JP4208221B2 - 水性インキ用カーボンブラックとそれを用いた水性顔料インキ - Google Patents

水性インキ用カーボンブラックとそれを用いた水性顔料インキ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水中への分散性能に優れ、水性黒色インキ用として好適な水性インキ用カーボンブラック、および該カーボンブラックを顔料として用いた水性顔料インキに関する。
【0002】
【従来の技術】
カーボンブラックは疎水性で水に対する濡れ性が低いために水中に高濃度で安定に分散させることは極めて困難である。これはカーボンブラック表面に存在する水分子との親和性が高い官能基が極めて少ないことに起因する。そこで、水分散性を向上させるためにカーボンブラックを酸化改質して表面に親水性の官能基を形成する方法が古くから知られている。
【0003】
例えば、特開昭48−18186号公報にはカーボンブラックを次亜ハロゲン酸塩の水溶液で酸化処理する方法が、また、特開昭57−159856号公報にはカーボンブラックを低温酸化プラズマ処理することを特徴とする水分散性改質カーボンブラックの製造方法が開示されている。
【0004】
水分散性に優れたカーボンブラックは水性顔料インキとして有用されており、筆記具をはじめ、特に近年ではインキジェットプリンター用の記録液などとしても注目されている。易水分散性カーボンブラックを用いた水性インキとして、例えば、特開平8−3498号公報には水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インキにおいて、該カーボンブラックが1.5mmol/g以上の表面活性水素含有量を有する水性顔料インキ、及び、水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インキの製造方法において、(a) 酸性カーボンブラックを得る工程と、(b) 前記酸性カーボンブラックを水中で次亜ハロゲン酸塩で更に酸化する工程とを、包含する水性顔料インキの製造方法が提案されている。また、特開平8−319444号公報には吸収量100cm3/100g以下のカーボンブラックを水性媒体中に微分散する工程;及び次亜ハロゲン酸塩を用いて該カーボンブラックを酸化する工程;を包含する水性顔料インキの製造方法が開示されている。
【0005】
上記の特開平8−3498号公報及び特開平8−319444号公報ではカーボンブラックを酸化して、表面に親水性の官能基である活性水素を多く含有させることにより水分散性が良好で、長期間の分散安定性に優れた水性顔料インキを得るものである。しかしながら、カーボンブラックが水中に分散して安定な分散状態を維持するためにはカーボンブラック粒子表面と水分子との接触界面に存在する親水性の官能基量が大きく機能し、単にカーボンブラック単位重量当たりに存在する官能基量を規制するのみでは分散性の良否を的確に判断することは困難である。
【0006】
そこで、本発明者は分散性能の良否を的確に判断する新たな指標としてカーボンブラック単位表面積当たりに存在する親水性の水素含有官能基量に着目して研究を進め、表面に存在する水素含有官能基のうちカルボキシル基とヒドロキシル基の総和量が、単位表面積当たり3μeq/m2以上である易水分散性カーボンブラック、及びその製造方法(特開平11−148027号公報)、窒素吸着比表面積(N2SA)が80m2/g以上、DBP吸油量が70ml/100g 以下のカーボンブラックを酸化処理したカーボンブラックであって、アグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とアグロメレートの平均粒径Dupa50%(nm)との比Dupa50%/Dstの値が1.5〜2.0の特性を備える易水分散性カーボンブラック(特開平11−148026号公報)などを開発した。
【0007】
更に、窒素吸着比表面積(N2SA)が50m2/g以上、DBP吸油量が80ml/100g 以下のカーボンブラックであって、(1) カーボンブラックのアグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とアグロメレートの平均粒径Dupa50%(nm)との比Dupa50%/Dstの値が1.1〜1.5、(2) アグロメレートの平均粒径Dupa50%(nm)の値が40〜140(nm)、(3) アグロメレートの最大粒径Dupa99%(nm)の値が250(nm)以下、であり、かつ表面に存在する水素含有官能基のうちカルボキシル基とヒドロキシル基の総和量が単位表面積当たり3μeq/m2以上の特性を備える易水分散性カーボンブラック(特開平11−256066号公報)を開発、提案した。