JP4266293B2 - 歯科用組成物およびその利用 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、口腔内で用いられる歯科硬化物を製造するための歯科用組成物、その組成物を調製するための歯科材料およびキットに関する。さらに、そのような歯科用組成物を用いて歯科硬化物を製造する方法ならびに口腔内に歯科硬化物を装着する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
所定の歯科材料を用いて調製された歯科用組成物を硬化させてなり、口腔内で用いられる各種の歯科硬化物(接着材、合着材、充填材、補綴材等)が知られている。例えば、特開平9−117463号公報、特開2001−122720号公報、特開2001−151620号公報、特開2002−138008号公報には、かかる歯科硬化物を形成するための歯科用組成物が開示されている。また、特開平7−116176号公報、特開平7−116177号公報、特開平7−118118号公報および特表平10−502352号公報には、歯科印象材(すなわち、口腔外で用いられる歯科硬化物)および歯科印象材を使用するための器具が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このような歯科硬化物を製造するにあたって、その組成物の硬化の進行程度を把握しやすくすることができれば好都合である。例えば、組成物の硬化が十分に進行していない状態(硬化完了前の状態)と、組成物の硬化が十分に進行した状態(硬化が完了した状態)との識別性を向上させることにより、組成物の硬化が十分に進行する前に硬化処理を終了してしまう(その結果として適切な硬化物が形成されなくなる)といった事態を回避し得る。
【0004】
そこで本発明は、口腔内で用いられる歯科硬化物を形成するための歯科用組成物であって、その組成物の硬化の進行程度を把握しやすい歯科用組成物、そのような歯科用組成物の調製に用いられる歯科材料およびキットを提供することを目的とする。さらに、かかる歯科用組成物を用いて歯科硬化物を製造する方法および口腔内に歯科硬化物を装着する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段、作用および効果】
本発明者は、所定の機能を発揮する色マーカーを歯科用組成物に含有させることにより上記課題を解決し得ることを見出した。
【0006】
本発明は、口腔内で用いられる歯科硬化物を形成するための歯科用組成物に関する。その歯科用組成物は、フルオロアルミノシリケートガラス、ポリアルケン酸および色マーカーを主構成要素として含有する。ここで、前記色マーカーは、組成物の硬化の進行程度を色変化により把握することを実現する化合物である。かかる歯科用組成物は、その硬化の進行程度を作業者が視覚を通じて(色変化により)把握することができる。このため、触感等により把握する場合に比べて硬化の進行程度がわかりやすい。したがって、適切な硬化物(例えば所望の形状、機械的特性等を有する硬化物)を製造したり口腔内に装着したりするために作業者に要求される負担(手間、能力等)が軽減される。例えば、作業経験の少ない作業者であっても容易に適切な処置を行うことができるようになる。
【0007】
本明細書において「色変化」または「変色」とは、組成物が少なくとも第一の色から第二の色に変化することをいう。第一の色と第二の色との差異(色調の違い)は、それらの色彩の違いおよび/または濃さの違い(濃淡の違い)として、視覚を通じて識別され得る。なお、ここでいう「色彩」には白色および黒色が含まれる。第一の色と第二の色とは、可視光線のもとで肉眼で観察することにより識別し得る程度に異なることが好ましい。
【0008】
本発明の歯科用組成物は、セメントとして特に好適である。本明細書中において「セメント」という用語は、特記しない場合、口腔内にて接着、合着、仮着、仮封、充填、修復等の目的で使用される各種歯科セメントを包含する意味で用いる。
一般に、このような歯科セメントの硬化時間は比較的短く(例えば3〜15分程度に)設定されている。例えば、グラスアイオノマー系セメントの場合には、JIS T 6607に基づいた硬化時間試験により測定される硬化時間が、合着用セメントの場合には7.5分以内であり、修復用セメントの場合には5分以内である。このような短時間で硬化するセメントにあっては、硬化の進行程度を容易に(即時に)把握できるという本発明の効果がよりよく発揮される。また、口腔内に付着させた組成物の硬化の進行程度を視覚により把握するので、触感等により把握する場合に比べて患者に与える不快感が少ない。
【0009】
色マーカーとしては、組成物の硬化の進行程度の違いに関連して変色する(すなわち、この色マーカーを含む組成物の呈する色を変化させる)化合物であり、酸化還元反応の進行により組成物の色を異ならせる色マーカーを選択することができる。組成物の硬化を妨げない色マーカーが好ましく使用される。また、色マーカーを除いたこと以外は同様の組成を有する組成物に比べて、組成物の硬化時間を顕著に変化させない色マーカーが好ましい。
好ましく使用される色マーカーの具体例としては、塩化鉄(II)、塩化鉄(III) が挙げられる。これらのうち一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0010】
