JP4238951B2 - 研磨用組成物およびそれを用いたメモリーハードディスクの製造方法 - Google Patents

研磨用組成物およびそれを用いたメモリーハードディスクの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、メモリーハードディスク、すなわちコンピューターなどに用いられる記憶装置に使用される磁気ディスク用基盤(以下、「サブストレート」という)の製造において、その表面の仕上げ研磨、特に最終仕上げ研磨に好適な研磨用組成物に関するものである。
【0002】
さらに詳しくは、Ni−Pディスク、Ni−Feディスク、アルミニウムディスク、ボロンカーバイドディスクおよびカーボンディスク等に代表される各種のサブストレートの製造工程の表面粗さが小さく高鏡面に仕上げる研磨工程において、研磨速度が大きく、同時に高容量かつ高記録密度のメモリーハードディスクに使用できる優れた研磨表面が得られる研磨用組成物に関するものであり、また、この研磨用組成物を用いたメモリーハードディスクの製造方法に関するものである。
【0003】
【従来の技術】
コンピューターなどの記憶装置のひとつであるメモリーハードディスクは、年々小型化、高容量化の一途をたどっており、そのメモリーハードディスクに使用されて、現在、最も広く普及しているサブストレートは、ブランク材に無電解Ni−Pメッキを成膜したものである。なお、ブランク材とは、サブストレートの基材であるアルミニウムおよびその他の基盤を、平行度や平坦度を持たせる目的でダイヤターンによる旋盤加工、SiC研磨材を固めて作られたPVA砥石を用いたラップ加工およびその他の方法により整形したものである。
【0004】
しかしながら、上記のような各種の整形方法では、ブランク材の比較的大きなうねりを完全に除去することができず、このブランク材に成膜される無電解Ni−Pメッキもうねりに沿って成膜されてしまうため、サブストレートにもうねりが残ってしまうことがあるとともに、サブストレートの表面にノジュールや大きなピットが発生することがある。なお、ここでいうノジュールとは、Ni−P成膜前のアルミニウム基盤上に不純物が付着していたり、Ni−Pメッキの膜の中に不純物が取り込まれることにより、その部分のメッキ表面が盛り上がって成膜されることにより発生する、直径がおおよそ50μm以上の膨らみのことである。また、ピットとは、研磨によりサブストレートの表面に発生したへこみのことであり、また微細なピットとは、そのうち直径がおおよそ10μm未満のへこみのことである。
したがって、このサブストレートのうねりを除去し、表面を平滑化する目的のために、表面研磨が行われる。
【0005】
また、メモリーハードディスクの高容量化に伴い、面記録密度は年に数十%の割合で向上している。このため、記録される一定量の情報が占めるメモリーハードディスク上のスペースはますます狭くなり、記録に必要な磁力は弱くなってきている。よって、最近では、磁気ヘッドとメモリーハードディスクの隙間であるヘッド浮上高を小さくする必要に迫られており、現在では、そのヘッド浮上高は1.0マイクロインチ(約0.025μm)以下にまで及んでいる。
【0006】
そして、情報の読み書きを行う磁気ヘッドがメモリーハードディスクへ吸着することと、サブストレートの表面に研磨によるメモリーハードディスクの回転方向とは異なる一定方向の筋目がつくこととにより、メモリーハードディスク上の磁界が不均一になることを防止する目的で、研磨後のサブストレートに同心円状の筋目をつける、いわゆるテクスチャー加工が行われることがある。最近では、ヘッド浮上高をさらに低くする目的で、サブストレート上に施す筋目をより薄くしたライトテクスチャー加工が行われたり、さらにはテクスチャー加工を行わずに筋目をつけないノンテクスチャーのサブストレートも用いられるようになっている。このような、磁気ヘッドの低浮上化をサポートする技術も開発され、ヘッドの低浮上化がますます進んできている。
【0007】
磁気ヘッドは、非常に高速で回転しているメモリーハードディスクの表面の形状に沿って浮上しており、メモリーハードディスクの表面にうねりがあった場合は、そのうねりに追従して磁気ヘッドは上下動を行う。しかしながら、そのうねりがある一定の高さを超える場合、またはその高さに対して幅が小さい場合は、磁気ヘッドがうねりを追従しきれなくなって、磁気ヘッドがメモリーハードディスクの表面とぶつかってしまう、いわゆる「ヘッドクラッシュ」が発生し、メモリーハードディスクの表面の磁性媒体や磁気ヘッドを損傷させてしまうことがあり、メモリーハードディスクの故障の原因となったり、情報を読み書きする際のエラーの原因となることがある。
