JP2002266048A - 溶接性および均一伸びに優れた高張力厚鋼板 - Google Patents
溶接性および均一伸びに優れた高張力厚鋼板Info
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Abstract
性)および均一伸びに優れた590MPa級厚鋼板を提
供する。 【解決手段】 C:0.010〜0.06%(質量%の
意味、以下同じ),Ti:0.005〜0.03%,
N:0.0020〜0.010%を含有する鋼からな
り、光学顕微鏡により観察した鋼組織の90体積%以上
がベイナイトであり、X線回折法により測定した残留γ
量が少なくとも1.0体積%であると共に、引張強さが
590MPa以上780MPa未満の高張力厚鋼板であ
る。
Description
AZ靭性および耐溶接割れ性)および均一伸びに優れた
590MPa以上780MPa未満の厚鋼板(以下、単
に「590MPa級厚鋼板」と称す)に関するものであ
る。本発明の高張力厚鋼板は、特に建築構造物や鋼構造
物に好適に用いられる。
保という観点から合金成分を多量に添加するため、冷却
速度の速い小入熱溶接条件ではHAZ(溶接熱影響部)
が硬化して溶接割れ(低温割れ)が生じやすく、かかる
溶接割れの防止を目的として、溶接施工時に75℃程度
の予熱を行う必要がある。従って、この予熱工程を省略
できれば施工効率が大幅に向上し、且つコストダウンに
もつながるため、耐溶接割れ性に優れた590MPa級
鋼板の提供が切望されている。
式で定義されるPcm(%)というパラメーターが一般
に用いられている。 Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+
[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+
[Mo]/15+[V]/10+5×[B] 《式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を示す》 例えば、特開平10−68045号公報に、このPcm
を0.20以下に制限することで耐溶接割れ性を改善す
ることが開示されている。
大入熱溶接時にHAZ靭性が劣化する問題がある。これ
は、入熱が大きくなるとHAZ部の冷却速度が遅くな
り、それに伴いHAZ部の焼入れ性が低下し、粗大な島
状マルテンサイトを生成することに基づく。この問題は
厚板、薄板いずれにおいても発生し、実際の溶接施工時
に入熱制限が行われ、溶接効率が悪かった。
ては、上記特開平10−68045号公報の他、特開平
10−121191号公報において、下式で表される炭
素当量(Ceq)を0.35〜0.40と低く制限する
ことが開示されている。 Ceq=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[N
i]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/1
4 《式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を示す》。
ることにより小入熱溶接時の耐溶接割れ性を改善した
り、あるいはCeqを制御することにより大入熱HAZ
靭性を改善すると共に、合金成分の含有量制限に伴う母
材強度低下を、製造プロセスを改良するなどして補って
いた。これにより、590MPa級鋼板において、母材
製造時の焼入れにおける冷却速度が比較的速い薄板では
溶接時の予熱フリーを達成できたが、冷却速度が遅い厚
板では溶接時の予熱フリーと母材強度の両立を達成する
ことが困難であった。また、Cuの析出を利用して母材
強度を確保する方法も開示されているが、冷却速度が遅
い厚板では充分な母材強度が得られなかった。
は高温に加熱された後の冷却速度が速いため、硬化して
