JP4464909B2 - 溶接熱影響部の靭性に優れた高降伏比高張力鋼板 - Google Patents
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Description
HM=[C]+[Mn]/30+[Cr]/30+[Mo]/5+[Si]/5 …(1)
HG=-[C]+[Mn]/25+[Cr]/25-[Mo]/30-[Si]/10 …(2)
HB=-[Cr]/10+[Mn]/10-[Nb] …(3)
但し、[C],[Mn],[Cr],[Mo],[Si]および[Nb]は、夫々C,Mn,Cr,Mo,SiおよびNbの含有量(質量%)を示す。
HAZ靭性を向上するには、HAZにおいて破壊の起点となるM−A相の量をできるだけ低減する必要がある。M−A相は組織中のCが濃化し、その部分の変態温度が低下することによって、マルテンサイトと残留オーステナイトが組織中に析出した相である。従って、M−A相を低減するためには、C含有量自体を低減することが有効なものとなる。また、M−A相の低減には、オーステナイト安定化元素(Mn,Cr,Mo,Si等)を低減することで残留オーステナイト量を少なくする必要がある。しかしながら、C含有量やオーステナイト安定化元素を低減させ過ぎると、強度が確保できなくなるという問題が生じる。即ち、上記HM値が0.25%未満になるような鋼板では、HAZ中のM−A相が十分に少なくなって良好な靭性を示すものとなる。また、HM値が0.10%未満となると、焼入れ性が低下し、極低Cベイナイト組織が十分に生成せず、フェライト主体の組織となり、鋼板として要求される強度が確保できなくなる。
HAZにおける旧オーステナイト粒の粗大化を抑制するには、TiNを活用することは一般的であり、本発明においてもTiNを活用しており、上記の範囲内にあれば十分にその効果がある。その他、窒化物、炭化物、酸化物等によるオーステナイト粒成長のピン止めや粒成長自体を遅らせるといった観点から、C,Mn,Cr,Mo,Siの影響を定量的に調査した結果、HG値を導いた。上記HG値が0.08%未満になるような鋼板では、HAZ中の旧オーステナイト粒の粗大化が抑制されることになり、良好な靭性を示すものとなる。また、HG値が0.02%未満となると、極低Cベイナイト組織が十分に生成せず、鋼板として要求される強度が確保できなくなる。
HAZでの旧オーステナイト粒内の組織単位(ベイナイトブロック)を細かくすることによって、破壊時の亀裂伝播抵抗が大きくなり、HAZ靭性を向上できる。上記HB値が0.0%以下となるような鋼板では、HAZにおける旧オーステナイト粒内から方位の異なる多数のベイナイトラスが発達しており、良好な靭性を示すものとなる。ベイナイトブロックサイズの微細化を促進する元素は他にもあるが(例えば、Cu,Ni等)、その効果は少なく、本発明では上記三元素のみによって規定した。特に、Cr量が多いことが特徴となる。
Cは高張力鋼の強度を増大させるのに有効な元素であり、所望の強度を確保するためには0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cを過剰に含有させると、M−A相またはセメンタイトが多量に形成されて極低Cベイナイト組織を安定して生成させることが困難になる。こうしたことから、その上限は0.05%とする必要がある。
Siは冷却条件によらず固溶強化により鋼の強度を増加させるのに有効な元素であるが、過剰に含有させると鋼材(母材)に島状マルテンサイト相(M―A相)を多量に析出させて靭性を劣化させる。こうしたことから、その上限を1.0%とした。尚、Si含有量の好ましい上限は0.5%である。
Mnは極低Cベイナイト組織を生成させて鋼材を強化するのに有効な元素であり、こうした効果を発揮させるためには、Mnは0.5%以上含有させる必要がある。しかしながらMnを過剰に含有させると、母材の靭性劣化を引き起こすので上限を2.0%とする。Mn含有量の好ましい下限は0.7%であり、好ましい上限は1.8%である。
Pは結晶粒に偏析し、延性や靭性に有害に作用する不純物であるので、できるだけ少ない方が好ましいのであるが(0%を含む)、不可避的に鋼材に混入することを考慮して0.5%以下に抑制するのが良い。またSは、鋼材中の合金元素と反応して種々の介在物を形成し、鋼材の延性や靭性に有害に作用する不純物であるので、できるだけ少ない方が好ましいのであるが(0%を含む)、不可避的に混入することを考慮して0.01%以下に抑制するのが良い。
Alは脱酸剤として有効な元素であると共に、鋼材中のNを固定することによって、Bの固溶量を増加させる元素である。これによって、Bによる焼入れ性向上効果が向上することになる。こうした効果を発揮させるためには、Al含有量は0.01%以上とする必要がある。しかしながら、過剰に含有されると鋼材(母材)に島状マルテンサイト相(M―A相)を多量に析出させて靭性を劣化させる。こうしたことから、その上限を0.07%とした。尚、Al含有量の好ましい下限は0.02%であり、好ましい上限は0.05%である。
