JP4223579B2 - キシロースおよびキシリトールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
【0002】
本発明は、アブラヤシを原料として用い特定の前処理条件及び加水分解条件によりキシロースを製造し、引き続き該キシロースを還元することでキシリトールとする、キシロースおよびキシリトールを工業的に安価に且つ効率よく製造する方法に関する。
【0003】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
【0004】
キシロースは、ある種のアミノ酸と速やかに褐変反応し、着色を必要とする加工食品に自然な色を付与し、牛肉、豚肉、魚肉等を加工する際に使用した場合にはそれらの香味を高めることができ、更に食品の保存効果を高める等の性質があることから、ちくわ、みりんぼし、ハム・ソーセージ等各種食品に使用されている。
【0005】
一方、キシロースの還元物であるキシリトールは、生体の重要な非解糖系における正常な代謝中間産物であり、生体内に投与されると強い抗ケトン作用を示し、インシュリンと無関係に代謝される。
【0006】
更に、グリコーゲン生成作用、糖尿病患者の血糖値に影響を与えない等の性質があり、糖代謝異常時の輸液、あるいはショック輸液剤として医薬品に利用されている。
【0007】
また、キシリトールは化学的に安定で吸湿性がなく、その結晶は水に溶けやすく、他の糖アルコールと比べて口に入れた時の冷涼感が強く、爽快な甘味を有し、砂糖と同程度の甘味度を持ち、口腔内の細菌の基質にならない、即ち抗う蝕性であること等から、既に海外では各種食品に使用されており、今後もその需要の増加が予想される。
【0008】
これらキシロース及びその還元物であるキシリトールは、従来より綿実殻、バカス、木材、ヤシ殻等のキシラン含量の高い植物を原料として製造できることは公知である。
【0009】
しかし、これら植物にはキシロース以外の糖としてグルコース、アラビノース、マンノース等が含まれているばかりでなく、リグニン、蛋白質、脂質等も含まれ、その存在状態や、それら植物の熱や薬品に対する挙動も植物ごとに異なっているため、それらから利用価値が有る純度の高いキシロース及びキシリトールを製造することは極めて困難であって、仮に製造できたとしても上記不純物を除去するのに多くの費用を必要としていた。
【0010】
一方、ヤシ科植物の一つであるアブラヤシ(学名Elaeis guineensis Jacq.)は、インド、マレーシア、インドネシア等の熱帯地方で栽培され、その樹木は約20mにまで成長し、樹木の上部には約1500から2000個もの果実の付いたヤシ房がなる。
【0011】
アブラヤシのヤシ房に付いた果実からは油が搾られるが、油を搾った後の果実の搾りかす、果実を分離した後のヤシ房及び約25年を1サイクルとして伐採されるアブラヤシの幹は、ヤシ房が焼却された後にカリウムを含む肥料として使用され、また、油を搾った後の果実の搾りかすはその一部がボイラーで燃焼されているだけで、その殆どが利用されずに廃棄されているのが現状で、これら副産物の有効利用の開発が強く望まれている。
【0012】
アブラヤシの成分分析は既にいくつかの文献等で報告されており、例えば、「アグリカルチュラル・アンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agricultural and Biological Chemistry)」、第54巻、第5号、第1183乃至1187頁(1990年)には、アブラヤシの果実から油を搾ったかすの糖組成分析が報告されている。即ち、その搾りかすはホロセルロース59.6%、リグニン28.5%、脂質1.9%、タンパク質3.6%、灰分5.6%及びその他0.8%からなり、更にホロセルロースはグルコース56.4%、キシロース36.0%、アラビノース5.9%及びマンノース1.7%で構成されていることが記載されている。
【0013】
また、「パータニカ(Pertanica)」、第13巻、第2号、第165乃至170頁(1990年)には、アブラヤシの幹を爆砕することにより83%のキシロースを含有するヘミセルロースを23〜31%回収できることが記載されている。