本発明の好ましい態様では、前記色マーカーにより、歯科用組成物の硬化完了前の色と硬化完了後の色(すなわち歯科硬化物の色)とを異ならせることが実現される。ここで、歯科用組成物について「硬化完了」とは、製造しようとする歯科硬化物の用途に応じて、組成物の硬化が十分に進行した時点をいう。例えば、JIS T 6607に基づく硬化時間試験を行ったとき、試験片にビカー針の針跡が残らなくなった時点は、本明細書にいう「硬化完了」の時点を表す典型例である。この例は、グラスアイオノマー系セメントまたはレジン配合グラスアイオノマー系セメントの場合について特に好ましく適用される。
かかる態様によると、組成物の硬化が十分に進行する前に硬化処理を終了してしまい、その結果として適切な硬化物が形成されなくなるといった事態を回避し得る。特に、口腔内で組成物の硬化を完了させた後、そのまま口腔内で用いられる歯科用硬化物を形成するための歯科用組成物では、その組成物の硬化完了時期を容易に把握できることにより得られるメリットが大きい。例えば、患者を拘束する時間を不必要に長引かせることなく、口腔内に歯科硬化物を適切に装着することができる。
【0011】
本発明の他の好ましい態様では、前記色マーカーにより、歯科用組成物が未硬化状態にあるときの色と半硬化状態にあるときの色とを異ならせることが実現される。ここで、歯科用組成物について「未硬化状態」とは、組成物の硬化が未だ十分には進行しておらず、その組成物が流動性を維持している状態をいう。また、「半硬化状態」とは、組成物の流動性がほぼ失われる程度に硬化が進行しているが、その組成物が未だ可塑性を残している状態(典型的にはゴム状の状態)をいう。例えば、JIS T 6607に基づく硬化時間試験を行って、試験片の面に落としたビカー針を引き上げたときビカー針に組成物が付着する状態は、本明細書にいう「未硬化状態」を表す典型例である。。また、かかる硬化時間試験を行ったとき、試験片にビカー針の針跡が残り(すなわち硬化完了前であり)、かつ、試験片の面に落としたビカー針を引き上げたときビカー針に組成物が付着しない状態は、本明細書にいう「半硬化状態」を表す典型例である。これらの例は、グラスアイオノマー系セメントまたはレジン配合グラスアイオノマー系セメントの場合について特に好ましく適用される。
【0012】
さらに他の好ましい態様では、前記色マーカーにより、歯科用組成物が半硬化状態にあるときの色を、その組成物が未硬化状態にあるときの色および組成物の硬化完了後の色のいずれとも異ならせることが実現される。
半硬化状態にある組成物は、未硬化状態にある組成物に比べて形状維持性が高く、また硬化完了後の組成物(歯科硬化物)に比べて加工性に優れる。したがって、組成物が半硬化状態にある時期は、その組成物の形状を変更(変形、除去等)する作業を行う時期として適している。かかる態様によると、組成物が半硬化状態にあることを容易に把握することができるので、前記形状変更作業を行うのに適した時期を逸することが防止される。このような歯科用組成物はセメントとして特に好適である。セメントを使用する際(例えば、合着用セメントを用いて修復物を歯に接着する際)には、必要に応じて口腔内に付着させたセメントの余剰分を除去することがあり、この除去作業は組成物が半硬化状態にある間に行うことが好ましいためである。
【0013】
本発明によると、上述したいずれかの歯科用組成物を調製するための歯科材料が提供される。この歯科材料は、フルオロアルミノシリケートガラスおよびポリアルケン酸を主構成要素とする。さらに、これらを含んで調製された歯科用組成物の硬化の進行程度を該組成物の色変化により把握することを実現する色マーカーを主構成要素とする。
かかる構成の歯科材料を用いて、典型的にはこれら主構成要素および必要に応じて用いられる補助構成要素を混合(練和)することにより、本発明の歯科用組成物を容易に調製することができる。
なお、本明細書において「歯科材料」とは、所定の歯科硬化物を製造するのに用いられる個々の原料物質(要素)の集合物をいう。したがって、歯科材料を構成する各要素が合わさって一つの混合物(すなわち歯科用組成物)を形成している場合に限定されず、当該混合物を形成する前段階で各要素が個別に包装されて寄り集められている形態のものも本明細書にいう歯科材料に包含される。
【0014】
本発明の歯科材料は、好ましくはキットの形態で取引きされる。すなわち、本発明によって提供される歯科用キットは、上記本発明の歯科材料を本質的に内在する。さらに、この歯科材料を用いて調製された歯科用組成物の硬化の進行程度を示す色を表示する色見本を備える構成とすることが好ましい。
かかる構成の歯科用キットによると、歯科材料を用いて調製された組成物の色と色見本とを見比べる(対照する)ことにより、そのときの組成物の硬化の進行程度を一層容易に把握することができる。また、作業者間の感性の違いが硬化の進行程度の把握に及ぼす影響を軽減することができる。
【0015】
また、本発明によると、口腔内で用いられる歯科硬化物を製造する方法が提供される。その製造方法は、上述した本発明のいずれかの歯科用組成物を調製する(典型的には上記本発明の歯科材料を用いて調製する)工程と、その組成物を硬化させる工程とを包含する。このとき、組成物の色変化によって組成物の硬化の進行程度が把握されることを特徴とする。
