JP3812488B2 - 加工性および材質均一性に優れた高強度鋼及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、厚鋼板、条鋼、パイプ等に用いる溶接構造用鋼材に関し、特に加工性、材質均一性、溶接部靭性、耐条切り歪特性に優れた高強度鋼及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、設計上の自由度の増加や施工時の工数削減を目的として、加工度の大きい曲げ加工やプレス加工を行っても割れ等が生じない、加工性の優れた鋼材に対する需要が高まっている。溶接構造用鋼材の加工性を向上させるために、鋼の組織をフェライト単相にすることは効果的である。しかしフェライト単相の鋼材は一般に強度が低いので、構造用鋼材として必要な強度を満足するために高強度化する必要がある。高強度化のためにTi、Cr、Cu、Ni等を多量に添加することは、コストが上昇するだけでなく、溶接性や溶接部靭性が劣化する場合もあるため好ましくない。
【0003】
鋼の組織を、フェライト組織とフェライト組織よりも高強度を有する他の組織との混合組織とすることにより高強度化することができる。しかし、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト等のフェライトよりも高強度の組織をフェライト組織と混合、あるいは単独で有する鋼材は、フェライト単相の鋼材に比べて延性、加工性が低化する。
【0004】
また、析出強化を用いて鋼材を高強度化することも有効であり、特開平8−73985号公報には、フェライトの母相に10nm以下のTiCを析出させた熱延鋼板が開示され、TiCの析出強化に加えて、フェライト結晶粒を10μm以下に細粒化するとともに、10μm以下の鉄炭化物を析出させて高強度を達成している。
【0005】
上記のような高強度鋼材を製造する際には、制御圧延とその後に加速冷却を行うTMCP(熱加工制御)法や、焼入れ焼戻しなどの熱処理による調質熱処理を用いるのが一般的である。調質処理を用いる場合、焼戻し等の熱処理の際に、室温まで冷却された鋼材を再び高温まで再加熱するために多大の熱処理コストを必要とする。
【0006】
TMCP法を用いれば、フェライト主体の鋼材のフェライト結晶粒を微細化することができ、炭素含有量が低くても高強度化することができるので、比較的容易に溶接性にも優れたある程度の高強度鋼材を得ることができる。しかし、TMCP法をフェライト相と他の組織との混合組織の鋼材に用いた場合でも、一般的には490MPa(50キロ級)程度の強度しか達成できない。また、加速冷却を用いるので、特に厚肉鋼材を製造する場合は、表面硬化等の板厚方向の材質不均一が発生するという問題がある。さらに、TMCP法においてAr3点以下のオーステナイトとフェライトの2相域で圧延を行う場合には、板面内方向の圧延方向とその直角方向で材質に著しい異方性を生じて、均一性が損なわれる。
【0007】
TMCP法を用いた場合のように、構造用鋼材の材質が板厚方向、板面内方向で不均一を有すると、強度設計に狂いを生じる恐れがある。建築物や構造物の高層化、大型化が進むにつれ、より高強度の鋼材が必要とされ、安全のために、材質が均一であることが望まれている。鋼材の材質が均一であれば、設計時に安全マージンを必要以上に大きくとる必要が無いので、材料の性能を最大限に引き出した設計が可能であり、設計通りの高精度の施工が可能である。材質均一性の良い鋼材として、材質のばらつきの少ないベイナイト鋼材が特開平9−157741号公報に開示されている。特開平9−157741号公報に記載の鋼材は、冷却速度が変動しても組織変動が発生しない成分組成とすることで、TMCP法を用いる厚鋼板の材質のばらつきを防止するものである。
【0008】
また、高張力鋼を厚板として造船用および建築用に使用する場合、300〜600mm程度の幅で長手方向に切断した条切材に加工されることが多い。条切材はこのときの条切りによって高張力鋼板内の残留応力が開放されるため、ほとんどの場合曲がり変形を生じる。この曲がり変形を条切り歪と呼び、条切り歪は条切材のその後の加工を困難にするため、造船材および建材にとって大きな問題となっている。一般的には焼戻し熱処理を十分に行い、焼入れや加速冷却によって導入された鋼板内の不均一な熱応力や変態応力を解放することで、条切り歪を少なくしている。
