JP4236776B2 - スプルブッシュ及び射出成形用金型 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は射出成形用金型におけるスプルブッシュに関する。さらに詳しくは、スプル孔を有し、複数に分割したスライド部を内設し、型開き時にスプル孔の径が拡大可能なスプルブッシュに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、射出成形用金型としては、例えば実開昭63−112015号公報に開示されるように、溶融樹脂通過用のスプル孔と冷却水通路を有したスプルブッシュが固定型に固定されており、そのスプル孔の内径は、スプル孔内で固化したスプル部樹脂(以下、スプル部という)を離型し易いように、スプル部を引き抜く方向に大径としたテーパ状に形成されている。そして、このテーパ角は、一般的に1〜3度程度に形成されている。
【0003】
上記射出成形用金型にあっては、スプル孔の開口端に当接した射出成形機ノズルより射出され、スプル孔及びランナ等を通過してキャビティ内に充填された溶融樹脂が冷却固化した後、型開きされると、可動型に形成されたランナ若しくはキャビティ内の樹脂の収縮力による可動型への抱き付き力で、スプル部がスプル孔から引き抜かれて離型される。
【0004】
また、スプル部をスプル孔から引き抜くための構造としては、図1に示すように、スプル部1に可動型2への引張力を作用させるため、押出ピン3の先端にZ形状のアンダーカット4を形成した構造、図2に示すように、溶融樹脂溜りをテーパ状にしてアンダーカット5を形成した構造、図3に示すように、溶融樹脂溜りの内径部に凹状部を設けてアンダーカット6を形成した構造が一般的に用いられている。
【0005】
しかしながら、近年、世間一般に製品の低価格化が進む中で、射出成形品の単価も重要な位置を占めおり、射出成形品単価を決める要素としては、1)製品の開発費、2)金型製作費、3)設備費、4)提供される樹脂の価格、5)成形される樹脂量、6)時間あたりの成形品生産数等があるが、上記の中で1)〜4)はある程度変動範囲が限られている。
【0006】
しかし、5)については、1回の成形でスプル部、ランナ部等の不要となる部分も成形され、中でもスプル部の長さは金型の大きさに比例する傾向にあり、大きな金型ではスプル部の体積が無駄に大きくなる。
【0007】
また、6)は1回の成形に要する時間(以下、成形サイクルと呼ぶ。)に依存するため、従来のような大径としたテーパ状に形成されるスプル部においては、キャビティ部が充分固化されてもスプル部根元の肉厚が厚いために固化時間が遅くなって、結果的に成形サイクルが長くなるという問題があった。
【0008】
さらに、一般の射出成形にあっては、成形される樹脂材料においても、樹脂ばかりでなく、金属粉末含有樹脂等があり、上記従来のスプルブッシュ構造では、離型の際にスプル部がスプル孔に残存してしまうという問題があり、特に、金属粉末含有樹脂を用いたときに大きな問題となっていた。
【0009】
その対策として、スプル部の周りに冷却孔を設けて水等の媒体で固化を促進させる方法も用いられているが、樹脂そのものは熱伝導性が悪いのでスプル部内部までを充分に固化させるには大きな効果がなかった。成形される樹脂材料においても、インサート成形時に金属インサートと樹脂との密着性を向上させる添加剤を有したものや、靱性を向上させるためにウレタン系の添加剤を入れて柔らかくした材料等があり、そういった樹脂で成形すると上記のスプル部テーパ角では離型時にスプル部がスプルブッシュ側にとられたり、折損してスプル孔に残存することがあった。テーパ角を大きくするとスプル部の体積が大きくなって、射出成形材料である樹脂を無駄に使用する量が増え、さらにスプル部根元の固化時間も増大して成形サイクルが伸びる不具合が生じていた。
【0010】
さらに、上記問題を解決させるための手段として、これまでにもいくつかの技術が提案されてきたが、これらの問題を解決するには至らなかった。
【0011】
特開平4−185412号公報では、可動側型板に、固定側型板から分離するスプルブッシュを有し、アクチュエータ等の作動によってスプル溝の軸方向に沿って分割させる方法が考案されている。この方法ではピンゲート(孔径が小さいゲート)成形への応用が困難であり、4方向へのスライドが必要なキャビティヘの適用ができない等、キャビティ形状にも制約が生じる。
【0012】
