JP5742621B2 - 銅合金及び鋳造品 - Google Patents
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このような鋳造欠陥を抑制するためには、凝固時に晶出する結晶粒を微細化することによって凝固の最終段階においても溶湯の流動性を確保することが有効である。
さらに、ZrとMgの質量比Zr/Mgが、0.176≦Zr/Mg≦1.0の範囲内とされているので、Zrを含む粒子及びMgを含む粒子とが十分に存在することになり、特に、冷却速度が小さい場合であっても、結晶粒の微細化を図ることが可能となる。
凝固組織が微細である場合、強度、延性等の機械的特性が向上することになる。よって、鋳塊及び鋳物(鋳造品)の加工性が大幅に向上し、熱間加工、冷間加工時において、割れ等の欠陥が発生することを抑制でき、生産効率を大幅に向上させることができる。
また、鋳塊及び鋳物(鋳造品)の凝固組織が微細化されていることから、その後の加工においても結晶粒が粗大化することが抑制され、加工後の製品においても結晶粒が微細化されることになる。よって、加工後の製品においても、強度、延性等の機械的特性の向上を図ることが可能となるのである。
これらの元素は、銅合金の各種特性を向上させる作用効果を有する元素であるため、要求される特性に応じて、これらの元素を適宜添加することが好ましい。
ここで、これらの元素の含有量の合計を15質量%以下に制限することにより、結晶粒の微細化効果を確実に奏功せしめることができる。すなわち、これらの元素の含有量の合計が15質量%を超える場合には、β相やγ相等の非α相が晶出することになり、結晶粒の微細化効果が低下するのである。また、これらの元素の含有量の合計が15質量%を超えると、導電率が低下するため好ましくない。
この場合、Mg及びSを含有するMg−S化合物が分散し、このMg−S化合物の外側にZr及びPを含有するZr−P化合物が配設されるので、接種核の数が確保されることになり、確実に、凝固時に晶出するα相を等軸デンドライト化及び粒状結晶化することが可能となる。すなわち、Zr及びPのみを添加して場合に比べて、Mg及びSを添加することによって、Mg−S化合物がZr−P化合物の分散を促進することになるのである。
ここで、鋳造品は、鋳造の開始部および終了部と、その中間部の全てを含んでもよいが、通常、鋳造品は、前述の開始部および終了部の一部または全部を除去したものである。また、上記割合は、鋳造方向に対して平行な断面、または垂直な断面のどちらでもよい。その平行または垂直な断面は、鋳造品の重心を含むように選択する。
さらに、晶出するα相が等軸デンドライト化及び粒状結晶化することで、鋳造時の溶湯の流動性が向上し、大きな引け巣の発生が抑制され、鋳造時の歩留りを大幅に向上させることが可能となる。
(粒状結晶の数)/(粒状結晶の数+等軸デンドライトの数)が50%以上とされていることが好ましい。なお、ミクロ組織を観察する部位は、鋳造品の重心部を含む鋳造方向に対して平行または垂直な断面を選び、その重心部(重心部が銅合金となる場合)または冷却速度の最も遅い部位(重心部が空間となる場合)を観察する。
この場合、晶出するα相の微細化が十分に行われていることになり、この鋳造品の強度、延性等の機械的特性が向上することになる。これは、粒状結晶の方が、等軸デンドライトよりも微細であるためである。よって、鋳造品の加工性が大幅に向上し、熱間加工、冷間加工時において、割れ等の欠陥が発生することを防止することができる。
本実施形態である銅合金においては、Mg及びSを含有するMg−S化合物と、このMg−S化合物の外側に接触するZr及びPを含有するZr−P化合物と、を備えた複合化合物粒子(上記2相を含有する化合物の粒子)が存在している。そして、この複合化合物粒子を接種核として、初晶α相が発生した組織となっている。
ここで、ZrとMgの質量比Zr/Mgが、0.176≦Zr/Mg≦1.0の範囲内とされている。
本実施形態である銅合金は、CuとZnとを主成分としている。
