JP4226174B2 - 育苗容器と植物苗の植えつけ構造ならびに前記育苗容器による植物苗を植えつけた植栽装置。 - Google Patents
育苗容器と植物苗の植えつけ構造ならびに前記育苗容器による植物苗を植えつけた植栽装置。 Download PDFInfo
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Description
【産業上の利用分野】
本願発明は、植木、草花その他の植物を簡便に植栽することのできる装置、特に建造物の屋上や屋根等で植物を栽培するために設けられる植栽装置、詳しくはその育苗構造と、この植栽装置の植栽層に植物苗を備蓄供給する苗の育苗容器、ならびに育苗容器により育成した苗の植えつけに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、建造物の屋上やその他の空間に大規模に植物を植栽し、都市部における無機的な空間の緑化を図る試みが盛んになされるようになっている。このような時、多くの場合は、建造物等のスラブ面の防水層上に押えのコンクリート層を形成し、この上に、植栽層として、砂、砂利等からなる砂利層と、客土層を順次積層して植物を植栽するようにしている。
【0003】
しかしながら、植物にとって十分な保水性、排水性を得るためには、植栽層にかなりの土砂を導入する必要があり、しかもコンクリート層はかなりの重量を有するため、これらの重量が建造物に悪影響を及ぼすという問題がある。そこで、本出願人は、先に保水性、排水性に優れた軽量の植栽装置を開示している(例えば特許2531542号公報参照)。
【0004】
この植栽装置は、建造物の屋上等に形成されているスラブ面に防水層を固定すると共に、この防水層の上面に、不織布等を有する保水材と、凹部及び凸部2を有するドレイン板等とからなる保水給排水手段を設け、さらにこの保水給排水手段の上方に砂利層および客土層からなる植栽層を積層したものとなっており、前記保水給排水手段等によって適正な保水性、排水性を得られるものとなっている。このため、排水を考慮して設けられていた砂利層が不要となり、保水性の向上によって植栽層も草木の地下茎の大きさなどを考慮した必要最小限の厚さ、例えば50mm程度に設定することが可能となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、上記従来の植栽装置においては、装置全体が軽量化され、建造物に対する悪影響を回避し得るという優れた機能を有しているが、未だ改良すべき幾つかの課題を包含している。すなわち、従来技術では、植物の植栽は客土層に植物の種子を撒いてこれを育成する、あるいは他の場所で育成した苗を客土層に植えつける等の手段によりなされている。前者の場合は、発芽に至るまでは言うまでもなくその後の管理も煩雑である。また、後者の場合は専用の育苗圃場で所定の大きさまで成育した苗を客土層に植えつけることになるが、客土層に苗の数に対応する穴を形成して、この穴に各苗を埋め込んでいく必要があり、これもまた煩雑な作業を要することになる。また、植え込んだ苗は、根付きが十分でないから、保護網等を被覆してその倒立を防止する必要がある。しかしながら、植えた苗の上にそのまま保護網等を設置しては、苗が損傷してしまうから、各苗毎に保護網等の網目を通してやる必要があり、これもまた時間と手間がかかる。
【0006】
さらに、従来技術では風に対する対策が施されていない問題がある。この種の装置は、建造物の屋上等、高所に設けられることが多いが、このような高所では常に方向不規則な風が発生しており、このため客土層の土壌が飛散しやすい。また、客土層は建造物等に対する荷重の点から出来うる限り薄く構築することが望ましいが、これをあまり薄くすると植栽した植物の根が張れず、僅かの風にも倒壊してしまう。このことは、特に植木を植栽した場合には顕著であって、ある程度の高さに成育する植木に場合には、無風時でさえ正立させることが困難である。
【0007】
