JP4261912B2 - 薬剤および薬剤キット - Google Patents

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、高眼圧症および緑内障の治療薬としてのプロスタグランジン化合物と一酸化窒素(以下、「NO」と略す)供与性化合物とを組み合わせた薬剤に関する。
【0002】
【背景技術】
現在の高眼圧症および緑内障の治療方法は、眼圧降下を目的とした薬物の点眼もしくは内服投与が主流となっている。このうち、点眼投与においては、マレイン酸チモロール、塩酸カルテオロール、塩酸ベフノロール、塩酸ベタキソロールなどのβ遮断薬剤、エピネフリン、塩酸ジピベフリンなどの交感神経刺激剤、塩酸ピロカルピン、カルバコールなどの副交感神経刺激剤、ブナゾシンなどのα遮断剤、ニプラジロールなどのαβ遮断剤、イソプロピルウノプロストン、ラタノプロストなどのプロスタグランジン誘導体などの治療薬が用いられており、また、内服投与においては、アセタゾラミド、メタゾラミド、ジクロフェナミドなどの炭酸脱水酵素阻害剤などが治療薬として用いられている。
【0003】
ところが、これらの治療薬1剤だけでは、十分に眼圧をコントロールすることができない症例が多く、種々の治療薬を2剤以上併用して投与されることが多くなっている。しかし、治療薬の併用によっても眼圧降下作用が顕著にならない症例もあり、このような症例の場合には薬剤の選択に大きな困難が生じていた。
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明は、高眼圧症や緑内障に対してより高い眼圧降下作用をもつ薬剤を提供すること、特に従来の複数の薬剤の併用によっても眼圧降下作用が顕著にならない症例に対しても有効な薬剤の提供をその課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を行い、薬剤としてプロスタグランジン化合物とNO供与性化合物に着目し研究を進めた。
上記薬物のうち、プロスタグランジン化合物は、単独で眼圧降下作用を有することが既に知られている化合物ではあるが、その作用機序はいまだ十分には解明されていない。一般的にはブドウ膜強膜流量の増加によると考えられており、その理由として幾つかの説が示唆されている。ひとつは、ブドウ膜強膜流出経路である毛様体平滑筋線維の細胞間隙がプロスタグラジンFαにより分泌されたMMPにより分解されて拡大することにより流出抵抗が減少し、流出量が増大するという説である(Lutjen-Drecoll E and Tamm E, Exp. Eye.Res 47, 761-769 1988)。他方、毛様体平滑筋が弛緩し細胞間隙が拡大することにより流出抵抗が減少し、流出量が増大するとの報告もある(Poyer JF, Inv. Opht. Vis. Sci 36, 2461-2465 1995)。
【0006】
このプロスタグランジンに関し、本発明者は以下の報告に注目した。すなわち、プロスタグランジン化合物(特にプロスタグランジンFα誘導体)がプロスタグランジン受容体と結合することにより、ホスホリパーゼAが刺激され、生体膜リン脂質からアラキドン酸が生成遊離される。このアラキドン酸はシクロオキシゲナーゼによってプロスタグランジンGへと転換され、これから種々の内因性プロスタグランジンに転換される。このとき生成するプロスタグランジンEとプロスタグランジンFαとにより、毛様体筋が弛緩し、房水のぶどう膜強膜流出量を増加させ、結果として眼圧が降下するというものである(Y. K. Sardar, Exp. Eye. Res. 63, 305, 1996他)。
【0007】
一方のNO供与性化合物についても、眼圧降下作用を有することが既に知られており、その作用機序としては、遊離した一酸化窒素がグアニル酸シクラーゼを活性化し、この活性化によりサイクリックGMPが増加し(S. A. Waldman et al, J. Biol. Chem 259, 14332, 1984)、その結果として眼圧降下作用が発現する(J. A. Nathanson et al, Eur. J. Pharmacol. 147, 155-156, 1988)というものである。
【0008】
一般的に、眼圧降下作用を有する物質を複数組み合わせても、その効果が大きく改善するものではない。しかしながら本発明者らは、プロスタグランジン化合物とNO供与性化合物と組み合わせにおいては、NO供与性化合物から遊離する一酸化窒素が、グアニル酸シクラーゼ活性作用の他に、シクロオキシゲナーゼの活性化作用をも有し( D. Salvemini, et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 7240, 1993)、このシクロオキゲナーゼの活性化が、プロスタグランジン化合物の眼圧降下作用機序におけるアラキドン酸の転換を強化し、眼圧降下作用を顕著に増強しうるであろうとの予測の元に研究を行った。そしてその結果、実際にこれらの組み合わせが高い眼圧降下作用を示すことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、プロスタグランジン化合物とNO供与性化合物とを含有する薬剤を提供するものである。