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、引き続き研究を進める過程において、一般にストラクチャーレベルが低いカーボンブラックを用いた水性顔料インキは吐出安定性や沈殿残渣率などは良好であるが、黒色度が低下する傾向にあり、一方、レギュラークラス以上の高いストラクチャーレベルのカーボンブラックを用いて作製した水性顔料インキは黒色度や沈殿残渣率などは良好であるが、吐出安定性に関係する濾過性が悪化するなどの傾向にあることが判明した。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づいて開発に至ったもので、その目的は、水中における分散性に優れ、水性インキ用の黒色顔料として好適な、例えばインキジェット用インキ顔料として用いた場合、普通紙、専用紙、OHPシート、アート紙などに印字する際の紙定着濃度、印字濃度、吐出安定性、耐光性、保存安定性および分散安定性などのインキ性能に優れた水性インキ用カーボンブラック、およびこのカーボンブラックを顔料として用いた水性顔料インキを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の水性インキ用カーボンブラックは、CTAB比表面積が140m2/g以上、比着色力(Tint)が120%以上であって、DBP吸収量が100cm3/100g以上のカーボンブラックAとDBP吸収量が100cm3/100g未満のカーボンブラックBとを、A:Bが70:30〜10:90の重量比で混合したカーボンブラックを酸化処理して、X線光電子分光法により測定した全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)を0.1以上に、水素含有表面官能基量が3.0μeq/m2 以上に、化学修飾されたことを構成上の特徴とする。
【0011】
更に、本発明の水性インキ用カーボンブラックは上記の特性を備えたカーボンブラックであって、水中に分散した状態におけるカーボンブラックのアグロメレートの平均粒径Dupa50%が50〜110nm、アグロメレートの最大粒径Dupa99%が250nm以下の粒子凝集性状を示すことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の水性顔料インキはCTAB比表面積が140m2/g以上、比着色力(Tint)が120%以上で、DBP吸収量が100cm3/100g以上のカーボンブラックAとDBP吸収量が100cm3/100g未満のカーボンブラックBとを、A:Bが70:30〜10:90の重量比で混合したカーボンブラックを水中に分散した状態で酸化処理し、X線光電子分光法により測定した全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)を0.1以上に、水素含有表面官能基量を3.0μeq/m2 以上に化学修飾し、濾別後、アルカリ水溶液に分散し、次いで分散液中に残存する塩を分離精製してなることを構成上の特徴とする。
【0013】
更に、本発明の水性顔料インキは、水分散液中のカーボンブラックの分散濃度が20wt%における沈殿残渣率が14wt%未満であり、またカーボンブラックの分散濃度が4wt%の水分散液を#6バーコーターにより普通紙(XEROX 4024)にドローダウンした場合の黒色度が1.20以上であることを特徴としている。
【0014】
【発明の実施の形態】
カーボンブラック特性のうち、CTAB比表面積は、カーボンブラックを水中に分散させた場合にカーボンブラック粒子表面と水分子とが接触する界面の面積に関与する特性であり、この値が大きい程、接触界面の面積が大きくなるので水分散性能は向上する。しかしながら、水性インキとした場合には紙定着濃度が低くなり、印字濃度が薄くなる。一方、CTAB比表面積が小さくなると水分子との接触界面も小さくなるので水分散性能が低下し、水性インキの濾過性や吐出安定性などが低下するとともに沈殿残渣率が著しく増加する。
【0015】
比着色力(Tint)は、カーボンブラックの粒子径(比表面積)やストラクチャー(DBP吸収量)、更にアグリゲート径などに関連した特性であり、この値が小さくなると、粒度分布がブロード化するため水性インキを作製した場合に濾過性や吐出安定性が低下し、また沈殿残渣率も増大することとなる。
【0016】
また、DBP吸収量はストラクチャーレベルを示し、水中に分散した状態におけるカーボンブラック粒子の凝集体の大きさに関連する特性であり、DBP吸収量が大きくなると印字濃度が高くなり、黒色度は増大するが、水分散液中において凝集体が絡み合う確率が高くなり、カーボンブラックが沈降し易くなるので、水性インキとした場合に沈殿残渣率が増大して、濾過性や吐出安定性が低下することとなる。一方、DBP吸収量が小さい場合には沈殿残渣率は小さくなるが、紙定着濃度が低下するため、印字濃度、黒色度などが低下する。
【0017】
