JP4204232B2 - 有機−無機複合傾斜膜およびその用途 - Google Patents

有機−無機複合傾斜膜およびその用途 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機−無機複合傾斜膜及びその用途に関する。さらに詳しくは、本発明は、有機高分子化合物と、配位結合可能な金属の酸化物系化合物とを含み、かつ膜中の金属成分の含有率が膜の厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有し、機能性膜として各種用途に有用な有機−無機複合傾斜膜、該複合傾斜膜形成用コーティング剤および該複合傾斜膜を表面に有する構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、有機高分子材料の性能、機能に関する要求の多様化に伴い、単一の高分子化合物では満足させることが困難となり、高分子化合物に異なる性質をもつ異種材料を加え、複合化することが行われている。
例えば、強化材を有機高分子材料中に分散させることによる物性改質が広く行われており、具体的には、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミックス繊維、アラミド繊維などの有機や無機の繊維状物質、あるいは炭酸カルシウム、シリカ、アルミナなどの粉末状の無機フィラーなどを添加し、均質に分散させることが行われている。
【0003】
また、異種の高分子化合物を混合し、場合により相溶化剤を介して相溶化させ、ポリマーアロイ化することにより、新しい機能を発現させる研究も盛んに行われている。
一方、最近、材料の組成を少しずつ変化させ、表と裏で性質が全く異なる複合材料である傾斜機能材料が注目され、例えばセラミックスの耐熱性と金属の強度を併せもつ金属−セラミックス複合傾斜機能材料が超音速航空機の機体材料などとして開発されている。
【0004】
このような傾斜機能材料は、無機傾斜材料、有機傾斜材料および有機−無機複合傾斜材料に分類され、そして、複数の材料、例えば複数の異種の無機材料同士、複数の異種の有機材料同士、あるいは1種以上の有機材料と1種以上の無機材料を混合し、場所によって異なる分布密度、配向などを制御することで、複数の成分材料の物性を発現させうることから、例えば宇宙・航空分野、自動車分野、エレクトロニクス分野、医療分野、エネルギー分野、さらには放射線や電磁波のシールド分野などにおける利用が期待される。
【0005】
本発明者らは、先に、新規な機能性材料として種々の用途、例えば塗膜や、有機材料と無機または金属材料との接着剤、有機基材と光触媒塗膜との間に設けられ、有機基材の劣化を防止する中間膜や、有機基材と無機系または金属系材料層との密着性を向上させる中間膜などの用途に有用な、厚さ方向に組成が連続的に変化する有機−無機複合傾斜材料を見出した(特願平11−264592号)。
【0006】
この有機−無機複合傾斜材料は、有機高分子化合物と金属系化合物との化学結合物を含有する有機−無機複合材料であって、該金属系化合物の含有率が材料の厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有し、上記の各種用途に極めて有用な新規な材料である。
【0007】
上記有機−無機複合傾斜材料は、分子中に金属酸化物との共有結合が可能なカップリング基(加水分解性金属含有基)を有する有機高分子化合物と、加水分解により金属酸化物を形成し得る金属化合物とを含む混合液の加水分解処理物からなる塗布液を、有機基材上に塗布することにより形成される。
【0008】
しかしながら、上記塗布液の調製においては、通常該有機高分子化合物は有機溶剤溶液の形で用いられ、かつ反応性のカップリング基を有するため、長期間(例えば1年間以上)保存した場合に、溶剤中の水分によって、分子内または分子間で、該カップリング基同士の縮合が起こりやすい。その結果、有機高分子化合物の分子量、溶剤中での形態および有機基材への吸着特性などが変化し、傾斜性や中間膜などとしての機能が十分に発揮されにくいという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、長期間保存しても、傾斜性や中間膜などとしての機能を十分に発揮し得る有機高分子化合物溶液を用いて形成された、機能性膜として各種用途に有用な有機−無機複合傾斜膜及びその用途を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
分子内に、カップリング基である加水分解性金属含有基を有しない有機高分子化合物溶液と、加水分解性であって、配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解処理液とを含む塗布液を、有機基材上に塗布し、加熱乾燥処理することにより、有機−無機複合傾斜膜が得られること、そして、上記有機高分子化合物溶液は、長期間保存しても、傾斜性や中間膜などとしての機能を十分に発揮し得る複合膜を与えることを見出した。
【0011】
また、上記の加水分解性金属化合物として、加水分解性であって、ケイ素原子などの配位結合しない金属の化合物を用いる場合には、得られる複合膜は、有機高分子化合物溶液の保存期間に関係なく、傾斜性が発現されにくいことを見出した。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである
【0013】
すなわち、本発明は、
【0014】
(1)カップリング基である加水分解性金属含有基を有しない有機高分子化合物と金属酸化物系化合物を含み、かつ膜中の金属酸化物系化合物成分の含有率が、膜表面から深さ方向に連続的に減少する成分傾斜構造を有する有機−無機複合傾斜膜を製造する方法であって、