【0014】
更に、「アイケム・シンポジウム・シリーズ(Icheme Symposium Series)」、第137号、第9乃至17頁(1994年)には、果実を取り除いたアブラヤシの房と油の搾りかすをトリフルオル酢酸の存在下、オートクレーブ中、121℃、25分間、加熱加水分解することでキシロース含有液を得たこと、及び該キシロース含有液を醗酵法によりキシリトールとしたことが記載されている。
【0015】
しかし、これら文献は、綿実殻、バカス、木材等と同様にアブラヤシにもキシロースの原料であるキシランが含まれていることを示しているものの、リグニン、蛋白質、脂質及び他の糖成分グルコース、アラビノース、マンノース等を含む植物から工業的に安価且つ効率よく高純度のキシロース及びその還元物であるキシリトールを製造する方法を提供するものではなかった。
【0016】
本発明の目的は、前記の種々問題を解決し、殆ど利用されていないアブラヤシの果実から油を搾った後の果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹を原料として用い、工業的に安価且つ効率よくキシロース及びキシリトールを製造する方法を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、アブラヤシの果実から油を搾った後の果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹を特定の条件で処理することにより、キシロース以外の成分の混入を抑制し、高純度のキシロースを容易に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明の課題を解決するための手段は、下記の通りである。
【0020】
第1に、油を搾った後のアブラヤシ果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹から選ばれる一種または二種以上からなる原料を加水分解することによるキシロースの製造方法。
【0021】
第2に、油を搾った後のアブラヤシ果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹から選ばれる一種または二種以上からなる原料が粉砕したものである上記第1に記載の方法。
【0022】
第3に、油を搾った後のアブラヤシ果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹から選ばれる一種または二種以上からなる原料が酸又はアルカリの存在下で加熱前処理したものである上記第1または2に記載の方法。
【0023】
第4に、油を搾った後のアブラヤシ果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹から選ばれる一種または二種以上からなる原料が、硫酸または塩酸の存在下で、酸濃度0.1〜0.5重量%、温度60〜100℃で0.5〜3時間加熱前処理したものである上記第1または2に記載の方法。
【0024】
第5に、加水分解が、硫酸を使用し、硫酸濃度0.1〜5.0重量%、温度100〜130℃で1〜4時間処理されることを特徴とする上記第1から4の何れか一つに記載の方法。
【0025】
第6に、上記第1から5の何れか一つに記載の方法により得られたキシロースを還元することを特徴とするキシリトールの製造方法。
【0026】
第7に、キシリトールが、結晶化または固化後粉砕することにより得られた粉末キシリトールであることを特徴とする上記第6に記載の方法。
【0027】
【発明の実施の形態】
【0028】
本発明は、原料として学名 Elaeis guineensis Jacq のヤシ科植物であるアブラヤシの果実から油を搾った後の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹が、単独または二種以上混合して使用される。
【0029】