さらにまた、この種の装置では、客土層をいったん構築すると、客土層の土壌を耕すことが困難であり、このため客土層以下の通気が悪くなり、植物の成育に重大な影響をもたらすことになる。さらにまた、現在では、屋上等の水平な面だけでなく、勾配屋根等のような傾斜した面にも植栽を施したいとするユーザーの要請もあり、このような要請に応じて上記装置を適用した場合には、設置状態は不安定になり、特に客土層の土壌の保持が困難になる。このような点を解決しようとする技術が、特許第2717632号公報に開示されている。しかしながら、この技術においては、装置の固定が煩雑で、施工コストが嵩むうえ、施工に時間が掛かるという問題がある。
【0008】
このため、本願発明者等は先に、さらに改良を施した植栽装置、ならびにこの植栽装置の植栽層を能率良く形成する技術を、特願平10−308033号により開示した。しかしながら、この技術にあっては、植栽装置の施工と育苗のタイミングを微妙に調整する必要があり、植栽装置における苗の定着の適切な実現に関しては、植栽装置の施工の進捗状況に合わせて、植栽装置に植えつける苗の育苗をなす必要があり、両者の調整が困難な場合も少なくないのが現状である。
【0009】
すなわち、植栽装置に植えつける苗は、育苗容器中でなされるが、例えば植栽装置の施工がなんらかの原因で遅滞すると、容器中で長く育成された苗の根部には、いわゆる根詰まり状態が発生する。
この根詰まりとは、容器の大きさと苗の根部の成長との間にある種のアンバランスが生じることに起因する。根の成長に容器の大きさが適合しなくなるにつれ、根は容器の内周に沿って成長して、根による捲回塊部が形成される。
このような状態で、苗を容器から引き抜き、土壌等に撒布植え付けても、根による捲回塊部の外側は固化状態で、根がいわば不活性化している状態にあるからこのままでは所望の活着を得ることができない。そこで、従来は苗を廃棄することがほとんどであった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、建造物の屋上、屋根その他適宜の場所に設置される植物の植栽装置において、装置底部に設けられる防水層と、植物の毛根等の装置外への侵出を防止するために前記防水層上に固着張設されるルートガードと、ルートガード上に設けられ、上方から浸透する雨水あるいはその他の手段による潅水等を保持・排水し、保持した水分を植物の根部に供給するとともに積層される土壌を把持するために、保水部と排水部とが複数一体に形成されたドレイン板からなる保水給排水手段と、保水給排水手段上に構築される植物の植栽層と、前記植栽層と保水給排水手段とを連結する固定手段と、を具え、前記植栽層は、客土層とこの客土層上に撒布された培土付き根部を有する植物苗とこの植物苗の上に張設される保護網とで構成するとともに、前記培土付き根部を有する植物苗は、複数の苗の根部を保持する本体部と、本体部内に設けられて前記複数の苗の根部をその端部において苗毎に分離する区画部とを具えてなる育苗容器において育成され、前記区画部を除く部分で互いに根部相互が連結されている状態にありかつ連結された根部の端部には前記区画部によるスリットが形成された複数の苗を育苗容器から引き出し、各苗の根部における連結部分を分離破断して根部に露出面を形成した植栽装置であって、 客土層上に撒布され保護網で被覆された培土付き根部とここから伸びる躯体部を有する植物苗は、客土層と保護網との間において、培土付き根部とここから伸びる躯体部を客土層上に横倒し状態に載置して各苗の根部における分離破断による露出面が土壌面に接するように存在するように構成した植栽装置を提供して、上記従来の課題を解決しようとするものである。
【0011】
また、上記の植栽装置において、保護網は分解性または腐食性素材で形成するとともに、ドレイン板における保水量は約3,024cm 3 /m 2 、すなわち約3.02リッタ−に設定して構成することがある。
【0012】
さらに、上記の植栽装置において、客土層に大気を循環させるための通気機構を設けるとともに、保水給排水手段を構成するドレイン板には接着手段を介して前記ルートガード表面に接合するための固定部を複数形成し、前記保水給排水手段を構成するドレイン板の前記排水部は、縦横に交叉連通して形成され上面に孔部を有する通直管により構成され、前記保水部は各通直管により囲繞されて形成される凹部空間により構成するとともにドレイン板に形成される固定部は保水部の複数個以上の面積を有して前記通直管に囲繞された凹部により構成することがある。