Crは極低Cベイナイト組織を得るために重要な元素である。また、HAZ組織においてはベイナイトブロックサイズを低減するためにも有効である。更に、焼入れ性を向上させて鋼材の強度を確保する上でも有効な元素である。これらの効果を発揮させるためには、Crは0.5%以上含有させる必要がある。しかしながら、Crの含有量が過剰になって2.0%を超えると、粗大な析出物を形成するので、母材およびHAZのいずれの靭性も劣化する。尚、Cr含有量の好ましい下限は0.7%であり、好ましい上限は1.8%である。
Moは焼入性を向上させて強度向上に有効な元素であるが、0.5%を超えて過剰に含有させると、粗大な硬化相となるので、母材およびHAZのいずれの靭性も劣化する。尚、本発明において極低Cベイナイト組織を得るためには、必ずしも必要な元素ではなく、無添加でも良い。但し、Moを含まない場合には、前記(1)式および(2)式は、Moを含まないものとして計算する必要がある。Mo含有量の好ましい上限は0.4%である。
Nbは極低Cベイナイト組織を得るために重要な元素である。また、HAZ組織においてはベイナイトブロックサイズを低減するためにも有効である。更に、鋼材の強度を確保する上でも有効な元素である。これらの効果を発揮させるためには、Nbは0.005%以上含有させる必要がある。しかしながら、Nbの含有量が過剰になって0.030%を超えて含有させてもその効果は飽和する。尚、Nb含有量の好ましい下限は0.010%であり、好ましい上限は0.025%である。
Tiは窒化物を形成させ、大入熱溶接時に旧オーステナイト粒の粗大化を抑制、HAZ靭性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Ti含有量は0.005%以上とする必要がある。しかしながら、Tiを過剰に含有させると粗大な介在物を析出させ、却ってHAZ靭性を劣化させるので、その上限を0.03%とする。尚、Ti含有量の好ましい下限は0.010%であり、好ましい上限は0.025%である。
Bは極低Cベイナイト組織を得るために重要な元素である。また焼入性を向上させてフェライト変態を抑制する上でも有効に作用する。そのためには、Bは0.0005%以上含有させる必要がある。しかしながら、Bを過剰に含有させるとその効果が飽和するばかりか、HAZ組織中での介在物(B窒化物)が増加してHAZ靭性は却って低下するので、B含有量の上限は0.0030%とする必要がある。尚、B含有量の好ましい下限は0.0007%であり、好ましい上限は0.002%である。
Caは介在物形状の異方性を低減する作用があり、HAZ靭性を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.0005%以上含有させる必要があるが、0.005%を超えて過剰に含有させても介在物が粗大化してHAZ靭性が却って劣化する。尚、Ca含有量の好ましい下限は0.001%であり、好ましい上限は0.004%である。
大入熱溶接HAZにおいて靭性を高位に確保するためには、旧オーステナイト粒内にTiNを微細析出させて旧オーステナイト粒の粗大化を防止することが有効である。こうした効果を発揮せせるためには、N含有量は0.0020%以上とする必要がある。しかしながら、Nの含有量が過剰になって0.0080%を超えると粗大なTiNが析出して破壊の起点となる。尚、N含有量の好ましい下限は0.003%であり、好ましい上限は0.007%である。
CuおよびNiは、母材強度を向上するのに有効な元素である。これらの効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、含有量が過剰になると溶接時にM―A相の生成が促進されHAZ靭性が劣化することになるので、いずれも3.0%以下とする。
Vは母材強度の向上に有効な元素であるが、0.05%を超えて過剰に含有させるとHAZ部で析出物を形成し、HAZ靭性が低下することになる。
MgはTiNの析出の核となる酸化物を微細分散させてHAZの靭性向上に寄与する元素であるが、過剰に含有させると酸化物が粗大化して却ってHAZ靭性を低下させるので、0.005%以下にすべきである。
ZrはTiと同様に、窒化物や酸化物を形成して、HAZ部の旧オーステナイト粒の粗大化を防止してHAZ靭性を向上させるのに有効な元素であるが、過剰に含有させると介在物が粗大化してHAZ靭性が劣化するので0.005%以下にすべきである。
希土類元素(REM)は、Caと同様に、介在物形状の異方性を低減してHAZ靭性を向上するのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、0.0003%以上含有させることが好ましい。しかしながら、REMの含有量が0.03%を超えて過剰になると、介在物が粗大化してHAZ靭性が却って低下することになる。
(B)鋳片または鋼片を1000〜1300℃に加熱し、圧延仕上げ温度700℃以上で熱間圧延を終了した後、冷却速度1〜50℃/秒で500℃以下まで水冷却する。