また、特開平6−226795号公報では、まず、ばね弾性を備えたスプルブッシュを使用した方法が提案されている。その方法では、量産時、繰り返し成形を行っていくうちにばね弾性が最初の状態を維持することができなくなるので、定期的に部品交換等のメンテナンスが必要である。さらにスプルブッシュを分割しスライドさせる方法が示されているが、スプル部の長手方向に直交する方向にも部材の接合面があるので、高圧で射出成形を行うと、その接合面へ樹脂がバリのような状態で入ってしまい、スプル部の作動に支障をきたしてしまう。
【0013】
さらに、特開平7−329125号公報では光ディスク成形用金型としてスプルブッシュ外径が、ノズルタッチ側からキャビティ側へ向かうに従って次第に小径となるテーパ形状で、かつ長手方向にいくつかに分割されている事を特徴とする光ディスク成形用金型が提案されている。しかし、その方法では、スプルブッシュが離型時にスプル部の抜ける方向とは逆方向に作動しているため、射出成形用樹脂が金属との密着性が高い場合には、やはりスプル部がスプルブッシュ側にとられてしまうという問題が発生する。
【0014】
以上、上記3件の技術は、一般に2プレートと呼ばれている金型には使用可能であるが、ピンゲート方式等を採用した3プレート金型への応用が難しく、また、金型機構も従来の金型に比べて複雑となり金型製作費が高くなる。さらに、金型に一体的に組み込む必要があるため既存の金型への転用が容易にできないという問題がある。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、離型時にスプル孔へのスプル部固着による離型不良がなく、スプル部の体積が少なく、射出成形樹脂材料の種類を問わず、既存の金型への転用が可能なスプルブッシュ、及びそれを使用した射出成形用金型を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段および作用】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、スプルブッシュ内に射出成形機ノズルに直接当接するスライド部を設け、該スライド部を長手方向に分割し、その分割された該スライド部が型開時に型開方向へ移動することにより、スプル孔径が拡大する方向に作用する機構とした。その際にスプル孔を有する部材には、型開時に型開方向へ均等な力がかかるように押しばね等を設けた。
この結果、スプル部の離型が容易になり、かつ連続して安定成形が可能になった。また、該スプルブッシュにおいては、スプル孔に従来のような大きなテーパを設ける必要がないため、スプル部の占める樹脂量を減らし、成形サイクルの短縮も可能にした。さらに、該スプルブッシュは一体品とすることが可能であるために既存の金型への転用も容易なものと成り得た。
【0017】
すなわち、本発明は、
射出成形用金型において、スプルブッシュ本体(11)内に、射出成形機ノズルに直接当接し、溶融した射出成形材料が通過するスプル孔(12a)を有するスライド部(12)を摺動可能に嵌合して設け、かつ該スライド部(12)が長手方向に複数に分割され、該分割されたスライド部(12)が、型開時に型開方向へ移動することにより、スプル孔(12a)の径が拡大可能な状態を生じる射出成形金型用スプルブッシュであって、
分割されたスライド部(12)の少なくとも一つに、その長手方向にガイド(12d)を突設させ、該分割されたスライド部(12)の少なくとも一つに向かい合ったスプルブッシュ本体(11)の部分にガイド(12d)が摺動可能に嵌合する溝(12e)を有し、ガイド(12d)の根元部分の幅(Wl)を外端部分の幅(Wh)よりも狭くすることにより、該分割されたスライド部(12)が型開時に型開方向へ移動しながら、スプル孔(12a)の径を拡大させることを特徴とする射出成形金型用スプルブッシュ、並びに
上記スプルブッシュを構成要素とする射出成形用金型である。
【0018】
【実施例】
以下、添付図面に基づき本発明のスプルブッシュを詳細に説明する。
【0019】
(実施例1)
図4は本発明の実施例の要部を示す断面図、図5は本発明で提供されるスプルブッシュの作動図、図6はスプルブッシュの斜視図である。
【0020】
