JP3573115B2 - 切粉に対する表面潤滑性にすぐれた表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、切粉に対する表面潤滑性にすぐれ、したがって特にステンレス鋼や軟鋼などのきわめて粘性が高く、かつ切粉が切刃表面に溶着し易い難削材の高速切削加工を、特に高切込みや高送りなどの重切削条件で用いた場合に、切刃に欠けやチッピング(微小欠け)などの発生なく、すぐれた切削性能を長期に亘って発揮する表面被覆超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、被覆超硬工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
【0003】
また、上記の被覆超硬工具が、一般に、例えば図1に概略説明図で示される物理蒸着装置の1種であるアークイオンプレーティング装置を用い、ヒータで装置内を、例えば雰囲気を1.3×10-3Paの真空として、500℃の温度に加熱した状態で、アノード電極と、金属Tiがセットされたカソード電極(蒸発源)との間にアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとしてメタンガスおよび窒素ガスのいずれか、またはこれら両方を導入し、一方炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットからなり、かつ前記アノード電極およびカソード電極と所定間隔をもって対向配置された工具基体(以下、これらを総称して超硬基体と云う)には、例えば−120Vのバイアス電圧を印加した条件で、前記超硬基体の表面に、Tiの炭化物層、窒化物層、および炭窒化物層(以下、それぞれTiC層、TiN層、およびTiCN層で示す)のうちの1種または2種以上からなる硬質被覆層を0.1〜10μmの平均層厚で物理蒸着することにより製造されることも知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削工具には1種類の工具でできるだけ多くの材種の被削材を切削加工できる汎用性が求められると共に、切削加工も高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工に用いた場合には問題はないが、これをきわめて粘性の高いステンレス鋼や軟鋼などの被削材の高速切削に用いた場合には、これら被削材の切粉は、被覆層を構成するTiC層やTiN層、さらにTiCN層に対する親和性が高いために、切刃表面に溶着し易く、この溶着現象が原因で切刃に欠けやチッピングが発生し、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特にステンレス鋼や軟鋼などの切削加工に用いた場合にも、切刃表面に切粉の溶着し難い被覆超硬工具を開発すべく研究を行った結果、
(a)上記の従来被覆超硬工具の表面に、表面被覆層として、組成式:(Zr1-mMm)On (ただし、MはTiおよびTaのうちの1種または2種を示す)、で表わした場合、厚さ方向断面中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
m:0.01〜0.1、
n:1.7〜2.3、
を満足するZrとMの複合酸化物[以下(Zr,M)Oで示す]層からなる被覆層を、0.5〜15μmの平均層厚で物理蒸着すると、この結果の(Zr,M)O層が上記の通常の硬質被覆層の表面に物理蒸着された被覆超硬工具においては、表面被覆層を構成する(Zr,M)O層の被削材、特にステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材に対する親和性がきわめて低く、この結果切刃に切粉が溶着することがない、すなわち前記(Zr,M)O層がすぐれた表面潤滑性を発揮することから、切刃に欠けやチッピングの発生がなくなり、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するようになること。
【0006】
(b)上記の物理蒸着法により形成された(Zr,M)O層は、被覆層を構成する硬質被覆層であるTiC層やTiN層、さらにTiCN層との密着性が十分でないので、上記の従来被覆超硬切削工具の表面に前記(Zr,M)O層を直接形成してなる被覆超硬切削工具においては、特に工具切刃に高い負荷のかかるステンレス鋼や軟鋼などの高速切削を高切込みや高送りなどの重切削条件で行った場合に前記(Zr,M)O層に剥離が発生し易いこと。
【0007】
(c)上記の従来被覆超硬切削工具を構成するTiC層やTiN層、さらにTiCN層からなる硬質被覆層の表面に、まず、Tiの複合炭酸化物[以下、TiCOで示す]層およびTiの複合炭窒酸化物[以下、TiCNOで示す]層のうちのいずれか、または両方を物理蒸着し、この上に(Zr,M)O層を物理蒸着させると、この結果の(Zr,M)O層は上記TiCO層およびTiCNO層に著しく強固に密着し、かつ前記TiCO層およびTiCNO層は前記TiC層、TiN層、およびTiCN層からなる硬質被覆層に対する密着性にもすぐれたものであるから、前記硬質被覆層に前記TiCO層およびTiCNO層を介して前記(Zr,M)O層を物理蒸着してなる被覆超硬切削工具は、ステンレス鋼や軟鋼などの高速切削を、特に工具切刃に高い負荷のかかる高切込みや高送りなどの重切削条件で行っても前記(Zr,M)O層に剥離の発生なく、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
【0008】
この発明は、上記の研究結果にもとづいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(a)TiC層、TiN層、およびTiCN層のうちの1種または2種以上からなり、かつ0.1〜10μmの平均層厚を有する硬質被覆層、