【0008】
一方、メモリーハードディスクの表面に数μm 程度の微小な突起物があった場合も、ヘッドクラッシュが発生することがある。また、メモリーハードディスク上にピットが存在した場合は、情報が完全に書き込まれず、いわゆる「ビット落ち」と呼ばれる情報の欠落や情報の読み取り不良が発生し、エラー発生の原因となることがある。
【0009】
したがって、メモリーハードディスクを形成する前工程の研磨加工において、サブストレートの表面粗さを小さくすることが重要であり、同時に比較的大きなうねり、微小突起やピットおよびその他の表面欠陥を完全に除去する必要がある。
【0010】
このような目的のために、従来は、酸化アルミニウムまたはその他の各種研磨材と、水と、各種の研磨促進剤とを含む研磨用組成物(その性状から「スラリー」ともいう)を用いて、1回の研磨で仕上げられていた。しかしながら、1段階の研磨では、サブストレートの比較的大きなうねりや、サブストレートの表面に発生するノジュールおよび大きなピットなどの表面欠陥を除去し、かつ一定時間内に表面粗さを非常に小さくすることのすべてを満足することは非常に困難であった。このため、2段階以上の研磨工程が検討されるようになってきた。
【0011】
2段階で研磨工程を行う場合、1段階目の研磨工程は、サブストレートの比較的大きなうねりや、表面に発生するノジュールおよび大きなピットなどの表面欠陥を除去すること、すなわち整形が主たる目的となる。このため、表面粗さを小さくすることより、むしろ2段階目の仕上げ研磨工程で除去できないような深いスクラッチの発生が少なく、うねりや表面欠陥に対して加工修正能力の大きい研磨用組成物が要求される。このため、研磨速度を大きくする目的で、研磨用組成物中の研磨材としては比較的大きな粒子径のものが用いされる。
【0012】
また、2段階目の研磨工程、すなわち仕上げ研磨工程は、サブストレートの表面粗さを非常に小さくすることを目的とする。このため、1段階目の研磨工程で要求されるような大きなうねりや表面欠陥に対して加工修正能力が大きいことよりも、表面粗さを小さくすることが可能であり、微小突起、微細なピットおよびその他の表面欠陥の発生を防止できることが要求される。さらには、生産性の観点から研磨速度が大きいことも要求される。なお、表面粗さの程度は、サブストレートの製造工程、メモリーハードディスクとしての最終的な記録容量およびその他の条件によって決定されるが、求められる表面粗さの程度によっては、2段階を超える研磨工程が採用されることもある。
【0013】
最近では、加工コスト低減のためPVA砥石を用いたブランク材加工の改良が行われており、研磨用組成物を使用する前のブランク材の表面粗さを低減することで研磨前のサブストレートの表面粗さやうねり等の品質を1段階目の研磨工程後の品質に近づけることが考えられている。そのような加工が行われた場合においては、1段階目の研磨工程は不要であり、いわゆる仕上げ研磨行程のみを行うことも可能となる。
【0014】
そこで、1段階目および2段階目の研磨工程にかかわらず、サブストレートの表面粗さを小さくする手段としては、酸化アルミニウムまたはその他の研磨材を十分に粉砕および整粒し、それに水を加えたものに、硝酸アルミニウム、各種有機酸およびその他の研磨促進剤を含有した研磨用組成物、あるいはコロイダルシリカおよび水を含有する研磨用組成物を使用したりしている。しかしながら、前者の研磨用組成物を使用した場合は、メカニカル成分とケミカル成分のバランスが悪いため、微小突起や微細なピットが発生するという問題があった。また、後者の研磨用組成物を使用した場合は、研磨速度が小さすぎるために研磨に長時間を有して生産性が低いとともに、サブストレートの端面のダレの指標であるロールオフ(「ダブオフ」ともいう)が劣化し、さらには研磨後の洗浄が困難であるなどの問題があった。
【0015】