図4において、9は固定型、10は可動型で、可動型10は固定型9に対して当接、離反自在に対向配置されている。固定型9には、スプルブッシュ本体11が埋設固定され、スプルブッシュ本体11内には射出成形機ノズル(図示省略)とのタッチ面30を有するスライド部12が設けられている。13は型開時にスライド部12を型開方向へ押し出すための押しばね、14はストッパーであり、押しばね13によって押し出されたスライド部12が一定のストローク以上移動しないように働く。スプルブッシュ本体11にはストッパー14を固定するための孔11bがあり、スプルブッシュ本体11とストッパー14の固定方法は孔11bへのピンの圧入やねじ止め等により、ストッパー14が使用中に動かない状態であればよい。スライド部12は図7に示すように長手方向に3分割または4分割されており径方向に拡大可能な状態を生じさせ、ストッパー14を働かせるための溝12bを有している。分割数は2以上であれば問題はないが、好ましくは2〜4分割、さらに好ましくは3分割または4分割が妥当である。
【0021】
スプルブッシュ本体11とスライド部12が接する面11aは、型開方向に向かうにしたがって径が大きくなるテーパを有しており、このため型開と共に、例えば、押しばね13により、スライド部12が型開き方向(図4で左方)に移動し、移動するにつれて複数に分割されたスライド部12の左端がスプルブッシュ本体11から抜け出て、径方向に拡大可能な状態になり、スプル部15をスプル孔12aから離型しやすくなる。その時のテーパ角は特に規定はなく、テーパ角度も一定でなくてもよい。
【0022】
本発明ではスライド部12に形成された、溶融した射出成形樹脂が通るスプル孔12aにテーパを設ける必要はなく、また設けても従来のテーパー角よりも小さくすることができる。さらにスプルブッシュ本体11とスライド部12が接する面11aのテーパ角よりも小さな角度であれば、アンダーカットなる方向にテーパをとることも可能である。分割されたスライド部12が型開き方向に移動し、径方向に拡大可能な状態になることによってスプル部15が離型し易くなるので、スプル部15に可動型10への引張力を作用させるための押出ピン17の先端部18にアンダーカットを必ずしも設ける必要がなく、先端部18はランナ部16に対して同一面であっても問題はない。
【0023】
本発明ではスプルブッシュ本体11にスライド部12、押しばね13、ストッパー14が組み込まれた一体品としても提供可能である。
【0024】
図5は図4で示されるスプルブッシュの作動図を示し、左図が型閉時で右図が型開時である。型閉時、スライド部12は可動型によってノズル側に押され、スライド部12の右端のタッチ面30が射出成形ノズルに当接し、スプル部15が閉じた状態になる。型開時にはスライド部12が押しばね13によって型開方向に押し出される。押しばね13はスライド部12に設けられた切欠き部22においてスライド部12を取り巻くように設けられ、押しばね13の他端はスプルブッシュ本体11のフランジ内面23に当接するため、スライド部12が傾くことなく均一な力で押し出されることが可能である。なお、スライド部12が押し出される量は溝12bの長さLによって決まるため、スライド部12に設けられる切欠き部22は、押しばね取り巻き用のものがあればよい。また、押しばね13および開きばね19のばね定数は、型開時にスライド部12を移動させるに充分な強さを有していればよい。
【0025】
スライド部12を径が拡大する方向へ強制的に広げる必要がある場合は、図6に示すように分割されたスライド部12の相互の隣接面に孔12cを設けて、その中に開きばね19を組み込むことで複数の分割されたスライド部の径を拡大させることが可能となる。この結果、スプル部15はスプル孔12aから、さらに容易に離型させることができる。
【0026】
(実施例2)
図8はスライド部12の溝12bをランナ部16側に設けた場合の断面図である。20はスライド部12が一定のストローク以上移動しないための平ストッパーである。平ストッパー20は止めねじ21によってスプルブッシュ本体11へ固定される。この方法によれば、成形時に何らかのトラブルによって、本スプルブッシュに作動不良が生じた場合、止めねじ21を外すことによって、メンテナンスが容易に行えるようになる。
【0027】
(実施例3)
図9は、押出しピンの先端部にアンダーカットを設けた場合の断面図である。実施例1ではスプル部15に可動型10への引張力を作用させるための押出ピン17の先端部18にアンダーカットを必ずしも設ける必要がないと記述したが、一方、成形される射出成形材料に十分な強度がある場合には、押出ピン17の先端部18にアンダーカットを設けることで押しばね13が不要になる。アンダーカットの形状は特に制限はなく、スプル部15が型開時に問題なく離型できればよい。本実施例の場合も、スプル部15に可動型10への引張力をスプル孔12aの径が拡大可能な状態で作用させるため、スライド部12が傾くことなく均一な力で型開き向へ引き出され、スプル部15が容易に離型されることが可能である。