【0013】
さらに又、上記の植栽装置において、固定手段は、中空体で構成され、その頂部には透孔を有し、底部は前記固定部に連結固定されるように構成することがある。
【0014】
【発明の実施形態】
以下、本願発明の実施形態を図面に基づき説明する。図1は、本願発明に係る育苗容器の第1の実施形態を示す一部破断斜視図であり、育苗容器Kは、本体部11とこの本体部11の内奥空間を分割する区画部14とから構成されていて樹脂材の射出成型により形成されている。区画部14は互いに直交する区画板12、13により構成されていて本体部11の底部近傍の内奥空間を均等に四分割している。
本体部11において、均等に四分割された内奥空間それぞれにおいて植物苗が育苗されることになる。
【0015】
図2は、図1に示す前記育苗容器Kにおける植物苗Nの育苗状態を示す断面図である。 植物苗Pは、均等に四分割された内奥空間それぞれに対応して4本植えつけられているが、図では2本が表れている。植物苗Pの根部P1は、成長するにつれ本体部11内に保持され繁茂して、それぞれの植物苗の根部P1は互いに絡み合い一体化するが、一体化した根部の端部は前記内奥空間により4部分に分割された状態が現出する。
換言すれば、絡み合って一体化した各苗Pの根部の端部には区画板12、13からなる前記区画部14により十文字状のスリットが形成されることになる。
【0016】
図3は、図2に示す状態において育苗容器P1から抜出した4本の植物苗Pの根部P1の状態を示す斜視図である。根部P1は、全体として各苗の根が絡み合いほぼ一体化しているが、その端部には区画部14により十文字状にスリットSが形成されている。
このとき、根部P1にあっては、苗の成育期間の長短により、いわゆる根詰まりとなっている状態と、この根詰まりが発生していない状態とに別れる。ここで、根詰まりとは、段落番号9で述べたように、容器の大きさと苗の根部の成長との間にある種のアンバランスが生じることに起因して発生する。すなわち、根の成長に容器の大きさが適合しなくなるにつれ、根は容器の内周に沿って成長して、根による捲回塊部が形成される。
このような状態で、苗を容器から引き抜き、土壌等に撒布植え付けても、根による捲回塊部の外側は固化状態で、根がいわば不活性化している状態にあるからこのままでは所望の根付きを得ることができない。
【0017】
図3において、根部P1にこのような根詰まりが発生していない場合は、4本の苗が根部で連なっている状態で植栽すべき土壌に載置または植え付けることができる。一方、根部P1において前記根詰まりが発生している場合には、このままの状態で移植しても所定の根付きは期待できないから、各苗Pの根部における連結部分を分離破断してこれにより形成された露出面が植栽すべき土壌面に接するように植えつけることになる。
次にこの作業を図4により説明する。
【0018】
図4は、図3に示すように絡み合い一体化した根部P1をその端部に形成されたスリットSを利用して各苗に分離した状態を示す斜視図である。すなわち、スリットSが形成されていることにより、各苗の根部の連結部分は指先等により容易に分離破断でき、これにより形成された露出面Rは毛根等が起毛状態にあり、根詰まりの発生により根が密集固化した他の面、すなわち育苗容器の内側に接していた面に比べて根は極めて良好な活性状態にあり、その成育適性は大きい。
したがって、根の連結部分を分離破断した苗を植栽すべき土壌に撒布、載置すれば分離破断による露出面から根が成育を始め、土壌に速やかに定着する。 なお、土壌への撒布時には、露出面が土壌に直接接する状態が望ましいが、そうでなくても露出面からは根が伸び始め、この根は直ちに土壌中に進出するので、根付きに悪影響を及ぼすことはない。
【0019】
