JP4198554B2 - 排気ガス還流装置を備える筒内噴射式内燃機関 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、排気通路から取り出された排気ガスの一部を吸気通路に還流する排気ガス還流装置を備える筒内噴射式内燃機関に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料が燃焼室に直接噴射される筒内噴射式内燃機関では、成層燃焼による希薄燃焼が行われており、これによりポンピングロスや冷却による熱損失が低減して、燃費が改善される。そして、希薄燃焼、特に成層燃焼により発生するNOについては、燃焼温度を低下させてその発生量を低減するために、排気ガスの一部を吸気通路に還流する排気ガス還流(EGR)が行われている。しかしながら、希薄燃焼では多量の空気が燃焼室に吸入される必要があることから、スロットル弁の開度が大きくされているために、吸気圧が高く(すなわち、負圧が低く)なるので、吸気行程でのポンピングロスが低減する一方で、排気ガス還流については、排気圧と吸気圧との圧力差が小さくなるので、大量の排気ガスを還流することが困難になる。
【0003】
そこで、希薄燃焼が行われる内燃機関において大量の排気ガスの還流を可能にする技術として、例えば特許文献1に開示された筒内噴射式内燃機関が提案されている。この筒内噴射式内燃機関は、吸気ポートを構成するスワールポートおよびストレートポートのうちのストレートポートに設けられた気流制御弁と、上流端が排気ポートに接続されると共に下流端が気流制御弁の下流でストレートポートに接続されるEGRパイプとを備える。そして、希薄燃焼が行われる低回転・軽負荷時には、気流制御弁が閉鎖されるため、気流制御弁の下流は負圧となって、排気ポートからストレートポートへ向けて大量の排気ガスを流すことができる。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−294219号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、特許文献1に開示された従来技術では、気流制御弁を開閉するためのアクチュエータが必要となって、内燃機関が大型化して、内燃機関が車体等に搭載されるときにそのレイアウトが制約されることがある。
【0006】
また、前記従来技術では、気流制御弁は、希薄燃焼が行われる低回転・軽負荷運転域において常に閉鎖された状態にあるため、吸気行程で燃焼室の圧力が低下して還流された排気ガスのほかに吸気が燃焼室に吸入されるときにも、吸気がスワールポートのみを通って燃焼室に吸入されることになるため、ポンピングロスが増加する。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、請求項1,2記載の発明は、ポンピングロスの増加の抑制による燃費の改善および大量の排気ガスの還流によるNO発生量の低減を可能としたうえで、コンパクトで、かつ低コストな筒内噴射式内燃機関を提供することを目的とする。そして、請求項記載の発明は、さらに、還流された排気ガス中に含まれているカーボンが吸気流制御弁に付着することを防止することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
請求項1記載の発明は、排気通路から取り出された排気ガスの一部を還流排気ガスとして、吸気弁を通って燃焼室に吸入される吸気が流通する吸気通路に開口する還流口から還流する排気ガス還流装置を備える筒内噴射式内燃機関において、前記吸気通路には、直接作用する吸気圧に応じて開閉作動する吸気流制御弁が配置され、前記吸気流制御弁は、その下流側吸気圧に対する上流側吸気圧の差圧が所定値以下のとき閉弁して吸気の流通を阻止する一方で、前記差圧が前記所定値を越えるとき開弁して吸気の流通を許容し、前記吸気通路を流れる吸気に前記還流排気ガスが含まれていないと仮定したとき、前記吸気流制御弁が、ある1サイクルにおいて前記吸気弁が開弁する吸気行程時に開弁し、その後に前記吸気弁が閉弁した後に閉弁してから、次の1サイクルにおいて前記吸気弁が開弁