また、これら原料は、必要によりカッター、ハンマーミル、クラインダー等で切断、荒粉砕または微粉砕した後に使用される。
【0030】
特に、荒粉砕または微粉砕した原料を使用する場合には、酸又はアルカリと加熱前処理する工程及び加水分解する工程での原料濃度を高くすることができ、装置の小型化および取扱い物量の減少による作業性の改善やユーティリティー費用の削減を可能とすることができる。
【0031】
更に、これら原料は、そのまま加水分解に供することもできるが、必要により酸またはアルカリで加熱前処理した後に加水分解に供される。
【0032】
例えば、これら原料を酸と共に加熱し、原料中に含まれるキシロース以外の成分、特にL−アラビノースを前もって溶出・分離させることで、加水分解により得られるキシロース含有液中のキシロース純度を高くすることができる。
【0033】
加水分解により得られるキシロース含有液中のキシロース純度が高い場合には、結晶化やクロマト分離操作等によるキシロースやキシリトールの純度アップ操作を行う必要が無くなり、結果としてキシロース及びキシリトールを安価に製造することが可能となる。
【0034】
キシロース製造原料の酸による加熱前処理には、従来から工業的に使用されている酸、例えば硫酸や塩酸等の酸をその濃度を調整して使用する。
【0035】
また、酸による加熱前処理条件は、使用する原料の粉砕状態によっても異なるが、キシロースに比べてL−アラビノースが優位に溶出する条件が選択され、例えば硫酸を使用した場合には、酸の濃度0.1〜0.5重量%、温度60〜100℃で0.5〜3時間処理するのが好ましい。
【0036】
上記条件より強い酸性下での加熱前処理は、キシロースまたはキシロースをその構成単位とするオリゴ糖や多糖も溶出してしまい、結果としてキシロースの回収率が低くなるので好ましくない。
【0037】
また、上記条件より弱い酸性下での加熱前処理は、L−アラビノースが溶出しないか、溶出に長時間を必要とするため好ましくない。
【0038】
本発明の原料を酵素で加水分解する場合には、原料中に含まれるリグニンが酵素の活性を阻害する事があるため、予めアルカリと共に加熱前処理することによりリグニンを取り除くことが好ましい。
【0039】
アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が使用できるが、水酸化ナトリウムを使用する場合はアルカリ濃度0.2〜1%、温度70〜100℃で1〜3時間処理することが好ましい。
【0040】
油を搾った後のアブラヤシ果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹を酸加水分解するには、塩酸、硫酸、燐酸等の無機酸、または酢酸、クエン酸等の有機酸が使用できるが、酢酸等の弱酸は加水分解能が弱いためにその使用量が多くなり、後段の精製負荷を増加させるので好ましくない。
【0041】
一方、硫酸は、加水分解に使用後、水酸化カルシウムや炭酸カルシウムで中和した場合にそのカルシウム塩をろ過分離できること及び安価であることから、本発明における加水分解に使用する酸としては最も好ましい。
【0042】
酸加水分解の条件は使用する酸の種類によって異なるが、硫酸を使用した場合には濃度は0.1〜5.0%、好ましくは0.5〜2.0%であり、温度は100〜130℃、好ましくは110〜120℃であり、加水分解時間は1〜4時間、好ましくは1〜2時間である。
【0043】
酸による加水分解で得られたキシロース含有液は、常法に従い活性炭及びイオン交換樹脂で精製される。
【0044】
この場合、イオン交換負荷を減少させる為に、▲1▼加水分解により得られたキシロース含有液またはその濃縮液をイオン交換膜を使用した電気透析により脱塩する方法、▲2▼加水分解により得られたキシロース含有液を水酸化ナトリウムで中和して濃縮した後、金属イオンで飽和したカチオン交換樹脂により糖と塩をクロマト分離する方法、または▲3▼特に硫酸を用いて加水分解した場合には、得られたキシロース含有液を必要により濃縮した後、水酸化カルシウムや炭酸カルシウムで中和して生成した硫酸カルシウム塩をろ過分離する方法等を実施することができる。
【0045】
