JP4250112B2 - 耐震性と溶接性に優れた鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
しかし、金属材料の強化機構の多くが転位の易動性低下に基づくことから、一般的に鋼の強化は降伏応力の増大を通じて降伏比の増大を招く。
このことから、たとえば引張強さ570N/mm2以上の鋼において80%以下の降伏比を達成するのは、通常の製造方法では困難となる。また、強度増大に伴い必要な合金元素の添加総量が増大するためPcmは必然的に増大し、しかも溶接熱影響部の硬さ増大などの影響から溶接熱影響部靭性も一般的に低下する。
強度の増大に対して、Pcmに反映されない合金元素であるNb、Ti、V等を用いることも可能であるが、これらの炭化物による析出強化は降伏応力を大幅に増大させるため、低いPcmと高い強度が達成できても低い降伏比を達成するのは困難となる。
このように、鋼板の強度を増大するにあたっては、低い降伏比、低いPcm、さらに高い溶接熱影響部靭性を確保するのは、通常の成分及び製造方法では困難である。
この方法は、高い強度を確保するために合金元素の添加量を高める必要があるためにPcmが高く、溶接熱影響部靭性が低いという欠点、加速冷却開始までの時間が長く製造効率が大幅に低下するという欠点、加速冷却開始までに生成するフェライトの体積率が鋼板の部位毎に大きくばらつくことで最終的な鋼板の材質ばらつきが大きいという欠点、フェライト粒径が大きいために母材の靭性が低い欠点など多数の問題点がある。
いずれの方法も低YR化に有効ではあるが、強度を確保するためにCを始めとする合金元素の添加量を増大し、硬質第二相となる以前のオーステナイト中の合金元素量を高める必要があるため、溶接熱影響部の靱性や溶接性は低下する。また、金属組織中に生成する硬質相は破壊の起点となりやすく延性や低温靱性を劣化させる。
しかし、このような製造方法は、圧延中に長時間の待機時間があったり、2回以上の熱処理を行う必要があるために生産性が著しく低下する問題点がある。また、その混合組織内のフェライトが粗大であったり硬質相が存在することによって延性や靱性を低下させる欠点があった。
確かにこの方法では、フェライトの細粒化によって靱性が改善されることが期待できる。また、この方法は、例えば特許文献1に示されているように圧延後にフェライトの生成を待って長い待機時間を取ることがないので生産性の点からも好ましい。
しかし、特許文献3では、その実施例の発明鋼欄に示されているように鋼の降伏は77%〜86%と比較的高く(多くの例は80%以上)、いっそうの降伏比の低下が求められている。
この結果、適正な焼き入れ性を有する鋼を特定の条件下で圧延、水冷、焼き戻しを行うことによって、容易に高強度、低降伏比、高溶接性鋼板が製造可能であることを見出した。 以下、本発明について説明する。
(1)軟質相と硬質相の混合組織とし、外部からの変形に対してまず軟質相が降伏、変形し、変形が進むと硬質相が変形を阻止し高い応力まで変形が進まないようにする方法であり、これによって降伏応力は軟質相によって定まり、引っ張り強度は硬質相の影響を強く受ける(実際にはそれぞれの体積分率と強度の按分比に近い)。具体的には、フェライト組織中にベイナイトやマルテンサイトを分散させるのがこの方法にあたる。
(2)ベイナイトやマルテンサイトは生成する際に自らの体積変化などによって変形され、結晶中に多量の可動転位が内在する。このような可動転位が存在すると、外部からの変形応力に対して、これらの可動転位が容易に移動することによって変形が開始するために降伏応力は引っ張り応力に対して著しく低い(降伏比が低い)。但し、これらベイナイトやマルテンサイトは、その延性や靱性を回復させる目的で焼戻を行うとその際に生成する鉄炭化物やその他の析出物が生成し、転位を固着してしまうなどのために降伏応力が顕著に上昇してしまう。
しかし、引っ張り強度570MPa以上の引っ張り強度を得ようとすれば、硬質相の例えばフェライト分率80%では、フェライトの強度は概ね350MPaとすれば、硬質相の強度は1500MPaもなければならないこととなる。このような軟質相と硬質相の硬度差が顕著であると外部から変形が加えられた場合、軟質相と硬質相の界面では硬質相が変形しないために軟質相が極端に変形し、この部分から破壊が生じることとなる。このためこのような2相組織は延性や靱性が劣る。