下記表1、2に示す化学成分組成の鋼を用い、下記表3、4に示す製造条件にて鋼板を製造した。尚、表1、2には、本発明で規定するHM値、HG値およびHB値についても示した。
各鋼板のt/4(tは板厚)から鏡面研磨後試験片を採取し、これを2%硝酸−エタノール溶液(ナイタール溶液)でエッチングした後、5視野において光学顕微鏡を用いて400倍で観察を行ない、画像解析によって鋼組織中のベイナイト分率(面積%)を測定した。この際、フェライト(ポリゴナルフェライト・擬ポリゴナルフェライトを含む)以外のラス状組織は全てベイナイトとみなした。
鋼板のt/4(tは板厚)からJIS Z 2201 4号試験片を採取し、JIS Z 2241の要領で引張試験を行ない、降伏強度(0.2%耐力:σ0.2)、引張強度(TS)、降伏比(降伏強度/引張強度×100%:YR)を測定した。本発明では、引張強度TS:570MPa以上、降伏比YR:80%以上を合格とした。
鋼板のt/4からL方向(圧延方向)にJIS Z 2202 Vノッチ試験片を採取してJIS Z 2242に準拠してシャルピー衝撃試験を行ない、シャルピー試験片の脆性破面率が50%となる温度を近侍して破面遷移温度(vTrs)として測定した。vTrsが−50℃以下を目標として合格とした。
JIS Z 3158のy形溶接割れ試験法に従い、入熱量:1.5KJ/mmで被覆アーク溶接を行ない、予熱温度25℃において断面割れ率を測定し、割れ率0%を合格とした。
HAZ再現試験を行なった。鋼板から採取した試験片[12.5×32×55(mm)の試験片を各5本採取]に1400℃×5秒加熱後、入熱量10KJ/mmに相当する[800〜500℃までを80秒で冷却]熱サイクル試験を行なった。その後、各試験片から2本のシャルピー衝撃試験片(JIS Z 2202 Vノッチ試験片)を採取し、各鋼板毎に10本で−15℃における平均衝撃吸収エネルギーvE−15を求めた。平均100J以上を合格とした。
前記表1に示した鋼種Aを用い、入熱量を変える以外は上記と同様にしてHAZ再現試験を行なった。このとき入熱量1〜20KJ/mmに相当するように800〜500℃までの冷却時間を変えて熱サイクルを試験を行なった。尚、入熱量1KJ/mmでは冷却時間10秒、入熱量2KJ/mmでは冷却時間20秒、入熱量5KJ/mmでは冷却時間40秒、入熱量7KJ/mmでは冷却時間60秒、入熱量15KJ/mmでは冷却時間120秒、入熱量20KJ/mmでは冷却時間160秒となる。
Claims (6)
- C:0.01〜0.05%(質量%の意味、以下同じ)、
Si:1.0%以下(0%を含まない)、
Mn:0.5〜2.0%、
P:0.5%以下(0%を含む)、
S:0.01%以下(0%を含む)、
Al:0.01〜0.07%、
Cr:0.5〜2.0%、
Mo:0.5%以下(0%を含む)、
Nb:0.005〜0.030%、
Ti:0.005〜0.03%、
B:0.0005〜0.0030%、
Ca:0.0005〜0.005%、
N:0.0020〜0.0080%を夫々含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなると共に、
下記(1)式で規定されるHM値が0.10%以上、0.25%未満、
下記(2)式で規定されるHG値が0.02%以上、0.08%未満、および
下記(3)式で規定されるHB値が0.0%以下を夫々満足し、且つベイナイト分率が90面積%以上の組織であることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた高降伏比高張力鋼板。
HM=[C]+[Mn]/30+[Cr]/30+[Mo]/5+[Si]/5 …(1)
HG=−[C]+[Mn]/25+[Cr]/25−[Mo]/30−[Si]/10 …(2)
HB=−[Cr]/10+[Mn]/10−[Nb] …(3)
但し、[C],[Mn],[Cr],[Mo],[Si]および[Nb]は、夫々C,Mn,Cr,Mo,SiおよびNbの含有量(質量%)を示す。 - Cu:3.0%以下(0%を含まない)および/またはNi:3.0%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の高降伏比高張力鋼板。
- V:0.05%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の高降伏比高張力鋼板。
- Mg:0.005%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高降伏比高張力鋼板。
- Zr:0.005%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高降伏比高張力鋼板。
- 希土類元素:0.0003〜0.03%を含有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の高降伏比高張力鋼板。
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