図5は、本願に係る育苗容器の第2の実施形態を示す一部切欠斜視図である。育苗容器P1は、直方体状の本体部21とこの本体部21の内奥空間を数カ所に並分割する区画部24とから構成されていて樹脂材の射出成型により形成されている。区画部24は本体部21の底部近傍の内奥空間を均等に並分割する区画板22により構成されている。
本体部21において、均等に並分割された内奥空間それぞれにおいて植物苗が育苗されることになる。 この育苗容器P1による植物苗の育成、育成した苗の移植等は、前述した第1の実施形態と同様であるため、重複説明は省略する。
【0020】
図6は、本願発明に係る育苗容器の第3の実施形態を示す斜視図であり、育苗容器P1は、立方体状の本体部31とこの本体部31の内奥空間を分割する区画部34とから構成されていて樹脂材の射出成型により形成されている。区画部34は互いに直交する区画板32、33により構成されていて本体部31の底部近傍の内奥空間を均等に12分割している。
本体部31において、均等に12分割された内奥空間それぞれにおいて植物苗が育苗されることになる。この育苗容器P1による植物苗の育成、育成した苗の移植等もまた、前述した第1の実施形態と同様であるため、重複説明は省略する。
【0021】
図7は、本願発明に係る育苗容器の第4の実施形態を示す斜視図である。この実施形態において、育苗容器P1は、複数個一体に連設されている。連設すべき育苗容器P1の数およびそれぞれの配置構成は、全体としての取扱、製造技術等の難易あるいはコスト等を勘案して決定する。
なお、図7における育苗容器P1は第1実施形態に係るもので示したが、第2および第3の実施形態に係る育苗容器でも良いことは勿論である。
【0022】
図8は、本願発明に係る植栽装置の1実施形態を示す一部断面図である。図において、Aは建造物の屋上のコンクリートスラブ面に貼着される防水層であり、この防水層Aの上面には、植物の毛根等の防水層への進出を防止するための樹脂製のルートガードBが張設されている。
【0023】
Cは保水給排水手段としての樹脂または金属製のドレイン板で、全面にわたり保水部1と排水部2とが複数一体に形成されている。そして、3は固定部であり、固定手段4が一体に形成されている。
【0024】
Dは種々の植物等が植立される客土層であり、この客土層Dの上面には、複数の植物苗Pが撒布されていて、この植物苗Pの上には保護網Nが張設されている。植物苗Pは、培土付き根部P1を有していてこの培土付き根部P1とここから伸びる躯体部P2を客土層D上に露出した横倒し状態に撒布載置されている。この植物苗Pは、図1ないし図7に示した前述の育苗容器において育成したものを使用している。
すなわち、 前記培土付き根部を有する植物苗Pは、複数の苗の根部を保持する本体部と、本体部内に設けられて前記複数の苗の根部をその端部において苗毎に分離する区画部とを具えてなる育苗容器において育成されている。
そして、これら各苗は育苗容器から引き出した状態で、前記区画部を除く部分で互いに根部P1相互が連結され、かつ連結された根部P1の端部には図3に示すように前記区画部によるスリットSが形成されている。そして、図4に示すように、各苗Pの根部を前記スリットSを利用して各苗毎に連結部分を分離破断して根部に露出面を形成した後、上述のように客土層D上に露出した横倒し状態に撒布載置する。このため、植物苗の植栽は熟練を要せずして極めて能率よくなすことができ、しかも、その根付きは分離破断により根部に露出面が形成されているから良好であり保守管理も容易である。客土層D、保護網Nおよびこれらの間にあって前述のように客土層D上に露出した横倒し状態に撒布載置された植物苗Pにより、植栽層が形成されている。この実施形態では、保護網Nの素材としては麻、ココナッツ繊維などの天然繊維素材、ビスコースレーヨン、木綿、生物分解性プラスチック等を使用して短期間での分解性、腐食性を得ているが、条件に応じて耐久性のある素材を使用する場合がある。また、この保護網Nの網目の大小、緩急度等の設定は、植物が一定段階まで繁茂して客土層Dの土壌の飛散等が防止できる時期まで客土層Dの土壌を保護する一方、客土層D上に撒布載置された植物苗Pを客土層D上に確保しかつ躯体部P2が成育とともに保護網Nの網目を通り上方に伸長できるように勘案されている。
