JP4241086B2 - 酸素インジケーター - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は食品や医薬品の窒素または炭酸ガス置換包装や脱酸素包装において、ガス置換状態や脱酸素状態の保持を検知するための酸素インジケーターおよび酸素インジケータ付き包装体に関する。
【０００２】
【従来の技術】
食品や医薬品の酸素による劣化を防止する目的で、窒素または炭酸ガス置換包装や脱酸素包装が利用されている。これには、ガスバリアー性の包装材料で食品や医薬品等の内容物を密封包装する際に、包装内に窒素ガスや炭酸ガスを吹き込みながら密封シールすることで包装内のヘッドスペースガスを窒素や炭酸ガスに置換する方法や、包装内に酸素吸収剤を内容物と一緒に封入することで脱酸素状態にする方法等がとられる。
【０００３】
このような包装においては、内容物が包装されてから開封されるまでの間、ガス置換状態や脱酸素状態が保持される必要があるが、ガス置換が不十分であったり、脱酸素剤の能力が低下していたり、包装材料のバリアー性が低下していたり、ピンホールが発生したり、密封シールが不完全であったり等様々な要因によって、ガス置換状態や脱酸素状態が保持されない可能性がある。しかもこのように包装内のガス状態が変化したとしても、外観的にそれを察知できない場合が多い。
【０００４】
そこで、ガス置換状態や脱酸素状態が保持されていることを視覚的に認識できるようにするために、酸素の有り無しで変色するすなわち酸素検知機能を有する酸素インジケーターが利用されている。従来より利用されている酸素インジケーターは錠剤タイプのものがほとんどで、内容物と一緒に包装内に錠剤タイプの酸素インジケーターを投入して利用していた。
【０００５】
しかし、このような錠剤タイプのインジケーターを利用する場合、食品や医薬品を充填包装するメーカーにおいては包装材料の他に別途インジケーターを用意して充填するという手間がかかることになり、また消費者においてはインジケーターを誤飲、誤食する恐れがあるなどの問題があった。
【０００６】
そのため、出願人および発明者らは包装材に酸素インジケータが一体となって設けらるように、酸素検知機能を有するインキ（酸素インジケーターインキ）及び当該インキが印刷されている包装体を鋭意研究開発してきた（例えば、特許文献１参照）。
【０００７】
ところが、印刷タイプの酸素インジケーターにおいては、錠剤タイプの酸素インジケーターに比べて変色に要する時間が長くなるという問題がでてきた。
【０００８】
印刷されたインキは、乾燥によりインキ中の溶媒成分が揮発し、樹脂成分が硬化して塗膜を形成する。酸素インジケーターインキでは、硬化した樹脂被膜中に酸素を検知して変色する色素等の成分が分散して存在することになり、インキが十分に変色するには酸素が樹脂被膜中に十分溶解拡散する必要があり、その分の時間を要することになる。
【０００９】
一方、血液中の酸素輸送成分であるヘモグロビンの酸素結合席であるヘムは鉄ポルフィリンの一種であり、鉄ポルフィリン及びその中心金属をコバルトに置き換えたコバルトポルフィリン、さらにはそれらの錯体は、ポルフィリンが特定の枠組み構造をもっていると、酸素分子を迅速にかつ可逆的に結合する能力を有する。膜中にこの鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含有させると、膜表面から積極的に取り込んだ酸素分子を次々に受け渡し、他方の膜表面まで迅速に運ぶすなわち酸素の促進輸送が可能となる。（例えば非特許文献１及び非特許文献２参照）
【００１０】
【特許文献１】
特開昭５３−３９８６６公報
【非特許文献１】
西出宏之著，“人工血液”，「化学と教育」，日本化学会，２０００年，第４８巻，２号，ｐ１１６−１１９
【非特許文献２】
篠原浩美、西出宏之、土田英俊著，“高分子イミダゾール-コバルトテトラフェニルポルフィリン錯体の低温における酸素結合反応”，「ポルフィリン」，ポルフィリン研究会，２０００年、第９巻、２号、ｐ６５−７１
【００１１】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明においては、鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンまたはそれらの錯体を含む被膜の酸素促進輸送能力を活かして、変色速度を向上させた印刷タイプの酸素インジケーターを提供することを目的とする。
【００１２】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成とした。
本発明による酸素インジケーターは、
酸素検知機能を有するインキを基材上に印刷して成る酸素インジケーターにおいて、酸素検知機能を有するインキ塗膜が、金属ポルフィリンまたはそれらの錯体を含む印刷被膜で覆われており、印刷被膜は、酸素検知機能を有するインキ塗膜に合わせてその部分だけに設けられていることを特徴とする。
【００１３】
金属ポルフィリンを構成する金属は、鉄イオンまたはコバルトイオンであることが好ましい。
【００１４】
鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含む被膜は、これらの金属ポルフィリンに配位子を有する高分子を配位結合させてなる高分子錯体からなることが好ましい。
【００１５】
また、配位子を有する高分子は、ビニルイミダゾール類とメタクリレートとの共重合体であることが好ましい。
【００１６】
また、基材上に印刷された酸素検知機能を有するインキ塗膜とそれを被覆している金属ポルフィリンまたはそれらの錯体を含む被膜の上に、熱融着性の樹脂層が積層されていても良い。
【００１７】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面をもとに具体的に説明する。
本発明における酸素インジケーターは、基材１の上に、酸素検知機能を有するインキ塗膜２を印刷し、その上に金属ポルフィリン、特に鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンあるいはこれらの高分子錯体を含む被膜３を印刷したものである。
【００１８】
印刷の方法としては、一般的な多色刷りのグラビア印刷機等を用いて、基材上に一定の絵柄で酸素インジケーターインキを印刷し、その上に上記金属ポルフィリンあるいはこれらの高分子錯体を含む溶液を、インジケーター印刷部を完全に覆うように印刷すれば良い。金属ポルフィリンあるいはこれらの高分子錯体を含む溶液は、コスト等を考えて基材のインジケーターインキに合わせてその部分だけに印刷されている。
【００１９】
金属ポルフィリンとしては、最も一般的な合成ポルフィリンであるテトラフェニルポルフィリンからなるものが入手のしやすさやコストの点から好ましい。あるいは、安定的な酸素結合能力を維持するため特定の修飾構造を有するピケットフェンスポルフィリンからなるものを用いても良い。ピケットフェンスポルフィリンは、ピバルアミドフェニル基4本がポルフィリン面上に立って嵩高いキャビティーを構成しており、このキャビティーにより、中心金属の鉄またはコバルトに結合した酸素分子は保護されるため、安定的な酸素結合能力を維持できる。
【００２０】
本発明で好適に用いられる鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含む高分子錯体は、鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンの配位子として適する芳香族アミンの中で特に好ましいイミダゾールを用いて、例えばビニル基を有する１-ビニルイミダゾールとメタクリレートを共重合させたビニルイミダゾール−メタクリレート共重合体を鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンに配位結合させたものを用いた。
【００２１】
この鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンの高分子錯体をトルエン等の有機溶媒に溶解させ、これを基材上にコーティングして溶媒を揮発させることで、鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含む被膜が形成される。この被膜は、鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンの迅速な酸素結合・脱着能力により、酸素の選択的促進輸送能力を持つ。よってこれを酸素検知機能を有するインキの上に覆うことで、インキ層への酸素の供給を促進することができる。このため、従来のように酸素検知機能を有するインキが大気に接する状態の場合に比べ、酸素検知機能を有するインキが極めて高い濃度の酸素と接触する状態となるため、酸素検知機能を有するインキの変色速度が、従来と同じインキを用いた場合であっても格段に向上するものと考えられる。
【００２２】
酸素検知機能を有するインキは従来用いられているものが任意に採用できるが、酸化還元色素と還元剤およびバインダー樹脂を主成分とし、溶媒としては、色素および還元剤の溶解性から水およびアルコールの混合系が適する。このような構成にすることで、インキを印刷した後、溶媒が揮発してバインダー樹脂による塗膜が形成され、塗膜中に酸化還元色素と還元剤および多少の水分が分散した状態になる。よって、酸素の存在下では色素が酸化色を示し、無酸素下では還元剤の働きで色素が還元色を示すことになり、酸素の検知が可能となる。
【００２３】
特に本発明では検知機能を有するインキが鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含む被膜により覆われるので、検知機能を有するインキの被膜自体には、耐摩擦性や堅牢性などがあまり要求されない。従って、本発明の構成では、インキ自体の選択の自由度が従来の構成に比べて高まるというメリットがある。
【００２４】