かかる製造方法によると、作業者に要求される負担(手間、能力等)を軽減しつつ、種々の作業(例えば、組成物を成形する作業、組成物の形状を変更する作業等)を、組成物の硬化状態に合わせて適切な時期に実施することができる。あるいは、組成物を硬化させる工程を適切な時期に終了することができる。
【0016】
さらに、本発明によると、口腔内に歯科硬化物を装着する方法が提供される。その装着方法は、上述した本発明のいずれかの歯科用組成物を調製する(典型的には上記本発明の歯科材料を用いて調製する)工程と、未硬化状態の当該組成物を口腔内に付着させる工程と、その組成物を口腔内で硬化させる工程とを包含する。このとき、組成物の色変化により組成物の硬化状態が把握されることを特徴とする。この装着方法は、必要に応じて、口腔内に付着させた当該組成物が半硬化状態のときにその余剰分を口腔内から除去する工程をさらに包含することができる。
かかる装着方法によると、作業者に要求される負担を軽減しつつ、組成物の硬化状態に合わせて各工程を適切な時期に実施することができる。例えば、組成物を硬化させる工程を適切な時期に(例えば、患者を拘束する時間を不必要に長引かせることなく)終了することができる。また、余剰の組成物を口腔内から除去する工程を行うのに適した時期を逸することが防止される。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書によって開示されている技術内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
本発明の歯科材料および歯科用組成物は、フルオロアルミノシリケートガラス、ポリアルケン酸および色マーカーを主構成要素とすることで特定され得るものであって、本発明の作用・効果を損なわない限りにおいて他の成分を含み得る。このような歯科材料および歯科用組成物(典型的にはセメント)は、その構成要素の内容に応じて、グラスアイオノマー系、レジン配合グラスアイオノマー系(レジンモディファイドグラスアイオノマー系、ハイブリッドグラスアイオノマー系等と称されることもある)等に分類され得る。
本発明の歯科材料および歯科用組成物は、その構成要素の内容に応じて、接着材、合着材、仮着材、仮封材または充填材(例えば、コンポジット、裏層材(裏装材)、シーラント等)、あるいはその他の口腔内で用いられる各種歯科硬化物(歯科分野で利用される硬化物)を製造するのに使用することができる。
【0019】
本発明の組成物の主構成要素の一つであるフルオロアルミノシリケートガラスとしては、従来から歯科用グラスアイオノマーセメント調製用として用いられてきたものを特に制限なく使用することができる。シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、種々のフッ化物(例えばCaF2、BaF2、AlF3)の他、リン酸成分(AlPO4等)や亜鉛成分(ZnO等)を含み得る。
他の主構成要素であるポリアルケン酸は、上記フルオロアルミノシリケートガラス(典型的には粉末)と混合された際に硬化反応を起こし得るものであればよい。典型的なポリアルケン酸はα,β不飽和カルボン酸重合体であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、グルタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、フマル酸等の重合体またはそれら不飽和カルボン酸同士の共重合体あるいはそれらカルボン酸と他のモノマー(例えばアクリルアミド、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化アリル、ビニルアセテート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート)との共重合体が挙げられる。アクリル酸の重合体および共重合体が特に好ましい。
なお、特に限定しないが、歯科用組成物において好ましい粘度を実現させる等の観点から、使用するポリアルケン酸(α,β不飽和カルボン酸重合体)の分子量は、2000〜100000(質量平均分子量)の範囲にあることが好ましく、5000〜50000の範囲にあることが特に好ましい。
【0020】
本発明の組成物は、さらに、組成物の硬化の進行程度に関連して組成物の色を異ならせる「色マーカー」を主構成要素とする。典型的には、組成物中における酸化還元反応の進行により変色する(その結果、組成物の色を変化させる)化合物が色マーカーとして用いられる。
酸化還元反応の進行により変色する色マーカーは、酸化数によって異なる色を呈する金属イオンを含む。好適例としては、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)等のイオンが挙げられる。かかる金属イオンを生成し得る色マーカーを含有する歯科用組成物は、その組成物に溶解可能な金属塩(組成物が水を媒体とする場合には水溶性塩)を含む歯科材料を用いて調製することができる。好ましく使用される色マーカー(水溶性金属塩)としては、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、過マンガン酸カリウム等が例示される。
【0021】