しかし、ベイナイトやマルテンサイトは焼き入れままでは、その延性や靱性が良くないのが通常である。これを回復させる目的で焼戻を行うとその際に生成する鉄炭化物やその他の析出物が生成し、転位を固着してしまうなどのために降伏応力が上昇し、同時にベイナイトやマルテンサイト中に固溶していた炭素原子が析出してしまうことなどのために引っ張り強度が顕著に低下する。この降伏強度の上昇と引張強度の低下によって、降伏比は顕著に増加してしまう難点がある。
(A)低降伏比を得るために鋼の組織を基本的にはベイナイトまたはマルテンサイト主体の組織とする
但し、焼戻温度が高すぎるとベイナイト中に固溶していた炭素原子から生成したFe炭化物が多数生成し、Nb、V、Tiとも結合して微細な析出物を形成して、これらFe炭化物や微細な析出物による転位の固着が顕著となり、降伏応力が上昇するので降伏比が高くなる。
さらに焼戻温度が高温(概ね500℃以上)になるとベイナイトやマルテンサイト組織の回復や粗大化と炭化物、析出物の粗大化によって引張強度の著しい低下が見られるようになる。このようになると鋼の降伏比は顕著に上昇し、85%を超えるようになる。
しかし、通常の焼き戻しはこのような温度(概ね500℃以上)で実施されており、当然、低降伏比を実現することはできない。
そこで、より低温での焼戻しでの特性に着目して検討した結果、焼戻温度を350℃以下の低温で実施すれば、可動転位を金属組織中に残存させ降伏応力を低く保つことができることが判明した。すなわち、150〜350℃の温度範囲で焼戻しを行うことによって低降伏比と延性、靱性の両者を良好にすることができるのである。
但し、この時フェライト相はベイナイトやマルテンサイト中に孤立して分布していてもあまり効果がない。なぜなら周囲をベイナイトやマルテンサイトに取り囲まれているために変形応力を担うのは連結した状態にあるベイナイトやマルテンサイトであるため、これがフェライトの体積分率分だけ減少したとしかと考えられないからである。従って、孤立したフェライト粒はその体積分だけしか降伏応力を低下させないと考えられる。
従って、同一のフェライト分率でもこのような分布の方が降伏応力を降下させる効果が大きい。すなわち、(A)および(B)に説明したベイナイトやマルテンサイトの可動転位を利用して低降伏比を実現する方法に加えて、いっそう降伏比を低下させるために、フェライト相を圧延面に垂直(普通、引張試験の引張方向に垂直)になるような連結状態を作ることが必要であり、このような状態を実現するにはフェライトが生成する冷却工程の前の熱間圧延をオーステナイトの再結晶温度域で終了させるか、未再結晶温度域での圧延をできるだけ軽微にすることによって達成する。
(D)鋼の組織をベイナイトまたはマルテンサイト主体の組織とし、これらの組織に内在する可動転位を利用して低降伏比を実現する。
(E)上記のベイナイトまたはマルテンサイト組織の延性、靱性を回復する目的で焼戻を行う。焼戻は条件によってはベイナイトまたはマルテンサイト中の可動転位を消失または固着させるなどの理由で低降伏比ではなくなる場合があるが、この焼戻の温度を150〜350℃の低温に限定することによって、低降伏比および延性、靱性の両者の改善を実現する。
(F)さらに、上記ベイナイトまたはマルテンサイト組織中にフェライト相を析出させることはさらに降伏比の低減に有効であるが、この際、フェライトの連結が圧延面に垂直方向に形成されるように、オーステナイトの未再結晶温度域圧延をできるだけ低減する。
Cはベイナイトやマルテンサイトの硬さ(強度)を高めるので、本発明では必須の元素である。また、金属組織中にフェライトを生成させる場合には、炭素原子はフェライトから残部オーステナイトへ分配、濃縮し、残部オーステナイトがベイナイトやマルテンサイトに変態する際にそれらの硬さ(強度)を高めるために降伏比の低減に有効に作用するので有効である。
しかし、0.03%未満の量ではその強化能が十分でなく、0.15%を超える過剰な添加では溶接部の硬さを顕著に上昇させ、溶接部の靱性を低下させるので、Cの添加量は0.03〜0.15%に限定した。
しかし、過度の添加は鋼の靭性および溶接性を損なうため、0.01%≦Cr≦0.50%、0.01%≦Mo≦0.50%、0.01%≦Cu≦3.00%、0.01%≦Ni≦3.00%、0.0001%≦B≦0.0030%に限定する。