また、酵素を用いた加水分解には、市販の加水分解酵素が任意に使用でき、トリコデルマTrichorderma属由来の加水分解酵素、例えば「メイセラーゼ−P」(明治製菓(株)製)やセルラーゼ、例えば「セルラーゼ3S」((株)ヤクルト本社製)等を採用することができる。
【0046】
酵素により加水分解されたキシロース含有液は、加熱することで一旦酵素を失活させた後に常法に従い活性炭及びイオン交換樹脂等で精製される。
【0047】
酸または酵素による加水分解の条件は、得られる加水分解液中のキシロース純度とキシロース含有量の両方を加味して選択されるが、加水分解後のキシロース含有液中のキシロース純度が比較的低い場合には、キシロース含有液を濃縮した後に結晶化することでいったん結晶状のキシロースを分離し、水に溶解して還元工程に供するか、または、特開平4−197192号公報に記載されている方法、即ちキシロースを資化せずに不純物として含まれるグルコース、マンノース、ガラクトースやアラビノースを資化できる微生物、例えば酵母や乳酸菌等で醗酵処理することでキシロース純度を高くした後に還元工程に供することもできる。
【0048】
更に、該キシロース含有液は、上記キシロースの結晶化や醗酵処理をすることなく、そのまま濃縮等により濃度を調整した後、続く還元工程に供することもできる。
【0049】
キシロース含有液からのキシロースの結晶化は、通常、キシロース含有液を70〜85%まで濃縮したのち、温度40〜70℃で結晶キシロースをシードとして加え、20〜30℃まで冷却することで結晶キシロースのスラリーを得、該スラリーを遠心分離することで実施されるが、該結晶キシロースは母液が分離された段階で水またはエタノール等の溶媒を結晶キシロースにスプレーし洗浄することにより、高純度の結晶キシロースとすることができる。
【0050】
得られた結晶キシロースまたはキシロース含有液は触媒と水素の存在下で加熱し接触水素還元することでキシリトールが得られる。
【0051】
キシロースの接触水素還元は、キシロース及びキシリトールが顕著に分解しない条件であればどのような条件でも採用できるが、通常、糖類の接触水素還元に用いられる方法が使用可能であり、例えばラネーニッケル触媒やルテニウム等の貴金属触媒の存在下、キシロース濃度10〜75重量%、温度50〜200℃、水素圧力2〜250kg/cm2 で、粉末触媒を使用した回分式及び粒状や塊状の触媒を充填した固定床による連続式の何れも採用できるが、工業的には固定床による連続式の接触水素還元が有利である。
【0052】
接触水素還元により得られたキシリトール含有液は、必要に応じて触媒をろ過し、常法に従い活性炭やイオン交換樹脂で、脱色、脱イオンする。
【0053】
酵素を用いてキシロースを還元する方法としては、特開昭63−219386号公報に記載の固定化酵素による方法や特表平4−503750号公報、特表平5−503844号公報に記載の方法等が知られている。
【0054】
更に、得られたキシリトール含有液は、必要により陽イオン交換樹脂を充填した塔に供給して、キシリトール高含有画分をクロマト分離することができる。
【0055】
クロマト分離で用いる陽イオン交換樹脂は、市販の殆どの樹脂が採用可能であるが、中でもスチレン−ジビニルベンゼンの架橋ポリマーにスルホン酸基が結合した強酸性陽イオン交換樹脂にカルシウム、アルミニウム、バリウム、ナトリウム、ストロンチウム等の金属イオンをチャージしたものが有利に使用できる。
【0056】
また、クロマト分離は、回分式または擬似移動床式の分離及び単塔式または多塔式のカラムの何れの方法も採用可能であるが、キシリトール含有液に不純物としてソルビトール、ズルシトール、マンニトール、アラビトール等の多くの成分が含まれる場合には、多塔式のカラムを使用した擬似移動床式を採用するのが好ましい。
【0057】
また、キシリトール含有液のキシリトール含量が高い場合には、単塔式で且つ回分式を採用するのが好ましい。
【0058】
