JP4225524B2 - 亜鉛系めっき鋼板のレーザー重ね溶接方法およびレーザー重ね溶接用亜鉛系めっき鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、亜鉛系めっき鋼板のレーザー重ね溶接方法およびレーザー重ね溶接用亜鉛系めっき鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
亜鉛系めっき鋼板は自動車、家電、建材等、幅広い分野で使用されているが、長期間の防錆効果を確保する目的からは厚目付けのめっきが有効である。特に、腐食環境が厳しい自動車用のめっき鋼板としては、めっき付着量を40g/m2以上の厚目付け亜鉛系めっき鋼板が広く使用されている。亜鉛系めっきとしては、Zn中に微量のAlやその他不可避不純物を含有する純亜鉛系の溶融亜鉛めっき鋼板、実質的にZnおよび不可避不純物からなる電気亜鉛めっき鋼板、Zn中にFeを5〜20%程度含有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板が主流である。
【0003】
しかし、これらの亜鉛系めっき鋼板は、総じて溶接性が劣るという難点がある。溶接性としては溶接方法と密接な関係があるが、レーザー重ね溶接においても亜鉛系めっき鋼板は溶接性が劣るという課題がある。ここでレーザー重ね溶接とは2枚あるいはそれ以上の鋼板を重ね、鋼板表面にほぼ垂直な方向からレーザービームを照射してキーホール溶接する方法をいう。亜鉛系めっき鋼板では、2枚の鋼板の間に存在するめっき金属がレーザービームで加熱され、亜鉛が溶融・気化して蒸発し、この亜鉛蒸気の圧力によって溶融池の溶鋼がスパッタとして吹き飛ばされてビードを貫通する欠陥(ピット)を生じたり、亜鉛蒸気が溶鋼中に閉じ込められて凝固することによるブローホール、といった欠陥が多発する。従って、亜鉛系めっき鋼板をレーザー重ね溶接することは困難であった。
【0004】
かかるレーザー重ね溶接における課題を解決する手段として、例えば以下の技術が提案されている。
特開平4−231190号公報には、前処理工程で予め亜鉛系めっきを加熱して除去した後にレーザー重ね溶接する方法が開示されている。しかし、この方法では、工程が2つ以上必要である上に、合わせ部の耐食性に課題が生ずる、という難点がある。
【0005】
特開平3−165994号公報には、予めめっき鋼板の重ね面にレーザーを吸収する材料を塗布しておく方法が開示されている。しかし、この方法においても工程が2つ以上必要であり、生産性およびコストの点で課題がある。
特許第3139325号公報には、Zn−Ni系合金めっき鋼板のめっき付着量と鋼板板厚との関係を限定することで、レーザー溶接における溶接欠陥が少なく、かつ溶接部外観の優れたZn−Ni系合金めっき鋼板が開示されている。しかし、この技術では例えば板厚が0.6mmではめっき付着量を15g/m2 以下としなければならず、亜鉛系めっき鋼板の最大の機能である耐食性が犠牲となり、厳しい腐食環境で長期間使用される自動車の耐久性が確保できない、という難点がある。
【0006】
一方、レーザー溶接される鋼板の間に隙間を設けることにより、蒸発する亜鉛を逃がして良好な溶接性を得る方法も、特開平7−155974号、特開2001−162391、特開2001−162387、特開2001−162388、特許2571976号公報等、いくつか報告されている。しかしこれらはいずれも、溶接される鋼板の間の鋼板上に凸部を設けることにより鋼板間に隙間を確保する方法であり、隙間の最小値を制御するには好適であるけれども、隙間の最大値を制御することは困難な方法であった。外部から溶接金属を供給しないレーザー溶接においては、溶接される鋼板と鋼板の隙間が大きくなると溶け落ち不良を生じるため、これら鋼板間に凸部を設けて隙間を設ける方法は、レーザー溶接における鋼板間の隙間制御において、片手落ちの方法であった。
【0007】
