JP4224532B2 - Al−Sc母合金の製造法およびその方法によって得られたAl−Sc母合金 - Google Patents

Al−Sc母合金の製造法およびその方法によって得られたAl−Sc母合金 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はAl−Sc母合金の製造法およびその方法によって得られたAl−Sc母合金に係り、詳しくは、アルミニウム・スカンジウム合金を製造するに当たり、その合金の特性を飛躍的に改質して工業的に高い機能を発揮させるために使用することができるマザーアロイの製造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
スカンジウムは、軽金属に微量添加するだけでその性質を著しく改善できることが明らかになってきており、添加元素として近年注目を浴びている。Al−Zn−Mg合金にスカンジウムを0.09%添加すれば耐熱性が向上し、Al−Li−Cu−Mg−Zr合金のスカンジウム添加量を0.13%にすると降伏応力・引張強さが増大し、さらに、Al−5%Zn−1.8%Mg−0.1%Zrに0.2%以上のスカンジウムを添加すると超塑性が見られ、一般に溶接が難しいと言われているアルミニウム合金にスカンジウムを添加すると溶接性が著しく改善されるということが、例えば軽金属第49巻第3号(1999年)の128−144頁に紹介されている。
【0003】
このようなAl−Sc合金は、特開平4−235231号公報に記載されているように、スカンジウム酸化物をアルミニウムと共にペレット化し、それを溶融アルミニウム浴で合金化して製造したり、特開平6−172887号公報に開示されているように、溶融塩電解法によって製造することができる。
【0004】
前者の製法においては或る一定以上の圧力下において溶製しなければならず、製造設備が複雑化しまた幾つもの処理工程が必要となり、安価にAl−Sc合金を得ることができるというものではない。後者による場合、活性度の高いScを如何に効率よく析出させるかが問題であり、Al−Sc合金生成における安定性や生産の円滑化を欠く懸念がある。
【0005】
ところで、スカンジウムは豊富に存在するものであるが、活性度が高いゆえに高純度の鉱石という形では殆ど入手が不可能である。そこで、スカンジウム化合物を以後処理しやすいハロゲン化物に変えるなどして、量的に或る程度纏まった純粋なスカンジウムを得る努力が続けられている。その生成法の一つに、熱還元法がある。
【0006】
これは、ハロゲン化スカンジウムに還元剤の金属カルシウム、低融点合金化剤の亜鉛、さらにはフラックスとしてのフッ化リチウム等を混合し、不活性ガス中で還元処理してZn−Sc合金を生成する。その後、Znを揮発除去して金属Scを得るというものである。そのような例が、特開平4−131308号公報に記載されている。また、特開平10−121164号公報には、金属スカンジウムを脱酸素する方法も開示されている。
【0007】
いずれも、原則として金属スカンジウムを単離させることを目的としたものである。このような熱還元法において望まれることは、ハロゲン化スカンジウム原料の蒸発による損失を少なくし、作業性がよく、結局は設備面・製造面での採算性がとれるようにすることである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このような観点から、現在では、所望するスカンジウム含有率のAl−Sc合金を直接製造するのではなく、スカンジウム化合物を用いてAl−Sc母合金を予め製造し、それをAl−Sc合金の製造の際に添加剤として供するという考えが現れてきている。これは、母合金(マザー・アロイ)に含まれるスカンジウムが2%というものが、最近出回っていることからも頷けるところである。
【0009】
ところで、図8に表したAl−Sc二元系の相平衡状態図を見れば分かるとおり、理論上は800℃でScが2ないし3%、1,000℃になると6ないし7%,1,200℃では12ないし14%といったように、スカンジウム含有量が温度と共に増える傾向にある。しかし、現実には多元系を呈していることから、熱還元法によって製造できるAl−Sc母合金のスカンジウムの含有率は、状態図とはほど遠い2%程度に過ぎないものとなる。
【0010】
