JP4024468B2 - 水性黒色インキ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水中への分散性能に優れたカーボンブラックを黒色顔料として用いた、例えばサインペン、筆ペン、塗料、スタンプなどに好適に使用される水性黒色インキに関する。
【0002】
【従来の技術】
水性黒色インキには、従来から黒色染料を水に溶解した水性染料インキが使用されてきたが耐候性や耐水性が充分でなく、また黒色度も低いために、近年、黒色顔料としてカーボンブラックを用いた水性黒色インキが開発されている。しかしながら、カーボンブラックは水への分散性が低いためにカチオン系界面活性剤などの分散剤を添加しているが、分散性の改善効果は充分でなく、また界面活性剤の添加による発泡現象や貯蔵中にゲル化などが生じる難点がある。
【0003】
カーボンブラックは疎水性で水に対する濡れ性が低いために水中に高濃度で安定に分散させることは極めて困難であるが、これはカーボンブラック表面に存在する水分子との親和性が高い官能基が極めて少ないことに起因する。そこで、カーボンブラックの水分散性を改良するためにカーボンブラックを酸化処理して表面に親水性の官能基を形成する方法が古くから知られている。
【0004】
例えば、特開昭48−18186号公報にはカーボンブラックを次亜ハロゲン酸塩水溶液で酸化処理する方法が、特公昭52−2874号公報には遊離酸素およびオゾンと接触させて酸化処理する方法が、特開昭57−15856号公報には低温酸素プラズマによって酸化処理する方法などが開示されている。
【0005】
水性黒色インキは各種筆記具用をはじめ、特に近年ではインクジェットプリンター用の記録液などとして注目されており、特開平8−3498号公報には水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インキにおいて、該カーボンブラックが1.5mmol/g以上の表面活性水素含有量を有する水性顔料インキ、及び、水とカーボンブラックとを含有する水性顔料インキの製造方法において、(a) 酸性カーボンブラックを得る工程と、(b) 前記酸性カーボンブラックを水中で次亜ハロゲン酸塩で更に酸化する工程とを、包含する水性顔料インキの製造方法が開示されている。また、特開平8−319444号公報には吸油量100ml/100g 以下のカーボンブラックを水性媒体中に微分散する工程;及び次亜ハロゲン酸塩を用いて該カーボンブラックを酸化する工程;を包含する水性顔料インキの製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、カーボンブラックが水中に分散して安定な分散状態を維持するためには、カーボンブラック粒子表面と水分子との接触界面に存在する親水性の官能基量(接触界面の単位面積当たりの官能基量)が大きく影響する。そこで、本出願人は、酸化処理により改質されたカーボンブラックであって、表面に存在する水素含有官能基のうちカルボキシル基とヒドロキシル基の総和量が、単位表面積当たり3μeq/m2以上である易水分散性カーボンブラックおよびその製造方法(特開平11−148027号公報)、窒素吸着比表面積(N2SA)が80m2/g以上、DBP吸油量が70 ml/100g以下のカーボンブラックを酸化処理したカーボンブラックであって、アグリゲートのストークスモード径Dst(nm)とアグロメレートの平均粒径Dupa(nm) との比Dupa /Dstの値が1.5〜2.0の特性を備える易水分散性カーボンブラック(特開平11−148026号公報)、などを開発、提案している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、これらの易水分散性カーボンブラックをベースに、水分散性能に優れたカーボンブラックを黒色顔料とする水性黒色インキについて開発研究を進め、水中への分散性を向上するとともに安定な分散状態が維持され、また高度の黒色度を有し、例えば、サインペン、筆ペン、塗料、スタンプなどに好適に使用することのできる水性黒色インキを開発した。すなわち、本発明の目的は、水中への分散性に優れ、高い黒色度を備えたカーボンブラックを黒色顔料として用いた水性黒色インキを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明による水性黒色インキは、窒素吸着比表面積(NSA)が30〜292/g、DBP吸収量が65〜168cm/100g、比着色力(Tint)が50〜158%、表面官能基のうちカルボキシル基とヒドロキシル基の合計が3.2〜3.5μeq/m、水分散体中におけるアグロメレートの最大粒径Dupa99%が350〜480nmのカーボンブラックを水中に分散させ、分散液のpHが5.0〜9.0に調整されたことを構成上の特徴とする。