還元・精製により得られたキシリトール含有液またはクロマト分離により得られたキシリトール画分は、濃度約75〜80重量%に濃縮し、粉末キシリトールをシードとして加えてゆっくりと撹拌するかまたは静かに放冷することでキシリトールの結晶が析出する。析出したキシリトール結晶は遠心分離器やフィルタープレス等によって分離後、乾燥することにより、高純度のキシリトール結晶を得ることが出来る。
【0059】
更に、上記還元・精製により得られたキシリトール含有液またはクロマト分離により得られたキシリトール画分は、下記の方法により粉末状のキシリトールとすることができる。
【0060】
即ち、上記還元・精製により得られたキシリトール含有液またはクロマト分離により得られたキシリトール画分は水分を1%以下にまで濃縮し、そのまま所定温度下で攪拌するか、またはシードとして粉末キシリトールを固形分に対して3〜30重量%添加して所定温度下で攪拌することによって、微結晶を十分に成長させ、ついでこれを放冷して全体を微結晶の結着した固形物とした後、この固形物を粉砕することで顆粒状または粉末状のキシリトールが得られる。
【0061】
あるいは、上記還元・精製により得られたキシリトール含有液またはクロマト分離により得られたキシリトール画分は水分を15%以下に濃縮し、温度60℃以上かつキシリトールの融点以下で攪拌混合し、必要により固形分の1〜50%の粉末キシリトールを加え、全体を柔らかい微結晶性の塊とし、ついでこれを例えばニーダーやエクストルーダー等でそうめん状に成型し、冷却後、乾燥、粉砕することにより粉末状のキシリトールとすることができる。
【0062】
【実施例】
【0063】
以下に実施例を掲げて更に具体的に本発明の方法を説明するが、本発明の技術的範囲は以下の例に制限されるものではない。
また、以下の例において、%は特に断らない限り重量%を表すものとする。
更に、キシロース及びキシリトールの純度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。
【0064】
【実施例1】
(キシロースの製造)
【0065】
(粉砕)
果実を分離した後のアブラヤシ房(水分60%)4.8トンをチップクラッシャー(増野製作所製)で約20〜30mmに粗粉砕した後、微粉砕機(“スーパーマスコロイダー(商品名)”増幸産業製)で平均粒径100μmになるように湿式粉砕した。この時、原料のアブラヤシ房に対して約3倍容量の水を使用して微粉砕操作を行い、結果として、固形分10%のスラリー19トンを得た。
【0066】
(前処理)
該スラリーに98%濃硫酸56.9kgを加え、この混合液を容量1m3 の二重管式加水分解器(グラスライニング製、予熱及び冷却用二重管式熱交付属)に温度85℃、LHSV=0.5hr-1で通液した後、遠心分離により液部を分離し、前処理を施したキシロース原料4.65トン(水分60%)を得た。
ここでLHSVとは下記の式に従って求められる。
【0067】
・LHSV=(単位時間当たりに二重管式加熱器へ供給されるスラリーの容量)/(二重管式加熱器の容量)
【0068】
(加水分解)
該キシロース原料4.65トンに水6.51トンと98%濃硫酸57.8kgを加え、容量1m3 の二重管式加水分解器(グラスライニング製)に温度115℃、LHSV=0.5hr-1で通液し加水分解を行った。
【0069】
(精製)
上記加水分解液を濾過後、残渣を水洗し、その濾液と洗液を合わせて水分が85%になるまで濃縮し、この濃縮液に撹拌しながら水酸化カルシウムをpHが3.5になるまで加え、更に活性炭14.5kgを加えて析出した硫酸カルシウムと共に濾別し、濾液をイオン交換樹脂で精製した。この時得られた精製液4.7トンは、キシロース純度が90.9%、固形分濃度6.0%であった。
【0070】
(キシロース結晶化)
該精製液の一部2.9トンを濃縮し固形分濃度80%の濃縮液217kgを得た。該濃縮液は70℃から40℃まで1時間につき1℃の割合で冷却し、途中62℃にて結晶キシロース1.1kgをシードとして加えた。生成した結晶キシローススラリーを遠心分離し(分離条件:φ600mm、1600rpm、30min)、純度99.4%、水分2.0%の結晶キシロース第一晶109.7kgを得た。回収した濾液は再び80%まで濃縮し、同条件にて結晶化を行った後、エタノール7.2kgを加えて遠心分離することで、純度98.5%、水分1.4%の結晶キシロース第二晶41.7kgを得た。一晶と二晶を合わせて流動乾燥し、純度99.2%、水分0.8%の結晶キシロース149.7kgを得た。この時の結晶キシロース回収率はアブラヤシ房乾燥固形分に対して12.5%であった。