【0010】
また本発明は、高眼圧症ないしは緑内障の治療及び/又は予防に用いる上記薬剤を提供するものである。
【0011】
【発明の効果】
高眼圧症や緑内障は難治性のものが多く、従来使用されていた眼圧降下を目的とした薬剤では完全に治癒することができない症例も数多く報告されている。また、これらの薬剤を複数組み合わせて用いることも種々試みられているが、その効果は単独で用いた場合とほとんど変わらないか、僅かに有利である程度であり、症状の治癒に大きく貢献するほどの顕著な効果を得ることはできなかった。
これに対し、本発明者のプロスタグランジン化合物とNO供与性化合物と組み合わせでは、NO供与性化合物から遊離する一酸化窒素がプロスタグランジン化合物の眼圧降下作用機序におけるアラキドン酸の転換を強化し、眼圧降下作用を顕著に増強し、相乗的に高い眼圧降下作用を示すものであり、通常の高眼圧症や緑内障の患者のほか、従来の複数の薬剤の併用によっても眼圧降下作用が顕著にならない患者に対しても有効な薬剤となるものである。
【0012】
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の薬剤において用いるプロスタグランジン化合物とは、薬学的に許容される全てのプロスタグランジンおよびその誘導体並びにその類似体を意味し、誘導体中には、これらの薬学的に許容されるエステルおよび塩が含まれる。
【0013】
これらプロスタグランジン化合物の例としては、天然のプロスタグランジンであるプロスタグラジン(以下、「PG」と略すことがある)D、PGE、PGE、PGE、PGFα、PGFα、PGFα、PGG、PGH、PGI、PGI等のほか、トロンボキサンA、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、PGFα1−イソプロピルエステル、PGFαイソプロピルエステル−15−プロピオン塩、15−デオキシPGFα等が例示できるが、これらに限定されるものではない。また、本発明においては、これらプロスタグランジン化合物を1種又は2種以上使用することができる。
【0014】
本発明の薬剤において、好ましいものとして使用されるプロスタグランジン化合物は、上記のうちプロスタグランジンFα誘導体であり、具体的には、PGFα、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストンが特に好ましいものとして挙げられる。
本発明の薬剤における、プロスタグランジン化合物の好ましい配合量は、全組成に対して0.0001〜0.05w/v%であり、より好ましくは、0.001〜0.01 w/v%である。
【0015】
一方、本発明の薬剤において使用されるNO供与性化合物とは、生体内でNO(一酸化窒素)を遊離する化合物を指す。このNO供与性化合物の例としては、ニプラジロール、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ニトロプルシッドナトリウム、N−ニトロソアセチルペニシルアミン、3−モルホリノ−シドノニミン塩酸塩、S−ニトロソ−N−アセチル−DL−ペニシラミン(SNAP)、S−ニトロソグルタチオン、4−フェニル−3−フロキサンカルボニトリル、アルギニン、亜硝酸ナトリウムなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。本発明においては、これらNO供与性化合物を1種又は2種以上使用することができる。
【0016】
上記NO供与性化合物のうち、特に好ましいものとしては、ニプラジロールが挙げられる。このニプラジロールは、NOを遊離する作用の他に、α、β遮断効果を有することが知られており、これらの効果が高眼圧症や緑内障の治療に更に好ましい結果をもたらすものと考えられる。
【0017】
本発明の薬剤における、NO供与性化合物の好ましい配合量は、全組成に対して0.01〜5w/v%であり、より好ましくは、0.1〜1.0 w/v%である。
【0018】
本発明の薬剤は、点眼剤等の種々の形態とすることができ、プロスタグランジン化合物とNO供与性化合物とを混合し、ひとつの製剤とすることも、また、それぞれを別の製剤とし、投与に当たっては順次投与する薬剤キットの形態とすることもできる。
【0019】
本発明薬剤の形態として、両者をひとつの製剤に含有させる形態を採用した場合には、簡便性という点で大きな利点がある。一方、別々の製剤に分けた場合には、薬剤の投与経路の選択や、両者の投与比の調整が可能という点で利点がある。
【0020】
本発明の薬剤の最も好ましい形態の一つとして点眼剤を挙げることができる。この点眼剤としては、プロスタグランジン化合物とNO供与性化合物を別々の容器に含有させた点眼剤を組み合わせたものや、プロスタグランジン化合物とNO供与性化合物とを同一容器内に含有させた点眼剤とすることができる。