例えば、特開平7−150234号公報には焼戻し熱処理により高張力鋼板から歪の原因となる残留応力を取り除いてやる方法が開示されている。また、特開平10−15608、15617号公報には、条切り歪の原因となる鋼板内の温度分布斑を制御して歪の少ない条切材を得る方法が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
加工性の良いフェライトを主体とした組織中に析出物を析出させて高強度化する特開平8−73985号公報に記載の技術は、Tiが0.12〜0.30%と多量に含有されているため、溶接部靭性が著しく劣化する恐れがあり、これを防止するためにNiを0.25〜1.5%添加しており、コストが高い。また、鉄炭化物を析出させるための再加熱処理が必要であり、コストが高い。
【0010】
特開平9−157741号公報に記載の鋼材は、ベイナイト単相とすることで組織を均一にするものであり、延性、加工性が低く、しかもAr3点以上のオーステナイト未再結晶温度域で圧延するためオーステナイト粒が圧延方向に展伸し、この組織がベイナイト変態することにより、ベイナイト組織が伸びたままの組織となるので板面内方向の圧延方向とその直角方向で材質に異方性を生じる。
【0011】
一方、条切り歪について、特開平7−150234号公報に記載の技術は、焼戻し熱処理を行うことが前提であり、高張力鋼板の焼戻し熱処理は、室温まで冷却された鋼材を再び高温まで再加熱するためにコスト高であり、製造工程が煩雑となる。
【0012】
また、特開平10−15608号公報、特開平10−15617号公報に記載の技術は、複雑な冷却条件の制御を行うことによって条切後の条切り歪を少なくするものであり、条切後の条切り歪の曲率が0になる加速冷却時の温度斑を推定する方法は、あらかじめ温度斑と曲率の関係を計算手段により求めておく必要があるため手間と時間を要する。また、この方法では推定した温度斑になるよう複雑な冷却条件を制御する必要がある。
【0013】
条切り歪をなくすには、鋼板内に残留応力を残さないことが理想であり、この点でも組織をフェライト単相にし、材質を均一にすることは効果的である。
【0014】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、溶接構造用鋼材として溶接部靭性に優れ、高加工性を有するとともに、材質均一性にも優れる高強度鋼及びその製造方法を提供することにある。
【0015】
また本発明の他の目的は、焼戻し熱処理や特別な冷却条件を用いることなく製造できる、条切り歪の少ない高強度鋼及びその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
【0017】
(1) 質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2%、Mo:0.02〜0.4%、Ti:0.01〜 0.05%以下を含有し、残部が Fe および不可避不純物からなり、金属組織がフェライト相であり、MoとTiとを含む粒径10nm未満の炭化物が分散析出し、前記炭化物の個数がTiNを除いた全析出物の個数の80%以上であることを特徴とする、加工性および材質均一性に優れた高強度鋼。
【0018】
(2) 質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2%、Mo:0.02〜0.4%、Ti:0.01〜0.05%を含有し、Nb:0.01〜0.2%および/またはV:0.01〜0.1%を含有し、残部が Fe および不可避不純物からなり、金属組織がフェライト相であり、Moと、Tiと、Nbおよび/またはVと、を含む粒径10nm未満の炭化物が分散析出し、前記炭化物の個数がTiNを除いた全析出物の個数の80%以上であることを特徴とする、加工性および材質均一性に優れた高強度鋼。
【0019】