酸化還元色素としては、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、ニュートラルレッド、インジゴカルミン、サフラニンＴ、フェノサフラニン、カプリブルー、ナイルブルー、ジフェニルアミン、キシレンシアノール、ニトロジフェニルアミン、フェロイン、Ｎ−フェニルアントラニル酸等が使用できるが、特にメチレンブルーが好適である。還元剤としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸やその塩、アスコルビン酸塩、Ｄ−アラビノース、Ｄ−エリスロース、Ｄ−ガラクトース、Ｄ−キシロース、Ｄ−グルコース、Ｄ−マンノース、Ｄ−フラクトース、Ｄ−ラクトースなどの還元糖、第一スズ塩、第一鉄塩等の金属塩等が使用できる。
【００２５】
バインダー樹脂は、各インキ成分を基材上に固着するために用いられ、親水基と疎水基を合わせ持つ樹脂が好ましい。具体的にはポリビニルアセタール樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、親水基を導入したポリエステル樹脂等があげられるが、特にポリビニルアセタール樹脂が好ましい。
【００２６】
本発明の酸素インジケーターは、これと一体となった包装体を提供することができる。このため、この酸素検知機能を有するインキ塗膜と鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリン、あるいはこれらの高分子錯体を含む被膜からなる酸素インジケーター（以下本発明による酸素インジケーターという）を印刷する基材１としては、包装材料として用いられる透明性のフィルム材料であれば特に限定されないが、一般的には、ポリエチレンテレフタレートフィルム、延伸ポリプロピレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム等が適当である。また、セラミック蒸着フィルムに代表される透明バリアーフィルムに直接印刷されても良い。当然、酸素インジケーターを必要とする包装においては、包装内が脱酸素状態や窒素置換状態に保たれる必要があるから、酸素バリアー性の高くないフィルムに印刷した場合は、透明バリアーフィルム６と積層して酸素バリアー性持たせる必要がある。
【００２７】
さらに、酸素インジケーターが印刷されたフィルムを袋にしたり容器にしたりして包装体として用いるためには、フィルムがヒートシール性を持つ必要があり、よって基材フィルム１上に印刷された本発明によるインジケーターの上にヒートシール層５すなわち熱融着性の樹脂層が形成されている必要がある。
【００２８】
【実施例】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
・透明バリアーフィルム
セラミック蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム１２μｍ
・印刷用基材
ポリエチレンテレフタレートフィルム１２μ
・酸素インジケーターインキ
メチレンブルー・・・・・・・・・・・・・・１．０部
アスコルビン酸・・・・・・・・・・・・・・２．５部
ポリビニルアセタール樹脂・・・・・・・・・１０部
ｎ−プロパノール・・・・・・・・・・・・・３６．３部
水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・５０ 部
【００２９】
＜実施例１＞
印刷基材の上に、上記酸素インジケーターインキおよびコバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液を、多色刷りのグラビア印刷機を用いて印刷した。1色目すなわち基材側に酸素インジケーターインキを直径１ｃｍの円形状パターン柄で印刷し、その上に直径１．５ｃｍの円形状パターン柄でインジケーターインキを覆うようにコバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液を印刷した。コバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液は、コバルトテトラフェニルポルフィリンにビニルイミダゾール−オクチルメタクリレート共重合体を配位させてなる、コバルトポルフィリン高分子錯体の、トルエン溶液を用いた。
さらにこの印刷基材のインジケーターインキを印刷していない面に、上記透明バリアーフィルムを貼り合せ、インジケーターインキを印刷している面には、厚さ２５μｍの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムを貼り合わせて、本発明による酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３０】
＜実施例２＞
実施例１で用いたコバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液を、イミダゾール配位コバルトポルフィリンをメタクリレートのトルエン溶液に単純に混ぜて分散させた溶液に変えて、その他は実施例１と同様にして、本発明による酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３１】
＜実施例３＞