【0021】
上記薬剤の製造においては、製剤の形態に応じて、慣用の基剤、溶解剤、溶解補助剤、溶剤、湿潤剤、乳化剤、賦形剤、粘着剤、粘稠剤、結合剤、保存剤、酸化防止剤、安定化剤、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤などを適宜使用することができる。
【0022】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制約されるものではない。
【0023】
実 施 例 1
ニプラジロール 0.25w/v%の水溶液100mLとラタノプロスト
0.005w/v%水溶液100mLをそれぞれ別個に用意し、これらを組合わせて一包装として薬剤キットとした。
【0024】
実 施 例 2
ニトロプルシッドナトリウム 0.1w/v%の水溶液100mLとラタノプロスト
0.005w/v%水溶液100mLをそれぞれ別個に用意し、これらを組合わせて一包装として薬剤キットとした。
【0025】
実 施 例 3、4
表1に示す処方に従い、実施例3および4の薬剤を調製した。
【0026】
【表1】
Figure 0004261912
【0027】
試 験 例 1
家兎に対し、5w/v%高張食塩液100μLを硝子体内に投与することにより、高眼圧モデルを作成した。高張食塩液を硝子体内に投与した直後に、種々の点眼液をそれぞれ50μL点眼し、60分後および120分後の眼圧を測定した。
点眼液としては、生理食塩液、0.005w/v%ラタノプロスト水溶液(ラタノプロスト)、0.25w/v%ニプラジロール水溶液(ニプラジロール)、ラタノプロストとニプラジロールの組み合わせ(実施例1)、0.5w/v%インドメタシン水溶液(インドメタシン)とラタノプロストおよびニプラジロールの組み合わせを用いた。
なお、ニプラジロールとラタノプロストを併用する場合は、先にニプラジロールを点眼し、5分後にラタノプロストを点眼した。さらにインドメタシンを併用する場合はニプラジロール点眼の5分前に点眼した。この結果を表2に示す。各値は薬剤点眼前の眼圧値を基準としてその差で表し、平均値±標準誤差を示す。
【0028】
【表2】
Figure 0004261912
【0029】
試 験 例 2
家兎に対し、5w/v%高張食塩液100μLを硝子体内に投与することにより、高眼圧モデルを作成した。高張食塩液を硝子体内に投与した直後に、種々の点眼液をそれぞれ50μL点眼し、60分後および120分後の眼圧を測定した。
点眼液としては、0.1w/v%ニトロプルシッドナトリウム水溶液(ニトロプルシッドナトリウム)、ニトロプルシッドナトリウムと0.005w/v%ラタノプロスト水溶液(ラタノプロスト)の組み合わせ(実施例2)および0.5w/v%インドメタシン水溶液(インドメタシン)、ラタノプロストおよびニトロプルシッドナトリウムの組み合わせを用いた。
なお、ニトロプルシッドナトリウムとラタノプロストを併用する場合は、ニトロプルシッドナトリウムを点眼した5分後にラタノプロストを点眼した。また、インドメタシンを併用する場合はニトロプルシッドナトリウムを点眼する5分前に点眼した。この結果を表3に表す。各値は薬剤点眼前の眼圧値を基準としてその差で表し、平均値±標準誤差を示す。
【0030】
【表3】
Figure 0004261912
【0031】
上記試験例1および2の結果から、NO供与性化合物とプロスタグランジン化合物の組み合わせは、NO供与性化合物単独、プロスタグランジン化合物単独の場合のいずれと比べても有意に眼圧の上昇を抑えることができた。この併用効果はインドメタシンを併用することにより消失した。これは、NO供与性化合物とラタノプロスト併用時の眼圧上昇抑制作用がシクロオキシゲナーゼを介して発現していることを示唆しており、ラタノプロストのホスホリパーゼA2活性化作用に基づく内因性アラキドン酸の誘導とNOによるシクロオキシゲナーゼ活性化作用が相乗的に働き種々の内因性プロスタグランジンの生成を強力に誘導した結果、家兎眼圧降下作用を有するといわれている、PGEの産生を促した結果によるものと考えられる。
【0032】
【産業上の利用可能性】
プロスタグランジン化合物とNO供与性化合物を組合わせた薬剤は、それぞれを単独で用いた場合に比べて有意に眼圧の上昇を抑えることができるものである。
従って、本発明の薬剤は、高眼圧症や緑内障の患者の治療に有用なものである。

Claims (3)

  1. ラタノプロストニプラジロールとを含有する高眼圧症及び/又は緑内障の治療及び/又は予防用薬剤。
  2. ラタノプロストの含有量が0.0001〜0.05w/v%であり、ニプラジロールの含有量が0.01〜5w/v%である請求項1記載の高眼圧症及び/又は緑内障の治療及び/又は予防用薬剤
  3. 点眼剤である請求項1または2記載の薬剤。
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