(3) 鋼を加熱温度:950℃以上、圧延仕上温度:Ar3点以上で熱間圧延し、熱間圧延後の冷却を、冷却開始温度:Ar3点以上、冷却終了温度:550〜700℃、冷却速度2℃/s以上で加速冷却し、前記加速冷却終了後600s以内に、550〜700℃で30s以上保持し、その後空冷することを特徴とする、(1)または(2)に記載の加工性および材質均一性に優れた高強度鋼の製造方法。
【0020】
(4) 鋼を加熱温度:950℃以上、圧延仕上温度:Ar3点以上で熱間圧延し、熱間圧延後の冷却を、冷却開始温度:Ar3点以上、冷却終了温度:600〜700℃、冷却速度2℃/s以上で加速冷却し、その後空冷することを特徴とする、(1)または(2)に記載の加工性および材質均一性に優れた高強度鋼の製造方法。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明者らは加工性と材質均一性を向上させ、条切り歪の発生を少なくするためには、変態強化を用いることなく、鋼材のミクロ組織をフェライト組織とすることが最も効果的であると考え、高強度化するためには、フェライト組織にTi、Moを含む炭化物を分散析出させることによって従来得られなかった高い強度を得ることができるという知見を得た。同時に鋼材の溶接性についても考慮して、過度の添加によって溶接部靭性の劣化をもたらすTi量の添加量を適正な範囲に制限すると共に、Nbおよび/またはVを添加することによって溶接部靭性と高強度を両立できるという知見を得た。
【0022】
以下、本発明の加工性および材質均一性に優れ、かつ、溶接部靭性および耐条切り歪特性に優れた高強度鋼について詳しく説明する。まず、本発明の高強度鋼の組織について説明する。
【0023】
本発明の鋼の金属組織は実質的にフェライト単相とする。フェライト相は延性に富んでおり、高加工性を実現できるとともに、応力の局在化を抑制することができる。フェライト相にベイナイト、マルテンサイト、セメンタイト、パーライト等の異なる金属組織が1種または2種以上混在する場合は、材質均一性が劣化するため、フェライト相以外の組織分率は少ないほどよい。しかし、フェライト以外の組織の体積分率が低い場合は影響が無視できるため、トータルの体積分率で10%以下、好ましくは5%以下の他の金属組織を、すなわちベイナイト、マルテンサイト、セメンタイト、パーライト等を、1種または2種以上を含有してもよい。
【0024】
次に、本発明において鋼材内に分散析出する析出物について説明する。
【0025】
本発明の鋼はフェライト相中にMoとTiとを基本として含有する微細な析出物が分散析出しているものである。この極めて微細な析出物による分散強化の効果によりフェライト組織が高強度化する。Mo及びTiは鋼中で炭化物を形成する元素であり、その炭化物の析出により鋼を強化することは従来より行われているが、本発明ではMoとTiを複合添加して、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物を鋼中に微細析出させることにより、Moおよび/またはTi単独の析出強化の場合に比べて、より大きな強度向上効果を得ることが特徴である。この従来にない大きな強度向上効果は、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物が安定でかつ成長速度が遅いので、粒径が10nm未満の極めて微細な析出物が得られることによるものである。
【0026】
MoとTiとを基本として含有する複合炭化物は、Mo、Ti、Cのみで構成される場合は、MoとTiとの合計量とC量とが原子比でほぼ1:1でNaCl型として化合しているものであり、高強度化には非常に効果があるが、鋼材中のTiの含有量が多くなる程、溶接部の靭性が劣化するという問題がある。本発明ではMo、Ti、Cのみで構成される複合炭化物において、Tiの量を制限するか、その一部を他の元素で置換することにより、高強度化の効果を損なわずに溶接部の靭性を向上させることについて検討し、Nbおよび/またはVを添加することによりTiの一部をNbおよび/またはVで置換することが効果的であり、Moと、Tiと、Nbおよび/またはVと、を含む複合炭化物が析出することを見出した。そしてこの複合炭化物が、Mo、Ti、Cのみで構成される複合炭化物と同様の析出強化の効果を有することを見出して本発明を完成した。
