JP4228161B2 - 窒化アルミニウム系粉末及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な窒化アルミニウム系粉末の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
窒化アルミニウムは、その高い熱伝導性と電気絶縁性からIC基板、ヒートシンク、ICパッケージ、封止材のフィラー、金属等との複合材料用等として幅広く利用されている。
【0003】
しかしながら、従来の窒化アルミニウム粉末を油又は樹脂と混合して組成物を調製しようとする場合、次のような問題が生じる。すなわち、組成物中における窒化アルミニウム粉末の分散性が低く、また調製された組成物の流動性が時間の経過とともに低下する。このため、これらの問題が解消されない限り、その最終製品の品質向上を望むこともできない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このように、窒化アルミニウム粉末を油又は樹脂と配合する場合に生じる問題を解決するための具体的な方策が待たれているものの、いまだ開発されるに至っていないというのが現状である。
【0005】
従って、本発明は、特に油又は樹脂に対する分散性に優れ、良好な流動性を与える窒化アルミニウム系粉末を提供することを主な目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記従来技術の問題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、窒化アルミニウム粉末の粒子表面に特定基を存在させることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の窒化アルミニウム系粉末及びその製造方法に係るものである。
【0008】
1.粒子表面の一部又は全部に−O−R基(O:酸素、R:アルキル基)が存在することを特徴とする油類への配合用窒化アルミニウム系粉末。
【0009】
2.アルコール類の存在下で窒化アルミニウム粉末を粉砕し、得られた粉末を40〜400℃で熱処理することを特徴とする油類への配合用窒化アルミニウム系粉末の製造方法。
【0010】
3.アルコール類と窒化アルミニウム粉末を40℃以上かつ当該アルコール類の沸点未満の温度下で接触させ、次いで40〜400℃で熱処理することを特徴とする油類への配合用窒化アルミニウム系粉末の製造方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
(1)本発明窒化アルミニウム系粉末
本発明の窒化アルミニウム系粉末は、窒化アルミニウム粒子表面の一部又は全部に−O−R基(O:酸素、R:アルキル基)が存在することに特徴を有する。一般に、上記基は、窒化アルミニウム粒子に結合して存在する。この結合状態は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されない。
【0012】
上記アルキル基としては、特に制限されないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基等が挙げられる。これらは1種又は2種以上あっても良い。また、これらの基は、互いに異なる2種以上のアルキル基であっても良い。これらアルキル基の中でも、i−プロピル基が好ましい。
【0013】
本発明の窒化アルミニウム系粉末は、油類又は樹脂類に好適に使用することができる。本発明の窒化アルミニウム系粉末を配合できる油類としては、特に限定されず、公知の油類、潤滑剤等が例示できる。具体的には、脂肪酸のグリセリンエステル、シリコーン油等の合成油、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、その他にも油脂類、石油類、グリセリン類、金属せっけん類等が挙げられる。
【0014】
一方、樹脂類としても公知の樹脂に適用することができる。例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリブタジエン、フラン樹脂、ウレタン樹脂、アルキルベンゼン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和アルキド樹脂(グリプタル樹脂、不飽和アルコール変性フタル酸樹脂、イソフタル酸系樹脂、テレフタル酸系樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂)、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0015】
なお、油又は樹脂への本発明窒化アルミニウム系粉末の配合量は、マトリックス(樹脂類、油類)の種類、最終製品の用途等に応じて適宜設定すれば良い。
【0016】
本発明の窒化アルミニウム系粉末は、油・樹脂以外にも、例えば金属、ガラス、セメント、ゴム、他のセラミックス等に配合でき、通常のIC基盤、ICパッケージ等の焼結用としても使用できる。
(2)本発明の窒化アルミニウム系粉末の製造方法
本発明の窒化アルミニウム系粉末の製造方法としては、例えばアルコール類の存在下で窒化アルミニウム粉末を粉砕し、得られた粉末を40〜400℃で熱処理することにより実施できる(第一方法)。
【0017】
また、例えばアルコール類と窒化アルミニウム粉末を40℃以上かつ当該アルコール類の沸点未満の温度下で接触させ、次いで40〜400℃で熱処理することにより実施することもできる(第二方法)。
・第一方法