ただし、アグロメレートの最大粒径Dupa99%は、カーボンブラックの水分散液にレーザー光を照射して、散乱光の周波数変調度合から作成したアグロメレート粒径の累積度数分布曲線における99%累積度数の値を示す。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に適用されるカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N2SA)が30〜300m2/g、DBP吸収量が50〜200cm3/100g、比着色力(Tint)が40〜160%の特性を有することが必要である。窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラックを水中に分散させた場合に水分子と接触する界面の面積に関与し、窒素吸着比表面積(N2SA)が小さいと水中におけるカーボンブラック単位重量当たりの水分子との接触界面も小さくなるため、水分散性が低下する。しかし、窒素吸着比表面積(N2SA)が大きくなるとカーボンブラック粒子の一次粒子径が小さくなるため印字した際の紙定着濃度が低下して印字濃度が損なわれることになる。
【0010】
DBP吸収量は、カーボンブラックのストラクチャーを示す特性であり、この値が小さいと黒色インキとして印字した際の黒色度(漆黒度)が低く、一方、この値が大きくなるとカーボンブラックの凝集単位も大きくなるので、水中において凝集沈降し易くなり、保存安定性および分散安定性が低下することになる。
【0011】
すなわち、窒素吸着比表面積(N2SA)が30m2/g、DBP吸収量が50cm3/100gを下回ると水分散性が低下する。一方、窒素吸着比表面積(N2SA)が300m2/g、DBP吸収量が200cm3/100gを越える場合には、水中における保存安定性が低下するとともに充分な黒色度(漆黒度)が得られない。
【0012】
また、比着色力(Tint)はカーボンブラックの粒子径(比表面積)やストラクチャー(DBP吸収量)、更にアグリゲート径などに関連した特性であり、水中への分散性および黒色インキとしての黒色度(漆黒度)を得るために、40〜160%の範囲に設定される。なお、これらの窒素吸着比表面積(N2SA)、DBP吸収量、比着色力(Tint)はJIS K6217(1997)「ゴム用カーボンブラックの基本性能の試験法」により測定した値である。
【0013】
更に、水中への分散性を向上させるためにはカーボンブラック粒子表面に水分子との親和性が高い官能基を存在させることが有利である。本発明の水性黒色インキに用いるカーボンブラックは、カーボンブラック粒子表面に存在する官能基のうち、水への分散性に大きく機能するカルボキシル基(−COOH)およびヒドロキシル基(−OH)の合計量を3μeq/m2 以上に設定することにより水分散性の向上を図るものである。この値が3μeq/m2 を下回る場合には親水性の官能基量が少ないために分散性が低下し、更に水分散体中においてカーボンブラック粒子が二次凝集を起こして沈降し安定な分散状態を維持することが困難となる。
【0014】
なお、カーボンブラック粒子の表面官能基はカーボンブラックを酸化処理することにより形成することができ、酸化処理は酸素、オゾンなどによる乾式酸化、ハロゲン酸、過硫酸、過硼酸、過炭酸、およびその塩類などの水溶液による湿式酸化、など通常の方法により行うことができる。例えば、湿式酸化処理は適宜濃度の酸化剤水溶液中にカーボンブラックを入れ、攪拌しながら温度、時間などを調整することにより処理される。
【0015】
これらの表面官能基は下記の方法により測定される。
▲1▼カルボキシル基;
0.976N炭酸水素ナトリウム50ml中にカーボンブラック2〜5g を添加して6時間振盪した後、カーボンブラックを反応液から濾別し、濾液に0.05N塩酸水溶液を加えたのち、pHが7.0になるまで0.05N水酸化ナトリウム水溶液にて中和滴定試験を行ってカルボキシル基を測定する。この測定値をカーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA;m2/g) で除した値を、カーボンブラックの単位表面積当たりに形成されたカルボキシル基量 (μeq/m2)とする。
【0016】
