JP3749406B2 - 水性インキ用カーボンブラック顔料 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水中への分散性能に優れ、水性黒色インキ用として好適な水性インキ用カーボンブラック顔料に関する。
【0002】
【従来の技術】
カーボンブラックは疎水性で水に対する濡れ性が低いために水中に高濃度で安定に分散させることが極めて困難である。これはカーボンブラック表面に存在する水分子との親和性が高い官能基が極めて少ないことに起因する。そこで、カーボンブラックを酸化改質して表面に親水性の官能基を形成する方法が古くから知られている。
【0003】
例えば、特開昭48−18186号公報にはカーボンブラックを次亜ハロゲン酸塩の水溶液で酸化処理し、ついで反応系より酸化カーボンブラックを分離捕集するにあたり有機溶剤で洗浄することを特徴とする酸化カーボンブラックの製造方法が、また、特開昭57−159856号公報にはカーボンブラックを低温酸化プラズマ処理することを特徴とする水分散性改質カーボンブラックの製造方法が開示されている。
【0004】
水分散性に優れたカーボンブラックは水性顔料インキとして有用されており、筆記具をはじめ、特に近年ではインキジェットプリンター用の記録液などとしても注目されている。易水分散性カーボンブラックを用いた水性インキとして、例えば、特開平8−3498号公報には水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インキにおいて、該カーボンブラックが1.5mmol/g以上の表面活性水素含有量を有する水性顔料インキ、及び、水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インキの製造方法において、(a) 酸性カーボンブラックを得る工程と、(b) 前記酸性カーボンブラックを水中で次亜ハロゲン酸塩で更に酸化する工程とを、包含する水性顔料インキの製造方法が提案されている。また、特開平8−319444号公報には吸油量100ml/100g 以下のカーボンブラックを水性媒体中に微分散する工程;及び次亜ハロゲン酸塩を用いて該カーボンブラックを酸化する工程;を包含する水性顔料インキの製造方法が開示されている。
【0005】
上記の特開平8−3498号公報及び特開平8−319444号公報ではカーボンブラックを酸化して、表面に親水性の官能基である活性水素を多く含有させることにより水分散性が良好で、長期間の分散安定性に優れた水性顔料インキを得るものである。しかしながら、カーボンブラックが水中に分散して安定な分散状態を維持するためにはカーボンブラック粒子表面と水分子との接触界面に存在する親水性の官能基量が大きく機能し、単にカーボンブラック単位重量当たりに存在する官能基量を規制するのみでは分散性の良否を的確に判断することは困難である。
【0006】
そこで、本発明者らは分散性能の良否を的確に判断する新たな指標としてカーボンブラック単位表面積当たりに存在する親水性の水素含有官能基量に着目して研究を進め、表面に存在する水素含有官能基のうちカルボキシル基とヒドロキシル基の総和量が、単位表面積当たり3μeq/m2以上である易水分散性カーボンブラック、及びその製造方法を開発、提案した(特開平11−148027号公報)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、引き続き易水分散性カーボンブラックについて研究を進め、これらの易水分散性カーボンブラックを黒色顔料として用いた水性インキ、例えばバブルジェットなどのプリンター用インキとして好適なカーボンブラック顔料の開発に成功した。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、普通紙、専用紙、OHPシート、アート紙などに印字する場合に、紙定着濃度、印字品位、吐出安定性、耐光性、保存安定性などに優れた水性インキ用のカーボンブラック顔料を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の水性インキ用カーボンブラック顔料は、窒素吸着比表面積(N2SA)が160〜200m2/g、沃素吸着量(IA)が140〜190mg/g、N2 SA/IAの値が0.96〜1.20、CTAB比表面積が140〜170m2/g、DBP吸油量が100〜140ml/100g 、24M4DBP吸油量が90〜110ml/100g 、着色力(Tint)が120以上、のカーボンブラックであって、X線光電子分光法により測定した全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)が0.1以上であることを構成上の特徴とする。
