JP4203236B2 - 熱間圧延における潤滑供給方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄鋼製造プロセスにおける熱間圧延工程での潤滑油の供給方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
潤滑熱延を実施すると様々な問題に直面する。とりわけ、鉄鋼製造プロセスにおける熱間圧延工程では冷間圧延工程にくらべて板厚が厚いことに加えて、材料の繰り出し機が備えられていないため、咬込みスリップや圧延スリップが発生しやすい。その問題を解決するために、いくつかの技術が公知である。最もよく知られているのは、潤滑油の供給量を少なくして操業し、スリップ事故を起こさない範囲で潤滑効果を得るような条件で操業が行われている。他には、被圧延材のトップ部およびボトム部が圧延機を通材するときのみ潤滑圧延を行わないようにして、咬込みスリップを防止する方法も知られている。また、一方では、潤滑油自身の摩擦係数が大きな潤滑剤を適用し、トップ部およびボトム部を潤滑圧延を実施しても咬込みスリップなどが発生しないようにする技術も公知である(特開平6−234989号公報)。熱間圧延における潤滑供給方法としては、水に潤滑油を混合してエマルションの形態で噴射供給する方法の他に、潤滑油と水蒸気とを混合して噴射供給する方法が知られている(日本鉄鋼協会「板圧延の理論と実際」p218)。
【0003】
一方、板厚均一性に優れた深絞り用熱延鋼板の製造方法として、潤滑油の供給量をロール表面積1平方メートルあたり0.2〜10cc供給することを骨子とした発明(特開平11−279656号、特開平11−279657号、特開平11−293345号)が公知である。しかしながら、これらの公知発明では、水と潤滑油とをウォーターインジェクションによって混合したエマルション潤滑に限定されており、本発明の特徴である水と混合せずに潤滑油だけを供給するものではない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
水に潤滑油を混合したエマルションタイプの潤滑剤を用いる場合、上述のように、スリップ事故を起こさないことを優先しているため、十分な潤滑効果が得られていない。さらに、エマルション潤滑法を用いる場合、ロール冷却水が潤滑供給部にかからないように水切りワイパーがロール冷却水供給部と潤滑供給部との間に設けられている。しかし、ロールが回転してワイパーが摩耗し隙間があくことによって、ロール冷却水が潤滑供給部に洩れだしてくると、エマルション潤滑で供給された潤滑油はロールへ付着しにくくなる。これは、洩れだしたロール冷却水がロール表面に水膜を形成するためであり、さらにこの冷却水と混じることによってエマルション濃度(水に対する潤滑油の量)が小さくなり、潤滑効果が得られにくくなる。同じ問題がスチームアトマイズ方式にも生じることがわかっている。
【0005】
一方、エマルション潤滑の濃度は、一般的に水100に対して潤滑油が0.5〜1.0程度で実用されている。この範囲がスリップ事故防止と潤滑効果とが共存する領域である。しかし、潤滑配管システム内の汚れや、ノズルの詰まり、さらに気温や湿度の変化による潤滑油の粘度の微妙な違いによって、この濃度が常に変化している。それによって、潤滑効果にバラツキが生じる問題も認識されている。
【0006】
従って、熱間圧延において潤滑油を使いこなすポイントは、水切り不良によって生じるロール表面の水膜に関係なく、また配管汚れやノズル汚れなどによって潤滑油の絶対供給量が変化することなく、どんな状況でも、確実に必要な量の潤滑油をロールに付着させることにある。
本発明は、必要最小限の潤滑油供給量で最大限の潤滑効果を、圧延スリップや咬込みスリップなどのトラブルを発生せずに、発揮させることができる潤滑熱延が可能な潤滑供給方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の事項で構成される。
(1)熱間圧延における潤滑供給方法において、供給する潤滑油の量をロール表面積1平方メートルあたりに0.01cc以上30cc以下とし、40℃における粘度が800cSt以下の潤滑油を、平均粒径が5mm以下の粒状にして、潤滑ノズル1本あたりにつき、水と混合せずに毎分1000cc以上の流量の不燃性ガスとともに、ロールに噴射供給することを特徴とする熱間圧延における潤滑供給方法、
(2)前記(1)記載の熱間圧延における潤滑供給方法において、被圧延材料がロールバイトに咬込む前から潤滑油の噴射供給を開始し、そのときの供給量がロール表面積1平方メートルあたり1cc以下であることを特徴とする熱間圧延における潤滑供給方法、
