JP4194291B2 - 未分解絹フィブロイン水溶液の製造法およびそれを含む皮膚ケア剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、繭糸等から得られる、長期にわたってゲル化せず、安定して保存することができる未分解絹フィブロイン水溶液の製造法に関する。この製造法により得られた絹フィブロインは、フィブロインの細胞増殖促進作用に基づき、皮膚ケア用の創傷治癒剤、創傷被覆剤および化粧品として利用できる。
【0002】
【従来の技術】
繭糸は中心部にフィブロイン、周囲にセリシンが存在し、フィブロインとセリシンの存在比はフィブロイン70〜80%:セリシン20〜30%であることが知られている。従来、絹フィブロインは繭層、繭糸、生糸、絹織物およびそれらの屑物等を原料として、パパインのような蛋白分解酵素やセッケン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ水溶液中等で煮沸し、水洗によってセリシンや炭酸ナトリウム等の化学物質を溶出除去すること(精練)により製造されている。
【0003】
ところが、これらの工程で絹フィブロインは徐々に分解している。絹フィブロインはH鎖(分子量約35万)とL鎖(分子量約2.5万)から成っている(志村ら、「家蚕繭フィブロインよりスモールサブユニットの分離と同定」、日本蚕糸学会誌、51巻、20〜26頁(1982))ことは知られているが、従来のように、炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液中で煮沸しセリシンを除いて得られた絹フィブロインは分解産物であり、フィブロインのH鎖、L鎖は分解され、それらの分子量は低下している。従来は、繭糸等からフィブロインの未分解物を得る方法やフィブロインのH鎖を分析する方法等が知られていなかったことから、フィブロインが分解していることを知らないで使われていた。
【0004】
また、他の絹フィブロインの製造法として、蚕の絹糸腺の後部からゲル状の内容物(液状絹または液状フィブロイン)を取り出し、水溶液等で洗浄することにより、付着している少量のセリシンを除いて、フィブロインを得る方法も行われている。液状絹から得られるこのような未分解フィブロインの生理作用については、後部絹糸腺から得られた液状絹による未分解絹フィブロインは培養細胞の付着・増殖性が報告されている(特願平1−125539、および箕浦外、「Attachment and growth of cultured fibroblast cells on silk protein matrices」、Journal of Biomedical Materials Research, Vol. 29,1215-1221頁(1995)参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、蚕の絹糸腺液状絹から未分解の絹フィブロインを製造するためには、蚕の解剖による液状絹の摘出等に手間がかかるだけでなく、蚕体内の不純物が混入するため、量産が難しい。工業的に未分解絹フィブロインを得るには、繭糸等を原料とすることが効果的である。そこで本出願人は先に、繭糸等(生繭、乾繭もしくは煮繭した繭の繭層もしくは繭糸、生糸、絹織物、又はそれらの残糸)から未分解絹フィブロインを製造する方法を開発した(特願平11−349981)。
【0006】
また、細胞増殖促進作用を有する未分解フィブロインを軟膏のような液体状態で利用するには、未分解フィブロイン水溶液の安定性が重要な課題となる。繭糸等を原料とし、精練工程中で得た絹フィブロイン水溶液におけるゲル化を検討したところ、高分子ほどゲル化が早く起きた。未分解絹フィブロインの分子量が約35万のものでは1日以内にゲル化し、分解して低分子化した場合、約10万のものでは1週間程度そして約1万のものでは20日程度でゲル化し、徐々に固くなる。それらの絹蛋白を創傷被覆剤のような皮膚ケア用素材として、例えば軟膏に添加した場合、長期にソフトな状態の物性を安定して保存できない。細胞増殖促進作用を有していても、軟膏のような創傷被覆剤として液状で未分解絹フィブロインを長期に利用するには、ゲル化を防止するという物性上の問題があった。ただし、未分解絹フィブロインにおいては、分子量が均一に低下するのではなく、分子量は幅広い分布を示す。従って、フィブロインのH鎖が平均約10万の分子量に低下していても、未分解のフィブロインが一部残っていることがある。また、フィブロインのL鎖はH鎖より分解しにくいため、H鎖が平均分子量約10万になっていても、L鎖の50%程度は分解しない。フィブロインに未分解のH鎖又はL鎖が残されていれば、このフィブロインは細胞増殖促進作用を有する。
【0007】