鋼板の隙間を制御するレーザー溶接方法として、特開平4−327385号公報には、鋼板のどちらか一方に溶接線に沿った溝状のガス抜き部を形成してから溶接する方法が開示されている。この方法は、ガス抜き部以外を密着させることで設定した隙間量を制御できる点は優れているが、ガス抜き部を予定する溶接線に沿って形成する方法およびその形成したガス抜き部に沿って実際にレーザー溶接する方法に困難があり、例えば複雑な部品形状の周囲を複雑な曲線の溶接線を持って溶接するような場合、そのガス抜き部形成およびそのガス抜き部に沿った溶接のいずれにも、加工上や制御上の困難があり、実現できてもコスト高になるか生産性が悪くなると言う問題点があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、生産性や防錆性能を犠牲にすることなく、溶接欠陥が少なくかつ溶接部外観の優れた亜鉛系めっき鋼板のレーザー重ね溶接方法およびレーザー重ね溶接に適した亜鉛系めっき鋼板を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、レーザー重ね溶接による亜鉛系めっき鋼板の溶接継ぎ手部について、溶接欠陥を低減し、優れた溶接部外観と継ぎ手強度を確保するための溶接方法およびそれに適した鋼板について、種々の検討と実験を続けた結果、ついに2枚の鋼板の間の間隔を制御し、この隙間と鋼板板厚と鋼板間に存在する亜鉛の量との関係を特定の範囲に限定することで、溶接欠陥を低減し、優れた溶接部外観と継ぎ手強度を確保できる溶接方法を見出した。
【0010】
本発明はこうした知見に基づいてなされたもので、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)亜鉛系メッキ鋼板のレーザー重ね溶接において、重ね溶接部の平均隙間:Xa(mm)、鋼板板厚:Y(mm)、重ね面の合計亜鉛付着量:Z(g/m2 )とするとき、
Xa≧Z/(4800×Y)
Xa≦0.35×Y
を満足するよう重ね溶接部に、片側もしくは両側の鋼板に溶接線を跨ぎ、溶接線に対して45〜90°の角度をなす直線、或いはV字形、半円型、波線型から選ばれる形状で周期性を有する溝状の凹みの列を主体とする凹凸を付設し、その凹みの列の溶接線に沿った断面において一つの凹みの開口部長さa(mm)と凹みの周期bが、
b>2×a
を満足することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板のレーザー重ね溶接方法。
【0011】
(2)前記凹凸を、鋼板の製品形状へのプレス工程において設けることを特徴とする、前記(1)に記載の亜鉛系めっき鋼板のレーザー重ね溶接方法。
【0012】
(3)重ね溶接部の平均隙間:Xa(mm)、鋼板板厚:Y(mm)、重ね面の合計亜鉛付着量:Z(g/m2)とするとき、
Xa≧Z/(4800×Y)
Xa≦0.35×Y
を満足する様に、溶接線を跨ぎ、溶接線に対して45〜90°の角度をなす直線、或いはV字形、半円型、波線型から選ばれる形状で周期性を有する溝状の凹みの列を主体とする凹凸を付設し、その凹みの列の溶接線に沿った断面において一つの凹みの開口部長さa(mm)と凹みの周期bが、
b>2×a
を満足することを特徴とするレーザー重ね溶接用亜鉛系めっき鋼板にある。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
発明者らは、種々のめっき鋼板、具体的には、めっき種としては溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、Zn−Ni合金電気めっき鋼板、Zn−Fe合金電気めっき鋼板等のめっき鋼板で、めっき付着量としては片面あたり20〜80g/m2、板厚としては0.7〜2.3mmの鋼板を用い、種々の溶接条件でレーザー重ね溶接実験を行ない、溶接部外観とスパッタ発生量を調べた。ここでスパッタ発生量は溶接前後の試験片質量の減少量として求めたものであり、レーザー重ね溶接によって蒸発した金属や溶接線以外の部分に付着した金属の量の合計に相当する。スパッタ発生量が増加するのに従って溶接部に存在する金属量が減少し、溶接継ぎ手の信頼性が低下するが、発明者らが別途調べた結果では、スパッタ発生量が溶接部溶融金属量のおよそ20%以下であれば、溶接継ぎ手部の継ぎ手強度は母材とほぼ同等であり、この範囲であれば継ぎ手の信頼性が確保できると考えられる。溶接部が全く健全な場合でも、母材およびめっきの一部が蒸発するので、試験片質量の減少量は0にはならない。
