JP4241082B2 - 化粧材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
凹凸樹脂層の表面凹凸模様によって高意匠性を付与した、化粧紙等の化粧材に関する。
【0002】
【従来の技術】
紙、樹脂シート、板材等の各種基材に対して化粧を施した化粧材が、建築物内装材、建具等の各種用途で使用されている。そして、この様な化粧材に高意匠性を一付与する手法として表面に凹凸模様を付与した化粧材がある。凹凸模様を付与するには、エンボス賦形等もあるが、抜き導管印刷等の盛り上げ印刷で凹凸樹脂層を表面に形成することも一般的に広く行われている(特許文献1、特許文献2等参照)。この様な凹凸樹脂層により表面の凹凸模様を付与する手法は、最表層に耐久性の高い樹脂を柄状に印刷し、インキ塗膜有無による高低差や艶差を意匠表現に利用するものである。
【0003】
【特許文献1】
特開平8−100397号公報
【特許文献2】
特開平8−244193号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、単なる盛り上げ印刷による凹凸樹脂層では、耐汚染性が不足する場合があった。それは、図4の断面図の化粧材20で概念的に示す如く、従来の盛り上げ印刷で形成される凹凸樹脂層23は、凹凸模様の凸部aに該当する部分のみに形成されるものであり、従って、該凸部aについては凹凸樹脂層の樹脂に、電離放射線硬化性樹脂等の耐久性の良い樹脂を採用することで耐汚染性が得られる。しかし、凹凸樹脂層が形成されない凹凸模様の凹部bの部分では、柄印刷層22、或いは基材21等の凹凸樹脂層の下層が化粧材表面に露出しており、これら下層の耐汚染性の悪さによって化粧材全体としての耐汚染性が得られないからである。
【0005】
上記の様な耐汚染性の問題は、耐汚染性を有する樹脂を用いて、凹凸樹脂層の形成後に更に凸部及び凹部を含む全面にオーバーコート層を設けたり、或いは凹凸樹脂層の形成前に下層として全面に塗工層を設けたり、或いはこれら両方を設けたりする手法によれば解決する。しかし、凹凸樹脂層を形成する為の盛上げ印刷工程の他に、塗工工程も追加的に必要となり、コスト増や、生産速度の低下の原因となっていた。
【0006】
すなわち、本発明の課題は、表面の凹凸模様を盛り上げ印刷で付与しても。耐汚染性及び生産性が低下せず、しかもコスト増にもならない化粧材およびその製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで、上記課題を解決すべく、本発明の化粧材は、基材上の最表層として凹凸模様を有する凹凸樹脂層が形成されている化粧材において、該凹凸樹脂層は電離放射線硬化性樹脂のインキで形成され、且つ該インキによる盛り上げ印刷部分から非印刷部分に該盛り上げ印刷部分のインキを該盛り上げ印刷部分の凸なる形状を残して流展させて前記非印刷部分を被覆して成り、該凹凸樹脂層中にシリコーンオイルがレベリング剤として添加されている構成とした。また、本発明の化粧材の製造方法は、基材上の最表層として凹凸模様を有する凹凸樹脂層が形成されている化粧材の製造方法であって、前記凹凸樹脂層がレベリング剤としてシリコーンオイルが添加された電離放射線硬化性樹脂のインキを印刷した盛り上げ印刷部分を凸部として形成する工程と、前記インキが印刷されていない領域である非印刷部分に前記盛り上げ印刷部分のインキが流れて展ばされることで非印刷部分をインキで被覆した状態とすることにより凹凸樹脂層を形成する工程とからなることを特徴とする構成とした。
【0008】
この様な構成することで、凹凸模様付与の為の凹凸樹脂層が盛り上げ印刷で形成されたものであっても、本来インキが乗らない領域(凹部)へもインキが流れてそこを被覆できる結果、該凹部部分による耐汚染性低下が防げるので、耐汚染性が得られる。
また、凹凸樹脂層には電離放射線硬化性樹脂を使用するので、耐汚染性やその他物性にも優れる上、凹凸樹脂層形成には無溶剤のインキが使用でき、盛り上げ印刷時点からインキ硬化までの間で溶剤乾燥等によるインキ粘度上昇が無く、凹部へのインキの流展も安定的に制御し易い。