(3)前記(1)または(2)記載の熱間圧延における潤滑供給方法において、被圧延材料が全仕上圧延機列に咬込み、圧延速度を増加させる際に、潤滑油の噴射供給量も、ロール表面積1平方メートルあたり0.1cc以上、30cc以下の範囲で、圧延速度と共に供給量を増加させることを特徴とする熱間圧延における潤滑供給方法、
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の熱間圧延における潤滑供給方法において、被圧延材料の当該圧延機未通材長さが、ロール周長の1〜5倍残っている時点で、潤滑油の噴射供給量を、ロール表面積1平方メートルあたり1cc以下にすることを特徴とする熱間圧延における潤滑供給方法、である。
【0008】
本発明が、40℃における粘度が800cSt の潤滑油に限定しているのは、この粘度よりも大きい潤滑油はほとんど常温において半固体状になっており、従来から知られているグリース潤滑剤とほとんど同じ技術になるためである。つまり、粘度が大きくなれば大きくなるほど、一般的にロールへ潤滑剤が付着しやすくなり、このことは公知である。本発明は、粘度の小さい潤滑油でも、潤滑効果を得るために必要なロールへの付着量を確保する供給方法を与えるものであり、さらに刻一刻と外乱によって変化しやすい熱延潤滑環境に対応しうる供給方法をも与えるものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の特徴は、潤滑油とロールとの付着効率(潤滑供給ノズルの先端における潤滑供給量に対するロールに付着した潤滑量との比率)を高めるために、従来から広く用いられているエマルション(水と潤滑油との混合液体)を用いず、潤滑油のみを平均粒径が5mm以下の粒状にして直接ロールに噴射供給すること、さらに同時に不燃性ガス(例えば、空気、ヘリウム、窒素、アルゴン等)も毎分1000cc以上噴射供給することによって、潤滑油の付着効率を著しく低下させるロール表面上の水分や水膜を吹き飛ばし、ロール自身の表面に潤滑油が衝突・付着するようにしたことである。
【0010】
潤滑油を平均粒径で5mm以下の粒状にするのは、潤滑油の表面積を大きくすることによって付着しやすくするためである。しかし、平均粒径で5mmよりも大きくすると、ロールに付着した潤滑油が自重によって落ちやすくなる。従って、潤滑油は平均粒径で5mm以下にしなければならない。潤滑油を粒状にする手段は何でもよい。たとえば、噴霧方式や、メッシュを通過させて粒状にする方法でも良い。また、粒状にして供給する方が通常のスプレー方式で供給するよりも、少ない量を確実に噴射供給させることができる。通常のスプレー方式では、本発明に規定されているような少量の潤滑油を噴射供給するのは難しい。
【0011】
毎分1000cc以上の不燃性ガスを噴射する限定理由は、通常想定しうるロール表面に存在する5mm厚の水膜を除去するのに必要であることによる。このことは実施例に記載の実験によって知見した。供給する潤滑油の量をロール表面積1平方メートルあたりに0.01cc以上とすることによって、咬込みスリップを防止できることを実験によって知見した。また、潤滑油の供給量をロール表面積1平方メートルあたり30ccよりも多く供給すると、どのような圧延条件においても圧延スリップトラブルが生じるので、これ以下の供給量にしなければならない。好ましくはロール表面積1平方メートルあたり、1cc〜15ccの範囲で操業すると効果的である。
【0012】
本発明による潤滑圧延の形態の例を説明する。通材前から圧延ロールに請求項3に記載のとおり、潤滑油を噴射供給して被圧延材をまつ。不燃性ガスに空気を用い、毎分2000ccの量を供給した。また、潤滑油はエアーアトマイズノズルを用いて粒状にし、潤滑油と空気とを同じノズルから噴射するようにした。勿論、潤滑油と不燃性ガスとを別のノズルから噴射供給しても差し支えない。ロール表面積1平方メートルあたり1cc以下であれば、ロール表面に潤滑油が付着していても、咬込みスリップや圧延スリップは発生しない。1ccを超えると、圧延条件や被圧延材料の形状によっては咬込みスリップが生じる場合があるため、1cc以下に限定した。
【0013】