(A)一般式(I−1−a)
【化3】
Figure 0004204232
(式中、R は水素原子またはメチル基、R は炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体を1種以上重合させて得られた有機高分子化合物を含む有機溶剤溶液と、(B)一般式(II)
MR m ・・・(II)
(式中、Mはチタン、ジルコニウムまたはアルミニウムからなる金属原子、R 2 は加水分解性基、mは金属原子Mの価数を示し、複数のR 2 はたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表される配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解処理液とを含む塗布液を調製したのち、有機基材上に塗布し、加熱乾燥処理することにより、有機−無機複合傾斜膜として、
前記有機高分子化合物が、一般式(I−1−a)
【化4】
Figure 0004204232
(式中、R は水素原子またはメチル基、R は炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体を1種以上重合させて得られたものであり、かつ前記金属酸化物系化合物が、一般式(II)
MR 2 m ・・・(II)
(式中、Mはチタン、ジルコニウムまたはアルミニウムからなる金属原子、R 2 は加水分解性基、mは金属原子Mの価数を示し、複数のR 2 はたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表される配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解縮重合物であり、
膜の厚みが0.01〜1.0μmである
有機−無機複合傾斜膜を得る
ことを特徴とする有機−無機複合傾斜膜の製造方法、
【0015】
(2)金属酸化物系化合物が、テトラアルコキシチタンの加水分解縮重合物である上記(1)項に記載の有機−無機複合傾斜膜の製造方法、および
【0016】
(3)複合傾斜膜が有機基材への当接面を有し、該当接面が、実質上有機高分子化合物成分からなり、かつもう一方の開放系面が、実質上金属酸化物系化合物成分からなる上記(1)または(2)項に記載の有機−無機複合傾斜膜の製造方法
【0017】
提供するものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の有機−無機複合傾斜膜は、有機基材上に形成された有機高分子化合物と金属酸化物系化合物を含む複合膜であり、かつ膜中の金属酸化物系化合物成分の含有率が、膜表面から深さ方向に連続的に減少する成分傾斜構造を有している。
【0019】
このような成分傾斜構造の確認は、例えば、有機基材上に設けた有機−無機複合傾斜膜表面に、スパッタリングを施して膜を削っていき、経時的に膜表面の炭素原子と金属原子の含有率を、X線光電子分光法などにより測定することによって、行うことができる。具体的に例を挙げて説明すると、図1は、後述の実施例1において、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に設けられた厚さ70nmの有機−無機複合膜(金属原子として、チタン原子を含む)における、スパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフであって、この図から分かるように、スパッタリングを施す前の膜表面は、ほぼ100%近くチタニアで占められているが、スパッタリングにより膜が削られていくに伴い、チタン原子の含有率が連続的に減少していくと共に、炭素原子の含有率が増加し、有機成分が現れ、スパッタリング時間が約40分間を過ぎた時点から、膜表面はほぼ有機成分のみとなる。
【0020】
すなわち、この傾斜膜においては、膜中の金属酸化物系化合物からなる金属成分の含有率が、表面から基材方向に逐次減少していることが示されている。
このような傾斜膜における上記金属成分の含有量としては特に制限はないが、金属酸化物換算で、通常5〜98重量%、好ましくは20〜98重量%、特に好ましくは50〜90重量%の範囲である。有機高分子化合物の重合度や分子量としては、製膜化しうるものであればよく特に制限されず、高分子化合物の種類や所望の塗膜物性などに応じて適宜選定すればよい。
【0021】
本発明の有機−無機複合傾斜膜は、後述のエチレン性不飽和単量体を重合させて得られた有機高分子化合物と、後述の加水分解性であって、配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解縮重合物とを含むものであり、その膜厚は1μm以下、特に0.01〜1.0μmの範囲が、傾斜性および膜性能などの点から好適である。
【0022】
このような有機−無機複合傾斜膜は、以下に示す方法により、効率よく製造することができる。
まず、(A)一般式(I)
【0023】
【化6】
Figure 0004204232
(式中、R1は水素原子またはメチル基、Xは一価の有機基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体を1種以上重合させて得られた有機高分子化合物を含む有機溶剤溶液と、(B)一般式(II)
MR2m ・・・(II)
(式中、Mはチタン、ジルコニウムまたはアルミニウムからなる金属原子、R2は加水分解性基、mは金属原子Mの価数を示し、複数のR2はたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表される配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解処理液とを含む塗布液を調製する。