【0025】
図9は、図1に示した植栽装置の一部切欠斜視図である。前記防水層Aは数枚の防水シ−トA1,A2を接着剤によりコンクリ−トスラブ面に帖着固定して形成されている。この防水層Aの上面には、前述のように樹脂製のルートガードBが接着剤により張設されている。
【0026】
ルートガードB上には保水給排水手段としての前記ドレイン板Cが設けられていて、このドレイン板Cには上方から浸透する雨水あるいはその他の手段による潅水等を保持・排水し、保持した水分を植物の根部に供給するとともに積層される土壌を把持するために、前述のように保水部1と排水部2とが複数一体に形成されている。また、このドレイン板Cには保水部1と排水部2に連続して固定部3および固定手段4が形成されていて、固定部3は両面接着テ−プ等によりルートガードBに固着され、固定手段4の頂部はビス等で前記植栽層の保護網Nに接合固着されている。植栽層は、前述のように客土層D、保護網Nおよびこれらの間にあって客土層D上面に露出した横倒し状態に撒布載置された植物苗Pとから構成されている。
【0027】
図10は、ドレイン板Cを構成する保水部1と排水部2を示す一部切欠斜視図である。図示のように排水部2は、縦横に交叉連通して形成され上面に孔部hを有する断面が台形状をなし下面開口の通直管2aにより、また前記保水部1は各通直管により囲繞されて形成される凹部空間1aによりそれぞれ一体に構成されている。
【0028】
図11は前記ドレイン板Cに散在して一体に形成される固定部3と固定手段4を示す一部切欠斜視図である。固定部3は前記保水部2の複数個以上の面積を有して前記通直管2aに囲繞された凹部により構成されており、この凹部には格子状に交叉する中空突条3aを一体に設け、凹部すなわち固定部3の剛性を高めている。この固定部3の裏面とルートガードBとの間は前述のように両面接着テ−プにより固着される。そして、この固定部3の裏面における前記中空突条3aの開口幅は前記通直管2aの開口幅の半分に設定されているため、この固定部3以外の部分すなわち保水部1部分でルートガードBに接着するのに比較してはるかに大きい接着密度を得ることができる。さらに、図11において、4は、前記固定部3上に一体に形成された固定手段としての中空体で、その外郭は円錐台形状をなし、頂部には孔部4aが形成されている。
【0029】
図12は、該実施形態に係る植栽装置の要部断面図である。植栽装置は、その固定部3を両面接着テ−プ3bによりルートガードBに固着され、ルートガードB、防水層Aも接着手段によりコンクリ−トスラブ面に順次固着されている。該実施形態において、固定部3による接着面積は法令の基準による対風圧性を十分クリア−できる程度に設定されている。客土層Dは礫状骨材をベースに植物の永続的な成育に不可欠な有機質その他で生成される保水性、排水性、緩衝に優れた軽量人工土壌で形成されていて、この土壌は通直管2aに囲繞される空間、すなわち保水部2、あるいは固定部3における突状3aに囲繞される空間に入り込み、これにより客土層Dはドレイン板(保水給排水手段)Cにしっかりと把持されることとなり、勾配屋根等の傾斜部にも植栽装置を安定して設置できる。固定手段としての中空体4の頂部は客土層Dの表面に露出していて、係合具4bおよびビスにより植栽層の保護網Nを係止している。また、この固定手段としての中空体4も客土層D中に埋設されるから客土層Dの揺動を防止し、植栽装置の勾配屋根等の傾斜部への安定的設置に効果を奏する。そして、植栽層は、前述のように客土層D、保護網Nおよびこれらの間にあって客土層D上面に培土付き根部P1とここから伸びる躯体部P2を露出した横倒し状態に撒布載置された植物苗Pとから構成されている
【0030】
ところで、この実施形態に係る植栽装置には通気機構が設けられているが、この通気機構は、頂部に透孔4aを有する前記中空体4と、この中空体4に連通する前記中空突条3aと、この中空突条3aに連通する排水部2としての前記通直管2aとで構成されている。
