JP4254024B2 - 切削工具及び切削工具の接合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に刃先部とシャンク部とが異なる素材からなるコンポジットタイプで、例えばプリント基板に小径の孔部を穿設するのに用いられる小型ドリル(ミニチュアドリル)等の切削工具及び切削工具の接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にミニチュアドリルは、穿孔すべき穴がきわめて小径であり、ドリル本体の先端に例えば直径0.1〜3.175mm程度の小径棒状の刃先部としてのドリル部が設けられ、後端側にドリル本体を工作機械の回転軸に把持するための比較的大径のシャンク部が設けられている。ドリル部の材質は、通常、硬質の超硬合金が採用される。
そのため、ミニチュアドリルを製造する場合、ドリル部とシャンク部が一体とされるソリッドタイプでは、例えば超硬合金の円柱状素材を削り出してドリル部とシャンク部を一体成形することになり、超硬合金素材が高価であることとドリル部成形のための加工量が大きいために、高コストになる欠点がある。
【0003】
これに対して、小径のドリル部を略円柱状の超硬合金素材で成形し、大径のシャンク部をスチールやSUS等、ドリル部と異なる低廉な素材で成形して、シャンク部の先端側に穿孔された孔部内にドリル部の後部を嵌合するようにしたコンポジットドリルが提案されている。
シャンク部にドリル部を接合する方法として、例えばシャンク部の孔部の内径をドリル部の外径より大きく成形し、ドリル部の後部をシャンク部の孔部内に挿入してろう付けする方法や、ドリル部の外径よりシャンク部の孔部の内径を若干小さく成形して、この孔部を高周波で加熱して拡径させた状態でドリル部を挿入し、冷却して孔部を縮径させることで緊密に固定する焼き嵌め方法等が知られている。
しかしながら、前者の接合方法は煩雑で手間がかかるという欠点があり、後者の接合方法はドリル部とシャンク部を高温状態に保持するためにドリル部が変形するという欠点がある。
このような問題点を解決するために、例えば特開平10−217017号公報に示されているような接合方法がある。この接合方法では、図4に示すように、シャンク部2の孔部3の内径を刃先部1の外径より若干小さく形成し、常温下で刃先部1の後部1aをシャンク部2の孔部3内に強制的に圧入することで、孔部3を押し広げつつ孔部内壁3aを削り、刃先部1がシャンク部2の孔部3に嵌合される。このとき、孔部内壁3aの切り屑3bは孔部3の底面に設けられた切り屑たまりにためられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようなミニチュアドリルの接合方法では、シャンク部2の孔部内壁3aが圧入する刃先部1に削られるために刃先部を保持する締め代が減り、刃先部1の保持力が低下してしまうという問題があった。
本発明は、このような実情に鑑みて、刃先部を強固に保持できる切削工具及び切削工具の接合方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる切削工具は、刃先部をシャンク部の孔部に嵌合してなる切削工具において、前記刃先部は、シャンク部の孔部の内径より大きい外径を有する軸部と、該軸部より後端側にシャンク部の孔部の内径より小さい外径を有する小径軸部と、軸部と小径軸部とをつなぐ段差部とを備え、前記シャンク部の孔部内に刃先部の軸部が圧入して嵌合されていて、前記刃先部の軸部を前記シャンク部の孔部に圧入する際に該刃先部の前記段差部で前記孔部の内壁を削って形成された切り屑が、前記小径軸部と前記孔部の内壁及び底面との隙間に圧縮されながら溜まり、かつ該切り屑は塑性加工によって加工硬化していることを特徴とする。また、本発明にかかる切削工具の接合方法は、刃先部をシャンク部の孔部に嵌合してなる切削工具において、前記刃先部は、シャンク部の孔部の内径より大きい外径を有する軸部と、該軸部より後端側にシャンク部の孔部の内径より小さい外径を有する小径軸部と、軸部と小径軸部をつなぐ段差部とを備え、前記シャンク部の孔部内に前記刃先部の軸部を圧入して嵌合するようにし、この刃先部の軸部をシャンク部の孔部内に圧入して嵌合する際には、刃先部の段差部によってシャンク部の孔部の内壁が削られて形成する切り屑を、前記小径軸部と前記孔部の内壁及び底面との隙間に圧縮しながら溜め、かつ該切り屑を塑性加工によって加工硬化させて刃先部の小径軸部とシャンク部の孔部との間で保持したことを特徴とする。