言うまでもないが、Al−Sc母合金のスカンジウム含有量が高ければ、Al−Sc合金を製造するにあたり、母合金の添加量は少なくて済む。勿論、運搬も容易であり、総じて取扱性も向上する。しかし、現在の技術水準においては、その含有量は2%に留まるため、Al−Sc母合金の添加は多量にならざるを得ない。
【0011】
スカンジウム含有量を増やすためには、上記状態図の説明から分かるように単純には熱還元の温度を上昇させればよい。しかし、るつぼから不純物が滲出して合金に混入するおそれが高くなったり、Ta,Moるつぼといった耐熱性の高い高価なるつぼの使用も余儀なくされ、コスト高となる。また、ハロゲン化スカンジウム原料の蒸発によるロスも増大し、安価なAl−Sc母合金の提供は依然として容易でない。
【0012】
本発明は上記の問題に鑑みなされたもので、その目的は、熱還元法を採用しつつも従来の含有量を凌ぐことは勿論、理論含有量をも超えるスカンジウムを含んだ市場ニーズに応えられるAl−Sc母合金を生成できること、低温域における操業を可能にして製造設備の熱負荷を軽減し、製造コストの低減にも大きく寄与できること、るつぼからの不純物の混入を抑制して高品質な母合金が得られるようにすることを実現したAl−Sc母合金の製造法およびその方法によって得られるAl−Sc母合金を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、Al−Sc合金を製造するために使用されるAl−Sc母合金を製造する方法に適用される。その特徴とするところは、アルミニウムとアルミニウム中のスカンジウム含有量が1.5重量%ないし2.7重量%に納まるような量のハロゲン化スカンジウムとを原料として、それらに金属還元剤を加えて熱還元し、その熱還元された融液を、アルミニウムの凝固温度もしくはそれより100℃低い範囲の温度まで10ないし70℃/分の速度で冷却し、Al−Sc化合物をアルミニウム合金塊の一部分に集中して高密度に析出させるようにしたことである。
【0014】
原料の溶融は800℃から高くても1,000℃までの温度域での加熱によるものとし、冷却速度は冷却開始当初大きくアルミニウム凝固温度近くで小さくなるように漸次減少させて行う。
【0015】
ハロゲン化スカンジウムはフッ化スカンジウムまたは塩化スカンジウムとしておけばよい。アルミニウム合金塊からAl−Sc化合物の低密度析出部を除去して、高密度析出部を得るようにする。高密度析出部を真空溶解することにより、残留した金属還元剤を除去し、品質の高いAl−Sc母合金を得る。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に係るAl−Sc母合金の製造法およびその方法によって得られるAl−Sc母合金を、その実施の形態を基にして詳細に説明する。図1および図2は、Al−Sc母合金の製造過程を模式的に示したもので、主として以下のAからEの工程よりなっている。これによって、スカンジウム含有量を従前の2重量%(以下単に%と表記する)から飛躍的に増大させた母合金を得ることができる。
【0017】
その全工程は、アルミニウムとハロゲン化スカンジウムとを原料1にして、るつぼ2に投入されたそれらに金属還元剤とフラックスなどの副原料3を加え、例えば900℃で熱還元する工程(A)、その熱還元された融液4をアルミニウムの凝固温度もしくはそれより100℃低い範囲の温度まで10ないし70℃/分の速度で冷却し、その後に常温まで自然冷却する工程(B)、生成金属塊5を取り出し周囲のスラグ6を除去する工程(C)、アルミニウム合金塊5からAl−Sc化合物の低密度析出部5Aを除去する工程(D)、および高密度析出部5Bを真空溶解する工程(E)で構成される。
【0018】
このような5つの工程を経れば、7%以上、場合によっては20%をも超えるスカンジウム含有率のAl−Sc母合金が得られる。この理論値を超える飛躍的に高い含有率を達成した本発明は、幾多の実験からなる研究を重ねて得られた知見をもとに完成したものであるが、その根幹をなすのは、アルミニウム・スカンジウム化合物Al3 Scを、アルミニウム合金塊の一部分に集中して析出させる(偏析させる)ための条件を見い出したことにある。
【0019】
個々に詳しく述べると、Al−Sc母合金を製造するにあたり、先ずScの含有量が2%前後となるように、アルミニウムとハロゲン化スカンジウムとを原料として調整する。Sc含有量の高いAl−Sc母合金は、上で触れたように最終的に低密度析出部5Aから分離して得られた高密度析出部5Bのみで形成されるのであるが、低密度析出部5Aと高密度析出部5Bとが一体の合金塊を全体的に見た場合のSc含有量が、2%前後となるようにしておくという意味である。