【0071】
【実施例2】
(キシロースの製造)
【0072】
(粉砕)
油を搾った後のアブラヤシ果実の搾りかすと果実を分離した後のアブラヤシ房の混合物(混合重量比1:2)2トンをチップクラッシャーで20〜30mmの大きさに粗粉砕した。
【0073】
(前処理)
粗粉砕物135kg(水分63%)、濃度0.3%硫酸水溶液335リットルを500リットルの耐圧容器に入れ、85℃で2時間加熱した。終了後、遠心分離を用いて固形物を回収した。
【0074】
(加水分解)
該固形物は再び前記500リットルの耐圧容器に戻し、濃度0.6%硫酸水溶液300リットルを加え、115℃で2時間加熱した。冷却後、遠心分離により加水分解液約300リットルを分離した。この加水分解液に活性炭0.8kgを加え、40℃で1時間撹拌後、活性炭を濾過した。濾液は、常法に従いイオン交換樹脂で精製した。得られた精製液のキシロース純度は88.2%であった。
上記前処理及び加水分解の操作を10バッチ繰り返し、得られた精製液をキシロース結晶化に供した。
【0075】
(キシロース結晶化)
上記精製液を、実施例1のキシロース結晶化と同様の条件でキシロースの結晶化を行い、一晶38.6kg(水分1.6%、キシロース純度99.1%)及び二晶13.7kg(水分2.2%、キシロース純度98.2%)を得た。
この時の結晶キシロース回収率は原料の乾燥固形分に対して10.3%であった。
【0076】
【実施例3】
(キシロースの製造)
【0077】
(粉砕)
アブラヤシの幹11kgを実施例1と同様の方法で粉砕し、固形分10%のスラリーを40kg得た。
【0078】
(酵素加水分解)
得られたスラリーを130℃で2時間オートクレーブ滅菌し、セルラーゼ3S((株)ヤクルト本社製)を1.6kg(スラリー中の固形分の40%相当)加え、撹拌しながら45℃で90時間インキュベートした。次に、80℃で30分加熱し、反応液を濾過し、濾液36.8kg(固形分濃度4.8%)を得た。
【0079】
(酵母資化)
該濾液を濃度20%まで濃縮し、この濃縮液に活性炭89gを加え60℃で30分間撹拌後、活性炭を濾別し、濾液にレギュラーイースト(Saccharomyces cerevisiae)89gを加え、30℃空気通気量0.5〜1vvm(1リットルの培地に対して1分間に通気したガスのリットル量)で24時間インキュベートした。インキュベート終了後、遠心分離によりレギュラーイーストを除去し、活性炭を89g加え60℃で30分間撹拌後、活性炭を濾別し、イオン交換樹脂で精製して精製液9.3kg(固形分濃度15%)を得た。
この精製液の糖組成はキシロース29.2%、キシロビオース64.2%、アラビノース3.3%、オリゴ糖・その他3.3%であった。
【0080】
(酸加水分解、精製、結晶化)
上記精製液9.3kgに対し98%濃硫酸57.2gを加え、115℃で2時間加熱加水分解した。この加水分解液は実施例1と同様の方法で精製、結晶化を行った。精製により得られたキシロース液の重量は14.8kg、純度は92.5%、固形分濃度が6.5%であり、結晶化により得られた1晶と2晶を合わせて乾燥した後の結晶キシロースの重量は829g、純度99.4%、水分0.8%であった。
この時の結晶キシロース回収率は、アブラヤシ幹の乾燥固形分に対して20.6%であった。
【0081】
【実施例4】
(キシロースの製造)
【0082】
(粉砕)
油を搾った後のアブラヤシ果実の搾りかす2トンを実施例2と同じ方法で粗粉砕した。
【0083】
(前処理)
粗粉砕物139kg(水分64%)及び濃度0.5%水酸化ナトリウム水溶液335リットルを実施例2の前処理で使用したものと同様の500リットル耐圧容器に入れ、70℃で2時間加熱した。終了後、処理した粗粉砕物を遠心分離し、水300リットルで洗浄した。
【0084】
(加水分解)