【0024】
上記(A)成分における有機高分子化合物の原料として用いられる一般式(I)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、一般式(I−1)
【0025】
【化7】
Figure 0004204232
(式中、R3は水素原子またはメチル基、R4は炭化水素基を示す。)
で表される化合物が好ましく、特に一般式(I−1−a)
【0026】
【化8】
Figure 0004204232
(式中、R5は水素原子またはメチル基、R6は無置換炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、あるいは上記一般式(I−1−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて添加される密着性向上剤としての一般式(I−1−b)
【0027】
【化9】
Figure 0004204232
(式中、R7は水素原子またはメチル基、R8はエポキシ基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体との混合物を挙げることができる。
【0028】
上記一般式(I−1−a)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R6で示される無置換炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0029】
この一般式(I−1−a)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
前記一般式(I−1−b)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R8で示されるエポキシ基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。上記置換基のハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子が好ましく、またアミノ基は遊離のアミノ基、モノアルキル置換アミノ基、ジアルキル置換アミノ基のいずれであってもよい。上記炭化水素基の具体例としては、前述の一般式(I−1−a)におけるR6の説明において例示した基と同じものを挙げることができる。
【0031】
前記一般式(I−1−b)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メルカプトエチル(メタ)アクリレート、3−メルカプトプロピル(メタ)アクリレート、2−メルカプトプロピル(メタ)アクリレート、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、4−ジメチルアミノベンジル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどを好ましく挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、前記一般式(I)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、これら以外にもスチレン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレン、m−、o−またはp−ブロモスチレン、m−、o−またはp−クロロスチレン、m−、o−またはp−ビニルフェノール、1−または2−ビニルナフタレンなども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
また、一般式(I−1−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と一般式(I−1−b)で表されるエチレン性不飽和単量体とを併用する場合は、前者のエチレン性不飽和単量体に対し、後者のエチレン性不飽和単量体を1〜100モル%の割合で用いるのが好ましい。
【0034】
本発明においては、(A)成分における有機高分子化合物は、前記のエチレン性不飽和単量体1種以上を、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル重合させることにより、得ることができる。
このようにして得られた有機高分子化合物を含む有機溶剤溶液における該有機溶剤としては、例えばアルコール、ケトン、エーテルなどの極性溶剤の中から選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0035】
一方、前記(B)成分における加水分解性金属化合物としては、一般式(II)
MR2m ・・・(II)
(式中、Mはチタン、ジルコニウムまたはアルミニウムからなる金属原子、R2は加水分解性基、mは金属原子Mの価数を示し、複数のR2はたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表される配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーが用いられる。
【0036】
上記一般式(II)において、R2で表される加水分解性基としては、アルコキシル基、塩素原子などのハロゲン原子、オキシハロゲン基、アセチルアセトネート基、イソシアネート基などを挙げることができるが、これらの中で、炭素数1〜6のアルコキシル基が好ましい。
【0037】