【0020】
ここで言う2%前後とは、1%や3%に近い部分は除くことを意味している。この含有率としているのは、スカンジウムの量を3%もしくはそれ以上に多くすると融点が高くなってしまい、従って熱還元温度を上げなければならなくなること、溶融後の金属とスラグの分離が難しくなり、合金塊にスラグが混入して製品の信頼性を低下させる要因を招くことになるからである。一方、1%もしくはそれ以下であると、生成されるAl−Sc化合物の析出の絶対量が少なくなりすぎるという理由による。
【0021】
それらの理由に加えて、Al3 Scを部分的に高い密度で析出させるにあたりそれを工業的生産にふさわしくするためには、本発明者らの研究によれば1.5%ないし2.7%の含有量に留めておく必要のあることが見い出された。もう少し詳しく述べれば、それより少し狭い1.8%から2.5%の範囲なら、高密度析出部5Bの形成した箇所の断面観察を目視で行っても、低密度析出部5Aから容易に区別することができ、都合がよい。
【0022】
因みに、上記した含有量が1.5%より少ないと高密度析出部5Bが得られるものの、それが占める体積比率は小さくなり、その部分のみを分離しても、量産に適した量が得られなくなってしまう。また、2.7%を超えると、高密度析出部が生成されることはあっても、再現性を常に高い率では期待しがたい。
【0023】
ここで、析出の形態を簡単に説明すると、Al−Sc化合物は、その大部分がAl3 Scである。これは原子量から計算して明らかなように約36%のScを含む。このAl3 Scの結晶は、図3に示した光学顕微鏡写真(c)のようにいろいろな形をしており、30ないし200μmの大きさまで成長してアルミニウム素地中のかなりの部分を占める。しかし、通常は図3の写真(b)に示されるように直線状に並んで析出する特性があり、概して樹枝状となって散在する。しかし、その析出には何の規則性を伴うものでない。
【0024】
ところが、本発明に基づく処理を施すと、図4の(a)に示したように、一か所に集まったかのようにAl3 Scが高密度に析出する。その集中した高密度析出部5Bの相には樹枝状配列といったものは殆ど見当たらず、図3の(c)に示したごとく、析出物の一つひとつが他とは関連を持つことなくほぼ均一に分布する。この部分だけに着目して、いま析出物がアルミニウム素地に対して40%占めているとすれば、この高密度析出部5Bには0.4×0.36=0.14、即ち14%ものScが含まれていることになる。
【0025】
一方、高密度析出部5B以外は、殆どがアルミニウム素地であるか、若干の析出が見られる程度の低密度析出部5Aとなっている。図3の写真(a)は図4の(a)の仮想線Kで囲んだ矩形部分の拡大であり、その上過半部はその低密度析出部5Aである。この部分でのSc含有量は多くても1.5%に留まり、通常は1%前後もしくはそれ以下といって過言でない。
【0026】
ここで特徴的なことは、高密度析出部5Bと低密度析出部5Aとの間に中密度析出部や析出層といった部分が殆ど見られないか、有っても僅かであるということである。これも又貴重な知見であり、従って、高密度析出部5Bと低密度析出部5Aとの境界が明瞭であることは、目視による分別操作を大いに助けるものとなる。
【0027】
このように中密度析出部の存在を見い出すことが困難であると言えるほどはっきりした二相の発現は、本発明者らによって初めて認められたものであるが、この現象を踏まえれば、Al−Sc母合金としてSc含有量の多い即ち含有率の高い部分を無駄なく簡単に得ることができるようになる。
【0028】
この高密度析出部5Bを取り出すにあたっては、図2の(D)の(1)に示したように、低密度析出部5A1 を回転刃7で切り落としてもよいし、後述するが(2)のように削り粉5aにして掻き集めてもよい。いずれも、低密度析出部5Aから分離して高密度析出部5Bのみを得ることに大した違いはない。
【0029】
次に、処理工程を順に説明する。(A)では、アルミニウムとScの含有量が2%前後となるような量のハロゲン化スカンジウムとを原料にして、それに金属還元剤とフラックスを加えて例えば900℃で熱還元する。スカンジウムはニッケル精製工程等において酸化物のかたちで副産物として得られるが、それを処理したフッ化スカンジウムは容易に入手できる(例えば特開2000−313928号公報を参照)。