また、下層としての塗膜層や上側のオーバーコート層等の為の追加工程、追加材料が不要となる為、コスト増や生産性低下とならない。従って、耐汚染性、低コスト、生産性も確保できる。しかも、凹部も被覆した状態での凹凸樹脂層は一回の印刷工程で、その凸部と凹部が連続した単層の層として形成できる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、図面を参照しながら実施の形態を説明する。
【0010】
〔概要〕
図1は本発明による化粧材10と、その凹凸樹脂層2を説明する断面図である。図1(A)は化粧材10の一形態を例示する断面図、図1(B)及び(C)は凹凸樹脂層2の形成時の断面形状の変化を、その形成前段階(印刷直後)と形成後で概念的に示す断面図である。
【0011】
図1(A)に例示の如く、本発明の化粧材10は、少なくとも、基材1上に前述した如き本発明固有の凹凸樹脂層2が、化粧材の最表層として形成されたものであり、通常は更に、同図に例示の如く、基材1に凹凸樹脂層2を形成する前に、該基材1の凹凸樹脂層2側には、絵柄等の意匠表現の為に柄印刷層等の装飾層3を印刷等により形成しておく。なお、もちろんだが、用途、意匠表現等によって、この装飾層3は省略できるものである。また、基材の形態はシート、板、これら積層体等である。
【0012】
以下、更に、本発明について凹凸樹脂層から順次詳述する。
【0013】
〔凹凸樹脂層〕
凹凸樹脂層2は、レベリング剤としてシリコーンオイルが添加された電離放射線硬化性樹脂のインキを用いて形成する。この凹凸樹脂層2は、図1(A)の断面図で概念的に示す如く、凸部aと凸部aとの間の凹部bも、該インキによって、凹凸樹脂層2の下層〔同図の場合では装飾層3〕を被覆してある。なお、凹凸樹脂層は、用途に応じて、透明、半透明、不透明、着色、無着色等となる。
【0014】
上記の様な凹凸樹脂層とする為に、凹凸樹脂層の形成は、図1(B)及び図1(C)で概念的に示す如く、前記インキを印刷した印刷部分cから、インキが印刷されていない領域である非印刷部分dに、(印刷後に)印刷部分cのインキを、印刷部分cが非印刷部分dに対して凸となる形状が残り印刷部分cと非印刷部分dとの高低差が無くなり平坦化しない程度にレベリングさせて流して展ばすことで、非印刷部分dを被覆した状態の凹凸樹脂層として形成する。印刷部分cが凸部aとなり、非印刷部分dが凹部bとなる〔図1(A)も参照〕。印刷時にはインキが乗らない非印刷部分dの領域までもインキで覆うことで、非印刷部分dでの下層の露出による耐汚染性の低下を防げることになる。
【0015】
なお、印刷部分の凸なる形状が残るとは言っても、印刷直後に於ける印刷部分の断面形状で凸なる形状が、そっくりそのままの形状で残るの訳ではない。印刷部分から非印刷部分に向かって流動したインキ量の分だけ、印刷部分を占めるインキは減少する事になるので、その体積分は印刷部分の凸形状の高さは低下し、凸部の山形状は鈍ることになる。しかし、基本的に印刷部分が凸であるという形状自体は残す様にする。
また、電離放射線硬化性樹脂のインキは、本化粧材上に於いては架橋硬化された硬化物としてあるが、その硬化時期は、もちろんの事、非印刷部分もインキを流展して被覆した後である。
【0016】
ところで、インキの流展による非印刷部分(凹部)の被覆は、多少の不完全さがあっても、略被覆されていれば、相応の耐汚染性向上効果は得られるので構わない。但し、もちろんだが、完全に被覆されているのが、より好ましい。
なお、凹凸模様の凹部でも下層を被覆するには、凹凸樹脂層形成用のインキを、全面ベタ柄で印刷後、その上に更に凸部のパターンで印刷を行う2回(色)刷りによって多層の凹凸樹脂層を形成して、見かけ上で被覆を完全にする策もあり得る。しかし、これでは色数が増えて工程増やコスト増に繋がってしまう。従って、工程増、コスト増を防げる点に於いて、1回(色)刷りで凹凸樹脂層を形成して、凹凸樹脂層は、その凸部も凹部も連続した単層の層として形成するのが好ましい。また、本発明ではシリコーンオイルをレベリング剤としてインキ中に添加してあるので、この1回刷りによる凹凸樹脂層形成が可能となる。
