JP3912494B2 - 硬質被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ - Google Patents

硬質被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、硬質被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を有し、特に鋼や鋳鉄などの高熱発生を伴う高速切削に用いた場合に、切刃部に偏摩耗などの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮する表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、被覆超硬工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
【0003】
さらに、一般に、例えば特開平7−328808号公報などに記載される通り、炭化タングステン基超硬合金基体(以下、超硬基体という)の表面に、
(a)下側層として、5〜20μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:Ti(C1−Y)(但し、原子比で、Y:0.15〜0.60)、
を満足し、さらに縦長成長結晶組織を有するTiの複合炭窒化物(以下、l−TiCNで示す)層、
(b)上側層として、1〜10μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する酸化アルミニウム(以下、Al23で示す)層、
(c)上記の基体、下側層、および上側層の相互間の密着層として、いずれも0.1〜1μmの平均層厚および粒状結晶組織を有するTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2種以上、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を化学蒸着および/または物理蒸着してなる被覆超硬工具が知られており、この被覆超硬工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
【0004】
また、一般に、上記の従来被覆超硬工具の硬質被覆層においては、下側層であるl−TiCN層が高強度と高靭性を有し、かつ上側層であるAl23層がすぐれた高温硬さと耐熱性を有し、これらの特性が切削時に総合的に発揮されることにより切刃部にチッピング(微小欠け)などの発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するようになるものであり、さらに前記l−TiCN層が、例えば特開平6−8010号公報などに記載されるように、例えば通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物を含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成されることや、前記Al23層としてα型結晶構造をもつものやκ型結晶構造をもつものなどが広く実用に供されていることも良く知られるところである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年の切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は切削機械の高性能化とも相俟って高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工に用いた場合には問題はないが、これを高熱発生を伴う高速切削条件で用いると、硬質被覆層を構成するl−TiCN層が高熱により熱塑性変形を起し、この結果切刃部には摩耗促進の原因となる偏摩耗が発生するようになることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、高熱発生を伴う高速切削に用いた場合にも、切刃部に偏摩耗発生のない被覆超硬工具を開発すべく、特にこれの硬質被覆層を構成するl−TiCN層の耐熱塑性変形性向上に着目し、研究を行った結果、
(a)上記の従来被覆超硬工具の被覆超硬工具を構成する下側層のl−TiCN層を、例えば化学蒸着装置を用いて形成するに際して、反応ガスとしてWF6やWCl6などの成分を微量配合した反応ガス、例えば、体積%で、
TiCl4:0.5〜5%、
WF6:0.01〜0.3%、
CH3CN:0.1〜4%、
2:0〜70%、
24:0〜3%
2:残り、
からなる組成を有する反応ガスを用い、反応雰囲気温度および反応雰囲気圧力は同じ条件、すなわち
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜70kPa、
とした条件で下側層を形成すると、この結果上記の従来l−TiCN層と同じ縦長成長結晶構造を有するTiとWの複合炭窒化物(以下、l−(Ti,W)CNで示す)層からなる下側層が形成されるようになること。
(b)上記硬質層の下側層を構成するl−(Ti,W)CN層を、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
組成式:(Ti1−X)C1−Y(但し、原子比で、X:0.005〜0.05、Y:0.15〜0.45)、
を満足するl−(Ti,W)CN層、
で構成すると、このl−(Ti,W)CN層は、縦長成長結晶組織によってもたらされる高強度と高靭性を保持したままで、W成分の作用ですぐれた耐熱塑性変形性を具備するようになり、したがって、この結果のl−(Ti,W)CN層が硬質層の下側層を構成する被覆超硬工具は、これを特に鋼や鋳鉄などの高熱発生を伴う高速切削加工に用いても、上側層のAl23層がすぐれた高温硬さと耐熱性を有することと相俟って、硬質被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮することから、切刃部に熱塑性変形の発生がなくなり、偏摩耗が著しく抑制され、摩耗形態が正常摩耗形態となることから、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すこと。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
【0007】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(a)下側層として、5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
組成式:(Ti1−X)C1−Y(但し、原子比で、X:0.005〜0.05、Y:0.15〜0.45)、
を満足するl−(Ti,W)CN層、
(b)上側層として、1〜10μmの平均層厚および粒状結晶組織を有するAl23層、
(c)上記の基体、下側層、および上側層の相互間の密着層として、いずれも0.1〜1μmの平均層厚および粒状結晶組織を有するTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの2種以上、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を化学蒸着してなる、硬質被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆超硬合金製スローアウエイチップに特徴を有するものである。
【0008】
つぎに、この発明の被覆超硬工具において、硬質被覆層を構成する下側層、上側層、および密着層について、上記の通りに数値限定した理由を説明する。
(a)下側層
下側層を構成するW成分には、上記の通り高速切削加工での高熱発生時の層自体の熱塑性変形を阻止し、切刃部に摩耗進行促進の原因となる偏摩耗が発生するのを防止する作用があり、したがって、その割合(X値)が、Ti成分との合量に占める割合で、原子比(以下同じ)で0.005未満では前記作用に所望の向上効果が得られず、一方その割合が0.05を越えると、層自体の強度および靭性が急激に低下するようになることから、その割合(X値)を0.005〜0.05と定めた。
また、同じく下側層を構成するC成分には層自体の強度、同N成分には靭性をそれぞれ向上させる作用があるが、N成分の割合(Y値)がC成分との合量に占める割合で、0.15未満では相対的にC成分が多くなり過ぎて、所望の高靭性を確保することができず、一方その割合(Y値)が同0.45を越えると、相対的にC成分の割合が0.55未満となってしまい、所望の強度が得られなくなることから、その割合(Y値)を0.15〜0.45と定めた。