このような観点からNbおよびVの添加量は0.001%≦Nb≦0.050%、0.001%≦V≦0.100%とした。ここで、添加量の下限を0.001%とするのはこれ未満では効果がないからである。
この効果を発揮するためには、Ti、REMはそれぞれ0.001%以上、Caは0.0005%以上の添加が必要である。一方、過剰に添加すると硫化物や酸化物が粗大化して母材靱性や延性の低下をもたらすため、その上限値をTiで0.050%、REMで0.100%、Caで0.0200%とし、これらの1種または2種以上を添加する。
しかし、過度の添加はTiNやAlNを粗大化させ逆に靱性の劣化を招くので、Nの添加量は0.0001〜0.0100%以下とする。
このような観点から、焼き入れ性を向上させる元素の添加量を、元素による焼き入れ性を示す指標であるCeq=C+Mn/6+Si/24+Mo/4+Cr/5+Ni/40+V/14で0.25質量%以上0.45質量%以下とした。これは、0.25質量%未満では十分な引張強さを達成することが困難であり、0.45質量%を超えると溶接熱影響部靭性が低下するからである。
その他、不可避的不純物であるP、Sの含有量はそれぞれ0.02%以下、0.008%以下が好ましい。
ここで、この保持温度の下限値を1050℃としたのは、これ以下の温度では、再加熱時のオーステナイトの粒径が小さいことや従属的に圧延温度低下することによって再結晶後のオーステナイト粒径がより小さくなることによってフェライトが生成しやすくなるために、鋼の主体的金属組織をベイナイトやマルテンサイトにできず、必要な強度を確保できないからである。また、保持温度の上限を1350℃以下とするのは、現在の設備技術では、これ以上の温度への再加熱やその温度での保持が困難だからである。
また、圧延によるオーステナイトの再結晶によりオーステナイト粒を適度に細粒化しておくために総圧下率の下限を50%、上限を95%とした。これ未満の総圧下率ではオーステナイトが粗大で、最終的にできあがった鋼材の靱性が低い。また、上限を超える総圧下率ではオーステナイト粒径が小さすぎてフェライトが極度に生成しやすくなるので、安定的にベイナイトやマルテンサイトが主体の金属組織を実現できない。仮に、鋼の焼き入れ性を高めフェライトの生成を抑制したとしても、この際にはかなりの焼き入れ性に有効な合金元素を添加しなくてはならない。このような場合には溶接部の硬さが顕著に増加し、溶接部の靱性が著しく劣化してしまう。
特に、フェライト相の分率が高い場合には、軟質相のフェライトが存在すると降伏応力を下げるという予想とは逆に鋼の降伏比を上昇させてしまう現象が見出された。この原因は明確ではないが、オーステナイトの未再結晶温度域での過度の圧延は、鋼の降伏比を低下させるのに好ましくないことが判明した。
なお、オーステナイトの未再結晶温度域での圧延を過剰に行うとフェライトの生成を顕著に促進するために、フェライトの生成量が増加し、鋼の金属組織をベイナイトやマルテンサイトとすることが難しくなり、鋼の強度が低下する。これらの理由により本発明における鋼の圧延に於いては、800〜900℃の総圧下率を30%以下と限定した。
まず、800℃以上の温度から冷却を開始するのは、これ未満の温度からの冷却では冷却開始前に多量のフェライトが生成してしまい、鋼材の強度が確保できないからである。また、このような自然冷却中に生成したフェライト粒は粗大なフェライトであるために母材の靭性も低下するからである。
なお、この冷却過程で、不可避的もしくは降伏比をより低下させる目的で、フェライトを微量に生成させても良い。但し、大量にフェライトが生成すると鋼の引っ張り強度が低下してしまうので、概ねの範囲としては体積分率で50%以内程度に抑制することが望ましい。
また、水冷の停止温度はオーステナイトをベイナイトあるいはマルテンサイト主体の組織とするため、350℃未満の温度とした。これ以上の温度では、十分な強度を有するベイナイトやマルテンサイト組織が得られないからである。
この焼戻しはベイナイトやマルテンサイト中に固溶していた炭素原子をFe炭化物として排出させ、鋼の延性や靱性を改善する目的で実施する。この目的から、炭素原子が十分に拡散現象によって移動できる150℃以上の温度で実施する。