【0030】
金属還元剤としては通常はLi,Ca,Mg等の還元力を有する金属で、ハロゲン化スカンジウムを還元するに十分な量が添加される。実際には後処理を考慮して、1ないし3当量添加しておけばよい。フラックスは合金融液の融点降下ならびに金属とスラグとの分離を促進するために添加するもので、通常は後処理工程も考慮して、生成する合金塊に対して重量比で0.1ないし3倍程度のLiFやCaCl2 等が添加される。
【0031】
これらをるつぼ2に投入するが、800ないし1,000℃で加熱することにしているので、高級なタンタルるつぼでなくても、耐熱性の低いアルミナやマグネシアまたは黒鉛など安価なるつぼを用いることができる。溶解温度が1,000℃以下であるのでるつぼ成分の滲出のおそれも極めて少なく、合金塊の汚染も可及的に抑制される。
【0032】
ところで、フッ化スカンジウムの融点は1,227℃であるが、融点に到達する前から一部蒸散することが知られている。本発明者らが使用したものでは、400℃あたりから蒸散が始まり、1,000℃では約5%の質量損失の生じることが確認された(図5中のQを参照)。また、融点に近づくと急激に質量の低下を示し、昇華も活発に併発していることを伺わせた。このようなことを踏まえると、800℃から高くてもせいぜい1,000℃までで処理することが好ましいと言える。例えば900℃で加熱すれば、ハロゲン化スカンジウムの蒸発による原料ロスが生じても、それを最小限に喰い止めておくことができる。
【0033】
原料や副原料の投入されたるつぼはステンレス製等の加熱炉(図示せず)に入れられ、内部空気を引いた後に不活性ガスとしてのアルゴンまたはヘリウム等が充填される。この不活性ガスの封入は、フッ化スカンジウムの蒸散を抑制するためであるが、活性度の高いスカンジウムの酸化やアルミニウムの酸化を抑止し、Al−Sc母合金の品質低下をきたさないようにするためでもある。まず、1気圧の静置状態で熱還元温度の900℃まで上げられ、それを一定時間保持して還元合金化が図られる。熱還元温度の保持時間は5分以上必要であり、操業は十分な反応時間とエネルギコストや効率を考慮して、0.5ないし3時間程度とされる。
【0034】
その熱還元された融液4を、(B)の工程であるアルミニウムの凝固点660℃前後までもしくはそれより100℃低い560℃までの範囲の温度、例えば600℃まで、10ないし70℃/分の速度により炉冷すると、その後は炉から取り出して室雰囲気に曝し、室温まで自然冷却(空冷)される。なお、10ないし70℃/分の速度による冷却は、アルミニウムが凝固していることを確認できる時点までで十分であるので、500℃といったようにアルミニウムの凝固温度より100℃以上低いところまで続ける必要はない。
【0035】
このような冷却処理によれば、図4の(a)のように、アルミニウム合金塊5の下部に集中して高密度析出部5Bが形成される。即ち、冷却速度が10ないし70℃/分の範囲にあれば、Al−Sc析出物の生成とAl素地との僅かであるが比重差によりAl−Sc析出物が沈降分離され、合金塊の鉛直方向下部にScが濃縮されたかのように見える高密度析出部5Bが、その上に位置する低密度析出部5Aと明瞭に区別された形で現れる。
【0036】
冷却速度は、70℃/分を超えるとAl−Sc化合物が十分析出しなく、さらに比重差により沈降分離する前に合金塊自体が凝固してしまって高密度析出部が得られず、低密度析出部との二相化現象は見られない。一方、冷却速度が10℃/分であると図4の(b)のようになり、それより少なくなると(c)のように合金塊中央に向かってAl−Sc析出物5Mが樹枝状に成長し、これが散在する恰好となって高密度析出部が見られなくなる。
【0037】
上記したように冷却速度は10ないし70℃/分としているが、これは、例えば20℃/分とか10℃/分といった一定の温度降下率を採用することを意味するだけでなく、冷却開始当初は大きくアルミニウム凝固温度近くでは小さくなるように漸次減少させるようにしてもよいことを意味している。
【0038】
本発明者らの研究によれば、温度降下勾配がアルミニウムの凝固温度を下回るまで図6の実線Xのように一定であっても、破線Yで示すように時間が経つにつれて温度勾配を小さくしても、結果的に大きな差を見い出すことはなかった。ただ後者を採用すれば、温度制御が容易となるだけでなく、その後の常温までの自然冷却にもスムーズに移行させることができて都合がよい。なお、実験においては、温度をるつぼ外周部において計測した。