する吸気行程時に開弁するまで、前記下流側吸気圧が前記上流側吸気圧よりも前記所定値だけ低い圧力に維持され、前記還流口は、前記下流側吸気圧が作用する部位に位置し、前記吸気通路を構成すると共に前記吸気流制御弁が配置される空気通路が、シリンダヘッドに接続された吸気管により形成され、シリンダ軸線方向で前記シリンダヘッドを挟んでシリンダとヘッドカバーとが配置され、前記空気通路は、前記シリンダヘッドに形成された吸気ポートの入口から上流に向かうにつれて、前記シリンダ軸線方向での前記ヘッドカバー寄りが湾曲内側となるように、かつ前記シリンダ軸線方向での前記シリンダ寄りが湾曲外側となるように湾曲した湾曲通路部を有し、前記還流口は、前記湾曲通路部において前記シリンダ寄りの湾曲外側部分に開口し、前記吸気ポートは、前記燃焼室から、該吸気ポートの前記入口が開口する前記シリンダヘッドの上面に向かって延びており、前記シリンダヘッドに形成された排気ポートは、前記燃焼室から、該排気ポートの出口が開口する前記シリンダヘッドの下面に向かって延びており、前記排気ガス還流装置は、前記排気ポートに開口する取出口から取り出された還流排気ガスの、前記還流口への還流量を制御する還流制御弁を有し、前記還流制御弁が、上下方向で前記取出口の位置と前記還流口の位置との間の位置で、前記シリンダの横側面に設けられる筒内噴射式内燃機関である。
【0009】
これによれば、吸気流制御弁は、それに直接作用する吸気圧に応じて開閉作動する自力式の制御弁であるので、吸気流制御弁を開閉作動させるためのアクチュエータが不要であり、アクチュエータが備えられるものに比べて筒内噴射式内燃機関がコンパクトになる。
【0010】
また、下流側吸気圧に対する上流側吸気圧の差圧が所定値以下のとき、吸気流制御弁が閉弁して吸気の流通を阻止するので、吸気弁が開弁する吸気行程で燃焼室に発生する負圧に基づいて、吸気弁の閉弁しているときには、下流側吸気圧が、前記所定値だけ上流側吸気圧よりも低い圧力に維持されると共に、吸気弁の開弁しているときには、前記差圧が前記所定値を越えて吸気流制御弁が開弁した後においても、下流側吸気圧は維持されていた低圧の状態からさらに低下して、排気通路での排気圧と下流側吸気圧との圧力差が大きくなり、下流側吸気圧が作用する部位で吸気通路に開口する還流口から、大量の排気ガスの還流が可能になる。さらに、前記差圧が所定値を越えたとき、吸気流制御弁が開弁して吸気の流通を許容するので、吸気が燃焼室に吸入されるときに発生するポンピングロスの増加が抑制される。
【0011】
そして、吸気流制御弁において、排気ガスの還流量を増加させるための閉弁制御およびポンピングロスを低減するための開弁制御は、吸気流制御弁に対する吸気圧の直接の作用により自動的に行われるので、吸気圧を検出するセンサやアクチュエータなどを使用して吸気流制御弁の開閉時期や開度などの制御を行う複雑で高価な制御装置が不要になる。
【0012】
この結果、請求項1記載の発明によれば、次の効果が奏される。すなわち、吸気流制御弁は、吸気圧に応じて開閉作動する自力式の制御弁であるので、筒内噴射式内燃機関がコンパクトになる。また、下流側吸気圧に対する上流側吸気圧の差圧が所定値以下のとき吸気流制御弁が吸気の流通を阻止するので、排気通路での排気圧と下流側吸気圧との圧力差が大きくなって、下流側吸気圧が作用する還流口から還流する大量の排気ガスの還流により、NO発生量の低減が可能になる。さらに、前記差圧が前記所定値を越えたとき吸気流制御弁が吸気の流通を許容するので、吸気が燃焼室に吸入されるときに発生するポンピングロスの増加が抑制されて、燃費の改善が可能になる。そして、吸気流制御弁において、排気ガスの還流量を増加させるための閉弁制御およびポンピングロスを低減するための開弁制御は、吸気流制御弁に対する吸気圧の直接の作用により自動的に行われるので、複雑で高価な制御装置が不要になり、低価格の筒内噴射式内燃機関が得られる。
【0014】
請求項記載の発明は、請求項1記載の筒内噴射式内燃機関において、前記筒内噴射式内燃機関が車両または車両以外の機械に搭載された状態で、前記吸気流制御弁は、前記還流口よりも上方に位置するものである。