【0022】
このような色マーカーは、組成物中に含有されて、その組成物の硬化の進行程度に関連して組成物の色を異ならせる機能を発揮する。その色変化によって硬化の進行程度が把握される。組成物の色変化の代表的なパターンとしては、(1).調製直後(または未硬化状態)のときは比較的濃い第一の濃度を呈し、硬化の進行に関連してその色が次第に(徐々にあるいは段階的に)前記第一の濃度より薄い第二の濃度(無色であってもよい)に変化する、(2).調製直後(または未硬化状態)のときは比較的薄い第一の濃度(無色であってもよい)を呈し、硬化の進行に関連してその色が次第に(徐々にあるいは段階的に)前記第一の濃度より濃い第二の濃度に変化する、(3).調製直後(または未硬化状態)のときは第1の色彩を呈し、硬化の進行に関連して次第に(徐々にあるいは段階的に)第2の色彩へと変化する、が挙げられる。また、(1).と(3).または(2).と(3).(すなわち、色彩の変化および濃度の変化)のパターンが組み合わさった色変化であってもよい。
本発明の歯科用組成物は二種以上の色マーカーを含有することができる。これら複数の色マーカーは、例えば、組成物の硬化が進行するとき、まず第一の色マーカーが変色し、次いで第二の色マーカーが変色するような組み合わせとなるように選択することができる。
【0023】
本発明の歯科用組成物から形成された歯科硬化物は口腔内で用いられる。したがって、硬化物の少なくとも一部が外部から見える状態(口腔内に露出した状態)で使用され得る歯科用組成物(例えば修復・充填用セメント)においては、硬化完了後に無色となる(すなわち、色マーカーを含まない組成物の本来の色が表れる)か、あるいは口腔内の色(典型的には歯または歯茎)に近似した色(淡いピンク、オレンジ、クリーム色等)となるような色マーカーを選択することが好ましい。かかる観点から好ましく用いられる色マーカーとしては、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)が挙げられる。
【0024】
本発明の歯科用組成物は、上記必須成分に加えて種々の副成分を含有することができる。例えば、レジン配合グラスアイオノマー系セメントとして用いられる組成物には、上記必須成分に加えて重合性モノマーおよびその重合開始剤を含ませる。かかる重合性モノマーとしては、従来からレジン成分を含む歯科用組成物(レジン系セメントまたはレジン配合グラスアイオノマー系セメント)の調製に用いられていた種々のモノマーを用いることができる。メタクリレートまたはアクリレート(以下、両者を合わせて(メタ)アクリレートと表記する。)系モノマー、ウレタン系モノマー等が好適であるがこれらに限られない。酸基(カルボン酸、リン酸、硫黄、ホウ酸等)を含まない重合性モノマーが好適である。
【0025】
好適な(メタ)アクリレート系モノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)、グリシジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
また、好適なウレタン系モノマーとして、UDMA(ウレタンジメタクリレート)が挙げられる。例えば、UDMAに包含されるモノマーとして、ジ(メタクリロキシエチル)トリメチルヘキサメチレンジウレタン([2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート)が挙げられる。
本発明の歯科用組成物に含有させる重合性モノマーは1種に限られず、2種以上のモノマー(例えば(メタ)アクリレート系モノマーとウレタン系モノマー)を組み合わせて含有させてもよい。
【0026】
重合開始剤としては、歯科用組成物に含ませる開始剤として従来用いられていた光重合開始剤や化学重合開始剤を特に制限なく使用することができる。
例えば、光重合開始剤としては、カンファーキノン等のジケトン、2,4−ジエチルチオキサントン等のチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド誘導体、等が挙げられる。その他、アミノアセトフェノン類が挙げられる。
また、化学重合開始剤としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ジt−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、m−ニトロベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−フルオロベンゼンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩、等が挙げられる。その他、トリフェニルボラン、トリブチルボラン等のホウ素化合物が挙げられる。
本発明に係る歯科用組成物においては、光重合開始剤と化学重合開始剤とを併用してもよい。さらに、この歯科用組成物の硬化時間を調整(短縮)する硬化促進剤を含有させてもよい。例えば、種々のアミン、ペルオキシド、リン酸化合物、メルカプタン、ケトン等の、歯科用レジン系材料の硬化促進剤として知られている各種化合物を用いることができる。
【0027】