【0017】
なお、従来の盛り上げ印刷という観点からは、印刷直後の印刷部分(インキ着肉部分)のインキの高さを維持すべく、インキのレベリングはなるべく少なくして可能な限りインキを盛り上げて印刷するのが基本である。従って、その為には添加すべき添加剤はチキソトロピック剤であり、レベリング剤は通常ならば添加を避けるべきものである。しかし、本発明では、あえて、レベリング剤を、それもレベリング作用が一般的に強いシリコーンオイルを添加することで、盛り上げ印刷時の印刷部分(凸部)の凸なる形状は残した状態で、凸部と凸部との間の凹部領域にも凸部からインキが確実に流展して凹凸樹脂層の下層を確実に被覆できる様にした。
以上の様に、本発明では、従来の盛上げ印刷とは考え方が異なり、従来の盛上げ印刷から見れば、あえてインキを流して凹凸樹脂層を形成するものである。これは、従来の盛上げ印刷からすれば、その考え方の範囲外のことであり、その範囲外の領域において、有益な作用効果を見出したのが本発明である。
なお、「印刷部分の凸なる形状を残す」とは、同じ様にレベリング剤添加でも塗工分野ではレベリング作用で塗工面を平坦化させ又はそれが目的であるのに対して、本発明の凹凸樹脂層では、その表面を平坦化させるのとは異なる事を、明示的に表現したものである。また、通常は、凹凸模様の形状は、印刷部分の高さに対して非印刷部分の幅は約10倍以上大きさに開きがある形状となるので、この点からも、凸なる形状が消失して平坦化する事はない。また、例えばEH型粘度計での測定でTI値(チクソトロピックインデックス値)が1.5程度でも平坦化させずに凸部形状を十分に残せる。
【0018】
なお、レベリング剤としてのシリコーンオイルの添加量及びその種類等は、印刷部分しのパターン形状(膜厚乃至はインキ転移量、面積、幅等)、或いは非印刷部分のパターン、印刷部分と非印刷部分の面積割合等により、適宜調整する。非印刷部分がより広いならば、印刷部分から非印刷部分へのインキの流展はより広範囲(長距離)に及ぶ様にする必要があり、その為にはインキのレベリングは大き目にするのが良い。但し、インキのレベリングが大きい程、印刷部分から非印刷部分へのインキの流動はより円滑に行われ、被覆がより完全に行われる他、印刷部分のインキ体積の減少により当該部分の凸なる形状が減ってくる。逆に、インキのレベリングが小さい程、印刷部分から非印刷部分へのインキの流動は減り、被覆するインキが減るにつれて被覆が不完全の場合も起きてくる。そこで、インキのレベリングは、大き過ぎず且つ小さ過ぎず、適度な量に調整する。
ここで、シリコーンオイルの具体例を例示すれば、平均分子量1000以下、粘度2mPa・sで表面張力18.3dyn/cmを呈する化合物等が挙げられる。
【0019】
また、非印刷部分もインキで覆うには、上記レベリング剤の添加の他に、下地のインキ浸透性等も考慮して、印刷部分への印刷版からのインキ転移量、インキの粘度、凹凸模様形状(個々の凹部の広さ)等も適宜調整すると良い。そして、これらを考慮しつつ、レベリング剤の種類と添加量、及び電離放射線硬化性樹脂本体の樹脂内容等によるインキ組成を振って、好ましくはインキの流展度合いを表面の顕微鏡観察等で確認しつつ、耐汚染性が良好となる条件を見出して行くと良い。
【0020】
また、インキの流展度合いの観察は、インキを印刷面に滴下したときの接触角を接触角計で測定することでも評価できる。レベリング剤を添加した凹凸樹脂層形成用インキを、装飾層等が適宜印刷され基材上に滴下し、そのときの接触角を測定すれば良い。
【0021】