【0027】
以下、本発明で析出するMoと、Tiと、を含有する微細な複合炭化物、Moと、Tiと、Nbおよび/またはVと、を含有する微細な複合炭化物を総称して、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物と記載する。
【0028】
本発明の鋼は母相が実質的にフェライト単相であり、母相中にMoとTiとを基本として含有する複合炭化物が分散析出しているものであるが、析出物として上記の複合炭化物以外にTiN、NbTiCN等の析出物も含有している。その他の析出物も本発明の高強度化の効果を損なわない限り含有可能である。ただし前記の従来にない析出強化の効果を得るためには、析出物の個数のうち、80%以上が粒径10nm未満のMoとTiとを基本として含有する複合炭化物であることが必要である。より好ましくは95%以上である。TiNはMoとTiとの複合炭化物よりも安定であり必ず析出しているので前記の析出物の個数から除くものとする。TiNは形状が立方体状であるので、容易に他の析出物と区別可能である。
【0029】
次に、本発明の高強度鋼の化学成分について説明する。
【0030】
C:0.02〜0.1%とする。Cは炭化物として析出強化に寄与する元素であるが、0.02%未満では析出強化に必要な複合炭化物を得る事ができず、十分な強度が確保できない。0.1%を超えるとフェライト以外の低温変態相が容易に生成するため、また溶接性、溶接部靭性を劣化させるため、C含有量を0.02〜0.1%に規定する。
【0031】
Si:0.6%以下とする。Siは脱酸と固溶強化のために添加するが、0.6%を超えるとAr3点を上昇させて高温析出を助長し、析出物の粗大化を招くので、Si含有量を0.6%以下に規定する。
【0032】
Mn:0.5〜2%とする。Mnは固溶強化とAr3点低下のために添加するが、0.5%未満ではその効果が十分でなく、2%を超えると低温変態相が生成しやすくなり、フェライト以外の相が容易に生成するので、Mn含有量を0.5〜2%に規定する。
【0033】
Mo:0.02〜0.4%とする。Moは本発明において重要な元素であり、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物を形成し、強度上昇に大きく寄与する。0.02%未満では析出強化に必要な複合炭化物を得る事ができず、十分な強度が確保できない。0.4%を超えるとフェライト以外の低温変態相が容易に生成して延性が劣化し、溶接性、溶接部靭性も劣化するため、Mo含有量を0.02〜0.4%に規定する。
【0034】
Ti:0.01〜0.05%とする。TiはMoと同様に本発明において重要な元素であり、Moと複合炭化物を形成し、強度上昇に大きく寄与する。0.01%未満では、析出強化に必要な複合炭化物を得る事ができず、十分な強度が確保できない。0.05%を超えると溶接熱影響部の靭性を著しく劣化させるため、Ti含有量は0.01〜0.05%に規定する。より好ましくは、Ti含有量を0.03%以下とする。
【0035】
Nb、Vの1種又は2種を含有してもよい。Nb、VはMoとTiとを基本として含有する複合炭化物においてTiと置換可能である。
【0036】
Nb:0.01〜0.2%とする。Nbは組織の微細粒化により靭性を向上させるが、Ti及びMoと共に複合炭化物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.01%未満では複合炭化物を析出する効果がなく、0.2%を超えるとフェライト以外の低温変態相が容易に生成して延性が劣化し、溶接性、溶接部靭性も劣化するため、Nb含有量は0.01〜0.2%に規定する。
【0037】
V:0.01〜0.1%とする。VもNbと同様にTi及びMoと共に複合析出物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.01%未満では複合炭化物を析出する効果がなく、0.1%を超えるとフェライト以外の低温変態相が容易に生成して延性が劣化し、溶接性、溶接部靭性も劣化するため、V含有量は0.01〜0.1%に規定する。
【0038】