【0010】
また、本発明の水性インキ用カーボンブラック顔料は、上記の特性を備えたカーボンブラックであって、アグリゲートのストークス相当径分布のモード径Dstが50〜70nm、同分布における半値幅ΔDstが60nm以下、アグロメレートの平均粒径Dupa50%の値が60〜110nm、アグロメレートの最大粒径Dupa99%の値が250nm以下の粒子性状を有することを構成上の特徴とする。
但し、Dstは遠心沈降法(DCF) により測定されるアグリゲートのストークス相当径分布における最大頻度のストークス相当径、ΔDstは同ストークス相当径分布の半値幅、また、Dupa50%はカーボンブラックの水分散液にレーザー光を照射し、散乱光の周波数変調度合から作成したアグロメレート粒径の累積度数分布曲線における50%累積度数の値を、Dupa99%は同分布曲線における99%累積度数の値を示す。
【0011】
【発明の実施の形態】
上記のようにカーボンブラックの特性範囲を規制するのは、N2 SAが160m2/g未満であると水性インキとした場合に沈殿残渣率が増大して、濾過性、吐出安定性が著しく低下し、200m2/gを越えると印字した際の紙定着濃度が低くなるためである。また、N2 SA/IAの値が0.96未満であるとカーボンブラックの揮発分(表面官能基)が少なく、酸化剤水溶液との濡れ性が悪くなって分散性が低下する。しかしN2 SA/IAの値が1.20を越えるとカーボンブラックの未燃分が多く酸化剤水溶液との濡れ性に支障を来し、酸化が充分に行われず分散性が低下する。
【0012】
CTAB比表面積が140m2/g未満であると液−固界面の面積が小さくなり、濾過性、沈殿残渣率に問題を生じ、また170m2/gを越えると液−固界面の面積が大きくなり分散性が不充分になる。DBP吸油量が100ml/100g 未満であると印字濃度が薄くなり、140ml/100g を越えると沈殿残渣率が増加し、濾過性が低下する。24M4DBPが90ml/100g 未満であると印字濃度が低下し、110ml/100g を越えると沈殿残渣率が増加して、濾過性、保存安定性が不良になる。Tint が120未満であると粒度分布がブロードなため、濾過性、沈殿残渣率が不良になる。
【0013】
本発明のカーボンブラック顔料は、これらの特性範囲に加えて、その表面に存在する官能基量として、X線光電子分光法により測定した全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)の値が0.1以上である点を特徴としている。XPSやESCAなどのX線光電子分光法により測定される酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度比(原子比)が、0.1未満であると、水などの極性溶媒に対する自己分散性が著しく低下し、水性インキとした場合に保存安定性が極めて悪化する。なお、この強度比の調節は酸化処理によりカーボンブラック粒子表面を化学的に酸化反応させ、化学修飾することにより親水性官能基を付与することにより行われる。
【0014】
酸化処理は、例えば次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過硫酸塩、過硼酸塩、過炭酸塩などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの酸化剤水溶液中にカーボンブラックを添加して酸化することにより行われ、酸化剤水溶液の濃度、カーボンブラックの添加量、反応温度、反応時間などを適宜に制御して、全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)が0.1以上となるように処理される。
【0015】
更に、本発明の水性インキ用カーボンブラック顔料は、上記の特性を備えたカーボンブラックであって、アグリゲートのストークス相当径分布のモード径Dstが50〜70nm、同分布における半値幅ΔDstが60nm以下、アグロメレートの平均粒径Dupa50%の値が60〜110nm、アグロメレートの最大粒径Dupa99%の値が250nm以下の粒子性状を有することがより好ましい。