溶接割れ(低温割れ)を起こしやすい。一方、母材は板
厚が厚くなるほど冷却速度が遅くなるため、圧延後の焼
入れ効果による強度確保が難しくなる。従って、590
MPa級厚鋼板では、小入熱溶接時の溶接割れを防止す
るため冷却速度が速くなっても硬くならないようにした
上で、鋼板製造時の冷却速度が遅く、焼入れ効果が得難
い場合であっても如何に強度を確保するかが重要課題と
なる。
大入熱溶接においては、HAZ部の冷却速度が遅くな
り、それに伴いHAZ部の焼入れ性が低下し、粗大な島
状マルテンサイト組織を生成して靭性が低下するが、こ
のHAZ靭性を改善するには、冷却速度が遅い場合であ
っても島状マルテンサイト組織の生成を如何なる方法で
抑制するかが重要課題となる。
は、耐震性の観点から、高い均一伸びを有することが求
められるが、一般に引張強度が大きいほど均一伸びが低
下するといった傾向があり、高強度を維持しつつ均一伸
びを向上させる技術が要求されている。
術としては、例えば、特開平9−3594号公報に、鋼
板をフェライト+第二相型の複合組織とし、均一伸びを
確保すべくフェライト分率を特定の範囲とした上で、引
張強度を向上させるべく、第二相を硬質化することが提
案されている。しかしながら、この技術を590MPa
級厚鋼板に適用する場合には、C含有量を高くする必要
があり、その結果、耐溶接割れ性が低下する傾向にあっ
た。
は、熱間圧延後の冷却速度を最適化することで鋼板の均
一伸びを向上させる技術が開示されているが、この技術
を590MPa級厚鋼板に適用しても、耐溶接割れ性と
均一伸びの両者を高いレベルで改善できるものではな
い。
を生成させ、その応力誘起変態を利用して均一伸びの向
上を図ることが行われている。しかしながら、鋼中に残
留γを安定に生成させるためには、溶接性低下の原因と
なるCやAl,Siを多量に含有させる必要があり、高
いレベルでの溶接性が要求される厚鋼板に適用すること
は困難であった。
着目してなされたものであり、その目的は、溶接性(大
入熱HAZ靭性および耐溶接割れ性)および均一伸びに
優れた590MPa級厚鋼板を提供することにある。
発明の溶接性および均一伸びに優れた高張力厚鋼板と
は、C:0.010〜0.06%(質量%の意味、以下
同じ),Ti:0.005〜0.03%,N:0.00
20〜0.010%を含有する鋼からなり、光学顕微鏡
により観察した鋼組織の90体積%以上がベイナイトで
あり、X線回折法により測定した残留γ量が少なくとも
1.0体積%であると共に、引張強さが590MPa以
上780MPa未満であるところに要旨を有するもので
ある。
n:1.0〜3.0%,Cr:0.1〜2.0%,M
o:1.5%以下(0%を含む)を含有し、且つ下式
(1)で表されるKP値が2.4以上5.5以下である
ことが好ましい。 KP=[Mn]+1.5×[Cr]+2×[Mo] ・・・ (1) 《式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味す
る》。
以下および/またはAl:0.2%以下を含有するも
の;さらにNi:6%以下および/またはCu:2.0
%以下を含有するもの;さらにV:0.10%以下、N
b:0.10%以下、B:0.0080%以下よりなる
群から選択される少なくとも一種を含有するもの;さら
にZr:0.10%以下を含有するもの;さらにCa:
0.0050%以下および/またはREM(希土類金
属):0.05%以下を含有するもの;さらにP:0.
020%以下およびS:0.010%以下に夫々抑えら
れているものは、本発明の目的を達成する上で好ましい
態様である。
は、典型的には上記元素の他は残部Feおよび不可避不
純物からなるが、その他の化学成分についても、本発明
の効果を阻害しない範囲内で含有されていてもよい。
上記のようなPcmの制御によって耐溶接割れ性の改善
と母材強度の確保を両立することができたが、590M