繭糸等から得た未分解絹フィブロインは水溶液においてゲル化しやすく、徐々に固く、脆くなる。しかし、フィブロインの分子量を低下させることなく、フィブロイン水溶液を水のような液状の状態や、粘性を帯びた液状状態で保存する方法は見出されていない。
従って、本発明は、繭糸等から得られる未分解絹フィブロインが水等の溶液中で長期に保存しても軟らかさ等の物性が変わることがない方法、つまりゲル化を防止できる方法を見出し、これによって創傷被覆剤、創傷治癒剤および化粧品等を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、未分解絹フィブロイン水溶液に特定の金属イオンを特定の濃度で添加することより、絹フィブロインを分解することなくゲル化を防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、生繭、乾繭もしくは煮繭した繭の繭層もしくは繭糸、生糸、絹織物、又はそれらの残糸若しくは屑物を精練して得られる未分解絹フィブロインの溶解液を、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンを含む水溶液で透析して、カルシウムイオン又はマグネシウムイオン濃度が0.03M〜2.0Mの未分解絹フィブロイン水溶液を得ることを特徴とする、良好な保存安定性を有する未分解絹フィブロイン水溶液の製造法を提供するものである。
本発明はまた、かかる保存安定な未分解絹フィブロイン水溶液を用いて作製した皮膚ケア用の創傷治癒剤、創傷被覆剤又は化粧品のような皮膚ケア剤を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
未分解絹フィブロインを生繭、乾繭もしくは煮繭した繭の繭層もしくは繭糸、生糸、絹織物、又はそれらの残糸若しくは屑物(以下、繭糸類と云う)から精練して得るためには、繭糸類を従来のアルカリ溶液や熱処理をせず、温和な処理条件下で繭糸類からセリシンを除去する。例えば、繭糸類を
a)中性塩水溶液に溶解後、分別沈澱処理、
b)アルカリ水溶液による温和な処理、
c)尿素水溶液による温和な処理、
d)酵素精練、又は
e)高圧精練
の工程に付し、絹フィブロインを絹セリシンと分けることができる。
【0011】
a)工程の中性塩水溶液を用いる場合は、繭糸類原料を中性塩水溶液に溶解後、分別沈澱処理する。中性塩としては、チオシアン酸リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、臭化リチウム、チオシアン酸ナトリウム等が挙げられ、チオシアン酸リチウム、炭酸リチウム及びチオシアン酸ナトリウム、特にチオシアン酸リチウムが好ましい。当該中性塩の濃度は中性塩の種類によって異なり、塩化カルシウム及び臭化リチウムの場合は、濃厚溶液はフィブロインを分解する傾向があるので、フィブロインを分解しないような低濃度(好ましくは0.1〜1.0M)で使用するのが好ましい。塩化カルシウム及び臭化リチウム以外の中性塩においては飽和水溶液又は50%飽和以上の濃度が好ましい。特に80%飽和水溶液以上の濃度が好ましい。なお、これらの中性塩水溶液のpHは5〜8である。
原料が溶解した後の分別沈澱には非結晶絹フィブロインを結晶化させるアセトンやアルコール、特にエタノールを用いるのが好ましい。この操作は、例えばエタノールを順次添加して沈澱物を採取するのが好ましい。
【0012】
工程b)におけるアルカリ水溶液による温和な処理とは、絹フィブロインが分解しないようにpH、温度及び時間を選択した条件であり、好ましくはpH10〜11.5のアルカリ水溶液で、大気圧下の沸騰温度、2〜60分の範囲で条件を適宜変えて処理する。pHが10未満では精練が充分でなく、pHが11.5を超えると絹フィブロインの分解が速く、コントロールが困難となる。また好ましいpHは10.5〜11.5である。用いるアルカリ水溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ性ナトリウム塩の水溶液が挙げられ、アルカリ精練の場合、炭酸ナトリウム水溶液は適度なバッファー効果があるため、特に好ましい。
【0013】
絹を分解することなくアルカリ水溶液により精練し、未分解絹フィブロインを得るには、精練時のpH、温度、時間等の処理条件を適宜変化させてコントロールすればよく、例えば沸騰温度以上の温度(例えば110℃や120℃)で処理するときは、pHを中性寄りに、又は時間を短くする。沸騰温度以下の温度で処理するときはpHを高く、時間を長くする等適宜条件を変える。さらに、炭酸ナトリウムの他のナトリウム塩を使う時も炭酸ナトリウムに合わせ、適宜条件を変えることは言うまでもない。この工程b)における処理とは、前記原料がアルカリ水溶液中に浸漬されていればよく、この間攪拌してもよい。
【0014】