この一般式(II)で表される配位結合可能な金属の化合物としては、アルコキシル基の炭素数が1〜6のテトラアルコキシチタン、テトラアルコキシジルコニウム、トリアルコキシアルミニウムが好ましく、特にテトラアルコキシチタンが好適である。ここで、テトラアルコキシチタンの例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタンなどが、テトラアルコキシジルコニウムの例としては、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトライソブトキシジルコニウム、テトラ−sec−ブトキシジルコニウム、テトラ−tert−ブトキシジルコニウムなどが、トリアルコキシアルミニウムの例としては、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリ−イソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウムなどが挙げられる。これらの化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、その縮合オリゴマーを用いることができる。
【0038】
本発明においては(B)成分である配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解処理液の調製は、例えばアルコール、ケトンなどの適当な極性溶剤中において、上記金属化合物またはその縮合オリゴマーを、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などの酸、あるいは固体酸としてのカチオン交換樹脂を用い、通常0〜60℃、好ましくは20〜40℃の温度にて加水分解処理し、固体酸を用いた場合には、それを除去したのち、さらに、所望により溶剤を留去または添加し、濃度を調節することにより、行うことができる。
【0039】
塗布液の調製は、このようにして得られた(B)成分の加水分解処理液と、前記(A)成分の有機高分子化合物溶液とを混合することにより、行うことができる。該(A)成分の有機高分子化合物溶液は、調製直後のものを用いてもよいし、調製後、長期間、例えば1年以上保存したものも用いることができる。有機高分子化合物が、分子中にカップリング基である加水分解性金属含有基を有する場合には、その有機溶剤溶液を長期間保存した際に、溶剤中に含まれる水分によって、分子内または分子間で該カップリング基同士の縮合が起こりやすい。その結果、該有機高分子化合物の分子量、溶剤中での形態および有機基材への吸着特性などが変化し、傾斜性や中間膜などとしての機能が十分に発揮されにくくなる。
【0040】
また、前記(B)成分における金属化合物として、加水分解性であって、ケイ素原子などの配位結合しない金属の化合物を用いる場合には、得られる複合膜は、有機高分子化合物溶液の保存期間に関係なく、傾斜性が発現されにくい。
このようにして調製された塗布液における固形分濃度としては、該塗布液が塗布可能な粘度になるような濃度であればよく、特に制限はない。
【0041】
次に、このようにして得られた塗布液を用い、有機基材上に、乾燥塗膜の厚さが、通常1μm以下、特に中間膜用途として、好ましくは0.01〜1.0μm、より好ましくは0.02〜0.7μmの範囲になるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗膜を形成し、公知の乾燥処理、例えば40〜150℃程度の温度で加熱乾燥処理することにより、本発明の有機−無機複合傾斜膜が得られる。
【0042】
上記有機基材としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。
【0043】
これらの有機基材は、本発明の複合傾斜膜との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
【0044】
なお、本発明における有機基材は、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材の表面に、有機系塗膜を有するものも包含する。
このようにして得られた本発明の有機−無機複合傾斜膜においては、表面層はほとんど膜中の金属酸化物系化合物の含有率がほぼ100%であるが、基材方向に逐次減少していき、基材近傍ではほぼ0%になる。
【0045】
すなわち、本発明の有機−無機複合傾斜膜は、実質上、該複合膜の基材に当接している面が有機高分子系化合物成分であって、もう一方の開放系面が金属酸化物系化合物成分である。
本発明はまた、該有機−無機複合傾斜膜を有機基材上に形成させるコーティング剤をも提供するものである。
【0046】
このコーティング剤としては、前記(A)成分である有機高分子化合物溶液と、(B)成分である配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解処理液とを含む塗布液からなるものを挙げることができる。
【0047】
このコーティング剤は下記の用途に用いることができる。
まず、塗膜としての用途に用いられる。該有機−無機複合傾斜膜は、有機基材に対する接着性に優れており、かつ塗膜表面は金属酸化物の性質を有することから、例えば各種プラスチックフィルム上に該コーティング剤を用いてコート層を設けることにより、耐擦傷性や耐熱性などに優れると共に、密着性の良好なハードコートフィルムを得ることができる。
【0048】
次に、接着剤としての用途に用いられる。
本発明の複合傾斜膜は、前記したように有機基材との密着性に優れるとともに、表面は金属酸化物系化合物であるので、無機または金属材料との密着性に優れている。したがって、有機材料と無機または金属材料との接着剤として好適である。
