JP4252818B2 - 冷却能の高い塗装鋼板 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、熱発生源に近接配置される構造部材に好適な高い冷却能を呈する塗装鋼板に関する。
【0002】
【従来技術及び問題点】
CPU,パワートランジスタ,ディスクドライブ,電源,光源等の発熱器具は、稼動時に発熱して昇温する。高温は、発熱器具,部品の使用者にとって危険であるばかりでなく、発熱器具,部品の故障や誤動作の原因にもなる。温度上昇に起因するトラブルは、発熱器具,部品を小型化,高密度化するほど大きな問題となる。
【0003】
昇温による発熱器具の故障や誤動作を防止するため、ファン等で冷風を発熱器具,部品に吹き付けて冷却する方法が採用されている。しかし、冷却装置を組み込む設計では、発熱器具,部品の小型化,高密度化に十分対応できない。ドラフト作用をもつ筐体で発熱器具,部品を覆う方法も採用されているが、ドラフト作用のために通風孔を筐体に形成する必要があり、気密性や電磁シールド性に劣る筐体になる。
【0004】
小型化,高密度化の要求に応え、気密性,電磁シールド性も良好な筐体を得る上では、筐体を構成する材料自体の放熱特性を向上させることが必要である。筐体構成材料の材質選択,表面状態等について種々の調査・研究がこれまで報告されているが、小型化,高性能化が著しい電気・電子部品に適した特性をもつ筐体構成材料は実用に供されていない。
材料自体の優れた放熱特性は、電気・電子機器用の筐体に限らず、蛍光灯を始めとする各種照明器具の反射板に使用した場合でも照明器具の発光効率や寿命が高まること等、種々の用途で要求される特性である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような要求に応えるべく案出されたものであり、めっき鋼板又はステンレス鋼板の表面に熱吸収性塗膜を設けることにより、発熱を効率よく吸収して外部に放散させる作用を呈する塗装鋼板を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の冷却能の高い塗装鋼板は、その目的を達成するため、めっき鋼板又はステンレス鋼板を基材とし、その一面に3〜30μmの波長域における熱反射率が0.35以下に抑えられた熱吸収性塗膜が、他面に下塗り塗膜と上塗り塗膜からなる意匠性塗膜が形成されていることを特徴とする。
熱吸収性塗膜の熱反射率を低下させるためには、濃色顔料の分散によって熱吸収性塗膜の明度L値を50以下に下げることが好ましい。熱吸収性塗膜を設けた基材表面が発熱源側に臨むように使用され、反対表面には通常の塗膜、或いは着色顔料や発色顔料を分散させたクリア塗膜等の意匠性塗膜の何れかが設けられる
【0007】
【実施の形態】
本発明の塗装鋼板は、めっき鋼板又はステンレス鋼板を金属基材1とし、金属基材1の一面に熱吸収性塗膜2,他面に下塗り塗膜3を介して上塗り塗膜4を設けている(図1)。下塗り塗膜3,上塗り塗膜4に代えて、着色顔料又は発色顔料を分散させたクリア塗膜を形成しても良い。何れの場合も、塗膜形成に先立ち脱脂,酸洗,クロメート処理,リン酸塩処理,クロムフリー処理等の塗装前処理を必要に応じて施し、塗膜密着性の向上に有効な化成処理皮膜5を金属基材1の表面に設けることが好ましい。
【0008】
金属基材1には、Zn,Zn−Al,Zn−Al−Mg,Zn−Ni,Al,Al−Si等のめっき層6を設けためっき鋼板や無垢のステンレス鋼板が使用される。基材表面で乱反射を促進させて熱吸収効率を向上させる上では、表面粗さの大きな基材ほど好ましい。なかでも、波長域3〜30μmの入射光では表面粗さによる熱反射の抑制効果が顕著になる。熱吸収性塗膜2は、赤外線,可視光を含む3〜30μmの波長域における熱反射率が0.35以下に調整されている。当該塗装鋼板で発熱機器周辺の構造部材を作製する場合、熱吸収性塗膜2が発熱機器側となるように塗装鋼板を配置する。
【0009】