ここで、Cuの含有量が60質量%未満である場合、すなわち、Zn等に対してCuの含有量が少ない場合には、初晶がβ相となり、結晶粒の微細化を図ることができなくなるおそれがある。また、延性、冷間加工性、耐変色性、耐応力腐食割れ性、プレス性といった特性が低下することになる。
一方、Cuの含有量が90質量%を超える場合、すなわち、Zn等に対してCuの含有量が多い場合には、強度、耐摩耗性が低下するとともに、結晶粒の微細化効果が低減するおそれがある。
このような理由から、Cuの含有量を60質量%以上90質量%以下に設定している。
なお、Znは、引張強度、耐力等の機械的特性に影響を与える元素であるが、他の含有元素との関係から、Cu等の他の元素の残部として含有量を規定している。
Zr及びPは、共添加されることによって結晶粒を微細化させる作用効果を有する元素である。
ここで、Zrの含有量が10質量ppm未満及びPの含有量が0.001質量%未満の場合には、上述の結晶粒の微細化効果を十分に奏功せしめることができない。
また、Zrは、酸素との親和力が強いものであるためZr酸化物等が発生し易く、溶湯の粘性が高くなり、鋳造時の酸化物等の巻き込み欠陥が発生し易くなる。また、ブローホールやミクロポロシティが発生しやすくなる。また、2000質量ppmを超えると、結晶粒を微細化させる作用効果も弱まる。これらを考慮した場合には、Zrの含有量を2000質量ppm以下とすることが好ましい。
さらに、Pは、耐蝕性、鋳造性等に影響を与える元素であるため、Pの含有量を0.5質量%以下とすることが好ましい。
以上のことから、本実施形態では、Zrの含有量を10質量ppm以上2000質量ppm以下の範囲内に設定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Zrの含有量を15質量ppm以上200質量ppm以下の範囲内に設定することが好ましい。
また、Pの含有量を0.001質量%以上0.5質量%以下の範囲内に設定している。
Mg及びSは、共添加されることによって結晶粒を微細化させる作用効果を有する元素である。
ここで、Mgの含有量が5質量ppm未満及びSの含有量が1質量ppm未満の場合には、上述の結晶粒の微細化効果を十分に奏功せしめることができない。
また、Mgは、酸素との親和力が強いものであるためMg酸化物等が発生し易く、溶湯の粘性が高くなり、鋳造時の酸化物等の巻き込み欠陥が発生し易くなる。また、2000質量ppmを超えると、β相またはγ相と推測される非α相が増加するために延性が低下し、結晶粒の微細化効果も低下することになる。これを考慮した場合には、Mgの含有量を2000質量ppm以下とすることが好ましい。
さらに、Sは、熱間加工性に影響を与える元素であることから、100質量ppm以下とすることが好ましい。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を5質量ppm以上2000質量ppm以下の範囲内に設定している。
また、Sの含有量を1質量ppm以上100質量ppm以下の範囲内に設定している。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Sの含有量を1質量ppm以上30質量ppm以下の範囲内に設定することが好ましい。
ここで、本実施形態では、ZrとMgの質量比Zr/Mgが、0.176≦Zr/Mg≦1.0の範囲内とされている。
質量比Zr/Mgが0.176未満の場合には、Zr−P化合物が相対的に少なくなるため、結晶粒の微細化効果が低下することになる。
質量比Zr/Mgが1.0を超える場合には、Mg−S化合物が相対的に少なくなるため、結晶粒の微細化効果が低下することになる。
Mg−S化合物とZr−P化合物とを備えた複合化合物粒子(上記2相を含有する化合物の粒子)による結晶粒の微細化効果を確実に奏功せしめるためには、質量比Zr/Mgを、0.176≦Zr/Mg≦1.0の範囲内とすることが好ましい。