【0049】
さらに、有機基材と、少なくとも無機系または金属系材料を含むコート層との間に介在させる中間膜としての用途に用いられる。
有機基材上に無機系または金属系材料を含むコート層を形成する場合、一般に有機基材と該コート層との密着性が不十分であって、耐久性に劣り、経時により剥離したり、あるいは熱や湿気などにより剥離しやすくなるという問題が生じる。
【0050】
本発明の複合傾斜膜を中間膜として、上記有機基材と無機系または金属系材料を含むコート層との間に介在させることにより、該中間膜は前記したように傾斜性を有することから、有機基材との密着性に優れると共に、その上に設けられる無機系または金属系材料を含むコート層との密着性にも優れ、その結果、有機基材上に無機系または金属系材料を含むコート層を極めて密着性よく、形成させることができる。
【0051】
前記無機系または金属系材料を含むコート層としては特に制限はなく、様々なコート層を形成することができるが、例えば(1)光触媒活性材料層、(2)無機系または金属系導電性材料層、(3)無機系または金属系材料を含むハードコート層、(4)無機系または金属系光記録材料層または無機系または金属系誘電体層などを好ましく挙げることができる。
【0052】
次に、各無機系または金属系材料を含むコート層について説明する。
(1)光触媒活性材料層:
有機基材表面に、二酸化チタンなどの光触媒活性材料のコート層を設けた場合、その光触媒作用により、有機基材が短時間で劣化するという問題が生じる。したがって、光触媒作用により、劣化しにくい無機バインダーを介して有機基材上に二酸化チタンなどの光触媒活性材料のコート層を設けることが試みられている。しかしながら、無機バインダーは、有機基材との接着力が不十分であり、耐久性に劣るという問題がある。
【0053】
本発明の複合傾斜膜を中間膜として、有機基材と光触媒活性材料のコート層との間に介在させた場合、有機基材との密着性に優れ、しかも表面はほぼ金属酸化物系化合物であるため、光触媒活性材料のコート層との密着性が良い上、中間膜が光触媒作用により劣化しにくく、有機基材を十分に保護することができる。
【0054】
また、表面に有機系塗膜を有する金属系基材と光触媒活性材料層との間に、本発明の複合傾斜膜を中間膜として介在させることができる。この中間膜は、上記有機基材の場合と同様に、有機系塗膜との密着性に優れ、しかも光触媒活性材料のコート層との密着性が良い上、光触媒作用により劣化しにくく、有機系塗膜を十分に保護することができる。このような用途としては、特に表面に有機系塗膜を有する自動車用鋼板上に光触媒活性材料層を設ける場合に有用である。
【0055】
表面に有機系塗膜を有する金属系基材としては、例えば冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、アルミニウム/亜鉛合金めっき鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板などの金属系基材に有機系塗膜を形成したものを挙げることができる。
本発明の複合傾斜膜を、このような中間膜として用いる場合、その上に設けられる光触媒活性材料のコート層が光触媒能の高い二酸化チタンである場合に、特に有効である。
【0056】
(2)無機系または金属系導電性材料層:
表面に導電性材料層を有する有機基材、特にプラスチックフィルムは、エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)、液晶表示素子(LCD素子)、太陽電池などに用いられ、さらに電磁波遮蔽フィルムや帯電防止性フィルムなどとして用いられている。このような用途に用いられる導電性材料としては、例えば酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化カドミウム、ITO(インジウムチンオキシド)などの金属酸化物や、金、白金、銀、ニッケル、アルミニウム、銅のような金属などの無機系または金属系導電性材料が用いられる。そして、これらの無機系または金属系導電性材料は、通常真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の手段により、プラスチックフィルムなどの有機基材上に、厚さ5〜200nm程度の薄膜として形成される。
【0057】
このようにして形成された無機系または金属系導電性材料層は、有機基材との密着性が不十分であるので、本発明の複合傾斜膜を中間膜として、有機基材と該無機系または金属系導電性材料層との間に介在させることにより、有機基材と無機系または金属系導電性材料層との密着性を向上させることができる。また、透明導電性フィルムが要求される場合においても、本発明の複合傾斜膜からなる中間膜を介在させることにより、透明性が損なわれることはほとんどない。
【0058】
(3)無機系または金属系材料を含むハードコート層:
表面硬度が良好で、優れた耐擦傷性や耐摩耗性を有するハードコートフィルムは、例えば、車両、建物などの窓ガラスや窓用プラスチックボードなどの表面貼付用として、あるいはCRTディスプレイやフラットパネルディスプレイなどの保護用などとして広く用いられている。
【0059】
一方、プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて、軽量でかつ安全性、加工性、ファッション性などに優れていることから、近年急速に普及してきている。しかしながら、このプラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて傷が付きやすいという欠点を有しており、したがって、その表面をハードコート層で被覆することが行われている。
