JP4237989B2 - ナイロン66繊維構造物の染色方法及びその染色物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ナイロン66繊維構造物の染色方法に関し、特に、ナイロン66繊維を改質して、ナイロン66繊維構造物の発色性を向上させる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
古くから、ナイロン66繊維を用いて得られるナイロン66繊維構造物は、ナイロン6繊維構造物に比べて発色性が低く、高濃度で鮮明な染色物を得ることが困難とされている。
その理由として、ナイロン66繊維は、一般的にナイロン6繊維に比べて染着座席が少ないという問題点がある。
したがって、ナイロン6繊維は100℃前後の温度による常圧の発色機で発色可能であるが、ナイロン66繊維については高温で高圧の発色機による処理が必要である。
また、設備及び生産性等の問題があるばかりでなく、高圧の発色機及び過熱蒸気の発色機で加工を行った場合、ナイロン66繊維の強度劣化や変色という問題も生じている。
【0003】
これらの問題を解決するために、特開昭52−50375号公報では色糊中に有機酸とアミン系化合物を混合しナイロンの染着性を向上させる技術が提案されている。
また、特開平04―214484号公報では、ベンジルアルコール等のポリアミド膨潤剤を付与し加熱処理することによって染色堅牢度を向上させる方法が提案されている。
しかし、これらの方法ではいずれも風合の硬化、繊維構造物の黄変、繊維構造物の収縮、及び均染性の低下等の問題が生じている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ナイロン66繊維の染色において、上記の問題点を解決し、高濃度で鮮明性、堅牢性に優れたナイロン66繊維構造物を得ることができる染色方法およびそれによって得られた染色物を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等はナイロン66繊維構造物にジカルボン酸を加熱処理あるいは湿熱処理によって付与することで、鮮明で高濃度の染色物が得られることを見出し本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
(1)ナイロン66繊維構造物を、コハク酸、マレイン酸、マロン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるジカルボン酸を含む温度80〜150℃の溶液中で処理した後、染色することを特徴とするナイロン66繊維構造物の染色方法である。
(2)ナイロン66繊維構造物を、コハク酸、マレイン酸、マロン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるジカルボン酸を含む溶液中で処理した後、飽和水蒸気中で処理し、次いで染色することを特徴とするナイロン66繊維構造物の染色方法である。
(3)染色がインクジェット染色であることを特徴とする(1)〜(2)のナイロン66繊維構造物の染色方法である。
(4)(1)〜(3)の方法によって染色されたことを特徴とする染色物である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明は、ナイロン66繊維構造物に予めジカルボン酸を加熱あるいは湿熱処理によって付与することによって、ナイロン繊維の結晶性が緩和され膨潤されることを利用して、ナイロン繊維の染着座席を増大させ、発色時に染料の内部拡散を容易にさせ染色性を向上させるという作用を有している。
【0007】
ここで、ナイロン66繊維構造物としては、ナイロン66繊維を含む繊維構造物であれば特に限定されず、ナイロン66繊維100%よりなる繊維構造物であっても良いし、ナイロン66繊維と他種繊維とからなる繊維構造物であっても良い。
他種繊維としては、綿、レーヨン、ナイロン6、ポリエステル、ポリウレタン繊維等が挙げられる。
繊維構造物の種類としては、原綿、トウ、スライバー、紡績糸、フィラメント糸、織物、編物、不織布等が挙げられる。
本発明によって改質処理したナイロン66繊維は、中濃色に染色することが容易になり染色性が向上する。
【0008】
本発明の染色方法では、ナイロン66繊維構造物をジカルボン酸を含む温度80〜150℃の溶液中で所定時間処理した後、染色する。
温度が80℃未満であると、ナイロン66繊維の十分な発色が得られないし、また温度が150℃を超えると、ナイロン66繊維自体の軟化又は強度劣化等が生じる。
処理時間は、実験を繰り返して適宜設定すれば良い。一般的には、温度が低いほど長時間の処理が必要で、温度が高いほど短時間の処理で済む。具体的には、10秒〜60分の範囲で適宜設定される。
【0009】
また、本発明の別の染色方法では、ナイロン66繊維構造物にジカルボン酸を付与し、次いで飽和水蒸気中で所定時間処理した後、染色される。