これによれば、吸気弁の閉弁時に還流される排気ガス中のカーボンが吸気流制御弁に付着して堆積し、固化することが抑制される。
この結果、請求項記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。すなわち、吸気流制御弁が還流口よりも上方に位置するので、還流排気ガス中のカーボンの吸気流制御弁への付着が抑制されて、吸気流制御弁の耐久性が向上する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図1ないし図4を参照して説明する。
図1,図2を参照すると、本発明が適用された筒内噴射式内燃機関Eは、車両である自動二輪車に搭載される単気筒の水冷式4ストローク内燃機関であり、シリンダ1と、シリンダ軸線Lの方向Aの一方向でのシリンダ1の端部に結合されたシリンダヘッド2と、前記一方向でのシリンダヘッド2の端部に結合されたヘッドカバー3と、シリンダ軸線方向Aの他方向でのシリンダ1の端部に結合されて、クランク軸が収容されるクランク室を形成するクランクケース4とから構成される機関本体を備える。それゆえ、シリンダ軸線方向Aでシリンダヘッド2を挟んでシリンダ1とヘッドカバー3とが配置される。
【0016】
内燃機関Eは、前記クランク軸が左右方向(車幅方向)に延びるように横置き配置されると共に、前記クランク軸に対して前方に位置するシリンダ1が僅かに上方に傾斜する状態、すなわちシリンダ軸線Lが前方に向かって僅かに上方に傾斜する状態(図1参照)で、車体に懸架される。図1において、Hは水平面に平行な平面を示す。
【0017】
なお、この実施例において、上下、前後、左右は、自動二輪車を基準としたもので、それぞれ、自動二輪車の上下、前後、左右に対応する。
【0018】
シリンダ1のシリンダ孔1a内に往復動可能に嵌合されたピストン5は、コンロッド6を介して、クランクケース4に回転可能に支持される前記クランク軸に連結される。そして、ピストン5とシリンダヘッド2との間には、シリンダヘッド2に形成された凹部2aおよびピストン5の頂面に形成されたキャビティ5aからなる燃焼室7が形成される。
【0019】
シリンダヘッド2には、燃焼室7に開口する1対の吸気口8aを有する吸気ポート8と、燃焼室7に開口する1つの排気口9aを有する排気ポート9とが形成され、また1対の吸気口8aをそれぞれ開閉する1対の吸気弁10と排気口9aを開閉する1つの排気弁11とが設けられ、さらに燃料噴射装置としての混合気噴射弁40と挿入孔12に挿入された点火栓13とが燃焼室7に臨んで装着される。なお、図1には一方の吸気口8aおよび一方の吸気弁10のみが示されている。
【0020】
混合気噴射弁40は、シリンダ軸線Lとほぼ同軸の軸線を有するように、シリンダ軸線方向Aから見て燃焼室7の中心部に配置されて、燃料と圧縮空気との混合気を燃焼室7に直接噴射する。また、両吸気弁10、排気弁11および点火栓13は、混合気噴射弁40を中心としてその周囲に、周方向に間隔をおいて配置される。
【0021】
吸気ポート8の入口8bが開口するシリンダヘッド2の上面には吸気装置が接続され、排気ポート9の出口9bが開口するシリンダヘッド2の下面には排気装置が接続される。このため、吸気ポート8は、燃焼室7から、該吸気ポート8の入口8bが開口するシリンダヘッド2の前記上面に向かって延びており、排気ポート9は、燃焼室7から、該排気ポート9の出口9bが開口するシリンダヘッド2の前記下面に向かって延びている。
【0022】
前記吸気装置は、エアクリーナ(図示されず)を経た空気が流通する空気通路20aが形成されたスロットルボディ20と、上流端でスロットルボディ20にインシュレータ21および上流側の吸気管22を介して接続され下流端でシリンダヘッド2の上面に接続される下流側の吸気管23と、スロットルボディ20に装着されたスロットル弁24と、吸気管23に装着された吸気流制御弁としてのリード弁70とを備える。
【0023】