また、前記刃先部におけるシャンク部の孔部に圧入されている部分の長手軸方向の長さLと、前記刃先部の小径軸部の長手軸方向の長さMとの比M/Lが0.1≦(M/L)≦0.7の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0006】
上記のようにして接合されるミニチュアドリルは、刃先部の軸部が圧入による締まり嵌めによって保持されるのに加え、刃先部をシャンク部の孔部に圧入する際、刃先部の段差部で孔部の内壁を削って形成された切り屑が小径軸部と孔部の内壁及び底面との隙間に圧縮されながらたまり、かつ切り屑は塑性加工によって加工硬化して、この切り屑が小径軸部を保持し、刃先部の保持力を高める。
また、M/Lの値が0.7より大きいと、刃先部の軸部において孔部に圧入され締まり嵌めによって保持されている部分の長さが小さい、さらに段差部によって削られる孔部の内壁の量が少なくなり小径軸部を保持する切り屑が少なくなるので安定して刃先部を保持できない。また、M/Lの値が0.1未満であると、刃先部の軸部における孔部に圧入される部分の長さが大きく、その部分は締め代が減って保持力が低下する、さらに、削られた内壁の切り屑によって保持される小径軸部の長さが短いので安定して刃先部を締結できない。
ここで、M/Lの値は0.1≦(M/L)≦0.6の範囲に設定されるのが好ましい。
また、刃先部におけるシャンク部の孔部に圧入されている長さLと、シャンク部の孔部の内径Dとの比L/Dは3.0≦(L/D)≦7.0の範囲に設定されるのが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図1乃至図3により説明する。
図1は実施の形態によるミニチュアドリルのドリル部とシャンク部を示す図、図2はドリル部をシャンク部の孔部に嵌め込む途中の工程を示す図、図3は接合完了状態のミニチュアドリルを示す図である。
【0008】
本実施の形態によるミニチュアドリル10は、例えば直径0.1〜3.175mm程度の小径で略円柱状とされ例えば超硬合金素材からなる刃先部としてのドリル部11と、比較的大径(外径は例えば2〜6mm)で略円柱状の例えばSUSやスチールからなるシャンク部12を有している。
【0009】
ドリル部11の後部に設けた円柱状の軸部11aは、シャンク部12の孔部13の内径Dよりも若干大きい外径d2をもち(好ましくは、10μm≦(d2−D)≦40μm)、その軸部11aの後端側には、シャンク部12の孔部13の内径Dよりも若干小さい外径d1をもつ(好ましくは、5μm≦(D−d1)≦40μm)小径軸部11bが設けられている。軸部11aと小径軸部11bのつなぎ部には、軸部11aと小径軸部11bとの外径差によって長手方向に略直交する平面リング状の段差部11cが形成されている。
【0010】
シャンク部12は、その先端面12aにシャンク部12と同軸状に孔部13が先端面12aからシャンク部12内に向けて穿孔されている。シャンク部12の孔部13の開口部は面取りされておらず、先端面12aの外周縁は孔部13との間に肩部12bを残して面取りされている。また、後端部がテーパ状に面取り加工されて面取り部が形成されている。
【0011】
本実施の形態は上述のような構成を備えており、次にこのミニチュアドリル10の接合方法について説明する。
常温下で、まず、ドリル部11の小径軸部11bをガイドとしてシャンク部12の孔部13に挿入し、ついでそれに連続する段差部11cと軸部11bをシャンク部12の先端面12aの孔部13に同軸状に押し当て、強い力で圧入する(図1参照)。すると、孔部13の内壁13aはドリル部11の段差部11cによって全周に亘ってわずかづつ押し広げられ、そして孔部13の内壁13aが一部削られて、孔部13内にドリル部11の軸部11aが押し込まれていく(図2参照)。このときドリル部11の段差部11cによって削られて形成される切り屑13cは加工硬化し、小径軸部11bと孔部13の内壁13a及び底面13bとの隙間に圧縮されながら次第にたまっていく。