よって、このような問題を解決するために、例えば特開平10−204416号公報(従来例1)に、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化ケイ素および二酸化マンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種類の研磨材と、無機酸鉄塩あるいは有機酸鉄塩である鉄化合物とを含む研磨用組成物が提案されている。そして、この研磨用組成物を用いてサブストレートを研磨することにより、研磨速度が大きく、表面粗さが小さな研磨面が得られる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らのさらなる検討によれば、上記従来例1の研磨用組成物は、長時間の貯蔵によってゲル化すること、経時変化による物性変化によって研磨能率が低下することなどがあり、また研磨用組成物のpHが強酸性であるため、使用者の皮膚に刺激を与えたり、研磨機に腐食が発生することがあるなど、改良を要するものであった。
【0017】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、メモリーハードディスクに使用されるサブストレートの仕上げ研磨において、従来より研磨用組成物に求められていた研磨速度が大きく、表面粗さの小さい研磨面が得られ、微小突起、微細なピットおよびその他の表面欠陥の発生防止が可能であり、経時変化による物性の安定化が図れ、長期保存性がよく、研磨能率の低下を抑制することのできる取り扱い性が改良された研磨用組成物を提供することを目的としたものである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る研磨用組成物は、メモリーハードディスクに使用されるサブストレートの研磨用組成物であって、(a)含有量が組成物の全重量を基準にして0.1〜35重量%の範囲内の研磨材であるコロイダルシリカと、(b)含有量が組成物の全重量を基準にして0.04〜2.2重量%の範囲内の研磨促進剤である硝酸鉄と、(c)含有量が組成物の全重量を基準にして0.4〜22重量%の範囲内の安定剤であるクエン酸と、(d)含有量が組成物の全重量を基準にして0.155〜9.3重量%の範囲内の研磨促進助剤である過酸化水素と、(e)水とを含むことを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明に係る研磨用組成物は、少なくとも(d)の過酸化水素は、(a)のコロイダルシリカ、(b)の硝酸鉄、(c)のクエン酸および(e)の水から分離され、全体が複数個に分割されて保管されることを特徴とするものである。
【0020】
さらに、本発明に係る研磨用組成物は、(d)の過酸化水素は、(a)のコロイダルシリカ、(b)の硝酸鉄、(c)のクエン酸および(e)の水と研磨前に混合されることを特徴とするものである。
【0021】
本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、前記(a)〜(e)のコロイダルシリカ、硝酸鉄、クエン酸、過酸化水素および水を含んでなる研磨用組成物を用いて、メモリーハードディスクのサブストレートを研磨することを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、サブストレートがNi−Pディスクまたはアルミニウムディスクであることを特徴とするものである。
【0023】
本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、前記研磨用組成物を用いて、表面粗さが所定値以下のサブストレートを最終仕上げ研磨することを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、前記研磨用組成物を用いて、あらかじめ1回乃至複数回の予備研磨工程が施されて表面粗さが所定値以下となったサブストレートを最終仕上げ研磨することを特徴とするものである。
【0025】
さらに、本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、サブストレートの表面粗さを、25Å以下としたことを特徴とするものである。
【0026】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0027】
<研磨材>
本発明に係る研磨用組成物の成分の1つである研磨材としては、コロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムをイオン交換した超微粒子コロイダルシリカを粒子成長させる方法、アルコキシシランを酸またはアルカリで加水分解する方法、あるいは、有機ケイ素化合物を湿式にて加熱分解する方法が一般的である。