吸気管23により形成される空気通路23aは、その上流端で吸気管22により形成される空気通路22aを介して空気通路20aに接続され、その下流端で吸気ポート8の入口8bに接続される。そして、これら空気通路20a,22a,23aと吸気ポート8とは、1対の吸気弁10を通って燃焼室7に吸入される空気が流通する吸気通路25を構成する。それゆえ、吸気通路25を流れる吸気は、空気、または空気および後述する還流排気ガスから構成される。
空気通路23aは、図1に示されるように、吸気ポート8の入口8bから上流に向かうにつれて、シリンダ軸線方向Aでヘッドカバー3寄りに湾曲することにより、シリンダ軸線方向Aでシリンダ1寄りに凸となる湾曲通路部23bを有する。これにより、湾曲通路部 23 bは、シリンダヘッド2に形成された吸気ポート8の入口8bから上流に向かうにつれて、シリンダ軸線方向Aでのヘッドカバー3寄りが湾曲内側となるように、かつシリンダ軸線方向Aでのシリンダ1寄りが湾曲外側となるように湾曲している。
【0024】
スロットル弁24は、運転者のアクセル操作に応動して開閉作動され、内燃機関Eの運転領域に応じて、圧縮行程で混合気噴射弁40から燃焼室7に噴射された混合気が成層燃焼をするように、また吸気行程で混合気噴射弁40から燃焼室7に噴射された混合気が均質燃焼をするように、吸気通路25を通って燃焼室7に吸入される空気の流量を制御する。また、リード弁70は、後述するように、リード弁70の下流側吸気圧P2に対する上流側吸気圧P1の差圧ΔPが所定値以下のとき吸気の流通を阻止し、差圧ΔPが前記所定値を越えるとき吸気の流通を許容する。
【0025】
両吸気弁10および排気弁11を開閉する動弁装置30は、シリンダ1の側部に回転可能に支持されて吸気カム31aおよび排気カム31bを有するカム軸31と、シリンダ1に保持された1対の支持軸32にそれぞれ揺動可能に支持されて吸気カム31aおよび排気カム31bに接触する吸気カムフォロア(図示されず)および排気カムフォロア33と、シリンダヘッド2に保持された1対のロッカ軸34にそれぞれ揺動可能に支持されて、1対の吸気弁10の弁ステムの先端に当接する吸気ロッカアーム35および排気弁11の弁ステムの先端に当接する排気ロッカアーム36と、前記吸気カムフォロアおよび排気カムフォロア33と吸気ロッカアーム35および排気ロッカアーム36とにそれぞれ両端部で当接して、前記吸気カムフォロアおよび排気カムフォロア33の揺動運動を吸気ロッカアーム35および排気ロッカアーム36にそれぞれ伝達する1対のロッド37とを備える。なお、図2には一方の支持軸32のみ、一方のロッド37のみが示されている。
【0026】
カム軸31は、被動スプロケット38に巻き掛けられたタイミングチェーン39を有する伝動機構を介して連結された前記クランク軸により、その1/2の回転速度で回転駆動される。そして、1対の吸気弁10および排気弁11が、前記クランク軸の回転に同期して所定の開時期に開閉する。
【0027】
シリンダヘッド2およびヘッドカバー3に跨って取り付けられた混合気噴射弁40は、燃料と噴射用空気とにより形成された混合気を燃焼室7のキャビティ5aに向けて直接噴射する。
【0028】
混合気噴射弁40は、ヘッドカバー3に形成された挿入筒3bに挿入された燃料噴射弁41と、シリンダヘッド2に形成された挿入筒2bに挿入された空気噴射弁42とから構成される。挿入筒3bと燃料噴射弁41との間には、燃料噴射弁41の外周に装着された1対の環状のシール部材43,44により密封される環状の燃料室46が形成される。そして、燃料ポンプを含む燃料供給系から燃料室46に供給された燃料が、燃料噴射弁41に設けられた孔からなる燃料導入部41aを通って燃料噴射弁41に供給される。燃料噴射弁41は、燃料を空気噴射弁42の筒状の空気導入部42aに向けて噴射する。
【0029】
また、挿入筒3bと燃料噴射弁41および空気噴射弁42との間には、シール部材44および空気噴射弁42の外周に装着された環状のシール部材45により密封される環状の空気室47が形成される。空気噴射弁42は、カム軸31により駆動されて往復動するピストンを備える容積型の空気ポンプを含む空気供給系から空気室47に供給された圧縮空気である噴射用空気と、燃料噴射弁41から噴射された燃料とから形成された混合気を、噴口(図示されず)を開閉する弁体42cを有するノズル部42bから燃焼室7に噴射する。