工程c)における尿素水溶液による温和な処理とは、絹フィブロインが分解しないように温度及び時間を選択した条件であり、好ましくは絹フィブロインの分解防止、反応効率及び工業的操作性の点から、30%以上の尿素水溶液で70〜90℃、60〜180分処理する。より好ましくは45%以上の尿素水溶液で75〜85℃、90〜150分処理される。尿素水溶液には、メルカプトエタノール等を加えてもよい。尿素精練における温度、濃度、時間についても工程b)のアルカリ水溶液による温和な処理と同様に適宜条件を組み合わせ得ることは言うまでもない。工程c)における処理とは、前記材料が尿素水溶液に浸漬されていればよく、この間攪拌してもよい。
【0015】
工程d)の酵素精練とは、タンパク質分解酵素を生糸や生繭の精練に応用した方法である。従来はパパインがよく利用されていたが、近年はアルカラーゼ(幸新堂化学工業所)が使われている。アルカラーゼによる酵素精練では前処理が必要で、前処理はpH9〜10、好ましくはpH9.0〜9.6において、処理時間は80℃では10分以内、好ましくは5分以内、60℃では60分以内、好ましくは10分以内で行う。その後、本処理としてアルカラーゼを添加して50〜60℃で精練する。精練時間は60分以内、特に20分以内が好ましい。この場合、繭層をできるだけ分繊することが好ましい。また、この間攪拌してもよい。
【0016】
工程e)の高圧精練(高圧熱水処理とも云う)とは、100℃以上の熱水中、大気圧以上の圧力下で浸漬する精練方法である。絹精練は通常は大気圧下で水の沸騰点付近の温度で行われる。しかし、100℃以上の高温で精練することもできる。絹セリシンの溶解度は水の温度の影響が大きいので、浸漬時間は温度により異なり、例えば110℃で10〜20分、120℃で5〜10分である。この浸漬処理により、セッケンや溶解剤を使用しなくとも精練ができ、分解していないL鎖を含む絹フィブロイン精製物が得られる。
【0017】
工程a)〜e)のいずれかのような精練によって得られた未分解絹フィブロインは、必要に応じて洗浄しそして溶解補助剤を含む溶液に溶解させた後、カルシウムイオン(Ca++)又はマグネシウムイオン(Mg++)のような金属イオンを含む水溶液での透析により、未分解絹フィブロイン水溶液とすることができる。
【0018】
ここで溶解補助剤としては、中性塩、好ましくはチオシアン酸リチウム及び炭酸リチウム、および尿素が用いられる。塩化カルシウムや臭化リチウム等の中性塩の濃厚な溶解液はフィブロインを分解し、低分子化する傾向があるので、低濃度(好ましくは0.1〜1.0M)で使用するのが好ましい。チオシアン酸リチウムは濃厚溶解液、例えば飽和チオシアン酸リチウム水溶液、として用いることができる。溶解補助剤として塩化カルシウム以外の中性塩、例えばチオシアン酸リチウム、臭化リチウム、チオシアン酸ナトリウム等を用いた場合、カルシウムイオン又はまたはマグネシウムイオン含有水溶液で透析すれば、これらの塩を除去することができる。
【0019】
未分解絹フィブロインを溶解した溶液は、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンを含む水溶液で透析して適宜脱塩を行い、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンを所定の濃度で含む未分解絹フィブロイン水溶液を得る。
【0020】
カルシウムイオン源としては塩化カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム等の可溶性カルシウム塩を利用することができる。
塩化カルシウムの濃厚水溶液が絹糸を溶解することはよく知られている。塩化カルシウムのカルシウムイオンは生体に対する安全性が高いが、絹糸を溶解する過程で、濃厚な塩化カルシウム水溶液はフィブロインを分解し、分子量を低下させるため、未分解絹フィブロインを未分解のまま保存するために、濃厚な塩化カルシウムの水溶液を使うことはできない。一方、希薄な塩化カルシウム水溶液はフィブロインの分子量を低下させないことおよびフィブロインをゲル化させない。しかし、非常に希薄な塩化カルシウム水溶液は未分解絹フィブロインをゲル化させてしまう。つまり、濃厚な塩化カルシウム水溶液はフィブロインを分解し、非常に希薄な塩化カルシウム水溶液はフィブロインをゲル化する。室温(0〜40℃)で未分解絹フィブロインをゲル化または分子量を低下させないカルシウムイオンの濃度は、0.03M〜2M、好ましくは0.1M〜1.0Mである。かかる濃度の比較的希薄なカルシウムイオンは、未分解絹フィブロインの分子量を低下することなく、ゲル化を防止することができる。
【0021】
カルシウムイオンの代わりに、マグネシウムイオンも未分解絹フィブロインのゲル化防止に使用できる。マグネシウムイオン源として塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等の可溶性マグネシウム塩を利用することができる。室温(0〜40℃)で未分解絹フィブロインをゲル化または分子量を低下させないマグネシウムイオン濃度は、好ましくは0.15M〜2.0M、特に0.20M〜1.0Mである。