これらの元素は、銅合金の各種特性を向上させる作用効果を有する。例えば、Sn、Fe、Mn,Si、Znといった元素は、強度を向上させる作用効果を有する。また、Sn、Ni、Al、Si、As、Sbといった元素は、耐食性を向上させる効果を有する。さらに、Pb、Bi、Se、Teといった元素は、被削性を向上させる作用効果を有する。よって、要求される特性に応じて、これらの元素を適宜添加することが好ましい。
ここで、これらの元素の含有量の合計が15質量%を超える場合には、β相やγ相等の非α相が晶出することになり、結晶粒の微細化効果が低下するおそれがある。また、導電率が大きく低下するおそれもある。このことから、これらの元素を含有する場合には、その合計量を15質量%以下としているのである。
特に、Siは導電率を大幅に低下させる元素のため、2質量%未満が好ましい。
なお、等軸デンドライトまたは粒状結晶が晶出した場合、ミクロ組織の以下の観察により、α相の粒径を測定できる。ここで、ミクロ組織を観察する部位は、鋳造品の重心部を含む鋳造方向に対して平行または垂直な断面を選び、その重心部(重心部が銅合金となる場合)または冷却速度の最も遅い部位(重心部が空間となる場合)を観察する。本実施形態である鋳造品の結晶粒径をJIS H 0501に規定された試験方法(切断法)で測定した場合、その粒状結晶の結晶粒径は0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下、さらに好ましくは0.05mm以下である。
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、これらの元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。
ここで、銅溶湯は、純度が99.99%以上とされたいわゆる4NCuとすることが好ましい。また、当然ながら、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊及び鋳物を製出する。なお、大量生産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。また、ダイキャスト、低圧鋳造、砂型鋳造も好ましい。
よって、Mg−S化合物と、このMg−S化合物の外側に接触するZr−P化合物と、を備えた複合化合物粒子(上記2相を含有する化合物の粒子)が分散されることになり、この複合化合物粒子を接種核として、初晶α相が発生することで、凝固時において晶出するα相が等軸デンドライト化及び粒状結晶化することになる。
さらに、晶出するα相が等軸デンドライト化及び粒状結晶化することによって、鋳造品(鋳塊及び鋳物)における凝固組織も微細化することになる。具体的には、本実施形態である鋳造品は、断面のマクロ組織観察において、柱状晶領域が前記断面の10%以下とされており、さらに、前述の鋳造品であって、断面のミクロ組織観察において、(粒状結晶の数)/(粒状結晶の数+等軸デンドライトの数)が50%以上とされていることが好ましい。
このように、鋳造品において凝固組織が微細であることから、強度、延性等の機械的特性が向上することになる。よって、鋳造品の加工性が大幅に向上し、熱間加工、冷間加工時において、割れ等の欠陥が発生することを防止することができる。
例えば、Cu,Zn,P,S,Zr,Mg以外の元素については、必要に応じて添加すればよい。
さらに、銅合金(鋳造品)の製造方法の一例について説明したが、製造方法は本実施形態に限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
純度99.99%以上の無酸素銅からなる銅原料を準備し、これをアルミナ坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。得られた銅溶湯内に、各種添加元素を添加して表1―8に示す成分組成に調製し、カーボン鋳型及び耐火断熱材鋳型に注湯して鋳塊を製出した。耐火断熱材にはイソライト(登録商標)を用いた。なお、鋳込み温度は1100℃とした。鋳塊の大きさは、カーボン鋳型が厚さ約20mm×幅約20mm×長さ約60〜80mm、耐火断熱材鋳型が厚さ約30mm×幅約30mm×長さ約30〜40mmとした。