第一方法における粉砕方法としては、特に制限されず、公知の粉砕機・粉砕装置により行うことができる。例えば、振動ミル、粉砕用ボールミル、遊星ミル、スタンプミル、アトライター等を用いることができる。また、粉砕時の温度も特に制限されず、通常は室温付近〜150℃程度で実施すれば良い。
【0018】
アルコール類の使用量は、通常は窒化アルミニウム粉末100重量部に対して0.05重量部以上とすれば良い。なお、この使用量の上限は、粉砕機・粉砕装置の種類、粉砕方式、処理量等によって異なるが、通常は乾式粉砕の場合は10重量部程度、湿式粉砕の場合は3000重量部程度とすれば良い。
・第二方法
第二方法において、アルコール類と窒化アルミニウム粉末を接触させる方法としては特に制限されず、例えば40℃以上かつ当該アルコール類の沸点未満の温度下で窒化アルミニウム粉末をアルコール類に浸漬、分散その他の方法で接触させ、その温度で保持すれば良い。この場合、必要に応じて攪拌しても良い。また、上記温度での保持時間は、窒化アルミニウム粉末の使用量、アルコール類の使用量、処理温度等に応じて適宜設定すれば良いが、通常5分〜24時間程度とすれば良い。これらの処理は、Vブレンダー、ミキサー、低エネルギーアトライター、混合用ボールミル等の公知の混合機・粉砕装置中で行っても良い。
【0019】
第二方法における他の方法として、例えばスプレー等でアルコール類を窒化アルミニウム粉末に吹き付け、40℃以上かつ当該アルコール類の沸点未満の温度下で保持する方法、40℃以上かつ当該アルコール類の沸点未満の温度に設定されたアルコール類をスプレー等で窒化アルミニウム粉末に吹き付ける方法等も採用できる。
・第一方法及び第二方法における熱処理
第一方法及び第二方法における熱処理は、双方とも同様の条件で実施することができる。すなわち、第一方法又は第二方法における上記窒化アルミニウム粉末を通常40〜400℃程度、好ましくは50〜300℃で熱処理すれば良い。この熱処理により、窒化アルミニウム表面とアルコール類との反応を促進し、最終的には−O−R基を含む層(−O−R層)が形成されるとともに、余分なアルコール、水分等が取り除かれる。
【0020】
熱処理雰囲気は、−O−R層が形成される限り特に制限されず、酸化性雰囲気中、大気中、真空中、不活性ガス雰囲気中等のいずれであっても良い。熱処理時間は、処理する窒化アルミニウム粉末の量、熱処理温度等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は5分〜24時間とすれば良い。
【0021】
粉末の表面に形成される−O−R層中のR(アルキル基)の量は、粉末の粒度、比表面積等により異なるため限定されるものではないが、通常は窒化アルミニウム粉末100重量部に対し、0.005重量部以上、好ましくは0.01重量部以上に調整すれば良い。0.005重量部未満では、本発明の効果すなわち油に対する濡れ性の改善あるいは表面の安定性が十分に得られないことがある。なお、上限は特に規定されるものではないが、コスト、生産効率等を考えた場合は5重量部程度とすることが好ましい。
・第一方法及び第二方法で使用する原料
窒化アルミニウム粉末(原料粉末)としては、公知の窒化アルミニウム粉末が使用できる。例えば、直接窒化法、還元法、その他の公知の製法により作製された窒化アルミニウム粉末が使用でき、また市販品もそのまま使用できる。特に、原料粉末としては、平均粒径が通常0.5〜150μm程度、含有酸素量が通常0.2〜3%程度、比表面積が通常0.1〜8m2/g程度のものが好適に使用できる。また、原料粉末の純度については特に制限されないが、Al以外の金属不純物は総計で1wt%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明では、アルコール類としては、アルコール類をそのまま使用できるほか、アルコール類を適当な溶媒に溶解したものも使用できる。溶媒としては、アセトン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の有機溶剤が挙げられる。上記アルコール類による処理後は、必要に応じて公知の方法にて固液分離、乾燥等の処理を施しても良い。
【0023】
本発明製造方法で使用するアルコール類としては、窒化アルミニウム粉末の粒子表面に上記−O−R基を付与できる限り特に制限されない。例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ペンタノール等が使用できる。これらは1種又は2種以上使用できる。これらの中でも、特にIPAが好ましい。本発明では、最終的には、これらのアルコール類から水酸基が脱離することによってアルキル基となる。
【0024】
【作用】
アルコール類を窒化アルミニウム粉末表面に吸着させたものは従来から知られているが、経時安定性がなく、油との相容性も悪いものであった。これに対し、本発明では、アルコール類を窒化アルミニウム粉末表面に十分吸着させた後、化学的な変化を起こさせて水酸基を脱離させ、−O−R層を被覆することによって、ちょう度の安定性、油等との相容性、充填性、流動性等を改善することが可能となる。
【0025】
【発明の効果】
本発明の窒化アルミニウム系粉末によれば、個々の粒子表面が−O−R層により被覆されているので、これを油類又は樹脂類と混合した場合には、優れたちょう度の経時安定性が得られるとともに、油等との相容性、充填性、流動性等を改善することが可能となる。
【0026】
このような特徴を有する本発明の窒化アルミニウム系粉末は、IC基板、ヒートシンク、ICパッケージ、封止材のフィラー、金属等との複合材料用等として幅広く利用できる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明の特徴とするところを明確にする。