このようにカーボンブラックの特性は、水への分散性能、更に水性インキの紙定着濃度、印字濃度、黒色度、濾過性、吐出安定性、沈殿残渣率などのインキ性能に大きな影響を与えるとになる。そこで、本発明の水性インキ用カーボンブラックは、カーボンブラックの特性としてCTAB比表面積を140m2/g以上、比着色力(Tint)を120%以上に設定し、DBP吸収量の異なる2種類のカーボンブラック、すなわち、DBP吸収量が100cm3/100g以上のカーボンブラックAと、DBP吸収量が100cm3/100g未満のカーボンブラックBとを、A:Bが70:30〜10:90の重量比で混合したカーボンブラックを適用する点に特徴がある。なお、比着色力(Tint)の測定はASTMD3265−93、DBP吸収量の測定はASTMD2414−93に従って行う。
【0018】
CTAB比表面積が140m2/g未満の場合は、水分散性能が低く、水性インキの濾過性や吐出安定性などが低下するとともに沈殿残渣率が著しく増加することとなる。また、比着色力(Tint)が120%未満であると、粒度分布がブロード化するため水性インキを作製した場合に濾過性や吐出安定性が低下し、沈殿残渣率が増大することとなる。なお、CTAB比表面積はASTMD3765−92aに従って測定する。
【0019】
DBP吸収量が100cm3/100g以上であると、水性インキの黒色度は向上するが沈殿残渣率が増加し、一方、DBP吸収量が100cm3/100g未満の場合には、沈殿残渣率は低くなるが黒色度が低下する。そのため、本発明の水性インキ用カーボンブラックにおいては、DBP吸収量が異なる2種類のカーボンブラック、すなわち、DBP吸収量が100cm3/100g以上のカーボンブラックAと、DBP吸収量が100cm3/100g未満のカーボンブラックBとを、A:Bが70:30〜10:90の重量比で混合したカーボンブラックが適用される。カーボンブラックA、Bの混合比として、Aの重量比が70を越え、Bの重量比が30を下回ると沈殿残渣率が増大し、Aの重量比が10を下回り、Bの重量比が90を越えると黒色度が著しく低下することになる。なお、カーボンブラックA、BのDBP吸収量の差は10cm3/100g以上あることが好ましい。
【0020】
本発明の水性インキ用カーボンブラックは、これらの特性を有するカーボンブラックA、Bを所定の重量比で混合したカーボンブラックを対象にして、酸化処理してその表面に存在する官能基として、X線光電子分光法により測定した全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)の値が0.1以上に、水素含有表面官能基量を3.0μeq/m2 以上に化学修飾された点に特徴がある。
【0021】
XPSやESCAなどのX線光電子分光法により測定される全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)が0.1未満であると、水などの極性溶媒に対する自己分散性が低下し、水性インキとした場合に分散安定性が悪化することとなる。なお、この結合エネルギーの強度比の調整は、酸化処理によりカーボンブラック粒子表面に親水性の官能基を生成させることにより行われる。
【0022】
そして、親水性の官能基としてカルボキシル基やヒドロキシル基などの水素含有表面官能基量が3.0μeq/m2 以上に化学修飾されたものであることが必要となる。カーボンブラックの水中への分散性能はカーボンブラックと水分子との接触界面に存在する親水性の官能基量が大きな役割を果たすので、化学修飾して形成された親水性官能基量として、活性水素を含むカルボキシル基およびヒドロキシル基などの水素含有表面官能基量を3.0μeq/m2 以上に設定する。この値が3.0μeq/m2 を下回ると親水性の官能基量が少ないために、優れた分散性能を付与することができなくなる。
【0023】
なお、水素含有表面官能基は下記の方法によって測定される。
▲1▼カルボキシル基;
0.976Nの炭酸水素ナトリウム水溶液50ml中に、カーボンブラック約2〜5g を入れて6時間程度振盪する。振盪後、カーボンブラックと反応液を分離し、濾液を0.05Nの水酸化ナトリウムによって滴定試験を行い、表面上のカルボキシル基量を測定する。この値を該当する未酸化カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)で除した値を単位表面積当たりのカルボキシル基量 (μeq/m2)とする。
▲2▼ヒドロキシル基;
2,2′-Diphenyl-1-picrylhydrazyl(DPPH)を四塩化炭素に溶解し、5×10-4 mol/l溶液を作製する。該溶液にカーボンブラックを0.1〜0.6g 添加し、60℃の恒温槽中にて6時間攪拌する。その後、反応液とカーボンブラックを分離し、濾液の吸収度を波長520nmで紫外線吸光光度計により測定し、ヒドロキシル基量を測定する。この値を該当する未酸化カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)で除した値を、単位表面積当たりのヒドロキシル基量 (μeq/m2)とする。