また、Ti、Mo、Nb、Vの含有量が0.8≦(C/12)/(Ti/48+Mo/96+Nb/93+V/51)≦1.3を満足するように添加すると、より微細なMoとTiとを基本として含有する複合炭化物が得られるため好ましい。
【0039】
上記以外の残部は実質的にFeからなる。残部が実質的にFeからなるとは、本発明の作用効果を無くさない限り、不可避不純物をはじめ、他の微量元素を含有するものが本発明の範囲に含まれ得ることを意味する。
【0040】
次に、本発明の高強度鋼の製造方法について説明する。
【0041】
本発明の高強度鋼は上記の成分組成を有する鋼を用い、加熱温度:950℃以上、圧延仕上(終了)温度:Ar3点以上で熱間圧延を行い、熱間圧延後の加速冷却を、冷却開始温度:Ar3点以上、冷却速度:2℃/s以上、冷却終了温度:550〜700℃で行い、加速冷却終了から600s以内に、550〜700℃で30s以上保持することで、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物を分散析出させて製造できる(第一の製造方法)。また、加熱温度:950℃以上、圧延仕上(終了)温度:Ar3点以上で熱間圧延を行い、熱間圧延後の加速冷却を、冷却開始温度:Ar3点以上、冷却速度:2℃/s以上、冷却終了温度:600〜700℃で行い、加速冷却終了後に空冷することで、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物を分散析出させて製造できる(第二の製造方法)。
【0042】
以下、各製造方法について詳しく説明する。圧延工程(加熱温度、圧延仕上温度)までについては、第一の製造方法と第二の製造方法で共通である。
【0043】
加熱温度:950℃以上とする。加熱温度が950℃未満では炭化物の固溶が不十分で必要な強度が得られないので、950℃以上とする。より好ましくは、1000℃以上とする。
【0044】
圧延仕上温度:Ar3点以上とする。Ar3点未満であると、フェライト粒が圧延方向に伸展した組織となり材質均一性が劣化するだけでなく、フェライト変態速度が低下するため、フェライト単一組織を得ることが困難になるので、圧延仕上温度をAr3点以上とする。
【0045】
圧延終了後の冷却については、放冷または徐冷を行うと高温域から析出物が析出するので、析出物が容易に粗大化し強度が低下する。従って、析出強化に最適な温度まで急冷(加速冷却)を行い、高温域からの析出を防止する。冷却方法については水冷設備等、任意の冷却設備を用いることが可能である。加速冷却後、550〜700℃で一定以上の時間保持してMoとTiとを基本として含有する複合炭化物を析出させる。
【0046】
第一の製造方法の冷却方法を説明する。
【0047】
加速冷却を、冷却開始温度:Ar3点以上、冷却速度:2℃/s以上、冷却終了温度:550〜700℃で行い、加速冷却終了から600s以内に、550〜700℃で30s以上保持する。Ar3点から700℃の温度域での冷却速度が2℃/s未満であると、炭化物が析出して粗大化するため、この範囲を2℃/s以上で冷却する必要がある。より好ましくは5℃/s以上とする。しかし550℃未満まで冷却すると、ベイナイトまたはマルテンサイト変態が進行するため、冷却終了温度は550〜700℃とする。加速冷却後に550〜700℃で30s以上保持する。この温度範囲に保持するために適宜加熱、冷却等の手段を用いる事ができる。30s以上保持することにより、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物が分散析出したフェライト単一組織を得ることができる。550℃未満ではベイナイトが生成し、700℃を超えると析出物が粗大化して十分な強度が得られないため、保持温度を550〜700℃とする。550〜700℃で保持できれば、この温度範囲内で昇温または降温することは差し支えなく、必ずしも一定温度で保持する必要はない。また、保持時間が30s未満ではフェライト変態が完了せず、その後の冷却でベイナイトまたはパーライトを生成するため、保持時間は30s以上とする。なお、550〜700℃での保持によってフェライト変態が完了していれば、その後の冷却速度は任意の速度で構わない。ただし、加速冷却終了後、空冷により温度が低下して550℃未満の状態が600sを超えて継続すると、ベイナイト変態が進行するので、加速冷却終了から600s以内に、550〜700℃で30s以上保持する必要がある。高温保持のためには雰囲気加熱、誘導加熱等の任意の設備を用いれば良い。