該耐圧容器に前処理済み粗粉砕物と濃度1%の硫酸水溶液300リットルを加え、120℃で1.5時間加熱した。
冷却後、遠心分離することにより加水分解液約300リットルを分離した。この加水分解液に活性炭0.8kgを加え、40℃で1時間撹拌後、活性炭を濾過した。濾液は、常法に従いイオン交換樹脂で精製した。得られた精製液のキシロース純度は88.2%であった。
上記前処理及び加水分解の操作を10バッチ繰り返し、得られた精製液をキシロース結晶化に供した。
【0085】
(キシロース結晶化)
上記精製液を、実施例1のキシロース結晶化と同様の条件でキシロースの結晶化を行い、一晶30.5kg(水分2.4%、キシロース純度98.1%)及び二晶16.6kg(水分2.6%、キシロース純度97.7%)を得た。
この時の結晶キシロース回収率は、原料の乾燥固形分に対して9.2%であった。
【0086】
【実施例5】
(キシロースの製造)
【0087】
(粉砕)
アブラヤシ幹を実施例1と同様の方法で微粉砕し、スラリー5.8トン(乾燥固形分560kg)を得た。
【0088】
(加水分解)
該スラリー5.8トンに98%硫酸18.5kgを加え、容量1m3 の二重管式加水分解器(グラスライニング製)に温度120℃、LHSV=0.7hr-1で通液し加水分解を行った。
【0089】
(精製)
加水分解液は実施例1と同様の方法で精製し、濃度5.5%の精製液1650kgを得た。
【0090】
(キシロースの結晶化)
上記精製液を、実施例1のキシロース結晶化と同様の条件でキシロースの結晶化を行い、一晶48.3kg(水分2.5%、キシロース純度98.4%)及び二晶20.5kg(水分2.8%、キシロース純度96.3%)を得た。
この時の結晶キシロース回収率は、原料の乾燥固形分に対して12.0%であった。
【0091】
【実施例6】
(キシリトールの製造)
【0092】
(接触水素還元)
実施例1で得られた結晶キシロース20kgを濃度50%水溶液に調製し、粉末ラネーニッケル触媒3kgとともに50リットルの電磁撹拌式ステンレス製オートクレーブ中、水素圧150kg/cm2、温度110℃で120分間接触水素還元した。
反応液は触媒を濾過分離した後、常法に従いイオン交換樹脂にて精製した。
【0093】
(キシリトール結晶化)
上記精製液を固形分濃度99.5%まで濃縮した後、ステンレス製バットに流し込み、シードとして結晶キシリット0.8kgを加えて均一に撹拌し、室温にて24時間静置放冷して結晶化した。得られた結晶ブロックはフェザーミルで粉砕後、流動乾燥することで純度99.1%、水分0.5%の粉末キシリトール18.3kgを得た。
【0094】
【実施例7】
(キシリトールの製造)
【0095】
(接触水素還元)
実施例1で製造したキシロース含有の加水分解精製液の残部1.8トン(濃度6.0%、キシロース純度90.9%)を濃縮し、濃度50%の水溶液216kgを得た。
電磁撹拌式ステンレス製50リットルオートクレーブに上記キシロース含有の50%水溶液40kgと市販のラネーニッケル触媒(日興リカ(株)製、R−239)2.5kgを入れ、水素圧150kg/cm2、温度120℃で120分間反応させた。
反応終了後、反応液から触媒を濾過により分離し、常法に従いイオン交換樹脂で精製することでキシリトール含有液を得た。
この水素化反応を5バッチ行い、濃縮して濃度60%のキシリトール含有液を160kg得た。
このものの組成は、キシリトール90.8%、アラビトール2.6%、マンニトール2.4%、ソルビトール2.1%、ズルシトール1.3%及びその他0.8%であった。
【0096】
(クロマト分画装置)
本実施例で使用したクロマト分画装置は、図1に示すように、10リットルのジャケット付きステンレス製の塔(内径9.6cm、長さ150cm)10本A〜Jを直列に連結し、塔Aの上部に、予熱器O及び開閉バルブLを介して原料仕込みポンプKを接続するとともに、予熱器O及び開閉バルブNを介して水仕込みポンプMを接続し、他方、塔Jの下部に、バルブR及びSを介して流出液タンクP及びQを接続し、更にバルブTを接続したものである。