【0022】
これらの操作を通して高収率で得られた未分解絹フィブロイン水溶液は、長期にわたってゲル化せずに安定であり、また培養細胞の増殖を促進する作用を有する。
未分解絹フィブロインの確認は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(DSD−PAGE)像において、フィブロインのH鎖(分子量約35万)とL鎖(分子量約2.5万)に相当する部分のバンドの確認により行なうことができる。H鎖のバンドは1本の場合があるが、いずれでもよい。
【0023】
【実施例】
以下に図面を参照して、実施例により本発明を例示する。
【0024】
実施例1:未分解絹フィブロインの精製
未分解絹フィブロインの精製手順を、図1を参照して説明する。未分解フィブロインの精製は、家蚕の生繭(繭から生糸製造のために100℃±20℃程度の乾熱、湿熱処理をしていない繭、および光、酸、アルカリ等の処理を受けていない繭)に含まれるセリシンとフィブロインのエタノールへの溶解度の違いを利用して行った。すなわち、約9Mチオシアン酸リチウム(LiSCN)水溶液(100g)に5%(w/v)になるように生繭(5g)を添加後、一晩撹拌し、室温で溶解させ、遠心分離(8000rpm)によって上清液2と沈殿物5に分けた。その後、上清液2に2.5倍容量(250mL)のエタノールを滴下撹拌し、静置後に遠心分離によって、上清液3と沈殿物6に分けた。次に、上清液3を採取し、さらに2.5倍容量(250mL)のエタノールを滴下撹拌し、静置後に再度遠心分離し、沈殿物7を得た(図1)。
精製過程における絹フィブロイン及びセリシンの分子量を、電気泳動(SDS−PAGE、2〜15%ポリアクリルアミドグラジェントゲル)像で図2に示す。図2に示すように、沈殿物7はほとんどフィブロインのH鎖とL鎖のみであり、これを未分解絹フィブロインの精製物とした。また、沈殿物は2.68gであったことから、回収率も精製開始時の生繭量の50〜60%で、生繭にセリシンが20〜30%含まれることを考慮すると、かなり高回収率であった。
【0025】
実施例2:未分解フィブロインの溶解
生繭から得た未分解絹フィブロインの精製物(図1の7)は、絹糸腺由来の液状フィブロインと異なり、水に不溶である。一般的に、フィブロイン水溶液は高濃度の塩の水溶液等にフィブロインを溶解後、溶解液を水で透析することにより得られている。
そこで、精製したフィブロイン50mgに1mLの溶解剤(9M LiSCN,9M LiBr,飽和Li2CO3,9M LiCl,飽和Li2SO4,9M 尿素,9M NaSCN,飽和CaCl2又は飽和MgCl2)を加え一晩4℃で攪拌した。遠心後上清を採取し、その一部を50倍希釈してOD280で測定して可溶化率を算出した。表1に示すように、未分解フィブロインはチオシアン酸リチウム中で100%、炭酸リチウム中で40.2%、尿素中で76.8%溶解し、他の溶解剤では10%未満であった。この結果より、未分解フィブロインの溶解剤としては、チオシアン酸リチウム、炭酸リチウム及び尿素が好ましいことが分かる。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例3:金属イオン存在下での未分解絹フィブロインの溶存性
チオシアン酸リチウム水溶液に、精製した未分解フィブロインをまず溶解(18mg/mL)し、次いで種々の金属塩化物(NaCl,KCl,CaCl2,MgCl2,ZnCl2)の濃度を変えた溶液で透析を行い、フィブロインの水溶液が得られるかどうか、つまりゲル化しないかどうかを検討した。その結果を表2に示す。ゲル化はフィブロインの可溶化率で示した。可溶化率は金属イオン存在下のフィブロイン溶液を遠心分離(8000rpm)し、上清液と沈殿物に分け、沈殿物はゲル化した部分とし、ゲル化しなかったフィブロインは上清液に溶解しているとみなして可溶化率を算出した。
表2に示すように、一価の金属イオンであるナトリウムとカリウムおよび二価の金属イオンである亜鉛の水溶液では、精製した未分解絹フィブロインの可溶化率は1%以下であり、ほとんどのフィブロインはゲル化によって不溶化していた。しかし、二価の金属イオンであるカルシウム、マグネシウムの水溶液中では、それぞれ0.05Mおよび0.2M以上の濃度で初濃度(18mg/mL)の70%以上のフィブロインが溶存していた。
さらに、これらの溶液は14日または18日後でもフィブロインは溶存し、長期にわたってゲル化しないことが分かった(表3)。
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