Pa級鋼板ではPcmによる成分制御を行ったとして
も、特に厚板において両特性の満足を図ることは困難で
あった。
イトを生成させると島状マルテンサイトが生成し、鋼の
HAZ靭性が劣化するため、490MPa級鋼板では、
HAZにおいてフェライトを積極的に生成させるべく、
Ceqを制御して大入熱HAZ靭性の改善が試みられて
きたが、これは高強度の厚鋼板に適用できるものではな
く、590MPa級鋼板での大入熱HAZ靭性の改善と
厚肉化の両立を図ることも困難であった。
は、従来から薄鋼板で行われているように、鋼板中に残
留γを生成させ、その応力誘起変態を利用することが有
効である。しかし、残留γを安定に生成させつつ高強度
化を図るには、C,Al,Siといった元素を多量に添
加する必要があり、これがこの技術の厚鋼板への適用を
困難にしていた。こうした元素の多量添加は、上記のよ
うな鋼板の溶接性低下を引き起こすため、溶接性があま
り問題にされない薄鋼板では、この手段によって高強度
化と均一伸びの改善の両者を同時に達成することが可能
であったが、溶接性が極めて重要な厚鋼板においては、
むしろこれらの元素の添加を抑制することが好ましく、
溶接性を損なわずに高強度とした上で、残留γを生成さ
せることは極めて困難なのである。
異なり、C量を極力低減化し、さらに組織の微細化に寄
与する元素の量を適切に制御することで良好な溶接性を
確保すると共に、鋼組織をベイナイト主体として高い母
材強度を確保しつつ、鋼中に残留γを生成させることで
均一伸びを改善し得ることを見出し、本発明を完成する
に至ったのである。
通り、良好な溶接性を確保するために、母材強度の向上
に寄与するCの含有量を極力低減化する。よって、高い
母材強度を確保するために鋼組織をベイナイト主体とす
るのである。具体的には、光学顕微鏡により観察した鋼
組織中のベイナイトの量が90体積%以上、好ましくは
95体積%以上、さらに好ましくは98体積%以上でな
ければならない。
γを光学顕微鏡で識別することは困難であるため、ここ
でいう「ベイナイト量」は、残留γを含めた量である。
従って、本発明で規定するベイナイト量と、後述する残
留γ量を足した値が100%を超える場合もあり得る。
また、鋼組織の他の成分としては、フェライトやマルテ
ンサイトなどがある。
鋼中に残留γを生成させ、この応力誘起変態を利用する
ことによって均一伸びの向上を図る。応力誘起変態によ
る均一伸びの向上効果を十分に確保するためには、X線
回折法により測定した残留γ量が少なくとも1.0体積
%以上、好ましくは1.5体積%以上、さらに好ましく
は2.0体積%以上でなければならない。
成するものであり、ベイナイト量の測定の際に用いる光
学顕微鏡では識別できない。しかしながら、残留γは結
晶構造が面心立方構造であり、他方、ベイナイトやフェ
ライトなどは体心立方構造であることから、X線回折法
によって残留γ量を測定することが可能である。また、
残留γ量の上限については、多ければ多いほど好ましい
が、後述するようにC量を0.06%以下と制限してい
るため、10体積%程度が上限であると推定される。
厚鋼板を対象とするものであるが、引張強さが780M
Pa以上になると均一伸びが低下する傾向があるため、
引張強さの範囲を590MPa以上780MPa未満と
規定している。
する。
度を両立させ、且つ大入熱HAZ靭性を改善し、さらに
残留γを生成させるために重要な元素である。Cが0.
06%を超えると高冷却速度の際に低温ベイナイトでな
くマルテンサイトが生成するようになり、耐溶接割れ性
および大入熱HAZ靭性が改善されない。好ましくは
0.05%以下である。なお、0.010%未満では必
要最小限の母材強度が得られない。好ましくは0.02
%以上である。
AZ部のγ粒を微細化し、HAZ靭性改善に寄与する点
で有用である。ただし、Tiの含有量が夫々0.03%
を超えると逆にHAZ靭性が低下する。好ましくは0.