本発明の歯科用組成物には、使用目的に応じて種々のフィラーを含ませてもよい。例えば、好適な非反応性無機系フィラーとしては、アルカリアルミノシリケートガラス、シリカ(石英、珪砂等)、窒化物(窒化ケイ素等)、各種シリケート(例えば長石、ボロシリケートガラス、カオリン、タルク)等が挙げられる。非反応性有機系フィラーとしては、ポリカーボネートやポリエポキシド等が挙げられる。
また、製造される歯科硬化物(例えば、接着、合着、仮着、仮封、充填、修復等の機能を果たすセメント硬化物)の機械的特性、化学的特性および審美性を向上させる目的で種々の添加剤を含ませることができる。例えば、本発明の目的を阻むものでない限り、防腐剤、着色剤、粘度調整剤、重合禁止剤、UV吸収剤、う蝕防止剤、界面活性剤、香料等を適宜配合してもよい。また、アジピン酸、クエン酸、酢酸ナトリウム等のpH調整剤を配合してもよい。このことによって、色マーカーの変色がより大きくなるような範囲のpHで組成物の硬化が進行するように、その組成物のpHを調整することができる。その結果、色マーカーの変色を顕著なものとし、硬化物の進行程度を把握しやすくすることができる。
【0028】
本発明の歯科材料および歯科用キットは、フルオロアルミノシリケートガラス、ポリアルケン酸および色マーカーを主構成要素とし、必要に応じて上記重合性モノマーおよび重合開始剤、硬化促進剤、フィラー、添加剤等を含んで構成することができる。それらの各構成要素(成分)の形態に特に制限はない。従来の歯科材料と同様、典型的には、各構成要素はそれぞれ粉末または溶液(分散液を包含する。以下同じ。)の形態で存在し得る。あるいは、粉状物と適当な媒質とを組み合わせてペースト(またはスラリー)の形態で存在し得る。
【0029】
この歯科材料は、複数の構成要素を配合した状態で保管する(キットを構成する)ことができる。このとき、配合する構成要素の組み合わせに留意することは従来の歯科材料(キット)を製造する場合と同様である。典型的には、一緒に存在することによって架橋、重合等の硬化反応が非コントロール下に開始され得る物質同士を混合して保管することは避ける。例えば、上述のフルオロアルミノシリケートガラスとポリアルケン酸とは混合させずに保管することが望ましい。また、レジン配合グラスアイオノマー系の歯科材料(キット)の場合には、上述の重合性モノマーと重合開始剤とは混合させずに保管することが望ましい。
したがって、例えば、レジン配合グラスアイオノマー系のキットにおいて二つのコンポーネント(構成物)に上記の構成要素を割り振る場合、フルオロアルミノシリケートガラス(粉末)と上記重合性モノマーと硬化促進剤とを含むペースト状または粉状の第1コンポーネントを調製し、上記ポリアルケン酸と重合開始剤とを含むペースト状または液状の第2コンポーネントを調製するとよい。かかる第1および第2のコンポーネントを備えるレジン配合型グラスアイオノマー系歯科硬化物製造用キットは、本発明によって提供される歯科用キットの好適な一形態である。
【0030】
本発明の歯科材料(すなわち各原料の集合物)およびキットを構成する各原料の質量(重量)割合は、用途に応じて異なり得るものであり特に制限はない。
例えば、レジン配合型グラスアイオノマー系歯科セメントを製造するための歯科材料の場合、歯科用組成物を調製した際に、重合性モノマー10〜20質量%、重合開始剤0.1〜2質量%、硬化促進剤0〜5質量%、フルオロアルミノシリケートガラス粉末40〜50質量%、ポリアルケン酸(典型的にはα,β不飽和カルボン酸重合体)15〜25質量%、水(脱イオン水)15〜25質量%となるように各構成要素の質量割合を定めるとよい。上述の第1および第2のコンポーネントを備えるレジン配合型グラスアイオノマーセメント系歯科硬化物製造用キットの場合は、歯科用組成物に含まれる各構成要素の質量比が上記範囲となるように予め二つのコンポーネントの組成および配合比を決めておくとよい。
【0031】
例えば、重合性モノマー10〜20質量部とフルオロアルミノシリケートガラス粉末40〜50質量部と硬化促進剤0〜5質量部とを含む粉状の第1コンポーネントと、α,β不飽和カルボン酸重合体15〜25質量部と重合開始剤0.1〜2質量部とイオン交換蒸留水15〜25質量部とを含むペーストまたは液状の第2コンポーネントとを備えるキットであれば、これら二つのコンポーネントを質量比1:1.5〜2.0(粉液比1.5〜2.0)で混合することによって、目的とする歯科用組成物を調製することができる。
上記配合比の各構成要素から成る歯科用組成物は、JIS T 6607に基づく硬化時間(すなわちビカー針による測定時間)が6分台〜7分台であり得る。このような硬化時間の歯科用組成物は合着用歯科セメントとして好適である。
【0032】
ここで、色マーカーについては、その機能(発色および変色)を損なうような成分が一緒に存在しなければ、これら第1および第2のいずれのコンポーネントに含有させてもよい。第1および第2のコンポーネントにそれぞれ異なる種類の色マーカーを含有させてもよい。あるいは、色マーカーを第1および第2のコンポーネントとは別にして(フルオロアルミノシリケートガラスおよびポリアルケン酸とは混合させずに)歯科材料を構成し、組成物の調製時に第1および第2のコンポーネントと混合してもよい。