【0060】
このようなハードコートフィルムやプラスチックレンズに設けられるハードコート層の材料としては、例えばアルキルトリヒドロキシシランおよびその部分縮合物とコロイダルシリカとシリコン変性アクリル樹脂とからなる混合物、オルガノトリアルコキシシラン加水分解縮合物、アルコキシシラン加水分解縮合物とコロイダルシリカとの混合物、ジルコニウム、アルミニウムおよびチタニウムの中から選ばれる金属とキレート化合物とシリコン変性アクリル樹脂とからなる混合物などの無機系または金属系材料を含むハードコート剤が多用されている。
【0061】
プラスチックフィルムやプラスチックレンズなどの有機基材上にハードコート層を形成するには、前記の無機系または金属系材料を含むハードコート剤を、公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、スプレーコート法などを用いて、乾燥膜厚が1〜30μm程度になるように有機基材上に塗布し、乾燥処理する方法が、通常用いられる。
【0062】
このようにして形成された無機系または金属系材料を含むハードコート層は、有機基材との密着性が不十分であるので、本発明の複合傾斜膜を中間膜として、有機基材と該ハードコート層との間に介在させることにより、有機基材と無機系または金属系材料を含むハードコート層との密着性を向上させることができる。またプラスチックレンズにおいて、本発明の複合傾斜膜からなる中間膜を介在させても、該プラスチックレンズの透明性の低下や干渉縞の発生などをもたらすことはほとんどない。
【0063】
(4)無機系または金属系光記録材料層または無機系または金属系誘電体層:
近年、書き換え可能、高密度、大容量の記憶容量、記録再生ヘッドと非接触等という特徴を有する光記録媒体として、半導体レーザー光等の熱エネルギーを用いて磁性膜の磁化反転を利用して情報を記録し磁気光学効果を利用して読み出す光磁気ディスクや結晶から、アモルファスへの相変化を利用した相変化ディスクが開発され、実用化に至っている。
【0064】
このような光記録媒体は、一般に、透光性樹脂基板(有機基材)、例えばポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどの基板上に光記録材料層、誘電体層、金属反射層、有機保護層などが順次積層された構造を有しており、また、基板と光記録材料層との間に、誘電体下地層を設ける場合もある。
【0065】
基板上に設けられる光記録材料層には、例えばTb−Fe、Tb−Fe−Co、Dy−Fe−Co、Tb−Dy−Fe−Coなどの無機系の光磁気型記録材料、あるいはTeOx、Te−Ge、Sn−Te−Ge、Bi−Te−Ge、Sb−Te−Ge、Pb−Sn−Te、Tl−In−Seなどの無機系の相変化型記録材料が用いられる。また、所望により、基板と光記録材料層との間に設けられる誘電体下地層には、例えばSiN、SiO、SiO2、Ta25などの無機系材料が用いられる。
前記無機系の光記録材料層や誘電体下地層は、通常真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の手段によって形成される。
【0066】
このようにして形成された無機系または金属系光記録材料層または無機系誘電体下地層は、透光性樹脂基板との密着性が不十分であるので、本発明の複合傾斜膜を中間膜として、透光性樹脂基板と該光記録材料層または該誘電体下地層との間に介在させることにより、基板と光記録材料層または誘電体下地層との密着性を向上させることができる。
【0067】
その他無機系または金属系材料を含むコート層としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、硫化亜鉛、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)などの無機系赤外線吸収剤層、メタル蒸着された磁性層などが挙げられる。
【0068】
本発明は、さらに、上記有機−無機複合傾斜膜を有する構造体をも提供する。
このような構造体としては、例えば本発明の有機−無機複合傾斜膜を中間膜として介在させ、かつ少なくとも無機系または金属系材料を含むコート層を有する有機基材、あるいは、本発明の有機−無機複合傾斜膜を中間膜として介在させ、かつ光触媒活性材料層を有する、表面に有機系塗膜が設けられた金属系基材など、さらには該複合傾斜膜を中間膜として介在させ、かつ少なくとも無機系または金属系材料を含むコート層を有する物品などを挙げることができる。
【0069】
上記物品の具体例としては、少なくとも無機系または金属系材料を含むコート層が、(1)光触媒活性材料層、(2)無機系または金属系導電性材料層、(3)無機系または金属系材料を含むハードコート層、および(4)無機系または金属系光記録材料層または無機系または金属系誘電体層であるものなどを好ましく挙げることができる。
上記構造体としては、特に有機基材上に、本発明の有機−無機複合傾斜膜を介して、光触媒活性材料層を有するものが好適である。
【0070】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0071】
なお、各例で形成した膜の諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)傾斜性
XPS装置「PHI−5600」[アルバック・ファイ(株)製]を用い、アルゴンスパッタリング(4kV)を3分間隔で施して膜を削り、膜表面の炭素原子と金属原子の含有率を、X線光電子分光法により測定し、傾斜性を調べた。
【0072】
(2)密着性
