mmのものを用いた。円盤状スリット刃6として、直径が600mmであると共に外周部に高速度鋼(ハイス)製の刃付け部6aを備えており、また刃先角θ1が45°であり、少なくとも刃付け部6aに厚さ1.0μmのダイヤモンドライクカーボン(DLC)被覆が施されたものを用いた。また、回転ロール固定刃55の外側リング54はダイス鋼(SKD−11)製であり、そのエッジ54a(図6参照)の角度は90°であった。
【0039】
そして、円盤状スリット刃6が銅箔Cを切断する際の銅箔面に対する接触角度を、0.173°に設定し、スリット加工を行ったところ、使用開始直後においても切り粉発生は見られず、切り粉の発生量が15個/cm2を越えるまでのスリット時間を測定したところ平均212時間であった。本件明細書において切り粉の発生が見られないとしたのは、切り粉の発生量が15個/cm2以下の場合である。従来の方法によれば、いずれの銅箔を切断した場合であっても、切り粉の発生量は、平均して30個/cm2以上であることを考えれば、極めて良好な結果が得られていることになる。
【0040】
第2実施形態: 円盤状スリット刃6として、少なくとも切断時に銅箔Cに接する部分に、厚さ0.6μmのダイヤモンドライクカーボン−ソフト(DLC−soft)被覆が施されたものを用いた。これ以外の条件は第1実施形態のスリッター1と同じである。
【0041】
そして、円盤状スリット刃6が銅箔Cを切断する際の銅箔面に対する接触角度を、0.213°に設定し、スリット加工を行ったところ、使用開始直後においても切り粉の発生量は15個/cm2以下の場合であった。切り粉の発生量が15個/cm2を越えるまでのスリット時間を測定したところ平均185時間であった。
【0042】
上述した実施形態のスリッター1を用いて、スリット加工したのは、厚さ35μmの表面処理銅箔であり、80m/分の速度で連続してスリット加工する試験を行ったものである。スリット時の銅箔にかけられたテンションは23kg/mであった。
【0043】
以上に述べた実施形態で採用した切り粉の数の測定方法について述べておく。まずスリットが終了して巻き取られた銅箔ロールのスリット切断面に粘着テープを貼付して、その後これを剥がし、剥がしたテープを100倍の光学顕微鏡で観察し、約0.01mm以上の大きさの切り粉の数をカウントする。切り粉の大きさは、顕微鏡レンズ内の寸法測定用ゲージで判断する。その後、換算により単位面積あたりの切り粉数を求める。なお、粘着テープは同一の物を用いることで相対評価できるようにした。
【0044】
【発明の効果】
以上に述べた本発明によれば、金属箔のスリット作業における、作業者による作業精度のバラツキを最小限に抑え、作業者の熟練度に左右されることなく、切り粉の発生を大幅に減少させることができ、美麗な切断面を得ることが可能であり、しかも、スリット幅の位置精度に優れるスリット技術が提供できることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】スリット位置の拡大模式図。
【図2】スリット位置の拡大模式図。
【図3】実施形態のスリッターを示す斜視図。
【図4】スリッターにおける銅箔の流れを示す図。
【図5】スリッターの切断機構の要部を示す平面図。
【図6】円盤状スリット刃の先端部分を示す拡大図。
【符号の説明】
1 金属箔スリット装置
2 巻出し機構
3 切断機構
4a、4b、4c 巻取り機構
5 回転ロール
51 ロール本体
52 筒体
53 内側リング
54 外側リング
55 回転ロール固定刃
E 溝部
6 円盤状スリット刃
6a 刃付け部
7 シャフト
11 テンションロール
C 銅箔
Claims (2)
- 回転する円盤状スリット刃と回転ロール軸に溝切りして同心状に取り付けた回転ロール固定刃とが、側面方向から見た場合の各々の刃先部分が重なり合い交差する位置で所定の間隔を持って離間配置され、前記刃先部分が重なり合い交差する位置をスリット点として、当該スリット点における回転ロール固定刃の接線方向から張力を与えた状態の長尺の金属箔を、そのスリット点に向けて走行させ、前記した二つの刃が同期回転するときの協働作用により、走行する金属箔を連続的に裁断加工するための手段を備えた金属箔スリット加工装置において、
前記金属箔が銅箔であり、
前記円盤状スリット刃は高速度鋼又は超硬合金製であり、その直径は、回転ロール固定刃の外周直径の2.5倍〜4倍であり、且つ、前記スリット点における円盤状スリット刃の接線と回転ロール固定刃の接線とのなす角を0.125°〜0.362°とすることを特徴とする金属箔スリット加工装置。 - 円盤状スリット刃の外周縁端部である刃付け部分は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)又はダイヤモンドライクカーボン−ソフト(DLC−soft)で被覆されている請求項1に記載の金属箔スリット加工装置。
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