光照射に起因する熱吸収は、波長域3〜30μmの光で最も促進され、3μm未満又は30μmを超える波長域では熱吸収に及ぼす光照射の影響が小さい。波長域3〜30μmでの熱反射率が0.35以下になると、発熱器具,部品で発生した熱の大半が熱吸収性塗膜2に伝達され、発熱器具,部品の昇温が大幅に抑制される。熱吸収性塗膜2に伝達された熱は、熱伝導性の良好な金属基材1全体に広がった後、外部に放散される。
熱反射率0.35以下は、濃色顔料を分散させて熱吸収性塗膜2の明度L値を50以下に下げることにより達成される。
【0010】
熱吸収性塗膜2は、ポリエステル,エポキシ,エポキシ変性ポリエステル,アクリル,ポリエーテルサルフォン,ポリオルガノシロキサン,シリコン変性アクリル,フッ素樹脂等の樹脂塗料を金属基材1に塗布・焼付けすることにより形成される。必要な熱吸収特性を確保する上で膜厚5μm以上で熱吸収性塗膜2を形成することが好ましいが、厚すぎる熱吸収性塗膜2では加工性,塗膜密着性が低下する傾向がみられるので好ましくは膜厚の上限を15μmに設定する。
【0011】
熱吸収性塗膜2に分散させる濃色顔料には、カーボンブラック,黒鉛粉末,セラミック粉末,遷移金属酸化物粉末,複合酸化物粉末等から熱吸収能の高い顔料が選択される。セラミック粉末にはSiC,リン鉄等、遷移金属酸化物粉末にはCu−Cr,Cu−Cr−Mn,Cu−Fe−Mn,Co−Fe−Cr,Fe−Zn,Fe−Zn−Cr,Co−Al,Co−Al−Cr,Ti−Co−Ni−Zn,Co−Al−Crの複合酸化物等が挙げられる。その他、アニリンブラック,シアニンブルー等の有機顔料も使用可能である。
【0012】
下塗り塗膜3,上塗り塗膜4は常法に従って形成される塗膜である。用途,嗜好等に応じた意匠を筐体外面に付与するため、好ましくは膜厚7〜30μmの上塗り塗膜4を設ける場合が多い。下塗り塗膜3は、好ましくは1〜10μmの膜厚をもち、必要に応じ着色顔料,体質顔料,防錆顔料等を分散させている。
下塗り塗膜3,上塗り塗膜4に代えて、着色顔料や発色顔料を分散させたクリア塗膜を設けることにより、塗装鋼板の意匠性を高めることもできる。クリア塗膜の形成には、高分子ポリエステル樹脂,ポリエステル樹脂,エポキシ変性ポリエステル樹脂,アクリル樹脂,アクリルシリコーン樹脂,フッ素樹脂,エポキシ樹脂等をベース樹脂とし、各種着色又は発色顔料を配合しクリア塗料が使用される。
【0013】
着色顔料には、カーボンブラック,鉄黒,酸化チタン,亜鉛華,シアニンブルー,シアニングリーン,酸化鉄イエロー,チタンイエロー,ハンザエロー,グリーンゴールド,フラバンスロンエロー,酸化鉄レッド,ベンガラ,キナクリドンレッド,パーマネントレッド,ウォチングレッド,ボンマルーンライト,ジオキサジンバイオレット,Cu−Cr系複合酸化物顔料,Cu−Cr−Mn系複合酸化物顔料,Cu−Fe−Mn系複合酸化物顔料,Co−Fe−Cr系複合酸化物顔料,Fe−Zn系複合酸化物顔料,Fe−Zn−Cr系複合酸化物顔料,Co−Al系複合酸化物顔料,Co−Al−Cr系複合酸化物顔料,Ti−Co−Ni−Zn系複合酸化物顔料,Co−Al−Cr系複合酸化物顔料等がある。
【0014】
発色顔料には、鱗片状無機基質を透明又は半透明金属酸化物皮膜で被覆し、光の干渉によって発色する顔料が使用される。鱗片状無機基質には、ガラスフレーク,マイカフレーク,アルミナフレーク,シリカフレーク,アルミニウムフレーク,グラファイトフレーク等がある。金属酸化物皮膜にはTiO2,SiO2,ZrO2,Fe23,SnO2,Fe34,Cr23,ZnO,Al23等があり、湿式法,乾式法等で無機基質上に設けられる。アルミニウムフレークを始めとする金属フレーク等のメタリック顔料を適宜配合することも可能である。
クリア塗膜は好ましくは2〜30μmの膜厚で形成されるが、クリア塗膜の形成で熱吸収性塗膜2の特性が大きく変わることがない。
【0015】
波長域3〜30μmにおける熱反射率0.35以下にした熱吸収性塗膜2を形成すると、発熱器具,部品から放出された熱が熱吸収性塗膜2に効率よく吸収され、金属基材1を介し外部に放散される。熱放射率は放射率計により測定でき、濃色顔料の材質,分散量等によって調整できる。具体的には、熱吸収性塗膜2の明度L値が50以下となる配合量で濃色顔料を分散させることにより、熱反射率0.35以下の熱吸収性塗膜2が得られる。