すなわち、大気は通気生を有する育苗層Fから前記中空体4の孔部4aを通り中空体4内に入り、さらに前記中空突条3a、前記通直管2a、を通過して客土層Dに至り、植物の成育に必要な酸素分その他の大気成分を供給することになる。
【0031】
次に、上記構成に基づいて、この実施形態に係る植栽装置の作用を説明する。客土層Dに対する降水、あるいは撤水により、水の一部は、客土層Dに含浸保持され、他は客土層Dを通過してドレイン板Cの保水部1に至り貯留される(図8、12参照)。
【0032】
ドレイン板Cに至る水の量が多く、保水部1において収容しきれない場合、水は、各ドレイン板Cの端部相互の重ねあわせ(コイント部分)部分に形成されることとなる隙間部、あるいは通直管2aの孔部hを通り、排水部2から適宜排水されるようになっている。
【0033】
そして、客土層Dにおける水の保持量が減少して乾燥するような場合には、保水部1に貯留された水により植物への水分補給がなされることになる。なお、前述のように通直管2aによる排水部2は相互に連通しているため、常時は、通気路となり、植物の根に新鮮な空気が供給されることになり各種の病害虫を防止することができる。
【0034】
ところで、客土層Fの厚さを薄くすると、植物類の根の張りが制限され、植物の定立が危うくなったり、あるいは少々の風によって倒れてしまう虞があるが、本願発明では、通直管2aの上面に多数設けた孔部hにより、このような不都合を防止することができる。すなわち、客土層Dから進出した植物の根先は前記孔部2a周辺にしっかりと定着して把持されるので、たとえ客土層Dの層厚を薄くしても植物が容易に倒壊することはない。
【0035】
客土層Dの上面には、保護網Nが張設されていて、客土層D上面に横倒し状に撒布された植物苗P、特にその根部P1を客土層D上の所定位置に固定するとともに、土壌の風雨による飛散・流出を防止している。そして、この保護網Nは固定手段4により装置に固定されているため、植栽層自体も風に巻き上げられることがない。
なお、風の影響は装置の周縁部分でより大きくなるから、これに対応して固定手段は装置周縁部分に多く設置することが望ましい。
【0036】
この実施形態に係るドレイン板C(保水給排水手段)では、保水部1が約400/m2 程度形成されている。そして、平坦に設置された状態での保水部1の保水量は約1個/7.56cm3 と算定されるから、ドレイン板Cにおける保水量は約3,024cm3 /m2 、すなわち約3.02リッタ−となる。発明者の知見によれば、植栽層に係る植物の成育には、常時、約3リッタ−/m2 程度の水の供給ができる条件を設定することが望ましい。したがって、本実施形態では最適の水供給条件を実現することができる。しかも、植物への供給スタンバイ状態にある水量は単位面積あたり平均化された数値で保持される。また、ドレイン板Cを例えば勾配10/10の傾斜部に設置した場合、保水部1も当然傾斜するが、この傾斜状態の保水部1に保持される水量は約2cm3 と算定されるから、各単位ドレイン板Cにおける保水量は800cm3 /m2 、すなわち約0.8リッタ−/m2 となり、耐乾性を有する植物(セダム類などの多肉植物)の成育には十分の貯留量である。このため、図8に示す実施例で、客土層は約40mmの薄さに設定したが、植物の成育状況はすべて正常で、通常の土壌に植栽した場合となんら変わらない結果を得ることができた。
【0037】
このように、この実施形態においては、適正な保水性、排水性が得られるため、植栽層の厚さを植物の毛根の長さを考慮した必要最小限の厚さに抑えることができ、建物に対する加重負担を大幅に軽減することができるが、軽量でありながらもその設置状態は極めて安定したものとなる。すなわち、客土層Dの表面は保護網Nによって被覆され、また客土層D中の土壌は保水部1を構成する多数の凹部空間により把持され、さらには中空体4によっても保持されるため、装置を傾斜面等に設置した場合でも、客土層中の土壌が偏位したり剥落することもない。
【0038】