【0024】
酸化処理は、例えば過硫酸塩、過硼酸塩、過炭酸塩などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの酸化剤水溶液中にカーボンブラックを添加して酸化することにより行われ、酸化剤水溶液の濃度、カーボンブラックの添加量、反応温度、反応時間などを適宜に制御して、全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)が0.1以上に、またカルボキシル基とヒドロキシル基の和である水素含有表面官能基量が3.0μeq/m2 以上となるように処理される。
【0025】
更に、本発明の水性インキ用カーボンブラックは、上記の特性に加えて、水中に分散した状態におけるカーボンブラックのアグロメレートの平均粒径Dupa50%の値が50〜110nm、アグロメレートの最大粒径Dupa99%の値が250nm以下の粒子凝集性状を有することを特徴としている。
【0026】
水中におけるカーボンブラック粒子の凝集形態の大きさを示すアグロメレートの平均粒径Dupa50%の値が50nm未満であると、水性インキとした場合に紙繊維の隙間をカーボンブラックが通過する頻度が増大して紙定着濃度が低下し、印字濃度が低下する。一方、アグロメレートの平均粒径Dupa50%の値が110nmを越えると印字濃度は向上するが、水性インキ中のカーボンブラックの分散安定性が低下して、濾過性が悪化し、沈殿残渣率が増大することになる。また、アグロメレートの最大粒径Dupa99%の値が250nmを越えると、水性インキ中において大きな凝集体のカーボンブラックが存在することになり、沈殿残渣率が増大し、吐出安定性および濾過性の低下が著しくなるためである。
【0027】
なお、アグロメレートの平均粒径Dupa50%および最大粒径Dupa99%は、下記の方法によって測定される。
カーボンブラックを水に分散して0.1〜0.5kg/m3 の分散液を調製し、ヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、UPA mode1 9340)を用いて分散液にレーザー光を照射して、散乱光の周波数変調の度合いから分散液中のアグロメレートの粒径を測定する。分散液中のカーボンブラックはブラウン運動しており、ドップラー効果によって分散しているカーボンブラック凝集体の大きさにより散乱光の周波数が変調する。したがって、凝集体の大きさによるブラウン運動の激しさが異なることから、水中に分散している状態における凝集体の大きさ、すなわちアグロメレートの粒径を測定することができる。このようにして測定したアグロメレート粒径からその累積度数分布曲線を作成し、50%累積度数の値をアグロメレートの平均粒径Dupa50%(nm)、99%累積度数の値をアグロメレートの最大粒径Dupa99%(nm)とする。
【0028】
本発明の水性顔料インキは、これらの特性を備えた本発明の水性インキ用カーボンブラックを水中に所定の濃度に分散させたものである。すなわち、上記のCTAB比表面積、比着色力(Tint)およびDBP吸収量を備えたカーボンブラックA、Bを所定の重量比で混合し、混合カーボンブラックを過硫酸塩、過硼酸塩、過炭酸塩などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの酸化剤水溶液中に添加し、攪拌しながら酸化剤水溶液の濃度、カーボンブラックの添加量、反応温度、反応時間などを適宜に制御して酸化処理して、全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)を0.1以上に、また水素含有表面官能基量を3.0μeq/m2 以上となるように化学修飾する。
【0029】
酸化処理したのち、速やかに濾別してカーボンブラックを分離し、次いで分離したカーボンブラックを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアやアルカノールアミンなどのアルカリ水溶液に分散させ、pHを調節して安定分散させる。すなわち、酸化処理によりカーボンブラック粒子表面が化学修飾され、カーボンブラック粒子表面に形成された親水性官能基の末端水素の全てあるいはその一部をアルカリ金属、アミノ基などに置換することにより、水分散性の向上が図られる。
【0030】
次いで、生成した残塩を分離除去して精製することにより本発明の水性顔料インキが得られる。残塩の除去は、水分散液のpHを6〜11に調節し、電気透析あるいは分離膜(逆浸透膜、限外濾過膜、ルーズ R.Oなど)により残塩を分離精製する。この場合、カーボンブラック分散液中の残塩濃度は、例えばカーボンブラック含有濃度を20wt%として導電度が5mS/cm 未満となるように分離精製することが好ましい。なお、水性インキの分散安定性を維持するためにはカーボンブラックの分散濃度を60wt%以下に調整することが望ましい。