020%以下である。なお、0.005%未満では、大
入熱HAZ靭性改善の効果が十分でない。好ましくは
0.008%以上である。
して大入熱溶接時におけるHAZ靭性改善に寄与する点
で有用である。ただしNは、後述するBと結合して固溶
Bを減少させ、Bの焼入れ性向上作用を阻害し、母材の
靭性および大入熱HAZ靭性を低下させる作用も有して
おり、Nの含有量が0.010%を超えるとその作用が
顕著になる。好ましくは0.0080%以下である。な
お、0.0020%未満ではTiあるいはZrとの窒化
物形成による大入熱HAZ靭性改善の効果が十分でな
い。好ましくは0.0030%以上である。
は、溶接性、すなわち耐溶接割れ性および大入熱HAZ
靭性のより一層の向上を図るべく、上記の如くCを極低
Cに制限する他、以下に示す焼入れ向上元素を積極的に
添加し、大入熱HAZ靭性改善に寄与する元素の添加を
適切に制御するなどして、ベイナイトの連続冷却曲線
(図1のCCT線図を参照)が短時間側且つ低温側に移
動すると共に、フェライトのCCT線が長時間側に移動
するようにした(実線から破線へ移動)。
サイト、低冷却速度ではフェライトまたは高温ベイナイ
トを生成するために、硬さの冷却速度感受性が大きく、
小入熱溶接時のHAZ部の硬さ低減(耐溶接割れ性の改
善)と母材強度の確保が両立できず、予熱フリーの達成
が困難であったが、本発明によれば、高冷却速度、低冷
却速度のいずれにおいても低温ベイナイトを生成し、硬
さの冷却速度感受性が低下し、溶接時のHAZ部の硬さ
低減(耐溶接割れ性の改善)と母材強度確保を両立なら
しめることができる。
度が遅くなるため、従来はフェライトまたは高温ベイナ
イトを生成し、それに伴い粗大且つ塊状の島状マルテン
サイト組織が生成してHAZ靭性が劣化していたが、本
発明では、冷却速度が遅くても低温ベイナイトが生成す
るため塊状ではなくフィルム状のマルテンサイト組織に
なると同時に、極低Cであるため生成するマルテンサイ
ト組織が微細となり、HAZ靭性を確保できる。
Z靭性の向上に対するアプローチについては既に出願を
済ませている(特願平10−336268、特願平11
−356606、特願2000−153713)。これ
らの先願発明はいずれも、高張力鋼板の耐溶接割れ性と
大入熱HAZ靭性の向上を目的とするものであり、本願
発明は、これら溶接性の向上に加えて、均一伸びの向上
をも目的とする点で、これらの先願発明とは異なるもの
である。
て説明する。
速度〜低冷却速度で低温ベイナイトを生成しやすくする
と共に、上記の通り、極低Cとし、好ましくはさらに所
定のB量を添加することにより小入熱溶接時におけるH
AZ部の耐溶接割れ性と母材強度確保を両立させ、且つ
大入熱HAZ靭性を改善できる点で有用である。
1.0%以上、0.1%以上であることが好ましい。こ
れらの含有量に満たないと、厚みの大きな鋼板では、所
望の焼入れ性改善作用が発揮されず、母材強度向上効果
が十分に確保できない場合がある。より好ましくはM
n:1.2%以上、Cr:0.5%以上である。ただ
し、Mn,CrおよびMoの含有量が、夫々3.0%、
2.0%、1.5%を超えると母材の靭性が低下するた
め、その上限は夫々3.0%以下、2.0%以下、1.
5%以下であることが好ましい。より好ましくはMn:
2.5%以下、Cr:1.5%以下、Mo:1.0%以
下である。
れるKP値の範囲を制御することで、鋼の焼入れ性改善
作用により、冷却速度の遅い厚鋼板であっても、引張強
さ(母材強度)の確保がより容易となる(後述する)。
具体的には、KP値は2.4以上5.5以下であること
が好ましい。KP値が2.4未満では上記作用を有効に
発揮させることができない。より好ましくは2.6以上
である。ただし、KP値が5.5を超えると大入熱HA
Z靭性が低下する。より好ましくは5.0以下である。
る点で有用な元素であるが、1%を超えて添加すると溶
接性および母材靭性が低下するのでその上限を1%とす
ることが好ましい。より好ましくは0.5%以下であ
る。
る他、鋼中に含有するNを固定し、好ましく添加される
Bの固溶量を増加させることによりBに基づく焼入れ性
向上作用を高める元素であるが、0.2%を超えて添加
すると母材の靭性が低下するので、その上限を0.2%
とすることが好ましい。より好ましくは0.2%未満、
さらに好ましくは0.1%以下である。
て添加するとスケール疵が発生しやすくなるため、その
上限を6%とすることが好ましい。より好ましくは4%
以下である。
せると共に、焼入れ性向上作用も有する元素である。た
だし、2.0%を超えて添加すると大入熱HAZ靭性が
低下するため、その上限を2.0%とすることが好まし
い。より好ましくは1.5%以下である。
高める作用がある。ただし、0.10%を超えて添加す
ると大入熱HAZ靭性が低下するので、その上限は0.