次に、当該実施形態に係る植栽装置の構築の手順を図12を中心に説明する。まず、コンクリ−ト面上に防水層Aを固着し、この防水層Aの表面にルートガードBを接着する。次いで、ドレイン板Cをセットし、その固定部3をアスファルトまたは両面接着テ−プ3bによりルートガードBに固着する。次いで、適宜の土壌を投入して客土層Dを形成するが、土壌の投入は中空体4の頂部を目安になせばよいので極めて簡便になすことができる。そして、植物苗Pを、客土層D上面に培土付き根部P1とここから伸びる躯体部P2を露出した横倒し状態に撒布していく。この撒布に際しては、根部P1に土壌を被覆する必要はなく、単に載置しても良いが、土壌に植え込み、目土をかけることによりさらに好ましい結果を得られる。次いで、植物苗Pが撒布された状態の客土層D上に保護網Nを敷設して係止手段4bオおよびビスにより中空体4の孔部4aに係止する。以上の作業により、前述の通気機構を構成する部材が相互に連結され通気路は自ら形成されることになる。なお、植物苗Pは、図1ないし図7に示す育苗容器において栽培されたものを引き抜いて各苗毎に連結した根部を分離破断して根部に露出面を形成した後、客土層D上に撒布していくが、この撒布は前述のように、培土付き根部P1とここから伸びる躯体部P2を露出した横倒し状態になるように撒布していく。植物苗Pが客土層D上で正立してしまうと、客土層D上に保護網Nを張設した場合植物苗Pを損傷する虞が生じる。このように撒布された植物苗Pは、やがてその培土付き根部P1が客土層Dに定着するのに併せ、客土層D上で横倒し状態にあった躯体部P2はその先端部分から正立、すなわち横倒し状態から上方に伸長し始めて保護網Nの網目を通過し成育を始める。
【0039】
なおまた、上述の植栽層構造は、いわゆる植栽装置にのみ利用できるのではなく、より広範囲の緑化対象面に適用することができる。すなわち、客土層とこの客土層上に撒布された培土付き根部を有する植物苗とこの植物苗の上に張設される保護網とで構成し、前記植物苗Pは客土層(土壌面)上面に培土付き根部P1とここから伸びる躯体部P2を露出した横倒し状態に撒布載置される構成になる植栽層構造は、緑化対象面で種子から植物を成育させるのではなく、ある程度に成長した苗の植えつけによりこれをなすため、植物の定着が迅速、確実になされる、適用できる範囲が大きい。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したように、本願発明に係る育苗容器にあっては、前述の構成・作用により育苗途中に発生するいわゆる根詰まりによる根部の不活性による移植時の定着不良を簡単に解消できるうえ、根詰まりが発生していない場合は、複数の苗を同時に移植すべき土壌に植えつけることが可能である。また、本願に係る植物苗の植えつけ構造にあっては、植物苗の根部に活性化した露出面を形成して移植植えつけ構成であるため熟練した作業を要せず、迅速、簡便に苗の植えつけをなすことができ、根の定着も極めて良好となる。さらに、本願に係る植栽装置にあっては、客土層を薄くして軽量化を実現し、客土層の薄層化による植物成育への支障を防止し、かつ風雨による土壌の飛散・流出をなくした植栽装置を実現でき、建造物の屋上、屋根等を始めとして平面部、勾配部等種々の場所に迅速かつ容易、しかも堅固に設置することができるうえ、植栽層において、植物苗は、前記育苗容器において育成して、客土層(土壌面)上面に培土付き根部とここから伸びる躯体部P2を露出した横倒し状態に撒布載置されるため、保護網の展張が容易なうえ、根付きがよく、種々の場所においての緑化実現に資するところが大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】育苗容器の第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す育苗容器における苗の育成状態を示す断面図である。
【図3】育苗容器から引き出した状態の各苗の根部の連結状態と端部に形成された十文字状のスリットを示す斜視図である。
【図4】図3に示す根部が連結状態にある各苗をスリットに沿って分離破断して毛根等の露出面を形成した状態を示す斜視図である。
【図5】育苗容器の第2の実施形態を示す斜視図である。
【図6】育苗容器の第3の実施形態を示す斜視図である。