歯科用組成物に含まれる色マーカーの配合比は特に限定されず、硬化の進行の程度に関連して組成物の色を異ならせる(好ましくは、視覚により容易に識別できる程度に異ならせる)ことができる割合であればよい。例えば、組成物100質量部に対して1×10-5質量部〜1質量部(好ましくは5×10-4質量部〜0.5質量部)の色マーカーが配合された組成とすることができる。調製された歯科用組成物に含まれる色マーカーの配合比が上記範囲となるように、上記第1または第2コンポーネントに含有させる色マーカーの配合比を決めておくとよい。また、色マーカーを第1および第2のコンポーネントとは別にして構成された歯科材料では、組成物に含まれる色マーカーの配合比が上記範囲となるように、調製の際に添加する色マーカーの量を決めておくとよい。あるいは、使用の都度その組成物を装着する箇所等を考慮して色マーカーの配合比(添加量)を調節してもよい。
【0033】
本発明の歯科用キットは、組成物の硬化の進行程度を示す色を表示する色見本を備える。この色見本は、少なくとも組成物の硬化完了後の色(歯科硬化物の色)を表示することが好ましい。さらに、(1).組成物の硬化完了前の色、(2).組成物が半硬化状態にあるときの色、(3).組成物の未硬化状態の色、のうち少なくとも一つ(より好ましくはいずれか二つ、さらに好ましくは全て)を表示するものが好ましい。
色見本の形態は特に限定されない。例えば、組成物の硬化の進行程度に対応した色(以下、硬化対照色ともいう。)を印刷するかあるいは硬化対照色を示すラベルを貼り付けたカード(紙製、樹脂製等)や、その硬化対照色を示すように着色された樹脂片等の形態とすることができる。キットの構成部品(外箱やコンポーネントの容器等)に硬化対照色を印刷するかまたは硬化対照色を示すラベルを貼り付けてもよい。
【0034】
本発明によって提供される歯科用キットは、本発明に係る歯科材料を内包する複数のコンポーネント(典型的には粉末、ペースト又は溶液のいずれかを含む複数の容器)および上記色見本の他、歯科用組成物を調製するのに用いられる器具を備えることができる。この種の器具としては、計量カップ(計量スプーンを包含する。)、各種のシリンジ、スパチュラ、練和紙等が挙げられる。
本発明の歯科用組成物は、このような歯科材料またはキットを用いて好適に調製される。例えば、液状タイプの各材料に粉末タイプの各材料を所定の配合比(粉液比)で混合することにより、歯科用組成物を得ることができる。あるいは、粉末タイプの各材料を予め所定の配合比で混合しておき、その後に水等の媒質を添加して混練してもよい。調製直後の組成物が着色している(無色ではない、すなわち色マーカーを含まない組成物とは異なる色を呈する)ような色マーカーを選択すると、組成物の色のムラを観察することによって各材料が適切に(実用上十分な程度に均一に)混合されたかどうかを容易に把握することができるので好都合である。
【0035】
得られた歯科用組成物を、用途に応じて口腔内あるいは外部にて硬化させることにより、口腔内部の配置箇所に対応する形状(不定形状である場合を包含する。)の歯科硬化物を形成する。この組成物の硬化の進行程度は、当該組成物の色変化によって把握することができる。色変化の把握は、通常は肉眼を通じての観察(カメラ等の撮像機器およびディスプレイ等の表示機器を通して間接的に観察する場合を含む。)によって行うことが好ましい。この場合には、硬化の程度を簡便にかつ迅速に把握することができる。上記色見本に示された色(未硬化状態の色、半硬化状態の色、硬化終了前の色、硬化終了後の色等)と組成物の色とを比較(対照)することにより、組成物の硬化の進行程度をより精度よく把握することができる。
【0036】
【実施例】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0037】
[レジン配合グラスアイオノマー系セメントの調製]
重合性モノマー、光重合開始剤(重合触媒)、フルオロアルミノシリケートガラス、α,β不飽和カルボン酸重合体、イオン交換蒸留水および色マーカーから成る歯科材料を用意し、表1に示す組成の実施例1〜3、参考例4〜10ならびに比較例1,2の歯科用組成物を調製した。
【0038】
【表1】
【0039】
<実施例1> 4質量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下「HEMA」という。)、10質量部のジ(メタクリロキシエチル)トリメチルヘキサメチレンジウレタン(以下「UDMA」という。)、0.1質量部のカンファーキノン、46質量部のフルオロアルミノシリケートガラス粉末(市販のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により測定した平均粒径:4μm、成分:SiO2,Al2O3,CaF2,BaF2,AlF3,AlPO4,ZnO、但し全体の重量の約0.25%に相当する量の酒石酸を含む、比重2.96)、20質量部のα,β不飽和カルボン酸重合体(質量平均分子量:ポリエチレングリコール(PEG)換算で20000〜40000)、20質量部のイオン交換蒸留水、ならびに、色マーカーとしての0.1質量部の塩化鉄(II)(FeCl2・4H2O)を十分に撹拌、混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0040】
<実施例2> 色マーカーが0.1質量部の塩化鉄(III)(FeCl3・6H2O)であることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0041】