【0031】
本発明の水性顔料インキは、カーボンブラックの分散濃度が20wt%の水分散液における沈殿残渣率が14wt%未満であり、顔料であるカーボンブラックの分散性能が極めて優れているものである。沈殿残渣率は、カーボンブラックの水分散体に外力を作用させた際に、外力によりカーボンブラックが沈降して行き沈殿する状況を示すもので、水性顔料インキ中のカーボンブラック顔料の分散安定性を示す尺度として定義したものである。
【0032】
すなわち、沈殿残渣率はカーボンブラックの水分散液(カーボンブラック濃度20wt%)を9.8×20000m/s2の重力加速度で30分間遠心分離処理を行った後の沈殿残渣量(M1 )と、遠心分離処理前の水分散液中のカーボンブラックの重量(M0 )との重量比(M1 /M0 )として測定した値である。この沈殿残渣率が14wt%以上となると、長期保存時にインキヘッドの詰まりを生じることになる。
【0033】
また、本発明の水性顔料インキは、上記特性のカーボンブラックを顔料として水中に分散させることにより、印字濃度の黒色度が高く、カーボンブラックの分散濃度が4wt%の分散液を#6バーコーターにより普通紙(XEROX 4024)にドローダウンした場合の黒色度を1.20以上とすることができる。
【0034】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
【0035】
カーボンブラック試料;
特性の異なるカーボンブラックとして表1に示す4種類のカーボンブラック試料▲1▼、▲2▼、▲3▼、▲4▼を用いた。すなわち、CTAB比表面積が140m2/g以上、比着色力(Tint)が120%以上であって、DBP吸収量が100cm3/100g以上のカーボンブラックAとして試料▲1▼および▲3▼、DBP吸収量が100cm3/100g未満のカーボンブラックBとして試料▲2▼および▲4▼を用いた。
【0036】
【表1】
Figure 0004208221
【0037】
実施例1、比較例5
表1に示すカーボンブラック試料▲1▼、▲2▼を用いて、両者を異なる割合で混合して、カーボンブラック試料を調製した。このカーボンブラック試料80g を濃度1.175 mol/dm3の過硫酸ナトリウム水溶液3000cm3 に添加し、反応温度60℃、反応時間10時間、攪拌速度5(1/s) の条件で酸化処理した。次いで、濾別した酸化カーボンブラックを純水中に分散させて、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、限外濾過膜(旭化成、AHP-1010、分画分子量 50000)により精製処理して残存する塩を分離して、カーボンブラック水分散液を作製した。なお、精製後の分散液の導電度は0.6mS/cm (カーボンブラック含有濃度22wt%)であった。
【0038】
実施例2、比較例6
表1に示すカーボンブラック試料▲3▼、▲4▼を用いて、両者を異なる割合で混合してカーボンブラック試料を調製し、このカーボンブラック試料を用いた他は、全て実施例1と同じ方法によりカーボンブラック水分散液を作製した。
【0039】
比較例1〜4
表1に示すカーボンブラック試料▲1▼〜▲4▼をそれぞれ単独で用いた他は、全て実施例1と同一の方法によりカーボンブラック水分散液を作製した。
【0040】
これらのカーボンブラック水分散液を濃縮して、カーボンブラック含有濃度が20wt%の水性インキのサンプルを調整した。このようにして作製したサンプルについて、下記の方法により水分散性能およびインキ性能などを評価した。得られた結果を表2〜表4に示した。
【0041】
▲1▼分散安定性;
サンプルを密閉容器に詰め、70℃の保温器中にて3日間から4週間の粘度変化を測定した。なお粘度は回転振動式粘度計〔山一電機(株)製、VM-100A-L 〕により測定した。
【0042】
▲2▼粒子径測定;
サンプルおよび分散安定性の試験を行った後、カーボンブラックのアグリゲートの粒子径をヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置〔マイクロトラック社製、UPA model 9340〕を用いて測定した。この測定装置は懸濁液中においてブラウン運動している粒子にレ−ザ光を当てると、ドップラー効果により散乱光の周波数が変調する。その周波数の変調度合いからブラウン運動の激しさ、すなわち粒子径を測定するものである。
【0043】
▲3▼印字濃度;
サンプルのカーボンブラック含有濃度を4wt%に希釈し、XEROX 4024用紙に#6バーコータにより印字して、マクベス濃度計〔コルモーゲン社製 RD-927 〕を用いて光学濃度を測定した。
【0044】
▲4▼濾過性;