【0039】
ところで、冷却は、るつぼを加熱用の炉の中に置いたままの炉冷としてもよいし、炉から取り出して空冷したりオイルバスに浸すといった方法でもよい。いずれにしても、アルミニウムの凝固温度もしくはそれより100℃低い範囲の温度までは、上記した10ないし70℃/分としておくが、アルミニウムの凝固温度に到るかそれを下回った時点で、Al−Scの析出は殆ど完了する。即ち、900℃から660℃までの間を例えば35℃/分で冷却してもよいし、560℃までの間を35℃/分で冷却してもよい。言うまでもないが、後者の場合にはアルミニウムをその冷却速度でもって完全に凝固させることができる。
【0040】
その後の常温までの冷却は炉冷で続けるようにしてもよいし、自然または強制空冷で続けてもよい。炉内にるつぼを置いたまま冷却する場合には、アルゴンガスを炉内に吹き込むといったことも適宜行うことができる。Al−Scは既に析出しており、その後の温度降下率は是非幾らでなければならないということもない。従って、場合によっては水冷しても差し支えない。
【0041】
このようにして生成された合金塊5は、工程(C)において、周囲に付着するスラグ6が除去される。アルミニウム合金塊はるつぼ2の壁面に沿った外面を呈し、上面は表面張力等の作用でやや丸く膨らんだ全体として歪んだボール状をなす。その周囲に付着するスラグ6は叩くなどして衝撃を加えると簡単に剥がれ、アルミニウム合金塊5が得られる。
【0042】
スラグが除去されると、工程(D)に移され、アルミニウム合金塊5からAl−Sc化合物の低密度析出部5Aが除去され、高密度析出部5Bだけが取り出される。合金塊の外から高密度析出部と低密度析出部との境界が目視できる場合には、その境界に沿って回転刃7を入れるなどして高密度析出部5Bが切り落とされる。外部からの目視で明瞭に境界が掴めなければ、(3)のように半分に切り開き、その切断面5pにおける境界5sを目安にして高密度析出部のみを得ればよい。
【0043】
因みに、高密度析出部5Bの占める体積はアルミニウム合金塊5の全体の20%より少ない程度であるが、その狭い部分に集中するという点では、Al−Sc母合金を得るための処理(切削等)の手間が軽減されることにもなり、極めて都合がよいと言える。
【0044】
先にも少し触れたが、図2の(D)の(2)に表したように、ミーリングカッタ8を使用するなどして高密度析出部5B2 を削り落とし、その削り粉5aを集めるようにしてもよい。この場合も必要に応じて合金塊を二つ割れに切断し、断面に現れる析出部境界を見定めながら、刃物に送りを掛ければよい。いずれにしても、低密度析出部5Aとは分別されることになり、上記した例のように高い%のAl−Sc化合物を得ることができる。なお、除去された低密度析出部は、スカンジウム低含有量のAl−Sc合金として別途使用してもよいし、本発明に係るAl−Sc母合金の原料として再利用することもできる。
【0045】
表1は、冷却速度を変えた幾つかの場合の結果の一例である。これから分かるように、例5の35℃/分においては高密度析出部5Bの含有率が21%にも達している。速度を70℃/分まで大きくしても、10℃/分まで小さくしても、例3や例8のように約8ないし10%が得られることが分かる。原料段階での2%に比べれば、その高密度ぶりが伺える。いずれも、Al−Sc二元系の相平衡状態図に基づく1,000℃の液相線で7%といったSc理論含有量(図8を参照)をも超えており、極端に言うと、このような非平衡状態の調整を経て理論上製造不可能な含有量が達成されたことになる。
【表1】
Figure 0004224532
【0046】
因みに、低密度析出部5AにおけるSc含有量を表1のBの欄に示した。その含有率は1%前後であり、低密度析出部5AにおけるSc含有量と高密度析出部5Bにおけるそれとの比を表したA/Bの欄から分かるように、高密度析出部は低密度析出部の10ないし20倍近くにも及ぶ高い集積率となっている。これだけ含有率に差が生じるほどの偏析を実現したことは、画期的であると言える。なお、表1中の横線は、その例において高密度析出部が発現しなかったために、数値記入不能となったことを示している。
【0047】
最後に、低密度析出部が取り除かれた高密度析出部5Bを集め、工程(E)において真空溶解もしくは他の公知の処理を施し、高密度析出部に残留したカルシウム等の金属還元剤が除去される。このようにして得られたAl−Sc母合金はスカンジウムの純度が高く、これを添加剤として使用すれば、各種の優れた性質や特性を発揮するアルミニウム・スカンジウム合金を製造することができる。