<実施例3> 色マーカーが0.1質量部の過マンガン酸カリウム(KMnO4)であることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0042】
<比較例1> 色マーカーが0.1質量部の硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2・6H2O)であることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0043】
<比較例2> 色マーカーが0.1質量部の酢酸アルミニウム(Al(CH3COO)2(OH))であることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0044】
<参考例4> 色マーカーが0.1質量部のメチルオレンジであることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0045】
<参考例5> メチルオレンジの配合比が1×10-3質量部であることを除き、参考例4と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0046】
<参考例6> 色マーカーが0.1質量部のアントシアニン系色素(長谷川香料株式会社製、エルダーベリー色素を主体とする着色料製剤;商標「レッドカラーTH−L」)であることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0047】
<参考例7> 色マーカーが0.1質量部のアントシアニン系色素(長谷川香料株式会社製、エルダーベリー色素を主体とする着色料製剤;商標「レッドカラーTH−EN」)であることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0048】
<参考例8> 色マーカーが0.1質量部のアントシアニン系色素(長谷川香料株式会社製、赤キャベツ色素を主体とする着色料製剤;商標「レッドカラーTH−CA」)であることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0049】
<参考例9> 色マーカーが0.1質量部のアントラキノン系色素(長谷川香料株式会社製、ラック色素を主体とする着色料製剤;商標「レッドカラーTH−R」)であることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0050】
<参考例10> 色マーカーが0.1質量部のアントラキノン系色素(長谷川香料株式会社製、コチニール色素を主体とする着色料製剤;商標「レッドカラーTH−C−2」)であることを除き、実施例1と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0051】
[グラスアイオノマー系セメントの調製]
フルオロアルミノシリケートガラス、α,β不飽和カルボン酸重合体、硬化促進剤、イオン交換蒸留水および色マーカーから成る歯科材料を用意し、表2に示す組成の実施例11〜13の歯科用組成物を調製した。
【0052】
【表2】
【0053】
<実施例11> 46質量部のフルオロアルミノシリケートガラス粉末(実施例1と同じ材料)、20質量部のα,β不飽和カルボン酸重合体(実施例1と同じ材料)、20質量部のイオン交換蒸留水、ならびに、色マーカーとしての0.1質量部の塩化鉄(III)(FeCl3・6H2O)を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0054】
<実施例12> 22質量部のフルオロアルミノシリケートガラス粉末(実施例1と同じ材料)、16質量部のα,β不飽和カルボン酸重合体(実施例1と同じ材料)、24質量部のイオン交換蒸留水、ならびに、色マーカーとしての0.001質量部の塩化鉄(II)(FeCl2・4H2O)(組成物100質量部に対して約1.6×10-3質量部)を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0055】
<実施例13> 色マーカーが0.001質量部の塩化鉄(III)(FeCl3・6H2O)(組成物100質量部に対して約1.6×10-3質量部)であることを除き、実施例12と同様の配合比で各材料を混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0056】
[従来の歯科材料に色マーカーを添加したセメントの調製]
市販のグラスアイオノマー系セメント用歯科材料およびレジン配合グラスアイオノマー系セメント用歯科材料および色マーカーを用意し、表3に示す組成の実施例14ならびに参考例15,16の歯科用組成物を調製した。
【0057】
【表3】
【0058】
<実施例14> 株式会社ノリタケデンタルサプライ製のグラスアイオノマー系セメント(合着用)(商標「アイレックスC」)を粉および液の合計質量として1質量部(粉液比1.8:1.0)と、色マーカーとしての1×10-3質量部(組成物100質量部に対して約0.1質量部)の塩化鉄(III)(FeCl3・6H2O)とを混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0059】