【0028】
コロイダルシリカは、砥粒としてメカニカルな作用により被研磨面(サブストレート表面)を研磨するものであり、その粒径は、BET法により測定した表面積から求められる平均粒子径で0.005〜0.5μm、好ましくは0.01〜0.2μmである。コロイダルシリカの平均粒子径は、ここに示した範囲を超えて大きいと、研磨されたサブストレートの表面粗さが大きかったり、スクラッチが発生したりするなどの問題があり、逆にここに示した範囲よりも小さいと、研磨速度が極端に小さくなってしまい実用的でない。
【0029】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの含有量は、組成物の全重量を基準として0.1〜35重量%、好ましくは1〜15重量%である。コロイダルシリカの含有量が余りに少ないと研磨速度が小さくなり、逆に余りに多いと研磨用組成物中における均一分散性が保てなくなるとともに、研磨用組成物の粘度が過大して取り扱いが困難となる。
【0030】
<研磨促進剤>
本発明に係る研磨用組成物の成分の1つである研磨促進剤としては、硝酸鉄である。硝酸鉄の価数は2価のものでも3価のものでもよく、水和水を含むものであってもよい。これは、硝酸鉄(II)化合物を用いた場合、研磨用組成物中の後述する過酸化水素の作用によって硝酸鉄(III)が生成され、研磨には生成された硝酸塩(III)が作用する。このため、添加される鉄塩が2価のものであっても、3価のものであっても結果としては同じである。
【0031】
研磨用組成物中の硝酸鉄の含有量は、硝酸鉄の価数および水和水によっても異なるが、組成物の全重量を基準として0.04〜2.2重量%である。硝酸鉄の含有量が少ないと、研磨促進剤としての効果が効率的に作用しないため、加工能率が小さくなり経済的ではない。逆に過度に多いと、研磨促進剤としての効果が効率的に伸びず、加工能率も適宜の含有量とした場合とほとんどかわらないため、経済的なデメリットが生じるとともに、pHが低くなりすぎるため、使用者の皮膚に刺激を与えたり、研磨機に腐食が発生することがあるなど、取り扱いに注意を要するようになる。
【0032】
<研磨促進助剤>
本発明に係る研磨用組成物の成分の1つである研磨促進助剤としては、過酸化水素である。これは、研磨促進剤である硝酸鉄の研磨促進作用に対して補助するものであり、硝酸鉄の効果を最大限に発揮させるものである。
【0033】
研磨用組成物中の過酸化水素の含有量は、硝酸鉄の含有量によっても異なるが、組成物の全重量を基準として0.155〜9.3重量%、好ましくは1.0〜5.0重量%である。過酸化水素の含有量が少ないと、加工能率が小さくなって経済的でない。逆に過度に多いと、加工能率が適宜の含有量とした場合とほとんどかわらないため、経済的なデメリットが生じるとともに、保存中に過剰な過酸化水素が分解して酸素を生じさせるため、貯蔵の際に容器内の圧力が過剰となり、極端な場合には容器が破裂するおそれもあるので注意が必要である。
【0034】
<安定剤>
本発明に係る研磨用組成物の成分の1つである安定剤としては、クエン酸である。クエン酸を添加することによって、過酸化水素が硝酸鉄の鉄イオンとの共存下において分解することを抑制する。過酸化水素は、不純物金属元素、特に遷移金属イオンの存在下では分解しやすく、そのような成分系では安定性が低いと言われている。そこで、過酸化水素の分解を抑えるような成分、つまり安定剤を添加することで、物性の安定化を図り、研磨能力の低下を抑制するのである。通常、過酸化水素の分解抑制を図る安定剤としては、クエン酸の他にマロン酸、ホスホン酸、シュウ酸、コハク酸および酒石酸等が知られているが、本発明に係る研磨用組成物においては、クエン酸が適している。他の安定剤を使用した場合は、全く添加していない場合より安定性は良くなるものもあるが、クエン酸の場合ほど効果的ではない。
【0035】
研磨用組成物中のクエン酸の含有量は、組成物の全重量を基準として0.4〜22重量%であり、好ましくは硝酸鉄の重量に対して500〜2000重量%である。含有量が少ないと、研磨用組成物中の過酸化水素の分解が起こるため、組成物の安定性は低く、組成物の長期間の保持は困難となる。逆に含有量が多い場合は、デメリットは特にないが添加効果もないため、過剰な添加は経済的でない。