【図7】育苗容器の第4の実施形態を示す斜視図である。
【図8】植栽装置の実施形態を示す縦断面図である。
【図9】図8に示したものの一部切欠斜視図である。
【図10】同上実施形態におけるドレイン板Cを構成する保水部1と排水部2を示す一部切欠斜視図である。
【図11】同上実施例において、前記ドレイン板Cに散在して一体に形成される固定部3と固定手段4を示す一部切欠斜視図である。
【図12】図8に示す該実施形態に係る植栽装置の要部断面図である。
【符号の説明】
K.......育苗容器
11......本体部
12,13...区画板
14......区画部
R.......露出面
21......本体部
22......区画板
24......区画部
31......本体部
32,33...区画板
34......区画部
A ......防水層
B.......ル−トガ−ド
C...... ドレイン板(保水給排水手段)
D...... 客土層
N.......保護網
P.......植物苗
P1......培土付き根部
P2......躯体部
1.......保水部
2.......排水部
2a......通直管
h.......通直管上部の孔部
3.......固定部
3a......中空突条
4.......固定手段(中空体)
4a......中空体の頂部の孔部
4b......(育苗層の)係止手段
Claims (4)
- 建造物の屋上、屋根その他適宜の場所に設置される植物の植栽装置において、装置底部に設けられる防水層と、植物の毛根等の装置外への侵出を防止するために前記防水層上に固着張設されるルートガードと、ルートガード上に設けられ、上方から浸透する雨水あるいはその他の手段による潅水等を保持・排水し、保持した水分を植物の根部に供給するとともに積層される土壌を把持するために、保水部と排水部とが複数一体に形成されたドレイン板からなる保水給排水手段と、保水給排水手段上に構築される植物の植栽層と、前記植栽層と保水給排水手段とを連結する固定手段と、を具え、前記植栽層は、客土層とこの客土層上に撒布された培土付き根部を有する植物苗とこの植物苗の上に張設される保護網とで構成するとともに、前記培土付き根部を有する植物苗は、複数の苗の根部を保持する本体部と、本体部内に設けられて前記複数の苗の根部をその端部において苗毎に分離する区画部とを具えてなる育苗容器において育成され、前記区画部を除く部分で互いに根部相互が連結されている状態にありかつ連結された根部の端部には前記区画部によるスリットが形成された複数の苗を育苗容器から引き出し、各苗の根部における連結部分を分離破断して根部に露出面を形成した植栽装置において、 客土層上に撒布され保護網で被覆された培土付き根部とここから伸びる躯体部を有する植物苗は、客土層と保護網との間において、培土付き根部とここから伸びる躯体部を客土層上に横倒し状態に載置して各苗の根部における分離破断による露出面が土壌面に接するように存在することを特徴とする植栽装置。
- 請求項1記載の植栽装置において、保護網は分解性または腐食性素材で形成するとともに、ドレイン板における保水量は約3,024cm 3 /m 2 、すなわち約3.02リッタ−に設定したことを特徴とする植栽装置。
- 請求項2記載の植栽装置において、客土層に大気を循環させるための通気機構を設けるとともに、保水給排水手段を構成するドレイン板には接着手段を介して前記ルートガード表面に接合するための固定部を複数形成し、前記保水給排水手段を構成するドレイン板の前記排水部は、縦横に交叉連通して形成され上面に孔部を有する通直管により構成され、前記保水部は各通直管により囲繞されて形成される凹部空間により構成するとともにドレイン板に形成される固定部は保水部の複数個以上の面積を有して前記通直管に囲繞された凹部により構成したことを特徴とする植栽装置。
- 請求項3記載の植栽装置において、固定手段は、中空体で構成され、その頂部には透孔を有し、底部は前記固定部に連結固定されていることを特徴とする植栽装置。
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