【0014】
数多くの実験結果について整理した結果、健全な溶接部を得るための条件は、2枚の鋼板の隙間と鋼板板厚と重ね面の亜鉛の合計付着量の3者と非常に密接な関係があること、特に、健全な溶接部を得るために重要な条件は従来から言われているようなめっき付着量ではなく、亜鉛の合計付着量が非常に重要であること、さらに2枚の鋼板の隙間をX(mm)、鋼板板厚をY(mm)、重ね面の合計付着亜鉛量をZ(g/m2)とした時、図1および図2に示すように
X≧Z/(4800×Y)
を満足すると、鋼板の隙間X、鋼板板厚Y、重ね面の亜鉛の合計付着量Zにかかわらず、溶接部外観が顕著に向上し、スパッタ発生量が格段に低減できることを見出した。
【0015】
しかし、溶接線全線に渡って鋼板間に一定の隙間を確保することは、例えば、工場のラインでロボットにより部品をレーザー溶接していくような場合には難しい。そこで本発明者らは、実際の連続的な隙間のかわりに、鋼板に溝状の凹部を設けて溶接線に沿っては断続的な隙間であっても、連続的な隙間と同等のレーザー溶接性向上機能を鋼板に持たせることを発明し、その適正条件を研究した。その結果、溝状の凹みの列であっても、その深さを溶接線に沿って平均した値を重ね合わせる鋼板間で足し併せた『平均隙間』Xaの考えを導入することで実際の隙間と同様に取り扱えることを見出した。
【0016】
凹部を形成された鋼板は溶接時に凹部以外が密着するよう保持すれば、凹部で設定した隙間を保持できるので、制御された隙間量の実現が容易であるという、一般的な隙間保持の方法には無い、著しい利点がある。この平均隙間を用いると、図1のXは平均隙間Xaと置き換えてもほとんど同じ結果が得られる点が本発明の根本となる新たな知見である。ただし、不連続な隙間である溝状の凹みの列においては、一つ一つの溝と溝の間では、鋼板間に隙間がない状況でレーザー溶接されることになるが、発明者らの研究の結果、溶接ビードの外観を気にしなければ、溝と溝の間が5mm程度あっても平均隙間を十分に取ればスパッタ量は減らすことが可能である。さらに、ビード外観を美麗に保つ目的のためには溝と溝の間隔を狭めれば良いことも見出しており、例えば、3mm以下の溝間隔ならば、ビード外観においても美麗なものが得られ、図2においてもXを平均隙間Xaと置き換えて同等となることを明らかにしている。
【0017】
これらの結果に基づいて、本発明では2枚の鋼板の平均隙間をXa(mm)、鋼板板厚をY(mm)、重ね面の亜鉛の合計付着量をZ(g/m2 )として、レーザー重ね溶接性の良い平均隙間の下限を
Xa≧Z/(4800×Y)
と規定した。ここで、平均隙間についてさらに詳細に説明する。平均隙間とは、レーザー溶接される鋼板の合わせ面における凹みの深さを溶接線に沿って平均した値であり、例えば、同じ矩形状の断面を持つ溝を合わせ面に持つ二つの鋼板を溶接する場合、溝の溶接線方向の開口部長さをa、溝の深さをd、溝の周期をbとした時に、平均隙間Xaは、Xa=2×d×a÷bで計算される。矩形でないが周期的な一般的な溝形状においては、溝の溶接線方向の断面積Sと溝周期bを用いて、Xa=2×S÷bで計算される。
【0018】
溝が片方にしかなければ、矩形断面の溝の場合には、Xa=d×a÷b及び矩形でない周期的な一般的断面形状の溝では、Xa=S÷bと計算される。また、板により溝形状が異なって、板1においては溝の溶接線方向の断面積がS1、周期がb1、板2においてはそれぞれS2、b2であり、この2枚の板が重ね溶接される時の平均隙間Xaは、Xa=(S1÷b1)+(S2÷b2)と表される。さらに一般には、溝の列に周期性がなくとも、溶接線において、溝の深さdを溶接線全線について積分した値Sを、積分した溶接線の長さLで除した平均深さ<d>を計算すれば、重ねる鋼板において両鋼板の平均深さ<d>を足し併せたものが平均隙間と定義される。
【0019】
鋼板板厚Yは、2枚の鋼板の板厚が同一である場合には片側の鋼板の板厚を意味し、2枚の鋼板の板厚が異なる場合には薄い方の鋼板の板厚を意味する。これは板厚の薄い鋼板の方がめっきが自由表面に到達しやすいからである。