【0036】
<水>
本発明に係る研磨用組成物の成分の1つである水は、工業用水、市水、脱イオン水、イオン交換水、蒸留水、純水および超純水のいずれをも使用することが可能であるが、研磨用組成物の安定性および研磨工程において金属不純物が敬遠されることを考慮すると、不純分を極力排除した脱イオン水、イオン交換水、蒸留水、純水および超純水などを使用することが好ましい。
【0037】
<研磨用組成物>
本発明に係る研磨用組成物は、上記各成分、すなわち研磨材であるコロイダルシリカを所望の含有量で水に混合し、分散させ、研磨促進剤である硝酸鉄、研磨促進助剤である過酸化水素および安定剤であるクエン酸をさらに溶解させることにより調整する。これらの成分を水中に分散または溶解させる方法は任意であり、例えば翼式撹拌機で撹拌したり、超音波分散により分散させる。
【0038】
また、上記研磨用組成物の調製に際しては、製品の品質保持や安定化を図る目的、被加工物の種類、加工条件およびその他の研磨加工上の必要に応じて、各種の公知の添加剤をさらに加えてもよい。
【0039】
すなわち、添加剤の好適な例としては下記のものが挙げられる。
(イ)セルロース類。例えばセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびその他。
(ロ)水溶性アルコール類。例えばエタノール、プロパノール、エチレングリコールおよびその他。
(ハ)界面活性剤。例えばアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ナフタリンスルホン酸のホルマリン縮合物およびその他。
(ニ)有機ポリアニオン系物質。例えばリグニンスルホン酸塩、ボリアクリル酸塩およびその他。
(ホ)水溶性高分子(乳化剤)類。例えばポリビニルアルコールおよびその他。
(ヘ)殺菌剤。例えばアルギン酸ナトリウム、炭酸水素カリウムおよびその他。
(ト)硝酸鉄以外の可溶性金属塩。
【0040】
さらに、本発明に係る研磨用組成物に含有される上記研磨材および研磨促進剤を、前述した用途以外の目的で、例えば研磨材の沈降防止のために補助添加剤として用いることも可能である。
【0041】
本発明に係る研磨用組成物は、比較的高濃度の原液として調製して貯蔵または輸送などをし、実際の研磨加工時に希釈して使用することもできる。前述の各成分の濃度範囲は、実際の研磨加工時のものとして記載したのであり、使用時に希釈する使用方法をとる場合は、貯蔵または輸送などの状態においてより高濃度の溶液となることは言うまでもない。また、取り扱い性の観点から、そのような濃縮された形態で製造されることが好ましい。
【0042】
また、本発明に係る研磨用組成物の貯蔵に際し、過酸化水素の分解を防ぐために、研磨用組成物を複数個の組成物に分けた状態で保管することも可能である。具体的には、研磨材、硝酸鉄およびクエン酸を高濃度の原液として調整、保存しておき、研磨前の原液を希釈する際に過酸化水素を溶解させて所定の組成の研磨用組成物を得る方法が考えられる。この方法を用いれば、比較的高濃度での保存が可能となり、高温であるなどの過酸化水素が分解しやい環境下においてもゲル化を防いで長期保存が可能である上、研磨前の過酸化水素の分解を極力避けることができ、研磨用組成物の物性の安定化が図れることは言うまでもない。
【0043】
ところで、本発明に係る研磨用組成物が、サブストレートの研磨において、研磨速度が大きく、表面粗さが小さな研磨面を得ることができるとともに、微小突起、微細なピットおよびその他の表面欠陥の発生が少ない理由についての詳細な機構は不明であるが、無電解Ni−Pメッキを成膜したサブストレートを例に挙げると以下のように推察される。
【0044】
サブストレートに成膜された無電解Ni−Pメッキを研磨する速度が大きいことの理由に関しては、硝酸鉄の3価の鉄イオンが2価の鉄イオンに変化するときの反応でサブストレートの表面(Ni−Pメッキ)を酸化させ、もろくなったNi−Pメッキを研磨材のメカニカルな作用により容易に除去されるためと考えられる。さらには、スラリー中に存在する鉄イオンが、過酸化水素による酸化作用を促進しているものと考えられる。また、スラリー中に存在する過酸化水素が2価に変化した鉄イオンを酸化させ再度3価に戻すことにより、少ない鉄イオン濃度でも最大限に効果を発揮していると考えられる。その一方で、過酸化水素がNi−Pメッキに対して、適度な酸化作用をもたらすために、サブストレートの表面粗さが小さく、かつ微小突起、微細なピットおよびその他の表面欠陥が少なくなるものと考えられる。