【0016】
塗膜2〜4が設けられた金属基材1は、曲げ,絞り加工等で製品形状に成型加工され、発熱器具,部品の筐体や周辺部材として使用される。そのため、塗膜2〜4としては、成形加工時に剥離,亀裂等の欠陥が発生しない加工性が要求される。塗膜2〜4の形成には、ポリエステル,エポキシ,エポキシ変性ポリエステル,アクリル,ポリエーテルサルフォン,ポリオルガノシロキサン,シリコン変性アクリル,フッ素樹脂等の樹脂塗料を単独で又は複合して使用できる。
【0017】
樹脂塗料には、通常使用されている着色顔料,Cr系又はCrフリー系防錆顔料,導電性付与剤,ワックス,メタリック顔料,パール顔料,体質顔料等を必要に応じて濃色顔料と共に複合添加しても良い。熱吸収性塗膜2用の塗料には、濃色顔料の他に、アース性,溶接性を付与するためにNi粉等の金属粉やリン鉄を始めとする各種導電性付与剤が必要に応じて添加される。
【0018】
【実施例1】
樹脂100重量部に対し20重量部のメラミン硬化剤,40重量部のカーボンブラックを数平均分子量3000のポリエステル樹脂に配合した黒色塗料及び100重量部の白色酸化チタンを同じポリエステル樹脂に配合した白色塗料を用意した。黒色塗料,白色塗料を種々の割合で混練して明度L値の異なる塗料組成物を調合した後、10重量部のストロンチウムクロメートを添加して熱吸収性塗膜2用の塗料を調整した。
下塗り塗膜3の形成には20重量部のストロンチウムクロメートを配合したエポシキ変性高分子ポリエステル樹脂系プライマ,上塗り塗膜4の形成には市販の黒色系艶消しメタリック高分子ポリエステル塗料を使用した。
【0019】
塗装原板として板厚0.5mmの溶融亜鉛めっき鋼板を使用し、Ni析出型の表面調整処理,塗布型クロメート処理を順次施した。表面調整された塗装原板に各種塗料を塗布し、最高到達板温215℃で40秒焼き付けることにより、膜厚5μmの下塗り塗膜3,膜厚13μmの上塗り塗膜4を塗装原板の一面に、膜厚5μmの熱吸収性塗膜2を他面に形成した。
作製された各塗装鋼板の熱吸収性塗膜2側で熱放射率計(DandS AERD)により熱放射率を測定し、熱放射が熱吸収によるものと仮定し、熱反射率=(1−放射率の測定値)として熱反射率を算出した。表1の調査結果にみられるように、明度L値が高いほど熱反射率が高くなっていた。
【0020】
Figure 0004252818
【0021】
次いで、No.1の塗装鋼板から長さ285mm,幅150mmの試験片を切り出し、放熱試験に供した。放熱試験では、上部が開放され断熱材でライニングした試験ボックス11にヒータ12を収容し、ヒータ12から試験片10までの距離を20mmに設定して試験片10を試験ボックス11の上部開口に固定した(図2)。試験片10の固定に際しては、熱吸収性塗膜2を試験ボックス11内側に向けた。ヒータ12に投入する電力を一定値0.5kWに維持し、電力投入開始から試験ボックス11内の温度を熱電対13で連続測定した。
【0022】
図3の測定結果にみられるように、熱反射率0.13の熱吸収性塗膜2を形成した塗装鋼板No.1では、塗膜を設けていない無垢の亜鉛めっき鋼板に比較して温度上昇に最大で20℃近くの差があり、2時間連続加熱した後でも試験ボックス11内の温度が70℃を超えなかった。試験ボックス11内の昇温が抑制されていることは、ヒータ12で発生した熱量が熱吸収性塗膜2に効率よく吸収され、金属基材1を熱伝導して外部に放散されたことを示す。その結果、熱吸収性塗膜2に面している発熱部品が比較的低温に維持され、故障や寿命低下の原因となる昇温が少ないことが理解される。
【0023】
熱反射率0.35以下の熱吸収性塗膜2を設けた塗装鋼板No.1〜4は、何れも塗装鋼板No.1と同様な昇温特性を呈し、発熱部品の昇温を抑制できた。他方、熱反射率が0.64と高い塗膜を設けた塗装鋼板No.6は、無垢の亜鉛めっき鋼板と同様な昇温特性を呈し、昇温抑制に有効でなかった。No.6に比較して熱反射率が0.45と若干低い塗装鋼板No.5でも、十分な昇温抑制ができなかった。
【0024】
【実施例2】