なお、900℃から800℃までの冷却速度は、図1及び図2に示すように、カーボン鋳型は約7℃/sec、耐火断熱材鋳型は約0.5℃/secである。
図3〜6に示すように、鋳塊を長手方向に沿って半分に切断し、この縦断面に対して研磨を実施し、硝酸を用いてエッチング処理してマクロ組織を観察した。
また、鋳塊を長手方向に沿って半分に切断した後、所定の箇所から観察試料を採取し、観察面を研磨した。そして、腐食液として硫酸と硝酸の混合液を用いてエッチングを行い、光学顕微鏡にてミクロ組織を観察した。なお、観察試料は、特に言及がない場合には、鋳塊の重心部、すなわち、長さ、幅及び厚さの中央部から採取した。
図3、図5に示すように、柱状晶領域が10%以上である場合には、マクロ組織判定を「×」とした。
図4、図6に示すように、柱状晶領域が10%未満であって、断面のほとんどが等軸晶からなる場合には、マクロ組織判定を「○」とした。
マクロ組織観察において柱状晶領域が断面の10%超の場合、その柱状晶領域のミクロ観察を行った。その結果、図7、図10に示すように、柱状デンドライトが観察された。このような柱状デンドライトが観察された場合には、ミクロ組織判定を「××」とした。
マクロ組織観察において柱状晶領域が断面の10%以下の場合、前述の重心部のミクロ観察を行った。その結果、等軸デンドライトと粒状結晶の2種類が観察された。そこで、図8、図11に示すように、(粒状結晶の数)/(粒状結晶の数+等軸デンドライトの数)が50%未満の場合は、ミクロ組織判定を「×」とした。図9、図12に示すように、(粒状結晶の数)/(粒状結晶の数+等軸デンドライトの数)が50%以上の場合は、ミクロ組織判定を「○」とした。
評価結果を表1−8に示す。
Zr、Pを適量添加し、かつ、Mgを添加していない比較例7では、カーボン鋳型のマクロ組織評価とミクロ組織評価、及び、耐火断熱材鋳型のマクロ組織評価は「○」となったが、耐火断熱材鋳型のミクロ組織評価が「×」となった。つまり、冷却速度が小さいときには、十分な微細化効果を得ることができなかったことが確認された。
また、Zr/Mgが0.05未満とされた比較例8では、耐火断熱材鋳型のミクロ組織評価が「×」となった。さらに、Zr/Mgが5.0を超える比較例9では、耐火断熱材鋳型のマクロ組織が「×」、カーボン鋳型のミクロ組織が「×」、耐火断熱材鋳型のミクロ組織が「××」であった。
なお、図13には、MgおよびPを含有するMg−P化合物も存在するが、Zr−P化合物とα相とが接する領域が認められるため、Zr−P化合物によるα相に対する接種効果が担保されたと考えられる。
Claims (5)
- Cu;60質量%以上90質量%以下、
P;0.001質量%以上0.5質量%以下、
S;1質量ppm以上100質量ppm以下、
Zr;10質量ppm以上2000質量ppm以下、
Mg;5質量ppm以上2000質量ppm以下、
を含み、残部がZnと不可避不純物とからなる組成を有するとともに、
ZrとMgの質量比Zr/Mgが、0.176≦Zr/Mg≦1.0の範囲内とされていることを特徴とする銅合金。 - 請求項1に記載の銅合金において、
Sn,Pb,Bi,Se,Fe,Ni,Al,Mn,Si,As,Sb,Teから選択された1種又は2種以上の元素を合計で15質量%以下の範囲内で含有することを特徴とする銅合金。 - 請求項1及び請求項2に記載の銅合金において、
Mg及びSを含有するMg−S化合物と、このMg−S化合物の外側に接触するZr及びPを含有するZr−P化合物と、を備えた複合化合物粒子が存在することを特徴とする銅合金。 - 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅合金からなる鋳造品であって、
断面のマクロ組織観察において、柱状晶領域が前記断面の10%以下とされていることを特徴とする鋳造品。 - 請求項4に記載の鋳造品であって、
断面のミクロ組織観察において、
(粒状結晶の数)/(粒状結晶の数+等軸デンドライトの数)が50%以上とされていることを特徴とする鋳造品。
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