表1は、レベリング剤として各種シリコーン化合物の物性(粘度、表面張力)と、それを電離放射線硬化性樹脂の樹脂分100質量部に対して0.4質量部添加した各インキを、ニトロセルロース系インキの印刷で装飾層が形成された基材上の該装飾層上に滴下したときの、接触角を測定した結果の一例である。なお、基材Aは坪量50g/m2の酸化チタンを含む一般紙、基材Bは厚み45μmのポリエチレンテレフタレートフィルムである。また、表1の接触角を図2のグラフでも示した。表1及び図2の如く、シリコーンオイルは、接触角が測定不能(≒0°)とレベリング作用が強く、インキが滴下面を良く濡らして十分に流れ広がる性質が得られる事がわかる。これに対して、その他の変性シリコーンは、夫々、シリコーンオイルに比べると、略同程度の有限の接触角値を示し、(接触角が有限という事は)インキが滴下面を完全には濡らせずに流れても十分には広げられない事がわかる。そして、後述する実施例の如く、この様な接触角が測定不能で強いレベリング作用を示すシリコーンオイルの添加が、実際に良好なる結果が得られた。
【0022】
【表1】
【0023】
ところで、凹凸模様の平面視形状及び断面形状は、特に限定されるものでは無く、用途に応じた形状とすれば良い。例えば、木目導管柄、スティップル柄、波型形状、ヘアランイ形状等である。但し、印刷部分が所々に離れて点在している様な、極端に非印刷部分が印刷部分に比べて広いものは、インキの流展にも限界がある為に、非印刷部分を印刷部分のインキで被覆しきれなくなるから避けるのが良い。
通常、凹凸樹脂層の高さ(最高位の凸部頂上と最低位の凹部谷底との高低差)は5〜50μm程度、凹部(非印刷部分)の幅は0.1〜2mm程度である。
【0024】
ここで、凹凸樹脂層2で表現する凹凸模様の平面視形状を、図3の平面図に例示する。図3(A)は、スティップル柄、図3(B)は木目導管柄の一例を示す。なお、これら図面は、縦3.0cm、横5.0cmの長方形の面を、長さで2倍に拡大した平面図である。また、スティップル柄の図3(A)では黒の部分がインキ着肉部分(印刷部分)で白の部分がインキを流展させる非印刷部分である。一方、木目導管柄の図3(B)では、柄を分かり易くする為に、白黒を逆にして表示してある。
【0025】
また、本発明の如き凹凸樹脂層の形成は、好適には、従来の盛り上げ印刷同様に、グラビア印刷、スクリーン印刷等の厚くインキを着肉できる公知の印刷法を適宜採用すれば良い。
印刷時に、印刷面のインキ浸透性が大きすぎてインキが十分に流展しない場合には、印刷面に(装飾層を形成する場合はその前又は後に)、印刷面のインキ浸透性を低下させておく為に、基材が紙等では予め樹脂を含浸した含浸紙を使用したり、或いは、浸透性の紙は基材としてそのまま使用して、その上に樹脂塗工によるシーラー層等を設けたりすると良い。
【0026】
ところで、非印刷部分もインキを流展させて被覆する際に、インキの印刷面の浸透性が影響することもある。例えば、基材が紙等の浸透性基材で印刷面のインキ浸透性が大きい場合には、印刷面にインキの一部が浸透してしまい、非印刷部分へのインキの流展が不十分となることがある。この様な場合には、印刷面のインキ浸透性を抑える為に、紙等では予め樹脂を含浸して浸透性を低下させた含浸紙を使用したり、浸透性の紙を基材としてそのまま使用し、その上に樹脂塗工によるシーラー層等を設けたりすると良い。
【0027】
次に、凹凸樹脂層を形成する電離放射線硬化性樹脂としては、公知の樹脂を適宜使用すれば良い。具体的には、電離放射線硬化性樹脂としては、分子中にラジカル重合性不飽和結合又はカチオン重合性官能基を有する、プレポリマー(所謂オリゴマーも包含する)及び/又はモノマーを適宜混合した電離放射線により架橋硬化可能な組成物が好ましくは用いられる。なお、ここで電離放射線とは、分子を架橋硬化反応させ得るエネルギーを有する電磁波又は荷電粒子を意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられる。
【0028】