【0030】
そして、前記吸気装置内で吸気通路25を流通する空気は、ピストン5が下降する吸気行程で、吸気ポート8および開弁した1対の吸気弁10を通って燃焼室7に吸入され、混合気噴射弁40から燃焼室7に噴射された混合気と共に、圧縮行程で上昇するピストン5により圧縮され、高圧状態にある燃焼室7内で混合気が点火栓13により点火されて燃焼し、膨張行程で燃焼ガスの圧力により下降するピストン5が、コンロッド6を介して前記クランク軸を回転駆動する。
【0031】
燃焼ガスは、排気行程で、開弁した排気弁11を通って排気ガスとして燃焼室7から排気ポート9に排出され、さらに前記排気装置を経て大気中に排出される。ここで、排気ポート9と、排気管を含む前記排気装置に形成されて排気ガスを外部に導く通路とにより排気通路26が構成される。
【0032】
そして、内燃機関Eは、排気通路26から取り出された排気ガスの一部を還流排気ガスとして吸気通路25に開口する還流口66から吸気通路25に還流する排気ガス還流装置50を備える。排気ガス還流装置50は、排気通路26と吸気通路25とを連通させる還流通路51と、還流通路51に設けられて還流排気ガスの吸気通路25への還流量を制御する還流制御弁52とを有する。
【0033】
図1〜図3を参照すると、還流制御弁52は、シリンダ1の取付面にフランジ53cにおいてボルトにより結合される弁ボディ53と、弁ボディ53に形成された上流側弁室53aと下流側弁室53bとを区画する弁座54と、弁座54に着座可能なポペット弁からなる弁体55と、バネ力により弁体55を閉弁方向に付勢して弁座54に着座させる弁バネ56と、弁体55が弁バネ56のバネ力に抗して弁座54から離隔して開弁するように弁体55を駆動するステップモータから構成される電気式のアクチュエータ57とを備える。
【0034】
弁ボディ53は、シリンダ1の前記取付面に形成されて冷却水ジャケット14に連通する凹部15の冷却水により冷却される(図2参照)。アクチュエータ57は、弁ボディ53に摺動可能に支持された弁体55の軸部55aの端部55a1に当接する駆動軸57aを有し、制御装置(図示されず)からの信号で、内燃機関Eの運転状態に応じて、駆動軸57aを介して弁体55を軸方向に移動させることにより、弁体55が、上流側弁室53aから下流側弁室53bに流入する還流排気ガスを計量して、還流口66から吸気通路25へ還流される還流排気ガスの還流量を制御する。
【0035】
還流通路51は、還流制御弁52を挟んで、上流端部58aにてシリンダヘッド2に接続されると共に下流端部58bにて還流制御弁52の弁ボディ53に接続された上流側の導管58により形成される上流側還流通路51aと、上流端部59aにて弁ボディ53に接続されると共に下流端部59bにて吸気管23に接続された下流側の導管59により形成される下流側還流通路51bとから構成される。
【0036】
導管58の上流端部58aは、熱膨張による導管58とシリンダヘッド2との間の相対移動が許容されるように、シリンダヘッド2に対して導管58の長手方向に相対移動可能に接続される。そのために、シリンダヘッド2に挿入される上流端部58aには、導管58を摺動可能に支持する筒状の支持部材60が嵌合され、支持部材60が、その先端部60aで上流端部58aの外周とシリンダヘッド2との間に配置されたシール部材61を押圧して変形させ、シール部材61により上流端部58aとシリンダヘッド2との間の気密が保たれるように、シリンダヘッド2にねじ込まれる。そして、上流側還流通路51aの上流端が、シリンダヘッド2に形成された導出通路62を介して、排気通路26から還流排気ガスを取り出すために排気ポート9に開口する取出口63に連通する。
そして、図1,図3から明らかなように、還流制御弁 52 は、上下方向で取出口 63 の位置と還流口 66 の位置との間の位置で、シリンダ1の横側面に設けられる。
【0037】
また、導管58の下流端部58bは、下流端部58bの外周と弁ボディ53との間に配置されたシール部材64により気密が保たれるように、弁ボディ53にねじ込まれる。そして、上流側還流通路51aの下流端が、弁ボディ53の上流側弁室53aに連通する。