【0048】
次に第二の製造方法の冷却方法を説明する。
【0049】
加速冷却を、冷却開始温度:Ar3点以上、冷却速度:2℃/s以上、冷却終了温度:600〜700℃で行い、次いで空冷する。Ar3点から700℃の温度域での冷却速度が2℃/s未満であると、炭化物が析出して粗大化するため、この範囲を2℃/s以上で冷却する必要がある。より好ましくは5℃/s以上とする。従って冷却終了温度は700℃以下とする。上記のように、加速冷却終了後、550〜700℃で一定以上の時間保持することで炭化物を微細に析出させる必要があり、第二の製造方法では空冷することにより炭化物を析出させる。600℃以上から空冷するのであれば、550〜700℃での保持時間が十分確保できるので、冷却終了温度は600℃以上とする。従って、冷却終了温度を600〜700℃として、その後空冷することで、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物を析出させて、本発明の高強度鋼を得る事ができる。
【0050】
上記の成分組成の鋼を用いて、上記の製造方法で製造された本発明の鋼は、フェライト相主体の組織であるので加工性が良く、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物がフェライト組織中に分散析出しているので高強度を有する。しかも実質的にフェライト単相であるので、材質均一性に優れており、条切り後の歪も少ない。さらに、Tiの含有量が少ないので、溶接部靭性が劣ることなく、溶接構造用鋼材として、厚鋼板、条鋼、パイプ当に用いることができる。
【0051】
【実施例】
表1に本実施例で用いた供試鋼(鋼種A〜J)の成分を示す(表1に表示しない残部は実質的にFeおよび不可避不純物よりなる)。これらの化学成分を有する鋳片を加熱後、圧延、冷却して、板厚12〜60mmの鋼板(鋼番1〜23)を製造した。表2に各鋼板の製造条件を示す。鋼番1〜13については、加速冷却後は空冷して製造した。鋼番14〜23については、加速冷却後に、550〜700℃の温度範囲に再加熱し、この温度域である程度の時間保持した後、冷却して製造した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
製造した各鋼板のミクロ組織を観察し、特性として、強度と加工性、母材の靭性、溶接部の靭性、材質均一性、条切り後の歪を測定した。これらの結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
ミクロ組織は、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、フェライト面積分率と析出物の個数を測定した。析出物の個数測定は、試料の0.5×0.5μmの領域4箇所について行った。また、析出物の組成はエネルギー分散型X線分光法(EDX)により分析した。
【0057】
強度と加工性の評価は、JIS14A号比例試験片を用いた引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強度(TS)で強度を評価するとともに、全伸びを測定することにより加工性の評価とした。強度は490MPa(50キロ級)以上必要であるものとし、TS490MPa以上を合格とした。全伸びは25%超を加工性良好とした。
【0058】
母材の靭性は、JIS4号試験片を用いたシャルピー衝撃試験により遷移温度(vTrs)を測定することで評価した。0℃以下であれば良好と判断した。
【0059】
溶接部の靭性は、通電加熱実験装置により入熱15kJ/cmの溶接を模擬した熱履歴を与えたサンプルよりJIS4号シャルピー衝撃試験片を採取し、遷移温度(vTrs)を測定することにより評価した。従来鋼並の0℃以下であれば良好と判断した。
【0060】