10%とすることが好ましい。より好ましくは0.07
%以下である。
トブロックサイズが微細化されるため母材靭性の向上に
寄与する。ただし、Nbの添加量が0.10%を超える
と大入熱HAZ靭性が低下するので、その上限は0.1
0%とすることが好ましい。より好ましくは0.05%
以下である。
を生成しやすくすると共に、上記の通り、極低Cとし、
同時に適量のMn,Cr,Moを添加することにより小
入熱溶接時におけるHAZ部の耐溶接割れ性と母材強度
向上を両立させることができる点で有用である。ただ
し、Bが0.0080%を超えるとかえって焼入れ性が
低下し、母材強度が不足するので、その上限は0.00
80%とすることが好ましい。より好ましくは0.00
60%以下である。また、Bが0.0006%未満では
焼入れ性改善効果が期待できず、母材強度が向上しない
場合があるため、0.0006%以上添加することが好
ましい。より好ましくは0.0010%以上である。
時におけるHAZ部のγ粒を微細化し、HAZ靭性改善
に寄与する点で有用である。ただし、Zrの含有量が
0.10%を超えると逆にHAZ靭性が低下するため、
0.10%以下であることが好ましい。より好ましくは
0.07%以下である。
異方性を低減する効果を有する元素である。このような
作用を発揮させるためにはCa:0.0005%以上添
加することが好ましい。より好ましくは0.0010%
以上である。ただし、Ca:0.0050%、REM:
0.05%を超えて過剰に添加すると母材靭性が低下す
るのでその上限をCa:0.0050%、REM:0.
05%とすることが好ましい。より好ましくはCa:
0.0040%以下、REM:0.03%以下である。
以下 PおよびSは不純物元素である。よって夫々0.020
%以下、0.010%以下に抑えられていることが好ま
しい。
ついて説明する。本発明の高張力厚鋼板は、上記成分組
成を満足する鋼を用い、加熱、熱間圧延、および焼入れ
をすることにより得ることができる。ただし、極低C量
としているため、通常の焼入れ条件(熱間圧延後の冷却
条件)では残留γを生成することができない。本発明の
高張力厚鋼板を得るための好ましい一例を以下に示す。
なお、下記は本発明製造法の一例であり、該方法に限定
する趣旨ではない。
後、熱間圧延を行い、700℃以上で圧延を完了し、そ
の後冷却する。その際の適切な冷却速度は鋼の組成、板
厚などとも関係し、一概には決められないが、後記実施
例に示すように、圧延終了後、550℃までを平均1℃
/秒以上、好ましくは2℃/秒以上、さらに好ましくは
4℃/秒以上であって、好ましくは10℃/秒以下、さ
らに好ましくは5.5℃/秒以下で冷却し、ベイナイト
変態を終了させる。このような速度で冷却を行うことに
より、鋼中でのフェライト変態を抑制して、ベイナイト
量を上記範囲とすることができる。
2℃/秒以下、好ましくは0.6℃/秒以上1.5℃/
秒以下で冷却して残留γを生成させる。このような速度
で冷却するのは、ベイナイトのラス境界に存在するγ中
に、十分にCを濃縮させてγを安定化させ、室温で残留
するγ量を上記の範囲とするためである。すなわち、上
記冷却速度が0.5℃/秒を下回ると、γが分解してし
まう。他方、冷却速度が2℃/秒を超えると、ベイナイ
トのラス境界のγ中に十分にCが濃化せず、その後の冷
却過程でγがマルテンサイトに変態してしまい、残留γ
が得られない。その後空冷または水冷して本発明の高張
力厚鋼板が得られる。
入れ性が良好であるため、上記熱間圧延後、550℃ま
での冷却速度をより低速度側とすることが可能であり、
具体的には、1℃/秒以上であればフェライト変態を抑
制してベイナイト量を上記範囲とすることができる。
いなければならないため、こうして得られた本発明の高