上記プレポリマー又はモノマーは、具体的には、分子中に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基、エポキシ基等のカチオン重合性官能基等を有する化合物からなる。これらプレポリマー、モノマーは、単体で用いるか、或いは複数種混合して用いる。なお、ここで、例えば、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基の意味である。また、電離放射線硬化性樹脂としては、ポリエンとポリチオールとの組み合わせによるポリエン/チオール系のプレポリマーも好ましくは用いられる。
【0029】
分子中にラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーの例としては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等が使用できる。分子量としては、通常250〜100,000程度のものが用いられる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味である。また、アクリレート化合物及びメタクリレート化合物を総称して、単にアクリレート(化合物)とも呼ぶ。
【0030】
分子中にラジカル重合性不飽和基を有するモノマーの例としては、単官能モノマーでは、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等がある。また、多官能モノマーでは、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイドトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等もある。
【0031】
分子中にカチオン重合性官能基を有するプレポリマーの例としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ化合物等のエポキシ系樹脂、脂肪酸系ビニルエーテル、芳香族系ビニルエーテル等のビニルエーテル系樹脂のプレポリマーがある。
チオールとしては、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオールがある。また、ポリエンとしては、ジオールとジイソシアネートによるポリウレタンの両端にアリルアルコールを付加したもの等がある。
【0032】
なお、紫外線又は可視光線にて架橋硬化させる場合には、電離放射線硬化性樹脂に光重合開始剤を添加する。ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合は、光重合開始剤として、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル類を単独又は混合して用いることができる。また、カチオン重合性官能基を有する樹脂系の場合は、光重合開始剤として、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル等を単独又は混合物として用いることができる。
なお、これらの光重合開始剤の添加量としては、電離放射線硬化性樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部程度である。
【0033】
また、上記電離放射線硬化性樹脂には、物性調整等の為に更に必要に応じ適宜、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、セルロース系樹脂等の熱可塑性樹脂を混合使用しても良い。
【0034】
なお、電離放射線の線源としては、紫外線源としては、超高圧水銀燈、高圧水銀燈、低圧水銀燈、カーボンアーク燈、ブラックライト型螢光燈、メタルハライドランプ等の光源が使用される。紫外線の波長としては通常190〜380nmの波長域が主として用いられる。
また、電子線源としては、コッククロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、或いは、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用い、100〜1000keV、好ましくは、100〜300keVのエネルギーをもつ電子を照射するものが使用される。電子線の照射線量は、通常20〜150kGy程度である。