【0038】
導管59の上流端部59aは、上流端部59aに設けられたフランジ59a1において弁ボディ53にボルトにより結合され、下流側還流通路51bの上流端が、弁体55により計量された還流排気ガスが流入する下流側弁室53bに連通する。また、導管59の下流端部59bは、下流端部59bに設けられたフランジ59b1において吸気管23にボルトにより結合され、下流側還流通路51bの下流端が、吸気管23に形成された導入通路65を介して、還流排気ガスを吸気通路25に還流するために空気通路23aに開口する還流口66に連通する。そして、図1に示されるように、還流口66は、吸気通路25においてリード弁70の下流であって、しかも空気通路23aにおいてリード弁70よりも下方に位置する。また、還流口66は、湾曲通路部23bにおいてシリンダ1寄りの湾曲外側部分23b1に開口する。
【0039】
図1を参照すると、還流口66が形成された吸気管23に装着されて、吸気通路25を構成する空気通路23a内に配置されたリード弁70は、吸気管23に固定される弁ボディ71と、弁ボディ71に形成された弁口71aを開閉する弁体としての金属製または繊維強化樹脂製等の薄板で形成された板バネからなる複数のリード72と、各リード72の最大開弁位置を規定するストッパ73とを有する。
【0040】
各リード72は、それに直接作用する吸気圧に応じて開閉作動する。そして、各リード72の下流側吸気圧P2に対するリード72の上流側吸気圧P1の差圧ΔP(下記の式(1)参照。)が、リード72自体の弾性力に基づく閉弁力と釣り合う開弁力をリード72に作用させる所定値の大きさになるときを境に、各リード72は、前記差圧ΔPが所定値以下のとき燃焼室7に向かう吸気の流通を阻止する一方で、差圧ΔPが所定値を越えるとき吸気の流通を許容する。
差圧ΔP=上流側吸気圧P1−下流側吸気圧P2 …(1)
【0041】
吸気に還排気ガスが含まれていないと仮定したとき、内燃機関Eの低負荷運転領域であって、かつ比較的高い使用頻度の回転速度領域でのある1サイクルにおける下流側吸気圧P2の変化を示す図4を併せて参照すると、下流側吸気圧P2を示す線aで示されるように、吸気弁10が開弁する吸気行程時には、ピストン5が下降することで燃焼室7に発生する負圧により、リード弁70の下流の空気通路23aおよび吸気ポート8での吸気圧である下流側吸気圧P2が低下し、下流側吸気圧P2がスロットル弁24の下流の吸気圧である上流側吸気圧P1よりも所定値を越えて低下すると、リード弁70が開弁してスロットル弁24を通った吸気が、開弁している吸気弁10を通って燃焼室7に吸入される。その後、吸気下死点を過ぎて吸気弁10が閉弁した後、次第に小さくなる差圧ΔPが所定値に達したとき、リード弁70が閉弁してから、次サイクルで吸気弁 10 開弁する吸気行程時にリード弁 70 が開弁するまで、下流側吸気圧P2は上流側吸気圧P1(図4において大気圧付近の吸気圧である。)よりも、前記所定値だけ低い圧力に維持される。
【0042】
そして、この下流側吸気圧P2が作用する部位に位置する還流口66には、図4に示されるように、吸気弁10の閉弁時には、リード弁70が設けられていない場合のスロットル弁の下流の吸気圧(図4に線aで示されている。)に比べて、前記所定値または前記所定値より大きい値だけ小さい下流側吸気圧P2が作用し、また吸気弁10の開弁時にも、リード弁70が設けられていない場合の吸気圧に比べて、低い下流側吸気圧P2が作用する。このため、還流口66の上流にリード弁70が設けられたことにより、排気通路26の排気ガスの圧力である排気圧と吸気通路の吸気の圧力である吸気圧との圧力差を大きくすることができるので、大量の還流排気ガスを吸気通路25に還流することができる。
【0043】
また、吸気流制御弁を構成する部材であって、その弁体の閉弁力を規定する部材を変更することにより、下流側吸気圧P2の値を容易に変更できる。具体的には、リード弁70の閉弁力となる弾性力が異なるリード72を使用して、リード72の閉弁力の設定を変更することにより、吸気弁10の閉弁時および開弁時の下流側吸気圧P2の値を容易に変更できる。そして、このリード弁70の開弁特性の変更により、下流側吸気圧P2を内燃機関Eの種類や用途に対応して、次の式(2)で定義されるEGR率を容易に変更することができる。