<参考例15> 株式会社松風製のグラスアイオノマー系セメント(商標「ハイ−ボンド グラスアイオノマーCX」)を粉および液の合計質量として1質量部(粉液比1.5:1.0)と、色マーカーとしての1×10-5質量部(組成物100質量部に対して約1×10-3質量部)のメチルオレンジとを混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0060】
<参考例16> 株式会社ジーシー製のレジン配合グラスアイオノマー系セメント(商標「ジーシー フジリュート」)を粉および液の合計質量として1質量部(粉液比2.0:1.0)と、色マーカーとしての1×10-5質量部(組成物100質量部に対して約1×10-3質量部)のメチルオレンジとを混合してペースト状の歯科用組成物を調製した。
【0061】
[色変化の評価]
次に、各実施例、参考例および比較例に係る組成物が硬化するときの色変化と硬化の進行程度との関係につき詳細に検討した。ここで、組成物の硬化の進行程度はJIS T 6607の硬化時間試験に準じて把握した。
すなわち、調製直後(未硬化状態)の組成物の色を肉眼で直接観察し、この組成物をガラス板上に配置された円筒形の硬化時間試験用型(内径10mm×高さ5mm)内に充填して表面を平らにした。各材料の混合開始(すなわち組成物の調製開始)から2分経過した時点で、この型を37℃、相対湿度95〜100%の恒温器に移した。次いで、質量300g、針の断面積1mm2のビカー針を充填物の表面に静かに落とした。次いで、充填物の表面に落としたビカー針を引き上げた。このとき、充填物の表面に針跡がつくかどうか、および、引き上げたビカー針に充填物(組成物)が付着しているかどうかを調べた。この操作を繰り返し、充填物がビカー針に付着しなくなったとき(すなわち組成物が半硬化状態になったとき)の充填物の色を肉眼で直接観察した。さらにこの操作の繰り返しを継続し、針跡が付かなくなったとき(すなわち組成物の硬化が終了したとき)の充填物の色を肉眼で直接観察した。
それらの観察結果を、色彩および濃さを指標として表4に示す。なお、表中において「濃度1」〜「濃度3」とは、色彩の相対的な濃度を表すものであって、数値が大きくなるほど色が濃いことを示している。組成物の色彩のみによっても硬化の進行を把握し得る場合は濃度の記載を省略した。また、「無色」とは、色マーカーを含まない組成物の本来の色が表れた状態をいう。
【0062】
【表4】
【0063】
表4から判るように、実施例1〜3,11〜14ならびに参考例4〜10,15,16の組成物(歯科セメント)はいずれも、調製直後(未硬化状態)、半硬化状態および硬化終了後の色(色調)が互いに異なっており、視覚を通じて明瞭に識別し得た。すなわち、組成物の色変化からその硬化の進行程度を把握することが可能であった。この色調の違いは、市販の色差測定装置(色差計)等を用いることにより数値として差別化することができた。一方、酸化数の変わらない金属イオンを生成する化合物を含有させた比較例1および2では、硬化の進行程度に関わらず組成物の色は実質的に同じ(無色)であった。したがって、組成物の色変化から硬化の進行程度に関する情報を得ることはできなかった。
【0064】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
Claims (7)
- 口腔内で用いられる歯科硬化物を形成するための歯科用組成物であって、
フルオロアルミノシリケートガラス、ポリアルケン酸および色マーカーを主構成要素とし、
ここで、前記色マーカーは、該組成物の硬化の進行程度を該組成物の色変化により把握することを実現する化合物であって、酸化数によって異なる色を呈する金属イオンを含み酸化還元反応の進行により前記組成物の色を変化させる化合物である歯科用組成物。 - セメントとして用いられる請求項1に記載の歯科用組成物。
- 前記色マーカーは、塩化鉄 (II) または塩化鉄 (III)である請求項1または2に記載の歯科用組成物。
- 口腔内で用いられる歯科硬化物を形成するための歯科用組成物を調製するための歯科材料であって、
フルオロアルミノシリケートガラス、ポリアルケン酸および色マーカーを主構成要素とし、
ここで前記色マーカーとして、酸化数によって異なる色を呈する金属イオンを含む金属塩であって、前記歯科用組成物の硬化の進行程度を該組成物の色変化により把握することを実現する金属塩を有する、歯科材料。 - 前記金属塩は、塩化鉄 (II) または塩化鉄 (III) である、請求項4に記載の歯科材料。
- 請求項4または5に記載の歯科材料と、
該歯科材料を用いて調製された歯科用組成物の硬化の進行程度を示す色を表示する色見本とを備える歯科用キット。 - 口腔内で用いられる歯科硬化物を製造する方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用組成物を調製する工程と、
その組成物を硬化させる工程とを包含し、
ここで、前記組成物の色変化により該組成物の硬化の進行程度が把握されることを特徴とする歯科硬化物製造方法。
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