実施例4:塩化カルシウム水溶液中における未分解絹フィブロインの分子量変化実施例1の未分解絹フィブロイン精製物1gを飽和チオシアン酸リチウム水溶液(30mL)に25℃で溶解し、4℃の0.15M、3M、4M、4.5Mの各塩化カルシウム水溶液を透析した。透析膜は約10mm直径を使い、透析液に対し100倍量の塩化カルシウム水溶液を透析開始日は6回、2日目は4回交換して、チオシアン酸リチウムを除去した。その後、塩化カルシウム水溶液の交換を2回/日行った。6日目の透析膜内のフィブロイン分子量をSDS−PAGEで調べた。その結果を図3に示す。
塩化カルシウム水溶液の濃度が0.15Mの場合、フィブロインのH鎖、L鎖とも確認できるが、3M以上ではH鎖、L鎖ともに明確に確認できず、分解して低分子化していた。
【0031】
実施例5:金属イオン存在下での未分解絹フィブロインの安定性
塩化カルシウム、塩化マグネシウム又は塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを同濃度で含有する各水溶液における実施例1で調製した未分解絹フィブロイン精製物の、4℃及び25℃での経時安定性を検討した。
結果を表4(塩化カルシウム系)、表5(塩化マグネシウム系)及び表6(塩化カルシウム、塩化マグネシウム同濃度混合系)に示す。なお、○は安定、△は一部不溶化、×は不溶化を示す。
【0032】
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
4℃ではいずれのフィブロイン水溶液も16日後まで不溶化せず安定であった。25℃ではフィブロイン濃度および塩濃度の上昇とともに安定性が増加した。0.4M塩化カルシウム溶液中では、25℃においても、濃度10mg/mL以上のフィブロインは16日後においても不溶化せず安定であった。0.8M塩化マグネシウム溶液中においても、25℃において、濃度10mg/mL以上のフィブロインは16日後においても不溶化せず安定であった。塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムを同濃度含む溶液中においては、合計塩濃度0.4Mで16日後まで安定であった。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、所定濃度のカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを用いることで、未分解絹フィブロインを未分解のまま水溶液の状態で長期に保存できる。未分解絹フィブロインはヒト皮膚由来の線維芽細胞を生育促進する作用があることから、本発明で得られる未分解絹フィブロイン水溶液は、皮膚ケア用素材として軟膏やクリーム状の創傷被覆剤、創傷治癒剤、化粧品等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】例1における未分解絹フィブロインの精製手順を示す図である。
【図2】例1における沈殿物7の絹フィブロインの分解状態を示す電気泳動像である。
【図3】いろいろな濃度の塩化カルシウム水溶液中での未分解絹フィブロインの分解状態を示す電気泳動像である。
【符号の説明】
1:生繭チオシアン酸リチウム溶液
2、3、4:上清液
5、6、7:沈殿物
Claims (6)
- 生繭、乾繭もしくは煮繭した繭の繭層もしくは繭糸、生糸、絹織物、又はそれらの残糸若しくは屑物を精練して得られる未分解絹フィブロインの溶解液を、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンを含む水溶液で透析して、カルシウムイオン又はマグネシウムイオン濃度が0.03M〜2.0Mの未分解絹フィブロインを含む水溶液を得ることを特徴とする、良好な保存安定性を有する未分解絹フィブロイン水溶液の製造法。
- 前記未分解絹フィブロイン水溶液がカルシウムイオンを0.03M〜2.0Mの濃度で含む請求項1に記載の製造法。
- 前記未分解絹フィブロイン水溶液がマグネシウムイオンを0.15M〜2.0Mの濃度で含む請求項1に記載の製造法。
- 前記未分解絹フィブロインが、生繭、乾繭もしくは煮繭した繭の繭層もしくは繭糸、生糸、絹織物、又はそれらの残糸若しくは屑物を、次のa)、b)、c)、d)又はe)のいずれかの工程:
a)中性塩水溶液に溶解後、分別沈澱処理、
b)アルカリ水溶液による温和な処理、
c)尿素水溶液による温和な処理、
d)酵素精練、
e)高圧精練
に付し、絹フィブロインを絹セリシンと分けることにより得られる、請求項1に記載の製造法。 - 請求項1により製造した未分解絹フィブロイン水溶液を用いて作製した皮膚ケア剤。
- 前記皮膚ケア剤が創傷治癒剤、創傷被覆剤又は化粧品である請求項6記載の皮膚ケア剤。
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