EGR率=還流排気ガス流量/(吸気の空気流量+還流排気ガス流量)…(2)
【0044】
なお、リード弁70の弁口71aの開口面積が、全開時のスロットル弁24を流通する空気流量がリード弁70により制限されない大きさに設定されることにより、リード弁70が設けられたことによるポンピングロスが回避される。
【0045】
次に、前述のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
リード弁70は、それに直接作用する吸気圧に応じて開閉作動する自力式の制御弁であるので、リード弁70を開閉作動させるためのアクチュエータが不要であり、アクチュエータが備えられるものに比べて内燃機関Eがコンパクトになる。
【0046】
また、下流側吸気圧P2に対する上流側吸気圧P1の差圧ΔPが前記所定値以下のとき、リード弁70が閉弁して吸気の流通を阻止するので、吸気弁10が開弁する吸気行程で燃焼室7に発生する負圧に基づいて、吸気弁10の閉弁しているときには、下流側吸気圧P2が、前記所定値だけ上流側吸気圧P1よりも低い圧力に維持されると共に、吸気弁10の開弁しているときには、下流側吸気圧P2は維持されていた低圧の状態からさらに低下して、排気圧と下流側吸気圧P2との圧力差が大きくなり、下流側吸気圧P2が作用する部位で吸気通路25である空気通路23aに開口する還流口66から、大量の還流排気ガスの還流が可能になることにより、NO発生量の低減が可能になる。さらに、差圧ΔPが前記所定値を越えたとき、リード弁70が開弁して空気の流通を許容するので、吸気通路25の空気が燃焼室7に吸入されるときに発生するポンピングロスの増加が抑制されて、燃費の改善が可能になる。
【0047】
そして、リード弁70において、還流排気ガスの還流量を増加させるための閉弁制御およびポンピングロスを低減するための開弁制御は、リード弁70に対する吸気圧の直接の作用により自動的に行われるので、吸気圧を検出するセンサやアクチュエータなどを使用して吸気流制御弁の開閉時期や開度などの制御を行う複雑で高価な制御装置が不要になって、内燃機関Eのコストが削減され、低価格の内燃機関Eが得られる。
【0048】
リード弁70のリード72の閉弁力の設定を変更することにより、吸気弁10の閉弁時および開弁時の下流側吸気圧P2の値を容易に変更できるので、内燃機関Eの種類や用途に対応して、ポンピングロスの低減を考慮しつつ、EGR率を容易に変更することができる。
【0049】
リード弁70が還流口66よりも上方に位置するので、還流排気ガス中のカーボンがリード弁70に付着して堆積し、固化することが抑制されて、リード弁70の耐久性が向上する。
【0050】
以下、前述した実施例の一部の構成を変更した実施例について、変更した構成に関して説明する。
燃料噴射装置は、燃料噴射弁のみから構成されてもよい。また、内燃機関Eは多気筒であってもよく、その場合は、吸気マニホルドの各分岐管により形成される空気通路に吸気流制御弁が配置される。吸気流制御弁は、リード弁70以外の一方向弁であってもよい。
【0051】
還流口66は、吸気通路25を構成する吸気ポート8に開口していてもよい。さらに、内燃機関Eが、1つの気筒に対して分岐した複数の吸気ポートを有する場合、または複数の独立吸気通路を有する場合には、複数の吸気ポートまたは複数の独立吸気通路の少なくとも1つの吸気ポートまたは1つの独立吸気通路について、吸気流制御弁を設けることができる。
内燃機関Eは、自動二輪車以外の車両、さらには車両以外の機械に使用されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示し、筒内噴射式内燃機関の要部右側面図であり、一部を断面で示す図である。
【図2】概ね図1のII−II矢視での断面図である。
【図3】図1の筒内噴射式内燃機関に備えられる排気ガス還流装置を中心とした部分断面図である。