【0028】
実施例1
平均粒子径6.5μm、BET比表面積1.1m2/gの窒化アルミニウム粉末(東洋アルミニウム株式会社製UMグレード)1kgに対し、イソプロピルアルコール(IPA)5gを添加し、内容積5リットルの振動ミルを用いて室温で3時間粉砕した。続いて、粉砕した粉末を150℃で1時間熱処理して本発明窒化アルミニウム系粉末を得た。得られた粉末は、平均粒子径2.1μm、BET比表面積4.2m2/gであった。図1には、得られた窒化アルミニウム系粉末のTG−MS測定による気体発生速度曲線を示す。この窒化アルミニウム系粉末では、i−プロピル基による質量数が41、推定分子式がC3H5の気体が検出された。これは次式(1)によりアルキル基が窒化アルミニウム系粉末の粒子表面から離脱、分解したものであると解析された。
【0029】
−O−C3H7→−O+2H+C3H5 …(1)
実施例2
平均粒子径6.5μm、BET比表面積1.1m2/gの窒化アルミニウム粉末(東洋アルミニウム株式会社製UMグレード)1kgに対し、イソプロピルアルコール(IPA)5gを粉砕助剤とし、内容積5リットルの振動ミルで3時間粉砕した。粉砕中のボールミル内の温度が70℃となるようにウォータージャケット内に水蒸気を導入して加熱した。粉砕後の粉末をさらに80℃で1時間熱処理を行って、本発明窒化アルミニウム系粉末を得た。得られた窒化アルミニウム系粉末は、平均粒子径1.9μm、BET比表面積4.5m2/gであった。
【0030】
実施例3
内容積4リットルの密閉できる容器内に平均粒子径6.5μm、BET比表面積1.1m2/gの窒化アルミニウム粉末(東洋アルミニウム株式会社製UMグレード)1kgと、IPA3リットル(2.36kg)を装入後十分に攪拌した。続いて、容器を密閉して70℃で1時間保持した。固液分離後、窒化アルミニウム粉末を150℃で1時間熱処理して本発明窒化アルミニウム系粉末を得た。
【0031】
比較例1
平均粒子径6.5μm、BET比表面積1.1m2/gの窒化アルミニウム粉末(東洋アルミニウム株式会社製UMグレード)1kgに対し、アセトン5gを粉砕助剤とし、内容積5リットルの振動ミルを用いて室温(ミルの温度が上がらないよう、ミル外壁に冷却水を多量に供給した)で3時間粉砕した。続いて、粉砕した窒化アルミニウム粉末を150℃で1時間熱処理して比較用窒化アルミニウム粉末を得た。得られた粉末は、平均粒子径2.0μm、BET比表面積4.3m2/gであった。
【0032】
比較例2
平均粒子径1.5μm、BET比表面積3.5m2/gの窒化アルミニウム粉末(株式会社トクヤマ製Fグレード)1kgを、20℃のIPA3リットル(2.36kg)中に浸漬させ十分に攪拌した。固液分離後、窒化アルミニウム系粉末を室温で自然乾燥して比較用窒化アルミニウム粉末を得た。図2には、この比較用窒化アルミニウム粉末における固液分離後で乾燥前のAlN粉末のTG−MS測定による気体発生速度曲線を示す。IPAによる質量数が45、推定分子式がC2H5Oの気体が検出された。これにより、上記窒化アルミニウム粉末の粒子表面に単にIPAが物理的に吸着していたにすぎないことがわかる。すなわち、TG−MS測定時に次式(2)の分解が起こることが判明した。
【0033】
C3H7OH→C2H5O+CH3 …(2)
試験例1
各実施例及び比較例のアルキル基量、吸油量及びちょう度を調べた。その測定結果をその平均粒子径等とともに表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
なお、各物性の試験方法は次のようにして実施した。
・吸油量
一定の条件下でAlN粉末に吸収されるあまに油量の測定により求めた。測定はJlS K5101に従った。
・ちょう度
試料粉末80重量部にシリコーンオイル(KF−54、信越化学工業株式会社製)20重量部を混合したオイルコンパウンドを測定試料に用いた。ちょう度の測定はJlS K2220(1/2コーン使用)に従った。
・平均粒子径
レーザー回折法により測定した。
・比表面積
BET多点法により測定した。
・経時安定性
上記オイルコンパウンドを密封容器に室温下で30日放置した後、ちょう度を再測定して評価した。
・アルキル基量
試料粉末の表面に形成した−O−R層にあるRの量は、熱重量−質量同時分析法(TG−MS法:加熱時に重量変化と同時に試料から発生する気体の質量数と発生量を測定する)により分析した。
【0036】
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1における窒化アルミニウム系粉末のTG−MS測定による気体発生速度曲線を示す。
【図2】 比較例2における固液分離後で乾燥前のAlN粉末のTG−MS測定による気体発生速度曲線を示す。
Claims (4)
- 粒子表面の一部又は全部に−O−R基(O:酸素、R:アルキル基)が存在することを特徴とする油類への配合用窒化アルミニウム系粉末。
- アルキル基が、n−プロピル基及びi−プロピル基の少なくとも1種である請求項1記載の油類への配合用窒化アルミニウム系粉末。
- アルコール類の存在下で窒化アルミニウム粉末を粉砕し、得られた粉末を40〜400℃で熱処理することを特徴とする油類への配合用窒化アルミニウム系粉末の製造方法。
- アルコール類と窒化アルミニウム粉末を40℃以上かつ当該アルコール類の沸点未満の温度下で接触させ、次いで40〜400℃で熱処理することを特徴とする油類への配合用窒化アルミニウム系粉末の製造方法。
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