【0045】
<メモリーハードディスクの製造方法>
本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、上記各成分、すなわちコロイダルシリカ、硝酸鉄、過酸化水素、クエン酸および水が含有された研磨用組成物を用いて、メモリーハードディスクに使用されるサブストレートを研磨することを含んでなる。
【0046】
研磨対象となるメモリーハードディスクのサブストレートには、Ni−Pディスク、Ni−Feディスク、アルミニウムディスク、ボロンカーバイドディスク、カーボンディスクおよびその他のものがある。これらのうち、Ni−Pディスクまたはアルミニウムディスクを用いる。
【0047】
また、本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、上記研磨用組成物を用いるならば、従来のいずれの研磨方法および研磨条件を組み合わせることも可能である。例えば研磨機には、片面研磨機、両面研磨機およびその他を用いることができ、また、研磨パッドには、スウェードタイプ、不織布タイプ、植毛布タイプ、起毛タイプおよびその他のタイプのものを用いることができる。
【0048】
さらに、本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法に用いる研磨用組成物は、研磨速度が大きいと同時に、より平坦な研磨表面が得られることから、研磨工程を1段階で行うことも可能であるが、研磨工程を条件の異なった2段階以上で行うこともできる。研磨工程を2段階以上で行う場合には、本発明に係る研磨用組成物を用いた研磨工程を最後の研磨工程とすること、すなわち予備研磨されたサブストレートに対して最終仕上げ研磨を行う。さらには、本発明に係る研磨用組成物による研磨加工をより効率的に行うためには、予備研磨されたサブストレートの表面粗さは、非接触式表面粗さ計(対物レンズ40倍)を用いた測定方法において、Ra=25Å以下とする。
【0049】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、実施例を用いて具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を越えない限り、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0050】
【実施例】
実施例1〜4および比較例1〜27
<研磨用組成物の調整>
研磨材としてコロイダルシリカ(平均粒子径0.035μm)を撹拌機を用いて水に分散させ、研磨材濃度15重量%のスラリーを調整した。ついで、表1に記載の量の研磨促進剤である硝酸鉄(III)、研磨促進助剤である過酸化水素および安定剤であるクエン酸を添加して混合し、実施例1〜4および比較例1〜27の各研磨用組成物を調整した。なお、比較例2はコロイダルシリカのみのものであり、比較例3〜6はコロイダルシリカと硝酸鉄(III)が混合されたもの、比較例7〜9はクエン酸が添加されていないもの、比較例10はコロイダルシリカと過酸化水素が混合されたもの、比較例11〜14はコロイダルシリカとクエン酸が混合されたもの、比較例15〜17は硝酸鉄(III)が添加されていないもの、比較例18〜27は安定剤であるクエン酸に代えてマロン酸等の他の安定剤を用いたものである。
【0051】
【表1】
Figure 0004238951
【0052】
<研磨試験用サブストレートの作成>
実施例1〜4および比較例1〜27の各研磨用組成物を用いて研磨試験を行うためのサブストレートを作成するにあたり、研磨試験は2段階研磨(仕上げ研磨)によるサブストレートにおいて評価を行うため、まず、下記条件で1段階目の研磨を行い、研磨試験用のサブストレートを作成した。
Figure 0004238951
【0053】
<研磨試験>
次に、実施例1〜4および比較例1〜27の各研磨用組成物を用いて、1段階目の研磨済サブストレートに対して下記条件で2段階目の研磨(仕上げ研磨)を行った。
Figure 0004238951
【0054】