張力厚鋼板を焼戻しする際には、残留γが分解しない程
度の低温で行う必要がある。
ベルの溶接性を有し、且つ所定量の残留γを含有するこ
とにより優れた均一伸びを有する590MPa級の高張
力厚鋼板を提供できる。
る。但し、下記実施例は本発明を制限するものではな
く、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施するこ
とは全て本発明の技術的範囲に包含される。
溶製法により溶製し、スラブとした後、通常の加熱、熱
間圧延を行った後、表3および4に示す条件で冷却し、
所定の板厚からなる高張力厚鋼板を製造した。
下記の要領でベイナイト量、残留γ量、母材特性[引張
強さ、均一伸び、靭性(vE-40)]を評価し、本発明
で基準とする母材レベル(590MPa≦引張強さ<7
80MPa、均一伸び≧13%、vE-40≧100J)
をクリアしたものについては、さらに溶接性(耐溶接割
れ性およびHAZ靭性)を評価した。
厚1/4部位からJIS4号試験片を採取し、引張試験
を行うことにより均一伸び、および引張強さを測定し
た。均一伸び≧13%、590MPa≦引張強さ<78
0MPaを合格とした。衝撃試験:各鋼板の板厚1/
4部位からJIS4号試験片を採取し、シャルピー衝撃
試験をおこなうことにより吸収エネルギー(vE-40)
を得た。vE-40≧100Jを合格とした。
を鏡面研磨した試験片を、2%硝酸−エタノール溶液
(ナイタール溶液)でエッチング後、該箇所について光
学顕微鏡を用いて400倍で観察した。この観察視野5
視野について、画像解析を行い、鋼組織中のベイナイト
量(分率)を測定した。この際、フェライト以外のラス
状組織はベイナイトとみなした。
0〜100μm電解研磨した試験片についてX線回折測
定を行い、α−Fe(200)面とγ−Fe(200)
面のピーク強度比から残留γ量を求めた。
mm)、あるいは40kJ/mm(板厚:50mm以
上)で溶接を行い(サブマージアーク溶接法)、図2に
示す部位からJIS4号試験片を採取してシャルピー衝
撃試験を行い、ボンド部の吸収エネルギー(vE-20)
を求めた。vE-20≧100Jを合格とした。 耐溶接割れ性:JIS Z 3158に記載のy形溶
接割れ試験法に基づいて、入熱1.7kJ/mmで被覆
アーク溶接を行い、ルート割れ防止予熱温度を測定し
た。25℃以下を合格とした。これらの結果を表3およ
び4に併記する。
ことができる。まず、表2のNo.22〜38の鋼板は
本発明の要件を満足する実施例であり、表4に示す通
り、いずれの鋼板も母材特性および溶接性に優れてい
る。
16,18の各鋼板は本発明の要件を満足しない比較例
であり、以下に示す不具合を有している。
超える例であり、耐溶接割れ性が低下した。また、N
o.4の鋼板は、C量が本発明の範囲を下回る例であ
り、所望のベイナイト量が得られず、母材強度が低下し
た。
囲を下回る例であり、大入熱HAZ靭性が低下した。ま
た、No.16の鋼板は、Ti量が本発明の範囲を超え
る例であり、大入熱HAZ靭性が低下した。
を超える例であり、大入熱HAZ靭性が低下した。
20,21、および表2のNo.39,40の各鋼板
は、化学成分またはKP値が一部本発明の好ましい範囲
を満足しない参考例である。
発明の範囲を超える例であり、大入熱HAZ靭性が低下
した。
を下回る例であり、所望のベイナイト量が得られず、母
材強度が低下した。また、No.7の鋼板は、Mn量が
本発明の範囲を超える例であり、母材靭性が低下した。
を下回る例であり、所望のベイナイト量が得られず、母
材強度が低下した。また、No.9の鋼板は、Cr量が
本発明の範囲を超える例であり、母材靭性が低下した。