重ね面の合計亜鉛付着量Zは2枚の鋼板の間に存在する亜鉛の量であって、片側の鋼板の内面側表面にあるめっきに含まれる亜鉛の量ともう一方の鋼板の内面側表面にあるめっきに含まれる亜鉛の量との合計量である。一方の鋼板が亜鉛系めっき鋼板であり、もう一方の鋼板がめっきされていない鋼板である場合、一方あるいは両方の鋼板が片面だけ亜鉛系めっきされた鋼板である場合、一方あるいは両方の鋼板が差厚めっき鋼板(両面のめっき付着量が同一ではない鋼板)では、重ね溶接で内面側になる面の亜鉛付着量の合計が重要であり、これら鋼板の組み合わせである場合も本発明に含まれることは言うまでも無い。
【0020】
本発明において亜鉛付着量および合計亜鉛付着量とは、文字通りの亜鉛の量および亜鉛付着量の合計であって、めっきの付着量あるいはめっき付着量の合計ではない。純亜鉛めっきの場合にはめっき付着量と亜鉛付着量は同一であるが、Zn含有率がA(%)、他の合金元素の含有率の合計がB(%)、めっき付着量がC(g/m2 )である時、亜鉛の付着量はA×C/100(g/m2 )である。鋼板間の隙間Xが
X≦0.35×Y
を満足すれば、溶接部外観の良好な溶接部が得られるが、
X>0.35×Y
では、溶接条件をいかように制御しても健全な溶接部を得ることは困難である。
【0021】
この条件は、隙間を溝状の凹みの列で実現したときにも鋼板間の実際の隙間のかわりに平均隙間を用いれば、全く同じ現象となり、平均隙間Xaが
Xa≦0.35×Y
を満足すれば、溶接部外観の良好な溶接部が得られるが、
Xa>0.35×Y
では、溶接条件をいかように制御しても健全な溶接部を得ることは困難である。
【0022】
さらに、2枚の鋼板間の隙間は、レーザー溶接の溶接線の全長にわたって確保されていてももちろん良いが、実用上は必ずしもその必要は無く、2枚の鋼板の隙間をX(mm)、鋼板板厚をY(mm)、重ね面の亜鉛の合計付着量をZ (g/m2 )とした時、
X≧Z/(4800×Y)
X≦0.35×Y
を満足する部分の長さの合計L(mm)がレーザー溶接線長A(mm)に対して、L≧A×0.4/Yを満足すると、全長で隙間が確保されているのと実質的に同等の効果が得られる。LがA×0.4/Yよりも小さい場合にはスパッタ量が多くなる場合があり、Lが小さくなるほどスパッタ量が増加し、溶接部の外観が劣化する。ただし、その隙間が、平均隙間Xaによって、
Xa≧Z/(4800×Y)
Xa≦0.35×Y
を満足するときにはLの制限は必ずしも必要ではない。
【0023】
ここで、例えば自動車の車体部品など3次元形状の部品同士を溶接する場合のように、実際の溶接においては溶接面が完全に密着している場合は少なく、むしろ隙間があくことが避けられない。しかし、本発明のように制御された隙間でなければその効果は不充分あるいはまったく発揮されないのである。また、隙間を無くそうとして押さえロールなどで2枚の鋼板を押さえることも考えられるが、かかる方法だけでは、押さえ過ぎて隙間が小さくなりすぎる場合、隙間の小さい部分(X<Z/(4800×Y)の部分)が長く連続する場合、密着する場合、などが避けられず、本発明のような効果を奏するものではない。
【0024】
鋼板表面の構造を空間変調することも、レーザー重ね溶接時の隙間を付与する有効な手段である。ここで、鋼板表面の構造を空間変調するとは、例えば鋼板表面のテクスチャーを微視的および/または巨視的に制御して所望のテクスチャーを得ることを意味する。例えば、鋼板表面の形状を鋼板の幅および長さ方向においては10〜100μm程度のオーダーで制御して微視的凹凸を付与すること、鋼板表面に幅および長さ方向においては100〜1mm程度のオーダーで制御した凹凸を付与すること、など、目的とコストおよび他の必要条件に応じての選択することができるが、重要なことはいずれの場合においても、そのテクスチャーが溝状の凹みの列であって、その平均隙間Xaが、
Xa≧Z/(4800×Y)
Xa≦0.35×Y
を満足することが必要である。
【0025】