【0048】
アルミニウムの融点は660℃であるゆえに、原料の溶解温度の下限としては800℃好ましくは850℃が要求される。この温度にすれば還元剤としてのカルシウム(838℃)、フラックス(造滓剤)としてのLiF(850℃)やCaCl2 (774℃)の融解も簡単になされ、フッ化スカンジウムの還元が円滑となる。
【0049】
このように炉温を1,000℃までに留めることにすれば、先にも述べたようにるつぼからの不純物の混入が抑制され、フッ化スカンジウムの蒸発による消失も少なくできる。それのみならず、1,000℃を超える場合に比べれば、加熱エネルギ投入量は飛躍的に節減される。投入エネルギが少なければ、装置の熱負荷対策も軽減され、ひいては設備コストや操業コストの低廉化も図られ、安価なAl−Sc母合金の提供が可能となる。
【0050】
ところで、原料のハロゲン化スカンジウムとしてフッ化スカンジウムを使用した例を述べたが、塩化スカンジウムであっても原料として供することができる。ハロゲン化物は反応性に富むが、塩化スカンジウムの場合には、フッ化スカンジウムよりも低い温度域での反応が可能となる利点がある。
【0051】
【実施例】
ここで、実際のAl−Sc化合物の生成例を一つ挙げる。原料としてフッ化スカンジウム5g、アルミニウム粉末109gを準備する。これに金属カルシウム6g、フッ化リチウム5g、塩化カルシウム30gを混合してアルミナるつぼに入れ、Ar雰囲気中抵抗加熱式電気炉で900℃に30分間保持する。還元反応を行わせた後は、図6の実線Xの要領で冷却した。
【0052】
取り出した合金塊を分析評価した結果は、先に述べた表1のとおりである。因みに、Sc含有率は焦点範囲3mmφの蛍光X線分析装置により測定した。試験の結果からも明らかなように、実施例3ないし8はいずれもSc含有率が7%以上であって低密度析出部の5倍以上を有し、他の例よりも高いSc含有量を保有していた。
【0053】
比較例1や2は冷却速度が速いためAl−Sc化合物の析出前に溶融物が凝固してしまい、Sc含有率の高い部分が生成されなかった。比較例9ないし12は冷却速度が遅いため析出物が合金塊中央に樹枝状に成長してしまい、明瞭な高密度析出部が得られなかった。
【0054】
図7は、合金塊を垂直面で切断し、さらにそれを90度異なる垂直面で切り落として1/4塊とし、その二面のうちの一方の切り口を数倍に拡大して見た写真である。その(a)はアルミニウムの凝固温度まで20℃/分で冷却した結果Al−Sc化合物が集中して下部分に析出したもので、それが明瞭に現れていることが分かる。
【0055】
(b)は7.5℃/分で冷却したもので、高密度析出部の発現が見られず、樹枝状の析出が合金塊全体に散在しているにすぎない。(c)は75℃/分で冷却したもので、Al−Sc化合物の析出が十分把握できない。(d)はアルミニウム中のスカンジウム含有量が3%の場合のものを20℃/分で冷却した例で、高密度析出部の発現は見られるものの中間密度も併存しており、再現性も低いものであった。(e)は1%のものを20℃/分で冷却した場合であり、高密度析出部は発現するが、その層は(a)よりも著しく薄いものとなっている。
【0056】
【発明の効果】
本発明によれば、アルミニウムとアルミニウム中のスカンジウム含有量が1.5重量%ないし2.7重量%に納まるような量のハロゲン化スカンジウムとを原料とし、その熱還元された融液を、10ないし70℃/分の温度降下速度で冷却するようにしたので、Al−Sc化合物をアルミニウム合金塊の一部分に集中して高密度に析出させることができる。この高密度析出部は、Al−Sc母合金として好適な量のスカンジウムを含む。その量はアルミニウム・スカンジウム相平衡状態から把握されるスカンジウムの理論含有量を超えるものであり、高品質なAl−Sc母合金の提供が可能となる。
【0057】
原料の溶融は、800℃から高くても1,000℃までの温度域での加熱によるものとしているので、溶解に要するエネルギは1,000℃を超える場合に比べて少なくなり、溶解装置における熱負荷も軽減され、総じて設備に関わるコストや操業コストの低廉化が推し進められる。また、安価なるつぼの採用やるつぼからの滲出物の抑制も図られ、Al−Sc母合金の安価な生産も実現される。
【0058】