材質均一性は、板厚方向の硬度差と、鋼板面内の圧延方向と圧延直角方向の音響異方性を測定することにより評価した。板厚方向硬度差は、荷重98Nのビッカース硬さ試験により板厚方向硬度分布を測定し、鋼板表面近傍の硬化部と板厚中央部の最も硬度の低い部分の差(△HV)を求めた。音響異方性は鋼板面内の圧延方向と圧延直角方向の音速を測定し、超音波探傷に支障が出ない程度の音速差の場合を音響異方性小として○で示し、超音波探傷で支障が出る程度の音速差が生じた場合を音響異方性大として×で示した。板厚方向の硬度差が15未満であり、音響異方性が小である場合を材質均一性に優れているとして評価した。
【0061】
条切り歪は、ガス切断後に、長さ15mあたりの歪発生量を測定し、5mm以下を加工上問題ないレベルと判断した。
【0062】
表1における鋼種A〜Eは化学成分が本発明範囲内であり、鋼種FはC量が本発明範囲外、鋼種GとHはTi量が本発明範囲外、鋼種IはMoとTiの量が本発明範囲外、鋼種JはMo量が本発明範囲外の比較例である。
【0063】
表2、3において鋼番1〜5、14〜18はフェライト面積分率が90%以上であり、粒径10nm未満の、MoとTiとを基本として含有する複合炭化物である、TiとMoとを含む微細な複合炭化物や、TiとMoとNbおよび/またはVとを含む微細な複合炭化物が析出していた。TiNを除いた全析出物の個数のうち、粒径10nm未満の析出物の個数の割合は95%以上で、本発明範囲内であった。強度はTSが490MPa以上であり、かつ全伸びは強度の依存性はあるものの25%超であった。衝撃特性は、母材についてはvTrs-40℃以下、溶接部においてもvTrs0℃以下と良好であった。材質均一性については、板厚方向硬度差が15未満であり、また鋼板面内の音響異方性も超音波探傷に支障がない良好なレベルであった。条切り歪についても、長さ15mあたりの歪発生量が5mm以下と加工上問題のないレベルであった。従って本発明例である鋼板は、強度および加工性と、材質均一性、母材靭性、溶接部靭性、条切り歪レベルが共に良好であることが分かった。
【0064】
一方、鋼番6は加熱温度が低く、鋳造時にできた粗大な炭化物の溶け残りがあり、微細析出物の個数の割合が低く炭化物の析出強化が十分でないため、強度が低い。鋼番7は圧延仕上温度がAr3よりも低く、それにともない冷却開始温度もAr3を下回っており、Ar3以下の冷却開始までの温度域で粗大な炭化物が析出してしまい微細析出物の個数の割合が低く、同じ鋼種Bを用いた鋼番2に比べて強度が著しく低い。また、Ar3未満のフェライトとオーステナイトの2相域で圧延が行われたことにより、音響異方性も大きく、条切り後の歪発生量も大きい。鋼番8は冷却停止温度が700℃よりも高く、700℃までの空冷中に炭化物の粗大化が起こったために微細析出物の個数の割合が低く、同じ鋼種Cを用いた鋼番3に比べて強度が著しく低く、また全伸びも低い。さらに、微細な炭化物が板厚方向に均一に分散しなかったために、板厚方向硬度差も生じており、条切り後の歪発生量も大きい。鋼番9は冷却停止温度が低く、ベイナイト変態が起こったため、フェライト面積分率が低く、微細析出物の個数の割合が減少し、全伸びが劣り、同じ鋼種Dを用いた鋼番4に比べて強度が低い。さらに、板厚表面が板厚中央部に比べて冷却速度が速く、表面部の方がベイナイト変態による強化が大きいため、板厚方向硬度差が大きく、条切り後の歪発生量も大きい。鋼番10は冷却速度が遅く、冷却中に炭化物が粗大化して微細析出物の個数の割合が減少すると同時にパーライトが生成したので、同じ鋼種Eを用いた鋼番5に比べて強度が著しく低く、全伸びも低い。また、鋼板表面は板厚中央部に比べて冷却速度が速く、析出物の粗大化が抑制されたために強度が高く、板厚方向硬度差が大きい。さらに、条切り後の歪発生量も大きい。鋼番11は過剰のCを含有した鋼種Fを用いたため、パーライトおよびベイナイトの生成を生じてしまい、全伸びが低い。また、表面のベイナイトの強化度が大きいため、板厚方向に硬度差を生じており、条切り後の歪発生量も大きい。さらに、高C含有のため、溶接部の靭性が劣化している。鋼番12はTiが過剰な鋼種Hの使用により、硬化相が生成しフェライト面積分率が低下したために、伸びが低い。