研磨後、サブストレートを順次洗浄して乾燥し、研磨後のサブストレートの重量減を測定した。そして、それぞれ3回の研磨試験を行い、その平均から研磨速度を求めた。得られた結果は表1に示す。なお、実施例4および比較例23〜27の各研磨用組成物においては、組成物として調整した後、室温(約25℃)にて250時間放置し、その後において研磨試験を行った。これは、クエン酸を含有することによる研磨用組成物の経時変化を確かめたものである。
【0055】
表1から明らかなように、研磨材であるコロイダルシリカと、硝酸鉄、過酸化水素またはクエン酸のいずれかとが含有された比較例2〜6および比較例10〜14は、いずれも研磨速度が小さいため、高い研磨能率が得られないことがわかる。また、コロイダルシリカと、硝酸鉄および過酸化水素、または、過酸化水素およびクエン酸のいずれかとが含有された比較例3〜6および比較例15〜17は、硝酸鉄またはクエン酸を多く含有した場合に研磨速度が比較的大きくなるものの、少なく含有した場合は研磨速度が小さくなり、高い研磨能率が得られないことがわかる。さらに、硝酸鉄およびクエン酸の含有量が前述の範囲内より少ない比較例1と、マロン酸等の他の安定剤が含有された比較例18〜22とは、いずれも研磨速度が小さいため、高い研磨能率が得られないことがわかる。
これに対して、コロイダルシリカ、硝酸鉄、過酸化水素およびクエン酸が前述の範囲内の含有量で含有された実施例1〜3は、研磨速度が大きくなり、高い研磨能率が得られることがわかる。
【0056】
一方、組成物の調整後、250時間放置した実施例4は、同様に放置した比較例23〜27に比べて、研磨速度がかなり大きく、また、硝酸鉄等が同量に含有された実施例1よりも研磨速度が大きくなった。これは、クエン酸を含有することによって長時間過酸化水素の分解を抑えることができ、研磨用組成物の物性の安定化が図れるとともに、経時変化による研磨速度の低下が抑制されて、高い研磨能率が得られることがわかる。
【0057】
なお、研磨試験後(2段階目研磨後)の各サブストレートにおいて、非接触式表面粗さ計(対物レンズ40倍)を用いてサブストレートの表面粗さを測定した結果、実施例および比較例の間には大きな差はなく、両者とも表面粗さRaの値は5.0Å未満の非常に平滑な面を得ていることがわかった。また、暗室内にてスポットライト下で目視によりスクラッチを確認したところ、実施例および比較例の間にはスクラッチ量の差は無く、両者ともスクラッチの少ない良好な面が得られていることがわかった。
【0058】
【発明の効果】
以上のように本発明に係る研磨用組成物は、メモリーハードディスクに使用されるサブストレートの研磨用組成物であって、(a)含有量が組成物の全重量を基準にして0.1〜35重量%の範囲内の研磨材であるコロイダルシリカと、(b)含有量が組成物の全重量を基準にして0.04〜2.2重量%の範囲内の研磨促進剤である硝酸鉄と、(c)含有量が組成物の全重量を基準にして0.4〜22重量%の範囲内の安定剤であるクエン酸と、(d)含有量が組成物の全重量を基準にして0.155〜9.3重量%の範囲内の研磨促進助剤である過酸化水素と、(e)水とを含んでなるものである。
【0059】
これにより、メモリーハードディスクに使用されるサブストレートの仕上げ研磨において、研磨速度が大きく、表面粗さが小さな研磨面を得ることができるとともに、微小突起、微細なピットおよびその他の表面欠陥の発生を防止できる。また、経時変化による物性の安定化が図れるとともに、長期保存性が得られ、高い研磨能率の研磨用組成物が得られる。さらに、使用者の皮膚に刺激を与えたり、研磨機に腐食が発生するおそれがなく、取り扱い性が改良された研磨用組成物を得ることができる。
【0060】
本発明に係る研磨用組成物は、少なくとも(d)の過酸化水素は、(a)のコロイダルシリカ、(b)の硝酸鉄、(c)のクエン酸および(e)の水から分離され、全体が複数個に分割されて保管されるとともに、(d)の過酸化水素は、(a)のコロイダルシリカ、(b)の硝酸鉄、(c)のクエン酸および(e)の水と研磨前で混合されるものである。
【0061】
これにより、組成物を比較的高濃度で保存することが可能となる上、高温であるなど過酸化水素が分解しやい環境下においてもゲル化せずに長期保存が可能になるとともに、研磨前の過酸化水素の分解を極力避けることができて、研磨用組成物の物性の安定化をさらに図ることができる。
【0062】
