JP5397677B2 - 耐折損性に優れた超硬合金製ドリル - Google Patents

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この発明は、超硬合金製ドリルの、特に、Coを主成分とする結合相が、ドリル部位に応じて優れた靭性と耐クラック性を有し、例えば、金属部品の高速穴あけ加工に用いた場合に、優れた耐折損性を発揮する超硬合金製ドリルに関するものである。
従来、一般に、金属部品の穴あけ加工に用いられる超硬合金製ドリルとして、例えば図1に概略拡大正面図で示される通り、先端面を切れ刃面以下、先端切れ刃面というとし、かつ、2〜16mmの外径を有する溝形成部と、シャンク部とからなり、さらに前記溝形成部は、図2に示される先端形状を有すると共に、少なくとも溝形成部は、結合相形成成分としてのCoを3〜14質量%以下、単に%で示す含有し、あるいは、さらにCr、V、Ta、Nb、TiおよびZrのうちのいずれか1種または2種以上を合計で0.1〜3%含有し、また、硬質相形成成分としての炭化タングステン以下、WCで示すを含有した微細組織の超硬合金からなるドリルが知られている。
さらに、上記の超硬合金製ドリルは、原料粉末として、いずれも0.1〜3μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、炭化クロム以下、Crで示す粉末、炭化バナジウム以下、VCで示す粉末、炭化タンタル以下、TaCで示す粉末、炭化ニオブ以下、NbCで示す粉末、炭化ジルコニウム以下、ZrCで示す粉末、およびCo粉末を用い、これら原料粉末を所定の配合割合に配合し、湿式混合し、乾燥した後、所定の直径を有する丸棒成形体に押出し成形またはプレス成形し、この丸棒成形体を、例えば13.3Pa以下の真空度の真空雰囲気中、5〜10℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この所定温度に1〜2時間保持後、炉冷の条件で焼結することにより、所定の直径を有する超硬合金で構成された長尺状の微粒組織焼結体を形成し、この微粒組織焼結体から図1に示される形状に研削加工することにより製造されることも知られている。
特開平6−81072号公報 特開2001−179516号公報
一方、近年の穴あけ加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に対する要求は強く、これに伴い、マシニングセンタなどの高性能化と相俟って、穴あけ加工は高速化の傾向にあるが、上記の従来超硬合金製ドリルにおいては、これが十分な靭性および耐クラック性を具備するものでないために、これを穴あけ加工を高速で行う場合に用いると、溝形成部での折損が発生し易くなり、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者らは、特に、高速穴あけ加工を行う際に発生しやすい超硬合金製ドリルの折損について、鋭意研究を行った結果、次のような知見を得た。
(a)超硬合金製ドリルの折損は、まず、切れ刃エッジ部にチッピングが発生し、その結果、穴あけ加工時のドリル回転抵抗が高まり、その後、外周マージン部にクラックが導入・進展することにより、ねじ切れるように起こること。
(b)超硬合金の結合相を構成するCo相は、その結晶構造として、面心立方構造以下、fccで示すのCo以下、Co・fccで示すおよび稠密六方構造以下、hcpで示すのCo以下、Co・hcpで示すという二つの結晶構造を有するが、超硬合金製ドリルの切れ刃エッジ部のチッピングの発生は、結合相の構成成分であるCo・hcpの含有割合以下、hcp変態率というを一定値以下に低く抑えることにより抑制され、これとは逆に、外周マージン部のクラックの導入・進展はhcp変態率を一定値以上に高くコントロールすることにより抑制できること。
(c)結合相のCoのhcp変態率は、その部位を加工する砥石の粒度、加工条件、取り代、あるいはブラスト処理等で調整できること。
(d)通常、焼結後の超硬中のCo相はfcc単相を示すが、これは高温準安定相であって、粗研削により表面は安定相のhcp相に変態する。
ところで、Coをhcp相に変態させることによって、圧縮残留応力が誘起されるようになり、その結果として、クラックの導入・進展が抑制され、耐折損性が向上するようになる。
(e)しかし、その一方、Coをhcp相に変態させることによって、耐食性が劣化するようになるため、耐チッピング性の向上を図るためには、湿式研削やその後の洗浄で、特に切れ刃エッジ部が、腐食を受けないようにすることが重要であるが、fcc相はhcp相に比して耐食性に優れた相であることから、耐チッピング性を向上させるためには、粗研削を行わない、あるいは、粗研削後に仕上げ研削を十分に行うこと等によって、hcp相を形成させずに、fcc相をそのまま維持することが重要である。
この場合、仮に、湿式研削、その後の洗浄を施したとしても、fcc相からなる箇所は耐食性に優れるため、チッピングの発生が大きく低減される。
