JP4253925B2 - イオン源 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、U字状のフィラメントをプラズマ生成容器内に設けた構造のイオン源に関し、より具体的には、その汚れに対する強度を高めて、安定稼動時間を長くする手段に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種のイオン源の一例が、例えば特開平9−35648号公報に開示されている。それを図15〜図18を参照して説明する。
【0003】
このイオン源は、バーナス(Bernus)型イオン源と呼ばれるものであり、陽極を兼ねていてガス導入口6からイオン源ガスが導入されるプラズマ生成容器2と、このプラズマ生成容器2の一方側内にその壁面を貫通して設けられたU字状のフィラメント8と、プラズマ生成容器2の他方側内にフィラメント8に対向するように設けられた反射電極10とを備えている。プラズマ生成容器2は、金属、より具体的にはモリブデン(Mo)等の高融点金属で作られている。
【0004】
プラズマ生成容器2の壁面には、フィラメント8と反射電極10とを結ぶ軸に沿う方向に長いイオン引出しスリット4が設けられている。このイオン引出しスリット4の出口付近には、プラズマ生成容器2内から(より具体的にはそこに生成されるプラズマ12から)イオンビーム16を引き出す引出し電極14が設けられている。プラズマ生成容器2の外部には、その上記軸に沿う方向に磁界Bを発生させる磁界発生器18が設けられている。
【0005】
なお、フィラメント8の向きは、図15はフィラメント電源20との接続を明らかにするために便宜的に示したものであり、実際上は図16および図17に示すように、U字状に曲げたフィラメント8を含む面がイオン引出しスリット4にほぼ平行になるように配置されている。
【0006】
フィラメント8の両端には、図15に示すように、当該フィラメント8を加熱するためのフィラメント電源20が接続される。フィラメント8の一端とプラズマ生成容器2との間には、両者間でアーク放電を生じさせるためのアーク電源22が、前者を負極側にして接続される。フィラメント電源20の出力電圧は例えば3V前後、アーク電源22の出力電圧は例えば100V前後である。
【0007】
フィラメント8に印加される上記電圧を絶縁するために、フィラメント8(具体的にはその二つの脚部8a)がプラズマ生成容器2を貫通する部分に、フィラメント8とプラズマ生成容器2との間を電気絶縁する二つの概ね円筒状をした絶縁体24を設けている。各絶縁体24は、この例では図16に示すように、概ね円筒状をしていてプラズマ生成容器2の壁面を挟んで内外から互いに嵌め合わされた内側絶縁体24aおよび外側絶縁体24bで構成されている。両絶縁体24aおよび24bの中心部には、フィラメント8を貫通させてそれを保持するフィラメントフィードスルー28が設けられている。このフィラメントフィードスルー28は導体、より具体的にはモリブデン等の高融点金属から成る。
【0008】
反射電極10は、この例では図16に示すように有底円筒状をしており、反射電極側絶縁体30、支持棒32およびナット34によって、プラズマ生成容器2に電気的に絶縁して取り付けられている。この反射電極10は、フィラメント8から放出された電子をはね返す作用をするものであり、図15に示す例のようにどこにも接続せずに浮遊電位にしても良いし、フィラメント8に接続してフィラメント電位に固定しても良い。浮遊電位にしても、この反射電極10には、プラズマ12中の軽くて移動度の高い電子が、イオンよりも遙かに多く入射して負電位に帯電するので、フィラメント8から放出された電子をはね返す作用をする。
【0009】
反射電極側絶縁体30は、この例では、プラズマ生成容器2の壁面を挟んで内外から互いに嵌め合わされた内側絶縁体30aおよび外側絶縁体30bで構成されている。
【0010】