【0035】
なお、凹凸樹脂層を形成する為の電離放射線硬化性樹脂からなるインキ中には、シリコーンオイルからなるレベリング剤以外の添加剤を、必要に応じ適宜、添加しても良い。例えば、微粉末シリカ、艶消しシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム等の無機系充填剤、樹脂ビーズ等の有機系充填剤、ワックス、シリコーンアクリレート等の離型剤、染料、顔料等着色剤等の各種添加剤を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で添加しても良い。また、チキソトロピック性を適宜調整する為に、微粉末シリカ等のチキソトロピック剤も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜添加しても良い。
【0036】
〔基材〕
次に、基材1は、その材料及び形態等は、用途に応じ任意であり、公知のものを適宜使用できる。例えば、基材の形態はシート状、板状、或いはこれら積層体等である。基材がシート状の場合、化粧材は化粧シートとなり、板状の場合は化粧材は化粧板となる。また、化粧シートとなったものを別の板状等の基材に接着剤を適宜用いる等して積層することで構成される基材は、前記化粧シートに於けるシート状と前記板状の基材との積層体となる。
【0037】
シート状の基材例を挙げれば、紙、不織布、熱可塑性樹脂シート(乃至はフィルム)、或いはこれらの積層体等が挙げられる。紙としては、例えば、薄葉紙、クラフト紙、上質紙、リンター紙、バライタ紙、硫酸紙、和紙等が挙げられる。また、不織布としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ナイロン、ビニロン、硝子等の繊維からなる不織布が挙げられる。紙や不織布の坪量は、通常20〜100g/m2程度である。また、熱可塑性樹脂シートの樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0038】
また、主として化粧シート形態の化粧材の被着体となる板状の基材としては、その材質から挙げれば、無機非金属系、金属系、木質系、プラスチック系等が挙げられる。具体的には、無機非金属系では、例えば、抄造セメント、押出しセメント、スラグセメント、ALC(軽量気泡コンクリート)、GRC(硝子繊維強化コンクリート)、パルプセメント、木片セメント、石綿セメント、硅酸カルシウム、石膏、石膏スラグ等の非陶磁器窯業系材料、土器、陶器、磁器、セッ器、硝子、琺瑯等のセラミックス等の無機質材料等がある。また、金属系では、例えば、鉄、アルミニウム、銅等の金属材料がある。また、木質系では、例えば、杉、檜、樫、ラワン、チーク等からなる単板、合板、パーティクルボード、繊維板、集成材等がある。また、プラスチック系では、例えば、ポリプロピレン、ABS樹脂、フェノール樹脂等の樹脂材料がある。なお、被着体となる基材の形態としては、平板、曲面板、多角柱等任意である。
なお、化粧シートと被着体とを接着させる場合に使用する接着剤は、公知の接着剤が選択使用できる。例えば、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂等の硬化性樹脂等からなる接着剤である。接着剤は、ロールコート等の公知の塗工法で施せば良い。
【0039】
〔装飾層〕
装飾層3を設ければ、該層で絵柄を表現する等して、より高意匠な化粧材にできる。但し、装飾層を設ける場合、装飾層は凹凸樹脂層の下側とするのが、装飾層に対する耐汚染性、その他、耐摩耗性、耐スクラッチ性の耐久性の点で好ましい。また、より好ましくは、装飾層は、基材と凹凸樹脂層間に設けるのが良い。
【0040】