【0016】
アグリゲートのストークス相当径分布のモード径Dstが50nm未満であると水分散状態でのアグロメレート粒径が小さくなって、黒色度が低下し、一方、70nmを越えると黒色度は向上するが沈殿残渣率が増加して、濾過性が低下する。また、半値幅ΔDstが60nmを越えると粒径分布がブロードになり、黒色度、沈殿残渣率が増加し、濾過性が不良になる。
【0017】
また、アグロメレートの平均粒径Dupa50%の値を60〜110nm、アグロメレートの最大粒径Dupa99%の値を250nm以下の粒子性状とするのは、Dupa50%の値が60nm未満であると紙繊維の隙間からカーボンブラックが通過し、紙定着濃度が低下する。一方110nmを越えると黒色度は向上するが、濾過性および沈殿残渣率が悪化するためである。また、Dupa99%の値が250nmを越えると沈殿残渣率が増大して、吐出安定性および濾過性の低下が著しくなる。
【0018】
なお、このアグロメレートの平均粒径Dupa50%、最大粒径Dupa99%は、下記の測定方法によって得られた値が用いられる。
カーボンブラックを水に分散して0.1〜0.5g/l の分散液を調製し、ヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、UPA mode19340)を用いて分散液にレーザー光を照射して、散乱光の周波数変調の度合いから分散液中のアグロメレートの粒径を測定する。分散液中のカーボンブラックはブラウン運動しており、ドップラー効果によって分散しているカーボンブラック凝集体の大きさにより散乱光の周波数が変調する。したがって、凝集体の大きさによるブラウン運動の激しさが異なることから、水中に分散している状態における凝集体の大きさ、すなわちアグロメレートの粒径を測定することができる。このようにして測定したアグロメレート粒径からその累積度数分布曲線を作成し、50%累積度数の値をアグロメレートの平均粒径Dupa50%(nm)、99%累積度数の値をアグロメレートの最大粒径Dupa99%(nm)とする。
【0019】
これらの特性を備えたカーボンブラックを黒色顔料として、水などの水性媒体中に所望の濃度で分散させることにより水性インキが得られる。すなわち、カーボンブラックを分散させた水分散液のpHを6〜11に調節し、電気透析あるいは分離膜(逆浸透膜、限外濾過膜、ルーズ R.Oなど)で残塩を分離精製する。なお、カーボンブラック分散液中の残塩濃度はカーボンブラック含有濃度を20%として導電度が5mS/cm 未満となるように分離精製することが好ましい。また、水性インキとして分散安定性を図るために、はカーボンブラック顔料を60wt%以下の濃度に調整することが望ましい。
【0020】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
【0021】
実施例1〜3、比較例1〜4
表1に示す特性のカーボンブラック100g を濃度2.2Nの過硫酸ソーダ水溶液3000mlに添加し、反応温度60℃、反応時間10時間、攪拌速度300rpm で酸化処理した。次いで、濾別したカーボンブラックを純水中に分散させて水酸化ナトリウム水溶液で中和し、限外濾過膜により精製処理して残存する塩を分離したのち、濾過してカーボンブラックを分離し、水洗乾燥してカーボンブラック顔料の試料を作製した。これらのカーボンブラック試料について酸素結合エネルギー強度と炭素結合エネルギー強度をSurface Science Instruments 社製 S-Prove ESCA 2803型により測定し、全炭素原子と全酸素原子との原子比を表1に併記した。
【0022】
比較例5
オゾンにより酸化処理したほかは、実施例と同じ方法によりカーボンブラック試料を作製し、その結合エネルギーを測定して、全炭素原子と全酸素原子との原子比を表1に併記した。
【0023】
【表1】
Figure 0003749406
【0024】
次に、これらのカーボンブラック試料を顔料として純水中に20重量%の濃度で分散させて水性インキを調製し、下記の方法により分散性能及びインキ性能を評価した。得られた結果を表2に示した。
【0025】
▲1▼加温安定性;
サンプルを密閉容器に詰め、70℃の保温器中にて1週間から4週間の粘度変化を測定して、加温時の分散安定性を比較した。なお、粘度は回転振動式粘度計〔山一電機(株)製、VM-100A-L 〕により測定した。