実施例１で用いたコバルトテトラフェニルポルフィリンを、ピバルアミドフェニル基で修飾されたピケットフェンスポルフィリンからなるものに変えて、その他は実施例１と同様にして、本発明による酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３２】
＜実施例４＞
実施例１で用いたコバルトテトラフェニルポルフィリンを、中心金属が鉄である鉄ポルフィリンに変えて、その他は実施例１と同様にして、本発明による酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３３】
＜比較例１＞
コバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液を印刷せずに、その他は実施例１と同様にして、ポルフィリンを含む被膜を持たない酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３４】
上記実施例及び比較例の酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を用いて、これを１０ｃｍ×２０ｃｍのパウチに製袋し、パウチ内に酸素吸収剤を投入するとともにパウチ内を窒素置換して密封し、インジケーターの無酸素色に戻したあと、パウチを開封して酸化色への変色速度を測定した。
【００３５】
その結果、表１に示すように実施例での変色スピードが無酸素色、有酸素色ともに比較例に比べて速く、いずれも1日以内に変色完了した。
【００３６】
【表１】
表１ 酸素インジケーターの変色速度
【００３７】
【発明の効果】
本発明の酸素インジケーターは以上のような構成、作用を持つから、鉄ポルフィリンやコバルトポルフィリンを含む被膜の酸素促進輸送能力を活かして、変色速度を向上させた印刷タイプの酸素インジケーターとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の酸素インジケーターを用いた包装材の例を断面で示した部分説明図である。
【符号の説明】
１…基材
２…インジケーターインキ塗膜
３…高分子被膜
４…接着剤層
５…ヒートシール層
６…透明バリアーフィルム
【発明の属する技術分野】
本発明は食品や医薬品の窒素または炭酸ガス置換包装や脱酸素包装において、ガス置換状態や脱酸素状態の保持を検知するための酸素インジケーターおよび酸素インジケータ付き包装体に関する。
【０００２】
【従来の技術】
食品や医薬品の酸素による劣化を防止する目的で、窒素または炭酸ガス置換包装や脱酸素包装が利用されている。これには、ガスバリアー性の包装材料で食品や医薬品等の内容物を密封包装する際に、包装内に窒素ガスや炭酸ガスを吹き込みながら密封シールすることで包装内のヘッドスペースガスを窒素や炭酸ガスに置換する方法や、包装内に酸素吸収剤を内容物と一緒に封入することで脱酸素状態にする方法等がとられる。
【０００３】
このような包装においては、内容物が包装されてから開封されるまでの間、ガス置換状態や脱酸素状態が保持される必要があるが、ガス置換が不十分であったり、脱酸素剤の能力が低下していたり、包装材料のバリアー性が低下していたり、ピンホールが発生したり、密封シールが不完全であったり等様々な要因によって、ガス置換状態や脱酸素状態が保持されない可能性がある。しかもこのように包装内のガス状態が変化したとしても、外観的にそれを察知できない場合が多い。
【０００４】
そこで、ガス置換状態や脱酸素状態が保持されていることを視覚的に認識できるようにするために、酸素の有り無しで変色するすなわち酸素検知機能を有する酸素インジケーターが利用されている。従来より利用されている酸素インジケーターは錠剤タイプのものがほとんどで、内容物と一緒に包装内に錠剤タイプの酸素インジケーターを投入して利用していた。
【０００５】
しかし、このような錠剤タイプのインジケーターを利用する場合、食品や医薬品を充填包装するメーカーにおいては包装材料の他に別途インジケーターを用意して充填するという手間がかかることになり、また消費者においてはインジケーターを誤飲、誤食する恐れがあるなどの問題があった。
【０００６】
そのため、出願人および発明者らは包装材に酸素インジケータが一体となって設けらるように、酸素検知機能を有するインキ（酸素インジケーターインキ）及び当該インキが印刷されている包装体を鋭意研究開発してきた（例えば、特許文献１参照）。
【０００７】
ところが、印刷タイプの酸素インジケーターにおいては、錠剤タイプの酸素インジケーターに比べて変色に要する時間が長くなるという問題がでてきた。
【０００８】
印刷されたインキは、乾燥によりインキ中の溶媒成分が揮発し、樹脂成分が硬化して塗膜を形成する。酸素インジケーターインキでは、硬化した樹脂被膜中に酸素を検知して変色する色素等の成分が分散して存在することになり、インキが十分に変色するには酸素が樹脂被膜中に十分溶解拡散する必要があり、その分の時間を要することになる。
【０００９】