(f)上記のとおり、fcc相によるチッピング発生の低減、さらに、hcp相によるクラックの導入・進展の抑制が相俟って、超硬合金製ドリルの耐折損性が大幅に改善されることを新たに見出した。
以上、(a)〜(f)に示される知見を得たのである。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1)〜16mmの外径を有する溝形成部と、シャンク部からなり、少なくとも前記溝形成部は、結合相形成成分としてCo:3〜14質量%および硬質相形成成分としての炭化タングステンを含有する超硬合金製ドリルにおいて、
微小部X線回折装置により、外周マージン部、切れ刃エッジ部を構成する超硬合金表面のX線回折パターンを測定した場合、面心立方構造Coの(111)面ピークの強度をIfcc(111)とし、また、稠密六方構造のCoの(101)面ピークの強度をIhcp(101)とし、さらに、面心立方構造のCoとの含量に占める稠密六方構造のCoの含有割合を、
hcp変態率=Ihcp(101)/{Ifcc(111)+Ihcp(101)}で表した時に、
外周マージン部については、hcp変態率≧0.2、
また、切れ刃エッジ部については、hcp変態率≦0.1、
をそれぞれ満たすことを特徴とする、耐折損性に優れた超硬合金製ドリル。
(2) 前記溝形成部が、結合相形成成分および硬質相形成成分として、Cr、V、Ta、Nb、TiおよびZrのうちのいずれか1種または2種以上を合計で0.1〜3質量%さらに含有する、前記(1)記載の耐折損性に優れた超硬合金製ドリル。」
を特徴とするものである。
本発明の超硬合金製ドリルは、従来から知られている、〜16mmの外径を有する溝形成部と、シャンク部からなり、少なくとも前記溝形成部は、結合相形成成分としてCo:3〜14質量%および硬質相形成成分としての炭化タングステンを含有する超硬合金製ドリルに対して、その切れ刃エッジ部および外周マージン部のhcp変態率を部位により異ならしめている超硬合金製ドリルであるといえるが、このような超硬合金製ドリルは、例えば、以下のような処理を施すことによって、切れ刃エッジ部、外周マージン部のhcp変態率が本願発明で規定する数値範囲内となるようにhcp変態率を調整することができる。
まず、ドリル径外周加工終了後で、フルート溝加工前のドリルを準備する。 このドリルの外周を回転させながら、粒度#600のSiC砥粒を用いてエアーブラスト処理を施す。
その後、フルート加工と先端切れ刃加工を施すが、切れ刃エッジ部の仕上げ加工にあたっては、粒度#1200のダイヤモンド砥石を使用して、30μm以上の取代を確保するようにする。
上記のような処理を行うことによって、切れ刃エッジ部のhcp変態率が0.1以下、また、外周マージン部のhcp変態率が0.2以上である超硬合金製ドリルを得ることができる。
なお、切れ刃エッジ部、外周マージン部のhcp変態率は、その表面をCuKα線を用いた微小部X線回折によって求めることができる。
本発明の超硬合金製ドリルは、少なくとも溝形成部の結合相を構成するCoの結晶構造を、外周マージン部についてはhcp変態率が0.2以上、また、切れ刃エッジ部についてはhcp変態率が0.1以下の結晶構造のもので形成しているので、切れ刃エッジ部は耐チッピング性が高められ、また、外周マージン部はクラックの導入と進展が抑えられるため、優れた耐折損性を長期に亘って発揮することができる。
本発明の超硬合金製ドリルの長手方向外観概略説明図である。 本発明の超硬合金製ドリルをI方向から見た外観概略説明図である。
つぎに、本発明の超硬合金製ドリルについて、実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも0.5〜3μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、Co粉末、Cr粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、TiC粉末およびZrC粉末を、表1に示される割合に配合し、さらにバインダーと溶剤を加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、いずれも100MPaの圧力でプレス成形して、それぞれ直径が5mm、10mm、および20mmの丸棒圧粉体とし、これらの丸棒圧粉体を、6.7Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1380〜1480℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、微粒組織焼結体を製造した。
これらの微粒組織焼結体から研削加工にて溝形成部の外径がそれぞれ表1に示される寸法に加工する際に、外周マージン部および切れ刃エッジ部に対しては、粒度#600のSiC砥粒を用いたエアーブラスト処理および粒度#1200のダイヤモンド砥石を用いた30μm以上の仕上研削加工処理を行い、図1、図2に示される形状をもった本発明の超硬合金製ドリル1〜9以下、実施例1〜9というを製造した。