このような反射電極10を設けておくと、フィラメント8から放出された電子は、プラズマ生成容器2内に印加されている軸方向の磁界Bおよびこれに直角方向の電界の作用を受けて、磁界Bの周りを旋回しながら、フィラメント8と反射電極10との間を往復運動するようになり、その結果、当該電子とガス分子との衝突確率が高くなってガスの電離効率が高まり、プラズマ生成容器2内に密度の高いプラズマ12を生成することができる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上記イオン源の稼動を続けると、プラズマ生成容器2内に露出している部分に、導電性の薄い汚れ膜が付着する。この汚れ膜は、例えば、▲1▼プラズマ生成容器2内に導入したガスが分解して生じたもの、▲2▼あるいは当該ガスとプラズマ生成容器2等を構成する金属とが反応して生じたもの、等である。より具体例を示すと、ホウ素イオンビームを引き出すためにプラズマ生成容器2内にフッ化ホウ素(BF3 )ガスを導入すると、そのフッ素とプラズマ生成容器2を構成する例えばモリブデンとが反応した導電性の汚れ膜が生じる。
【0012】
ここで、プラズマ生成容器2内に露出している二つの内側絶縁体24aに着目すると、当然これらの表面にも、上記汚れ膜が付着する。そしてイオン源の稼動時間が長くなって汚れが進むと、この導電性の汚れ膜によって内側絶縁体24aが絶縁不良を起こす。そうなると、例えば、フィラメント8とプラズマ生成容器2との間に前述したアーク放電用電圧を安定して印加してアーク放電を安定して発生させることや、フィラメント8を安定して通電加熱することができなくなり、ひいては当該イオン源を安定して稼動させることが困難になる。
【0013】
イオン源の汚れが進むと、上記内側絶縁体24a以外の絶縁部分でも、例えば上記反射電極側絶縁体30の部分でも、その絶縁強度が低下して、イオン源を安定して稼動させることが困難になる。
【0014】
そこでこの発明は、汚れ膜によってイオン源を安定して稼動させることが困難になることを防止して、イオン源の安定稼動時間を長くすることを主たる目的としている。
【0026】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るイオン源の一つは、前記プラズマ生成容器の内面であって、前記反射電極の反射面付近に位置する領域および前記フィラメントの先端部付近に位置する領域の少なくとも一方に溝を設けていることを特徴としている。
この発明に係るイオン源の他のものは、前記プラズマ生成容器の内面であって、前記反射電極の反射面付近に位置する領域および前記フィラメントの先端部付近に位置する領域の少なくとも一方に、複数の穴を設けていることを特徴としている。
【0027】
プラズマ生成容器の内面の汚れが進むと、汚れが膜状になって剥がれ、それが反射電極とプラズマ生成容器との間や、フィラメントとプラズマ生成容器との間をつないで(架け渡して)しまい、それらの間の絶縁が破壊される。そうなると、前記と同様の理由から、反射電極が電子をはね返す作用やアーク放電が不安定になり、結果的にビーム電流を不安定にする。
【0028】
これに対して上記構成によれば、プラズマ生成容器の内面に設けた溝または複数の穴が楔の作用をするので、汚れ膜が剥がれにくくなる。その結果、反射電極やフィラメントとプラズマ生成容器との間の絶縁を長く良好に保つことができるので、イオン源の安定稼動時間を長くすることができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
図1は、この発明に係るイオン源の一例をイオンビーム引き出し方向側から見て部分的に示す断面図である。図2は、図1中の内側絶縁体の拡大断面図である。図15〜図18に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0030】
このイオン源においては、前述した各内側絶縁体24aを、互いに入り込んでいて迷路61を形成する二つの筒状絶縁体241aおよび242aで構成している。
【0031】
上記筒状絶縁体241aおよび242aは、例えば、窒化ホウ素またはアルミナ等の絶縁体から成る。また、プラズマ生成容器2側の筒状絶縁体242aを窒化ホウ素またはアルミナ等の絶縁体で構成し、他方の筒状絶縁体241aをモリブデン、タンタル、タングステン等の高融点金属で構成しても良い。
【0032】
