JP4240522B2 - 切粉に対する表面潤滑性にすぐれた表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents

切粉に対する表面潤滑性にすぐれた表面被覆超硬合金製切削工具 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、切粉に対する表面潤滑性にすぐれ、したがって特にステンレス鋼や軟鋼などのきわめて粘性が高く、かつ切粉が切刃表面に溶着し易い難削材の高速切削加工に用いた場合にも、切刃に前記切粉の高粘着性が原因のチッピング(微小欠け)などの発生がなく、すぐれた切削性能を長期に亘って発揮する表面被覆超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、切削工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
さらに、従来、一般に、上記の切削工具として、炭化タングステン基超硬合金基体(以下、超硬基体という)の表面に、
(a)下部層として、1〜20μmの平均層厚を有する、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層、
(b)上部層として、1〜15μmの平均層厚を有する、酸化アルミニウム(以下、Al23で示す)層、および例えば特開昭57−39168号公報や特開昭61−201778号公報に記載されるAl23の素地に酸化ジルコニウム(以下、ZrO2で示す)相が分散分布してなるAl23−ZrO2混合層(以下、Al23−ZrO2混合層と云う)のいずれか、または両方、
で構成された硬質被覆層を化学蒸着および/または物理蒸着してなる被覆超硬工具が知られている。
【0003】
また、一般に、上記の被覆超硬工具の硬質被覆層を構成するTi化合物層およびAl23 層が粒状結晶組織を有し、かつ前記Al23層はα型結晶構造をもつものやκ型結晶構造をもつものなどが広く実用に供されており、さらに例えば特開平6−8010号公報や特開平7−328808号公報に記載されるように、上記被覆超硬工具の硬質被覆層を構成するTi化合物層のうちのTiCN層を、層自身の靭性向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機CN化合物を含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成して縦長成長結晶組織をもつようにすることも知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削工具には1種類の工具できるだけ多くの材種の被削材を切削加工できる汎用性が求められると共に、切削加工も高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工に用いた場合には問題はないが、これをきわめて粘性の高いステンレス鋼や軟鋼などの被削材の高速切削に用いた場合には、これら被削材の切粉は、硬質被覆層を構成するAl23層やTi化合物層に対する親和性が高いために、切刃表面に溶着し易く、この溶着現象は切削加工が高速化すればするほど顕著に現れるようになり、この溶着現象が原因で切刃にチッピングが発生し、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特にステンレス鋼や軟鋼などの高速切削加工に用いた場合にも、切刃表面に切粉の溶着し難い被覆超硬工具を開発すべく、特に上記の従来被覆超硬工具に着目し、研究を行った結果、
(a)例えば化学蒸着装置にて、反応ガス組成を、体積%で、
TiCl4:0.2〜10%、
VCl4:0.1〜5%、
CO2:0.1〜10%、
Ar:5〜60%、
2:残り、
とし、かつ、
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜70kPa、
とした条件で層形成を行うと、TiとVの複合酸化物[以下、(Ti,V)Oで示す]層が形成されること。
【0006】
(b)上記の(Ti,V)O層を、
組成式:(Ti1-XX)OY
で表わした場合、上記の層形成条件を調整して、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
X:0.1〜0.6、
Y:TiとVの合量に対する原子比で1.2〜1.9、
を満足する組成をもつものとすると、この(Ti,V)O層は、特に切削加工時に発生する高熱によっていずれも被削材、特にステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材に対する親和性がきわめて低いTi酸化物とV酸化物に分解し、かつこれら両者が共存すると、相乗効果によって前記のTi酸化物およびV酸化物が個々に発揮する表面潤滑性に比して、一段とすぐれた表面潤滑性を発揮するようになること。
【0007】
(c)したがって、上記の従来被覆超硬工具に、表面層として上記の(Ti,V)O層を0.1〜5μmの平均層厚で化学蒸着または物理蒸着してなる被覆超硬工具においては、前記表面層を構成する(Ti,V)O層の発揮するすぐれた表面潤滑性によって、特にステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材の切粉が切刃に溶着することがなく、これはさらに一段と高い発熱を伴う高速切削加工でも変わらず、この結果切刃にチッピングの発生がなくなり、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するようになること。
【0008】
(d)上記の従来被覆超硬工具の硬質被覆層を構成するAl23層またはAl23−ZrO2混合層の表面に、上記(Ti,V)O層を表面層として形成した場合で、そのY値が1.2〜1.9の範囲内の低い側、例えば1.2〜1.4の範囲内にある条件や、その平均層厚が0.1〜5μmの範囲内の薄い側、例えば0.1〜1μmの範囲内にある条件で形成した場合には、Al23層およびAl23−ZrO2混合層との間に十分な層間密着性が得られない場合がある[勿論、これらの場合でも(Ti,V)O層の形成条件を調整することによって十分な層間密着性が得られるようにすることができる]ので、この場合には、上記(Ti,V)O層形成後に、下記の雰囲気、即ち、
雰囲気ガス組成を、体積%で、
TiCl4:0.05〜10%、
VCl4:0.05〜5%、
不活性ガス:残り、
とし、かつ、