なお、装飾層3を設けるには、インキを印刷する等、従来公知の手法を適宜採用すれば良い。例えば、装飾層は、インキ(又は塗料)を用いて、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、インキジェットプリント等の従来公知の印刷法、塗工法等で絵柄を表現した層等として形成する。絵柄としては、木目模様、石目模様、砂目模様、梨地模様、布目模様、タイル調模様、煉瓦調模様、皮絞模様、文字、幾何学模様、全面ベタ、或いはこれら二種以上の組合せ等を用いる。なお、全面ベタの場合は、ロールコート、グラビアコート等の公知の塗工法で形成しても良い。
【0041】
装飾層用のインキ(又は塗液)は、バインダー等からなるビヒクル、顔料や染料等の着色剤、これに適宜加える各種添加剤からなるが、バインダーの樹脂には、例えば、ニトロセルロース、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等の単体又はこれらを含む混合物を用いる。着色剤としては、例えば、チタン白、亜鉛華、カーボンブラック、鉄黒、弁柄、カドミウムレッド、黄鉛、チタンイエロー、コバルトブルー、群青等の無機顔料、アニリンブラック、キナクリドンレッド、ポリアゾレッド、イソインドリノンイエロー、ベンジジンイエロー、フタロシアニンブルー、インダスレンブルー等の有機顔料、二酸化チタン被覆雲母、貝殻、真鍮、アルミニウム等の鱗片状箔粉等の光輝性顔料、或いはその他染料等を着色剤として使用する。
【0042】
〔その他の層〕
なお、本発明の化粧材に於いて、必要に応じ適宜、上述した、基材、凹凸樹脂層、装飾層以外の層を設けても良い。例えば、シーラー層、プライマー層等である。これらは、従来公知の材料及び方法によって形成することができる。
【0043】
〔用途〕
本発明の化粧材の用途は特に制限は無いが、ここにその用途の幾つかを例示すれば、箪笥、キャビネット、机、食卓等の家具、床、壁、天井等の建築物内装材、扉、扉枠、窓枠等の建具、回縁、幅木等の造作部材等が挙げられる。
【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例によって、更に具体的に説明する。
【0045】
〔実施例1〕
基材1として酸化チタンを添加した坪量50g/m2の一般紙の片面に、ニトロセルロース系樹脂をバインダー樹脂に用いた着色インキをグラビア印刷して、白色全面ベタ柄の装飾層3を形成した。更に、装飾層3の上に、レベリング剤としてシリコーンオイル(表1記載のシリコーンオイルで接触角が測定不能の化合物)が添加された下記の電離放射線硬化性樹脂からなる無溶剤のインキAと、図3(A)の様なスティップル柄の印刷版とを用いて、グラビア印刷の一回刷りを行った後、電子線を照射してインキを架橋硬化させ凹凸樹脂層3として、図1(A)の様な化粧材を得た。
凹凸樹脂層は、印刷直後の印刷部分のインキが流展して非印刷部分を被覆し、凹凸樹脂層は単層でその凹凸模様の凸部も凹部も連続した層となった。なお、凹凸樹脂層形成時のインキの転移量は塗布量換算で10g/m2であった。また、凸部頂上部での厚さは15μmであった。
【0046】
インキA:
エポキシアクリレートオリゴマー 10質量部
多官能アクリレート系モノマー 90質量部
微粒子シリカ(平均粒径約20nm) 0.5質量部
艶消しシリカ(平均粒径8.5μm) 16質量部
体質顔料(水酸化マグネシウム) 10質量部
滑剤(シリコーンアクリレート) 1.2質量部
レベリング剤(シリコーンオイル) 0.4質量部
【0047】
〔実施例2〕
基材1として厚み45μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、ニトロセルロース系樹脂をバインダー樹脂に用いた着色インキをグラビア印刷して、白色全面ベタ柄の装飾層3を形成した。更に、装飾層3の上に、上記の電離放射線硬化性樹脂からなる無溶剤のインキAと、図3(B)の様な木目導管柄の印刷版とを用いて、グラビア印刷の一回刷りで抜き導管印刷を行った後、電子線を照射してインキを架橋硬化させ凹凸樹脂層3として、図1(A)の様な化粧材を得た。なお、木目導管柄は、非印刷部分に該当する導管部分の幅が200μmの柄であった。