鋼板表面の構造を空間変調するのは、鋼板段階であっても良いし、鋼板を部品形状に成形する途中の工程であっても良く、あるいは部品形状に成形した後でレーザー重ね溶接する前であっても良く、いずれにしろレーザー重ね溶接するまでに行えばいずれも効果が発揮される。鋼板の表面の全部または大部分を空間変調しても良く、あるいはレーザー重ね溶接する部分のみを空間変調してもいずれでも良く、部品形状や鋼板の外観、空間変調の方法に応じて選択すれば良い。
【0026】
隙間形成のための空間変調の一方法としての溝形状としては、図3の(A)の様に溶接線に対して直交するものが単純な形として考えられるが、図3の(B)の様に溶接線と適当な角度を持たせて成形させてもよく、また、単独の溝の形状が線状である必要もなくて図3の(C)〜(E)のようにV字形であったり、半円型や波線型であったりなどしても、本発明の効果は同様であり、本発明の範疇である。溶接線と直交した溝では、鋼板を密着させた時に溝部と溝部以外が噛み込んで実質の隙間が減少してしまう場合があるが、溝の間隔を溝の幅に対して小さくしたり、図3の(B)の様に溝と溶接線に角度を付けたり、図3の(C)〜(E)のように線状でない形状を選ぶことで、防止することが出来る。
【0027】
特に、溶接線と直交する線状の溝でも溝の開口部長さaと溝の周期bをb>2×aとすれば、噛み混みによる隙間減少は回避できる。さらに、一定の溝開口部長さaの値に対して溝の周期bの値を大きくするほど、低い荷重で大きな溶接性向上効果が得られることも本発明者らは見出しており、効率的な溶接性向上効果を発揮する最低限の周期としても上式を満たすものが望ましい。
溝列の幅wは、図3の様に単独の溝の溶接線に直交する長さと同等であり、その長さは、溶接ビードの幅より十分に長い必要があるが、例えば溶接ビードの倍程度の長さがあれば効果を発揮可能である。材料や部品及び加工方法などの制約が許す限り、幅が広くても、広すぎてレーザー溶接性上問題となることはない。そのためこの溝幅を適当に設定することで、溝列成形の精度、溶接線と部品の位置の精度に余裕を持たせることが可能な点も本発明の溝状の凹みの列による隙間設定の大きな利点である。
【0028】
鋼板表面の構造を空間変調する手段としては、例えば、鋼板に付与したい表面構造を有する金型やロールを鋼板表面に押し付けて転写する手段、高エネルギー密度ビームで鋼板表面の金属を局部的に蒸発・除去する手段、鋼板表面の金属を鋼板の幅および長手方向に分布を持たせ、かつ板厚方向にも分布を持たせて機械的に除去する手段、鋼板表面の金属をエッチングや電解などの化学的方法によって鋼板の幅および長手方向に分布を持たせ、かつ板厚方向にも分布を持たせて除去する手段、など、空間変調後のテクスチャーとコスト、生産性に応じて種々の手段を用いることができる。
【0029】
本発明が対象とする亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛または亜鉛を主体とする合金を鋼板表面(両面または片面)にめっきしたものであり、製法は工業的には溶融めっき、電気めっきが主流であるが、蒸着めっきなど他の製造方法であってももちろん構わない。鋼板は通常自動車その他の製品に使われる鋼板であればすべて本発明の対象であり、特に鋼板の組成・組織・強度・延性等を限定するものではない。
【0030】
【実施例】
(実施例1)
図3及び図4に本発明の溝状凹み列の実施例を示す。図3は鋼板表面上に成型した溝を上面からみた図であり、それぞれ、(A)溶接線と直交する溝列、(B)溶接線に対して角度を持った溝列、(C)V字の溝列、(D)円弧状の溝列、(E)波状の溝列の実施例である。図4は同様の溝列を溶接線に沿った断面から表した図であり、それぞれ、(A)矩形断面の溝列、(B)台形断面の溝列、(C)台形断面の角に丸みを付けた断面の溝列の実施例である。溝のサイズの例としては、溝の開口部長さaとして0.1mm〜2mm、溝の周期bとしてはa×1.5からa×5の値で金型を作成し、鋼板上に押しつけて転写した。
【0031】
これらの溝状凹みのレーザー溶接性に及ぼす効果を明らかにするため、表1に示す鋼板を表1に示す条件でレーザー重ね溶接に供した。溶接はYAGレーザーで行い、出力は2kWであった。溶接速度は2.5m/分であった。鋼板は同じものを2枚重ね合わせ、溝の無い部分では隙間無く密着するように保持した。