n量が本発明の範囲を下回るが、厚みがNo.6に比べ
て薄い例であるNo.40の鋼板、およびNo.8の鋼
板と同様にCr量が本発明の範囲を下回るが、厚みがN
o.8に比べて薄い例であるNo.39の鋼板では、い
ずれも母材特性および溶接性に優れており、これらの含
有量が本発明の好ましい範囲を満たさなくても、鋼板の
厚みによっては良好な特性のものが得られることが分か
る。
囲を超える例であり、母材靭性が低下した。
るNo.11〜13の各鋼板では、大入熱HAZ靭性が
低下した。
超えるNo.17,20,21の各鋼板では、母材靭性
が低下した。
鋼板では、所望のベイナイト量が得られず、母材強度が
低下した。
o.1の鋼板では、製造条件によっては、所望のベイナ
イト量が得られず母材強度が低下したり、残留γ量が少
なく、均一伸びが低いものが得られた。
発明の要件を満足する実施例である。この鋼板でも、N
o.1の鋼板と同様、製造条件によっては、所望のベイ
ナイト量が得られず母材強度が低下したり、残留γ量が
少なく、均一伸びが低いものが得られるものの、KP値
も本発明の範囲を満足するため、No.1よりも広い製
造条件で、母材強度、均一伸びおよび溶接性の各特性を
兼ね備えたものが得られた。
本発明の範囲を満足するものであるが、製造条件によっ
ては母材強度が本発明の範囲を超えてしまい、均一伸び
が低下した。
溶接性を高いレベルで改善しつつ、残留γを生成させる
ことにより、均一伸びに優れた590MPa以上780
MPa未満の高張力厚鋼板を提供することができた。本
発明の高張力厚鋼板は、建築用途の中でも、特に高いレ
ベルの溶接性と均一伸びが要求される橋梁用途などにも
適用可能である。
式的なCCT線図である。
採取位置を示す概略説明図である。
Claims (8)
- 【請求項1】C :0.010〜0.06%(質量%の
意味、以下同じ),Ti:0.005〜0.03%,N
:0.0020〜0.010%を含有する鋼からな
り、光学顕微鏡により観察した鋼組織の90体積%以上
がベイナイトであり、X線回折法により測定した残留γ
量が少なくとも1.0体積%であると共に、引張強さが
590MPa以上780MPa未満であることを特徴と
する溶接性および均一伸びに優れた高張力厚鋼板。 - 【請求項2】Mn:1.0〜3.0%,Cr:0.1〜
2.0%,Mo:1.5%以下(0%を含む)を含有
し、且つ 2.4≦KP≦5.5 を満足するものである請求項1に記載の高張力厚鋼板。
ただし、 KP=[Mn]+1.5×[Cr]+2×[Mo] 《式中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を意味す
る》。 - 【請求項3】 Si:1%以下および/またはAl:
0.2%以下を含有するものである請求項1または2に
記載の高張力厚鋼板。 - 【請求項4】 Ni:6%以下および/またはCu:
2.0%以下を含有するものである請求項1〜3のいず
れかに記載の高張力厚鋼板。 - 【請求項5】 V:0.10%以下、Nb:0.10%
以下、B:0.0080%以下よりなる群から選択され
る少なくとも一種を含有するものである請求項1〜4の
いずれかに記載の高張力厚鋼板。 - 【請求項6】 Zr:0.10%以下を含有するもので
ある請求項1〜5のいずれかに記載の高張力厚鋼板。 - 【請求項7】 Ca:0.0050%以下および/また
はREM:0.05%以下を含有するものである請求項
1〜6のいずれかに記載の高張力厚鋼板。 - 【請求項8】 P:0.020%以下およびS:0.0
10%以下に夫々抑えられている請求項1〜7のいずれ
かに記載の高張力厚鋼板。
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