本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、前記(a)〜(e)のコロイダルシリカ、硝酸鉄、クエン酸、過酸化水素および水を含んでなる研磨用組成物を用いて、メモリーハードディスクのサブストレートを研磨する方法である。
【0063】
これにより、研磨速度が大きく、表面粗さの小さい研磨面が得られ、微小突起、微細なピットおよびその他の表面欠陥の発生の少ないメモリーハードディスクが得られるとともに、経時変化による研磨能率の低下が抑制され、安定した研磨を行うことが可能である。
【0064】
また、本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、サブストレートがNi−Pディスクまたはアルミニウムディスクであり、その表面粗さが所定値以下のものを前記研磨用組成物を用いて最終仕上げ研磨する方法であるので、研磨速度が大きく、表面粗さが小さな研磨面が得られ、微小突起、微細なピットおよびその他の表面欠陥の発生が防止できる研磨加工を、効率的に行うことができる。
【0065】
さらに、本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、前記研磨用組成物を用いて、あらかじめ1回乃至複数回の予備研磨工程が施されて表面粗さが所定値以下となったサブストレートを最終仕上げ研磨する方法であるので、研磨速度が大きく、表面粗さが小さな研磨面が得られ、微小突起、微細なピットおよびその他の表面欠陥の発生が防止できる研磨加工を、より効率的に行うことができる。
【0066】
また、本発明に係るメモリーハードディスクの製造方法は、サブストレートの表面粗さを、25Å以下とした方法であるので、研磨速度が大きく、表面粗さが小さな研磨面が得られ、微小突起、微細なピットおよびその他の表面欠陥の発生が防止できる研磨加工を、効率的に行うことができる。

Claims (8)

  1. メモリーハードディスクに使用される磁気ディスク用基盤の研磨用組成物であって、
    (a)含有量が組成物の全重量を基準にして0.1〜35重量%の範囲内のコロイダルシリカと、
    (b)含有量が組成物の全重量を基準にして0.04〜2.2重量%の範囲内の硝酸鉄と、
    (c)含有量が組成物の全重量を基準にして0.4〜22重量%の範囲内であり、且つ、硝酸鉄の含有量に対して500〜2000重量%の範囲内であるクエン酸と、
    (d)含有量が組成物の全重量を基準にして0.155〜9.3重量%の範囲内の過酸化水素と、
    (e)水と
    を含んでなる研磨用組成物。
  2. 少なくとも前記(d)の過酸化水素は、前記(a)のコロイダルシリカ、(b)の硝酸鉄、(c)のクエン酸および(e)の水から分離され、全体が複数個に分割されて保管されることを特徴とする請求項1記載の研磨用組成物。
  3. 前記(d)の過酸化水素は、前記(a)のコロイダルシリカ、(b)の硝酸鉄、(c)のクエン酸および(e)の水と研磨前に混合されることを特徴とする請求項1または2記載の研磨用組成物。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載された研磨用組成物を用いて、メモリーハードディスクに使用される磁気ディスク用基盤を研磨することを特徴とするメモリーハードディスクの製造方法。
  5. 磁気ディスク用基盤が、Ni−Pディスクまたはアルミニウムディスクであることを特徴とする請求項4記載のメモリーハードディスクの製造方法。
  6. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載された研磨用組成物を用いて、表面粗さが所定値以下の磁気ディスク用基盤を最終仕上げ研磨することを特徴とする請求項4または5に記載のメモリーハードディスクの製造方法。
  7. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載された研磨用組成物を用いて、あらかじめ1回乃至複数回の予備研磨工程がほどこされて表面粗さが所定値以下となった磁気エィスク用基盤を最終仕上げ研磨することを特徴とする請求項4または5に記載のメモリーハードディスクの製造方法。
  8. 磁気ディスク用基盤の表面粗さを、25Å以下としたことを特徴とする請求項6または7に記載のメモリーハードディスクの製造方法。
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