上記構成によれば、内側絶縁体24aに汚れが付着したとしても、迷路61の部分には汚れが付着しにくいので、迷路61の部分で絶縁を保つことができる。従って、前述した導電性の汚れ膜による内側絶縁体24aの絶縁強度低下を防ぐことができる。これによって、アーク放電の安定化およびフィラメント通電の安定化を図ることができるので、イオン源の安定稼動時間を長くすることができる。
【0033】
具体的には、図16に示した従来のイオン源に比べて、安定稼動時間を2〜3倍以上に延長することが可能になった。特に、アーク電流の非常に小さい(例えば10mA程度の)条件での運転時には、従来は2日程度しか運転することができなかったのに対して、上記構造を採用したことによって、10日以上の安定性を保つことができた。
【0034】
ところで、上記内側絶縁体24aは汚れが進むと、その汚れによって、筒状絶縁体241aはフィラメント8と同電位になる一方、筒状絶縁体242aはプラズマ生成容器2と同電位になる。ところが、プラズマ生成容器2の内部は、イオン源ガスが導入されるので真空度が悪く、従って上記電位差で、上記迷路61の部分のギャップ58においてアーク放電を起こす恐れが無いとは言えない。この放電は、量としては小さいけれども、イオン源の安定動作の点からは好ましくない。
【0035】
従って、上記ギャップ58の距離(大きさ)は、0.5mm以下にするのが好ましい。そのようにすれば、ガス圧との関係でギャップ58が小さ過ぎてアーク放電を起こしにくくなる。しかも、汚れそのものもギャップ58の内部に入りにくくなる。従って、イオン源の安定稼動時間をより長くすることが可能になる。
【0036】
なお、図16に示した内側絶縁体24aをソロバン玉のような構造にして沿面距離を大きくした従来例も存在するけれども、そのようにしても、内側絶縁体24aの表面がプラズマ12に直接曝されるので、その表面に汚れが付着しやすい。従って、この発明の上記構造に比べれば、絶縁劣化を起こしやすい。
【0037】
上記内側絶縁体24aの迷路61の部分は、図1および図2に示す2段よりも多くしても良い。例えば、図3に示す外側絶縁体24bと同様に、3段にしても良い。そのようにすれば、絶縁強度をより高めることが可能になる。
【0038】
前述した各外側絶縁体24bも、図1または図3に示す例のように、互いに入り込んでいて迷路62を形成する二つの筒状絶縁体241bおよび242bで構成しても良い。そのようにすれば、外側絶縁体24bに関しても、導電性の汚れ膜付着による絶縁強度低下を防ぐことができるので、イオン源の安定稼動時間をより長くすることが可能になる。迷路62の部分は、図1に示した例のように2段でも良いし、図3に示す例のように3段でも良い。後者の方がより絶縁強度が向上する。
【0039】
上記筒状絶縁体241bおよび242bは、例えば、窒化ホウ素またはアルミナ等の絶縁体から成る。また、プラズマ生成容器2側の筒状絶縁体242bを窒化ホウ素またはアルミナ等の絶縁体で構成し、他方の筒状絶縁体241bをモリブデン、タンタル、タングステン等の高融点金属で構成しても良い。
【0040】
上記外側絶縁体24bの迷路62の部分のギャップ60も、内側絶縁体24aについて述べたのと同様の理由から、0.5mm以下にするのが好ましい。
【0041】
次に、この発明に係るイオン源の他の例を説明する。前述した各フィラメントフィードスルー28は、従来は、例えば図1に示すように、フィラメント8(より具体的にはその脚部8a)を通す単一内径(即ち内径がどこも同じ大きさの)穴28aを有している。この穴28aの直径は、フィラメント8の脚部8aがきっちり通るように、脚部8aの外径よりも僅かに大きくしているだけである。これは、プラズマ生成容器2内に導入されたイオン源ガスが、両者の隙間から抜け出さないようにするためである。例えば、フィラメント8の脚部8aの外径が2mmφの場合、穴28aの直径は2.1mmφ程度にしている。
【0042】
上記構造では、フィラメント8からフィラメントフィードスルー28への、ひいてはプラズマ生成容器2の壁面への熱伝導が大きいので、その分、フィラメント8に多くのフィラメント電流を流さなければならず、その結果、前述したフィラメント電源20の容量も大きなものが必要になるという課題がある。しかし、上述したガスの抜け出し防止の理由から、フィラメントフィードスルー28の穴28aを単純に大きくすることはできない。