また、硬化相の面積分率が表面近傍で高いために、板厚方向硬度差が生じており、条切り後の歪発生量も大きい。さらに、過剰のTi含有は溶接部の靭性を劣化させている。鋼番13は低Mo、高Tiの鋼種Iを使用したため、析出物は微細にはならず、硬化相が生成しているため、全伸びが低く、板厚方向硬度差も大きく、条切り後の歪発生量も大きい。また、高Ti含有により、溶接部の靭性が著しく劣化している。鋼番19は冷却停止温度が低く、ベイナイト変態が起こってしまい微細析出物の個数の割合が少ないために同じ鋼種Bを用いた鋼番15よりも強度が低い。また、板厚硬度差が大きく、条切り後の歪発生量も大きい。鋼番20は冷却停止後に550℃以上に加熱するまでの時間が長く、ベイナイト変態が進行したために、同じ鋼種Cを用いた鋼番16に比べて強度が著しく低く全伸びも低い。また、板厚方向硬度差も大きく、条切り後の歪発生量も大きい。鋼番21は冷却後550℃以上に保持する時間が短く、十分な析出が起こらずベイナイト変態の進行が再開されたため、同じ鋼種Dを用いた鋼番17に比べて強度が低く全伸びも低い。また、板厚方向硬度差も大きく、条切り後の歪発生量も大きい。鋼番22はTi無添加の鋼種Gを用いているため、微細析出物が析出せず、強度が低く、また板厚方向硬度差も大きく、条切り後の歪発生量も大きい。鋼番23はMoが過剰に添加されている鋼種Jを用いたために、ベイナイト相が生成しており、伸びが著しく低く、板厚方向硬度差も大きく、条切り後の歪発生量も大きい。
【0065】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、加工性と材質均一性が共に良好であり、溶接部の靭性も良好である高強度鋼が得られる。このため曲げ加工やプレス加工等において、従来できなかった加工度の大きい加工が可能な鋼材を提供できる。また、設計、施行時に従来にない精度向上を可能にする材質が均一な鋼材を提供できる。さらに、条切後の条切り歪の少ない高強度厚鋼板が得られる。このため造船用、建材用の条切材において問題となっていた条切後の条切り歪の少ない鋼材を提供できる。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2%、Mo:0.02〜0.4%、Ti:0.01〜 0.05%以下を含有し、残部が Fe および不可避不純物からなり、金属組織がフェライト相であり、MoとTiとを含む粒径10nm未満の炭化物が分散析出し、前記炭化物の個数がTiNを除いた全析出物の個数の80%以上であることを特徴とする、加工性および材質均一性に優れた高強度鋼。
- 質量%で、C:0.02〜0.1%、Si:0.6%以下、Mn:0.5〜2%、Mo:0.02〜0.4%、Ti:0.01〜0.05%を含有し、Nb:0.01〜0.2%および/またはV:0.01〜0.1%を含有し、残部が Fe および不可避不純物からなり、金属組織がフェライト相であり、Moと、Tiと、Nbおよび/またはVと、を含む粒径10nm未満の炭化物が分散析出し、前記炭化物の個数がTiNを除いた全析出物の個数の80%以上であることを特徴とする、加工性および材質均一性に優れた高強度鋼。
- 鋼を加熱温度:950℃以上、圧延仕上温度:Ar3点以上で熱間圧延し、熱間圧延後の冷却を、冷却開始温度:Ar3点以上、冷却終了温度:550〜700℃、冷却速度2℃/s以上で加速冷却し、前記加速冷却終了後600s以内に、550〜700℃で30s以上保持し、その後空冷することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の加工性および材質均一性に優れた高強度鋼の製造方法。
- 鋼を加熱温度:950℃以上、圧延仕上温度:Ar3点以上で熱間圧延し、熱間圧延後の冷却を、冷却開始温度:Ar3点以上、冷却終了温度:600〜700℃、冷却速度2℃/s以上で加速冷却し、その後空冷することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の加工性および材質均一性に優れた高強度鋼の製造方法。
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