比較のため、前記の微粒組織焼結体から研削加工して溝形成部の外径がそれぞれ表1に示される寸法に加工することにより、図1、図2に示される形状をもった比較例の超硬合金製ドリル1〜6以下、比較例1〜6というを製造した。
Figure 0005397677
ついで、上記実施例1〜9および比較例1〜6の超硬合金製ドリルの切れ刃エッジ部表面および外周マージン部表面の結合相のCoに対し、CuKα線を用いて微小部X線回折を実施したところ、いずれも回折角:2θで、44〜45度((111)面)にCo・fccを示すピークが現れると共に、41〜42度((101)面)にもCo・hcpを示すピークが現れた。
それぞれの結晶格子面のピーク強度Ifcc(111)およびIhcp(101)を測定し、これらの値から、それぞれについてのhcp変態率を求めた。
この値を表2に示す。
Figure 0005397677
つぎに、上記の各種ドリルのうち、
(a)溝形成部の外径が4mmのものについては、
被削材:JIS・S45C(HB200)の厚さ18mmの板材、
回転数:4800r.p.m.、
送り:0.15mm/rev.、
の条件での炭素鋼の湿式水溶性切削油使用高速穴あけ加工試験、
(b)また、溝形成部が8mmのものについては、
被削材:JIS・SUS304(HB150)の厚さ35mmの板材、
回転数:1800r.p.m.、
送り:0.10mm/rev.、
の条件でステンレス鋼の湿式水溶性切削油使用高速穴あけ加工試験、
(c)さらに、溝形成部の外径が16mmのものについては、
被削材:JIS・SKD61(HRC40)の厚さ50mmの板材、
回転数:800r.p.m.、
送り:0.05mm/rev.、
の条件でのダイス鋼の湿式水溶性切削油使用高速穴あけ加工試験、
を行い、穴あけ加工数:50個毎に先端切れ刃面の摩耗状態を観察し、
正常摩耗の場合は切れ刃の最大逃げ面摩耗幅が、それぞれ溝形成部外径が4mmでは0.2mm、同8mmでは0.3mm、そして、16mmでは0.35mmを超えた時点で使用寿命とし、それまでの穴あけ加工数を測定した。
また、ドリル折損が原因で使用寿命に至った場合には、それまでの穴あけ加工数を測定した。
これらの測定結果を表3にそれぞれ試験数:10本の平均値として示した。
Figure 0005397677
表2、表3の結果からも明らかなように、切れ刃エッジ部および外周マージン部のhcp変態率が所定の数値範囲内にある本発明の超硬合金製ドリルである実施例1〜9は、耐折損性に非常に優れているのに対して、切れ刃エッジ部のhcp変態率が1を越える比較例1、2、また、外周マージン部のhcp変態率が2未満である比較例3、4、さらに、切れ刃エッジ部および外周マージン部のhcp変態率のいずれもが本発明で規定する範囲を外れる比較例5、6では、チッピングの発生により耐折損性の劣るものであることは明らかである。
本発明の超硬合金製ドリルは、少なくとも溝形成部の結合相を構成するCoの結晶構造を、外周マージン部についてはhcp変態率が0.2以上、また、切れ刃エッジ部についてはhcp変態率が0.1以下の結晶構造のもので形成しているので、切れ刃エッジ部は耐チッピング性が高められ、また、外周マージン部はクラックの導入と進展が抑えられるため、例えば金属部品の高速穴あけ加工に用いた場合にも、優れた耐折損性を長期に亘って発揮するのであるから、穴あけ加工の省エネ化、低コスト化に十分満足に対応することができるものである。

Claims (2)

  1. 〜16mmの外径を有する溝形成部と、シャンク部からなり、少なくとも前記溝形成部は、結合相形成成分としてCo:3〜14質量%および硬質相形成成分としての炭化タングステンを含有する超硬合金製ドリルにおいて、
    微小部X線回折装置により、外周マージン部、切れ刃エッジ部を構成する超硬合金表面のX線回折パターンを測定した場合、面心立方構造Coの(111)面ピークの強度をIfcc(111)とし、また、稠密六方構造のCoの(101)面ピークの強度をIhcp(101)とし、さらに、面心立方構造のCoとの含量に占める稠密六方構造のCoの含有割合を、
    hcp変態率
    =Ihcp(101)/{Ifcc(111)+Ihcp(101)}
    で表した時に、
    外周マージン部については、hcp変態率≧0.2、
    また、切れ刃エッジ部については、hcp変態率≦0.1、
    をそれぞれ満たすことを特徴とする、耐折損性に優れた超硬合金製ドリル。
  2. 前記溝形成部が、結合相形成成分および硬質相形成成分として、
    Cr、V、Ta、Nb、TiおよびZrのうちのいずれか1種または2種以上を合計で0.1〜3質量%さらに含有する、請求項1記載の耐折損性に優れた超硬合金製ドリル。
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