【0043】
この課題を解決するためには、図4に示す例のように、上記フィラメントフィードスルー28の穴28aの一部分に、具体的にはプラズマ生成容器内側端部から途中までに、他の部分よりも直径の大きい大径部28bを形成しておけば良い。この大径部28bは、いわゆるザグリ穴と呼ばれるものである。
【0044】
この構造によれば、フィラメント8とフィラメントフィードスルー28との間の接触面積が小さくなって、フィラメント8からフィラメントフィードスルー28への熱伝導が小さくなるので、その分、フィラメント8に流す電流を、ひいてはフィラメント電源20の容量を、小さくすることができる。しかも、大径部28b以外の部分の穴28aの直径を大きくしなくて済むので、ガスの抜け出しを防止することができる。
【0045】
次に、この発明に係るイオン源の更に他の例を説明する。上記フィラメント8へのフィラメント電源20からの給電は、従来は図19および図20に示すように、フィラメント8の二つの脚部8aにそれぞれ接続された2本の給電導体36によって行う構造をしている。各給電導体36の途中には、熱変形等を吸収するために、切れ目38を設けてそこをばね導体40でつないでいる。各給電導体36は、フィラメント8からの伝熱によって高温になるので、モリブデンのような高融点金属で形成している。また各給電導体36は、従来は、太く作り、なるべくその部分で熱を発生させない構造にしている。
【0046】
ところで、上記のようなイオン源においては、フィラメント8の温度がある一定値より低いと、プラズマ生成容器2を構成する金属(例えばモリブデン)等から成る汚れがフィラメント8とフィラメントフィードスルー28との間に入り込み、フィラメントフィードスルー28を通ってフィラメント電流が流れるようになる。この電流は不安定であり、結果的にビーム電流を不安定にする。
【0047】
この課題を解決するためには、図5および図6に示す例のように、上記給電導体36の一部分36aを、フィラメント8の脚部8aの近くにおいて、他よりも小断面積にしておけば良い。小断面積にするためには、図5および図6に示す例のように、当該一部分36aを削って薄くしても良いし、当該一部分36aを細く(例えば直径で言えば8mmφ程度以下に)しても良い。
【0048】
上記構造によれば、給電導体36の小断面積にした一部分36aが、フィラメント8への通電によって発熱し、その熱がフィラメント8の脚部8aに伝わるので、当該脚部8aが高温になり、ひいてはフィラメントフィードスルー28も高温になり、それによってプラズマ生成容器構成金属等の汚れがフィラメント8とフィラメントフィードスルー28との間に付着するのを防ぐことができる。これによって、フィラメント電流を安定化することができるので、イオン源の安定稼動時間を長くすることができる。
【0049】
次に、この発明に係るイオン源の更に他の例を説明する。上記プラズマ生成容器2内のフィラメント8側にも、図21および図22に示す従来例のように、フィラメント8の脚部8aを横切るように配置されていて電子をはね返す反射板42を設ける場合がある。そのようにすれば、ガスの電離効率がより高まるので、プラズマ生成容器2内により高密度のプラズマ12を生成することが可能になる。
【0050】
反射板42は、この従来例では窒化ホウ素等の絶縁物から成る。この反射板42は、プラズマ12中の軽くて移動度の高い電子が、イオンよりも遙かに多く入射して負に帯電するので、前述した反射電極10の場合と同様に、電子をはね返す作用をする。
【0051】
上記反射板42は、その表面の汚れが進むと、絶縁不良を起こし、その表面がプラズマ生成容器2に導通してそれと同じ電位になる等して、その表面の電位が変動する。それによって、反射板42が電子をはね返す作用が不安定になり、結果的にビーム電流を不安定にする。
【0052】
この課題を解決するためには、図7および図8に示す例のように、上記反射板を、フィラメント8の脚部8aをそれぞれ囲んでおり、かつプラズマ生成容器2の壁面から離された、2枚の互いに分離された反射板42で構成すれば良い。各反射板42は、この例では、フィラメントフィードスルー28および支持体48を用いて固定している。但し、図9に示す例のように、支持体48を用いずにフィラメントフィードスルー28のみで固定しても良い。