さらに、その平均層厚を5〜15μmとしたのは、その平均層厚が5μm未満では硬質被覆層に下側層の具備する高強度と高靭性を十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、W成分の含有があっても熱塑性変形の発生を抑制することが困難になる、という理由によるものである。
【0009】
(b)上側層および密着層
上側層の平均層厚を1〜10μmとしたのは、その平均層厚が1μm未満では硬質被覆層に上側層の具備するすぐれた高温硬さと耐熱性を十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が10μmを越えると、切刃部にチッピングが発生し易くなる、という理由によるものである。
また、密着層の平均層厚を、0.1〜1μmとしたのは、その平均層厚が0.1μm未満では、層間に所望のすぐれた密着性を確保することができず、一方層間密着性は1μmの平均層厚で十分満足に得られるものであり、その平均層厚が1μmを越えると、この部分が破壊の起点となって切刃部に欠けやチッピングが発生し易くなる、という理由にもとづくものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
原料粉末として、いずれも0.5〜4μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、(Ti,W)C(重量比で、以下同じ、TiC/WC=30/70)粉末、(Ti,W)CN(TiC/TiN/WC=24/20/56)粉末、(Ta,Nb)C(TaC/NbC=90/10)粉末、Cr32粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa(1ton/cm2 )の圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Pa(0.05torr)の真空中、1410℃に1時間保持の条件で真空焼結することによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもった超硬基体(チップ)A−2〜A−6をそれぞれ製造した。
【0011】
ついで、これらの超硬基体(チップ)A−2〜A−6の表面に、ホーニングを施した状態で、通常の化学蒸着装置を用い、表2、3に示される条件にて、表5に示される組成および目標層厚の下側層[l−(Ti,W)CN(3)〜(8)]、上側層(α−Al23層またはκ−Al23層)、および密着層(TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの2種以上)からなる硬質被覆層を形成することにより、図1(a)に概略斜視図で、同(b)に概略縦断面図で示される形状を有する本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)3〜8をそれぞれ製造した。
【0012】
また、比較の目的で、表2、4に示される条件にて、表6に示される通り、上記の下側層であるl−(Ti,W)CN(3)〜(8)層に代ってl−TiCN(3)〜(8)層を下側層として形成する以外は同一の条件で同じく従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、従来被覆超硬チップと云う)3〜8をそれぞれ製造した。
【0013】
この結果得られた本発明被覆超硬チップ〜8および従来被覆超硬チップ3〜8の下側層について、その厚さ方向中央部のW含有割合(X値)およびN含有割合(Y値)をオージェ分光分析装置を用いて測定したところ、表3,4に示される目標値と実質的に同じ値を示した。
また、上記の本発明被覆超硬チップ3〜8および従来被覆超硬チップ3〜8の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも表5,6に示される目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
なお、上記の目標値と実測値の関係は以下の実施例2、3でも同じ結果を示した。
【0014】
つぎに、上記本発明被覆超硬チップ3〜8および従来被覆超硬チップ3〜8について、これを工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SCM415の丸棒、
切削速度:400m/min.、
切り込み:2.5mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:5 分、
の条件での合金鋼の乾式高速連続旋削加工試験、
被削材:JIS・S25Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:3mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:3分、
の条件での炭素鋼の乾式高速断続旋削加工試験、さらに、
被削材:JIS・FCD450の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:2.5mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:3 分、
の条件でのダクタイル鋳鉄の乾式高速断続旋削加工試験を行い、いずれの旋削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
【0015】
【表1】
Figure 0003912494
【0016】
【表2】
Figure 0003912494
【0017】
【表3】
Figure 0003912494
【0018】
【表4】
Figure 0003912494
【0019】
【表5】
Figure 0003912494
【0020】
【表6】
Figure 0003912494
【0021】
【表7】
Figure 0003912494
【0022】
【発明の効果】
表5〜に示される結果から、本発明被覆超硬工具は、いずれも高い発熱を伴う鋼や鋳鉄の高速切削に用いても、硬質被覆層の下側層をl−(Ti,W)CN層で構成することにより前記硬質被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を具備するようになることから、偏摩耗の発生なく、正常摩耗を示し、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、従来被覆超硬工具においては、特に硬質被覆層の下側層であるl−TiCN層が高速切削時に発生する高熱によって熱塑性変形を起し、これが原因で偏摩耗が発生し、摩耗が急速に促進されるようになることから、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に高速切削加工でも硬質被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すものであり、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は被覆超硬チップの概略斜視図、(b)は被覆超硬チップの概略縦断面図である。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金基体の表面に、
    (a)下側層として、5〜15μmの平均層厚を有し、かつ、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
    組成式:(Ti1−X)C1−Y(但し、原子比で、X:0.005〜0.05、Y:0.15〜0.45)、
    を満足し、さらに縦長成長結晶組織を有するTiとWの複合炭窒化物層、
    (b)上側層として、1〜10μmの平均層厚および粒状結晶組織を有する酸化アルミニウム層、
    (c)上記の基体、下側層、および上側層の相互間の密着層として、いずれも0.1〜1μmの平均層厚および粒状結晶組織を有するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの2種以上、
    以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を化学蒸着してなる、硬質被覆層がすぐれた耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ
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