そして図3に示すように、ドリル部11の小径軸部11bが孔部13の底面13b付近まで押し込まれた状態で、ドリル部11とシャンク部12の嵌合が完了し、小径軸部11bと孔部13の内壁13a及び底面13bとの隙間にたまっている切り屑13cが完全に圧縮される。ここで、孔部13の内壁13aの切り屑13cが孔部13の底面13b付近にも存在するために、小径軸部11bは孔部13の底面13bに届くまで圧入されない。
なお、この接合工程完了後に、ドリル部11を図3の一点鎖線に示すように切削してより細径にドリル部11を成形してもよい。
【0012】
ここで、刃先部11におけるシャンク部12の孔部13に圧入されている部分の長手軸方向の長さLと、刃先部11の小径軸部11bの長手軸方向の長さMとの比M/Lが0.1≦(M/L)≦0.7の範囲に設定されている。M/Lの値が0.7より大きいと、ドリル部11の軸部11aにおいて孔部13に圧入され締まり嵌めによって保持されている部分の長さが小さい、さらに段差部11cによって削られる孔部13の内壁13aの量が少なくなり小径軸部11bを保持する切り屑13cが少なくなるのでドリル部11を安定して保持できない。また、M/Lの値が0.1未満であると、ドリル部11の軸部11aにおける孔部13に圧入される部分の長さが大きく、その部分は締め代が減って保持力が低下する、さらに、削られた内壁13aの切り屑13cによって保持される小径軸部11bの長さが短いので安定してドリル部11を締結できない。
なお、M/Lの値は0.1≦(M/L)≦0.6の範囲に設定されるのが好ましい。
また、刃先部におけるシャンク部の孔部に圧入されている長さLと、シャンク部の孔部の内径Dとの比L/Dは3.0≦(L/D)≦7.0の範囲に設定されるのが好ましい。
【0013】
上述のような本実施の形態のミニチュアドリル10によれば、ドリル部11の軸部11aが圧入による締まり嵌めによって保持されるのに加え、ドリル部11の軸部11aを圧入する際に、段差部11cによる切削で形成された切り屑13cが小径軸部11bと孔部13の内壁13a及び底面13bとの隙間に圧縮されながらたまり、かつ、切り屑13cは塑性加工によって加工硬化しているので、この切り屑13cが小径軸部11bと孔部13との間に詰まって小径軸部11bを固定保持し、ドリル11の保持力を高める。
【0014】
なお、シャンク部12の孔部13やドリル部11の軸部11a及び小径軸部11bは円柱状に限定されることなく角柱等でもよい。
また、ドリル部11の材質は超硬合金に限らず、サーメット等、シャンク部12より硬度の高い他の適宜の材質を採用でき、シャンク部12の材質もSUSやスチールに限らず、アルミニウム合金等、適宜の材質を採用できる。
本発明は、ミニチュアドリルだけに限らず、その他の穴明け工具や小径のエンドミル等各種の切削工具に適用できる。
【0015】
【実施例】
本発明の一例による小型ドリルを実施例とし、上述した本発明よりもM/Lの値が小さいまたは大きい小型ドリルを比較例とし、さらに従来例として刃先部の軸部が設けられていない小型ドリルを用いて被削材の穴開け試験を行った。試験条件と結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
本実施例、比較例及び従来例ではドリル部が直径0.5mmの小型ドリルを用いて、被削材(厚み1.6mmのFR−4の4層板を3枚重ねたもの)にあて板(厚み0.15mmアルミ板)と敷板(厚み1.6mmベークライト板)をつけて、穴開け試験を行った。ドリルの回転数は70000min-1(rpm)とし、送り速度は0.029mm/rev.からはじめ、100回の穴開けを行うごとに送り速度を0.007mm/rev.ずつ加速して被削材の穴開け加工を行った。ここで表1における折損した送り速度とは、その送り速度で穴開け加工を行ったときに刃先が折損したことを示す。
表1に示すように、M/Lの値が0.1≦(M/L)≦0.7の範囲にある実施例1乃至実施例6では高い送り速度まで刃先が折損せず、安定した耐折損性を示した。ここで、M/Lの値が0.1である実施例1とM/Lの値が0.05である比較例1とを比較すると、実施例1は送り速度0.064mm/rev.まで刃先が折損しなかったが、比較例1は圧入にて発生した切り屑でドリル部を保持する長さが短くなりドリル部が振動して0.043mm/rev.と低い送り速度で刃先が折損した。次にM/Lの値が0.7である実施例6とM/Lの値が0.8である比較例2とを比較すると、実施例6は0.071mm/rev.と高い送り速度まで刃先が折損しなかったが、比較例2は圧入にて発生した切り屑の量が少なくドリル部の保持力が弱いためドリル部が振動して0.050mm/rev.と低い送り速度で刃先が折損した。