【0053】
各反射板42は、窒化ホウ素、B4C、B9C等の絶縁物で形成しても良いし
、高融点金属(例えばモリブデン)、カーボン等の導体で形成しても良い。いずれにしても、上記反射電極10の場合と同様の理由によって、電子をはね返す作用をする。
【0054】
各反射板42を導体で形成する場合で、支持体48を用いる場合は、支持体48のどこかに絶縁物を介在させて、各反射板42をプラズマ生成容器2から電気的に絶縁しておくものとする。また、各反射板42を導体で形成する場合は、各反射板42の電位を、この例のようにフィラメントフィードスルー28を用いてフィラメント電位に固定しておくのが、各反射板42の電位安定化の観点から好ましい。
【0055】
上記構造によれば、反射板を、フィラメント8の各脚部8aをそれぞれ囲んでおり、かつプラズマ生成容器2の壁面から離された2枚の互いに分離された反射板42で構成しているので、各反射板42の表面が汚れても、フィラメント8の二つの脚部8a、8a間や、フィラメント8とプラズマ生成容器2間の絶縁破壊が起こりにくくなる。その結果、反射板42の電位を安定化して電子をはね返す作用を安定化することができるので、イオン源の安定稼動時間を長くすることができる。
【0056】
次に、この発明に係るイオン源の更に他の例を説明する。上記反射電極側絶縁体30には、図16を参照して、その内側絶縁体30aの表面にだけでなく、外側絶縁体30bの表面にも、ヒ素、リン等のイオン源ガスを構成する物質等から成る汚れが付着する。これは、プラズマ生成容器2の外側周辺にも、プラズマ生成容器2内に導入したイオン源ガスがイオン引出しスリット4を通して漏れ出して来るからである。
【0057】
この外側絶縁体30bの汚れが進むと、支持棒32およびナット34を介して、反射電極10とプラズマ生成容器2との間の電気絶縁が破壊される。そうなると、反射電極10の電子をはね返す作用が低下し、それによってビーム電流が低下するので、結果的にビーム電流が不安定になる。例えば、反射電極10の電気絶縁が破壊されると、ビーム電流は正常時の約30%程度しか得られなくなる。
【0058】
この課題を解決するためには、図10に示す例のように、上記外側絶縁体30bの周りを保護カバー50で覆っておけば良い。保護カバー50は、この例では、支持棒32のねじ部と螺合するねじ部50aを有しており、外側絶縁体30bを締め付ける働きもする。この保護カバー50は、例えばモリブデン等の高融点金属から成る。
【0059】
上記構造によれば、保護カバー50を設けたことによって、プラズマ生成容器2や外側絶縁体30bからの輻射熱が放散されるのを抑制することができるので、保護カバー50の内側に熱がこもって上記外側絶縁体30bは高温に保たれるようになり、それによって上記ヒ素、リン等の汚れの付着を抑制することができる。その結果、外側絶縁体30bの絶縁機能を安定に維持して、反射電極10によって電子をはね返す作用を安定化することができるので、イオン源の安定稼動時間を長くすることができる。
【0060】
上記の場合の外側絶縁体30bの温度は、300℃〜1000℃程度にするのが好ましく、そのようにすれば、上記ヒ素、リン等による外側絶縁体30bの表面の汚れを効果的に抑制することができる。
【0061】
また、内側絶縁体30aについては、図10に示す例のように、フィラメント8側の上記内側絶縁体24aおよび外側絶縁体24bの場合と同様に、互いに入り込んでいて迷路を形成する二つの筒状絶縁体301aおよび302aで構成しても良い。そのようにすれば、内側絶縁体30aについても、その絶縁機能を安定に維持することができるので、反射電極10によって電子をはね返す作用を安定化することができ、イオン源の安定稼動時間をより長くすることができる。
【0062】