一方、血液中の酸素輸送成分であるヘモグロビンの酸素結合席であるヘムは鉄ポルフィリンの一種であり、鉄ポルフィリン及びその中心金属をコバルトに置き換えたコバルトポルフィリン、さらにはそれらの錯体は、ポルフィリンが特定の枠組み構造をもっていると、酸素分子を迅速にかつ可逆的に結合する能力を有する。膜中にこの鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含有させると、膜表面から積極的に取り込んだ酸素分子を次々に受け渡し、他方の膜表面まで迅速に運ぶすなわち酸素の促進輸送が可能となる。（例えば非特許文献１及び非特許文献２参照）
【００１０】
【特許文献１】
特開昭５３−３９８６６公報
【非特許文献１】
西出宏之著，“人工血液”，「化学と教育」，日本化学会，２０００年，第４８巻，２号，ｐ１１６−１１９
【非特許文献２】
篠原浩美、西出宏之、土田英俊著，“高分子イミダゾール-コバルトテトラフェニルポルフィリン錯体の低温における酸素結合反応”，「ポルフィリン」，ポルフィリン研究会，２０００年、第９巻、２号、ｐ６５−７１
【００１１】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明においては、鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンまたはそれらの錯体を含む被膜の酸素促進輸送能力を活かして、変色速度を向上させた印刷タイプの酸素インジケーターを提供することを目的とする。
【００１２】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成とした。
本発明による酸素インジケーターは、
酸素検知機能を有するインキを基材上に印刷して成る酸素インジケーターにおいて、酸素検知機能を有するインキ塗膜が、金属ポルフィリンまたはそれらの錯体を含む印刷被膜で覆われており、印刷被膜は、酸素検知機能を有するインキ塗膜に合わせてその部分だけに設けられていることを特徴とする。
【００１３】
金属ポルフィリンを構成する金属は、鉄イオンまたはコバルトイオンであることが好ましい。
【００１４】
鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含む被膜は、これらの金属ポルフィリンに配位子を有する高分子を配位結合させてなる高分子錯体からなることが好ましい。
【００１５】
また、配位子を有する高分子は、ビニルイミダゾール類とメタクリレートとの共重合体であることが好ましい。
【００１６】
また、基材上に印刷された酸素検知機能を有するインキ塗膜とそれを被覆している金属ポルフィリンまたはそれらの錯体を含む被膜の上に、熱融着性の樹脂層が積層されていても良い。
【００１７】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面をもとに具体的に説明する。
本発明における酸素インジケーターは、基材１の上に、酸素検知機能を有するインキ塗膜２を印刷し、その上に金属ポルフィリン、特に鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンあるいはこれらの高分子錯体を含む被膜３を印刷したものである。
【００１８】
印刷の方法としては、一般的な多色刷りのグラビア印刷機等を用いて、基材上に一定の絵柄で酸素インジケーターインキを印刷し、その上に上記金属ポルフィリンあるいはこれらの高分子錯体を含む溶液を、インジケーター印刷部を完全に覆うように印刷すれば良い。金属ポルフィリンあるいはこれらの高分子錯体を含む溶液は、コスト等を考えて基材のインジケーターインキに合わせてその部分だけに印刷されている。
【００１９】
金属ポルフィリンとしては、最も一般的な合成ポルフィリンであるテトラフェニルポルフィリンからなるものが入手のしやすさやコストの点から好ましい。あるいは、安定的な酸素結合能力を維持するため特定の修飾構造を有するピケットフェンスポルフィリンからなるものを用いても良い。ピケットフェンスポルフィリンは、ピバルアミドフェニル基4本がポルフィリン面上に立って嵩高いキャビティーを構成しており、このキャビティーにより、中心金属の鉄またはコバルトに結合した酸素分子は保護されるため、安定的な酸素結合能力を維持できる。
【００２０】
本発明で好適に用いられる鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含む高分子錯体は、鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンの配位子として適する芳香族アミンの中で特に好ましいイミダゾールを用いて、例えばビニル基を有する１-ビニルイミダゾールとメタクリレートを共重合させたビニルイミダゾール−メタクリレート共重合体を鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンに配位結合させたものを用いた。
【００２１】
この鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンの高分子錯体をトルエン等の有機溶媒に溶解させ、これを基材上にコーティングして溶媒を揮発させることで、鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含む被膜が形成される。この被膜は、鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンの迅速な酸素結合・脱着能力により、酸素の選択的促進輸送能力を持つ。よってこれを酸素検知機能を有するインキの上に覆うことで、インキ層への酸素の供給を促進することができる。このため、従来のように酸素検知機能を有するインキが大気に接する状態の場合に比べ、酸素検知機能を有するインキが極めて高い濃度の酸素と接触する状態となるため、酸素検知機能を有するインキの変色速度が、従来と同じインキを用いた場合であっても格段に向上するものと考えられる。
【００２２】
酸素検知機能を有するインキは従来用いられているものが任意に採用できるが、酸化還元色素と還元剤およびバインダー樹脂を主成分とし、溶媒としては、色素および還元剤の溶解性から水およびアルコールの混合系が適する。このような構成にすることで、インキを印刷した後、溶媒が揮発してバインダー樹脂による塗膜が形成され、塗膜中に酸化還元色素と還元剤および多少の水分が分散した状態になる。よって、酸素の存在下では色素が酸化色を示し、無酸素下では還元剤の働きで色素が還元色を示すことになり、酸素の検知が可能となる。
【００２３】
特に本発明では検知機能を有するインキが鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含む被膜により覆われるので、検知機能を有するインキの被膜自体には、耐摩擦性や堅牢性などがあまり要求されない。従って、本発明の構成では、インキ自体の選択の自由度が従来の構成に比べて高まるというメリットがある。
【００２４】
酸化還元色素としては、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、ニュートラルレッド、インジゴカルミン、サフラニンＴ、フェノサフラニン、カプリブルー、ナイルブルー、ジフェニルアミン、キシレンシアノール、ニトロジフェニルアミン、フェロイン、Ｎ−フェニルアントラニル酸等が使用できるが、特にメチレンブルーが好適である。還元剤としては、アスコルビン酸、エリソルビン酸やその塩、アスコルビン酸塩、Ｄ−アラビノース、Ｄ−エリスロース、Ｄ−ガラクトース、Ｄ−キシロース、Ｄ−グルコース、Ｄ−マンノース、Ｄ−フラクトース、Ｄ−ラクトースなどの還元糖、第一スズ塩、第一鉄塩等の金属塩等が使用できる。
【００２５】
バインダー樹脂は、各インキ成分を基材上に固着するために用いられ、親水基と疎水基を合わせ持つ樹脂が好ましい。具体的にはポリビニルアセタール樹脂、メチルセルロース、エチルセルロース、親水基を導入したポリエステル樹脂等があげられるが、特にポリビニルアセタール樹脂が好ましい。
【００２６】
本発明の酸素インジケーターは、これと一体となった包装体を提供することができる。このため、この酸素検知機能を有するインキ塗膜と鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリン、あるいはこれらの高分子錯体を含む被膜からなる酸素インジケーター（以下本発明による酸素インジケーターという）を印刷する基材１としては、包装材料として用いられる透明性のフィルム材料であれば特に限定されないが、一般的には、ポリエチレンテレフタレートフィルム、延伸ポリプロピレンフィルム、無延伸ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム等が適当である。また、セラミック蒸着フィルムに代表される透明バリアーフィルムに直接印刷されても良い。当然、酸素インジケーターを必要とする包装においては、包装内が脱酸素状態や窒素置換状態に保たれる必要があるから、酸素バリアー性の高くないフィルムに印刷した場合は、透明バリアーフィルム６と積層して酸素バリアー性持たせる必要がある。
【００２７】
さらに、酸素インジケーターが印刷されたフィルムを袋にしたり容器にしたりして包装体として用いるためには、フィルムがヒートシール性を持つ必要があり、よって基材フィルム１上に印刷された本発明によるインジケーターの上にヒートシール層５すなわち熱融着性の樹脂層が形成されている必要がある。
【００２８】
【実施例】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
・透明バリアーフィルム
セラミック蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム１２μｍ
・印刷用基材
ポリエチレンテレフタレートフィルム１２μ
・酸素インジケーターインキ
メチレンブルー・・・・・・・・・・・・・・１．０部
アスコルビン酸・・・・・・・・・・・・・・２．５部
ポリビニルアセタール樹脂・・・・・・・・・１０部
ｎ−プロパノール・・・・・・・・・・・・・３６．３部