サンプル200g を90φのNO.2濾紙および膜孔3μm 、0.8μm 、0.65μm 、0.45μm のフィルターを用いて、2.66 KPaの減圧下で濾過試験を行い、濾過通過重量(g) を測定した。
【0045】
▲5▼沈殿残渣率;
水性インキを20000Gの重力加速度で30分間遠心分離処理を行った後の沈殿残渣量(M1 )と、遠心分離処理前のカーボンブラックの重量(M0 )との重量比(M1 /M0 )を沈殿残渣率とした。この値が低いほど分散安定性は良好である。
【0046】
【表2】
Figure 0004208221
【0047】
【表3】
Figure 0004208221
【0048】
【表4】
Figure 0004208221
【0049】
表2〜表4から、CTAB比表面積が140m2/g以上、比着色力(Tint)が120%以上であって、DBP吸収量が100cm3/100g以上のカーボンブラックAと100cm3/100g未満のカーボンブラックBとを、A:Bが70:30〜10:90の重量比で混合したカーボンブラックを酸化処理して全炭素原子と全酸素原子との原子比を0.1以上、水素含有表面官能基量が3.0μeq/m2 以上に化学修飾したカーボンブラックを水中に分散させて作製した実施例1(Run No.1 〜4)および実施例2(Run No.7 〜10) の水分散液は、カーボンブラックAとBとの混合重量比が、この範囲を外れる比較例5(Run No.5 〜6)、比較例6(Run No.11〜12) の水分散液に比べて、濾過性が良好で沈殿残渣率が14wt%未満と小さいにも係わらず印字濃度(OD値)が1.20以上と高く、優れた分散性と印字濃度の黒色度が両立されていることが認められる。一方、比較例5、6の水分散液は印字濃度(OD値)が高ければ沈殿残渣率が高く、沈殿残渣率が低ければ印字濃度(OD値)も低くなり、分散性と印字濃度(黒色度)を両立させることが困難であることが判る。
【0050】
また、単一のカーボンブラック試料を用いて作製した比較例1〜4(Run No.13〜16) の水分散液は、比較例1、3は沈殿残渣率が17wt%以上と高く分散性に劣り、比較例2、4では印字濃度の黒色度が低く、ともに分散性と黒色度を両立できていないことが認められる。
【0051】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明の水性インキ用カーボンブラックによれば、特定の比表面積および比着色力を有し、ストラクチャーレベルの異なる2種類のカーボンブラックを併用して顔料として用いることにより、このカーボンブラックを顔料として作製した水性顔料インキは、水分散性能に優れるとともに印字濃度の黒色度が高く、優れたインキ性能を備えた水性顔料インキを提供することができる。

Claims (5)

  1. CTAB比表面積が140m2/g以上、比着色力(Tint)が120%以上であって、DBP吸収量が100cm3/100g以上のカーボンブラックAとDBP吸収量が100cm3/100g未満のカーボンブラックBとを、A:Bが70:30〜10:90の重量比で混合したカーボンブラックを酸化処理して、X線光電子分光法により測定した全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)を0.1以上に、水素含有表面官能基量が3.0μeq/m2 以上に、化学修飾されたことを特徴とする水性インキ用カーボンブラック。
  2. 水中に分散した状態におけるカーボンブラックのアグロメレートの平均粒径Dupa50%が50〜110nm、アグロメレートの最大粒径Dupa99%が250nm以下の粒子凝集性状を示す、請求項1記載の水性インキ用カーボンブラック。
  3. CTAB比表面積が140m2/g以上、比着色力(Tint)が120%以上で、DBP吸収量が100cm3/100g以上のカーボンブラックAとDBP吸収量が100cm3/100g未満のカーボンブラックBとを、A:Bが70:30〜10:90の重量比で混合したカーボンブラックを水中に分散した状態で酸化処理し、X線光電子分光法により測定した全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)を0.1以上に、水素含有表面官能基量を3.0μeq/m2 以上に化学修飾し、濾別後、アルカリ水溶液に分散し、次いで分散液中に残存する塩を分離精製してなることを特徴とする水性顔料インキ。
  4. カーボンブラックの分散濃度が20wt%の水分散液における沈殿残渣率が14wt%未満である、請求項3記載の水性顔料インキ。
  5. カーボンブラックの分散濃度が4wt%の水分散液を#6バーコーターにより普通紙(XEROX 4024)にドローダウンした場合の黒色度が1.20以上である、請求項3または請求項4記載の水性顔料インキ。
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