【図4】 吸気に還排気ガスが含まれていないと仮定したとき、図1の筒内噴射式内燃機関の1サイクルにおけるリード弁の下流側吸気圧の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1…シリンダ、2…シリンダヘッド、3…ヘッドカバー、4…クランクケース、5…ピストン、6…コンロッド、7…燃焼室、8…吸気ポート、9…排気ポート、10…吸気弁、11…排気弁、12…挿入孔、13…点火栓、14…冷却水ジャケット、15…凹部、
20…スロットルボディ、21…インシュレータ、22,23…吸気管、24…スロットル弁、25…吸気通路、26…排気通路、30…動弁装置、31…カム軸、32…支持軸、33…カムフォロア、34…ロッカ軸、35,36…ロッカアーム、37…ロッド、38…被動スプロケット、39…タイミングチェーン、40…混合気噴射弁、41…燃料噴射弁、42…空気噴射弁、43〜45…シール部材、46…燃料室、47…空気室、50…排気ガス還流装置、51…還流通路、52…還流制御弁、53…弁ボディ、54…弁座、55…弁体、56…弁バネ、57…アクチュエータ、58,59…導管、60…支持部材、61…シール部材、62…導出通路、63…取出口、64…シール部材、65…導入通路、66…還流口、70…リード弁、71…弁ボディ、72…リード、73…ストッパ、
E…内燃機関、L…シリンダ軸線、A…シリンダ軸線方向、H…平面、P1…上流側吸気圧、P2…下流側吸気圧、ΔP…差圧。

Claims (2)

  1. 排気通路から取り出された排気ガスの一部を還流排気ガスとして、吸気弁を通って燃焼室に吸入される吸気が流通する吸気通路に開口する還流口から還流する排気ガス還流装置を備える筒内噴射式内燃機関において、
    前記吸気通路には、直接作用する吸気圧に応じて開閉作動する吸気流制御弁が配置され、
    前記吸気流制御弁は、その下流側吸気圧に対する上流側吸気圧の差圧が所定値以下のとき閉弁して吸気の流通を阻止する一方で、前記差圧が前記所定値を越えるとき開弁して吸気の流通を許容し、
    前記吸気通路を流れる吸気に前記還流排気ガスが含まれていないと仮定したとき、前記吸気流制御弁が、ある1サイクルにおいて前記吸気弁が開弁する吸気行程時に開弁し、その後に前記吸気弁が閉弁した後に閉弁してから、次の1サイクルにおいて前記吸気弁が開弁する吸気行程時に開弁するまで、前記下流側吸気圧が前記上流側吸気圧よりも前記所定値だけ低い圧力に維持され、
    前記還流口は、前記下流側吸気圧が作用する部位に位置し、
    前記吸気通路を構成すると共に前記吸気流制御弁が配置される空気通路が、シリンダヘッドに接続された吸気管により形成され、
    シリンダ軸線方向で前記シリンダヘッドを挟んでシリンダとヘッドカバーとが配置され、
    前記空気通路は、前記シリンダヘッドに形成された吸気ポートの入口から上流に向かうにつれて、前記シリンダ軸線方向での前記ヘッドカバー寄りが湾曲内側となるように、かつ前記シリンダ軸線方向での前記シリンダ寄りが湾曲外側となるように湾曲した湾曲通路部を有し、
    前記還流口は、前記湾曲通路部において前記シリンダ寄りの湾曲外側部分に開口し、
    前記吸気ポートは、前記燃焼室から、該吸気ポートの前記入口が開口する前記シリンダヘッドの上面に向かって延びており、
    前記シリンダヘッドに形成された排気ポートは、前記燃焼室から、該排気ポートの出口が開口する前記シリンダヘッドの下面に向かって延びており、
    前記排気ガス還流装置は、前記排気ポートに開口する取出口から取り出された還流排気ガスの、前記還流口への還流量を制御する還流制御弁を有し、
    前記還流制御弁が、上下方向で前記取出口の位置と前記還流口の位置との間の位置で、前記シリンダの横側面に設けられることを特徴とする筒内噴射式内燃機関。
  2. 前記筒内噴射式内燃機関が車両または車両以外の機械に搭載された状態で、前記吸気流制御弁は、前記還流口よりも上方に位置することを特徴とする請求項1記載の筒内噴射式内燃機関。
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