凹凸樹脂層は、印刷直後の印刷部分のインキが流展して非印刷部分を被覆し、凹凸樹脂層は単層でその凹凸模様の凸部も凹部も連続した層となった。なお、凹凸樹脂層形成時のインキの転移量は塗布量換算で9g/m2であった。また、凸部頂上部での厚さは8μmであった。
【0048】
〔比較例1〕
実施例1に於いて、凹凸樹脂層の形成に使用したインキを、レベリング剤の添加を省略したものに代えた他は、実施例1と同様にして化粧材を作製した。
【0049】
〔比較例2〕
実施例2に於いて、凹凸樹脂層の形成に使用したインキを、レベリング剤の添加を省略したものに代えた他は、実施例2と同様にして化粧材を作製した。
【0050】
〔性能評価〕
各実施例及び比較例の化粧材について、凹凸樹脂層に於けるインキの凹部への流れ込み具合と、耐汚染性とを評価した。評価は次の様にして行った。結果は表2に示す。
【0051】
(1)インキ流れ込み具合:表面を顕微鏡で観察して、インキの凹部への流れ込みの有無を確認評価した。
(2)耐汚染性:汚染物質として黒マーキングペンで化粧材表面を汚染してから4時間放置した後、中性洗剤を浸した布で拭取り、表面に残った汚れ具合を目視観察して評価した。全く汚れ無きものは良好(○)、若干汚れ残るが許容限度範囲内のものはやや良好(△)、汚れが残り許容限度外のものは不良(×)と評価した。
【0052】
【表2】
【0053】
表2の如く、実施例1及び2ではインキ流れ込みが観察されたが、比較例1及び2ではインキ流れ込みが認められなかった。そして、耐汚染性は基材が紙である実施例1はやや良好(△)、基材が樹脂フィルムである実施例2では良好(○)であった。これに対して、比較例1及び2の耐汚染性は不良(×)であった。
なお、各比較例では、インキ中にシリコーン化合物の一種であるシリコーンアクリレートが表面物性調整の為の離型剤として添加されているが(各実施例も同様)、この様なシリコーン化合物が添加されているだけでは、流れ込みが不十分である事も判る。また、この事は、前述表1及び図2中でもアクリレート変性シリコーンが良好なる接触角値が得られていない点と一致する。
【0054】
【発明の効果】
本発明の化粧材によれば、表面の凹凸模様を盛り上げ印刷で付与しても、耐汚染性が得られる上、生産性も低下せず、コスト増にもならない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の化粧材の一形態の例示と、凹凸樹脂層を概念的に説明する断面図。
【図2】シリコーン化合物の添加による接触角の違いを示すグラフ。
【図3】凹凸樹脂層の平面視形状を例示する平面図。
【図4】従来の化粧シートの一例を示す断面図。
【符号の説明】
1 基材
2 凹凸樹脂層
3 装飾層
10 化粧材
20 従来の化粧材
21 基材
22 柄印刷層
23 凹凸樹脂層
a 凸部
b 凹部
c 印刷部分
d 非印刷部分
Claims (2)
- 基材上の最表層として凹凸模様を有する凹凸樹脂層が形成されている化粧材において、該凹凸樹脂層は電離放射線硬化性樹脂のインキで形成され、且つ該インキによる盛り上げ印刷部分から非印刷部分に該盛り上げ印刷部分のインキを該盛り上げ印刷部分の凸なる形状を残して流展させて前記非印刷部分を被覆して成り、該凹凸樹脂層中にシリコーンオイルがレベリング剤として添加されている、化粧材。
- 基材上の最表層として凹凸模様を有する凹凸樹脂層が形成されている化粧材の製造方法であって、前記凹凸樹脂層がレベリング剤としてシリコーンオイルが添加された電離放射線硬化性樹脂のインキを印刷した盛り上げ印刷部分を凸部として形成する工程と、前記インキが印刷されていない領域である非印刷部分に前記盛り上げ印刷部分のインキが流れて展ばされることで非印刷部分をインキで被覆した状態とすることにより凹凸樹脂層を形成する工程とからなることを特徴とする化粧材の製造方法。
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