【0028】
(実施例4)
図10はスライド部にガイドを設けた場合を示した斜視図であり、図11は該ガイド部分において長手方向に直角なスプルブッシュの断面図である。スライド部12を径が拡大する方向へ強制的に拡げる方法として、スライド部12にガイド12dを設けている。スプルブッシュ本体11はガイド12dがスライドできる溝12eを有しており、ガイド12dは断面が扇形になっており、ガイド12dの根元部分の幅Wlが、ガイド12dの外端部分の幅Whより狭くなっている。また、溝12eはガイド12dにスライド自在に嵌合できる断面を有する。その効果としてスライド部12をスプルブッシュ本体11へ組み込んだ後は、型開き時にスライド部12のガイド12dはスプルブッシュ11の溝12dに嵌合して移動するため、分割されたスライド部12のスプル孔12aの径が拡大する力が加わり、開きばね19が不要となる。なお、ガイド12dの断面は扇形でなくても、逆凸字形L字型であってもよい。また上記とは逆に、スプルブッシュ本体11にガイドを設け、スライド部12にガイドが嵌号する溝を設けてもよい。
【0029】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、使用する射出成形樹脂材料の種類を問わず、離型時にスプル孔へのスプル部固着による離型不良がなくなる。また押出しピン先端部にアンダーカットを設ける場合にはスプル部をスプル孔から確実に抜くことができるので、押しばねが不要になる。また、スプル孔の抜きテーパをとる必要がないため、スプル部の体積を必要以上に設けることがなくなることで固化が促進され、スプル部の固化時間が問題となっている場合には、成形サイクルの短縮が可能となり、使用樹脂量の低減効果もある。またスライド部等をスプルブッシュ本体内に組み込んで一体品とした場合に、既存の金型への転用が容易であることにより、様々な金型での使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Z形状のアンダーカット構造をもつ従来型射出成型用金型断面図
【図2】テーパ状のアンダーカット構造をもつ従来型射出成型用金型断面図
【図3】凹状部を設けたアンダーカット構造をもつ従来型射出成型用金型断面図
【図4】本発明の実施例の要部を示す断面図
【図5】本発明におけるスプルブッシュ作動図
【図6】本発明におけるスプルブッシュの斜視図
【図7】本発明におけるスライド部の断面図
【図8】本発明の実施例2を示す断面図
【図9】本発明の実施例3を示す断面図
【図10】本発明の実施例4を示す斜視図
【図11】本発明の実施例4のスプルブッシュの長手方向に直角の断面図
【符号の説明】
1:スプル部、2:可動型、3:押出ピン、4、5、6:アンダーカット、7:固定型、8:スプルブッシュ、9:固定型、10:稼動型、11:スプルブッシュ本体、12:スライド部、12a:スプル孔、12d:ガイド、12e:溝、13:押しばね、14:ストッパー、15:スプル部、16:ランナ部、17:押出ピン、18:押出ピン先端部、19:開きばね、20:平ストッパー、21:止めねじ、22:切欠き部、30:タッチ面
Claims (2)
- 射出成形用金型において、スプルブッシュ本体(11)内に、射出成形機ノズルに直接当接し、溶融した射出成形材料が通過するスプル孔(12a)を有するスライド部(12)を摺動可能に嵌合して設け、かつ該スライド部(12)が長手方向に複数に分割され、該分割されたスライド部(12)が、型開時に型開方向へ移動することにより、スプル孔(12a)の径が拡大可能な状態を生じる射出成形金型用スプルブッシュであって、
分割されたスライド部(12)の少なくとも一つに、その長手方向にガイド(12d)を突設させ、該分割されたスライド部(12)の少なくとも一つに向かい合ったスプルブッシュ本体(11)の部分にガイド(12d)が摺動可能に嵌合する溝(12e)を有し、ガイド(12d)の根元部分の幅(Wl)を外端部分の幅(Wh)よりも狭くすることにより、該分割されたスライド部(12)が型開時に型開方向へ移動しながら、スプル孔(12a)の径を拡大させることを特徴とする射出成形金型用スプルブッシュ。 - 請求項1に記載のスプルブッシュを構成要素とする射出成形用金型。
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