水・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・５０ 部
【００２９】
＜実施例１＞
印刷基材の上に、上記酸素インジケーターインキおよびコバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液を、多色刷りのグラビア印刷機を用いて印刷した。1色目すなわち基材側に酸素インジケーターインキを直径１ｃｍの円形状パターン柄で印刷し、その上に直径１．５ｃｍの円形状パターン柄でインジケーターインキを覆うようにコバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液を印刷した。コバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液は、コバルトテトラフェニルポルフィリンにビニルイミダゾール−オクチルメタクリレート共重合体を配位させてなる、コバルトポルフィリン高分子錯体の、トルエン溶液を用いた。
さらにこの印刷基材のインジケーターインキを印刷していない面に、上記透明バリアーフィルムを貼り合せ、インジケーターインキを印刷している面には、厚さ２５μｍの直鎖状低密度ポリエチレンフィルムを貼り合わせて、本発明による酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３０】
＜実施例２＞
実施例１で用いたコバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液を、イミダゾール配位コバルトポルフィリンをメタクリレートのトルエン溶液に単純に混ぜて分散させた溶液に変えて、その他は実施例１と同様にして、本発明による酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３１】
＜実施例３＞
実施例１で用いたコバルトテトラフェニルポルフィリンを、ピバルアミドフェニル基で修飾されたピケットフェンスポルフィリンからなるものに変えて、その他は実施例１と同様にして、本発明による酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３２】
＜実施例４＞
実施例１で用いたコバルトテトラフェニルポルフィリンを、中心金属が鉄である鉄ポルフィリンに変えて、その他は実施例１と同様にして、本発明による酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３３】
＜比較例１＞
コバルトポルフィリンの高分子錯体を含む溶液を印刷せずに、その他は実施例１と同様にして、ポルフィリンを含む被膜を持たない酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を得た。
【００３４】
上記実施例及び比較例の酸素インジケーターが印刷されたバリアー性包装材を用いて、これを１０ｃｍ×２０ｃｍのパウチに製袋し、パウチ内に酸素吸収剤を投入するとともにパウチ内を窒素置換して密封し、インジケーターの無酸素色に戻したあと、パウチを開封して酸化色への変色速度を測定した。
【００３５】
その結果、表１に示すように実施例での変色スピードが無酸素色、有酸素色ともに比較例に比べて速く、いずれも1日以内に変色完了した。
【００３６】
【表１】
【００３７】
【発明の効果】
本発明の酸素インジケーターは以上のような構成、作用を持つから、鉄ポルフィリンやコバルトポルフィリンを含む被膜の酸素促進輸送能力を活かして、変色速度を向上させた印刷タイプの酸素インジケーターとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の酸素インジケーターを用いた包装材の例を断面で示した部分説明図である。
【符号の説明】
１…基材
２…インジケーターインキ塗膜
３…高分子被膜
４…接着剤層
５…ヒートシール層
６…透明バリアーフィルム
Claims (5)
- 酸素検知機能を有するインキを基材上に印刷して成る酸素インジケーターにおいて、酸素検知機能を有するインキ塗膜が、金属ポルフィリンまたはそれらの錯体を含む印刷被膜で覆われており、印刷被膜は、酸素検知機能を有するインキ塗膜に合わせてその部分だけに設けられていることを特徴とする酸素インジケーター。
- 金属ポルフィリンを構成する金属が、鉄イオンまたはコバルトイオンから成ることを特徴とする請求項１記載の酸素インジケーター。
- 鉄ポルフィリンまたはコバルトポルフィリンを含む被膜が、これらの金属ポルフィリンに配位子を有する高分子を配位結合させてなる高分子錯体からなることを特徴とする請求項２記載の酸素インジケーター。
- 配位子を有する高分子が、ビニルイミダゾール類とメタクリレートとの共重合体であることを特徴とする請求項３記載の酸素インジケーター。
- 金属ポルフィリンまたはそれらの錯体を含む被膜の上に熱融着性の樹脂層を積層してなる、請求項１乃至請求項４記載のいずれかに記載の酸素インジケーター。
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