次に、この発明に係るイオン源の更に他の例を説明する。プラズマ生成容器2の内面の汚れが進むと、図23に示す従来例のように、汚れが膜状になって剥がれ、この汚れ膜52が反射電極10とプラズマ生成容器2との間や、フィラメント8とプラズマ生成容器2との間をつないで(架け渡して)しまい、それらの間の絶縁が破壊される。このような汚れは、反射電極10の反射面10aの近傍、またはフィラメント8の先端部近傍に多く付着する。その辺りに、プラズマ12中のイオンによって反射電極10やフィラメント8から叩き出されたスパッタ粒子が多く付着するからである。
【0063】
なお、フィラメント8の先端部は、図23に示す例のように、イオン引出しスリット4側に折り曲げておく場合もある。そのようにすれば、プラズマ12の高密度の部分をイオン引出しスリット4側に近づけて、より高密度のイオンビーム引き出しが可能になるからである。
【0064】
上記汚れ膜52が反射電極10とプラズマ生成容器2との間をつなぐと、反射電極10の電位がプラズマ生成容器2の電位になるので、反射電極10が電子をはね返す作用が低下したり不安定になったりする。汚れ膜52がフィラメント8とプラズマ生成容器2との間をつなぐと、フィラメント8とプラズマ生成容器2との間のアーク放電が不安定になる。いずれにしても、結果的にビーム電流が不安定になる。
【0065】
この課題を解決するためには、上記プラズマ生成容器2の内面であって、反射電極10の反射面10a付近に位置する領域およびフィラメント8の先端部付近に位置する領域の少なくとも一方に、溝または複数の穴を設けておけば良い。
【0066】
図11および図12に、プラズマ生成容器2の底面2aであって反射電極10の反射面10a付近に位置する領域に、複数の穴54を設けた例を示し、図13および図14に、同領域に溝56を設けた例を示す。
【0067】
上記構造によれば、上記穴54または溝56内に汚れが楔状に入り込んで、上記穴54または溝56が楔の作用をするので、上記汚れ膜52が剥がれにくくなる。その結果、反射電極10とプラズマ生成容器2との間の絶縁を長く良好に保つことができるので、イオン源の安定稼動時間を長くすることができる。
【0068】
上記各穴54は、小さい穴で深い方が好ましい。その方が、上記楔の作用がより高まるからである。例えば、各穴54の直径を1〜2mm程度、深さを1〜2mm程度にすれば良い。また上記穴54は、汚れの付き方が多い等の場合は、2列以上にしても良い。
【0069】
上記溝56も、小さい幅Wで深い方が好ましい。その方が、上記楔の作用がより高まるからである。例えば、上記溝56の幅Wを1〜2mm程度、深さを1〜2mm程度にすれば良い。更に上記溝56は、図13に示す例のように、入口が奥よりも狭いアリ溝にするのが好ましい。その方が、上記楔の作用がより高まるからである。また上記溝56も、汚れの付き方が多い等の場合は、2条以上にしても良い。
【0070】
上記のような溝56または複数の穴54は、プラズマ生成容器2の上記底面2aだけでなく、反射電極10の反射面10a付近に位置する領域において、プラズマ生成容器2の側面2b(図1、図23等参照)およびスリット面2c(図23参照)にも設けるのが好ましい。
【0071】
また、上記のような溝56または複数の穴54は、プラズマ生成容器2のスリット面2cであって、フィラメント8の先端部付近に位置する領域にも設けるのが好ましい。それによって、それらの上記楔の作用によって、フィラメント8の先端部付近においても、上記汚れ膜52が剥がれにくくなる。その結果、フィラメント8とプラズマ生成容器2との間の絶縁を長く良好に保つことができるので、イオン源の安定稼動時間を長くすることができる。
【0072】
上記のような溝56または複数の穴54は、プラズマ生成容器2のスリット面2cだけでなく、フィラメント8の先端部付近に位置する領域において、プラズマ生成容器2の側面2bにも、更には底面2aにも設けても良い。
【0073】
【発明の効果】
この発明は、上記のとおり構成されているので、次のような効果を奏する。
【0078】
請求項1記載の発明によれば、プラズマ生成容器の内面であって反射電極の反射面付近に位置する領域およびフィラメントの先端部付近に位置する領域の少なくとも一方に溝を設けているので、この溝が楔の作用をして汚れ膜が剥がれにくくなる。その結果、反射電極やフィラメントとプラズマ生成容器との間の絶縁を長く良好に保つことができるので、イオン源の安定稼動時間を長くすることができる。