飽和水蒸気の条件としては、温度が100〜120℃、時間が1〜30分であるのが好ましい。
ジカルボン酸としては、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、イタコン酸等が挙げられ、なかでも鮮明で高濃度の染色物が得られ,安価で汎用性、安全性に優れるのでより好ましくはコハク酸、マレイン酸が挙げられる。
【0010】
以上の如き条件で改質を終えたナイロン66繊維構造物は、洗浄し乾燥によって水分を蒸発し除去する。
洗浄し、ジカルボン酸を落とすことにより風合いの硬化、黄変等を防止する。
この場合の乾燥温度は90〜170℃が好ましくさらには100〜130℃がより好ましい。
乾燥温度が90℃未満では乾燥時間が長くなり生産性の低下が問題となり、170℃を越えると発明の効果が弱くなるばかりでなく、ナイロン66繊維自体の軟化又は強度劣化等が生じる。
【0011】
改質を終え染色を施されたナイロン66繊維構造物は、ナイロン6繊維と同様に100℃前後の飽和蒸気による常圧の発色機で処理され、高濃度で鮮明性に優れた染色物を得ることが可能となる。
染色方法としては、液流染色、パッド・スチーム、パッド・ドライ、ジッカー、ウインス、ビーム、インクジェットなどが挙げられるが、精細な表現と多色効果が得られ本発明のメリットを最大限に生かせる点でインクジェット法が好ましい。
【0012】
インクジェット法を用いる場合、改質を終えたナイロン66繊維構造物にインク保持能力を持たせるためにインク保持剤を付与することが好ましい。
インク保持剤を含む処理液には必要に応じて、紫外線吸収剤、還元防止剤、酸化防止剤、pH調整剤、ヒドロトロープ剤、消泡剤、浸透剤、ミクロポーラス形成剤等を適宜添加しても差し支えない。
【0013】
インク保持剤としては、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、クリスタルビアガム、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、デンプン、ポリアクリル酸ソーダ、ポリスチレンスルホン酸ソーダ、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子が挙げられる。
高濃度、高堅牢度、鮮明性の点からカルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダもしくはこれらの混合物が特に好ましい。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン等が挙げられる。
還元防止剤としては、ニトロベンゼンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸誘導体等が挙げられる。
酸化防止剤としては、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール等が挙げられる。
pH調整剤としては、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、硫酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム等の酸性調整剤や、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ性調整剤が挙げられる。
ヒドロトロープ剤としては、尿素、ポリエチレングリコール、チオ尿素等が挙げられる。
消泡剤としては、イソプロパノール、エタノール、n―ブタノール等の低級アルコール、オレイン酸、ポリプロピレングリコール等の有機極性化合物、及びシリコーン樹脂が挙げられる。
浸透剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸エステルナトリウム、オレイン酸ブチルエステル等のアニオン性界面活性剤、及びノニルフェノールEO、ラウリルアルコールEO等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。
ミクロポーラス形成剤としては、水不溶性または難溶性で沸点が105〜200℃の低沸点液体を微粒子状態で均一に水中に乳化分散させたものが好ましく用いられる。低沸点液体としては、炭化水素系のトルエン、キシレン、ハロゲン化炭化水素系のパークロルエチレン、モノクロルベンゼン、ジクロルペンタン、酢酸ブチル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0014】
以下、本発明の実施例について説明する。
なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0015】
【実施例】
評価方法
(1)濃度
ブルーのインクをベタ印写した部分を、反射濃度計(マクベスRD918:マクベス社製)を用いて測定した。数値が高いほど良好である。
(2)鮮明性
得られた捺染物の鮮明性を目視で評価した。
○:色彩が鮮明である