雰囲気温度:800〜1100℃、
雰囲気圧力:4〜90kPa、
とした雰囲気中に所定時間、例えば5分〜5時間程度保持して、上記(Ti,V)O層と上記Al23層またはAl23−ZrO2混合層との界面部に、望ましくは0.05〜2μmの平均層厚で相互拡散層を形成し、これによって層間密着性を向上させるのが望ましく、さらにこの層間密着性向上処理は、上記(Ti,V)O層のY値および平均層厚が上記の低い側および薄い側の値以外の値である場合であっても層間密着性のより一層の向上を図る目的で行ってもよいこと。
以上(a)〜(d)に示される研究結果を得たのである。
【0009】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(a)下部層として、1〜20μmの平均層厚を有する、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層、
(b)上部層として、1〜15μmの平均層厚を有する、Al23層および/またはAl23−ZrO2混合層、
(c)表面層として、0.1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Ti1-XX)OY
で表わした場合、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
X:0.1〜0.6、
Y:TiとVの合量に対する原子比で1.2〜1.9、
を満足する(Ti,V)O層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を化学蒸着および/または物理蒸着してなる、切粉に対する表面潤滑性にすぐれた被覆超硬工具に特徴を有するものである。
【0010】
この発明の被覆超硬工具において、表面層を構成する(Ti,V)O層のV成分には、上記の通り切削加工時の発熱によって特にステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材に対する親和性がきわめて低いV酸化物に分解し、同時に分解生成したTi酸化物と共存した状態で、前記難削材に対してすぐれた表面潤滑性を発揮する作用があるが、VのTiとの合量に対する割合(原子比)、すなわちX値が0.1未満では相対的に切削加工時に生成するTi酸化物の割合が多くなり過ぎ、実質的にTi酸化物のみによる表面潤滑性しか得られず、一方X値が0.6を超えると前記Ti酸化物の生成が少なくなり過ぎ、Ti酸化物とV酸化物の共存によってもたらされるすぐれた表面潤滑性に低下傾向が現れるようになることから、X値を0.1〜0.6と定めた。
また、同(Ti,V)O層における酸素(O)のTiとVの合量に対する原子比(Y値)を1.2〜1.9としたのは、その値が1.2未満では所望のすぐれた表面潤滑性を確保することができず、一方その値が1.9を越えると、層中に気孔が形成され易くなり、健全な表面層の安定的形成が難しくなるという理由によるものである。
さらに、同(Ti,V)O層(表面層)の平均層厚を、0.1〜5μmとしたのは、その平均層厚が0.1μm未満では、所望の表面潤滑性を確保することができず、一方この表面潤滑性付与作用は5μmの平均層厚で十分満足に行うことができるという理由にもとづくものである。
【0011】
また、この発明の被覆超硬工具において、硬質被覆層を構成する下部層(Ti化合物層)には、硬質被覆層にすぐれた靭性を付与し、もって工具がすぐれた耐欠損性を発揮するようにするほか、硬質被覆層の層間密着性を向上させる作用があるが、その平均層厚が1μm未満では前記作用に所望の効果が得られず、一方その平均層厚が20μmを越えると、切削加工時に偏摩耗の原因となる熱塑性変形を起こし易くなることから、その平均層厚を1〜20μmと定めた。
さらに、同上部層(Al23層および/またはAl23−ZrO2混合層)は、すぐれた高温硬さと耐熱性、さらに熱的安定性を有し、これらの特性によって工具の耐摩耗性を向上させる作用をもつが、その平均層厚が1μm未満では前記作用に所望の効果が得られず、一方その平均層厚が15μmを越えると、切刃にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
【0012】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、(Ti,W)CN[質量比で、以下同じ、TiC/TiN/WC=24/20/56]粉末、(Ta,Nb)C(TaC/NbC=90/10)粉末、ZrC粉末、Cr32粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を同じく表1に示される条件で真空焼結し、研削加工と0.05Rのホーニングを施すことによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもった超硬基体(チップ)A〜Eをそれぞれ製造した。
なお、この結果得られた超硬基体(チップ)A〜 Eにおいては、いずれも焼結したままで、上記超硬基体Cには表面部に表面から20μmの位置で最大Co含有量:7.9質量%、深さ:26μmのCo富化帯域、上記超硬基体Dには表面部に表面から18μmの位置で最大Co含有量:11.5質量%、深さ:24μmのCo富化帯域、上記超硬基体Eには表面部に表面から22μmの位置で最大Co含有量:14.2質量%、深さ:28μmのCo富化帯域がそれぞれ形成されており、残りの超硬基体AおよびBには前記Co富化帯域の形成はなく、全体的に均一な組織をもつものであった。
さらに、表1には上記超硬基体A〜Eの内部硬さ(ロックウエル硬さAスケール)をそれぞれ示した。
【0013】
ついで、これらの超硬基体(チップ)A〜Eの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表2、3(表2中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである。)に示される条件にて、表4に示される組成および目標層厚の硬質被覆層を形成することにより、図1(a)に概略斜視図で、同(b)に概略縦断面図で示される形状を有する本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜10をそれぞれ製造した。
【0014】