尚、塔A〜Jの各塔には、強酸性イオン交換樹脂(オルガノ(株)製、スルフォン酸型CG6010)のカルシウム型を100リットル充填した。
【0097】
(クロマト分画)
A〜Jの各塔を60℃に保ちつつ、バルブL及びTを開き、バルブN、R及びSを閉じる。
濃度60%に調整したキシリトール含有液4リットルを毎時3.6リットルの速さでポンプKより通液した。
次にバルブLを閉じ、バルブNを開き、ポンプMから水を毎時3.6リットルの速さで209.3分通液した。この操作を繰り返した。
バルブTの出口の糖濃度が0.2%になった時点でバルブTを閉じ、バルブRを開いた。
127.5分後、バルブRを閉じ、バルブSを開いた。88.2分後、バルブSを閉じ、バルブRを開いた。この操作を繰り返した。
タンクP及びタンクQに得られた流出液の濃度、重量及び糖組成は、表1の通りであった。
【0098】
【表1】
【0099】
(粉末キシリトールの製造)
タンクQの流出液を濃度97%まで濃縮した後、温度70℃に調整した食品用二軸スクリュー式エクストルーダー((株)日本製鋼所製、TEX38FSS−20AW−V)に毎時26kgで導入し、シードとして結晶キシリトール(純度99%)を流出液の固形分に対して約10%添加し、毎分60回転で混練しながら2分後にエクストルーダーから排出される迄に40℃に冷却し、直径4mmの孔が12ヶ所開いた押出し口からキシリトールマグマを得た。この時の運転時間は1.5時間であった。
【0100】
得られたキシリトールマグマを冷却、乾燥、粉砕することで、粉末キシリトール38.6kgを得た。このもののキシリトール純度は99.0%であった。
【0101】
【実施例8】
(キシリトールの製造)
【0102】
(接触水素還元)
実施例2で製造したキシロース結晶の一晶及び二晶を水に溶解し濃度50%のキシロース水溶液とした後、実施例1と同様の方法で接触水素還元を行い、引き続き常法によりイオン交換樹脂精製及び濃縮することにより、濃度83%のキシリトール液55.4kgを得た。
【0103】
(キシリトール結晶化)
得られたキシリトール液を50リットルの結晶缶に入れ、60℃で結晶キシリトールのシード100gを加え20時間かけて30℃まで冷却した。生成した結晶キシリトールを遠心分離器で分離し、少量の水で洗浄することで、結晶キシリトールの1晶27.9kg(水分1.6%、キシリトール純度99.5%)を得た。更に濾液は再度83%まで濃縮し、一晶の製造と同様に60℃で結晶キシリトールのシード40gを加え20時間かけて30℃まで冷却することで結晶キシリトールの2晶7.3kg(水分2.2%、キシリトール純度98.8%)を得た。
【0104】
【発明の効果】
【0105】
本発明の製造方法によれば、現状で有効利用されていないアブラヤシの果実から油を搾った後の果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹から食品、医薬品及び化粧品等の原料として有用なキシロース及びキシリトールを工業的に製造することが可能となり、特に該原料を特定の前処理条件及び加水分解条件で処理することにより、キシロース以外の成分の生成を減少させ、高純度のキシロース及びキシリトールを工業的に安価に且つ効率よく製造することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例7で使用するクロマト分画装置の概略図
【符号の説明】
A〜J 塔
K 原料仕込みポンプ
L 開閉バルブ
M 水仕込みポンプ
N 開閉バルブ
O 予熱器
P、Q 流出液タンク
R、S、T 開閉バルブ
Claims (2)
- 油を搾った後のアブラヤシ果実の搾りかす、果実を分離した後のアブラヤシ房、およびアブラヤシの幹から選ばれる一種または二種以上からなる原料であって、硫酸または塩酸の存在下で、酸濃度0.1〜0.5重量%、温度60〜100℃で0.5〜3時間加熱前処理したものを加水分解することによるキシロースの製造方法。
- 請求項1に記載の方法により得られたキシロースを還元することを特徴とするキシリトールの製造方法。
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