JIS K5400に準拠し、ロータリーカッターにて1mm角の碁盤目100マスを付け、セロテープ(ニチバン製、登録商標)を圧着させたのち、一気に引き剥がした。その剥離面積より、JIS K5400準拠の下記点数により密着性を評価した。
10点:剥離面積0% 、8点:剥離面積5%以内 、 6点:同5〜15%
4点:同15〜35% 、 2点:同35〜65% 、 0点:65%以上
【0073】
(3)耐候性
光触媒層を有するサンプルについて、カーボンアーク式サンシャインウエザーメーター[スガ試験機(株)製「サンシャインウエザーメーターS300」]にて900時間耐候促進試験を行った。
耐候試験後のサンプルについて、JIS K7105に基づきヘイズ値[日本電色(株)製 ヘイズメーター 使用]の測定を行った。
【0074】
実施例1
メチルメタクリレート19.0g、メチルイソブチルケトン(含水率0.5wt%)46.0g、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.14gを含む溶液を、冷却管を取り付けた100mlフラスコに入れて、容器内を窒素で置換した。この溶液を30℃で30時間加熱し、ポリメチルメタクリレート(GPC法によるポリスチレン換算で重量平均分子量が10万)が溶解したメチルイソブチルケトン溶液(固形分濃度30wt%)を得た。この溶液1gをメチルイソブチルケトンにて70倍に希釈し、有機成分溶液(a)を得た。
【0075】
チタンテトライソプロポキシド89gをエチルセロソルブ176gに溶解した溶液に、濃硝酸15g、水5.3gとエチルセロソルブ69gの混合溶液を攪拌しながらゆっくりと滴下し、その後30℃で4時間攪拌した。得られた混合溶液の内35.5gを別容器にてエチルセロソルブ62.7gにて希釈し、無機成分溶液(b)を得た。
調合後1日経過した有機成分溶液(a)50mlと調合後1時間経過した無機成分溶液(b)50mlを混合し、5時間攪拌を行い塗工溶液とした。
【0076】
この塗工溶液をワイヤー線形0.075mmのマイヤーバーにて50μm厚みのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム[帝人デュポンフィルム(株)製、「テトロンHB−3」]上にバーコートし、溶剤を揮発させて80℃で24時間加熱し厚みが70nmの複合膜を形成させた。この膜のXPS測定を行ったところ、傾斜性を有する膜であることが分かった。上記複合膜のXPS測定結果を図1に示す。また、JIS K5400に準拠した碁盤目テープ剥離でも剥離は全く観察されず、高い密着性を有していた。
【0077】
この膜上に石原産業(株)製、光触媒「ST−K211」を厚み50nmで塗布した。この光触媒膜付きフィルムをカーボンアーク式サンシャインウエザーメータによる促進耐候試験を行った結果、900時間経過後のヘイズ値は2.9%で透明性を維持していた。
【0078】
次に、塗工溶液を調製する際の有機成分溶液として、調合後1年経過した有機成分溶液(a)を用いた以外は、上記と全く同様の手順で複合膜を形成した。この膜のXPS測定を行ったところ、傾斜性を有する膜であることが分かった。上記傾斜膜のXPS測定結果を図2に示す。また、JIS K5400に準拠した碁盤目テープ剥離でも剥離は全く観察されず、高い密着性を有していた。
【0079】
この膜上に石原産業(株)製、光触媒「ST−K211」を厚み50nmで塗布した。この光触媒膜付きフィルムをカーボンアーク式サンシャインウエザーメータによる促進耐候試験を行った結果、900時間経過後のヘイズ値は3.1%で透明性を維持していた。
測定結果を表1に示す。
【0080】
実施例2
実施例1において、有機基材として、PETフィルムの代わりに、厚み2mmのアクリル樹脂板[三菱レーヨン(株)製、「アクリライト」]を用い、かつ塗工方法をスピンコーター(1500rpm、15秒間)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0081】
結果を表1に示す。また、有機成分溶液を調合してから1日及び1年経過したものを用いて得られた塗工液から形成された複合膜のXPS測定結果を、それぞれ図3および図4に示す。
【0082】
比較例1
メチルメタクリレート18.1g、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン2.3g、メチルイソブチルケトン(含水率0.5wt%)46.0g、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.14gを含む溶液を、冷却管を取り付けた100mlフラスコに入れて、容器内を窒素で置換した。この溶液を60℃で30時間加熱し、加水分解性基を側鎖に有する共重合体(GPC法によるポリスチレン換算で重量平均分子量が10万)が溶解したメチルイソブチルケトン溶液(固形分濃度31wt%)を得た。この溶液1gをメチルイソブチルケトンにて70倍に希釈し、有機成分溶液(c)とした。
実施例1において、有機成分溶液(a)の代わりに、上記の有機成分溶液(c)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施した。
【0083】
結果を表1に示す。また、有機成分溶液を調合してから1日及び1年経過したものを用いて得られた塗工液から形成された複合膜のXPS測定結果を、それぞれ図5および図6に示す。
1日経過したものでは傾斜性を示すが、1年経過したものでは傾斜は確認できず、また、表1に示す促進耐候試験900時間後のヘイズ値も、7.5%と高く、劣化が確認された。
【0084】
比較例2
テトラエトキシシラン12gをエタノール10mlに溶解した溶液に、濃塩酸3.1gとエタノール5mlからなる溶液を攪拌しながら徐々に滴下した。この混合溶液を室温で5時間攪拌した。の溶液10mlをエチルセロソルブ40mlにて希釈し、無機成分溶液(d)とした。