(b)TiCO層およびTiCNO層のうちのいずれか、または両方からなり、かつ0.1〜5μmの平均層厚を有する中間密着被覆層、
(c)組成式:(Zr1-mMm)On (ただし、MはTiおよびTaのうちの1種または2種を示す)で表わした場合、厚さ方向断面中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
m:0.01〜0.1、
n:1.7〜2.3、
を満足する(Zr,M)O層からなり、かつ0.5〜15μmの平均層厚を有する表面潤滑被覆層、
以上(a)〜(c)からなる被覆層を物理蒸着してなる、切粉に対する表面潤滑性にすぐれた被覆超硬工具に特徴を有するものである。
【0009】
つぎに、この発明の被覆超硬工具を構成する硬質被覆層、中間密着被覆層、および表面潤滑被覆層について、上記の通りに数値限定した理由を説明する。
(a)硬質被覆層
その平均層厚が0.1μm未満では所望の耐摩耗性向上効果が得られず、一方その平均層厚が10μmを越えると、切削時に発生する高熱によって熱塑性変形を起し、切刃に偏摩耗が発生し、これが原因で摩耗進行が急激に促進されるようになることから、その平均層厚を0.1〜10μmと定めた。
【0010】
(b)中間密着被覆層
その平均層厚が0.1μm未満では、上記の硬質被覆層と表面潤滑被覆層との間に強固な密着性を確保することができず、一方その平均層厚が5μmを越えると、切刃に欠けやチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.1〜5μmと定めた。
【0011】
(c)表面潤滑被覆層
表面潤滑被覆層を構成する(Zr,M)O層は、Zr酸化物に上記の通りの割合のM成分が固溶したものからなる。前記Zr酸化物は、被削材、特にステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材に対する親和性がきわめて低く、これは高い発熱を伴う高速切削加工でも変わらず、したがって前記Zr酸化物層を物理蒸着してなる被覆超硬工具はすぐれた表面潤滑性を発揮するようになることから、切刃に切粉が溶着することがなくなり、この結果切刃に欠けやチッピングの発生がなくなり、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するようになるが、一方で前記Zr酸化物層は脆く、強靭性に欠けるものであるため、摩耗進行が速いという問題点がある。しかし、前記Zr酸化物層に、原子比で0.01〜0.1の割合でM成分、すなわちTiおよびTaのうちの1種または2種を固溶含有させると、この結果の(Zr,M)O層はZr酸化物層と同等の著しくすぐれた表面潤滑性を具備した上で、靭性および強度をもつようになり、この結果耐摩耗性が著しく向上するようになる。したがって、MのZrとの合量に占める割合(原子比)、すなわちm値が0.01未満では所望の靭性および強度を確保することができず、一方m値が0.1を超えるとすぐれた表面潤滑性に低下傾向が現れるようになることから、m値を0.01〜0.1と定めた。
また、同(Zr,M)O層における酸素(O)の原子比(n値)を1.7〜2.3としたのは、その値が1.7未満では所望のすぐれた表面潤滑性を確保することができず、一方その値が2.3を越えると、層中に気孔が形成され易くなり、健全な表面潤滑被覆層の安定的形成が難しくなるという理由によるものである。
さらに、同(Zr,M)O層の平均層厚を、0.5〜15μmとしたのは、その平均層厚が0.5μm未満では、所望の表面潤滑性を確保することができず、一方この表面潤滑性付与作用は15μmの平均層厚で十分満足に行うことができるという理由にもとづくものである。
なお、上記の表面潤滑被覆層の上に、必要に応じてTiN層を0.1〜2μmの平均層厚で形成してもよく、これはTiN層が黄金色の色調を有し、この色調によって切削工具の使用前と使用後の識別が容易になるという理由からで、この場合その平均層厚が0.1μm未満では前記色調の付与が不十分であり、一方前記色調の付与は2μmまでの平均層厚で十分である。
【0012】
【発明の実施の形態】
ついで、この発明の被覆超硬切削工具を実施例により具体的に説明する。
(実施例1)
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、Co:12.5%、TiC:2%、TiN:1%、TaN:2%、WC:残り、の配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.05のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体A−1を形成した。
【0013】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(重量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN系サーメット製の超硬基体B−1,B−2を形成した。
【0014】