請求項2記載の発明によれば、アリ溝は入口が奥よりも狭いので、上記楔の作用がより高まる、という更なる効果を奏する。
請求項3記載の発明によれば、プラズマ生成容器の内面であって反射電極の反射面付近に位置する領域およびフィラメントの先端部付近に位置する領域の少なくとも一方に複数の穴を設けているので、これらの穴が楔の作用をして汚れ膜が剥がれにくくなる。その結果、反射電極やフィラメントとプラズマ生成容器との間の絶縁を長く良好に保つことができるので、イオン源の安定稼動時間を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係るイオン源の一例をイオンビーム引き出し方向側から見て部分的に示す断面図である。
【図2】図1中の内側絶縁体の拡大断面図である。
【図3】図1中の外側絶縁体の他の例を示す拡大断面図である。
【図4】フィラメントフィードスルーの改良例を示す拡大断面図である。
【図5】フィラメントへの給電導体の改良例を示す側面図である。
【図6】図5の給電導体の正面図である。
【図7】フィラメント側に反射板を設ける場合の改良例を示す断面図である。
【図8】図7の反射板周りの一例を示す正面図である。
【図9】図7の反射板周りの他の例を示す正面図である。
【図10】反射電極周りの改良例を示す拡大断面図である。
【図11】プラズマ生成容器の底面に穴を設けた改良例を示す断面図である。
【図12】図11のプラズマ生成容器底面の正面図である。
【図13】プラズマ生成容器の底面に溝を設けた改良例を示す断面図である。
【図14】図13のプラズマ生成容器底面の正面図である。
【図15】従来のイオン源の一例を側方から見て示す概略断面図である。
【図16】図15のイオン源のプラズマ生成容器周りをイオンビーム引き出し方向側から見て示す拡大断面図である。
【図17】図16のA−A断面図である。
【図18】図16のC−C断面図である。
【図19】フィラメントへの給電導体の従来例を示す側面図である。
【図20】図19の給電導体の正面図である。
【図21】フィラメント側に設けた反射板の従来例を示す断面図である。
【図22】図21の反射板周りの正面図である。
【図23】従来のイオン源を側方から見て示す拡大断面図である。
【符号の説明】
2 プラズマ生成容器
8 フィラメント
10 反射電極
24 絶縁体
24a 内側絶縁体
24b 外側絶縁体
30 反射電極側絶縁体
30a 内側絶縁体
30b 外側絶縁体
36 給電導体
42 反射板
50 保護カバー
54 穴
56 溝
Claims (3)
- 陽極を兼ねていてガスが導入されるプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器の一方側内にその壁面を貫通して設けられたフィラメントと、このフィラメントの二つの脚部がプラズマ生成容器の壁面を貫通する部分に設けられていて各脚部とプラズマ生成容器との間を電気絶縁する二つの絶縁体と、前記プラズマ生成容器の他方側内に同プラズマ生成容器から絶縁して設けられた反射電極とを備えるイオン源において、前記プラズマ生成容器の内面であって、前記反射電極の反射面付近に位置する領域および前記フィラメントの先端部付近に位置する領域の少なくとも一方に溝を設けていることを特徴とするイオン源。
- 前記溝は、入口が奥よりも狭いアリ溝である請求項1記載のイオン源。
- 陽極を兼ねていてガスが導入されるプラズマ生成容器と、このプラズマ生成容器の一方側内にその壁面を貫通して設けられたフィラメントと、このフィラメントの二つの脚部がプラズマ生成容器の壁面を貫通する部分に設けられていて各脚部とプラズマ生成容器との間を電気絶縁する二つの絶縁体と、前記プラズマ生成容器の他方側内に同プラズマ生成容器から絶縁して設けられた反射電極とを備えるイオン源において、前記プラズマ生成容器の内面であって、前記反射電極の反射面付近に位置する領域および前記フィラメントの先端部付近に位置する領域の少なくとも一方に、複数の穴を設けていることを特徴とするイオン源。
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