なお、上記の本発明被覆超硬チップ1〜10のうちの本発明被覆超硬チップ1および本発明被覆超硬チップ3については、前者では、雰囲気ガス組成をTiCl4:1体積%、VCl4:0.5体積%、Ar:残りとし、雰囲気温度を1020℃、雰囲気圧力を7kPaとした雰囲気中に1時間保持の条件で、また後者では、雰囲気ガス組成をTiCl4:0.2体積%、VCl4:0.1体積%、Ar:残りとし、雰囲気温度を1000℃、雰囲気圧力を20kPaとした雰囲気中に2時間保持の条件で、上部層(Al23層またはAl23−ZrO2混合層)と表面層[(Ti,V)O層]の界面部に相互拡散層を形成する層間密着性向上処理を施した。
上記の層間密着性向上処理後、相互拡散層の厚さを走査型電子顕微鏡およびオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、5点測定の平均値で、前者では0.9μm、後者では0.6μmの平均層厚をそれぞれ示した。
【0015】
また、比較の目的で、表5に示される通り、上記表面層としての(Ti,V)O層を形成しない以外は同一の条件で同じく従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、従来被覆超硬チップと云う)1〜10をそれぞれ製造した。
【0016】
つぎに、上記本発明被覆超硬チップ1〜10および従来被覆超硬チップ1〜10について、これを工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:1mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速連続切削試験、さらに、
被削材:JIS・S10Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件での軟鋼の乾式高速断続切削試験を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果をそれぞれ5個の試験片の平均値として表6に示した。
【0017】
【表1】
Figure 0004240522
【0018】
【表2】
Figure 0004240522
【0019】
【表3】
Figure 0004240522
【0020】
【表4】
Figure 0004240522
【0021】
【表5】
Figure 0004240522
【0022】
【表6】
Figure 0004240522
【0023】
(実施例2)
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr32粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表7に示される配合組成に配合し、さらにボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表7に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法をもった4枚刃スクエア形状の超硬基体(エンドミル)a〜eをそれぞれ製造した。
【0024】
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)a〜eの表面に、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく通常の化学蒸着装置を用い、同じく表2、3に示される条件にて、表8に示される組成および目標層厚の硬質被覆層を形成することにより、図2(a)に概略正面図で、同(b)に切刃部の概略横断面図で示される形状を有する本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製エンドミル(以下、本発明被覆超硬エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0025】
また、比較の目的で、表9に示される通り、上記表面層としての(Ti,V)O層を形成しない以外は同一の条件で従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製エンドミル(以下、従来被覆超硬エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0026】
つぎに、上記本発明被覆超硬エンドミル1〜8および従来被覆超硬エンドミル1〜8のうち、本発明被覆超硬エンドミル1〜3および従来被覆超硬エンドミル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S15Cの板材、
切削速度:120m/min.、
溝深さ(切り込み):2mm、
テーブル送り:600mm/分、
形態:乾式(エアーブロー)、
の条件での軟鋼の高速溝加工試験、本発明被覆超硬エンドミル4〜6および従来被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS420J2の板材、
切削速度:100m/min.、
溝深さ(切り込み):4mm、
テーブル送り:300mm/分、
形態:湿式(水溶性切削油)
の条件でのステンレス鋼の高速溝加工試験、本発明被覆超硬エンドミル7,8および従来被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS630の板材、
切削速度:100m/min.、
溝深さ(切り込み):8mm、
テーブル送り:150mm/分、
形態:湿式(水溶性切削油)、
の条件でのステンレス鋼の高速溝加工試験をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mm減少するまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表8、9にそれぞれ示した。
【0027】
【表7】
Figure 0004240522
【0028】
【表8】
Figure 0004240522
【0029】
【表9】
Figure 0004240522
【0030】
(実施例3)
上記の実施例2で製造した直径が8mm(超硬基体a〜c形成用)、13mm(超硬基体d〜f形成用)、および26mm(超硬基体g、h形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×22mm(超硬基体a′,b′)、8mm×37mm(超硬基体c′,d′)、および16mm×58mm(超硬基体e′)の寸法をもった超硬基体(ドリル)a′〜e′をそれぞれ製造した。
【0031】