▲2▼ヒドロキシル基;
2、2′-Diphenyl-1-picrylhydrazyl(DPPH)を四塩化炭素中に溶解して濃度5×10-4mol/l の溶液を作成し、該溶液にカーボンブラックを0.1〜0.6g 添加し、60℃の恒温槽中で6時間攪拌する。その後、反応液からカーボンブラックを濾別し、濾液を紫外線吸光光度計によりヒドロキシル基を測定する。このようにして測定した値をカーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA;m2/g) で除した値を、カーボンブラックの単位表面積当たりに形成されたヒドロキシル基量 (μeq/m2)とする。
【0017】
本発明の水性黒色インキの黒色顔料に用いるカーボンブラックは、上記の特性を備えたカーボンブラックを水に分散させた場合、この水分散体中におけるアグロメレートの最大粒径Dupa99%の値が150〜500nmの凝集性状を示すことが必要である。
【0018】
カーボンブラックを水中に分散させる場合、水中への分散が容易で、その分散状態を安定に維持するためには、カーボンブラック粒子がより微細な凝集形態で水中に分散し、かつ再凝集して大きな凝集形態を形成し難いことが必要である。すなわち、カーボンブラックの凝集形態は、数個から数十個の基本微粒子が不規則で複雑な鎖状に融着結合して凝集体(アグリゲート)を形成し、更にこれらのアグリゲートが相互に絡み合ったり、付着して再凝集した集合体(アグロメレート)から構成されている。
【0019】
したがって、水中に分散したカーボンブラックの凝集形態としては、カーボンブラックの最小凝集単位であるアグリゲートの状態で水中に分散し、アグリゲートが再凝集した集合体であるアグロメレートがより少ない分散状態が、分散安定性などの分散性能を向上させるために有効であり、アグロメレートが存在しない分散状態が理想的なものとなる。しかしながら、複雑な三次元形態を示すアグリゲートは絡み合って再凝集し易く、アグロメレートの存在しない分散状態を得ることは不可能に近い。
【0020】
そこで、本発明はカーボンブラック粒子の凝集形態として、水中におけるアグロメレートの最大粒径Dupa99%の値を150〜500nmの範囲に設定するものである。すなわち、最大粒径Dupa99%が500nmを上回ると、水中において大きな凝集体を形成し易く、さらに沈降して分散安定性が損なわれることになる。しかし、最大粒径Dupa99%が150nmを下回ると、黒色インキとして印字した際に充分な黒色度(漆黒度)を得ることができなくなる。
【0021】
なお、アグロメレートの最大粒径Dupa99%(nm)は、下記の方法によって測定される。
カーボンブラックを水に分散して0.1〜0.5g/l の分散液を調製し、ヘテロダインレーザドップラー方式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、UPA model 9340) を用いて分散液にレーザー光を照射して、散乱光の周波数変調の度合いから分散液中のアグロメレートの粒径を測定する。分散液中のカーボンブラックはブラウン運動しており、ドップラー効果によって分散しているカーボンブラック凝集体の大きさにより散乱光の周波数が変調する。したがって、凝集体の大きさによるブラウン運動の激しさが異なることから、水中に分散している状態における凝集体の大きさ、すなわちアグロメレートの粒径を測定することができる。このようにして測定したアグロメレート粒径からその累積度数分布曲線を作成し、99%累積度数の値をアグロメレートの最大粒径Dupa99%(nm)とする。
【0022】
本発明の水性黒色インキは、これらの特性を備えたカーボンブラックを黒色顔料として水中に分散させ、良好な分散状態を維持するために、そのpHを5.0〜9.0の範囲に調整する。pHの調整は、アンモニアや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属塩や、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの水溶性アルカノールアミンなどの適量を添加することにより行うことができる。なお、水性黒色インキ中のカーボンブラック濃度は60wt%以下、好ましくは15〜30wt%の範囲で分散させる。
【0023】
これらの特性を備えたカーボンブラックを黒色顔料として、水中に分散させることにより本発明の水性黒色インキが得られる。そして、このカーボンブラックの有する優れた水分散性により、水性黒色インキ中のカーボンブラックは長期に亘って安定な分散状態を維持することができ、また黒色インキとして印字した際の黒色度(漆黒度)も高く、高性能の水性黒色インキが提供される。