次に、被圧延材料が通材開始し、仕上圧延機列すべて咬込んだあと、圧延速度の加速を開始するが、このとき、請求項4記載のとおり、圧延速度の増加にともなって潤滑油の噴射供給量も増加する。もし、潤滑油の供給量を増やさないと潤滑油が足りず、期待どおりの潤滑効果を得ることができない。よって、ロール表面積1平方メートルあたりの供給量を0.1cc以上30cc以下の範囲とした。その後、被圧延材が圧延機を通材完了する前まで、請求項1および2に記載のとおりの供給方法にて潤滑圧延を実施する。被圧延材が圧延機を通材完了する際には、請求項5記載のとおり、被圧延材の通材長さがロール周長に達する前に、潤滑油の供給量をロール表面積1平方メートル当たり1cc以下にして供給しなければならない。好ましくは、ロール周長の5倍程度の長さになったところで、供給量を請求項5のようにするのがよい。もし、これよりも多く潤滑油を供給すると、次の材料の咬込みがうまくいかなくなる場合がある。言うまでもなく、潤滑圧延全体にわたって、請求項1および2記載の供給方法で潤滑圧延を行わなければ、期待通りの潤滑効果を得ることはできない。
【0014】
【実施例】
[実施例1]
2Hi圧延機を用いて、ロール表面に付着している潤滑油の量と咬込みスリップもしくは圧延スリップ発生限界との関係を調査した。
(実験条件)
・ロール:φ400mm、ハイスロール、胴長150mm
・被圧延材:0.02%炭素鋼、20mm厚×50mm幅×400mm長さ
・圧延速度:50m/min 〜200m/min
・ロールギャップ:圧下率換算で20%〜40%
・潤滑油:市販の熱間圧延用潤滑油(40℃の粘度が100cSt 、400cSt の2種類)
・ガス流量:1500cc/min、空気
(実験結果)
図1に示すように、通常想定しうる圧延条件において、本発明を用いることによって咬込みスリップや圧延スリップが回避できることがわかった。
【0015】
[実施例2]
図2に示す実験装置によって、ロール表面に存在する水膜を除去するのに必要なガス噴射量を調査した。
(実験条件)
・ガス:空気
・流体:水
・ガス吹き付ける対象:普通鋼板(板厚5mm)
・ガス流量:10cc/分〜2000cc/分
・評価法:流水を噴射したあと、鋼板に残存している水量を膜厚に換算して、水
膜を除去するのに必要なガス噴射量を算出。
(実験結果)
図3に示すように、1000cc/分の噴射量があれば、少なくとも5mm厚さの水膜を除去することが可能であることが判明した。実際の熱間圧延操業においては、水切りワイパーの先端とロール表面との間の隙間が5mmに達することはほとんど無いので、1000cc/分のガス噴射量で、十分なロール表面の水膜除去効果が得られるものと考えられる。
【0016】
【発明の効果】
従来のエマルションタイプのような潤滑供給では、十分な潤滑効果を得ることができなかったが、本発明によって、必要最小限の潤滑油を効率よく供給することが可能になり、潤滑油のもつ潤滑効果を最大限に発揮させることが可能になった。それによって、被圧延材の全長にわたってほぼ均一な潤滑圧延を実施することが可能になり、被圧延材の全長において均一な材質の製品を製造が可能になったほか、効率的に潤滑効果を得ることができるため、省エネルギー効果やロール寿命延長効果による生産性向上も達成できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】スリップトラブルの発生限界と潤滑油供給量との関係を示す図。
【図2】水膜除去実験装置の概略図。
【図3】鋼板の水膜除去に必要なガス噴射量を説明するための図。
Claims (4)
- 熱間圧延における潤滑供給方法において、供給する潤滑油の量をロール表面積1平方メートルあたりに0.01cc以上30cc以下とし、40℃における粘度が800cSt以下の潤滑油を、平均粒径が5mm以下の粒状にして、潤滑ノズル1本あたりにつき、水と混合せずに毎分1000cc以上の流量の不燃性ガスとともに、ロールに噴射供給することを特徴とする熱間圧延における潤滑供給方法。
- 請求項1記載の熱間圧延における潤滑供給方法において、被圧延材料がロールバイトに咬込む前から潤滑油の噴射供給を開始し、そのときの供給量がロール表面積1平方メートルあたり1cc以下であることを特徴とする熱間圧延における潤滑供給方法。
- 請求項1または2記載の熱間圧延における潤滑供給方法において、被圧延材料が全仕上圧延機列に咬込み、圧延速度を増加させる際に、潤滑油の噴射供給量も、ロール表面積1平方メートルあたり0.1cc以上、30cc以下の範囲で、圧延速度と共に供給量を増加させることを特徴とする熱間圧延における潤滑供給方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載の熱間圧延における潤滑供給方法において、被圧延材料の当該圧延機未通材長さが、ロール周長の1〜5倍残っている時点で、潤滑油の噴射供給量を、ロール表面積1平方メートルあたり1cc以下にすることを特徴とする熱間圧延における潤滑供給方法。
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