但し、焼戻温度が高すぎるとベイナイト中に固溶していた炭素原子から生成したFe炭化物が多数生成し、Nb、V、Tiとも結合して微細な析出物を形成して、これらFe炭化物や微細な析出物による転位の固着が顕著となり、降伏応力が上昇するので降伏比が高くなる。さらに焼戻温度が高温になるとベイナイトやマルテンサイト組織の回復や粗大化と炭化物、析出物の粗大化によって引張強度の著しい低下が見られるようになる。このようになると鋼の降伏比は顕著に上昇し、85%を超えるようになる。80%以下の低い降伏比を実現するためには焼戻温度を通常の焼戻しより低温とすることが必要であり、この目的を達成するために上記したような現象が顕著に生じない350℃以下に焼戻温度を限定した。すなわち、150〜350℃の温度範囲で焼戻しを行うことによって低降伏比と延性、靱性の両者を良好にすることができるのである。
鋼板の化学成分、最終板厚、Ceq、Pcmを表1に、製造条件と母材の引張強さ、降伏比および溶接熱影響部靱性を表2に示す。
サブマージアーク溶接の場合、突合せ溶接のボンドから0.5mmはなれた場所がシャルピー試験片のノッチ位置に対応するように試験片を採取し、0℃で行った3本の試験における衝撃吸収エネルギーの平均値を採用した。入熱条件は、例えば、板厚30mm、50mm、100mmそれぞれに対応する試験片採取部位及び溶接入熱はそれぞれ2.5kJ/mm(1/2t部)、4.0kJ/mm(1/4t部)5.5kJ/mm(1/4t部)程度である。
エレクトロスラグ溶接の場合、ボックス柱のスキンプレートとダイヤフラムの溶接に相当する継手を作成し、スキンプレート側のボンド部から0.5mmはなれた場所がシャルピー試験片のノッチ位置に対応するように試験片を採取し、0℃で行った3本の試験における衝撃吸収エネルギーの平均値を採用した。溶接入熱は、例えば、板厚30mm、50mm、100mmそれぞれに対して、40、60、90kJ/mmの程度である。
Claims (4)
- 質量%で、
C :0.03〜0.15%、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.10〜3.00%、
Al:0.001〜0.100%、
N :0.0001〜0.0100%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、かつCeq=C+Mn/6+Si/24+Mo/4+Cr/5+Ni/40+V/14が0.25以上0.45%以下、Pcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Ni/60+Mo/15+V/10+5Bが0.25%以下である鋼を鋳造後そのままか、一度冷却した後に再加熱して、1050〜1350℃の温度に保持し、その後、圧延温度範囲が800〜1350℃、900〜1050℃の温度範囲で総圧下率が50〜95%、800〜900℃の総圧下率が30%以下となるように圧延を行って、圧延終了後には、800℃以上の温度から2〜100℃/sの平均冷却速度で350℃未満の温度まで冷却し、その後、放冷し、150〜350℃の温度で焼き戻し、その後放冷することを特徴とする、引張強度570MPa級以上の強度を有する耐震性と溶接性に優れた鋼板の製造方法。 - 質量%で、さらに、
Cr:0.01〜0.50%、
Mo:0.01〜0.50%、
Cu:0.01〜3.00%、
Ni:0.01〜3.00%、
B :0.0001〜0.0030%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の耐震性と溶接性に優れた鋼板の製造方法。 - 質量%で、さらに、
Nb:0.001〜0.050%、
V :0.001〜0.100%
を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐震性と溶接性に優れた鋼板の製造方法。 - 質量%で、さらに、
Ti :0.001〜0.050%、
REM:0.001〜0.100%、
Ca :0.0005〜0.0200%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の耐震性と溶接性に優れた鋼板の製造方法。
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