ついで、これら超硬基体A−1,B−1およびB−2を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、それぞれ図1に例示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、一方カソード電極(蒸発源)として金属Tiを装着し、装置内を排気して1.3×10-3Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、Arガスを装置内に導入して2.5PaのAr雰囲気とし、この状態で超硬基体に−800Vのバイアス電圧を印加して超硬基体表面をArガスボンバート洗浄し、引き続いて3×10-3Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を600〜700℃の範囲内の所定の温度に加熱した状態で、前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、装置内に反応ガスとして、メタンガスおよび窒素ガスのいずれかを導入して所定圧力の反応雰囲気とすると共に、前記超硬基体に印加するバイアス電圧を−150Vとし、もって前記超硬基体A−1,B−1およびB−2のそれぞれの表面に、表2に示される目標組成および目標層厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより、図2(a)に概略斜視図で、同(b)に概略縦断面図で示される形状を有する従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、従来被覆超硬チップと云う)1〜3をそれぞれ製造した。
【0015】
ついで、これら従来被覆超硬チップ1〜3のそれぞれの表面に、同じく図1のアークイオンプレーティング装置にて、カソード電極(蒸発源)として、中間密着被覆層形成用の金属、および表面潤滑被覆層形成用の種々の成分組成をもったZr−M合金を装着し、装置内を排気して1.3×10-3Paの真空に保持しながら、ヒーターで装置内を620〜720℃の範囲内の所定の温度に加熱した状態で、超硬基体に印加するパルスバイアス電圧を−350Vとし、ついで装置内に反応ガスとして酸素ガス、酸素ガスとメタンガスの混合ガス、あるいは酸素ガスとメタンガスと窒素ガスの混合ガスを導入して所定圧力の反応雰囲気とし、かつ前記カソード電極とアノード電極との間にアーク放電を発生させ、もって表3に示される目標組成および目標層厚の中間密着被覆層および表面潤滑被覆層を形成することにより同じく図2に示される形状をもった本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜3をそれぞれ製造した。
【0016】
なお、この結果得られた各種の被覆超硬チップについて、これを構成する各種被覆層の組成および層厚を、オージェ分光分析装置および走査型電子顕微鏡を用いて測定したところ、表2,3の目標組成および目標層厚と実質的に同じ組成および平均層厚(任意5ヶ所測定の平均値)を示した。
【0017】
ついで、この結果得られた各種の被覆超硬チップのうち、本発明被覆超硬チップ1および従来被覆超硬チップ1について、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:2.3mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速連続高切込み旋削加工試験、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:180m/min.、
切り込み:1.3mm、
送り:0.48m/rev.、
切削時間:3分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速断続高送り旋削加工試験、さらに、
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:270m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.50mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件での軟鋼の乾式高速断続高送り旋削加工試験を行い、いずれの旋削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
【0018】
また、本発明被覆超硬チップ2,3および従来被覆超硬チップ2,3については、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度:380m/min.、
切り込み:2.8mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速連続高切込み旋削加工試験、
被削材:JIS・SUS304の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:230m/min.、
切り込み:1.8mm、
送り:0.45mm/rev.、
切削時間:3分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速断続高送り旋削加工試験、さらに、
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:320m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.42mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件での軟鋼の乾式高速断続高送り旋削加工試験を行い、いずれの旋削加工試験でも切刃部の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表4に示した。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
(実施例2)
原料粉末として、平均粒径:0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末を、Co:6%、TaC:1%、NbC:0.5%、WC:残り、の配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mmの超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さが6mm×13mmの寸法をもった超硬基体(ドリル)を製造した。