△:色彩がやや鮮明である
×:色彩が鮮明でない
【0016】
〔実施例1〕
コーデュラ(ナイロン66)100%の平織物を処理液A中で浸漬処理を行った。
処理液A
コハク酸 2.0g/L
処理条件 110℃ 20分
以上の条件で改質後、水で洗浄し乾燥によって水分を蒸発し除去した。その際の乾燥温度は110℃であった。
次に、処理液1をパッド法で付与した。
処理液1(pH 5.2)
インク保持剤:セロゲンPR 2部
(第一工業製薬(株)製:カルボキシメチルセルロース系)
硫安 10部
水 : 88部
次に、130℃で2分間の乾燥を行った後、以下の処方のインクを使用してオン・デマンド方式シリアル走査型インクジェット印刷装置にて以下の印写条件でフルカラー画像をプリントした。
【0017】
インク処方
反応染料 10部
イオン交換水 90部
尚、使用した染料は、C.I.Reactive Yellow 85、C.I.Reactive Red 24、C.I.Reactive Blue 176であった。
【0018】
印写条件
ノズル径;40μm
駆動電圧;100V
周波数 ;5KHz
解像度 ;360dpi(4×4マトリックス)
次いで、105℃の湿熱蒸気で20分間の湿熱処理を行った。その後、洗浄・乾燥を行って染色物を得た。その結果を表1に示す。
【0019】
〔実施例2〕
タクテル(ナイロン66)90%、ポリウレタン10%からなる天竺に処理液Bを付与した後、飽和水蒸気により湿熱処理を行った。
処理液B
マレイン酸 2.0g/L
湿熱条件 102℃ 20分
以上の条件で改質後、水で洗浄し乾燥によって水分を蒸発し除去した。その際の乾燥温度は110℃であった。
次に処理液2をコーティング法で付与した。
Figure 0004237989
次に、実施例1と同様の乾燥条件、インク処方、印写条件、および湿熱条件でフルカラー画像をプリントした。その後、洗浄・乾燥を行って染色物を得た。その結果を表1に示す
【0020】
〔実施例3〕
サープレックス(ナイロン66)100%の平織物を実施例1と同様に処理液A中で浸漬処理を行った。
処理液A
コハク酸 2.0g/L
処理条件 110℃ 20分
以上の条件で改質後、水で洗浄し乾燥によって水分を蒸発し除去した。その際の乾燥温度は110℃であった。
次に、実施例1と同様に処理液1をパッド法で付与した。
処理液1(pH 5.2)
インク保持剤:セロゲンPR 2部
(第一工業製薬(株)製:カルボキシメチルセルロース系)
硫安 10部
水 : 88部
次に、130℃で2分間の乾燥を行った後、以下の処方のインクを使用してオン・デマンド方式シリアル走査型インクジェット印刷装置にて以下の印写条件でフルカラー画像をプリントした。
【0021】
インク処方
酸性染料 3部
イオン交換水 90部
尚、使用した染料は、C.I.Acid Yellow 127、C.I.Acid Red 265、C.I.Acid Blue 185であった。
【0022】
印写条件
ノズル径;40μm
駆動電圧;100V
周波数 ;5KHz
解像度 ;360dpi(4×4マトリックス)
次いで、105℃の湿熱蒸気で20分間の湿熱処理を行った。その後、洗浄・乾燥を行って染色物を得た。その結果を表1に示す。
【0023】
〔比較例1〕
ジカルボン酸での処理を行わない以外は実施例1と同様に処理を行った。
その結果を表1に示す。
【0024】
〔比較例2〕
コハク酸を酢酸に変更する以外は実施例1と同様に処理を行った。
処理液C
酢酸 2.0g/L
処理条件 110℃ 20分
その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
Figure 0004237989
【0026】
【発明の効果】
本発明の方法でナイロン66繊維を改質し次いで染色することによって、高濃度で鮮明性、堅牢性に優れたナイロン66繊維染色物を得ることができる。
また、本発明の染色方法は、風合いの硬化、黄変、収縮、均染性の低下などといった問題を引き起こすことなく染色性を向上することが出来る。

Claims (4)

  1. ナイロン66繊維構造物を、コハク酸、マレイン酸、マロン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるジカルボン酸を含む温度80〜150℃の溶液中で処理した後、染色することを特徴とするナイロン66繊維構造物の染色方法。
  2. ナイロン66繊維構造物を、コハク酸、マレイン酸、マロン酸及びイタコン酸からなる群から選択されるジカルボン酸を含む溶液中で処理した後、飽和水蒸気中で処理し、次いで染色することを特徴とするナイロン66繊維構造物の染色方法。
  3. 染色がインクジェット染色であることを特徴とする請求項1〜2に記載のナイロン66繊維構造物の染色方法。
  4. 請求項1〜3の方法によって染色されたことを特徴とする染色物。
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