ついで、これらの超硬基体(ドリル)a′〜e′の表面に、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく通常の化学蒸着装置を用い、同じく表2、3に示される条件にて、表10に示される組成および目標層厚の硬質被覆層を形成することにより、図3(a)に概略正面図で、同(b)に溝形成部の概略横断面図で示される形状を有する本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製ドリル(以下、本発明被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0032】
また、比較の目的で、表11に示される通り、上記表面層としての(Ti,V)O層を形成しない以外は同一の条件で従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製ドリル(以下、従来被覆超硬ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0033】
つぎに、上記本発明被覆超硬ドリル1〜8および従来被覆超硬ドリル1〜8のうち、本発明被覆超硬ドリル1〜3および従来被覆超硬ドリル1〜3については、
被削材:平面寸法:100mm×250厚さ:50mmのJIS・S20Cの板材、
切削速度:120m/min.、
穴深さ:8mm、
送り:0.2mm/rev、
の条件での軟鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、本発明被覆超硬ドリル4〜6および従来被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度:100m/min.、
穴深さ:15mm、
送り:0.2mm/rev、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、本発明被覆超硬ドリル7,8および従来被覆超硬ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S15Cの板材、
切削速度:150m/min.、
穴深さ:30mm、
送り:0.3mm/rev、
の条件での軟鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験、
をそれぞれ行い、いずれの湿式(水溶性切削油使用)高速穴あけ切削加工試験でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表10、11にそれぞれ示した。
【0034】
【表10】
Figure 0004240522
【0035】
【表11】
Figure 0004240522
【0036】
なお、この結果得られた本発明被覆超硬工具としての本発明被覆超硬チップ1〜10、本発明被覆超硬エンドミル1〜8、および本発明被覆超硬ドリル1〜8の表面層について、その厚さ方向中央部のV含有量および酸素(O)含有割合(X値およびY値)をオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、表3に示される目標値と実質的に同じ値を示した。また、これらの本発明被覆超硬工具、並びに従来被覆超硬工具としての従来被覆超硬チップ1〜10、従来被覆超硬エンドミル1〜8、および従来被覆超硬ドリル1〜8の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
【0037】
【発明の効果】
表4〜11に示される結果から、硬質被覆層の表面層として(Ti,V)O層を形成した本発明被覆超硬工具は、いずれもステンレス鋼や軟鋼の切削加工を高い発熱を伴う高速で行っても、前記(Ti,V)O層が高温加熱の切粉との親和性がきわめて低く、切粉が前記(Ti,V)O層に溶着することがなく、切刃は常にすぐれた表面潤滑性を維持することから、切刃への切粉溶着が原因のチッピングが切刃に発生することがなく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、前記(Ti,V)O層の形成のない従来被覆超硬工具においては、切粉が硬質被覆層に溶着し易く、これが原因で硬質被覆層が局部的に剥がし取られることから、切刃にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に粘性が高く、切粉が切刃表面に溶着し易いステンレス鋼や軟鋼などの高速切削加工でも切粉に対してすぐれた表面潤滑性を発揮し、汎用性のある切削性能を示すものであるから、切削加工装置のFA化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は被覆超硬チップの概略斜視図、(b)は被覆超硬チップの概略縦断面図である。
【図2】(a)は被覆超硬エンドミル概略正面図、(b)は同切刃部の概略横断面図である。
【図3】(a)は被覆超硬ドリルの概略正面図、(b)は同溝形成部の概略横断面図である。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金基体の表面に、
    (a)下部層として、1〜20μmの平均層厚を有する、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層、
    (b)上部層として、1〜15μmの平均層厚を有する、酸化アルミニウム層および/または酸化アルミニウムの素地に酸化ジルコニウム相が分散分布してなる酸化アルミニウム−酸化ジルコニウム混合層、
    (c)表面層として、0.1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、
    組成式:(Ti1-XX)OY
    で表わした場合、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
    X:0.1〜0.6、
    Y:TiとVの合量に対する原子比で1.2〜1.9、
    を満足するTiとVの複合酸化物層、
    以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を化学蒸着および/または物理蒸着してなる、切粉に対する表面潤滑性にすぐれた表面被覆超硬合金製切削工具。
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