【0024】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
【0025】
実施例1〜4、比較例1〜7
窒素吸着比表面積(N2SA)、DBP吸収量、比着色力(Tint)が異なるカーボンブラックを、2N過硫酸ナトリウム水溶液中に異なる量比で添加し、60℃の温度で時間を変えて攪拌混合し、酸化処理した。次いで、室温に冷却後蒸留水で限外濾過膜により洗浄し、水酸化ナトリウムで中和したのち、蒸発乾固して表面官能基量の異なるカーボンブラック試料を作製した。次に、これらのカーボンブラック試料を純水中に20wt%の濃度で分散させてpHを調整するとともに、アグロメレートの最大粒径Dupa99%を測定した。ただし、比較例7は、カーボンブラック試料に代えて、黒色染料(住友化学工業製、ダイレクトペーパーブラックB)を使用した。
【0026】
このようにして作製した水性黒色インキについて、下記の方法によりインキ性能を評価した。
▲1▼保存安定性;
温度70℃で1ヶ月保存後の粘度上昇の有無を評価した。
【0027】
▲2▼分散安定性;
純水中のカーボンブラック分散濃度を4wt%に調整し、5000Gの重力加速度で遠心分離処理を行ったのち、下記式からの算出値により分散安定性を評価した。
〔(上部1/4容中の固形分量)/(下部1/4容中の固形分量)〕×100
カーボンブラックが全く沈降しない場合はこの算出値が100となり、沈降量が多いほど算出値が小さくなる。
【0028】
▲3▼黒色度;
純水中のカーボンブラック分散濃度を4wt%に調整し、繊維タイプのペンに充填して用紙に筆記し、マクベス濃度計を用いて測定した。
【0029】
▲4▼耐候性;
純水中のカーボンブラック分散濃度を4wt%に調整し、繊維タイプのペンに充填して記録紙に筆記したものに、キセノンランプを200時間照射した後の変退色を目視観察して、下記の基準で耐候性を評価した。
○…良好(変退色無し)、 ×…変退色有り
【0030】
このようにして得られた結果を、表1に示した。
【0031】
【表1】
Figure 0004024468
【0032】
表1の結果から、実施例の水性黒色インキは70℃で1ヶ月保存後においても粘度の上昇は認められず、また、分散安定性も高く、更に、筆記物の黒色度および耐候性も優れていることが認められる。これに対して、表面官能基量(カルボキシル基とヒドロキシル基の合計量)が少なく、アグロメレートの最大粒径Dupa99%が大きい比較例1、2では分散安定性に劣ることが判る。また、pHが外れる比較例3、4、あるいは、窒素吸着比表面積(N2SA)が小さい比較例5では、分散性が低下し、70℃で1ヶ月保存後においては粘度の上昇が認められ、保存安定性に問題があることが判る。更に、比較例4、5では筆記物の黒色度も劣ることが判る。また、窒素吸着比表面積(N2SA)が大きい比較例6では、黒色度が低く保存安定性に劣ることが判る。なお、カーボンブラックに代えて黒色染料を用いた比較例7では、黒色度、耐候性に問題があることが認められる。
【0033】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明の水性黒色インキは、特性範囲を規制するとともに水中における分散状態を特定したカーボンブラックを、黒色顔料として水中に分散させたものであり、優れた水分散性と高度の黒色度を有している。したがって、例えばサインペン、筆ペン、塗料、スタンプなどに好適に使用される水性黒色インキとして極めて有用である。

Claims (1)

  1. 窒素吸着比表面積(NSA)が30〜292/g、DBP吸収量が65〜168cm/100g、比着色力(Tint)が50〜158%、表面官能基のうちカルボキシル基とヒドロキシル基の合計が3.2〜3.5μeq/m、水分散体中におけるアグロメレートの最大粒径Dupa99%が350〜480nmのカーボンブラックを水中に分散させ、分散液のpHが5.0〜9.0に調整されたことを特徴とする水性黒色インキ。
    ただし、アグロメレートの最大粒径Dupa99%は、カーボンブラックの水分散液にレーザー光を照射して、散乱光の周波数変調度合から作成したアグロメレート粒径の累積度数分布曲線における99%累積度数の値を示す。
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