樹脂100重量部に対し20重量部のメラミン硬化剤,10重量部のカーボンブラック,30重量部のCu−Fe−Mn系複合酸化物(黒色顔料)を数平均分子量3000のポリエステル樹脂に配合した黒色塗料及び100重量部の白色酸化チタンを配合した白色塗料を用意した。黒色塗料,白色塗料を種々の割合で混練して明度L値の異なる塗料組成物を調合した後、平均粒径5μmのNi粉(導電性付与剤)を10重量部,カルシウムシリケート(防錆顔料)を10重量部添加して熱吸収性塗膜2形成用の塗料を調整した。
【0025】
下塗り塗膜3の形成には10重量部のカルシウムクロメートを配合したエポキシ変性高分子ポリエステル樹脂系プライマ,上塗り塗膜4の形成にはアクリルビーズを分散させた黒色系艶消しメタリック高分子ポリエステル塗料を使用した。
実施例1と同様に表面調整された塗装原板に各種塗料を塗布し、最高到達板温215℃で40秒焼き付けることにより、膜厚5μmの下塗り塗膜3,膜厚13μmの上塗り塗膜4を塗装原板の一面に、膜厚5μmの熱吸収性塗膜2を他面に形成した。
作製された塗装鋼板の熱反射率を実施例1と同様に求めたところ、本例でも明度L値が高いほど大きな熱反射率が示され、表2に示すように明度L値を50以下に下げたときに熱反射率が0.35以下になった。
【0026】
Figure 0004252818
【0027】
(参考例)
基材の一面に熱吸収性塗膜2(実施例2の試験No.1)を、他面に着色顔料,発色顔料を分散させたクリア塗膜を設けた。
着色顔料にはカーボンブラックを、発色顔料には酸化チタンをコーティングしたガラスフレークを用い、分子量12000の高分子ポリエステル樹脂100質量部に対し20質量部のメラミン硬化剤を添加した樹脂をベースとする塗料組成物にそれぞれ2質量%,6質量%配合した。実施例1と同じ条件下で塗料組成物を塗布・焼付けすることにより、膜厚12μmのクリア塗膜を形成した。
熱吸収性塗膜2,クリア塗膜が形成された塗装鋼板の熱反射率を実施例2と同じ条件下で測定したところ、0.14と低い熱反射率が示され、下塗り塗膜3,上塗り塗膜4に代えてクリア塗膜を形成しても優れた熱吸収特性が維持されることが判った。しかも、着色顔料又は発色顔料が分散したクリア塗膜のため、金属光沢が活かされ、しかも淡い色調の外観を呈した。
【0028】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の塗装鋼板は、一面に熱反射率を低下させた熱吸収性塗膜を、他面に意匠性塗膜を設けている。該塗装鋼板で発熱器具,部品の筐体や周辺部材を作製するとき、発熱器具,部品に熱吸収性塗膜を臨ませると、発熱器具,部品からの熱が熱吸収性塗膜に効率よく吸収され、金属基材を熱伝導して外部に放散される。そのため、昇温に起因した発熱器具,部品の故障や寿命低下が防止され、発熱器具,部品自体の信頼性向上に適した構造部材が得られる。また、熱吸収性塗膜と反対側に設けたクリア塗膜を製品外側に使用すると、金属光沢が活かされ淡い色調が付与された意匠性の高い製品となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に従った塗装鋼板の層構成を示す模式図
【図2】 塗装鋼板の吸熱・放熱特性が筐体内部の温度上昇に及ぼす影響を調査した試験装置
【図3】 熱吸収性塗膜を設けた塗装鋼板で作製した筐体内部の昇温特性を無垢の亜鉛めっき鋼板製筐体内部と比較したグラフ
【符号の説明】
1:金属基材 2:熱吸収性塗膜 3:下塗り塗膜 4:意匠塗膜 5:化成処理皮膜 6:めっき層

Claims (2)

  1. めっき鋼板又はステンレス鋼板を基材とし、その一面に3〜30μmの波長域における熱反射率が0.35以下に抑えられた熱吸収性塗膜が、他面に下塗り塗膜と上塗り塗膜からなる意匠性塗膜が形成されている冷却能の高い塗装鋼板であって、熱吸収性塗膜を設けた基材表面が発熱源側に設けられるための塗装鋼板
  2. 濃色顔料の分散によって熱吸収性塗膜の明度L値を50以下に下げている請求項1記載の塗装鋼板。
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