【0024】
ついで、上記超硬基体(ドリル)の表面に、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に例示される通常のアークイオンプレーティング装置に装入し、反応ガスとして、メタンガスおよび窒素ガスのいずれか、または両方を導入し、上記実施例1と同一の条件で、第1層として目標層厚:0.3μmのTiN層、第2層として目標層厚:1.5μmのTiCN層、そして第3層として目標層厚:2μmのTiC層からなる硬質被覆層を蒸着形成することにより、図3(a)に概略正面図で、同(b)に溝形成部の概略横断面図で示される形状を有する従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬合金製ドリル(以下、従来被覆超硬ドリルと云う)を製造した。
【0025】
さらに、上記の従来被覆超硬ドリルの表面に、同じくアークイオンプレーティング装置にて、上記実施例1と同一の条件で、第1層として目標層厚:3μmのTiCO層、第2層として目標層厚:2μmのTiCNO層からなる中間密着被覆層、さらに表面潤滑被覆層として目標m値:0.09、目標n値:2.1の(Zr,Ti)O層を6μmの目標層厚で蒸着形成することにより同じく図3に示される形状をもった本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬合金製ドリル(以下、本発明被覆超硬ドリルと云う)を製造した。
【0026】
また、この結果得られた被覆超硬ドリルについて、これを構成する各種被覆層の組成および層厚を、オージェ分光分析装置および走査型電子顕微鏡を用いて測定したところ、上記の目標組成および目標層厚と実質的に同じ組成および平均層厚(任意5ヶ所測定の平均値との比較)を示した。
【0027】
つぎに、上記本発明被覆超硬ドリルおよび従来被覆超硬ドリルについて、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304板材、
回転速度:3800min-1、
送り:0.20mm/rev、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速高送り穴あけ加工試験(水溶性切削油使用)を行い、先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この結果、上記本発明被覆超硬ドリルは、切刃にチッピングの発生なく、1550穴の穴あけ加工数を示したのに対して、従来被覆超硬ドリルは切刃に発生したチッピングが原因で500穴で使用寿命に至るものであった。
【0028】
【発明の効果】
上記の実施例に示される結果から、本発明被覆超硬切削工具は、いずれも表面潤滑被覆層としての(Zr,M)O層によって切刃表面にすぐれた潤滑性が確保され、これが中間密着被覆層を構成するTiCO層およびTiCNO層と強固に密着し、一方前記中間密着被覆層は上記の硬質被覆層を構成するTiC層やTiN層、さらにTiCN層に対しても強固に密着するようになるので、ステンレス鋼や軟鋼の切削加工を高い発熱を伴う高速で、かつ高切込みや高送りなどの重切削条件で行っても、高温に加熱された切粉が前記(Zr,M)O層に溶着することがなく、切刃は常にすぐれた表面潤滑性を維持することから、切刃への切粉溶着が原因のチッピングが切刃に発生することがなく、すぐれた耐摩耗性を発揮するのに対して、前記(Zr,M)O層の形成のない従来被覆超硬工具においては、切粉が硬質被覆層であるTiC層やTiN層、さらにTiCN層に溶着し易く、これが原因で前記硬質被覆層が局部的に剥がし取られることから、切刃にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に粘性が高く、切粉が切刃表面に溶着し易いステンレス鋼や軟鋼などの高速切削加工を高切込みや高送りなどの重切削条件で行っても切粉に対してすぐれた表面潤滑性を発揮し、汎用性のある切削性能を示すものであるから、切削加工装置のFA化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】アークイオンプレーティング装置の概略説明図である。
【図2】(a)は被覆超硬チップの概略斜視図、(b)は被覆超硬チップの概略縦断面図である。
【図3】(a)は被覆超硬ドリルの概略正面図、(b)は同溝形成部の概略横断面図である。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、
(a)Tiの炭化物層、窒化物層、および炭窒化物層のうちの1種または2種以上からなり、かつ0.1〜10μmの平均層厚を有する硬質被覆層、
(b)Tiの複合炭酸化物層および複合炭窒酸化物層のうちのいずれか、または両方からなり、かつ0.1〜5μmの平均層厚を有する中間密着被覆層、
(c)組成式:(Zr1-m Mm )On(ただし、MはTiおよびTaのうちの1種または2種を示す)、で表わした場合、厚さ方向断面中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
m:0.01〜0.1、
n:1.7〜2.3、
を満足するZrとMの複合酸化物層からなり、かつ0.5〜15μmの平均層厚を有する表面潤滑被覆層、
以上(a)〜(c)からなる被覆層を物理蒸着してなる、切粉に対する表面潤滑性にすぐれた表面被覆超硬合金製切削工具。
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