以上のように、M/Lの値が0.1≦(M/L)≦0.7の範囲に設定されている実施例は高い送り速度まで刃先が折損せず、M/Lの値が本発明の範囲よりも小さいまたは大きい比較例に比べ、安定した耐折損性を示した。また、ドリル部に段差が形成されていない従来例では、0.036mm/rev.と低い送り速度で刃先が折損した。
【0018】
【発明の効果】
上記のようにして接合される切削工具は、刃先部の軸部が圧入による締まり嵌めによって保持されるのに加え、刃先部をシャンク部の孔部に圧入する際に生じた内壁の切り屑が小径軸部と孔部の内壁及び底面との隙間に圧縮されながらたまり、かつ切り屑は塑性加工によって加工硬化しているので、この切り屑が小径軸部を保持し、刃先部を強固に保持できる。
また、M/Lの値が0.7より大きいと、刃先部の軸部において孔部に圧入され締まり嵌めによって保持されている部分の長さが小さい、さらに段差部によって削られる孔部の内壁の量が少なくなり小径軸部を保持する切り屑が少なくなるので安定して刃先部を保持できない。また、M/Lの値が0.1未満であると、刃先部の軸部における孔部に圧入される部分の長さが大きく、その部分は締め代が減って保持力が低下する、さらに、削れられた内壁の切り屑によって保持される小径軸部の長さが短いので安定して刃先部を保持できない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態によるミニチュアドリルの嵌合前のドリル部とシャンク部を示す概略断面図である。
【図2】 本発明の実施の形態によるミニチュアドリルの嵌合途中のドリル部とシャンク部を示す概略断面図である。
【図3】 本発明の実施の形態によるミニチュアドリルの嵌合完了後のドリル部とシャンク部を示す概略断面図である。
【図4】 従来のミニチュアドリルを示す概略断面図である。
【符号の説明】
10 ミニチュアドリル
11 ドリル部(刃先部)
11a 軸部
11b 小径軸部
11c 段差部
12 シャンク部
13 孔部
13a 内壁
13b 底面
13c 切り屑
M 孔部に圧入されているドリル部(刃先部)の長さ
L 小径軸部の長さ
Claims (3)
- 刃先部をシャンク部の孔部に嵌合してなる切削工具において、
前記刃先部は、シャンク部の孔部の内径より大きい外径を有する軸部と、該軸部より後端側にシャンク部の孔部の内径より小さい外径を有する小径軸部と、軸部と小径軸部をつなぐ段差部とを備え、
前記シャンク部の孔部内に前記刃先部の軸部が圧入して嵌合されていて、前記刃先部の軸部を前記シャンク部の孔部に圧入する際に該刃先部の前記段差部で前記孔部の内壁を削って形成された切り屑が、前記小径軸部と前記孔部の内壁及び底面との隙間に圧縮されながら溜まり、かつ該切り屑は塑性加工によって加工硬化していることを特徴とする切削工具。 - 前記刃先部におけるシャンク部の孔部に圧入されている部分の長手軸方向の長さLと、前記刃先部の小径軸部の長手軸方向の長さMとの比M/Lが0.1≦(M/L)≦0.7の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
- 刃先部をシャンク部の孔部に嵌合してなる切削工具において、
前記刃先部は、シャンク部の孔部の内径より大きい外径を有する軸部と、該軸部より後端側にシャンク部の孔部の内径より小さい外径を有する小径軸部と、軸部と小径軸部をつなぐ段差部とを備え、
前記シャンク部の孔部内に前記刃先部の軸部を圧入して嵌合するようにし、この刃先部の軸部を前記シャンク部の孔部内に圧入して嵌合する際に、該刃先部の前記段差部によって前記シャンク部の孔部の内壁が削られて形成する切り屑を、前記小径軸部と前記孔部の内壁及び底面との隙間に圧縮しながら溜め、かつ該切り屑を塑性加工によって加工硬化させて前記刃先部の小径軸部と前記シャンク部の孔部との間に保持したことを特徴とする切削工具の接合方法。
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