【0085】
実施例1において、無機成分溶液(b)の代わりに、上記の無機成分溶液(d)を用いた以外は、実施例1と同様にして実施した。
結果を表1に示す。また、有機成分溶液を調合してから1日及び1年経過したものを用いて得られた塗工液から形成された複合膜のXPS測定結果を、それぞれ図7および図8に示す。いずれも傾斜性は確認されず、表1に示される促進耐候試験900時間後のヘイズ値も、それぞれ8.2%及び11.3%と高く、劣化が確認された。
【0086】
【表1】
Figure 0004204232
【0087】
【発明の効果】
本発明の有機−無機複合傾斜膜は、分子内に、カップリング基である加水分解性金属含有基を有しない有機高分子化合物溶液と、加水分解性であって、配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解処理液とを含む塗布液から形成されたものであり、上記有機高分子化合物溶液を長期間(例えば1年以上)保存しても、得られる複合膜の傾斜性及び中間膜としての機能が十分に発揮される。
本発明の複合傾斜膜は、機能性膜として各種用途、例えば光触媒中間膜などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた有機−無機複合傾斜膜(有機成分溶液1日放置)におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1で得られた有機−無機複合傾斜膜(有機成分溶液1年放置)におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。
【図3】実施例2で得られた有機−無機複合傾斜膜(有機成分溶液1日放置)におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。
【図4】実施例2で得られた有機−無機複合傾斜膜(有機成分溶液1年放置)におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。
【図5】比較例1で得られた有機−無機複合傾斜膜(有機成分溶液1日放置)におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。
【図6】比較例1で得られた有機−無機複合傾斜膜(有機成分溶液1年放置)におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。
【図7】比較例2で得られた有機−無機複合傾斜膜(有機成分溶液1日放置)におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。
【図8】比較例2で得られた有機−無機複合傾斜膜(有機成分溶液1年放置)におけるスパッタリング時間と炭素原子およびチタン原子の含有率との関係を示すグラフである。

Claims (3)

  1. カップリング基である加水分解性金属含有基を有しない有機高分子化合物と金属酸化物系化合物を含み、かつ膜中の金属酸化物系化合物成分の含有率が、膜表面から深さ方向に連続的に減少する成分傾斜構造を有する有機−無機複合傾斜膜を製造する方法であって、
    (A)一般式(I−1−a)
    Figure 0004204232
    (式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。)
    で表されるエチレン性不飽和単量体を1種以上重合させて得られた有機高分子化合物を含む有機溶剤溶液と、(B)一般式(II)
    MRm ・・・(II)
    (式中、Mはチタン、ジルコニウムまたはアルミニウムからなる金属原子、R2は加水分解性基、mは金属原子Mの価数を示し、複数のR2はたがいに同一でも異なっていてもよい。)
    で表される配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解処理液とを含む塗布液を調製したのち、有機基材上に塗布し、加熱乾燥処理することにより、有機−無機複合傾斜膜として、
    前記有機高分子化合物が、一般式(I−1−a)
    Figure 0004204232
    (式中、R は水素原子またはメチル基、R は炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。)
    で表されるエチレン性不飽和単量体を1種以上重合させて得られたものであり、かつ前記金属酸化物系化合物が、一般式(II)
    MR 2 m ・・・(II)
    (式中、Mはチタン、ジルコニウムまたはアルミニウムからなる金属原子、R 2 は加水分解性基、mは金属原子Mの価数を示し、複数のR 2 はたがいに同一でも異なっていてもよい。)
    で表される配位結合可能な金属の化合物またはその縮合オリゴマーの加水分解縮重合物であり、
    膜の厚みが0.01〜1.0μmである
    有機−無機複合傾斜膜を得る
    ことを特徴とする有機−無機複合傾斜膜の製造方法。
  2. 金属酸化物系化合物が、テトラアルコキシチタンの加水分解縮重合物である請求項1に記載の有機−無機複合傾斜膜の製造方法。
  3. 複合傾斜膜が有機基材への当接面を有し、該当接面が、実質上有機高分子化合物成分か らなり、かつもう一方の開放系面が、実質上金属酸化物系化合物成分からなる請求項1または2に記載の有機−無機複合傾斜膜の製造方法。
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