冷却速度としては、冷却開始当初大きくアルミニウムの凝固温度あたりで小さくなるように漸次減少させるようにしておけば、温度制御が容易であると共に、常温までの自然冷却へもスムーズに移行させやすくなる。
【0059】
ハロゲン化スカンジウムとして、フッ化スカンジウムまたは塩化スカンジウムを使用すれば、その入手は比較的簡単であり、反応性にも富む。Al−Sc母合金の製造の容易化と高品質化が図られる。
【0060】
アルミニウム合金塊からAl−Sc化合物の低密度析出部を除去して、高密度析出部を得るようにしておけば、高密度析出部のみを集めることができ、そのSc含有量を高くすることが容易である。
【0061】
高密度析出部を真空溶解等その他の公知の処理を施しておけば、残留した金属還元剤を除去することができ、Al−Sc母合金の品質向上が図られる。いずれにしても本発明に係る方法によって製造されたAl−Sc母合金は、合金塊の一部に形成される高密度析出部でスカンジウムを7重量%以上含むことになって飛躍的な改質が図られたAl−Sc合金を安価に提供することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Al−Sc母合金の製造過程を模式的に表した工程図。
【図2】 図1に続くAl−Sc母合金の製造過程を表した工程図。
【図3】 溶製されたアルミニウム合金塊の断面の光学顕微鏡写真であり、(a)は低密度析出部から高密度析出部にかけての境界部位の写真、(b)は樹枝状に発生したAl−Sc化合物の析出状態を示す写真、(c)は高密度析出部の拡大写真。
【図4】 アルミニウム合金塊に現れたAl−Sc化合物の析出状態の説明用模式図であって、(a)は高密度析出部が明瞭に現れ低密度析出部との境界がはっきりしている場合、(b)高密度析出部が一応発現しているが低密度析出部に樹枝状析出があった場合、(c)は樹枝状析出のみが発現した場合。
【図5】 炉温の上昇に伴うフッ化スカンジウムの蒸散特性のグラフ。
【図6】 融液の冷却速度の典型例を表したグラフ。
【図7】 高密度析出部の発現の有無を示した幾つかの例の断面写真。
【図8】 Al−Sc二元系の相平衡状態図。
【符号の説明】
5A,5A1 …低密度析出部、5B,5B2 …高密度析出部、5M…樹枝状析出物、5a…削り粉。

Claims (7)

  1. Al−Sc合金を製造するために使用されるAl−Sc母合金を製造する方法において、
    アルミニウムとアルミニウム中のスカンジウム含有量が1.5重量%ないし2.7重量%に納まるような量のハロゲン化スカンジウムとを原料として、それらに金属還元剤を加えて熱還元し、
    その熱還元された融液を、アルミニウムの凝固温度もしくはそれより100℃低い範囲の温度まで10ないし70℃/分の速度で冷却し、
    Al−Sc化合物をアルミニウム合金塊の一部分に高密度に析出させるようにしたことを特徴とするAl−Sc母合金の製造法。
  2. 前記原料の溶融は、800℃から高くても1,000℃までの温度域での加熱によることを特徴とする請求項1に記載されたAl−Sc母合金の製造法。
  3. 前記冷却速度は、冷却開始当初大きくアルミニウム凝固温度近くで小さくなるように漸次減少させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたAl−Sc母合金の製造法。
  4. 前記ハロゲン化スカンジウムは、フッ化スカンジウムまたは塩化スカンジウムであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載されたAl−Sc母合金の製造法。
  5. 前記アルミニウム合金塊からAl−Sc化合物の低密度析出部を除去して、高密度析出部を得ることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載されたAl−Sc母合金の製造法。
  6. 前記高密度析出部を真空溶解し、残留した金属還元剤を除去することを特徴とする請求項5に記載されたAl−Sc母合金の製造法。
  7. 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載された方法により製造されたアルミニウム合金塊の一部に形成される高密度析出部でのスカンジウム含有率が7重量%以上となっていることを特徴とするAl−Sc母合金。
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