スパッタ発生量は、溶接前後の試験体全体の質量変化を測定し、溶接線長さ50mmあたりの質量変化に換算して表示した。ここで、溶接後に溶接部以外の鋼板表面に付着したスパッタを残したままで試験片質量を測定するとスパッタ発生量に誤差を生ずるので、これらのスパッタを除去してから溶接後の試験片質量を測定した。
【0032】
また、表1における、溝状凹みの断面形状については以下の通りである。
記号 表面からの形状 断面形状
A 図3(A) 図4(A):矩形断面
B 図3(A) 図4(B):台形断面
C 図3(B) 図4(A):矩形断面
D 図3(B) 図4(B):台形断面
E 図3(B) 図4(C)右図:面取り台形断面
F 図3(C) 図4(B):台形断面
G 図3(D) 図4(B):台形断面
H 図3(E) 図4(B):台形断面
O 溝状の凹み無し 溝状の凹み無し
【0033】
溶接部外観は目視で評価し、結果は
○:外観が良好
△:一部ビード形状が悪い部分がある
×:大部分でビード形状が悪い
で表示した。表1から、本発明例はいずれも溶接部外観が良好であり、スパッタ発生量が非常に少ないことがわかる。これに対して本発明の要件を満足しない比較例では溶接部外観が不良であり、スパッタ発生量が非常に多い。特に、比較例No.21の場合は、溶け落ち不良でビード全線が陥没するのが見られた。
【0034】
【表1】
【0035】
【発明の効果】
以上述べた通り、本発明のレーザー重ね溶接方法および亜鉛系めっき鋼板は、健全で信頼性の高いレーザー重ね溶接部を提供するものであり、自動車、建築・住宅、等に広く適用することが可能で、産業の発展に大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】2枚の鋼板の間の隙間XおよびZ/(4800×Y)値(ここでZは合わせ面に存在する亜鉛量の合計付着量、Yは薄い方の鋼板の板厚)とスパッタ発生量の関係を示す図である。
【図2】2枚の鋼板の間の隙間XおよびZ/(4800×Y)値(ここでZは合わせ面に存在する亜鉛量の合計付着量、Yは薄い方の鋼板の板厚)と溶接部外観の関係を示す図である。
【図3】鋼板表面上に成型した溝を上面からみた図である。
【図4】鋼板表面上に成型した溝列を溶接線に沿った断面から表した図である。
【符号の説明】
1 溶接線(その中心線)
2 溝状の凹み
3 溝の溶接線に沿った開口部長さ(a)
4 溝の周期(b)
5 溝列の幅(w)
6 溝深さ(d)
7 レーザー溶接時鋼板と鋼板の内側の面(合わせ面)
8 レーザー溶接時外側の面
9 溝部断面積(s)
Claims (3)
- 亜鉛系メッキ鋼板のレーザー重ね溶接において、重ね溶接部の平均隙間:Xa(mm)、鋼板板厚:Y(mm)、重ね面の合計亜鉛付着量:Z(g/m2 )とするとき、
Xa≧Z/(4800×Y)
Xa≦0.35×Y
を満足するよう重ね溶接部に、片側もしくは両側の鋼板に溶接線を跨ぎ、溶接線に対して45〜90°の角度をなす直線、或いはV字形、半円型、波線型から選ばれる形状で周期性を有する溝状の凹みの列を主体とする凹凸を付設し、その凹みの列の溶接線に沿った断面において一つの凹みの開口部長さa(mm)と凹みの周期bが、
b>2×a
を満足することを特徴とする亜鉛系めっき鋼板のレーザー重ね溶接方法。 - 前記凹凸を、鋼板の製品形状へのプレス工程において設けることを特徴とする、請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板のレーザー重ね溶接方法。
- 重ね溶接部の平均隙間:Xa(mm)、鋼板板厚:Y(mm)、重ね面の合計亜鉛付着量:Z(g/m2 )とするとき、
Xa≧Z/(4800×Y)
Xa≦0.35×Y
を満足するよう重ね溶接部に、片側もしくは両側の鋼板に溶接線を跨ぎ、溶接線に対して45〜90°の角度をなす直線、或いはV字形、半円型、波線型から選ばれる形状で周期性を有する溝状の凹みの列を主体とする凹凸を付設し、その凹みの列の溶接線に沿った断面において一つの凹みの開口部長さa(mm)と凹みの周期bが、
b>2×a
を満足することを特徴とするレーザー重ね溶接用亜鉛系めっき鋼板。
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