【0026】
▲2▼粒子径測定;
サンプル及び加温安定性の試験を行ったサンプルの粒子径についてヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置〔マイクロトラック社製、UPA model 9340〕を用いて測定した。この測定装置は、懸濁液中においてブラウン運動している粒子にレ−ザ光を当てると、ドップラー効果により散乱光の周波数が変調する。その周波数の変調度合いからブラウン運動の激しさ、すなわち粒子径を測定するものである。
【0027】
▲3▼印字濃度;
水性インキのカーボンブラック分散濃度を4重量%に希釈し、コピー紙としてXEROX 4024紙を使用し、これに#6バーコーダにより印字して、マクベス濃度計〔コルモーゲン社製 RD-927 〕を用いて光学濃度を測定した。
【0028】
▲4▼濾過性;
水性顔料インキ200g を90φの濾紙(NO.2)及び膜孔径 3μm 、0.8 μm 、0.65μm 、0.45μm のフィルターを用いて20Torrの減圧下で濾過試験を行い通過量を測定した。
【0029】
▲5▼沈殿残渣率;
水性黒色インキを20000Gの重力加速度で30分間遠心分離処理を行った後の沈殿残渣量(M1)と、遠心分離処理前のカーボンブラックの重量(M0)との重量比(M1/M0) を沈殿残渣率とした。この値が低いほど分散安定性は良好になる。
【0030】
【表2】
Figure 0003749406
【0031】
表1、2の結果から、実施例のカーボンブラック顔料を分散させて調製した水性インキは、優れた保存安定性、濾過性、紙定着濃度、沈殿残渣率を兼ね備えているが、比較例1はIA、N2 SA、CTAB、DBP、24M4DBP、Dstも小さいため濾過性、保存安定性、沈殿残渣率は良好であるが、紙定着濃度が著しく低い。比較例2はIA、N2 SA、CTABが範囲外であるため保存安定性、紙定着濃度は良好であるが、濾過性、沈殿残渣率が不良になる。更に、比較例3はDBP、24M4DBPが範囲より小さいため保存安定性、濾過性は良好であるが、紙定着濃度が著しく低下する。比較例4はIA、N2 SA、CTABが範囲より小さいため保存安定性、紙定着濃度は良好であるが、濾過性、沈殿残渣率が不良になる。比較例5はカーボンブラックの特性は範囲に適合しているが、全炭素原子と全酸素原子との比が小さいため初期粘度が高く、保存安定性が著しく不良である。
【0032】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明の水性インキ用カーボンブラック顔料によれば、相反する紙定着濃度と濾過性を両立し、更に、長期に亘り安定した分散性を示す水性インキを得ることができる。したがって、インキジェットプリンター用の水性インキをはじめとする水性インキ用の黒色顔料として極めて有用である。

Claims (2)

  1. 窒素吸着比表面積(N2SA)が160〜200m2/g、沃素吸着量(IA)が140〜190mg/g、N2 SA/IAの値が0.96〜1.20、CTAB比表面積が140〜170m2/g、DBP吸油量が100〜140ml/100g 、24M4DBP吸油量が90〜110ml/100g 、着色力(Tint)が120以上、のカーボンブラックであって、X線光電子分光法により測定した全炭素原子と全酸素原子との原子比(酸素結合エネルギーの強度/炭素結合エネルギーの強度)が0.1以上であることを特徴とする水性インキ用カーボンブラック顔料。
  2. アグリゲートのストークス相当径分布のモード径Dstが50〜70nm、同分布における半値幅ΔDstが60nm以下、アグロメレートの平均粒径Dupa50%の値が60〜110nm、アグロメレートの最大粒径Dupa99%の値が250nm以下の粒子性状を有する、請求項1記載の水性インキ用カーボンブラック顔料。
    但し、Dstは遠心沈降法(DCF) により測定されるアグリゲートのストークス相当径分布における最大頻度のストークス相当径、ΔDstは同ストークス相当径分布の半値幅、また、Dupa50%はカーボンブラックの水分散液にレーザー光を照射し、散乱光の周波数変調度合から作成したアグロメレート粒径の累積度数分布曲線における50%累積度数の値を、Dupa99%は同分布曲線における99%累積度数の値を示す。
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